※この作品はR-18です。

界乱のエトランゼ   作:宵月颯

6 / 40
消失は始まった。

そしてそれは静かに浸透する。

誰もが予想もしなかった消失。

それは誰にも知られぬまま静かに確実に始まる。

そして誰もキヅカナイ。


コノ愛情ハ記憶ノ底ヘ消エル

先日、アンジュの気配が消えた。

 

それだけじゃない、彼女の存在そのものがまるで始めからなかったの様に世界から消えていた。

 

誰もがアンジュの名前を思い出す事も話す事もない。

 

それは毒の様に浸透し自然と忘れ去れた様に感じだ。

 

アンジュはどうしているだろうか?

 

覚えていた私にもその消息は分からない。

 

アカシックレコードを何度介しても判らない。

 

そう、これはアカシックレコードに記載されていない事象。

 

認識されていない事象なのだから。

 

 

******

 

 

更に二週間が経過した。

 

誰もがその消失に気が付かず日々を過ごしていた。

 

上司に当たる人も、共に戦った戦友も、判り合えた人達も前世の記憶を持つ人は皆消えた。

 

周囲の人達はそれを認識出来ない。

 

だからいなくなっても判らない。

 

愛していたとしても判らない。

 

信頼していたとしても判らない。

 

誰からも忘れ去られる。

 

そこにあるのは孤独だけだ。

 

歴史から人の記憶から忘れ去れる。

 

古きものが新しきものに入れ替わる様に。

 

それが自分達の番になっただけかもしれない。

 

それでも存在し続けたい。

 

私は戦う。

 

記憶を認識を失った仲間達の無念を晴らす為に。

 

 

「やっと見つけた…!」

「…」

 

 

世界から消失した仲間達。

 

その多くが前世の記憶を持つ者達である。

 

必ず消失する時に現れる影の正体を突き止めたハスミはその存在を追い続けた。

 

そしてやっと対峙する事に成功したのだ。

 

だが、それは無謀にもたった一人でだった。

 

記憶を消失し消えた仲間を認識出来ない仲間達を巻き込む事は出来なかった。

 

だからこそたった一人で追い続けるしかなかったのだ。

 

 

「だとしたら?」

「今すぐ仲間達を解放してもらおうか!」

「それは出来ない相談ね。」

「そう言った台詞は何度も聞かされたわ、もう一度言う…仲間達を解放しなさい!」

「まだ分からないのね?」

「何を!?」

 

 

黒曜の后は瞬時に移動し私の頬に手を添えた。

 

 

「忘れたのは彼らの方よ?」

「それは貴方が…!」

「それでも覚えていると宣言したのに結局は何もしていないでしょう?」

「っ…!」

「皆忘れてしまうの、誰もが記憶から静かにゆっくりと…」

 

 

その言葉は毒の様に浸透した。

 

解っているのに抗えない。

 

私はこの言葉の意味を知っているから。

 

人が新たな物語を求める様に古き物語を忘れてしまう。

 

人を次代を超えて。

 

時を時代を超えて。

 

世界の記憶から忘れ去られる。

 

忘れないで欲しいのにいつかは消えてしまう思い。

 

忘れないで欲しいのにいつかは分からなくなる思い。

 

そう無数に存在する物語でも認識されずに忘れ去れるものもある。

 

どんなに有名な物語でも知る人が消えれば忘れ去られる。

 

どんなに無名な物語でも知る人が居なくなれば忘れ去られる。

 

 

 

「覚えて居て欲しいのに皆忘れてしまうのよ?」

「それは全ての知性体の…全ての生命体のせいだと言いたいの!?」

「そうよ、だっていつかは忘れてしまうでしょう?」

「!?」

 

 

”歴史がそれを物語っている、世界は美しいけど醜いもので成り立っていると言う事を忘れてしまうから“

 

 

「…そんな。」

「もう貴方の声は聞こえないわ、誰からもね?」

「皆、ゴメンね…」

 

 

この日、世界からハスミ・クジョウの存在は消えた。

 

誰の記憶からも軌跡からも全てが消えた。

 

ただ一つを除いては。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

とある銀河系の惑星にて。

 

 

「ハスミ?」

 

 

地球と酷似した環境を持つ惑星。

 

その惑星の空を見上げる褐色の男性。

 

 

「新たな危機が訪れたのだな?」

 

 

男性の手に携えられた鞘に収まった刀は小刻みに震えていた。

 

 

「ならば戻ろう、あの地へ」

 

 

嘗て次元将と呼ばれた男は歩みを進めた。

 

一度は立ち向かう事を諦めた男は立ち向かう事に背を向けるなと活を入れた女性に救われた。

 

だからこそ、彼女が窮地に陥った時には駆けつけようと誓った。

 

 

”ごめんなさい、ヴィルダーク“

 

 

刀から響いた声は儚くそして悲しみに満ちていた。

 

 

=続=

 

 




<今回の登場人物>

※ハスミ
『幻影のエトランゼ』の主人公。
アンジュを始めとした消失者が現れ始めてしまった為、独自に調査を進める。
しかし、それを妨害するかの様に『黒曜の后』によって存在を消失させられてしまう。

※ヴィルダーク
『サイデリアル』を束ねていた元皇帝。
己の死を持って奪った命に対し償いをする筈だったがハスミによる『念動鉄拳制裁』による修正を受け、考えを改める。
その後は彼女が監視する形で共に行動している。
次元将に変化する能力は現在も消失しており、『三界事変』の際に一時的に復活したがその後は変化する事はなかった。
『三界事変』終息後は武者修行の旅に出て行った。
ハスミより旅路のお守りとして携えさせられた『詩篇刀・御伽』を所持していた為、『消失現象』による記憶の消失を免れた。
連星地球に帰還後は『詩篇刀・御伽』の効力で『消失現象』によって消された仲間達の記憶を呼び戻すが時既に遅しでハスミ達の失踪から既に一年が経過していた。
前回、ハスミ達が話していた旦那の正体でもありこの話におけるハスミの婚約者である。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。