第13話(壱) サービスはトイレの中で
キュッ、キュッ。
「あれ?」
朝食を済ませて歯を磨こうとするも、肝心の水が出てこない。
「……?」
状況が分からず1分間ほど固まっていたものの、段々と現実が見えてくる。
――そうか、そういえば!
ふっと昨晩の買い物帰りに目についた、郵便受け横の掲示板にあった貼り紙を思い出す。そこには、ゴシック体の赤字でこんなことが書かれていたのである。「明日、水道管の点検作業に伴い10時より16時まで断水します」と。
「あ~~……」
時刻は現在10時半、そりゃあ水など出やしない。本来なら今日は夏休みも残りわずかということで、1日中家でダラダラと過ごしたかったのだが、そういうわけにもいかないらしい。だって、水が出ないのならトイレも流せないし手も洗えないし、衛生的に良くないじゃないか。
「……」
そういうことで、あまり乗り気ではなかったものの、僕は何となく外に出て断水が終わるまで漠然と時間を潰すことにした。歯が磨けなかったので、ミント味の飴を舐める形で口臭対策を施して。
外は、白い雲が欠片も見当たらないほどに青空が広がっていて、太陽が容赦なく地上を照らしつけていた。
「あ、暑い」
どうせなら、学校の始まる9月の平日にでもやればいいものを、何故こんな日に実施してしまうのか。大人の事情と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、時には子供の事情にも配慮してほしいものである。
――とりあえず、涼しいところにでも行くか……
いつまでも外の日陰で我慢していても熱気だけは避けられそうにないので、僕は手近な空調の避けられる場所を目指して足を進めることにした。
「いらっしゃいませー」
中に入ると同時に、心地良い冷気が火照った体を包み込む。結局、僕は涼を取るべく近所のスーパー『セントラル・フーズ』へと入店した。ここには食料の買い出しでちょくちょく寄ってはいるものの、相変わらず老いた女性と中年男性の店員ばかりの寂れた店だった。
「あんたー知っちょるかね? この前、鮮魚部のお兄ちゃんが夜中に酔っぱらって、フルチンで駅前歩きよったんと」
「またやったんかねあのチンチクリンが。はぁもうあんとな奴、袋叩きにしてからチンポコもぎ取っちゃりゃあええ」
「ほいじゃがもぎ取る言うても、あんな臭い奴のチンポコなんか誰もいりゃあせんけえ、廃棄処分にするしかないじゃろうね」
奇妙な話で盛り上がりながら、客も荷出しもそっちのけで皺(しわ)がれた顔を歪めながら、中年女性たちが不細工に笑い合う。この店の鮮魚部の男の顔は知ってはいたがなるほど、そんなことを何度もやらかすような人だったりするんだな。
それはさて置き、この店はこんな人たちばかりでも潰れずに、十数年も経営が成り立っているというのだから面白いものである。
「ところで里美ちゃんはまだ品出しを手伝いよるんかいね?」
「ああ、まだやりよるみたいじゃね。菓子売り場の子が新人じゃけえ、誰か応援入らんといけんのんが面倒臭いわいね」
「ほいじゃが、あの子も本店から左遷(させん)みたいな扱いでこっちに回されてよう頑張っちょるいね」
里美ちゃん。新人の菓子売り場の子。僕の記憶が正しければ、里美ちゃんなんて子に心当たりはないし、菓子売り場は食品部門担当のオバサンが掛け持ちで担当していたはずだ。一体いつの間に、そんな香ばしいオカズ……もとい、人材を手に入れたというのか。
「……」
僕は事の真偽を確かめるべく、自然体を装って菓子売り場の陳列へと足を運ぶ。
「あ」
そこには、この店では普段なら到底見ることの出来ないような、可愛らしい顔つきをした女の子が二人いた。
「毎日こんなに出すもんがあって大変じゃろー」
「そうですねー。でも、前働きよったところよりは少ないけえ多少は楽だと思います」
他愛のない会話をしながら、陳列ケースの最下段にスナック菓子をドカドカと置いていく。
「でもええいね。ここで働きよったら夏でも暑い思いせんでもええんじゃけえ」
「そうですねーー」
積極的に話しかけていた方の女の子が立ち上がって、反対側の棚に100円菓子を並べ出す。彼女の左胸に付いていた名札には、ハッキリと「中山里美」という名前が記されていた。
