※この作品はR-18です。

界乱のエトランゼ   作:宵月颯

34 / 40
続きます。


亡者達の誘声・2

前回、アステリアス・ゲートの向こう側に引きずり込まれた私達。

 

その後、何かの衝撃により互いに意識を失ってしまった。

 

そして私達が個々に目覚めるが、予想もしない状況に混乱するしかなかった。

 

 

******

 

 

気泡に水の音…水の中?

 

でも、息が出来る?

 

 

「…」

 

 

朧げな意識がより鮮明になり、ハスミは自分の置かれた立場を理解した。

 

 

「…(閉じ込められている?」

 

 

自身が円柱型のシリンダーの中に閉じ込められていた。

 

何とか外へ脱出しようにも念動の力の一切が使えない。

 

そもそも力が吸い取られている様にも感じる。

 

私は何かの液体に満たされた容器の中でただ茫然と浮いているしかなかった。

 

少し落ち着きを取り戻してから私は周囲を見渡した。

 

 

「…(ここは一体?」

 

 

周囲は暗黒の海と呼べる空間。

 

そこに複数のシリンダー型のケースだけが浮遊している状態にも見える。

 

スフィアやアカシックレコードへのアクセスすら出来ない状況では何とも言えない。

 

 

「…(ヴィルや他の人達は?」

 

 

同じ様にシリンダー型のケースに閉じ込められているのがケース越しから視る事が出来た。

 

既に何人かは眼を覚ましている様だが、会話すらままならない状況。

 

何らかの抵抗はしたのだろうが、今はただ茫然としている様子だ。

 

 

「…(念話位なら繋げられるかな?」

 

 

力が制限されている状態であるが、比較的に力の消費が少ない念話程度であれば繋げられると思い繋げてみた。

 

ただ、念者同士ではないので長くは出来ないだろう。

 

スフィアを介した同調であれば別だが、スフィアの力が使えないので諦めるしかない。

 

 

『ヴィル、聞こえますか?』

『ハスミか、無事の様だな?』

『はい、今は念話で繋いでいますが…余り長くは持ちません。』

『判った。』

 

 

ケース越しであるが、彼の無事な姿を見る事が出来た。

 

彼もこちらに気付いたのか相槌で応じてくれた。

 

 

『他に目覚めている人は?』

『俺を含めてヒビキ、エルーナ、クロウ、尸空の五人だ。』

『…それでもゲートに引きずり込まれた人達が全員無事だっただけ幸いですね。』

『あの…』

『ヒビキ、どうしたの?』

『その…隠して貰えますか?』

『…(あー』

 

 

ヒビキの表情と言動に察しが付いた。

 

すっかり水の感触で忘れていたが、シリンダー内部の液体の付けられた状態の上に惨い位に裸状態である事を思い出した。

 

シリンダーの開閉部分?の金具で羞恥部分は見え辛くなっているが…

 

エルーナさんも起きていたし、流石の彼には刺激が強すぎた様だ。

 

余りにも遅すぎたがシリンダーから見える部分は隠して話を続けた。

 

 

『えっと…ごめんね。』

『いえ、言いづらくて。』

『これに関しては仕方がないわ。』

『済みません。』

『こうもそっち系に初心だとスズネも大変だね。』

『///』

『エルーナさん、揶揄わないであげてくださいよ…そこが彼の良い所なんですから。』

『へいへい。』

『うう///』

『ヒビキ、近い内に脱ムッツリでも頑張るんだな。』

『それ、今言いますか?』

『クロウさん、話が余計に拗れますから黙っててください。』

『俺だけ扱い酷くねえか?』

『…日頃の行いだろう。』

『ぐっ!』

 

 

ヒビキの謝罪からエルーナの茶々とクロウのツッコミが続き。

 

話が拗れるのでハスミが制止し尸空に正論を語られたクロウだった。

 

 

『…(まあ、修羅場はまだ続くけどね。』

 

 

その後も眼を覚ました残りのメンバーによって修羅場が勃発。

 

バルビエルとヒビキは案の定、鼻から吐血。

 

初心だねぇ。

 

まあ、色々あって落ち着きました。

 

