※この作品はR-18です。

すかもんっ!   作:Žž‰€—時園礼

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第15話 僕たちの花子さん騒動

 小学4年生だった当時、僕はクラスメートの厄介な男子連中と一緒に、トイレの花子さんが潜伏していると噂されていた5年生の女子トイレに潜入する羽目になった。もちろん乗り気ではなかったが、半ば脅すような剣幕に気圧(けお)されて、やむなく同行したのである。

「大丈夫っちゃ、そんなんが普通に考えておるわけないんじゃけえ」

「仮におったとしても呼ばんかったらええんじゃろうが」

「そうっちゃ。花子さんは呼んだら返事が返ってくるけど、呼ばんかったらおっても絶対に出てこんって話で」

 根性の悪さが顔に滲(にじ)み出ているような奴らの胡散臭い言葉に辟易しながら、片っ端から個室を空けて人がいないのを確認する。その頃から女子トイレには興味津々だったとはいえ、こんな用途で入っているのが実に馬鹿らしく、腹立たしかったのは今でも鮮明に記憶している。

「ほら、やっぱり誰もいるわけないじゃないか。もう時間も遅いし帰ろうよ」

「そうじゃの。そんな都市伝説がこんな田舎の糞学校に都合よくあるはずが……」

 うまく無難に引き返せる展開に持ち込めそうになっていた、その時だった。

「一番目のはーなこさん!!」

 メンバーの中でも群を抜いて不細工で、頭も要領も悪いヒデ君が何とも余計な一声を発してしまったのである。

「わあぁぁっ、ヒデの糞馬鹿、呼ぶなっちゃ!!」     

 僕たちは、ヒデ君のあまりにも突拍子もない愚行を前に悲鳴を上げながら、何があったというわけでもないのに逃走した。元凶のヒデ君も責任を取ってその場に残ろうともせず、僕たちの後を何一つ悪びれる様子もなく、馬鹿面を引っ下げて追いかけてきていた。こうして「その時は」全員何事もなく下校して、何事もなく家に帰ったのであった。

 

 

 数日後、僕を除くその時の男子たちは下校中に集団蒸発を起こし、その3日後に全員が近所の雑木林で下半身裸の状態で吊るし上げられているのが発見された。幸い命に別状はなかったものの、全身を激しく殴打されていたらしく、連中の顔はアザだらけで醜く膨れ上がっていたのだという。

 もちろん警察はすぐに捜査をしたが、何の手がかりもつかむことは出来ず、結局この件は迷宮入りを余儀なくされてしまったのである。

 

 

 それから数年が経った今も、真実は闇の中に隠れたままで手がかりは欠片ほども姿を見せようとはしなかった。だが、そんな奇妙な事件の真相を僕は思わぬ形で知ることになってしまうのであった――

 

 

