---来生茂樹---
バイトと入試の為の勉強の日々。
「兄さん、どこの高校?」
「うん?珠雫と同じでいいぞ。俺はどこでも構わない」
行けないなら、行かないでもいいスタンスである。
「徒歩圏内がいいよね?」
「電車通学でもいいぞ…自信はないけど…」
膝が曲げにくいので、投げ出す感じで座る俺。顔がこんなであるから、不良に間違えられやすい。電車に乗って、トラブルはよくあることだ。警察で「また、お前か…」って、愚痴を言われるほどだ。警察も不可抗力って分かってくれているのだが、通報があれば行かない訳にいかないらしい。
バスだと投げ出すスペースは無い。タクシーもダメだ。自転車は膝への負担が大きいのでダメだし…残るは、徒歩だけか。
「徒歩で、私の行けそうな高校は…ここかな…矢田高校…」
「そこにしよう。男女共学か?」
「うん。資料を貰ってくるね」
◇
翌日、珠雫が資料を貰って来た。スキャナーで取り込み、母親へメールした。
『入学費、学費等の学校関連経費は、必ず出すわよ』
って、メールが戻って来た。珠雫の分と俺の分だぞって、念には念を入れておく。
『わかっているわ。三人分出すから大丈夫よ』
はぁ?俺と珠雫が固まる。三人分?まさか、父親が手放したのか?それとも母親が、追放するのか?まぁ、なんにしても、次美が帰国するようだ。この家には次美を歓迎する者はいないんだけど…なんで、帰って来るんだ?
---来生次美---
私の中で芽生えたメスとしての本能…妹と兄さんを、二人きりにしてはダメだと言っている。一卵性の双子故、見た目は似ているんだから…母さんに相談すると、手放しで喜んでくれた。
「ようやく、あの人と二人きりになれるのね…」
父さんと二人で生活出来ることを喜ぶ母さん。この母さんの血は、私と妹にも流れている。危険だ。二人にしてはダメだ。
丁度、新年度に、違う国への赴任の決まった父さん。母さんは、私がホームシックだと言い、父さんを納得させて、兄さんと同じ高校へ通う事を許してくれた。
入試に受かればではあるが…う~ん、国語が厄介だ。一応、帰国子女枠での受験ではあるが、国語だけは自信がない。国語は小学校半ばで、リタイヤしたようなものだが、珠雫よりは、良い点は取りたい。
そして、入試の日を迎えた。落ちれば、兄さんと同居が出来ないと父さんに言われた。なんとしても受からないと。
そして…国語、英語、数学の試験は終わった。ホテルへ帰る。合格するまで家には帰るなと母さんに言われたのだ。一緒の学校へ行けない場合、兄さんが戸惑うから…だけど…帰国子女枠ででトップ合格だと翌日連絡があった。入学に関わる書類を持って、自宅へ急いで帰宅した。
「次美…」
固まる兄さん。かわいらしさに磨きが掛かったかな?うふふ。
「合格しました。これでお兄ちゃんと同じ高校へ通えます」
と、報告をした。
「俺と珠雫の合格発表は未だだぞ」
感情の乗らない声の兄さん。へ?!兄さんの合格発表は未だ?はぁい?どういう意味だ?
「お前、訊いていないのか?俺は高校へ入学していない浪人生だよ」
えっ!ショック…通っていない?それは、先輩後輩の関係ではなく、同級生の可能性が有るってこと?お兄ちゃん先輩と言って、甘え捲る作戦が…ダメじゃん。
「まぁ、いいや。お前の部屋は、そのままにしてある。好きに使え」
素っ気ない兄さん。
「お兄ちゃん、ただいま♪」
かわいらしく言ってみた。左手を挙げて応えた兄さん…素っ気無さ過ぎる。なんで?
「ねぇ、なんでよ~!」
兄さんの背中から抱きつく私。
「お前はお前の人生を歩め。俺と珠雫は、どうせ出来損ないだ。お前とは住む世界が違う」
「そんな風に思ったことは無いよ!」
あの件を怒っているのか?もう、時効では無いのか?