――そうか、この子がさっきオバサンの言っていた里美ちゃんなんだな。
パッチリとした瞳。僕よりやや低めの背丈。やや細めの体つきで胸はそこそこながらも、スカート越しに分かる大き目のお尻。まさに上玉と呼ぶに相応しい女の子で、間違いなくオカズに使える逸材である。
「こっちはうちが出しちょくけえ、瀬野さんはそっちの棚を全部頼むね」
「はい」
瀬野さんと呼ばれた女の子が立ち上がって、最上段に10円菓子をチマチマと置き始める。僕は横目でチラリと左胸に付いている彼女の名札を覗き見てやった。そこにはこちらもハッキリと「瀬野明美」という名前が記されていた。
――なるほど、セノ・アケミちゃんね。
つぶらな瞳。僕とほぼ変わらない背丈。少しふっくらめの体型に大きな胸とセクシーという言葉がぴったりのデカ尻。この子のお尻になら、顔面椅子になって激しくプレスされても一向に構わない、そう思えるほどの風貌である。
――しばらくは、買い出しをこの店だけにして他店は行かなくてもいいかもな……
もちろん、この二人がいる間という絶対条件付きだけど。僕は来店ついでにお茶の一本でも買っておこうという気持ちさえ忘れて、彼女たちの作業姿に見入っていた――やがて。
「ああ、中山さん。11番に行ってくるけえ少しこっちをお願いします」
「分かった」
謎の言葉『11番』というキーワードを残して、瀬野さんがバックヤードの奥へと消えた。
――11番って業務用語だったりするんだろうか。これが何かの隠語とするならば、あまり表立って口に出せないような場所に行くということか……
「!」
その時、僕は彼女の向かった先をハッキリと理解してその後を追った。間違いない、それは万物共通の生理現象である。
「やっぱり」
予想的中。やはり瀬野さんはバックヤードを抜けた、目と鼻の先にある屋外のトイレへと入って行った。ここのトイレは男女共用で、小便器が一つと和式便所が二つ。ついでに言うなら、個室と個室の間の隙間は大きく、床に顔をつければ簡単に向こうが見えるそんな造り。
「……!」
僕は迷うことなくトイレに入ると、瀬野さんが奥の個室に入ったタイミングを見計らって手前の個室に入り、少し汚い床に顔を擦りつけその先の光景を覗き見た。
――こ、これは……!
そこには、僕の見立て通りの大きな丸いお尻がプリンと和式便器の上に浮かんでいた。言うまでもなく瀬野さんのお尻である。それを象徴するかのように、お尻の両脇に見える跨っている靴の踵(かかと)部分に直筆で書いてある「セノ」の2文字。靴に自分の名前を書くのは決して珍しいことではないものの、トイレで見るそれには一味違うエロスが込められている。だが、それ以上に僕のペニスを刺激する要因は。
――赤い、赤いよ。お尻が赤くなってるよ!
下の隙間から見る瀬野さんのお尻は、まるで腫れているかのように肛門の周りを赤に染めていた。察するに、これは「あの日」だったということか。
プシャァァァァァァ…………
程なくして瀬野さんが放尿を開始する。その滝のような勢いから、彼女が相当にためこんでいたことは容易に想像がつく。だけど、それはほんの序幕に過ぎなかった。
「はぁ~~」
放尿を終わらせても、まだお尻やお尻の毛からポタポタと垂れ落ちている尿の雫もそのままに、瀬野さんが大きく息を吐く。すると、今度は徐(おもむろ)に肛門を広げて脱糞を始めたのである。
――……え?
思わず声を出しそうになって、あわてて口をおさえる。なんと、彼女の肛門から緑色のウンチが姿を見せたのである。
ムリムリムリムリムリッ!
――何これ、何だこれ……って、彼女は異星人? エイリアン? いや、待て、確か……
記憶の糸を辿って古い知識を呼び覚ます。そういえば前に、何かの本(漫画)で読んだ覚えがある。「野菜ばっかり食っとるけえ、どこの家も緑色のウンコばっかりなんよ」と。そう考えると、瀬野さんのお尻からひり出されている米とは異なる緑色の異物にも納得がいく。つまり彼女、健康志向かベジタリアンか、単なるただの物月もとい、物好きか。
いずれにせよ、貴重な女の子の脱糞現場に立ち会っているからには一部始終を拝みたい。
ムリムリ、メリッ……ブプッ!!
