女オリ主がIS学園であんなことやこんなことをするお話 作:奈麻
どうぞよろしくお願いします。
沈む。
さらに深く、沈む。
ごぼり、と空気の塊が口から出ては登っていった。
光が遠く感じる。そして体にまとわりつくそれ。
いやだ。
こわい。
死にたくない。
誰か、誰でもいい、タスケテ……
強く、強く、その恐怖心が少女の心に刻まれるのは、仕方のないことだったのだろう。
ーーーー9歳の少女が、奇跡的に救助されました。繰り返しますーー
とある海難事故の記録である。
「朔姉、千冬姉呼んできてくれる?」
手際よく料理を盛り付けていく少年に頼まれ、少女は姉を呼びに行った。
「わかった。千冬さん、ご飯だよ」
「ああ、今行く」
そうして並ぶ、食卓。
普通の家庭の食卓だった。並ぶ人間の関係性を除けば。
「朔弥、千冬さん、じゃなくて姉と呼んでいいんだぞ」
「あ、えっと…、うん。千冬、姉さん」
照れて俯く少女の頭を、千冬は優しく撫でた。
「おれのことも、一夏でいいんだぞ!」
「うん、一夏」
微笑んで頷き、食事を開始する。確かにここは暖かい場所だった。
1年前の客船の沈没という、かつてない悲劇の中、唯一の生存者であった少女は織斑家に引き取られた。
家主たる織斑千冬から、どうしても、という要望があったためだ。
「朔弥…私がわかるか?」
病院で治療を受けていた少女の目は、濁った魚のようだった。
「ちふ、ゆ、さん…」
「ああ」
ほっと安堵したのも束の間、次に飛び出した言葉に、千冬は言葉を窮した。
「おかあさんは…?」
「…っ!!」
まだ、説明がされていない。その説明を買って出た上での、身元引受けなのだ。
「朔弥…。お前の母親は、亡くなった」
「亡く、な……」
9歳の少女には酷な話だろう。だが、この先どうしても知ることになってしまうのだ。千冬はできるだけ感情を抑えて告げた。
「船の事故で、お前を助ける事は出来た。だが。だが…明弥さんを助けることができなかったんだ」
「おかあ、さん……」
一筋の涙が少女の目から流れ落ちる。
千冬は少女を、朔弥を抱きしめた。
「急な話だとは思うが、朔弥。うちに来ないか」
「千冬さんの、おうち?」
「ああ、散々、返しきれないほどの愛情を私たちは明弥さんと朔弥から受けた。その恩返しをさせてくれ」
「わたし、何もしてない」
「そんな事はない。いつも一夏の面倒を見ていてくれただろう?」
「そんな…」
「頼む。今度は私達がお前を助けさせてくれ」
親がいなくなった後、そのままであれば織斑姉弟は路頭に迷っていただろう。
それを救ったのが、隣に住んでいた小菅明弥、朔弥母娘だったのだ。
千冬が高校を卒業できるようになるまで援助をし、バイト中の一夏の面倒を見、織斑姉弟にとって、小菅母娘は恩人だった。
こくっ、と小さく頷いて了承の意を示した朔弥に、千冬は心の底から安堵した。
「朔姉、おふろ入ったよ。」
「ああ、入ってこい」
「えっと、じゃあお先に」
どうしてか、脚が重い。
服を脱いで、洗濯機に入れて、浴室へ……
視界に入ったそれに、朔弥の頭の中でフラッシュバックした。
「いやぁああっ!!!!」
自身の身体の周りにまとわりつく液体。
声を出そうにも締め付けられるような喉。
身体の反応が、記憶が、
『水』というものを恐怖していた。
こわい。
コワイ。
どうしても太刀打ちできない恐怖、そこから逃れようとする人間が取る行動として、篭ることだった。
洗面器を放り出し、洗い場の隅で蹲って過呼吸で必死に絶える。
悲鳴を聞いて駆けつけた千冬が見たものは、そんな朔弥状態だった。