念話の件は説明済みなので悪しからず。

 

 

『先程もご説明した通り、それぞれの能力が使用不可能の上スフィアの力も使えない状態にあります。』 

『そしてこの場が何処なのかも定かではないと?』

『はい、スフィアの力もアカシックレコードへのアクセスも封じられている以上は何とも言えません。』

『判明している事はここが門の中と言う事か。』

 

 

引き続き状況説明を進めるハスミ。

 

その説明に問い掛けをするヴィルダーク。

 

 

『それに今回の一連の騒動、何者かによる罠だった可能性もあります。』

『罠ですか?』

『はい、今回の調査任務も話が出来過ぎていて不安を感じていました。』

『だけどよ、アカシックレコードって奴の忠告は無かったんだろ?』

『…恐らく忠告しなかったのではなく出来なかったと思います。』

『もしかして例の変異が起こったの?』

『セツコの言う通りその介入があった可能性もあるの。』

『確か、イデの意志と呼ばれる存在だったね。』

『はい、もっと早くに違和感に気が付いていれば…こんな事には。』

 

 

説明に各々の質問と感想を伝えるアイム、ランド、セツコ、ユーサー。

 

状況を悪化させた事にハスミが謝罪したがガドライトがそれを制止した。

 

 

『いや、それは俺も同罪だ。』

『ガドライトさん。』

『俺だってスフィアの未来予知でその事を感知出来たんだ…唯の取り越し苦労だと思って放置していた。』

『貴方だけのせいじゃないわ。』

『アンナロッタさん…』

『過ぎた事を悔やんでも仕方がない、今はこの状況をどうすべきかだ。』

 

 

ハスミの抱え込み癖が出ていたのでヴィルダークは制止させる形で話を切り上げさせた。

 

 

『この状況をねえ…』

『スフィアも使えないんじゃどうしようもないだろう?』

『何とかこじ開けようとしてみたのだけど魔法とか超能力の類も封じられているみたい。』

 

 

未だに状況打開する方法がない事に愚痴るクロウとバルビエル。

 

他の方法でこじ開けようと手を尽くした事をハスミが説明した。

 

 

『ハスミは念話なら出来るのよね?』

『これは比較的に念動の力を余り使わないから…それでも念者同士の念話じゃないから負担にはなっている。』

『互いに話が通じるだけ運が良かったという訳か。』

『ねえ、ハスミ。』

『メール、どうしたの?』

『さっき話してた罠って?』

『あれね…あくまで推測の域だから気にしないで。』

『でも…』

 

 

メールの不安そうな表情に余計な発言をしたハスミは諦めて今回の話の推測を口にした。

 

 

『銀河連合政府内で噂を耳にしたの。』

『噂?』

『スフィアは人類の希望ではなく絶望を振り撒くモノだと…ね。』

『何で!』

『Z事変の騒動、御使い、スフィアの発現…色々が重なって世界は崩壊の危機に瀕した。』

『…』

『それでも私達はこの世界で生きたいと願った、世界の存続を願った…その願いで世界が一つになれたと思った。』

 

 

世界を救ったとしても世界にこびり付く毒はまだ拭えていない。

 

力を持ち過ぎるが故に人は恐れ戦く。

 

だから手中に収めて管理したがる奴らが現れる。

 

自らの保身の為に。

 

スフィアを持つ者を管理下に置きたい為に彼らの自由を奪おうとした。

 

だから、私も毒を以って交換条件を持ち出した。

 

 

『私が軍を抜けないのはその毒を抑える為よ。』

『ハスミ。』

『勿論、今まで一緒に戦って来た仲間達を置いていけないのもあるけどね。』

『…ごめんね。』

『謝る必要なんてないわ、私が決めて勝手にやっている事だから。』

 

 

私がやっている事は私の独り善がりのエゴ。

 

情報収集特化型のスフィアの一つを軍の管理下に抑えさせておけば何も言わないだろう。

 

それにスフィアを奪おうとしても例の件で専用化してしまった事で簡単には手が出せない。

 

政府上層部もヘタに何かすれば火の粉が降りかかると思っていればいい。

 

 