僕はそのまま目を逸らすことなく、瀬野さんの『グリーン・ウンチ』をひり出す排便姿を心行くまで堪能した。もちろん、物珍しさも相まってペニスは限界まで膨れ上がっていた。
カランカラン……クチュクチュクチュ!! カラカラン、クチュクチュッ!!
排便を済ませながらも、やや乱暴にペーパーを手繰りながらお尻や局部を拭く姿が、これまた官能的だった。
――すごいよ瀬野さん、最高だよセントラル・フーズ!
確かにこの店は、価格面でも衛生面でも接客面でも普通のスーパーと比べると見劣りのする3流スーパーなのかもしれない。だけどこの時この瞬間、僕の中でセントラル・フーズはサービス面では間違いなくウ〇ルマートさえも超える模範店へと昇華した。それもこれも、目の前のトイレでちょっと不思議で艶めかしい排泄姿を披露している瀬野さんのおかげである。
ブブッ……クチュッ! ……ザザ~ッ!!
最後に一つ放屁をした後で軽くお尻を拭くと瀬野さんは立ち上がり、そのまま流してトイレを後にした。僕はその後でただひたすらペニスをしごき、不衛生な小規模スーパーのトイレの中で絶頂とともに射精したのであった。
事を済ませた後でペットボトルの緑茶を買って、何事もなかったかのように店を出る。直前にいつの間にやらレジに戻り、サッカー台を拭いていた里美ちゃんにニヤニヤと生温かい視線を送られていた気がしないでもないが、特に気にはかけなかった。どうせまた何度となくこの店には寄るのだろうから、その時にその笑顔の意味も分かるというものだろう。
「……」
時刻は正午の少し前、断水時間が終わるにはまだ少なくとも4時間はある。
――たまには普通の本でも読むか。
僕は半分ほどお茶を飲みきると、暇人の最大の味方である市の図書館へと向かって、断水が終わるまでの時間をまったりとやり過ごしたのであった。脳裏に瀬野さんとの甘美な時間を焼き付けて。
第13話(弐) ふみひでのトイレ改革案
思わぬ人と偶然再会したのは2学期初日の帰り道だった。
「確か君、健二といったよね。待っていたよ」
「あの、どうしてあなたがここに?」
僕の記憶が正しければ、目の前の並木道にたたずむ耽美な茶髪の男性は、成人向け同人作家として不動の地位を築いている『ゆめみふみひで』で間違いないはずだ。いや、僕の記憶があやふやで不確かなものであったとしても、彼がふみひでであるという事実は揺るぎないだろう。
「久しぶりの学校はどうだったかね?」
「いや、どうもこうも何となく来てみた、って言うか」
クラスメートたちの胡散臭い顔と、絡んでこなくても鬱陶しいバカ騒ぎを繰り広げる同級生連中と、始業式で無駄に長話を披露する校長先生。唯一のオアシスは担任の香子先生の優しい笑顔と魅力的なボディラインだけで、それが目当てで学校に来ているという辺りは1学期と何ら変わりない。まぁ可愛いクラスメートが一人いて、そっちが気になったりもするけどそういうことではなく。
「いやいや、僕のことはさて置きどうしてあなたがここにいるんですか」
「ふむ、どうもこうも今俺たちのアパートはちょっとした問題を抱えていてね、君の意見も参考にして解決に取り組んでみようと思うんだ」
「問題って……望気荘(のぞけそう)で何かあったんですか」
「百聞は一見にしかずだ。君もスカトロジストの端くれなら、こういった時に手を貸すのが筋というものだろう」
「は、はい」
ふみひでのちょっと変わった論理に乗せられ、気がつけばあっさり僕は協力要請を受諾していた。高圧的に押してくるわけでもなく、同情を引くような素振りで泣き落としてくるわけでもない、そんな言い回しにどこか心地良い感情を抱いてしまったのかもしれない。ともあれ、こうして僕はふみひでに連れられて、人生で2度目の望気荘を堪能することになったのである。
「なんだてめぇ、また来やがったのかよ」
望気荘に着いた僕を出迎えたのは、相変わらず口汚く睨み付けてくる残念系美人の巻上涼夏さんだった。
「どうせまたチンポムックリさせてやがんだろ?」
「君がお尻を晒して野糞でもしてなけりゃ、こんな場面で勃たせたりなんてしないよ」
「何だぁ? またあたしのクソしてるところが見たいってーのかよっ」
