天職の価値
---クリス・マクレガー---
「なぁ、ミケの持ち物はあるか?」
僕の部屋に姉さん達を連れていき、ミケの形見の品々を渡した。それを調べていく姉さん達。
「あった。これだ…」
宝石箱に埋め込まれていたノート。それに目を通していく姉さん。
「なるほど…クリスは転生者だったのか」
「そうだけど…サマエルは異世界転移者だよ」
何を今更…僕の言葉で、レットが開いた口が塞がらなくなっていた。そんなに驚くことなのか?
「クリス…お前、前世の記憶があるのか?」
「うん、あるよ。サマエルは僕の姉さんの彼氏だったんだよ」
姉さんは今も遠征先で元気かな?他の星に遠征をしているから、あの惨事には巻き込まれてはいない姉。
「そのせいだ。お前の天職は転生勇者と表示されたようだ」
「ちょっと待って!なんで勇者が消される対象なのよ?」
天職勇者であるレットが、姉さんに訊いた。
「天職勇者はヘタレが多いが、転生勇者は真面目過ぎるからだって…教会は魔王を倒す気が無いみたいだな」
「そんな…何の為に、苦しい鍛錬をしてきたのよ~」
「魔王は神族の予備軍で、正式名称は悪魔王って言うそうだよ。魔王が勇者を倒すと、魔王は神になり、勇者が魔王になるんだって。で、本来の討伐対象は魔物の王の魔王の方だって…」
サマエルがお茶を運んで来てくれ、魔王についてレクチャーしてくれた。へぇ~、魔王って二種類いたんだ。初耳だよ。
「どこで訊いたんだ?」
姉さんに訊かれた。
「俺の知恵袋であるギルにだよ。神族の王が神王で配下が天使、悪魔王の配下は悪魔になるみたい。天使も悪魔も同じ種族で、仕える者が違う程度みたい」
これが事実だと、教会はこのことを知っていて、将来的に魔王を倒せそうな者を、産まれて直ぐに消していたのだろう。僕のように…
『正解よ、クリス』
脳裏に前世で寄り添ってくれた者の声がした。いや前世でも脳裏で声がしていたけど。
『正解のお祝いにアーククレリックの能力を授けるわ』
なんか、強く成った気がする。
『私と会話が出来るようになる特典付きで、天職もプレゼントよ』
なんですか、この天職は?『女神の代理』とある。
『私がこの世界の女神なんです。と言っても破壊神だけどね。君のいた数々の並行世界で、君に寄り添って経験を積んでいたのよ』
それは、僕が数々の世界で転生をして、苦難の道を歩んできたのか?
『あらあら、また正解だわ。君が私の相棒で良かったわ』
う~ん…
『深く考えちゃダメ。この世界を乗り切れば、次の世界では私がずっと傍にいるからね』
抱き枕?
『女神を抱き枕にするの?う~ん…まぁ、アリかな。君ならね』
と、女神様と会話をしていたのだが、その間、時間は止まっていたようだ。うん?サマエルだけは時間が止まっておらず、僕と女神様の会話も聞こえたいたのか、僕を暖かい目で見つめていた。
---スカーレット・オーガスト----
ヘタレ勇者とまで言われてしまった。まぁ、ジョブが剣士止まりであるし、ヘタレなのだろう。。
「どうすれば、剣豪になれるのよ~」
「それに見合った剣で鍛錬しないとダメだよ」
サマエルがアドバイスをくれた。見合った剣?私の武器は鉄の剣である。名人、武器を選ばずでは無いのか?
「この剣を使って鍛錬をするといいようだよ」
って、サマエルからオリハルコンの剣を受け取った私とアリス。なんで、こんな武器を持っているんだ?それも2本も…サマエルって、何者なの?
と言うことで、シルバーバックベア相手に鍛錬をしていくと、私もアリスもジョブが剣豪になっていた。マジか?
