※この作品はR-18です。

習作及び短編集   作:もっち~!

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短編 
僕にできること


---アール---

 

窓から見える景色は、今日も変わらない。いや、変わったらおかしいんだけど。静かな船内で、ルーティン作業を淡々とこなしていく。

 

僕の名前は鈴木一郎。ニックネームはアールだ。元ネタは某漫画である。

 

職業は公務員…仕事の内容は、この船の乗り組み員である。積み荷を満載して、目的地を目指して航行中である。

 

そして、メールチェックをする。毎日1通、決まった人から届くメール。今の僕にとって、心への栄養補給源になっている。

 

『アール 体調はどう?今朝も朝日がきれいだよ。またね!』

 

毎日のメールなので、何か大事な出来事がないと、こんな感じメールばかりなんだけど、今の僕にとってはこれで充分だ。

 

『アスカへ 今日も異常なし 後少しで目的地だ。目的地につけば、君の待つ場所に帰れる 復路になるのが待ち遠しいよ(^^)』

 

と、返信をした。出港してからずいぶんと経つ。半年くらいで、帰れるのだろうと思っていたのに…

 

アスカというのは、僕の大事な人であり、彼女であり、結婚を約束した人だ。高校、大学と同じ学校で、高校2年からつきあっている。

 

大学4年の時、彼女は大学院に進むことを決めた。僕は、IT企業から内定を貰ったので、彼女の両親に、彼女が院を卒業したら、結婚をしたいと言いに行った。彼女の母親からは良い返事を頂けたのだが、父親から

 

「公務員になるのなら、許す。そうでないなら、娘に大学院はあきらめてもらう」

 

と、言われた。一緒になることには、反対ではないが、就職先が問題となったのだ。実力主義で競争の激しいIT業界ではなく、平坦で収入の安定している公務員なら良いらしい。研究者志望の娘を養うにはと、考えたのかもな。

 

僕は、彼女と一緒になりたいので、内定を取り消してもらい、公務員を目指すことにした。しかし、時期的に今から目指すとなると、来春に就職は難しい状況であった。

 

ある日、彼女が公務員の募集要項を持って来てくれた。新しいプロジェクトのための要員のようだった。募集要項には

 

・プログラマーであること

・ハードウェアにも精通していること

・システムエンジニアもできること

・工作機械、部品加工ができること

・孤独でも大丈夫な人

 

と、ある。

 

「アールなら、全部大丈夫じゃん♪」

 

って、アスカのお墨付きをもらった。

 

「かまってもらえないと、ダメだよ」

 

「毎日、メールくらいなら、送るから。ねっ、書類だけ出してみて♪」

 

と、乗る気充分のようだ。手早く公務員になれるなら、これもありかなって、僕は応募をしてみる気になった。

 

善は急げと、翌日書類を持って応募をしに行った。その場で書類選考と面接をして、その後に試験…ひぇ~、予習していないぞ~って、テスト教科がわからん…

 

試験が終わると、そのまま、1週間缶詰での適応テスト。泊まる準備などしていなかったのだが、そこは役所ということで、必要な物は支給された。

 

アスカに電話で連絡をすると、留守電に転送され、

 

『1次審査通過、これから1週間缶詰での適応テストだって。終わったら連絡します』

 

と、メッセージを入れた。アスカの声を聞きたかったのに…

 

 

適応テストは、

1日目 独房を思わせる薄暗い部屋で24時間過ごした。遮蔽性のある部屋のようで、外の音がまるで聞こえない。食事は出なかった。

 

2日目 1日目と同じだけど、食事が1回出た。しかし、栄養剤入りゼリーだったので、食べた気がしない。

 

3日目 ドライスーツに着替えて、酸素ボンベを背負って、深いプールに落とされた。プールの底で、石を積む作業を繰り返した。90分潜って、30分休み1セットで合計3セットも…食事は相変わらず、1日1回の栄養ゼリーチューブ入りを1本。

 

4日目 3日目と同じことを6セットも…

 

5日目 マニュアルに書かれている通り、システム改修作業

 

6日目 突発的な事態を想定した、マニュアルに書かれていない箇所のシステム改修作業

 

7日目 図面通りのパーツを30個製作

 

