本編と同様に親子設定は続いています。
主人公はある理由で精神不調に陥っています。
何時からだろう。
無理をし過ぎていたのは…
私は助けたいと願った。
だけどそれは誰の為だっただろう?
何時しか今までの行いが自分のエゴに思える様になっていた。
******
「…」
頭が痛いし怠い。
身体が思う様に動かない。
まるで鉛を付けている様に思える。
「後はこの書類を…」
私はコーヒーを流し込んで動いていた。
だが、それが良くなかった様だ。
「…(アレ?」
私は突然意識が途切れた。
暫くの後に艦内通路で倒れていた私をクスハが見つけて病室送りとなった。
「極度の精神疲労だね、暫くは休んだ方が良い。」
軍医の先生から受けた診断結果。
度重なる激戦で緊張状態が続いていたのだろうと話された。
私は軍医の指示で病室で過ごす事になった。
「栄養剤の点滴も追加してあるからね。」
ベッドの横に置かれた点滴のパックからポタリと薬液が落ちていった。
だが、それは私を縛る枷の始まりでもあった。
「…(気持ち悪い、クラクラする。」
薬液の追加を受けたものの精神状態は安定せずどんよりとした気分は晴れなかった。
鉛の様に体はより重くなり、思考は旨く機能しない。
ただ、ドロドロと自分の中で毒の様に廻った。
足手纏いであると言う自覚だけが脳裏を巡った。
戦えない自分がここに居ても良いのか?
その結果に私の意識は闇に飲まれた。
******
精神不調による退役願。
軍医の指示もあり、私は戦線を離れる事になった。
意識が朦朧としベッドに寝かされた状態で艦から外に運び出された。
今まで戦って来た仲間達はただ別れの言葉を放った。
『十分戦っただろ?』
『ゆっくり休んで』
『後はこっちで何とかする』
私は帰りたかった。
それでも身体は言う事を聞いてくれない。
毒に侵された精神は早々に治る筈もなく私を蝕んだ。
もう誰にも必要とされていないのだと囁く様に。
「…」
離艦後、私は軍の医療施設に転院した。
私は病室の窓から外を見つめる時間が多くなった。
虚ろな眼で話す事も聴く事も拒絶する様になった。
衛生兵の人とは相槌程度で軽い解釈する程度だ。
そして私はあの点滴を打たれたままだった。
「…」
時折、点滴のパックから滴り落ちる薬液を見つめている事もあった。
腕は注射針負けで蒼い跡を幾つか付けていた。
時間だけが過ぎていった。
そして私宛に手紙が届いた。
受け取った手紙の内容に驚愕した。
その内容は『私が戦いが怖くなって精神不調に陥った』と書かれていた。
「どうして…」
私は戦いから逃げた訳じゃなかった。
私は一緒に戦いたかった。
私は戦えるのに体が動いてくれない。
私は何時から動けなくなっていたんだろう。
精神不調に陥った私の言葉はもう仲間達には届かない。
例え手紙を出したとしても破棄されるだろう。
私は孤立したのだと理解した。
******
その夜、私は鉛の様に重い身体を無理やり動かして病室を抜け出した。
誰の助けも来ない。
何とか出来るのは自分だけだと言い聞かせて。
私が出来る最後の悪足掻きだった。
「綺麗…」
私は監視カメラを掻い潜って医療施設の屋上に辿り着いた。
外に出ると海から吹く夜風と薄く輝く新月に近い月の光を感じ取った。
逆に夜の星の輝きが増していた。
「…」
もうあの場所に戻る事は出来ない。
戦う力を失った私には何も出来ない。
私は無力だ。
「終わり位は自分で…」
私は屋上のフェンスに足を掛けて反対側に移った。
数センチ程度の出っ張りしかない死へのダイブ。
私は一度足元がふらつくが関係ない。
何も出来ない私はもう『世界の流れ』を変える事は出来ない。
私は失敗したのだ。
だから終わり位は自分で決める。
「…(やっぱり怖いなぁ。」
身体を一歩前に出せば全てが終わるのに。
それが出来ない。
今更、生への執着でもあったのだろうか?
確かに空しい感じはある。
私がして来た事は無駄だったのかと?