「トイレの花子さん?」

「そ、花子さん。学校の怪談としてあまりにも定番すぎるあの花子さんがK小学校に出没するらしくて、何人かの子供が恐怖症になっているのよ」

 放課後、保健室に呼ばれた僕は養護教諭の早紀先生からそんな話を聞かされた。ちなみに、件のK小学校とは僕の母校である。

「難儀な話よね。何でも一部の子供たちは花子さんが怖くてトイレに行けなくて、外でしてるって話だから」

「それが僕と何の関係があるというんですか」

 至極当然な僕の質問を受けて先生の目つきが一瞬にして変貌する。

「分からないのかしら? 児童たちが学校のあちこちでオシッコやウンチをまき散らしてたら、来客も良い顔はしないし清掃員も迷惑でしょうが」

「いや、だから何でそんな話をわざわざ放課後に呼び出してまで僕にする必要があるのかと」

 ギュム。

「理解力のない子ね。つまり、そんな現状を放置しておいて良いわけがないってことでしょうが」

「……」

 人生で何度目になるかも分からない玉握りをくらって、少しずつ事の本筋が見えてくる。

「……つまり、僕に花子さん問題を解決しろっていう話でしょうか」

「決まってるでしょ。K小のOBである健二君がやらなくて、誰がやるって話よ」

「いやいや、K小のOBなんて他にいくらでもいるのにどうして僕が、僕だけがやらなくちゃならないんですか」

「仕方ないでしょ。これはK小の現教頭の指名なんだから、私に言ってもどうにもならないわよ」

「……はい?」

 K小の現教頭の直々指名という、意味の分からない言葉に思わず目が丸くなる。そんな役職を悪用した職権濫用(らんよう)も論外だが、それ以前に全く面識のない赤の他人の指示にどうして従わなくちゃならないんだ。

「すみません、いくら僕がOBでその人が現教頭とはいっても、そんな知りもしない人間の命令なんて僕は……」

 どうにかして面倒事を避けたい僕だったが、その気持ちは次の言葉であっさり打ち砕かれたのである。

「K小の現教頭の名前は岸村徹雄(てつお)。岸村先生の実の父親よ」

「えっ?」

「つまり、香子のお父さんが花子さん騒動の対策係として、あなたを直々に指名したってこと。お分かりかしら?」

 

 

 まさか担任の香子先生に、そんな役職の親がいようなどとは夢にも思わなかった。

「何か悪いね、健二君に厄介事を押し付けるみたいで、申し訳ない気分じゃわ」

「気にしないで下さい。香子先生と一緒なら、網走だって軍艦島だって喜んで行きますとも」

 数年ぶりとなるK小へと至る夜の通学路を、先生の3歩先を進みながら歩く。

「それに学校の怪談は数あれど、花子さんは僕の時代にも流行っていたネタです。数年の時を経て、ここで決着をつけてやりますよ」

「フフッ、頼もしいんやね。期待しちょるよ」

「任せて下さい」

 どういう風の吹き回しか、元々徹雄氏は僕に花子さん対策を一任させる予定だったそうだが、急きょ実の娘である香子先生を同行させる運びとなったらしい。それで、先生が家まで僕を訪ねてこうして一緒に夜の小学校へと歩みを進めているのである。

「やっぱり今回も、花子さんは5年生の女子トイレが出現スポットだったりするんですかね?」

「そうみたいじゃね。興味本位で呼び出した男の子がそこで花子さんを見て、慌てて逃げよる時に階段から落ちて頭蓋骨にヒビが入ったっちゅう話じゃけえ」

「あー、そうなんですか」

 どうやら、いつの時代にもヒデ君のような色々と足りない子供はいるということか。まぁ、そんなヒデ君も今では広島動物園のゴリラ(♀)と相思相愛で、既に交尾まで済ませているという話だから、その子にもいずれ幸せが訪れることだろう――と、どうでもいいことを考えているうちに、僕たちはK小へとたどり着いた。

『……』

 何故か全開で開いている校門と、吹きすさぶ夜風の冷たさに恐怖を感じずにはいられなかった。しかも正面から見る限り、下駄箱の入り口もドアが開いていて、まるで僕たちを出迎えているかのように不気味に風に揺れていた。

「こ、こ、こんなに不用心じゃったら用務員さんが困るわいね、うん」

「それが、花子さんの暴走による被害を想定して、今日は宿直の用務員が一人もいないそうです」

「そ、そうかね……」

 その言葉に、可愛らしい先生の顔が一瞬にして青ざめてしまった。

「先生、もし怖いんだったらここで待っていてもいいんですよ? 中に入るのは僕一人でも……」

「いやいやいや、健二君に一人でそんな危ないことをさせちゃあいけんっ! なんぼ父さんが一人でやらせちゃる言うたいうても、私には担任として生徒を守る義務があるんじゃけえ……」

