やっと、明日…彼女と一緒になれる…
高校時代につきあっていた彼女と、ようやくゴールインである。
「何時頃帰って来られるの?」
彼女からの連絡。
「今から用意をして、1時間後には出発出来る。だから、0時前には着けると思う」
彼女が住むエリアは山向こうの海側であり、僕の勤めているエリアは山を挟んで陸地側であった。3~4時間掛けて山を越えないと、彼女と会えない。
社員寮に住む僕は、残業をまかされ易い。みんな遠くからの出勤であるが、僕は会社の目の前の社員寮だったから。なので就職後、彼女と会えたのは、年数回程度である。その少ない出会い回数を生かし、愛をはぐくみ、僕と彼女はようやくゴールインを明日迎える。
高鳴る鼓動と期待…バイクの整備を済ませる。オフロードバイクなので、多少のショートカットもできる。少しでも早く会いたい。今回は半年ぶりだし。
バックパックに身分証と財布、後着替えをぶち込み。ヘルメットを装着して、バイクに跨がり、出発だ♪
山道まで30分ほど、市街地を走る。行き交う車、いつも見る風景だ。信号待ちがもどかしい以外は。はやる気持ちを落ち着ける。ここで、事故を起こしては何にもならないから。
山道へ入っていく。走り慣れた山道である。整備された路面。対向車は疎らである。夜走る者は少ないと思う。昼間なら絶景を見渡せるポイントがいくつかあるが、ナトリウム灯では、路面と対向車しか見えない。
どの位走ったであろうか?何かによりバイクが跳ねた。へ?無事着地をするも、路面に段差は無かった。あれ?何で跳ねたんだ?まぁ、先を急ごう。
後少しで頂上ってところで、今度は激しい目眩を感じた。目の前が揺らぐ。疲れか?バイクを路側帯に止め、少し休む。ナトリウム灯に照らされた景色は、揺らいではいない。疲れか…明日から10日くらい欠勤するので、少し無理な仕事のローテをしたから。
休憩がてらに彼女へ連絡をしてみた。
『お客様のお掛けになった番号は、電源が入っていない、電波の届かない場所にあります』
と、機械的な女性の声のアナウンスが流れた。あれ?新居で僕を待っている筈だけど…電池切れか?
試しに2、3回掛けるも、機械的な女性の声しか聞こえない。う~ん…考えても始まらない。先を急ごう…バイクに再度跨がり、頂上を目指した。
頂上に着くと、海側は真っ暗だった。大規模停電か?路側に立つナトリウム灯も点灯していない。後を見ると陸側は煌々灯っているんだけど…あぁ、そうなると連絡が取れないのは、アンテナ局が停電なのか…バイクを走らせる。バイクのヘッドライトで浮かぶ光景しか見えない。なんか真っ暗なトンネルを走行しているようだ。
カーブを曲がると、目の前がキラキラして輝いていた。バイクを止め、バイクを降り、懐中電灯を片手に、キラキラに近づく。水…なんで?風にそよぐ水面に、ライトの光で煌めきが発生しているようだ。路面は水没していた。どうして?
110番へ連絡してみた。しかし不通である。そうだ。大規模な停電でスマホが使えないのか…バイクに跨がり、頂上を目指した。陸側に行けば、連絡が出来るはずだから。
必死にバイクを走らせ、頂上に着いた。陸側も消灯している。真っ暗な世界に僕だけがいるような気分になる。どうして?
朝日がゆっくりと昇っていく。山の頂上から見る景色は、いつもとは違い変貌していた。海側は完全に水没していた。陸側は巨大な穴に成っている。なんで、こんなことに?頂上にある山小屋を見つけ、防災無線に耳を傾けた。
『昨晩の大地震により、海側は津波に飲み込まれました。陸側は大規模は地盤沈下により壊滅の模様です…繰り返します。昨晩の大地震により…』
耳を疑う僕。大地震?いつ有ったんだ?僕は揺れを…記憶を思い返してみた。バイクの異常な跳ね…縦揺れの影響か…その後の揺らめき…横揺れか…
彼女は…もう会えないのか…あまりのことで、涙すら出ない。
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あの大地震から3年が経った。海側は埋め立てによるかさ上げが為された。陸側は大きな湖が出来ている。地盤沈下により生じた大穴に、地下水やら雨水やらが溜まって出来たものだ。
花束とお線香を持ち、頂上へと向かう。そこには記念碑が建立されていた。あの地震により奪われてしまった魂の名簿が刻まれている。そこには、彼の名前は無い。
記念碑の脇に小さな小屋が保存されている。中には、彼のバイクが保存されていた。私はその前に花束とお線香を置いた。
大地震が起きた時、津波警報が防災無線で流れた。私と家族は避難をし、命は助かった。その時、迂闊にもスマホを家に忘れてきて仕舞った。彼に連絡が出来ない。不安と焦りが私を襲った。彼は地震に気づいているだろうか?
バイクだと地震に気づかないことがあるって、昔言っていたから。
避難所で見たテレビの映像。地震の爪痕…陸側の都市部は壊滅していた。地盤沈下により、クレーターに飲み込まれたような感じであった。
地震発生から1ヶ月後、山の山頂の山小屋で、餓死した死体が見付かった。小屋の脇にはバイクがあり、身分証明証から、彼だと判明した。
彼の持ち物…水没したスマホ…何故か、私のだった。彼はあの日、偶然流れ着いた私のスマホを手に入れていたようだ。そして、彼のメモ…
『まさか、ここに居るとは誰も予想していないのだろうか。腹が減った。喉もカラカラだ。でも、最後に君のスマホを拾えた。これからは一緒だ…』
と、書かれていた。
「彼は成仏してくれるかな?」
亭主がバイクを見つめて、私に言った。
「そうね。してくれないと、あっちの世界へ連れて行かれちゃうよ」
亭主とは避難所で出会い、愛をはぐくんだ。彼のことを忘れようと、亭主に愛を注ぎ込んだ。なのに…結婚を決めた日に、彼の持ち物のスマホが私の物であると判明したのだった。
「お願いだから、成仏してね♪あなたの生命保険で、亭主と幸せな生活が送れています。ありがとう…そして、さようなら…」
彼のバイクの前に、そのスマホをそっと置いた。