『相変わらず返しが怖いね。』

『ハイリスクハイリターンって言うでしょ?』

『…(た、確かにそうだけど。』

『…(相変わらずえげつねえ。』

 

 

メールとの会話を聞いていたスズネとクロウも心でツッコミを入れつつ無言で通した。

 

 

『…(リュウセイさんやマサキから聞いてはいたけど本当に怖い。』

『ヒビキ、何か言ったかな?』

『いえ、何も言ってません!』

『素直でよろしい。』

 

 

Z事変の頃、リュウセイ達からハスミの黒歴史を聞いていたヒビキはそのやり取りに戦慄していた。

 

教訓として『絶対に怒らせてはならない』と暗黙のルールがあった位である。

 

一番酷いのはハスミの近親者とヴィルダークに手を出した場合だ、確実に生命の保証はない。

 

前後者に関しても手を出せば、その報復の凄まじさは大体想像がつくだろうが…

 

 

『ハスミ、政府内部にクロノの残党が残っていたと言う可能性は?』

『それを視野に入れて調査していましたが、それらしい人物は排除したので該当は無しです。』

『Z事変後、並行世界への転移騒動後も俺達はクロノの残党狩りを続けていた…その眼から逃れる事などほぼ不可能だろう。』

『あるとすれば、全く新しい侵略者によるスフィアの掌握。』

『…』

『それがどんな敵なのか検討のしようもないです。』

 

 

現状打開が出来ないまま敵の正体を模索する一方でシリンダーケースが存在する空間が揺らいだ。

 

 

『な、何?』

『どうやら今回の犯人とやらのお出ましの様ですね。』

『まさか…』

 

 

空間が揺らいだ後、何処かの空間へとつながった。

 

其処は城の内部の様な装飾、床は赤黒い何かの生物の細胞の様な物体が覆い尽くしていた。

 

玉座と思わしき場所に鎮座する胎児の様な存在。

 

あの姿を見間違えるはずもない。

 

 

「ようやく目覚めた様だな…スフィアに選ばれし者達よ。」

『…あ。』

「おや?我の姿に見覚えの在るモノが居るようだな?」

『まさかそんな…』

『ハスミさん、奴の正体を知っているんですか!』

『知っている…だけど、最低最悪の存在よ。』

『!?』

『奴の名は皇帝オーバーロード、暗黒の高次元生命体にしてロア達の故郷ニューコンパチネイションを滅ぼした存在。』

 

 

『『『『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』』』』』

 

 

『オーバーロードって銀河大戦で鋼龍戦隊が倒した筈じゃ!』

『セツコ、オーバーロード自体は澱んだ暗黒のエネルギーがあれば復活する。』

「復活だと?何の事だ…我を倒すなど何人たりとも不可能な事。」

『…(もしかして並行世界の同一体?』

「成程、この世界では我の残滓が何者かによって倒されたのか…興味深い。」

『オーバーロード、このゲートも茶番も貴様が仕組んだ事か!』

「その通りだ、人間と言うモノは己の知らぬ存在が出現すれば調べたがるもの…それを利用したに過ぎない。」

『このゲート自体が罠だった訳か…』

『…』

 

 

セツコの問いをハスミが説明するが、その内容をオーバーロードは否定した。

 

その言動にハスミはオーバーロードが自分達が倒した相手が復活したのではなく別次元の同一体と推測。

 

オーバーロードに対し更なる問い掛けをするヴィルダーク。

 

帰って来た答えに納得したクロウと無言を貫く尸空。

 

 

「幾多の並行世界の中でより大きな発展を遂げただけの世界と思ったが思わぬ収穫を得られた。」

『まさか…!』

「あの御使い共を倒した逸材…その力を我の為に役立って貰おうか?」

『!?』

 

 

オーバーロードが指を鳴らしたのと同時にシリンダーの液体が澱み始めた。

 

変化した赤黒い液体の中で各々は不快感と共に思考が薄れていく。

 

 

「洗礼者のスフィアを持つのが貴様達だけではないと知れ。」

 

 

嘘を真実へと捻じ曲げる。

 

欲への怠惰。

 

圧倒的な暗闇による精神の崩壊。

 