巻上さんが腕を使って僕の首に絡みついてくる。
「やめないか涼姫、彼は大事な俺の客人だ」
「……けっ」
ふみひでに言われた巻上さんはあっさりと僕を離してくれた。
「……」
なるほど、彼女はここでは涼姫なんてあだ名で呼ばれていたりするのか。
「じゃれ合いたいなら後で裸を擦りつけ合うぐらいじゃれさせてやるから、今は俺の後について来てくれ」
言われるがまま、僕はふみひでに付き添い望気荘へと上がる。
「わっ、こりゃまた」
初めて上がった望気荘の内部は、年季うんぬん以前にまさしくあばら家だった。
「驚いただろう。マイナージャンルの漫画家の根城なんて、大概こんなもんなんだよ」
所々抜け落ちている床。洗剤で拭いても落ちそうにないぐらいのシミがついている壁。木目が顔のように見えてしまう気味の悪い天井。ふみひでのようなカリスマでもこんな場所に住まないと生計が立てられないなんて、漫画家とは何とハードな職業なのだろう。
「外から見ての通り、3階建てで中はどこも似たり寄ったりの構造だ。2階と3階はちょくちょく住人が入れ替わるが、1階は俺を含めて築当初から住む牢名主、といったところかな」
「は、はぁ」
牢名主とかそういったものは別にして、やはりここは現代のト〇ワ荘だったりするのだろうか。何にしても、ふみひでのような洗練されたビジュアルの男性とこの老朽化も甚だしいアパートの不釣り合いぶりが妙に面白い。
「だが君を呼んだのはこんなものを見せるためではない、こっちだ」
手招きされて辿り着いたのはトイレの入り口だった。
「見ての通りここが手洗い場だ。望気荘のトイレはここにしかないから覚えておいてくれ」
「案内してくれたのは嬉しいんですが、男だらけのアパートのトイレなんて正直どうでもいいですよ」
「涼姫用の女子トイレも備わっている」
「是非とも中の設備を拝見させて下さい」
気がつけば、僕は馴れ馴れしくもふみひでの肩に手を添えてそんなことをのたまっていた。
「その返事を待っていた。だがまずは男子トイレからだ」
「はい」
ドアを開けて中に入ると最初に左側の男子トイレに連れられる。
「えっ!? これがこのアパートのトイレなんですか!?」
視界に飛び込んできた望気荘の男子トイレは、大富豪の邸宅のトイレと見まごう程のきらびやかな世界だった。
「驚くことはない。これは純金ではないただの金メッキだ」
「いや、それでも……」
床も壁も天井までもが金ピカの、まばゆい輝きを放つ外観。そんな中でも燦然(さんぜん)と輝く、エメラルドグリーンカラーの小便器が三つ。そして個室は、これまたエメラルドグリーンの洋式便器がご丁寧に温水便座仕様で二つ。
「元々ここは、エロの中でもコアなジャンルであるスカトロ漫画のアンソロジーを書く作家陣のために編集部が借りてくれた、取り壊し寸前の共同住宅だったりするんだ」
「共同住宅……ですか」
ミントの香りの芳香剤に鼻腔をくすぐられながら、ふみひでの説明に耳を傾ける。
「入居当時に編集長から言われたよ。我々の予算ではこれが限界だ、とね」
ふみひでが大きく息を吐いて洋式便器に腰掛ける。
「だけどその後でこうも言われたのさ。せめてトイレだけは最高級の物を用意してある、だから細かいことには目をつぶって漫画を描き続けてくれ、ってな」
「えっと、それってトイレに使ったお金を内装のリフォーム代に充てた方が良かったってオチじゃ……」
「ストップ! それは言いっこなしだぜ、坊や」
ふみひでが手で遮るジェスチャーをしながらスッと立ち上がる。
「これはあくまで参考に見せただけの、聞かせたまでの話であって今回のメインはこっちだ、女子トイレ」
「はい!」
これまで以上に力強い返事で応じて、ふみひでの後に続く。言うまでもなく今度は入り口右側、お待ちかねの女子トイレの閲覧だ。
「とくと見てくれ。昔から利用者は涼姫だけだが、これが望気荘の女子トイレだ」
「あ~~……」
そこに映る世界は、先ほどの空間と隣り合わせ出ることが嘘のような荒んだ世界だった。床も壁も天井も、随所が剥がれ落ちている錆びれたピンク色の外観。所々に散乱している、ちぎれたトイレットペーパーのカスたち。そして、その奥に不気味に構えるドアのない和式便所が何故か二つ。