「えっと、先生?」

 終わりの方の言葉が小さくて、よく聞き取れなかった。

「あ、うん。やっぱり怖い言うても、危険な場所に生徒を一人で行かせるのはようない(=良くない)と思うけえ、先生も一緒に行かせてもらうよ」

 先生が体を震わせながらも、強い決意のような言葉を口にする。

「そうですか、それは頼もしい限りです。だったらはぐれないように僕の後について来て下さい」

「うん、じゃけどその前に……」

 先を進もうとする僕の手を握って、先生がモジモジとしながら恥ずかしそうな表情を浮かべている。

「えっと、何かまだあるんですか?」

「先生、オシッコがしとうなったんやけど……」

「……」

 どうやら口では気丈に振る舞っていても、人間は生理現象には逆らえない生き物だということらしい。

 

 

「この辺りなら大丈夫だと思います」

 校舎横の茂みに先生を誘導して、辺りに人気がないことを確認する。

「ほいじゃが、トイレがあるのにこんなところでするのはやっぱり恥ずかしいもんじゃね」

「そうは言っても、花子さん問題が燻っている学校のトイレを安易に使用するのは危険です。今回は我慢して、そこでオシッコして下さい」

「う、うん」

 先生は僕に言われるがままスカートをまくり上げて下着を下ろし、茂みの上に大きなお尻を出してしゃがみ込んだ。

 プシャァァァァァァ…………!

 先生は一つ大きな息を吐くと、剃毛したばかりの桃色の局部から勢い良く放尿した。

「先生……」

 その艶めかしい姿に興奮を覚えた僕は、持参していた懐中電灯で先生を照らす。

「け、健二君。人がオシッコしよるところをそんな明々と映さんでもええやろうがね」

「すみません。でも、エッチなことだとは分かっていても、そんな先生の御姿を見ずにはいられないんです」

 前面を照らしながらゆっくりと背後に回って後ろ姿を照らす。先生の丸くて形の良い大きなお尻がハッキリと視界に飛び込んだその時、僕のペニスはしっかりと勃起した。

「ホンマ、あんまりエッチなもんじゃけえ、先生すっかり健二君の感情が伝播して体が火照ってしもうたわいね」

 先生が、自前のポケットティッシュで局部をフキフキしながら、立ち上がって衣類を整える。どうやら今日は水色フリルのランジェリーを穿いているらしく、Tバックではないみたいだ。

「いつも言いよるじゃろう。先生はええけど、普通の女の人の前でそういうエッチなことをしよったら痛い目を見るよって」

「大丈夫ですよ。エッチなことが出来る相手と出来ない相手の見極めはお手の物ですから」

 さっきまで沈んでいた先生の表情に、すっかり赤みが灯ったみたいで安堵する。

「じゃあ、行くとしますか。すっかり居ついてしまった花子さんの根城に」

「うん、そうじゃね」

 僕は「以後気をつけます」の意味を込めて先生のお尻を軽く撫でると、花子さんの待つ校舎のトイレへと向かった。先生もまた何も言わず、その後について来てくれたのであった。

 

 

「ここですね」

「うん、ここで間違いないと思う。健二君の頃もおんなじトイレじゃったんやろ?」

「そうです。ただ、あの時は存在の有無も分からないまま、全てがあやふやに終わってしまったんですけどね」

 3階――5年生のクラスが並ぶ廊下の女子トイレ。運命の場所を前に簡単な会話を交わすと、僕はドアを開いてゆっくりとその中に踏み込んだ。

「……」

 電気をつけて辺りを照らすも、沈黙に支配されたトイレの中は気味の悪い雰囲気を漂わせている。だけど、過去に一度ここで探索した身としては、さほど恐怖感のようなものはわいてこなかった。

