<設定>
幻影のエトランゼでの戦いの後の出来事。
上記の戦いから1200年が経過。
イグジスタンス・高次元生命体化ルート。
ルビコン3のある世界はイグジスタンスが監視する多元世界の一つ。
イグジスタンスは政府や惑星封鎖機構、企業によって認識されている。
コーラルが高次元生命体の一種である可能性が発覚し調査へ向かう。
この話の621は女の子です。
以上を踏まえて広い心でお読みください。
どうして。
どうして。
皆、手のひらからすり抜けてしまう。
『621、再手術をして普通の人生を…』
元の身体に戻ってもやり方が判らない。
だって、戦う事しかしらないから。
壊す事しか知らないから。
『レイヴン、人とコーラルの共生…』
友達を喪う事になった。
待っていたのは緩やかな滅び。
幸せなんてなかった。
『野良犬に…憧れたんだぁ…』
私は憧れるものなんてない。
生きるのが精一杯で。
何も残らないよ?
何も残ってないよ?
こんなのが憧れ?
羨ましいと思う?
『戦友…』
『G13!!』
『レイヴン。』
どんなに頑張っても何も残らない。
何度も何度も繰り返しても残らない。
誰か…!
誰でもいいから…!
私から全部奪わないでっ!
もうこんな思いはしたくないよ!
誰か助けて…!
“頑張ったね。”
「誰?」
“何度も繰り返しても諦めなかった、貴方は偉いよ。”
「偉くなんてない。」
“貴方はどうしたい?”
私は取り戻したい。
皆と生きる世界を。
生きる未来を掴みたい。
“もう一度、最初の道に戻るとしても?”
それでもいい。
皆を取り戻せるなら何でもする。
“貴方の覚悟は聞かせて貰ったわ。”
「…」
“ただ忘れないで、最初に戻る事は全てリセットされているのよ…”
「判ってる。」
“貴方が起こした全ての出来事を誰も知らない。”
“最初に戻る事は始まりからやり直す事。”
“何かを変える代償は…それだけ大きい事を忘れないで。”
C4-621は何度目かのループの果てに最初の日へと意識が戻っていた。
ヒューマンショップで再起動し己が運命を共にするACの目処前で。
*******
~数週間後~
目覚めた私。
前と変わらず動きにくい義足や義手を動かしながら公式アーカイブを覗いていた。
そこで前と違う流れを知った。
「…約束を守ってくれた。」
C4-621は静かに答えた。
彼女が最初に直そうとしたのは声だ。
彼女を買い取った人物、ハンドラー・ウォルター。
彼がルビコン3へ向かう為にいくつかの準備が必要だった。
その準備の為に彼女も仕事を請け負っていた。
約束を守ってくれた…と彼女が答えたのもこれに関係する。
依頼者不明と言う形で彼らが接触し彼女に依頼を与えて報酬を差し出した。
これが最初の声を取り戻すきっかけである。
独立傭兵としてのIDはこの時に新規で登録した。
あの時と同じレイヴンと言う名で…
レイヴンの名を使う人は限られているらしい。
だが、オールマインドの申請は通ったので別に気にしてはいない。
「621、何故…登録名称をレイヴンに?」
アーカイブ映像を閲覧していた621に対してウォルターは質問した。
「渡り鳥の名前だって聞いた。」
独立傭兵は己の意思で様々な依頼を請け負う。
戦場で戦って戦場で死ぬ。
余生を安泰に過ごせる者も居ればそうでもない者もいる。
それはある意味で渡り鳥の様に自らの翼で羽ばたいているのだろう。
「いつか人生を取り戻せる様に…願掛けした。」
「そうか。」
親交を深める前のウォルターは何処かそっけない。
まだ飼い主と飼い犬の関係だからだろう。
「621、近々依頼を受けて貰う。」
「場所は?」
「ここだ、相手はアリーナで対面する。」
傭兵支援機関であるオールマインドが開催するアリーナ。
通信が可能な惑星ならACがあれば何処ででも参加する事が可能。
実際はオールマインドが自身の手駒に相応しいとするAC乗りを探す為の実験場。
参加報酬もあるので使えるものは使わせて貰う。
「対戦するの?」
「ああ…アリーナで彼らと対戦し勝利する事が協力を取り付ける条件だ。」
ウォルターの言葉で察した。
私が前の世界で経験した中で変わった出来事。
「相手は独立傭兵団アステリアス。」
「ああ、その一人と戦って貰う。」
現在、アリーナの上位ランクを埋めているのはアステリアスのメンバー。
更に各ランクのエースの座を陣取っている。
元のランクのエース達は各ランクの二位の地位に成り下がっていた。
躍起になってランクエースに戻る為にしがみ付いているAC乗りもいたりするらしいが…
空しくも敗退している。
これには他のAC乗りからも不平不満も出ているが…
オールマインドはアリーナを活用するAC乗りが増加する傾向もあってか容認していた。
実際、大手企業であるベイラム社とアーキバス社も専属AC部隊のパイロットを忍び込ませている。
要は自身の実力不足なのだから撃墜されても死ぬ訳ではない。
戦場とは違って何度でもやり直せる事も容認している理由の一つだった。
現在、アリーナはAランクからEランクまでが傭兵としての価値を見出せている相手とされるランカー達。
だが、今回のアリーナにはアセン限定のランクも存在しておりアステリアスのメンバーもそこにいた。
「お前が受けられるのは総合アリーナのEランク帯、用心はして置け。」
独立傭兵団アステリアスの噂は星外企業も政府も周知している。
受けた依頼は損害なく全て完遂。
やり方は彼らが仕切るが、依頼主の損害は少ない。
彼らが最も好む依頼は危機的状況に陥った案件。
死すら恐れない彼らはある意味で尊敬する者もいれば恐怖する者もいた。
理由は彼らと接触してもメッセージ程度で人前に姿を現さない事。
クライアントと接するのならある程度の義理として人前に姿を現すのが妥当だろう。
だが、彼らは絶対に姿を見せない。
相手の人望も彼らは見ているらしく余程の事がない限りは姿を現さないのだ。
「判った。」
だが、621は知っていた。
彼らもまた自分と同じループに嵌りつつも願いを叶えた存在であると…
自分をこの世界に引き戻してやり直しの機会を与えてくれた。
「大丈夫、依頼は達成させる。」
ウォルターはこの時の621の表情を忘れないだろう。
第四世代は総じて感情の起伏が乏しい筈だった。
だが、621は明確な意思を見せている。
その眼には諦めないと言う意思が秘められていた。
「判った。」
その後、621はアリーナでEランクエースだったアステリアスのメンバーの一人と勝利。
見事、協力体制を勝ち取った。
~現在~
『621、仕事を始めるぞ。』
『判った。』
後追いでルビコン3へ密航した621ことレイヴン。
彼女の未来を勝ち取る戦いは始まったばかりである。
=続=
※アリーナでの対戦相手
621と交戦する貧乏くじを引いたのは文字通り借金な彼です。