「なるほど、武器が問題だったのか。それ相応の武器で敵を倒すのか」
アリスが納得している。私も納得して、ここで鍛錬を積む。もう魔王を倒す気は無いが、クリスとサマエルの護衛くらいには成りたいのだ。
ここでの生活は、開墾と遺跡調査が主で、狩りと言う名の鍛錬は食事の為と自衛の為だけ行われた。
「意味も無く殺すと、魔王になっちゃうよ」
って…悪魔王、魔物王以外の第3の魔王…他国で魔王と呼ばれる厄災が目の前にいた。なんで、ティアドロップと苗子が一緒に住んでいるんだ?サマエルって何者なんだ?
---マリン・マクレガー----
我が家の長女であるアリスが行方不明になった。アリスの捜索に白羽の矢が立ったのは、マクレガー家の長男である私である。天職は賢者で、勇者パーティーに属しているが、今回は家の問題なので、違う勇者パーティーのいる次男のランスとコンビを組んだ。ランスは天職騎士である。
「アニキ、アネキは無事だよな?」
ランスはアリスが大好きである。所謂シスコンの部類かと思う。私、アリス、ランスは6歳の時に天職が判明したので、一緒に暮らしたのは数年だけである。幼心に残る妹はかわいい印象であった為、私も少しシスコン気味であるかもしれない。今もアリスはかわいい妹である。ランスに言わせると凜々しい姉らしいが。
「無事だろうな。天職剣聖だ。悪魔程度に遅れは取らないよ」
アリス達は最上級悪魔を追っていたらしい。足取りを追っていくが、教会を出た後、家に寄り、その後冒険者ギルドに向かって、それ以降の足取りは途絶えていた。なんで、冒険者ギルドになんて寄ったんだ?指名依頼でも無い限り、寄る意味が分からないが、指名依頼は出ていないようだった。
「どうせ、あのクソオヤジのことだ。不甲斐ないとか言ったんだろう」
ランスが吐き捨てるように言った。私達のクソオヤジは、子供を駒にしか思っていない。私達から言えば、単なる種馬である。高確率で優秀な天職を子供達に授ける優秀な父親だと、世間でも一目置かれる存在である。私達から見れば、父親だと思ったことは少ないのだけど。私達に勇者パーティークラスの天職が発現すると、母さんに子供が出来るまで、毎日関係を持った。母さんに子供が出来ると、違う女を次々と孕ましていった。そのせいで、マクレガー領には、処女の女性が少ない。クソオヤジが出来ると判断された女性は、まずクソオヤジが孕ましてから、その結果で嫁ぎ先が決まるのが、しきたりであった。
「あのクソオヤジを見ていると、結婚ってなんだって思えるな」
「あぁ、アニキ。その通りだ」
私達に彼女が出来ると、まずは味見と称して、クソオヤジが孕ます。天職に当たりが出なければ、息子との結婚を許すのだが、そんなことをして、私達と結婚を希望する女性はいない。しかし、この国の公爵であるクソオヤジに逆らえる者は王族だけである。ほとんど強制的に孕むまで関係は続く。もし天職で当たりが出ると、オヤジの愛人として、通称繁殖所という建物に幽閉されてしまう。本当に、クソくらいな世の中である。
そう言えば消された弟もいたな。その弟の母親は責任を取らされて、魔女として処刑されたっけ。確か、アリスの友人だった女性だったな。年に1週間、帰省を許される勇者パーティー予備軍の天職持ちの兄弟姉妹達。友人の出産に合わせて帰省をして、弟を抱き上げたアリス。だけど、翌日に弟は消え、その翌日には母親の女性が公開処刑されたそうだ。その時からだ、アリスとクソオヤジの仲がギクシャクしたのは。
「この国のシステムが変わらないと、ダメだろうな」
嘆く弟。だが、私もそう思う。この国の価値感がおかしいのだ。他の国では、そこまで天職にこだわらない。