俺には義理の妹がいる。父さんが新しい母さんと結婚した際に、新しい母さんが連れて来た妹である。
「政文くん、この子をよろしくね」
って、新しい母さんに言われた。妹は母さんの後に隠れている。俺は、妹の傍に行き、彼女の視線と合うように、背中を丸めた。
「政文だ、よろしくな、彩…」
俺のことを驚いた顔で見つめる妹、彩…それが妹との初めての出会いである。
妹と俺の歳の差は10である。話が合わない…性別も違うし、年代も違うし…でも宿題は見てあげられた。勉強も教えてもあげられた。そして、恋愛相談も…
綾は病気だった。腎臓が2つ共ダメらしい。親の再婚前に、移植の適合者が見付かり、腎臓を移植して、普通の生活を送れるようになった。だけど、無理の出来ない身体である。
妹は後1回、移植が受けられる。なので、その時の為の手術費を貯める貯め、両親は頑張って稼いだ。その為、妹の面倒は俺が見て居た。朝早くから夜遅くまで働く両親に代わって、俺にできることを彼女にしてあげる。
妹が15歳になった時、妹に恋愛相談をされた。
「兄さん、私…好きな人が出来たんだよ…」
「そうか…良かったな」
「でも…どうやって告白しようかなって…」
妹の想い人は、彼女へ腎臓を1つ提供してくれた人だという。医者から、その人は若い男性だと情報をもらったそうだ。
「その人の肉体の一部が、私の中にあるんだよ。これって、私にとって愛おしいんだよ」
もらった腎臓のある方の片腹を撫でる妹。
「医者は、内臓提供者の名前や住所は教えてくれないと思う。それでも、その見たことの無い男性を好きなのか?」
「うん♪」
そうか…力になってあげたいけど、個人情報の扱いは慎重だから。増して、腎臓の提供の場合、リペアを欲しい患者サイドが、ドナーを事故に見せかけて…って、小説もあるくらいなので、医者は慎重に個人情報を扱っているはずだ。
どうしてあげれば良いのかな?
そんな時…妹は入院した。移植した腎臓の機能が低下してきたようだ。無理をさせたつもりは無いけど、何かがストレスになり、彼女の内臓を苦しめたようだ。
医者に呼び出された両親。その日、俺の部屋に両親がやって来た。大事なお願いがあると言う…
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私には、義理の兄さんがいた。入退院を繰り返した私に、ようやくドナーの方が見付かり、腎臓を1つ頂いて退院した直後、母さんが再婚したと言う。母さんに連れられて行った新しい家…そこに新しい父さんと兄さんがいた。
「政文くん、この子をよろしくね」
母さんが兄さんに言った。頷く兄さん…兄さんは電動車椅子を上手に操作をして、私に近づき、背中を丸めて、私の視線に合わせてくれた。今、考えると、あの体勢は痛かっただろうに…でも兄さんは私に笑顔を向けて、
「政文だ、よろしくな、彩…」
初めて足の無い人を間近で見た私は、驚いて固まってしまった。そんな私に配慮してか、兄さんは、優しく頭を撫でてくれた。これが、兄さんとの初めてのスキンシップだと思っていた。
兄さんとの歳の差は10もある。宿題は勿論、勉強のわからない処まで、丁寧に教えてくれた。そして、時には恋愛相談にも…
兄さんも病気らしい。詳しい病名は知らないけど。だけど、私を元気付けてくれた。私の為に医療費を稼ぎに出ている両親に代わって、家事などもこなしてくれた。あの身体で…
私が、15歳に成ったときに、兄さんに相談をした。私に内臓をくれた方を好きになってしまったのだ。いや、正確には違うか、彼の内臓を愛おしく思えて来たのだ。愛おしい内臓の持ち主…きっと愛おしい方なのだろう。
「兄さん、私…好きな人が出来たんだよ…」
「そうか…良かったな」
「でも…どうやって告白しようかなって…」
「うん?手紙でいいんじゃないのか?彩は無理出来ない身体なんだから」
そうだね。疲れは敵である。本来2つ有る物が1つしか無い私。そしても彼もまた1つのはずだから。意を決して、手紙を書き始めた。書き上げた手紙を主治医へ託した。
でも、その日、病院での検査結果を受けて、即入院した。
今度も、私へ腎臓を提供してくれた方が、再度提供してくれたそうだ。その時は、彼にお礼を言わないといけないとか、手紙の返事が待ち遠しいとか思っていたのだが、その男性から私は総ての腎臓を奪ってしまったのだ。それがもたらす結末は…そこに思い至ったのは、退院してからだった。
退院をして、兄さんの部屋へ行くと…兄さんの乗っていない電動車椅子がぽつんと置かれていた。机の上にには…私の書いたラブレターが…なんで、ここに?
「ねえ、兄さんは?」
振り返って両親に訊いた。
「アイツの余命は区切られていた。だから、彩…お前に命のリレーをしたんだよ。最初は彩と知らないで、2度目は医者から渡されたあの手紙を見て、バトンを渡す相手が彩だと知ったんだ」
頭の中がマッしろに成っていく。こんな偶然って有るんだ…私の想い人は、いつも傍で私を支えてくれていたんだ…
「私も、彩の母さんも知らなかったんだ。政文のバトンが彩に渡っていたって…」
そうか…再婚する前だから、他人ゆえ、情報は開示されていなかったんだ…
「ねぇ、兄さんは?」
「政文くんの腎臓は2つ共、彩の中にあるんだよ。わかるでしょ?それがどういうことか…」
母さんは泣き崩れた。父さんは男泣きをしていた。私は呆然と兄さんの車椅子を見つめた。