---来生茂樹---
そして、入学式の朝を迎えた。いつもの様に起き、いつもの様に朝食を作り、食べる。そして、制服を着た。制服と言っても、ワイシャツにブレザーにネクタイ。男子はスラックス、女子はスカートと言う、緩めの制服ルールである。俺の場合は、膝の装置が有る為、改造スラックスであるし。ネクタイを姉さんがセットしてくれている。最近は、物に触れるようになったそうだ。今まで、透過しちゃって、ダメだったけど。
『レベルアップしたのかな』
って、姉さんの声。
靴は革靴が基本らしいが、これも俺の特殊事情を考慮してくれ、特殊なシューズでもオーケーにしてくれた。カバンは背負うタイプにして貰い、松葉杖を使い通学する。足が悪いアピールで松葉杖は必須だと言われた。
「お兄ちゃん、同じクラスだといいなぁ」
「兄さん、同じくクラスがいいなぁ」
いや、三人とも同じクラスらしい。学校サイドが、俺の特殊事情を考慮して、妹二人も同じクラスにして、補助させたいらしい。
学校が考慮してくれるには理由があった。入試の合計点数のトップ3を来生家で独占したらしい。トップ5までは特待生扱いで、授業料の半額などの様々な特典があるらしいのだが、今回は俺の特殊性も考慮してくれたらしい。
「新入生代表は誰だろうね」
「テストの合計点数のトップの人かな?」
家ではギスギスしていた姉妹であったが、外では仲良し姉妹を演じているようだ。で、新入生代表は、トップから5番目の人らしい。4番目の人も特殊事情持ちだそうで、代表を辞退したそうだ。で、来生家では、俺と珠雫は表情に難が有る為NGで、次美は口語がダメだと判断されたらしい。文語は問題無いレベルであるが、家でもちょくちょく英語化していたが、俺も珠雫も問題無いので指摘はしていない。まぁ、父親が同居していた際は、家の中での公用語は英語だったし。
入学式の会場へ入ると、俺達は別室に案内された。俺に対する考慮らしい。整然と並んだパイプ席だと、俺が座れないと判断したようで、モニタで入学式の様子をみることになった。まぁ、俺なんかが会場入りすれば、ジャマな上に、迷惑だろうしな。
入学式が終わり、クラス分け発表を見る事もなく、教室に案内された。俺達の席は決まっていた。一番後の窓側に3席ある。前には1席分のスペースがある。なんか隔離された気分ではあるが、俺的には足が伸ばせるのは嬉しい。
席割りは窓から次美、俺、珠雫だそうだ。席に座っていると、ゾクゾクと教室に入ってくるクラスメイト達。
「シゲさん…同じクラスなんですね」
後輩だった次郎が近寄って来た。コイツのアニキである太郎とはダチである。
「次郎、よろしくな」
「俺をアッシーとして使い込んでください。アニキはシゲさんに恩を感じまくっていますし」
太郎は俺の1つ上の先輩であるが、太郎の高校受験の時、俺が家庭教師をしていた。
「せんぱ~い♪」
う~ん…厄介なのが同じクラスなのか。後輩の上原スミレ…珠雫の元クラスメイトだが、俺に懐いていた。
「え?!次美?」
「誰?」
「スミレだよ~」
「え?!こんなキュートそうに見えるの」
次美が失礼な事を言っているが、スミレは気にしていないようだ。
「先輩にどう見えるかが勝負なのさ。次美にどう見えようと関係ない!」
珠雫の元クラスメイトなんだが…珠雫には声を掛けてくれないのか…あれ?どうして?最後に控え目に、入って来た人物を見て固まった俺。この場にいるはずの無い奴がいる。違う高校に通学しているはずの奴だ。他人の空似か?