「何かやっぱり薄気味悪いね。これなら恥ずかしかったけど、外でオシッコしちょいて正解じゃったわ」

「そうかもしれませんね。いくら誰もいないとはいえ、こんな時間帯にここで用を足すのは怖いと思いますから」

 一番目の個室のドアを開けて人がいないことを確認する。

「それにしても、本当に花子さんが出て来たんですかね?単に呼んだ子が恐怖心で幻覚を見たってオチの方が有力だと思うんですけど」

 二番目の個室のドアを開けて人がいないことを確認する。

「ほらほら、花子さんなんて都市伝説なんですよ。結局は、人の思い込みが具現化した幻に過ぎないんです」

「そうなんやろうか」

「ここを見たらとっとと帰りましょう。全く、存在するはずのない存在の対策係だなんてもう懲り懲りですよ」

 そんな感じの軽いノリで最奥部、三番目の個室のドアを開けたその時だった。

「……えっ?」

 段差式の和式トイレの中にたたずむ小柄な少女と目が合って、思わず硬直する。

「こんなところに何の用かしら?」

 少女が冷淡な声音でゆったりと微笑みかけてくる。

「……」

 赤い服。オカッパ頭。憂いを帯びた瞳。あまりにも一般的に定着したビジュアルそのままの風貌が、より恐怖感を掻き立てる。

「で、で、で……」

「あら、あなた……」

「出たあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 気がつけば、僕は悲鳴とともに後ろにいた香子先生に思いきり抱きついていた。

「せ、先生。ほ、ほ、本当にいましたよ、いやがりましたよ、は、はは、花子さん、が……」

「……」

 動転しながら必死に言葉を絞り出すも、何一つ返事がない。

「あれ、先生?」

 ドサッ!

 次の瞬間、先生は崩れ落ちるかのようにその場に倒れ込んだ。

「先生、先生! しっかりして下さい、先生ったら!!」

 いくら揺さぶっても、やはり返答が戻って来ない。つまり「あれ」を見たショックのあまり、気を失ってしまったということらしい。

「……どうやら、あたしを見てしまったのがよっぽど衝撃的だったみたいね」

「そりゃそうに決まってるだろ。僕だって不覚にも、さっき悲鳴を上げちまったんだから」

 いつの間にか僕は、自分でも驚くほどに彼女の――花子さんの存在を受け入れて、当たり前のように会話を交わしていた。

「とりあえず保健室にでも運んで……」

「その必要はないわ」

 抱きかかえようとしていた僕を制止して、花子さんがうつ伏せに倒れている先生の後ろに屈み込む。

「こういう時は適度なショックを与えた方が目を覚ましやすいって、前に病死した魚座の彼氏がよく言っていたわ」

 すると花子さんは、奇妙なことをしれっと口にしながら、先生のスカートをペロリとめくり上げてしまったのである。

「ちょっと、何やってんのさ」

「ふむ、水色のフリルとは可愛らしいチョイスね。だけど個人的に、こういう人にはTバックを穿いていてほしいものだわ」

 僕の言葉に全く耳を傾けようともせず、ついに花子さんは先生の下着までずり下ろしてしまった。

「うっ」

 さっき見たばかりの先生のお尻が再び眼前に露となる。

「良いお尻ね。美人で巨乳でウエストがしっかり引き締まっている上に、こんな魅力的なお尻の女性を彼女にするなんて、あなたも随分とエロく……いえ、偉くなったものじゃない」

「彼女じゃないよ、この人は僕のクラスの担任の先生だ」

 果たしてまだ彼女と呼べるような関係にあるのか自信が持てなかったので、無難な返答を口に出しておく。

「それよりも聞かせてくれ。君はやっぱり花子さんなのか? 数年前にもここで噂になったあの花子さんと同一人物なのか?」

「……」

「答えてくれ。せっかく君に会えたのに、肝心な場面でダンマリじゃあ張り合いがなさ過ぎるよ」

「……数年前、当時小学4年生だった馬鹿でスケベで不細工な男子たちがトイレの花子さんの噂を聞きつけて、放課後の女子トイレにずかずかと踏み込むという出来事がありました」

