---来生茂樹---
「兄さん、お客さんだよ」
珠雫に起こされた。
「民子?」
「違うよ~。東雲ちゃんだよ」
嬉しそうに言う珠雫。はぁ?東雲?なんで?どうして?
珠雫の介護で、リビングに行くと、私服姿の東雲がいた。白のブラウスに、ジーパンにジージャン…結構、普段はラフのようだ。
「どうしたんだ?」
俺専用のソファに腰掛けた。足が伸ばせるように、右にだけ足置きがあるのだ。
「家庭訪問よ」
それは担任がすることでは無いか?
「何を知りたいんだ?」
「どうやって、勉強をしているの?」
ストレートな質問である。だが…
「最近はあまりしていない。バイトもあるし、妹が一人増えているし」
珠雫がケーキと紅茶を俺と東雲の前に置いた。
「バイト?」
「仕送りが無かったから…珠雫と二人でバイトをして、しのいでいたんだよ。次美が住むようになって、仕送りが来るようになったけど」
「次美ちゃんは別格なの?」
「父親のお気に入りの子供だ」
「ふ~ん…で、どうやって、試験勉強しているの?」
う~ん…特にはしていないのだが、そんな言葉を言えば、余計に怒らせてしまいそうだ。
「珠雫、ノートを持って来てくれ」
「はい」
珠雫が俺の部屋から、俺のノートを持って来てくれ、東雲に手渡した。
「これは…」
「通信教育のノートだよ。小学校の時、入院生活をしていて、通信教育を受けていたんだ。で、退院後もねぇ」
退院してリハビリをして、それから学校へ復帰した。復帰するまで、家で通信教育三昧だった俺。家から出ることが出来なかったからだ。旅行中の障害ってことで、保険金が入ったので、それで食いつないだ。でも余分な出費である通信教育費は母親が出してくれた。
「これって、どこの通信教育?」
義務教育は通信教育に無いので、その後の学校である。どう言うかな。
「海外の学校のだ。だから、日本語が書かれていないだろ?来生家の公用語は英語なんだよ。家の中の会話は英語だった。で、家の中のメモはドイツ語だったんだよ」
小さい時に語学を覚えると一生物って、父親の考えで、そう育てられていた俺達。まぁ、海外勤務の多い父親が、日本語を忘れたというか…
「スゴい…ノートがドイツ語なのか…」
「まぁ、語学の勉強はそんな感じだ。国語は努力の末と言うか…」
俺と珠雫で暮らすようになって、来生家の公用語は日本語オンリーにしたのだ。
「後、数学は、通信教育だよ」
算数は習っていない。俺と珠雫の習ったのは数学であった。小学生の時点で…
「中学に入った時に、通信教育の方も入学試験を受け直して、ステップアップしたんだよ」
中学時代に物理、化学、数学は高校生もしくは大学生レベルの通信教育になっていた。飛び級は、この国には無い上、中学の通信教育も無いから、海外の大学の通信教育に行き着いたと言う。
「中学の3年間で、高校3年間分を学んだの?」
目を点の様にしている東雲。俺と珠雫が頷いた。
「だから、今、特にしていない。珠雫と次美のわからない問題を、一緒に解く程度だよ」
友達がいない俺は、普通遊ぶ時間に勉強をして、普通勉強をする時間にバイトをしていた。まぁ、浪人中に、民子達に色々な遊びを習ってけど…今考えると民子って、その当時教師では無かったのか?
「勝て無い訳ね…いいわ。4位キープか、2位を狙うわ」
笑顔の東雲…クラッと堕ちそうだ。かわいい…
「で、来生君の部屋を見たいなぁ」
俺の部屋?確か、まだ寝ているのでは?
「次美が寝ているが…」
「妹と添い寝?」
「いや、妹が夜這い。あぁ、そうだ。東雲、スーパーブラコンって、どうやって治せばいいんだ?」
「あぁ、次美ちゃんって、そうなんだ…」
ピンポン♪
また、客か?珠雫が応対に向かって、直ぐに客と戻って来た。民子だ…相変わらずの皮のツナギだし…
「あれ?東雲が何でいるんだ?」
「先生…ワイルドなんですか?」
「いや、休みの日は、バイクでツーリングして、シゲの家で休むのが定番なんだよ」
東雲の前なので、何時もののように、ツナギのジッパーを下ろせない民子。ノーパン、ノーブラで来たのか。一応、教師と生徒だぞ!
「シゲ、飯!昼飯の時間に合わせてみた」
生徒の家で飯を要求って、どうなんだ?