8日目 合格を言い渡されるも、そのまま、研修6ヶ月を課せられて、研修先に空輸された。窓のない飛行機に載せられたので、研修先がどこにあるのかがわからない。とりあえず、電話をかける許可をもらい、アスカに連絡をする。今回も、留守電に転送…

 

『正式採用だそうだけど、半年間研修だそうだ。週1回、電話がかけられるようなので、週末に電話します』

 

 

研修に参加しているのは、僕一人だった。僕以外、全員不適合だったらしい。研修所の部屋は、適応テストで使われた部屋と同じ大きさ、同じレイアウトだった。6畳一間に、ユニットバス。キッチンはないようだ。あっ、まさか…あの栄養剤入りゼリーが食事になるのか?消化器官が退化していきそうだ。

 

研修1日目、適応テストと研修の期間分の給料が出るようで、当面の給料の振り込み先を聞かれた。なので、アスカの名前と住所を書いて、彼女に振り込んでもらうことにした。研修が終わり帰れたら、日取りを相談して、結婚をするんだし。財布は1つで良いと思う。

 

その日の夜、彼女の家に電話をした。応対してくれたのか、彼女の母親だった。アスカは帰りが遅いらしい。卒業研究にどっぷり浸かっているみたいだ。

 

「正式採用されまして、今研修中です」

 

「アール君、おめでとう♪これで結婚への障害は、なくなったわね」

 

彼女の母親の喜ぶ声が受話器から聞こえてくる。

 

「それでですね、研修期間分の給料が出るそうなので、アスカの名前と住所で申請しました。振込用の書類が付きましたら、提出するように伝えてください」

 

「了解。結婚資金にするように伝えるわ。研修がんばってねぇ!」

 

と、励まされた。

 

研修2日目からは、膨大な資料を読み、分からないことは、理解するまで質問をする毎日となった。僕の職場は貨物船らしい。船の図面を見せてもらったのだが、僕の想像していた船とは違うみたいだ。これって…まるで潜水艦みたいなフォルムである。これだと、居住スペースは狭いってことだな。

 

研修2ヶ月目になり、自分の置かれた立場が判明した。僕の乗り込む船は潜水艦ではなくて、宇宙船だった。僕のいる研修所は、衛星軌道上に設置された宇宙ステーションであった。さらに驚くことは、乗り組み員は僕一人だった。募集人数は男女各4名だったのだが、僕以外は合格者がいなかった。その為に、船の内部はリフォームされているそうだ。いなくなった7名分の居住スペースは無くなり、貨物スペースになった。脱出船も一人乗りになり、余分なスペースは貨物スペースにされた。

 

僕は船外作業の研修を毎日受けた。宇宙空間での作業だ。深いプールでの適応テストは、これの為だったのかもしれない。

 

研修3ヶ月目になる頃に、ミッションの内容が明らかになった。積み荷を太陽系の外へ捨てて来ること。積み荷は、地球に保存できなくなった核廃棄物質。失敗は許されないミッションだそうだ。失敗すれば、放射能が降り注ぎ、地球には住めなくなる可能性が大きいとのことだ。

 

責任重大なミッション。太陽系の外まで運び、惑星などがないと思われる方向へ送り出すミッション。往路は通常航行で、復路はワープ航行で帰って来られるそうだ。でも、このミッションって、何年かかるんだ?結婚式は何年先に行えるのか?

 

心が揺れ動く毎日…そんな毎日を変える1通の封書が届いた。差し出し人は、アスカの父親だった。中身に目を通す…

 

『娘が幸せに長生きする為にも、ミッションを成功させてほしい。失敗すれば。娘だけではなく、地球に住む生命総てを君が殺すことになる。そうはしないでほしい』

 

と、書かれていた。そんなことをを言われても…でも、アスカには長生きしてほしい。僕が帰るまで待っていてほしい。それだけの想いを胸に、ミッションに望むことにした。それまで心の迷いは吹っ切れ、ミッションの成功だけを考えることにした。

 

ミッションをやり遂げる為、同じことを繰り返し、身体に覚え込ます日々。月日が流れて、出港1ヶ月前になった。ステーションの所長に、やってほしいことがあるかと聞かれ、迷わず、ミッション中は、アスカと毎日メールのやり取りをしたいと伝えた。