長い黒髪をなびかせて、ソイツが俺の方へ、グングンと近寄って来た。そして…
「お久しぶりね、来生君」
コイツ、他人の空似では無い。本人だ。東雲詩織だ…どうして、ここにいるんだ。
「なるほど…表情は変えられないけど、目で感情が読めるのね」
俺は今、どんな目で東雲を見ているんだ?エロい目かな?それはマズい。この顔で、ソレだけはマズいと思う。
「どうして、ここにいるんだ?」
「君を追ってよ。転入試験を受けて、1年から入り直したの」
コイツ…尋常では無い。なんで、俺を追って来たんだ。俺の片想いでいいじゃねぇか。何もお前まで…
「この学校で、君に勝つ!勝ち逃げは許さないもの」
嬉しそうに言う東雲。中学時代、コイツにテストで負けたことは無い。
◇
担任の先生が入って来た。コイツも知り合いだ…辰巳民子…元レディースの総長を務め上げた姉御である。
「ようこそ、問題児クラスへ」
民子の第一声はそれだった。お前が問題児だろ?教師になり、レディースを引退した奴だ。引退してから教師になる度胸はなかったらしい。
「あぁ、シゲがいるのか…それは、大問題だな」
プライベートタイムでは、全裸に皮のツナギを着ている。今はキャリアウーマンぽいスーツ姿とは…う~ん、ボディラインが補正下着で補正されているようだ。
「シゲ!昔の話はタブーだからな!珠雫、気安く話し掛けるなよ!」
それは封印したいだろうな。みんなが民子の視線の先を追い、俺を見ている。先生にガンを付けているように見えるだろうな…はぁ~…
昔…俺が小学生の時だったかな。歳は10歳くらい上だったから。街でガンを付けていると誤解され、事情を話すと、いきなり皮のツナギのファスナーを下ろし、俺だけに全裸を披露し、俺のアレの反応具合と表情を比較し、事情を納得してくれた…エロ姉さんである。それは封印したのだろうな。陰毛がサラサラヘアの茶髪だったことも…まぁ、俺も封印したい。そのサラサラヘアが好きなことをだ。特に、東雲にはバレたくない。
「で、このクラスの問題児を先に伝えておく。問題が起きてからでは遅いからな」
民子、お前も入るだろ?
「まず、シゲだ。来生茂樹、あぁ、立たないでいい。コイツは、顔の神経がやられていて、表情が変えられない。極悪系な表情であるが、好きでしている訳でないから、カンベンしてやってくれ。後、コイツの右足はダメだ。膝を曲げっぱなしにすると、激痛が走るらしいので、あの席で足を伸ばせるようにしている。決してケリとばすなよ。後で、説明する奴らにボコられるから」
ボコる?姉妹には出来ないだろう。ここでそんなことが出来るのは、民子、次郎、スミレか?
「本田次郎…プロテスト前であるが、相当な腕前のボクサーの卵。上原スミレ…空手の有段者だ。この二人はシゲの舎弟に近いから、注意しろ」
舎弟?やくざ映画の見過ぎだろう。民子に勝てる奴の方が少ないと思うが。今でも声を掛ければ、パレードも出来るらしいし。
「次に、みんな受けたテストの点数だ。通常テストも転入テストも、帰国子女枠のテストも、同程度の問題であるので、合計点数を比較しても問題は無い。で、本来は、合計点数がトップの者が新入生代表で壇上に上がるんだが、今回は身体的なギャップで見送られた上、諸事情を鑑みて、5位の奴が壇上に上がった」
ざわめく室内。そうなると4位は東雲か?
「1位は来生茂樹、満点だった」
一斉に俺を見るみんな…東雲の顔が引き攣っている。
「2位は来生次美、2点差。3位は来生珠雫、3点差だ。ちなみにシゲは高校入試に失敗して、1年間浪人生活を送っているので、年齢はお前らより1つ上だ。で、次美と珠雫は、シゲの妹で、アイツの介護役として、3人とも入学式の間、別室で待機していた」
「特別待遇?」
誰かが声を上げた。
「そうだ。5位までは優待特典があるんだよ、この学校は。来生兄妹にはシゲへの対応を優待特典とした。で4位は東雲詩織、5点差。5位はこのクラスにはいない。自分が1番の成績で合格したと思い込んでいるはずだ。点差は15だ」
ざわめきが大きくなっている気がする。
「で、東雲への特典は編入時に、1年として転入し、中学時代のライバルであるシゲと点数バトルをしたいってことを選んだ。なので、コイツもお前らより1つ上だぞ」
俺に勝ちたい為に、転入?どうにかしているだろ?東雲よ…
---来生次美---
いきなり強烈なライバルの出現である。東雲詩織…兄さんを追って、転入って…尋常じゃないよ、コイツは…
東雲が視界入った瞬間、兄さんの目が泳いでいた。あれは、マズい。兄さんも気になっているんだろう。どうにか割って入らないとダメである。見た目は私の勝ちだと思うが…
更に、担任の先生も油断ならない。兄さんをニックネーム呼びって、有り得ない。仲の良さを私にアピール?宣戦布告?受けて立ちたいが、珠雫と冷戦中だし、四面楚歌は避けたいなぁ。
帰宅後、珠雫に声を掛けた。
「一時休戦?私、あなたとは戦っていないよ。だって、相手にする気無いもの」
え?!スルーされていたのか?
「外では仲の良い姉妹を演じてあげる。兄さんのメンツの為にね」
何?兄さんの為に演じる?
