染まれ、染まれ。
呪いと穢れ。
全ては解放された。
平伏せよ、黄金の眼の元で。
彼女らが消息を絶ってから1年後と数週間が過ぎた頃。
『思い出の場所で待っている。』
消息を絶った者達と最も関わりのあった人物に送られたメッセージ。
助けを求める声か?
狡猾なる敵の罠か?
だが、行くしかない。
想い人達はそれぞれの場所へと向かった。
大事な人達を取り戻す為に。
******
アルゼナル内墓所付近の海岸にて。
「…」
「アンジュ、君なのか?」
「タスク?」
かつての大戦で命を落としたノーマの女性達が眠る地で彼女に再会したタスク。
彼女はいつもとは対照的な色の服を着用していた。
ヴィルキスの様な白ではなくヒステリカの様な黒だ。
「遅かったわね。」
「ゴメン、君をずっと探していたんだ……」
「そう…」
「一緒に帰ろう、アルゼナルに。」
「…」
タスクの声にアンジュは終えたが、帰ると言う単語だけには反応しなかった。
タスクを見つめる瞳を輝かせて。
禍々しい金色の瞳で見つめた。
「アンジュ?」
「笑っちゃうわね…今更帰ろうですって?」
「どうしたんだ、急に!」
「今まで私の事を忘れていた癖に!!」
「っ!?」
「どの面を下げて言えるの!」
禍々しい瞳に滾るのは怒りと憎しみ。
そしてタスクに突き出される拳銃。
「アンジュ!」
「アンタなんかもう要らないのよ…」
普段とは似ても似つかない冷徹な瞳。
いつもの御ふざけで罵る様な時ではない。
目処前にある障害を塵の如く潰す様だ。
「だから、消えて?」
アンジュは何の躊躇いもなくタスクに引鉄を引いた。
普段のタスクであれば避けられただろう。
だが、油断が隙を生み出し弾丸が身体を貫いた。
それは一度だけではない。
獲物を追い詰める様に徐々に撃っていた。
逃げられぬ様に両足を。
何も出来ない様に手を腕を肩を撃ったのだ。
撃ち抜かれた際にタスクの血液がアンジュの頬に飛び散った。
「赤い。」
アンジュは指先でそれを拭うと紅を差す様に己の唇に塗り込んだ。
「お楽しみは取って置かないとね……タスク、次に会った時は貴方の命を貰い受けるわ?」
地面に倒れ伏すタスクを足蹴にしてアンジュは呼び出した黒いヴィルキスと共に去った。
「アンジュ…」
タスクは致死には至らないもののアンジュの不可解な行動に絶望し茫然としていた。
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「皆、ディナーは後にしたのか…」
ハスミはラースバビロンの跡地で仲間達の様子を視ていたが…
どれも楽しみを取って置くスタンスで放置し想い人達の消失に至って居なかった。
「フフッ……それも面白いのかもね。」
「ハスミ。」
「約束通り、一人で来たのね?」
玉座の間に該当する場所にハスミとヴィルダークは対峙していた。
「ハスミ、お前の身に何が起こった?」
「澱み、呪い、穢れ、そして……!」
「くっ!」
向けられる刃と押し留める拳。
「全てを消し去る為に私達は穢れた。」
「穢れだと?」
「この世の悪意そのもの、それらを受け入れた。」
ギリギリと音を立てる刃。
その刃先が拳の肉を裂こうとしていた。
「眼を覚ませ!お前程の者が何故!?」
「逃げた癖に…今更何で?」
「逃げただと?」
「立ち向かう意味を忘れた貴方には理解できないでしょう。」
禍々しい金の瞳が怪しく輝く。
「ハスミ、俺は逃げた訳では…!」
「ウソツキ、逃げた癖に今更言い訳かしら?」
「ならば、お前に問う……俺は何から逃げたと言うのだ!」
「目処前の障害、それから逃げた……」
ハスミが語った『逃げた』と言う意味。
それは己と寄り添う事。
「愛していたのは私の独り相撲だったのかしら…?」
「違う!」
「なら、どうして…?」
「ハスミ、俺は…!」
「その理由を忘れていた癖に!」
ハスミはヴィルダークを拳を薙ぎ払うと刀の一閃を向けた。
斬り裂かれる彼の腕。
不通の人間ならば腕が吹き飛んでいただろう。
だが、彼の体質が辛うじて腕を繋げていた。
「裏切られるのはもう嫌なのに。」
「ハスミ!」
「貴方は裏切った!私が居なければ貴方は孤高だった!私は所詮貴方の枷なのよ!!」
支離滅裂に語るハスミ。
ハスミの記憶が消され改竄された為にその脳裏は混乱を起こしていた。
愛していた記憶と前世の記憶が入り混じり混在した為に…
「貴方が私を貫いた痛みが思い出すの…私は!私は!」
「ハスミ!」
「…貴方を消さないと!」
気持ちが悪い。
ああ、愛しているのにこんなにも憎い。
どうして?
私は、私は…
「ハスミ…くっ!」
俺の迷いがハスミを追い詰めた。
愛しているからこそ愛おしい。
だが、その愛が報われない為に不穏へと変わった。
彼女を蝕む澱んだ毒になった。
あの言葉を伝えなければ…
「ハスミ、俺はお前を…!」
「黙れっ!」
二度目の一閃がヴィルダークの片足を掠った。
「ぐっ!?」
「今回はここまでだ!次に会う時は貴方を消してあげるわ!!」
ハスミはエクリプスを呼び出すとその場から離脱していった。
白の装甲ではなく澱んだ黒の装甲のエクリプス。
それは彼女の心の現れなのだろう。
「ハスミ、俺は…!」
この時、言うべきだったのかもしれない。
例え、彼女は望まぬ回答だったとしても。
俺はまた立ち向かう事を恐れてしまった。
目処前の愛に立ち向かう事を…
その諦めが射手座のスフィアを機能させなかったのだ。
「臆病になったものだ。」
あの戦いで立ち向かう事を諦めなかった筈なのに。
ハスミを愛する事を共に寄り添う事に怖気づいたのだ。
何処までも俺は…
「…今の俺では無力なのだろうか。」
ヴィルダークは静寂な空気に包まれた跡地の地面に拳を打ち付けた。
それは再び立ち向かう事を恐れた彼への試練なのかもしれない。
=続=
とりあえず、オルタ化な乙女達の修羅場をピックアップ。