 

そして、出港の日。操縦席に座り、計器をチェックする僕。連絡用のモニタに着信を知らせる音が鳴った。モニタに視線を移すと、

 

『いってらっしゃい!待っているから、成功させて戻って来てね♪』

 

と、アスカからのメールを受信した。僕は、

 

『いってきます。必ず帰ってくるからね(^^)』

 

と、返信した。

 

ステーションとの接続部分が切り離され、僕の船はステーションから遠ざかっていく。ステーションに目を向けると、ステーションの職員が敬礼をして、僕を見送ってくれていた。

 

僕は、僕にできることを精一杯やろう。みんなのために…アスカのために…

 

 

---アスカ---

 

アールから電話があり、「正式採用されまして、今研修中です」と、私の母さんに報告したそうだ。留守電に何本か着信があったのだが、こちらから、折り返しでかけても、電波の届かない場所というアナウンスが流れるだけだった。

 

私の両親は彼との結婚に反対はしていなかった。むしろ、私の大学院進学を良しとしていなかったのだ。だから、父さんは、内定を取り消さずに、私の進学を止めてくれると思い、あのような無理を言ったようだ。彼の内定先は、将来的に見て成長が見込める優良企業だったから。

 

しかし、彼は私のやりたいことを優先してくれて、内定を取り消してくれた。そして、就職難民予備軍になった。そんな彼の窮状を救うために父さんが、父さんの務める役所で募集している新規プロジェクトを紹介してくれた。

 

募集要項を見た彼は難色を示していたが、私の発破がけにより申請を出しに行き、とんとん拍子に正式採用されたのだ。

 

しかし、新規プロジェクトのためか、なかなか休みが貰えないようだった。ただ、役所の仕事なので、研修中でも給料が支給された。その受取人に私を指名した彼。毎月の給料は結婚資金としてプールすることにした。

 

しかし、研修開始から3ヶ月目に、事態が一変した。父さんが…父さんが私に土下座をしたのだ。

 

「すまない。彼の事は忘れて、違う人生を歩んでほしい」

 

っと…賛成していたじゃない…なんで今更?彼は、父さんの言う通り、父さんの紹介してくれた新規プロジェクトに参加しているのに…なんで…

 

父さんは、謝るだけで、理由を教えてくれなかった。母さんが尋ねても、理由を教えてくれなかった。どうして?

 

理由は、それから3ヶ月後に、父さんではなく、新聞の小さな記事により、判明した。

 

『地球上に保管されている全て核廃棄物を、太陽系外に輸送し廃棄するプロジェクトが昨日始動した。今回のプロジェクトの成否を握るのは、日本人パイロットの鈴木一郎氏。片道切符で人類の未来の為に旅立ってくれた…』

 

と…どういうこと?なんで?彼を嵌めたの?私は、父さんをなじった。父さんは無言で娘の私に土下座をした。そんなことされても…その月の給料の支払日、彼が定年まで働いた場合の生涯給与が、全額振り込まれた。定年の年齢になれば、年金も払われると、通達が速達で送られてきた。

 

お金じゃなくて…彼を帰して…

 

 

---アール---

 

窓から見える景色は、今日も変わらない。いや、変わったらおかしいんだけど。静かな船内で、ルーティン作業を淡々とこなしていく。

 

僕の名前は鈴木一郎。ニックネームはアールだ。元ネタは某漫画である。

 

職業は公務員…仕事の内容は、この船の乗り組み員である。積み荷を満載して、目的地を目指して航行中である。

 

そして、メールチェックをする。毎日1通、決まった人から届くメール。今の僕にとって、心への栄養補給源になっている。

 

『アール 体調はどう?今朝も朝日がきれいだよ。またね!』

 

毎日のメールなので、何か大事な出来事がないと、こんな感じメールばかりなんだけど、今の僕にとってはこれで充分だ。

 

『アスカへ 今日も異常なし 後少しで目的地だ。目的地につけば、君の待つ場所に帰れる 復路になるのが待ち遠しいよ(^^)』

 

と、返信をした。出港してからずいぶんと経つ。あと1年くらいで、復路になるはずだ。

 

 

そして、太陽系を抜けた。ようやく、抜けた。予定していたルートとのズレを修正して、予定されていたルート、何もない方向に船首を向けていく。そして、帰還準備に取りかかった。帰還用のマニュアルを取り出して、帰還用のシャトルの準備をする。

 

え?なんで?どういうこと?