捻じ曲がった生への執着。

 

痛みからの逃れ。

 

一方的な悲しみ。

 

負へと傾く意志。

 

消える憎しみ。

 

対抗する心の恐怖への屈服。

 

呪われし記憶の氾濫。

 

失われる愛情。

 

夢への枯渇。

 

十二の真逆の力がスフィアリアクター達へ襲い掛かった。

 

 

「…(ヒビキ君!」

「…(ダーリン!!」

「…(ガドライトっ!」

 

 

ハスミからの念話が途絶えた為に残されたスズネ、メール、アンナロッタの三人の声は届かない。

 

シリンダーを内側から叩く様に抗うが無駄な抵抗だった。

 

彼女達の声は届かず、その涙も液体に溶けて消えた。

 

 

「亡者のスフィア達よ、各々の依代を受け取るがよい。」

 

 

オーバーロードの周囲に浮遊する十二の澱んだ光は十二人のスフィアリアクター達の中へ融ける様に消えていった。

 

同時に十二人のケースは黒く変色し内部の様子が見えなくなっていった。

 

 

「その残り物の処置はお前に任せるぞ。」

「仰せのままに皇帝陛下。」

 

 

皇帝の横に控えていた存在。

 

移動用なのか浮遊型の足場に立ったおり、皇帝からの命令に従った。

 

その姿は知るべき存在が居たのなら判明した存在。

 

だが、その場に残された三人にその存在の正体を知る術はない。

 

 

「フフフ、今こそ復讐の時だ…」

 

 

意味深な言葉を零した存在は残りのケースを牽引し玉座の間から離れていった。

 

 

「バトルフォース…そしてロアよ、真の開戦の幕を開けようぞ。」

 

 

******

 

 

アステリアス・ゲートの一件から数週間後。

 

真・多元世界の各銀河にて謎の勢力による襲撃が発生。

 

彼らはオーバーロード帝国と名乗り、銀河連合に対し宣戦布告。

 

世界はまた巨大な戦いの波に押し流される事となった。

 

 

=続=

 




<今回の用語>

※洗礼者のスフィア
スフィアリアクター達が所持する十二のスフィアの事を差す。
Z事変における最終決戦後、その本質が変異し願いの力へと変貌。
それぞれに天使の名が洗礼名として名残を残している。

※亡者のスフィア
オーバーロードが語った洗礼者のスフィアと相反する力を持つスフィア。
他者への力と希望を与える力に変質した洗礼者のスフィアとは真逆に奪い禍いを与える。
黄道十二宮の天使の名が洗礼者のスフィアリアクター達に使用されており、それぞれに天使の階級がある様に亡者の階級も存在する。
以下は各十二星座の亡者の階級名である。

牡羊座…プセウドテイ(偽神)
牡牛座…スピリトゥス・メンダキオルム(嘘つきの霊)
双子座…ウァサ・イニクィタティス(不法の器)
蟹座…ウルトレス・スケロルム(犯罪の復讐者)
獅子座…プラエスティギアトレス(奇蹟の模倣者)
乙女座…アエリアエ・ポテスタテス(空の軍勢)
天秤座…フリアエ(復讐の女神)
蠍座…クリミナトレス(中傷者)
射手座…テンタトレス・マリゲニー(悪の誘惑者)
山羊座…マレフィキ(犯罪者)
水瓶座…アポスタタエ(背教者)
魚座…インフィデレス(不誠実な者)


※オーバーロード
かつてロア達の世界を滅ぼした存在にして暗黒の高次元生命体。
現在未確定となっているバアルの一体と推測される。
ハスミの前世の記憶ではロアらバトルフォースによって倒された。
今世では銀河大戦頃に鋼龍戦隊によって倒された。
だが、倒した存在とは別の同一体と推測されている。


※???
オーバーロードに仕える存在。
復讐の時と語っているのでハスミらが知る存在と思われる。


※オーバーロード帝国
皇帝オーバーロードが率いる軍事帝国。
圧倒的な軍事力でロア達の故郷であるコンパチワールドことニューコンパチネイションを滅ぼした。
今回もどの様な規模の戦力を持つか不明である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。