 問いただす僕を前に、花子さんは目を合わせようともせず妙な昔話を始めた。

「そんな彼らの姿に辟易した花子さんは、姿を消してずっと無視しておくつもりだったのですが、一人ほど可愛らしい顔つきをした気の弱そうな男の子が目に留まって、すっかり彼に興味を持ってしまいました」

 おそらくそれはあの時の僕たちのことを話していたのだろうけど、あの中に可愛らしい顔をした奴なんて一人でもいただろうか。

「その時、花子さんはその少年にかつて愛し合っていた、ちょっとエッチでどこか不思議な彼氏の面影を重ね合わせていたのです」

 よく分からないけど、あの中の誰かに恋をしたってわけね、うん。

「花子さんは姿を隠しつつもボンヤリとしながら、そんな彼の姿をウットリと眺めていました」

「……」

「ところが、そんな時にメンバーの一人である秀明君が汚い声を張り上げて、花子さんの名前を呼んでしまったのです」

 あの瞬間のヒデ君のアホ面がよみがって思わず吹き出しそうになる。

「そうすると臆病な男子連中はさあ大変、悲鳴を上げながら散り散りにトイレを飛び出し、最後には一人残らずいなくなってしまいました」

 ……僕と同じ記憶を共有している彼女は、間違いなくトイレの花子さんだった。

「そして、大切な時間を壊されたことに激昂した花子さんは後日、理科室の人体模型を操って秀明君と自分たちでは何もせず、高圧的な態度で彼に色々とやらせていた男子連中を下校中に闇討ちして、顔の形が変わるまで殴らせ、フルチンにして雑木林の奥に吊るし上げたのでした」

「……」

「めでたしめでたし」

 って、それはめでたいオチなのか?

「なるほど、つまり当時ヒデ君をはじめとする男子連中への袋叩きの件は全部君がやった、と」

「言ってしまえばそういうことになるのかしらね」

「それで、君が見とれた男子って誰だったの?」

「えっ?」

「ほら、言ってたじゃない。可愛い顔で気の弱そうな男の子がどうとか、ってさ」

「……」

 何の気なしに聞いてみた質問だったが、それが何故だか気まずい沈黙を引き起こす。

「あの時は僕を入れて5人ほど男子がいたけどさ、とてもじゃないけど君がウットリするような奴なんて……」

「……知らないわよ、バカ」

 花子さんは急に不機嫌そうに頬を膨らませると、ぷいっとソッポを向いてしまった。

「それよりも、この人をどうにかしなくちゃいけないんでしょ?」

「あっ」

 昔話に熱を上げているうちに、すっかり下でお尻を出して倒れている香子先生のことを忘れていた。

「さあ、ショック療法で起こしちゃうわよ」

 花子さんは嬉々としながら両手をピストルの先端のように組むと、2本の人差し指を先生の肛門にブスリと差し込んだのであった。

「は、花子さん、それは」

「どう? まさに浣腸一本チオ〇タドリンクってヤツよ」

「いや、それ愛情の間違いだから」

 他愛もない会話を交わしてはいるものの、実際のところ花子さんの指は奥深くまでスッポリと入り込んでいた。痛いかどうかは別として、これなら先生も意識が戻ってくるはずだ。

「んっ……何かお尻の奥が熱いんやけど、健二君のチンポが入っちょるんじゃろうか……」

 すると、予想通り先生はゆっくりと目を覚ましてくれたのであった。

「先生、お目覚めですか」

「健二君、なんで先生のスカートとパンツが脱げちょるんやろうか……って!」

 再び花子さんと目が合って、またしても先生が硬直する。

「け、けけけ、け・ん・じ君……や、やっぱりこの子、は……」

「落ち着いて下さい先生。この子は確かに幽霊だけど、基本は人畜無害です」

 怯える先生をなだめる意味でゆっくりとお尻を揉みながら、気持ちを落ち着かせる。

「ほら、よく見たら可愛い子じゃないですか。確かに彼女は幽霊かもしれないけど、外見は普通の少女です」

「ま、まぁ言われてみれば」

 少し落ち着きを取り戻したのか、先生がマジマジと花子さんを見つめる。一方で、その花子さんも先生を見ながら頬を染めると、思いきり顔を近づけてこんなことを申し出たのであった。