「お前を溺愛する父親に言われたんだよ。腐った林檎と一緒にいれば、いずれ腐るってね。俺は、お前に腐って欲しくない。だから、一緒には住まない方がいい」
それは…私の為…でも私の想いはどうすれば?咄嗟に、兄さんの唇に自分の唇を重ねた。
「海外の挨拶か?」
「違う!兄さんだから、したんだよ。兄さんが大好きだから!」
「俺はこんなんだ。止めておけ」
そう言い残して、部屋に引きこもった兄さん。
「あまり兄さんの心を乱さないでね」
珠雫の声。振り返ると、睨むような視線の珠雫がいた。双子だったはずが、随分と様代わりしている。似ていないような…可愛らしい着ぐるみぽい室内着を着ているし。
「乱していないよ。私は自分に正直でありたいだけよ」
「ふん!兄さんから奪い取った物を返してから、言った方が良いよ」
それは、もう返せない。いくらお金をつぎ込んでも…
「ねぇ、兄さんの笑顔を返しなさいよ!」
返したい。でも、無理だ…私の力では…
「兄さんの右足を返しなさいよ!」
返せる物なら返したい…でも、無理である。私は全知全能な神ではない。
「姉さんを返してよ!」
姉さん?誰の事?私以外に姉がいたの?初耳である。
「姉さんと兄さんに言われた。次美と仲良くしろってね。努力はするけど…私は、お前を許さない。忘れるなよ!」
そう言い残し、泣きながら、去って行った珠雫。私が奪い去った物は大きすぎたようだ。って、言うか…姉さんって、誰のこと?あれ?
---来生茂樹---
珠雫が学校のある日は、18時から21時まで、土日は、10時から18時までバイトである。生活費を稼ぐ為…食事にありつく為だ。
「そうか、二人共高校生になるのか…仕込みだけは来て欲しい。二人共戦力のうちだからな」
って、バイト先のシェフに言われた。当初は、まかない目当てだった。最初の頃は皿洗いを二人で熟す日々。今では料理を任されるまで成長した。
「出来るだけ、来たいです。ここの味を護りたいし」
シェフと共に、お店の宝であるデミを管理している俺。野菜の下準備に関して、誰にも負けない珠雫。
「まぁ、勉強に支障の無い程度でいいから、来てくれ」
「はい」
合格発表を見て、その足でバイト先に挨拶に行った俺と妹二人。
「あの…料理は出来ませんが、兄と妹がバイトする時、ウェイトレスとして雇ってくれませんか?」
って、次美。
「まず、見習いからだぞ」
「はい」
俺も珠雫も客前に出られる顔では無い。客相手は次美に任せるのが一番だな。
---来生次美---
兄さんと妹のバイト先で、一緒に働くことにした。理由は食事の為と、兄さんと一緒に働きたいからだ。バイト先でまかない料理が出るということは、家で私の食事は誰も用意してくれないってことである。料理だけは無理なレベルの私にとって、死活問題であった。
ウェイトレスの仕事は、問題なくこなせそうだ。コミュ力はそこそこあるし。
4月から、兄さんと妹の三人で、同じ高校に通えるようだ。一緒に住む条件はクリアできたが、妹の心が閉じたままなのは、少し悲しいかな。このままでは、強敵が現れた時、共闘が出来ないと思われる。そして、私の知らない姉の存在…誰のことだ?
「無事に入学の申請と入学金の納付が出来たようだ。これで高校生になれるのか」
無表情であるけど、どこか嬉しそうな兄さん。
「次美はテニス部か?」
「お兄ちゃんは?」
「珠雫と一緒に帰宅部だよ。バイト先になるべく行きたいから」
それは困る。迂闊にクラブ活動が出来ない。
「俺達がバイトの時は、コンビニで弁当でも買えよ」
って…兄さんの手料理が食べたいのに…
---来生茂樹---
中学を卒業して1年。クラス会の開催…う~ん。会いたい奴がいるが、徒歩圏内では無い。どうするかな?民子に連絡をして足を確保するか。ちょっとだけ、顔を出したいだけだし。
クラス会当日…隣の駅の会場へ向かった。扉を開けて、店内に入ると、ダチが俺を見つけてくれた。
「シゲ、来てくれたのか?」
笑顔のダチ。未成年のはずなのに、アルコール臭のする息。
「顔を出しただけだ。送迎を待たせている」
「送迎?」
「俺の足で、ここには来られない」
「あぁ、そうだったなぁ。電車に乗れないんだった…」
残念そうなダチ。
「あぁ、矢田高校に受かった。4月から通う。それだけを伝えに来た」
会いたい奴の顔が見えた。変わりは無さそうだな。
「そうか。良かったなぁ。そうそう、東雲に会わないでいいのか?」
東雲とは、東雲詩織のことで、俺が会いたかった奴だ。いわゆる俺の片思いの君である。そのことを、ダチは覚えていたようだ、
「今、見たよ。俺が隣にいて良い存在では無い。じゃ、帰る」
店を後にした。