「つまりだ、男子トイレに改装の予算を注ぎ込んでいるうちに、女子トイレにかける費用がなくなって旧態依然のまま、というかな」
「旧態依然……」
アンモニア臭と便臭の入り混じった臭いに鼻腔を刺激されながら、ふみひでの説明に耳を傾ける。
「困ったことに小さい便槽に反して、涼姫の奴がたびたびデカいウンコを気張るから何度となくトイレが詰まって業者を呼ばなくちゃならないんだ」
「それは大便もとい、大変な話ですね」
それで彼女は前に駐輪場の脇で野糞をしていたのか。
「それで毎度毎度ウンコの後始末をさせられて業者はカンカン、かといって野糞をさせれば悪臭が酷くて近所の奴らが怒髪天、といった具合で色々と困っているんだ」
「?」
ガッ。
そこで突如ふみひでが両肩をつかんで僕の目を見据えてくる。
「ここからが本題だ。健二君、こんな時に君ならどうする?どうやってこのトイレットプロブレムを解決させるかね?」
「ど、どうするって……」
目を丸くさせながらも感覚を研ぎ澄ませ、僕はふみひでの言葉の意味を理解しながら思考の糸を張る。
「本来なら他の作家陣に聞くべきところだったのだが、生憎みんな食をテーマにしたアンソロジーの執筆で忙しいみたいだから声をかけたくないんだ」
「食をテーマにしたアンソロジーですか」
何を食べるのかは知らないが、少なくともふみひでは不参加ということか。
「ついでに言うと、もう一人ほど手の空いた作家がいたんだが、どこぞの部の合宿で出払っていて意見を聞けそうな相手が君しか思い浮かばなかったんだ」
「それは光栄ですね。消去法とはいえ、ふみひでさんが僕に相談事を持ち掛けてくるなんて」
僕は思ったままの気持ちをふみひでに告げた。もちろん、トイレを巡るトラブルの解決案はもう出来上がっていた。
「僕なら迷わず女子トイレをリフォームします。衛生面で充実させながらも、なおかつ自分好みの形にして」
「なるほど、それは良い解答だ。だが、その費用は誰が払うのかね?」
あくまでもシラを切るかのようなふみひでの物言いに、僕は横目を向ける。
「ふみひでさん。あなた、最初からリフォームをするつもりなのに、ワザと僕を試して楽しんでたりするんでしょう?」
そして、膨らみのある左胸のポケットめがけて左の人差し指を突き付けてやったのである。
「その膨らみ、間違いなく札束ですね。どうせ改修工事のためのお金を忍ばせてるってオチでしょう!」
「いや、これは豊胸手術の一環で片方の胸を大きくさせてだな……」
「ふみひでさんっ!」
「……」
僕の一押しにふみひでは一旦黙りこくってしまう――そして。
「ははは、ご名答だ。君の指摘通りここにおわすは現金150万円の札束というオチさ、それ!」
ふみひでが惜しげもなく大金を束ねた札束を取り出して、ビラビラとアピールする。
「この夏に同人誌を東京に売りに出かけたら、思いの外ほか大盛況でね。気がつけば、在庫が空になった代わりにこんな大金が手に入ってしまったのだよ」
東京に同人誌を売りに行ったってアレか、あの一大イベントのことか。
「そこで俺は考えた。せっかくこんな大金があるのだから、人のために役立てる形で全額使ってみようとね」
「そういうことでしたか」
それが涼姫、つまり巻上さんのための女子トイレ改修というわけか。
「ついでに言わせてもらうと、今ちょうど新作のネタに行き詰まっていたんで君の相手でもして気分転換をしたかった、というのが正直なところかな」
あっけらかんと悪意のない端正な顔でそんなことを言われると、怒るどころかもはや突っ込む気にもなれない。このつかみどころの無さというか不思議キャラオーラは、流石はステレオタイプの魚座男子といったところか。だが今は、星座や便座の話をしている場合ではなく。
「ふみひでさん。リフォームをするのは良いとして、呼んだからにはいくつか僕の意見も取り入れさせてもらいますよ」
「ああ、最初からそのつもりだ。俺は君と協力して、これをただのリフォームではなく俺たちのセンスが光るリフォームにしようと考えている」
