目の前に転がる遺体が3体。黒ずくめの男が2と、普段着の男子が1である。黒ずくめの組織が取引をすると聞き、張り込んでいたのだが、見知らぬ一般人が迷い込み、アイツらの餌食になったのだった。アクシデントによる介入、しかし一手遅く、一般人の犠牲者を出してしまった。
「どうします?」
上司に訊いてみた。
「あの毒薬の検体に使う。急いで3体とも、持って帰るぞ」
仲間と、手早く3体の遺体を車に載せて、その場から走り去った。取引相手は、仲間が追尾していて、どこの誰かを確かめる手はずになっている。このアクシデントに巻き込まれた一般人以外は、問題は起きていない。
協力医療機関に、3体の遺体を運び込み、あの毒殺された遺体だけを、解剖ルームへと急がせた。物的証拠が欲しいからだ。黒ずくめの組織の使う毒薬は、厄介な代物であった。時間が経過すると、痕跡一切残さずに消えて仕舞う、完全犯罪用の毒薬であるのだ。
「今回は、未使用のアンプルも手に入った。これらを解析しよう」
上司である警察庁広域捜査室室長の江川拓也が、ほくそ笑んだ。
「問題は、この被害者だな」
有名人であり、警視庁の協力者であった。そこが問題になっている。彼の名前は工藤新一。高校生で有りながら、名探偵として、様々な難事件を解決してきたヒーローである。
「なぁ、亜樹。お前、顔がそっくりだし、成り代わらないか?」
上司が無茶振りをする。彼のパーソナルデータが少なすぎて、身代わりになるには、難しい状況であるのだ。
「無理ですって。顔が似ているだけで、身代わりになれるほど、世の中は甘くないですよ」
俺の上司は無茶振りが得意である。
「そうなのか?」
架空の人間になりすます方が、全然楽である。
「凪も似ているけど、アイツは、ここの副院長だしなぁ」
同僚の四宮凪は、ここ四宮総合病院の副院長扱いである。普段は広域捜査室のチームメンバーである為、非常勤な副院長として、病院スタッフには親しまれていた。
「フォローはするよ。まずくなったら、ここに逃げ込みなよ。医師もスタッフも、みんなが亜樹の味方になってくれるから」
凪まで無茶振りをしてきた。
「ダメだって…言葉遣いとか、人間関係がわからない。簡単にボロが出ると思う」
「そこは演技力でカバーしろよ」
チームの頭脳である朝霧沙樹までも、無茶振りしてきている。おいおい…
「じゃ、決まりな」
上司が決定を下した。はぁ?どうしてよ~!
「で、さっきから携帯電話に着信が多々ある毛利蘭って人物に引き合わせるかな」
誰、それ?
「毛利蘭…工藤新一の幼なじみにして、彼女らしいです。あの日はデート中に起きたアクシデントのようです」
情報収集担当の夏美が、俺に情報を伝えてきた。夏美は俺の双子の妹である。
「事情は俺が話しておくよ。事件に巻き込まれて、頭を打って、記憶が多少消えているとか」
それは、演じきれないパートは、記憶喪失で乗り切れとでも言うのか?
「なんで、工藤新一があの取引現場にいたのかを、原因を突き止めてくれ。これ、仕事だからな」
難易度が高すぎる潜入捜査である。
---毛利蘭---
漸く、新一の携帯に繋がったと思ったら、新一以外の人が出た。
『警察庁の特捜部なんだが、君はこの人物と知り合いか?』
って…はぁ?まさか、新一は事件に巻き込まれたのか?
「そうです。彼の幼なじみで毛利蘭と言います」
『彼は事件に巻き込まれてね。少し、記憶が喪失しているんだよ。迎えに来てくれるかな?東都にある四宮総合病院に、検査入院しているから』
検査入院?記憶が喪失?頭にダメージでも受けたのかな?
「はい。今から伺います」
学校から直接、四宮総合病院へと向かった。
---四宮凪---
例のアンプルは水溶性であった。口内で水分に触れると、薬剤が舌の神経から侵入して、脳へと至り、脳死へ導くようだ。舌なんか普通、真っ先に検死しないもんなぁ。見つからない訳だ。
「で、薬剤の方は、どんな感じだ?」
「成分分析は出来ています。神経伝達物質で、脳に直接働きかけているようです」
薬学部からの報告書を見ながら、上司に報告をしている。
「で、取引相手は製薬会社の研究員でした」
追尾を終えて戻って来ていた宗像当麻が、報告を上げている。
「製薬会社で製品化をしているのか。じゃ、今日の夜にでも、そこにガサ入れ決定だな」
って、無茶振りな指令を下す上司。今夜に?捜査員の数が集まるのか?ふと、亜樹が目に入った。分厚い資料を頭にたたき込んでいる。工藤新一の身代わりになるように命じられて、彼のパーソナルデータを頭にたたき込んでいた。
工藤新一は死んだって、報告すれば良いと思うのだが、上司は生きているように見せかけたいらしい。なんで?