---東雲詩織---
今日は彼の入学祝いを兼ねたクラス会だった。だから、来てみたのだが、彼は来なかった。
彼とは来生茂樹君…私の片思いの君である。え!顔を出したそうだ。でも、直ぐに帰ったって…彼の笑顔は見た事がない。中学の3年間同じクラスだったのに。いつも、無表情である。そんな彼に興味を持ってしまった。
「アイツ、足が悪いのを忘れていた。マズったなぁ」
足が悪い?それは初耳である。そう言えば、体育の授業は見学だったっけ。身体が弱いと思っていたのだが、足が悪かったのか。
小学校の時もずっと同じクラスだった。だけど、途中から入退院を繰り返す様になり、小学校に通わなくなってしまった。だから、中学で一緒のクラスになり、嬉しかったんだけど…何故か、ずっと恐い顔でいる彼に、近づけなかった。声すら、掛けられなかった。3年間ずっと…
「送迎を頼んで、顔を出したようだ」
会って、話をしたかった。なんで、高校受験に失敗したのかを知りたかった。彼と同じ高校を受験したのに…入学したら、彼はいなかったのだ。
「アイツの家、大変のようだよ」
「あぁ、高校行かずにバイト三昧だっけ?」
それも初耳である。そんなに貧乏だっけ?お父さんは一流の商社マンで、海外赴任中だったと思ったけど。小まめに彼の情報を仕入れていたのに…大事なことは仕入れていなかったようだ。
「親からの仕送りがストップって。アイツ、どんだけ、両親に嫌われているんだ?」
仕送りが無いの?高校へ行くお金すら、出して貰えないのか…う~ん…どうするかな。高校の3年間会わないと、彼は更に遠くへ行ってしまいそうである。何か手を打たないと…
---来生茂樹---
俺の部屋で次美が申し訳なさそうに、俺を見ている。風呂に入るため、膝を保護する装置をお風呂用に付け替え作業していたのだ。この装置が無いと、俺は立っていられない。それが現状である。
「そんな顔をするな。日常生活は出来るから」
「でも…」
「ちょっと、面倒なだけだ。ちょっとだけ…」
いや、かなり面倒かもしれない。固定ベルトを絞めすぎると血行が悪くなり、ふくらはぎがむくむのだった。緩すぎるのは論外だし。この加減が意外と難しい。
「高校を卒業したら、介護士の資格を取って、お兄ちゃんをサポートする。だから…」
俺は別に次美に対して思う所は無い。ただ、珠雫が許さないと思う。そんな上辺だけの誠意は。
「俺のことはいいんだ。珠雫と和解をしろ!上辺だけでなくてだ。いいな!」
俺は珠雫が納得したら、それでいいと思うんだよ。もう、どう足掻いても、無駄って知っているから。姉と珠雫と三人で笑いながら会話してぇ~。それだけが、望みである。
「上辺…そんなつもりは…」
「無くても、珠雫が納得するようにしろ。それがお前への課題だ」
装置を交換したので、風呂場へ行く俺。あぁ、温泉に行きたい。でも、装置が壊れるから入れないらしい。くそっ!
『どんまい』
って、姉さんの声。そうだね。それくらい、問題は無いな、風呂場へ行くと、何故か次美が服を脱ぎだした。
「何をしているんだ?」
成長途中の次美の全裸を見ても、反応しない俺のアレ。姉さんや民子の全裸で抵抗力があるので、仏の女性の全裸ごときでは、動揺しない俺。
「お兄ちゃんの身体を洗うんだよ」
「水着を着ろよ」
風呂場にはスクール水着姿の珠雫が待っていた。こっち方が色っぽさを感じるなぁ。
『スケベはダメだよ~』
って、姉さんの声。そうですね。反省します。
「はぁ?全裸で?何をするつもり?」
珠雫が次美を睨みながら、声を掛けていた。
「え!いや…手回しがいいのね、珠雫は…」
「毎日のことだから」
そう、俺は毎日、珠雫の補助で風呂に入っていた。
「毎日…お兄ちゃんと?ズルい!」
「じゃ、ここで…」
全裸の次美を脱衣所に残して、俺は浴室に入った。
翌日、次美も水着を着てスタンバイをしていた。う~ん、目のやり場に困る、ハイレグビキニだった。海外のスクールって、スクール水着が無いのか?
「露出が多すぎるって…」
珠雫すら、目のやり場に困っているぞ。
「え!これでも抑え気味の方だよ。海外だと」
スクール水着姿に慣れている俺には、刺激が強すぎる。アレが、マズい…全裸の抵抗力はあるが、見えそうで見えない物には抵抗出来無い俺。
「お兄ちゃん♪身体は正直だねぇ~」
あぁ、正直だよ。オスとしては正常な証拠だ。次美は下腹部を洗い上げてくれている。
「ここに垢が溜まると、ダメらしいよ」
海外では性教育が進んでいると聞くが…珠雫は、「そこだけは、自分で洗って」って言う方であったので、次美の行動は、俺にとっても、珠雫にとっても、カルチャーショックである。