「いま、作る。東雲も喰っていけ」
「うん」
◇
珠雫とキッチンへ向かい、昼飯を作り始めた。冷凍庫からスープストックを凍らせた物を出し、鍋で暖めていく。冷蔵庫からはカレーのルゥを取りだして、少しずつスープに馴染ませていく。
珠雫はバイト先と同じ手際で、野菜を刻んでいく。サラダ担当である。
「兄さん、ドレッシングはどうする?」
「タマネギを微塵切りにしておいて、オニオンドレッシングにしよう」
「了解」
俺達の手際を民子と東雲が眺めていた。オープンキッチン状態だな。冷凍庫から、煮込んだビーフシチューの肉を人数分取り出して、カレーの中へ入れて、味を馴染ませていく。
「スゴい…プロみたい…」
って、東雲。
「あぁ、この二人はプロだよ。バイト先がそっち系だし」
バイト先の常連客である民子が説明している。
「珠雫、チェンジだ」
「うん」
珠雫の用意した食材を人数分のサラダ皿に盛りつけて、ドレッシングを調合していく。珠雫は、三品目に取りかかった。味噌汁である。これも冷凍庫にだし汁を冷凍保存してあるので、鍋に入れ、火に掛けて、具を入れて、火を止めてから、味噌を溶けば完成である。
出来たので、珠雫が、配膳をしていく。俺は、次美を起こしに向かった。後から東雲が付いて来ている。押し倒したいが、この足では無理かぁぁぁぁぁぁ~!残念…
部屋に入り、ベッドで寝ていた、何故か俺の枕に顔を埋めている次美を起こした。
「兄さん…え!なんで…東雲さんが…兄さん、どういうこと!」
寝ぼけているようだ。
「民子も来ているよ。飯だよ」
「げっ!」
次美が自分の部屋へ戻っていく。ノーメイクはダメなのだろうか?
「ふ~ん、ベッドと机と、通信機材だけなの?」
「奥に本棚がある」
大学のテキストと参考書、後、料理関係の本ばかりである。
「え!通信教育って、ここの?」
大学のテキストを手にして、驚いている東雲。頷く俺。
「大学じゃない…これって…」
東雲の手が震えている。怒りで震えているのか…
「スゴい…勝て無い訳だ」
何故か笑顔である。怒りで震えていたのでは無いのか?女心はわからない。
「さぁ、飯だ」
「うん」
俺の右腕を肩にのせて、アシストしてくれている東雲…うっ!心拍数が…マズい…
「なるほど…表情が変わらないでも、脈の変化でわかるんだね」
バレた…終わった…
「私の片思いで無いのが嬉しいよ、来生君♪」
chu
俺の頬に東雲の柔らかな物が…パニック状態の俺は、みんなの待つリビングへ着いた。俺は東雲の手から珠雫に渡されて、俺の席に座った。足を伸ばしているので、東雲が遠い…
「うぅぅぅぅまい!」
民子が喜んでいる。まぁ、店でカレー味のシチューは無いからな。
「美味しい…」
東雲が嬉しそうに食べてくれている。
「あぁぁぁぁ~、もう食べているんだ」
白いTシャツを裾で結んで、ジーパンの短パンスタイルで登場した次美。それは東雲に対抗しているのか?
---来生次美---
部屋から出ようとして見てしまった。東雲が兄さんの頬に…負けている。どうやって、取り返せばいいの?兄さんの腕に抱きつく。
「は?ノーブラか?垂れるぞ!」
ノーブラアピールが裏目に…垂れるのはマズい。まだ15だよ。う~ん、ここで席を立つわけにいかない。食事中はむやみに立ってはいけないから。
「次のシフトはいつだ?」
先生が訊いた。
「明日だ。日曜は仕込みの日だし」
「あれは、有るのか?」
アレってなんだ?
「どうだろうな…仕入れがあれば、月曜には出せるとは思うけど」
なんの料理のことだ?
「そうか。なら連絡をくれ。お前が担当だ?」
「珠雫だよ。俺は、肉のクリーニング作業と、油を作らないとダメだから」
油を作る?肉の選択?う~ん、意味が分からない。
「厨房で働いているんだ?」
東雲が訊いてきた。
「あぁ。食いっぱぐれないだろ?まかない料理が食えるし」
「そうだ!今度、まかない料理を作ってくれよ、シゲ」
先生とはどんな関係なんだ?
「無理だよ。家庭用は火力が弱いし」
火力?
---来生茂樹---
東雲と民子が帰っていった。
「お兄ちゃん♪」
二人がいなくなって、次美が甘えん坊を演じ始めた。
「何だ?」
「私の胸じゃ満足出来ないの?」
どこへ連れて行けば、コイツのブラコンは治るのだ?
「実の妹はダメだ」
「じゃ、戸籍を変えればいいの?」
「そうじゃない。血の繋がりがあるからダメなんだよ。海外の方が、そういう教育って進んでいるだろ?」
「昔の王室とか、近親交配は当たり前だったらしいよ」
「来生家は王室では無い。貴族でも無い。だから、ダメなんだよ」
「お兄ちゃん!どうして、拒否をするの…私は、お兄ちゃんの為に何でも出来るわ」
「そうか…じゃ、ブラコンは卒業しろ。いいな!」
「ブラコンって?」
そこからか…どうするよ、コイツ…