私が居なくなったら…
ただ世界の異物が無くなるだけの事。
それだけの事だもの。
「本当にそうだったのかい?」
「…誰?」
私は声の主の姿に気が付いたが気にはしなかった。
「君は本当にそれでいいのかい?」
「判らない。」
居なくなると決意した筈なのに引き止められた様に体が動かなくなった。
「私はまだ終わりたくないのに…戦う力も仲間も失って…今の私は足手纏いだ!」
それは自分が望んだ結果ではない。
なのにいつしか身体の自由が利かなくなった。
「君の事、ずっと見守っていた…」
彼は昨日まで私に投与されていた点滴のパックを見せた。
「それは?」
「これは君が昨日まで投与されていた薬…かなりの量の幻覚剤入りのね。」
「えっ?」
「要するに君は誰かに嵌められたんだよ。」
その点滴は発注ミスで本日分の投与が出来なかった。
投与され続けていた薬が少し抜け落ちた事で私の意識は鮮明に戻りつつあったのだ。
「…」
「こんな事で君が消える必要はない。」
そのまま私は余りのショックに気を失った。
彼はバランスを崩した私を一瞬の内に抱き抱えていた。
「おっと、危ない危ない。」
「…」
「今は何もかも忘れて眠るといい。」
彼女の安全を確認した後、彼は彼女を抱えたまま姿を消した。
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“後日、軍の医療施設から退役予定だった士官一名が行方不明の報道がされた。
諜報部の調査で行方不明の士官兵に幻覚剤入りの薬剤が使用されていた事が判明。
犯人は士官兵が配属されていた戦艦の軍医だった。
軍医も元は士官候補生だったが戦えない身体であった為に夢を断たれたらしい。
士官兵は元々士官候補生ではなく志願兵だった事が理由だった。
彼女が軒並みに才覚を見出した事が切っ掛けで再起不能に陥らせたとの事。
その彼女も治療を行えば戦線復帰する事が可能だった。
だが、彼女の姿は依然として行方知れず捜査の進展はしていない。”
>>>>>>
=???=
「ぁあ…」
「苦しいのかい?」
「…あぅぐっ!」
「幻覚剤の後遺症か…まるで呪いだよ。」
虚ろな眼で落ち着いたかと思えば眼光が定まらず苦しむ彼女。
長らく打たれ続けた幻覚の呪いが彼女の身体を蝕んでいた。
呪いの残滓が抜け切るまで彼女の苦しみは続く。
その横で彼女を介抱する男性。
「…どうして?」
「?」
「私は、まだ…戦えるのに…逃げ…てなんて…」
「…(幻影に囚われているのか。」
「一人は嫌…助けて。」
「!」
「助けて……お父さん。」
男性にしがみつく彼女。
意識ははっきりとしていないだろうが彼女は答えた。
助けてと…
「必ず助けるよ、君の父親としてね。」
男性は助けると宣言した。
彼女が実の娘である事を認めたのと同時に。
親が子をあやすように男性は彼女を包み込んだ。
******
そして月日は流れ…二カ月後。
何処かの海沿い。
その海沿いに建てられた別荘のリビングに二人の人影があった。
「連邦軍も堕ちたね。」
例の報道記事が記載された電子プレートを閲覧する男性。
彼はソファーでコーヒーを片手に閲覧を続けていた。
「君達が失ったモノがどんなに貴重なのかも知らないまま慌てるといいさ。」
悪辣な笑みで会見に出ている軍の報道関係者の映像を眺めていた。
「…」
「気にしているのかい?」
「いえ、そう言う訳では…」
彼女は彼と対向するソファーの席で紅茶を嗜んでいた。
ティーソーサーではなく一般的なマグカップである。
時折、味換えでミルクと蜂蜜を入れている様だ。
「まだ幻覚剤が抜け切れていない、無理は禁物だよ?」
「…ご迷惑をお掛けしてすみません。」
消毒薬が漂う医療着からシンプルな寝間着姿で応対する彼女。
幻覚剤の効果が抜け切れていない為に虚ろな状況は続いている。
これにより簡単な作業はこなせるが複雑な作業は行えない。
「君が今後どうしたいかは君が選ぶといい、僕は何も命令をするつもりはないからね。」
「はい。」
彼女はマグカップの紅茶を静かに飲んだ。
彼女は幻覚剤による記憶の混濁で過去の記憶が欠落していた。
長期投与されていた事で欠落が戻る事はほぼ無いだろう。
だが、元から秘めた力は戻りつつある。
追々制御する方法を教え直せばいい。
「…」
「それを飲んだら少し眠るといい。」
「はい…」
睡魔に晒されつつある彼女に助言しベッドに入る様に促した。
もう彼女の眠りに幻覚の毒が浸み込む事は無い。
静かに眠るといい。
「部屋まで送ろう。」
彼は睡魔で虚ろになった彼女の身体を支えながら寝室へと移動させた。
彼女が遅い足取りでベッドに入ったのを確認し声を掛けた。
「じゃ、お休み。」
「御休みなさい…」
消えそうな声で最後に『お父さん』と彼女は答えた後に眠りに就いた。
「お休み、僕の大切な子。」
彼は優しい笑みで眠りに就いた娘を撫でた後に部屋を後にした。
「さてと、僕らしくないけど殴り込みと行こうかな?」
部屋を後にした彼は冷徹な表情でその場を去って行った。
=終=
<後書きと言う名の雑談会>
「と、言う訳で父の日小説らしいです。」
「嬉しいけど僕だけ目立っちゃっていいのかい?」
「カーウァイお義父さんとテンペストお義父さんは本編で出番作ってあるのでいいかなって宵月が話していました。」
「「ショボーン(´・ω・`)」」
「何だか空しい表情だけど?」
「元々没ネタだったのでこういうオチでもいいかなって事です。」
「ふうん、僕もまさか連邦軍に一人で殴り込み行くとは思わなかったけどね。」
「無理がありそうですが、全長8,000km(推定)の機体なら有り得そうだと宵月の判断です。」
「まー面白そうだけどね。」
「…(本気でシュウ博士らと同様に敵に回さなくて良かったと思います。」
=終=