地下1階の砂は除去出来た。2階から上の階層の砂は、1階にある防火扉が防いでいるので、1階になだれ込む心配は無い。上の階層は後回しである。それよりも、今は地下1階の食堂に興味がるのだ。
「おっと、自販機の中の物は食えるし、飲めるよ」
クリスの嬉しそうな声。自販機の内部の食料、飲料は、経年劣化防止システムで護られていた。そうなると、食料庫の中身も口に入れられるな。館内の電気も生きていた。永久発電システムがあるのだろう。きっと、地下階層はシェルターの役目があったのかもしれない。倉庫を見つけ、蛍光灯を差し替えると、食堂が明るくなった。ここに住むのはアリだな。
厨房のシステムキッチンも生きていた。鍋やフライヤーも使える。冷蔵庫の中身は当然のように腐っているけど…
「ユーマ、ここに住もうよ」
「大掃除が必要だぞ」
「だな」
大掃除をしながら、食料、備品のチェックをしていく。砂の津波で壊れた物も多いけど、食料庫、倉庫の中は無傷である。トイレも使えそうだ。そうなると、水のリサイクルシステムがあり、問題無く使えるかをチェックしないと。破損箇所があれば、本格使用前に、修理しておかないと壊れてしまう。
地下1階を大掃除しながら、探索していくと、大浴場、娯楽施設、スタッフの住居などが設置されていた。住むのに問題が無いかな。そうなると、地表部分の家は作業小屋にするかな、などと将来展望を思い描いていく。
その日の夕食は俺とクリス的には豪勢な食事であった。鯨のヤマト煮の缶詰を見つけたのだ。俺達の世界では高級食材である鯨。それが食えるのだよ。
「これは何だ?」
アリスに訊かれた。
「鯨の煮物だよ」
と、言っても分からないようだ。鯨はこの世界でもいるはずだが、沿岸部にはいないので、お目に掛かったことは無いのだろう。
「こんな生き物の肉だよ」
ハンディーなホワイトボードを見つけたので、そこに鯨の絵を描いてみせた。
「おい!それは…災害級の魔物、白鯨じゃないか…」
この世界では鯨は魔物なのか。
「これはなにかな?」
レットに訊かれた。
「それはコンビーフだよ」
この世界では見かけない缶詰の中身…
「これ、旨いなぁ~」
千切りにした野菜にマヨネーズ…マズい訳が無い。
「それはマヨネーズっていうソースだよ」
この世界にドレッシングは無い。有るのは肉汁を煮詰めたソースくらいである。塩すら知らなかったしなぁ。
◇
翌日、地下2階3階4階の吹き抜け部分の砂を除去して、内部の点検を始めた。永久発電システムは駆動していた。動力源は地熱のようだ。地上で何かがあっても、地熱であれば問題なく発電出来る。やはり、ここは有事の際のシェルターだったのだろう。
水のリサイクルシステムも問題が無さそうであるが、タンクに入っている水は腐っている。リサイクルシステムは、稼働して使用し続けないとサイクルが停止し、循環物が滞留し腐ってしまうのが難点である。俺とクリスで水を浄化し、排泄物であった物を炉の中へと強制転移させた。ここの排泄物リサイクルシステムは、発酵させてメタンガスと可燃物に分ける方式で、得られるメタンガスと可燃物は、火力発電の燃料にしているようだ。
「太陽光発電システムもあるぞ。これらを保守、運用すれば、生活レベルが上がるなぁ」
クリスの言葉に頷く。現状の俺達だけでは使い切れない発電量がある。しかし、この建物を維持する上で、欠かせない電力量なのだろう。ここを拠点にすることに決めた。問題は地表部分との行き来だ。転移持ちの俺とクリスはいいけど、アリスとレットが不便である。
「エレベーターを作ろうよ。地上の拠点との間にさ」
クリスの提案。悪く無い。この建物のエレベーターを上に拡張すれば良いはずだ。そうと決まれば、早速着手である。ここには硬度自慢の材料が揃っている。魔石の塊、ダイヤモンド、硬い木材など…俺とクリスのスキルで、エレベーターの拡張部分のパーツを作り、タマ、ポチ、ティア、苗子の力自慢が、設計図通りに組み上げてくれた。それにより、地表の家から廃墟の建物を行き来できるエレベーターが完成した。
「へぇ、これが廃墟かぁ?」
アリス、ティアが初めて、廃墟に入った。そこは廃墟と呼べる雰囲気では無かった。煌々と灯りがともされ、内部は明るい。まぁ、現状立ち入れるのは、1階と地下1階部分だけである。2階より上は砂に飲まれているし。
スタッフ用の住居を割り当てていく。リサイクルシステムが稼働し、大浴場もトイレも炊事場も使えるようになっている。ただ、排泄物のリサイクルシステムは変えた。俺達は燃料でなく土が欲しいので、ミー君まかせのリサイクルシステムにしてある。
「なんか、お城住まいよりも、豪華ですね」
勇者レットが呟いた。お城に住んだことがあるそうだ。
◇
翌日、地下5階に着手した。まず、砂を退かす作業である。次に、制御室の探索。どの部屋に誰がいて、どんな症状なのかをチェックする。すると…なんてことだ…仄と雫が…どうして…俺は、二人の眠る部屋へと急いだ。
スリープカプセルの中は液体で満たされていた。皮膚の劣化を防ぎ、体温をコントロールする為の物である。口と鼻はマスクで覆われている。酸素と二酸化炭素を行き来させ、栄養補給ガスを送り込む為のものである。完全に凍結させると髪の毛や皮膚の劣化が起きることが判り、液体方式に変えたと授業で学んだ。
「ユーマの知り合い?」
心配そうにクリス…ナルトが訊いて来た。
「あぁ、幼なじみだよ」
ここは、俺達のいた世界の未来だって証拠が、ここにはあった二人から「アマゾネル因子」を『強奪』して、ギルの元へ送った。クリスがアーククレリックの能力で、二人の身体を修復していく。