「やりましょう、僕たちの感性で! 素敵で無敵で快適な女子トイレの改革を!」
僕たちはどちらからともなく手を差し出して、ガッチリと強い握手を交わした。
こうして、ふみひで監修の元で僕の助言も交えながら大規模なトイレット・リニューアルが断行されたのであった。
それから2週間後、150万を全額叩いたリフォーム工事は無事に完了し、望気荘に新しい女子トイレが誕生した。その間、ずっと用足しを近所の公園のトイレで済ませていた巻上さんも、当初は目を輝かせて喜んでいたという話だが――
「おい、何だこの便所は。あたしをコケにしたくて大金突っ込んだのかよコラ」
「そんなわけないじゃないか。僕もふみひでさんも、君のために衛生的で明るいトイレにしてあげたのに分かんねーのかな」
再び望気荘を訪れた僕は、すぐさま巻上さんに女子トイレへと引きずり込まれて尋問を受けた。
「良いトイレじゃないか。まさに近代的トイレの極みってヤツだよ」
床も壁も天井も前に同じくピンクを基調とした光沢感あふれる外観となっている。しかも照明も明るく、手洗い場に至っては液体ソープどころか消毒液&エアーシャワー付きだ。
「外観も照明も手洗い場も、見違えるほどキレイになっているじゃないか。文句を言われる筋合いなんて……」
「そうじゃねーだろっ! その辺は良いとしてなんで便所が和式のままなんだよっ!」
「ああ、そっちね」
少し目を逸らしがちに個室へと歩み寄る。幸か不幸か予算の都合と僕とふみひでの嗜好が相重なって、従来の和式を撤去したまでは良かったものの、新しいトイレもまた和式便所だった。
「問題ないよ。足腰が鍛えられると思って跨れば、気持ち良く排泄が出来るじゃないの」
「百歩譲って和式は構わねーんだよ。だがな、何なんだよこのちっけードアは!」
巻上さんがバンバンと叩きながら、納得出来ない気持ちを全面に押し出して抗議する。そのドアは仕切りと呼ぶにはあまりにも小さく、下の隙間が丸空きで使用時にお尻が丸見えになることは想像に難くない。
「や~~……どこかで経費を削ろうと考えてたんだけど、そこだけはふみひでさんと意見が完璧に一致したんだよね。まぁ、それでも前はドアすらなかったんだし、進歩の証だと思えば……」
グジャッ!
「うっ」
釈明をしていたところに盛大な金蹴りをくらって、思わずうずくまる。
「けっ!」
巻上さんがそんな僕に目もくれず、件のトイレにずかずかと入って行く。
「酷いじゃないか巻上さん、いくら何でもここを蹴るのはあんまりだ……?」
うずくまったままの僕の目の前に、大きなお尻がドンと落ちてくる。
――す、すごい。やっぱりこの隙間なら、床に顔を擦り付けなくても桃源郷がモロ見えだよ!
視界に映る巻上さんのお尻に痛みがやわらぎ、ペニスが熱を帯びてくる。
「あーちくしょう。こんな便所を使ってたら、変態野郎にケツ見られちまうなぁ」
巻上さんが誰に聞かせるでもなく、大きな声で独り言をつぶやく。
「ま、いっか。誰かさんのチンポを蹴っちまった詫びの意味で、覗きの一つや二つは大目に見てやるとすっかな」
ブシャァァァァァァァ……!!!
ブツブツとぼやき続けながら、力強い放尿を開始する。正直、こんなレーザービームのようなオシッコを生で見たのは、初めてのような気がする。
「……うっ、んふっ!!」
ブッ、ブボッ、ブビビビビッ、ブブッ、ブリリリッ!!!
すると今度は間髪入れず、放屁とともに肛門から大量の下痢便が噴き出される。僕は立ち上がることも忘れて、その光景を興奮とともに凝視していた。
「さてと」
一通りの排便を終えた巻上さんがトイレ脇のボタンを押す。すると、便器の中からノズルがせり上がって水を吹き、下痢便をひり出した彼女のお尻を優しく洗浄した。
「……ったく、和式のウォシュレットとか誰得なんだっての。こんなもん浴びてりゃ、覗かれても触られても勃たされてチンポしごかれてもどうでも良くなっちまうぜ」
「それは嬉しいセリフだね。だったら遠慮なくたっぷり見せてもらうよ!」
聞こえよがしの言葉を受けながら、僕は巻上さんが立ち上がるまでずっとトイレを覗き続けていた。時折下の隙間に手を入れて、彼女のお尻を愛撫しながら心行くまで覗き続けていた。