「ねえ、良かったらそのお尻であたしに見せてもらえないかしら? そしたらもう、二度とこの学校のトイレには出なこないって約束するから」

「えっと、それはつまり何を見せてあげりゃあええんじゃろうか」

「決まってるじゃない、あなたのウンチしているところよ」

 

 

「な、何か恥ずかしかったりするんよね。健二君以外の人にこんな姿を見せたりするんはね」

 先生はやや抵抗感を持ちながらも、花子さんに言われた通り排便姿を披露するべく一段上の和式便器に屈んだ。

「頑張って下さい、霊の供養も立派な教師の務めです」

 和式の上にむき出しとなった先生のお尻は相変わらず艶めかしく、すぐにペニスが固くなる。だが、僕以上に花子さんの興奮はすさまじいものだった。

「ああっ、これよ、このお尻! 和式を使う美人を後ろから見るこの眺め!! まさに現代エロスの代名詞だわ!!!」

 花子さんが鼻息を荒げながら体を屈めて先生のお尻に顔をうずめ込む。

「ちょっと、花子さん」

「クンカクンカ……んっ、たまらない……クンカクンカクンカ、ああ、この臭さがクセになっちゃいそう!!」

「ま、まぁ気持ちは分かるんやけど、花子さんがそこに顔をくっつけちょったらウンチが出来んけえ、どいてもらえんやろうか」

「……ハッ! そうだったわね、ごめんなさい」

 お尻をひたすら嗅ぎ続ける花子さんだったが、先生に言われてようやく顔を離す。本来なら僕が止めるべきだったのだろうけど、その官能的な光景に魅了されてすっかり忘れてしまっていた。

「それにしても今日は最高の1日になりそうね。昔の男に会えた上に、こんな美人のトイレを拝めちゃうんだから」

「僕もだよ。ずっと心の奥に引っ掛かっていた花子さん問題が、こういう形で幕引きを迎えられるんなら感無量だよ」

 僕は頭で考えることもなくスッと花子さんの前に左手を差し出した。

「思わぬ再会を祝して記念の握手をお願いしようかな」

「……」

 ギュム。

 しかし、花子さんの左手は僕の手をすり抜けて、ペニスをつかんでしまったのである。

「は、花子さん?」

「こうすると死んだ魚座の彼氏がよく喜んでいたわ。キャンとかキュンとか子犬みたいな声を上げて、それはそれは無邪気にね」

 花子さんが遠い目をしながら先生の方へと視線を逸らす。

「でも、そんなエッチなスキンシップをあなたにしちゃったのは何故なのかしらね……」

 その横顔を凝視しても、彼女の心の奥に眠る感情が見えてこない。全くもって、乙女心というのは難解なパズル以上に難解な、無数のピースで形成されている複雑な代物である。

「さぁ出しなさい。あなたのお尻は完全に包囲されたわよ」

「う、うん……」

 先生が左手をお尻に添えて、中指を使い肛門を広げる。すると、そこからすぐに緩めの便がニュルリと顔を覗かせた。

「ん、んっ……」

 ムリムリッ、ブプッ!

「夢みたいだわ……こんな綺麗な人が、あたしの前でお尻を丸出しにしてウンチをしているのよ……いえ、夢でも見られない光景だわ、こんな桃源郷!」

 花子さんが再び先生に詰め寄り、両手でお尻をわしづかみにする。

「あの、お尻の穴に鼻息がかかってくすぐったいんやけど」

「大丈夫よ、こうしたら排便を促進する効果があるって話なんだから」

「そんな話、聞いたことないんやけど」

「ソースは病死した魚座の彼氏からの口コミよ」

 一体その彼氏というのはどんな奴なんだよ、という突っ込みを入れたいところだが、恍惚とした顔で幸福オーラが全身からあふれ出ている花子さんを見て自重する。事が良い方向に向かっているとはいえ、彼女にこんな趣味があるという事実はまさに嬉しい誤算に他ならなかった。

 ブリブリブリッ! ブブブッ、ビチャッ!!