「なぁ、工藤新一は死んだではダメなのか?」
沙樹が訊いてくれた。
「死因はどうする?原因不明ではまずいだろ?下手人はどうする?既に遺体になっているんだぞ」
それが問題なのか?
「警視庁へスパイを送り込める機会って、滅多にあるもんじゃ無いし」
って、警視庁へ潜る為なのか?
「室長、毛利蘭とは、どういう関係なんだ?」
亜樹が質問をした。
「そんなことは、当事者同士で確認してくれ」
「はぁ?」
亜樹が戸惑っている。いや、戸惑うよな。現場で探りを入れながら演じろって…難易度が高すぎる。
「バレそうになったら、頭が痛いって言って、記憶喪失で逃げろ」
そんな小手先のウソが、どこまで通じるんだ?まぁ、上司の無茶振りは、いつものことである。
「で、いつまで、潜って居れば良いんだ?」
「工藤新一の情報源を見つけるまでだ。簡単だろ?」
簡単では無いと思う。組織とかの方がまだ楽だと思う。
「あの~、既に頭が痛いんですけど…」
亜樹が頭を抱えていた。
---毛利蘭----
頭に包帯を巻いた新一が、ベッドに横たわっていた。
「新一…」
声に反応して、私を見る新一。
「大丈夫?」
「あぁ…」
「帰れる?」
「家まで送ってくれるか?家がわからないんだよ」
家?住んで居る家を思い出せないのか。
「ねぇ、私のことは?」
「かわいい…抱きしめたい…」
えっ!そんなこと、言ってくれたことは無いよ。
「私の名前は覚えている?」
「蘭…だよな?俺の彼女の…」
彼女?そんな風に言ってくれたことは無いよ。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「う~ん…少し頭が痛い」
頭にダメージが残っているのか?検査では異常が無かったそうだけど。
「退院は出来ます。彼を連れ帰っても良いですよ」
新一の担当医に告げられた。こんな新一は新一では無い。こんな素直な感想を言うヤツじゃなかった。扱いが難しそうである。不安が一杯である。適正な距離感のある関係でいられる自信が無い。
◇
新一を新一の家へ連れ帰る。新一の腕に抱きついて、どこかへ行こうとするのを防ぐ。いつもだったら、いやな顔をして私を遠ざけるのに、今日の新一は、私の行動を嫌がらない。そんな新一に不安を抱く私。豹変して押し倒されたら、新一のしたいように、させてしまうかもしれない。ある意味、貞操の危機である。
「ここよ」
新一の家の前に着いた。カギを開けようとしない新一。新一のポケットから、キーホルダーを取り出して、カギを開けて、家の中に入った。入った場所でたたずんでいる新一。どこに、何の部屋があるか、分からないらしい。そんな新一の腕を抱き、家の中を案内した。ここは、新一の家なのに…なんで、私が…
「ここが新一の部屋だよ」
ドスッ!
えっ?予想通り、ベッドの上に押し倒された。私の上に載る新一。素早く、パンティーが下ろされていた。いつの間に…
「新一…どうしたの?」
「蘭…」
制服が脱がされていく。新一のベッドの上で、全裸を晒していく。理性が無くなったのか?こんなことを私にする男では無かったはずだ。我に返ると、既に全裸の新一が、上に載っていた。新一のアレが私の中に…
「新一…」
「蘭…」
新一と一体になっている。夢に見ていた光景であるが、突然過ぎる。体内で新一の鼓動を感じている。それは、つまり…
「新一…」
新一の唇が、言葉を遮るようにして、私の唇に重なった。新一の唇は乾いているようだ。脱水かな。舌で湿り気を与えてあげる。そんな私の舌に新一の舌が絡み…
翌朝、新一の上で目覚めた。
「おはよう…蘭」
新一の唇が、私の頬に朝の挨拶をしてきた。
「おはよう、新一」
いいのかな?なし崩し的に関係を持ってしまったような。