---昌明---
金曜日、上司に出張を命じられた。
「明日の夜は、10年ぶりのクラス会なんですけど…」
半年前から楽しみにしていたイベントである。
「大丈夫だ。今日の最終に乗って、明日一番で、相手方に資料を渡してくれば、良いんだから」
宅急便で良く無いか?
「これ、チケットだ。もう買ってあるんだよ」
チケットを渡された。片道切符なんだけど…
「帰りの分は?」
「あちらの駅で買えばよい」
現金を渡された。
「しながわ駅16番線0時12分発だからな」
「あの駅って、15番線までしか無いのでは?」
「新しく出来たんだよ。15番線のホームの階段裏に、16番線へ降りるエレベータがある。それで、行くんだ」
上司の言葉をメモに書いていく。
「で、これを相手方に渡すんだ」
封がされた分厚い封筒を渡された。大切にカバンへ詰め込んだ。
「相手の家へ行く地図だ」
地図を手渡された。駅から一本道のようで、その道の突き当たりにあるようだ。
「この資料を渡すだけで良いんですね?」
「そうだ。簡単な出張だろ?」
このとき、何故最終列車なのかって、疑問を持たなかった俺。これが重要なことだったのに…あの駅から出る列車は、日帰り可能な地域までしか行かない。まして、本数もそこそこある列車ばかりなので、安心しきってしまった。これが敗因であった。
残業を終え、彼女である暁美へメールを出した。
『最終列車で出張だよ。朝一で仕事が終わるから、クラス会には間に合うよ♪』
っと。ついでに、チケットをカメラで撮り、その画像を添付した。
『しながわ~にくのし 16番ホーム0:12発』
変わった駅名である。にくのし…どこに出来た新駅なのだろうか?
---暁美---
0時近くに、彼氏である昌明からメールが届いた。これから出張?有り得ないだろ?もう0時だよ!明日はクラス会なのに…アイツの会社は大丈夫か?
画像が添付されている。見てみると、列車のチケットのようだ。
『しながわ~にくのし 16番ホーム0:12発』
って…アノ駅って、15番ホームしか無かったような。ネットで調べて見ると、やはり15番までしか無い。これは、何かのジョークか?昌明へ連絡をしてみるが、電波が届かない場所のようだ。時計を見ると、すでに0時15分を過ぎていた。
「にくのし」って駅を調べて見るが、こんな駅はないようだ。どういうことだ?
朝、目が覚めると、PCの前で目が醒めた。検索をしていて、寝てしまったようだ。ふと画面を見ると…え?どういうこと?
『しながわ駅16番ホール0:12発 都市伝説で、この列車に乗ると、帰れないらしい』
と表示されていた。帰れない?どうして?なんで?
今日のクラス会で、昌明との婚約を発表することにしていたのに…
---昌明---
6時に到着…片道6時間のようだ。駅は無人駅で、帰りの切符が買えない。どうするんだ?時刻表をみると、1日2往復で、この駅からは6時12分と18時12分の二本しかない。って、ことは…しながわ駅に着けるのは0時くらいでは無いか…クラス会は参加出来ない。嵌められた…
駅を出ると、お店も何も無い山道が広がっていた。確かに一本道である。ここを昇れば良いんだ。だけど、険しい山道、ビジネスシューズではつらい。なんで、上司は言ってくれなかったんだ?これ、登山靴が必要だろ?
昇り始めて4時間。まだ、着かない。後2時間で着かないと、帰りの列車は明日の朝に成ってしまう。あせる俺。スマホは、あの駅からずっと圏外だし…鬱蒼と生える木々、昼間なのに薄暗い。でも道は一本道なので、外れていない。昇り始めて6時間…やっと、建物が見えて来た。大きなお屋敷である。
門は閉ざされていた。呼び鈴が無い。大声で呼んだり、門を叩いたり…誰かでて来てくれないかな?暫くすると門が開いた。
「すみません。世渡物産の者ですが、ご主人様に、これをお渡しに参りました」
と、門の処にいた者に手渡すとしたが、受け取らずに、屋敷へと案内された。そして、客間らしき場所に通され、主人が来るのを待つ。
どのくらい経っただろうか。時間の観念が狂ってきた頃、主人らしき者が、来てくれた。
「遠い処…すまない」
俺は上司から預かった封筒を手渡した。中身に目を通す主人。
「なるほど…で、お前は、何か予定があったのか?」
「えぇ、今夜のクラス会で、婚約発表しようとしていたのですが…、無理ですね」
と、正直に伝えた。
「そうか…それは、すまぬことをしたな」
「あの駅、無人なのですが、帰りの切符はどう買えば良いのですか?」
怪訝な顔付きの主人。
「帰るのか?」
え?帰れないの?なんで?
「片道切符だったろう?」
「えぇ、こちらの駅で、帰りの切符は買えと上司に言われました」
「言われたのか…そうか…なるほど…お前は騙されたのだ」
騙された?
「あの会社の会長の孫、先程、婚約を発表したぞ。相手の名前は小向暁美だ」
何?彼女だ…どうして?なんで?今夜、俺との…
「お前がジャマだったのだよ。だから、ここへ寄こした」
厄介払い…
「そうか…騙されたのか…それは、それで罪だ。騙した方も、騙された方もな」
ケンカ両成敗か?そんな…
---暁美---
大企業の社長夫人になった。彼が消えたあの日以来…一緒に、彼を探してくれた瀬戸君と一緒になったのだ。彼の失踪人宣告を受けて…正式に籍を入れた。
しかし、優しい旦那様の瀬戸君が、彼を失踪させた首謀者だった。結婚式の日に、彼と彼の祖父の会話を聞いてしまった。
「これで念願が叶ったな。おめでとう」
「お祖父様のお陰です。目の上のたんこぶのアイツを消してくれださり、ありがとうございました」
「ふふふ♪死体が無ければ、警察は事件とは思わない。単なる自己都合の失踪だからな」
「ええ♪」
楽しそうに話す二人…だけど、私には、いかなる時も、優しく、親身に接してくれた。彼は今どこにいるのだろうか?
---昌明---
ここへ来てどの位経ったのだろうか?漸く、奉公の年季が明ける。あの書類の束は、俺の奉公人としての申請身上書であったそうだ。奉公人になるには天涯孤独であること、財産がないこと、などなどの条件があるそうで、俺はそれらの条件をクリアしたそうだ。
「このまま、ここに居られるが、どうする?」
「彼女に逢いたいです。あれから、どの位経ったかわかりませんが…」
「真面目に年季を迎えたお前に褒美を出す。転生をして新たな人生を歩む。あの時に帰り、人生の続きをする。時間の流れを受け入れ、残りの人生を受け入れる。この3つから選べ」
「彼女は今、幸せなのでしょうか?」
「子宝に恵まれ、孫に恵まれておる」
孫?もう、そんなに時は流れたのか…今更会っても、彼女が困惑するだけか…
「ご主人様、ここに置いて下さい。今更、帰っても、幸せな彼女を惑わすだけです」
「いいのか?」
「過ぎた時は、戻りません。ここで、死ぬまで働かせて下さい。無心で働きたいです」
「そうか…わかった。では、褒美を受け取ってくれ」
襖が開き、一人の女性が入って来た。暁美…あの時の姿の暁美だ。
「天寿を全うした魂だ。お前と共に、過ごしたいそうだ」
「昌明…やっと逢えた…」
暁美が俺に抱きついた。
「ここでは、死も加齢も無い。二人で心と時の隙間を埋めるが良い」
そういうと、俺のご主人様…閻魔大王が席を外してくれた。粋な計らいである。