 最初の便がせき止めていたのか、1つ目の便をひり出すと先生は不健康な下痢便を一気に噴出した。

「香子、あなた……」

「いや、うん。いつもは健康でいいウンチを出しよるんじゃけど、今日は何かお腹の調子が悪うてね」

 お尻とウンチを交互に見やる花子さんに先生が妙な弁解をする。

 プシャァァァ……

 そして、栄養ドリンクでも飲んでいたのか黄色い放尿をゆるやかに出し切って、無事に排泄を終えたのである。

「これで満足じゃろうか?」

「まだよ、フキフキが残っているでしょ?」

 花子さんがセットしてあるトイレットペーパーを抜き取って、適度な量をちぎりこっちを向く。

「物欲しそうな顔をしてるけど、あたしがするんだからあなたはそこでオチンチンを勃たせて見てなさい」

「最初からそのつもりだよ。本来ならそこは僕のポジションなんだけど、今回ばかりは君に譲るべきだろう」

「物分かりがいいわね。でも、そんなあなただからこそあたしは……」

「え?」

「何でもないわ。和式トイレで見る美女のお尻は格別って言っただけよ、ねっ!」

 クチュッ!

 花子さんが勢い良く先生のお尻にペーパーをくっ付ける。

「んっ」

「この滑(ぬめ)り……まさに、排便直後といった感触がゾクゾクしちゃうわ。美人のフキフキを見るのも快感だけど、美人にフキフキしてあげるのはもっとエクスタシーよ!!」

 グチュッ、グチュッ!!

「ちょ、ちょっとお尻がくすぐったいけえ、もっとゆっくり拭いてもらえんじゃろうか」

「いいえ! これぐらい! 強く、拭かないとっ! お尻にっ! ウンチが! 残っちゃうんだからっ!!」

 花子さんは興奮絶頂真っ盛りといった具合で顔を真っ赤に染めながら、先生のお尻と局部を入念に拭き続けた。何だかんだ言ってるけど、単に美女のお尻を拭きたいだけなんだろうという突っ込みを入れたいところだが、恍惚とした顔で幸福オーラが全身からあふれ出ている花子さんを見てまた自重する。

 結局、花子さんはほぼ満タン状態のペーパーを3分の1近く費やしてまで、先生のお尻を延々と拭き続けたのであった。

 

 

 ザザ~ッ……!!

「良かった、無事に全部流れてくれたみたいじゃね」

「残念だわ。もっと大きな固形便だったら流れずに、明日のこの場所で女の子たちが騒いでいたでしょうに」

 お互いが真逆の感想を述べながら大きく息を吐く。

「でも、ここのトイレに居付いてこれほど素敵な経験をしたのは初めてよ。これで心置きなく消えることが出来るわ」

「良かったね、花子さん。これで思い残すことなく浮かばれるね」

「うん、ちょっと恥ずかしかったけど、これが花子さんの供養になるんじゃったら先生も本望じゃわ」

 僕も満足だったが、先ほどまであれほど怯えていた先生が僕以上に充足感に満ちた顔をしていて、それが余計に嬉しかった。

「ありがとう、健二。ありがとう、香子。いつかまた会いに行くから、その時はよろしくね……」

 少しずつ言葉が遠くなり、それに伴い花子さんの体が薄くなる。やがてそれは完全に消滅して、無垢な笑顔とともに僕たちの前から姿を消したのであった。

「僕たちも、帰るとしましょうか」

「……そうじゃね」

 僕はポツリとそうつぶやくとトイレを出て、先生と一緒に夜の肌寒い校舎を後にした。腕を組み、暖め合うかのように寄り添いながら。

 