「それに、警戒しているのは民ちゃんと東雲ちゃん辺りでしょ?」
頷く私。はぁ?民ちゃん…東雲ちゃん…って、珠雫の知り合いでもあるのか…マズい…珠雫は認めているのか。
「民ちゃんは、兄さんの憧れのお姉さんだよ。東雲ちゃんは…将来のお姉さんかな♪」
何?それは何?珠雫が嬉しそうな表情をしている。あの二人と兄さんの間の何かを知っているのか?ズルい…いやいや、珠雫の姉枠も死守しないとダメなのか…マズい…
---来生茂樹---
次美が泣きながら部屋に入って来た。嘘泣きでは無さそうだ。
「お兄ちゃん!あの担任と東雲って子とは、どんな関係なの?」
「どんなって?」
言えない…そんなことは…
「好きなの?どこまでの関係なの?」
民子の過去は言えない。東雲の事は知られたくない。
「知り合いである程度だ」
「嘘!珠雫が自慢げに…悔しいよ~。なんで、私だけのけ者にするのよ~!」
次美のヒステリーの原因は珠雫か。どうせ、勝ち誇ったように言ったのだろうな。
「民子は俺のお姉さん枠だよ。東雲は俺の片思いの君だ。それで満足か!」
「私じゃ、ダメなの?」
「何がダメなんだ?」
いや、見当は着いているが…ダメである。同じ顔である珠雫にすら、そのような感情を抱いていないし。
「私はこんなにも、お兄ちゃんが大好きなのに~!」
う~ん…知っていたよ。お前が極度のブラコンなのは。だから、あの事件が起きたんだろ?俺が気づいた時には、もうコース内にいた次美。下手に接近すれば、二人共危険だった。だから、次美がこけた時に、直ぐに助けに行ったのだが…助けた後も、パニックで、ばたついていた次美。そのせいで、板やストックが俺に襲い掛かってきたのだ。まぁ、次美は不可抗力であったはずだ。精神不安定時で…裁判になっても無罪になるだろう。
「俺の妹じゃ、不満なのか?」
「不満じゃないよ。だけど…もっと深い関係…」
ラノベであれば、義理の妹であり、そういう展開もあるだろうが…現実的では無い。
「実の兄妹だぞ!」
「分かっているよ。だけど…納得はしていないよ」
コイツのブラコンを治さないとダメなのか…俺の表情筋並に重症な気がするのだが。
「お兄ちゃん…抱いて…」
服の上から抱き締めてやる。
「うん?そうじゃないよ~。男女の抱いてだよ~」
スルーする。俺に出来る誠意である。だけど…
「それすらも意味がわからないの…ゴメンね」
意味は知っている。民子にアレコレ習っているから。俺を哀れんだのか、次美が爆泣し始めた。泣き止むまで、このままが無難だな。はぁ~…
◇
翌朝、次美の泣き声で目が覚めた。泣き止むまで抱きつき、そのまま寝たようだ。二人揃って…その結果、次美の目元にクマが出来、目が充血し、瞼が腫れぼったいようだ。その顔に悲観して泣いているようだ。
「横になって寝て休めば、治るぞ」
「そうだけど…お兄ちゃん、添い寝して…」
今までしていた気がするが…
「ねぇ、泣けば、ホイホイ兄さんが、何でもしてくれると思わないでよね!」
珠雫がやって来た。
『一票♪』
姉さんが珠雫の考えに同意している。
「もう!朝からピーピー五月蠅いよ!高校生にもなって、何それは?父親とそういう関係だったの?」
「違うよ…父さんとは違う…ねぇ、お兄ちゃん…信じて…」
俺の胸に顔を埋める次美。足が痺れてきた。ベッドの上で座っていたのだが、エコノミー症候群か?
「ねぇ、兄さんがつらそうなんだけど、あんた、どう思うのよ!」
遂に珠雫がキレ初めて、次美をアンタ呼びし始めた。
「え?!兄さん…え…どこか悪いの?」
俺を兄さん呼びする次美。甘えん坊を演じることを忘れ、素に戻ったようだ。
「足が痺れてきた。横になりたいんだけど…」
何故か、俺と一緒に横になる次美。その姉を呆れた目で見ている珠雫。姉妹、仲良くして欲しいんだけど…
『無理だよ、無理よ~』
って、姉さんの声。無理なのか…
---東雲詩織---
私が4位…有り得ない…来生君は満点なのに…5点差って…彼の妹達も侮れない。トップと5点差で4位…今までで一番のデッドヒート戦だったようだ。
彼はどうやって勉強しているんだろうか?この1年、浪人して、どうやって、高みに到達したのだろうか。気になる。彼のことが…とっても…休みの日は、どうやって過ごしているんだろうか?
う~ん、家に押し掛けてみるか…気になって仕方が無いし、どんな住環境なのか知りたいし。