 

僕は僕の目を疑った。そこにあるべき物がなかった。帰還用のシャトルはなかった。シャトルを発射させるカタパルトすらなかった。

 

え?なんで?どういうこと?

 

搭乗メンバー数の変動よるリフォーム。あの時、帰還用のシャトルを設置し忘れたのか?

 

どうやって、帰ればよいのだ?

 

途方に暮れる僕…

 

そ、そうだ…作れば良い。そのための実習も受けている。僕にできることをしよう。僕は倉庫に向かい、材料を調達しに行くと…無い…材料、工具…何も無い…

 

え?なんで?どういうこと?

 

あのリファームの時に入れ忘れたのか?

 

操縦席に戻り、メールを出す。

 

『アスカへ 異常発生だ 帰る手段がない どうしよう(><;』

 

と、送信をする。が、

 

『1日に送受信できるメールは1通ずつです』

 

と、エラーメッセージが出た。はぁ?緊急事態なんだけど…太陽系を抜けたので、システムを弄り、メールを出せるように改修をしてみる。

 

え?なんで?どういうこと?

 

メールの送受信コマンドが、システムに存在していなかった。今まで、送っていたメールはどういうことだ?システムを解析していく。

 

僕のメールをしていた相手が判明した。アスカではなかった。この船に搭載されている人工知能が相手だったのだ。

 

僕は嵌められたのだった。初めから帰還させる気などなかった。誰がこんなことを…

 

僕の脳裏にはアスカの顔が浮かんだ。彼女は、このことを知っていたのだろうか?彼女はまだ、待っていてくれているのだろうか?あれから…数十年も経っているけど…僕は、今の僕にできることを考える。

 

 

---アスカ---

 

父さんも嵌められたそうだ。事実を知って、彼を連れ戻そうとした時、既に彼は衛星軌道上に設置された宇宙ステーションに隔離されていた。もう、父さんの力ではどうにもならないそうだ。

 

彼はどうなるの?

 

私は大学院で、本来研究することだったことを捨て、彼を救う方法を研究しはじめた。当初、賛同者はいないに等しかったが、徐々に増えていった。そして、彼を救うプロジェクトが立ち上がった。

 

今、どの辺りにいるのだろうか?まだ、太陽系内かな?もう出たかな?彼を終身刑から死刑へと導いたプロジェクトは、その目的を達成し、解散して資料は破棄されていた。プロジェクトにかかわった人達から情報を得ようとするが、軍事秘密という壁に護られていて、証言すら得られないでいた。

 

 

プロジェクトを立ち上げて十数年経った頃、何かがワープアウトして、大島近くの海域に落ちた。研究者達がそれをサルベージしてみると、ラグビーボール大のカプセルみたいな物だったそうだ。

 

翌年の私の誕生日に、カプセルの中に入っていた封筒が、私の元に届けられた。メッセージの入った封筒には、私の家の住所が書かれていた。

 

『アスカへ 僕は、僕にできることをします。このメッセージが、いつ届くかわかりませんが、僕はもう帰れません。手違いで、帰還用のシャトルが搭載されていませんでした。アスカ、やり直せるのだったら、人生をやり直してみてください。僕は僕にできることをします。このまま、こいつを漂流させ続ける訳にいかないので、近くのブラックホールに向けて進路を変更しました。命の続く限り…』

 

後半部分は涙で濡れたのだろうか、判別ができない状態だ。

 

 

 

---アール---

 

あれからどの位の年月が経ったのだろうか?僕は、アスカの目の前に戻れた。なんとか間に合ったみたいだ。彼女は穏やかな顔で、彼女の周りには、彼女の子供や孫、教え子達が囲んでいた。そして、僕に気づいたのか、彼女は僕に近づいてきてくれた。

 

僕は、今の僕にできることをする。彼女の手を取り、エスコートをする。僕と彼女は笑顔で見つめ合い、軽く口づけをした。永い時を埋めるように、お互いの感触を確かめ合う。そして二人で、待ち望んでいたハネムーンへと旅立った。

 

 

 

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