 

 帰宅後、早紀先生に電話報告をすると、その吉報はすぐに彼女経由で徹雄氏をはじめとするK小の上層部へと届けられた。その後の経緯はよく分からなかったものの、霊媒師による再確認でOKサインが出たことと、学校全体で黙祷が行われたということだけは耳に入ってきた。結局、僕を対策係に指名したという徹雄氏からはそれからも連絡はなく、彼からはついに労(ねぎら)いの言葉さえ届けられることはなかった。少し引っ掛かりもしたが、花子さん問題が解決して彼女が無事に成仏したのだから、これはこれで良かったということなのだろう。

 そう割り切って日常に戻っていた、ある学校帰りのことだった。

 

 

「おかえりなさい、健二」

「……」

 さも当たり前のように、僕の部屋で寝そべりながら花子さんが漫画を呼んでいた。しかも読んでいたのは、僕の最も愛読するスカトロ系のアンソロジー本である。

「このピーマン尻は頂けないわね。やっぱり女の子のお尻は桃のようにプリッとしてなくちゃ」

「そりゃそうだよ。女尻っていうのは桃のような形をしているからこそ、顔をうずめてその臭いを……じゃなくて!!」

 カバンを置いてすぐさま彼女に詰め寄る。

「どうして僕の家に居座ってるんだよ! 君はこの前成仏したばかりだろ?」

「あら、あたし言ったはずよ? 『いつかまた会いに行くからその時はよろしくね』って」

 そういえばこの子は確かにそんなことを言っていた。

「つまり、その『いつか』が今ってことよ」

 アンソロジー本を読み終えた花子さんが今度はスカトロ系の同人誌を手に取る。

「これは良い漫画ね。大きな桃尻は言うに及ばず、こんな大量のウンチをする女の子なんて漫画ならではだわ」

「すごいでしょ。しかもこの後で和式便所がリフト式に上がり下がりを繰り返すんだぜ。作者の変態性欲に乾杯……じゃなくて!!」

 調子を狂わされながらも話を本題に戻す。

「花子さん。まさか僕の家に居座るつもりかい?」

「いいえ。しばらくは普通の浮遊霊として、気ままに方々の女子トイレを練り歩きながら女の子の排泄を観賞して楽しむつもりよ。もちろん時折こうしてあなたを訪ねはするけど」

「うらやまし……いや、案外やらしいんだね君は」

「あなたには負けるわ、夢見るスカトロジストさん」

 前にも言われた奇妙な二つ名を呼ばれて思わず赤面する。だけど、不思議とその名前に不快感のようなものは湧き起こってこない。案外響きが悪くないのか、自分でもどこかで気に入っている名前だったりするのか――それとも、目の前で僕の嗜好が炸裂している漫画たちを必死になって読みふけっている少女に、好意を抱いてしまったのか。

 少し考えてみたけれど、学校帰りの疲れきった体では頭も働かず、よく分からなかった。

「……おかえり、花子さん」

「何よ、急に改まっちゃって。言っとくけどこれ読んだら、公園のトイレに潜伏して獲物待機に出かけちゃうんだからね」

「そうなんだ。頑張ってね」

 だけど間違いなくこれだけは言える。花子さんが戻ってきてくれて喜んでいる僕がいる、と。

「今度うちに来たらレポート頼むよ。とびっきりエッチで魅力的なヤツを」

「そうね。せいぜいオチンチンをでっかくして待っていればいいわ」

「ああ、期待してるよ」

 僕は世界で一番可愛らしい幽霊に笑顔を向けると、手洗いとうがいを済ませて速やかに宿題へと取りかかった。その背後に怖気はなく、暖かな空気が部屋の中を包み込んでいた。

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