「うふふ。こうして一緒に通学路を歩いてると、何だか恋人同士みたいね」
「いやいや、留里さんが行くのは会社でしょ」
「そういえばそうだったかしらね」
他愛のない会話を繰り広げながら心からの笑顔とともに笑い合う。僕は今、秋風の心地良い朝の通学路を隣の部屋に越してきた、OLの小口留里子さんと一緒に歩いていた。正直なところ、ぼっち通学が定着していた僕にとって、彼女の存在は色々な意味で心強かった。
――途中までとはいえ、留里さんが付き添ってくれるようになってから、絡まれることが少なくなってきたんだよな。
今まで僕は、何度となく登下校中にタチの悪い同級生に絡まれては暴力と暴言の餌食にされてきた。だけど、毎日ではないにせよ留里さんのお供が付くようになってから、それはほぼ完全になくなっていた。
「あっ、健二君じゃー」
「ほんまじゃ、林葉がおる」
もちろん、時折この女子連中のように、明らかなからかい目的で僕にちょっかいを出してくる厄介な奴らもいる。
「ねえねえ、最近よう一緒に来よるこの人って彼女じゃったりするん?」
「違うじゃろ~。何が悲しゅうて林葉みたいなキモオタと付き合うような物好きがおるんかっちゃ」
「……放っといてくれないか。君らには関係のないことだろ」
それでも僕は大して気になどしていないし、最低限の受け答えをしたら後は相手にしない。
「あれっちゃ、援助交際。林葉ってモテんけえ、親に小遣いもらって女を引っ掛けちょるのっちゃ」
「うそ~、ワヤじゃけー健二君。そんなんしよったらウチらーが香子先生に……」
パチン!!
『ギャヒッ!!』
何故ならば、いつだって留里さんが守ってくれるから。
「すごい音ですね。僕まで思わずビクッとなっちゃいましたよ」
「ふふ、便利よねぇこれって。だって、一切傷をつけずに大きな害虫さんを撃退できるんだもん」
両手のスタンガンを嬉々として見せびらかしながら、留里さんが恍惚とした表情で微笑する。
「今日もありがとうございます」
「お安い御用よ。それじゃ、時間が合えばまた帰り道にね」
留里さんは僕の胸を指先でつつくと、手を振って会社へと続く分岐路へと姿を消した。僕もまた、彼女の背中が見えなくなるまで見送ると、泡を吹いて寝そべっているはしたない女子たちを尻目に学校へと向かったのであった。
「振り返ったら下の隙間からビデオカメラがあることに気がついた彼女は、あわててドアを開けて……」
担任の岸村香子先生が熱弁を奮っている英語の授業に話半分で耳を傾けながら、先生のお尻に視線を落とす。下着の線が見えないということは、今日もTバックを穿いて教鞭を振っているのですね、先生。
――うんうん、やはりあなたは教師の鑑だ……
思えば、彼女の存在に僕はどれだけ救われてきたことだろう。僕がいじめの標的にされている間、ずっと彼女は僕を気遣ってくれた。スカトロ嗜好という名の異常性欲に懐疑的な目を向けながらも、彼女は僕に理解を示してくれた。
考えてみれば、精神的なショックで長らく勃つことも出来なくなっていた僕のペニスに希望を与えてくれたのも彼女だった。春休み、買い物に来ていたスーパーで、担任になる前の彼女のトイレを覗いた日の記憶をたどりながら思わず頬が緩む。
「そいじゃあ健二君。最後はどうやってオチが付いたか説明してみましょう」
「は、はい。ビデオカメラの没収と引き換えに、交際をすることで手打ちにしたんですよね」
「うん、ちゃんと聞いちょったみたいじゃね」
もちろん、そんな時でも香子先生の授業だからこそ、大事なところはしっかり聞いているのだけどね。
「随分と熱心に食べているのね。そのモフモフしている姿、子犬みたいで可愛いわよ」
「おいおい。いくら幽霊でも、小学生ビジュアルの君に子犬扱いされちゃあ僕の立場があったもんじゃないぞ」
青空の良く見える場所に座ってメロンパンをかじりながら、隣に立っている少女にやんわりと突っ込みを入れる。昼休み、屋上でのぼっち飯が定着していた僕のそばには、すっかりトイレの花子さんが定着するようになっていた。
「今日は1年生の女の子のトイレを覗いてきたわ。その子、可愛い顔して剛毛でお尻がブツブツだらけで汚いもんだから、あまりの落差に驚いちゃったわよ」
「そうかな。僕としては、可愛い子の下半身が不衛生だったりすると、ギャップ萌えで即抜き必至だったりするんだけどね」
浮遊霊として方々の女子トイレを覗き回っている花子さんは、こうしてよく体験談を嬉しそうに語ってくる。本人には言わないけど、そんな時の嬉々とした彼女の姿の方が、僕に言わせるとよっぽど子犬のようで愛くるしかった。
「だけど、やっぱり香子と未衣ちゃんのトイレだけは別格だわ。彼女たちだけは目の保養だけでなく、あたしの股間まで熱くしてくれたんだもの」
「同感だね。僕の場合は敏感だから他の女の子でも勃っちゃうけど」
「昼からは香子のトイレを狙うわ。成功したらあなたの家でオナニーするから覚えておきなさい」
「だったら、うまくいくことを願っておくよ」
エールの気持ちを込めて花子さんのお尻を優しく愛撫する。
「……良い触り方ね。健二、あなた絶対に痴漢の才能があるわよ」
「はは、よしてくれ。僕は単に花子さんが喜ぶお尻の触り方を心得ているだけさ」
そうやって、他愛ないやり取りをしながらゆったりとした一時をやり過ごす。そんな僕らを冷やかすかのように吹き続けるそよ風がとても気持ち良い、秋の日のランチタイムだった。
「よっ、健二。またチンポの栄養補給か?」
帰り道に立ち寄った本屋で、僕のコミケ仲間の一人である丸尻桃美ちゃんが普通なら人前で言えないようなセリフを堂々とぶつけてくる。
「もっと他に言い方があるだろ。どうしていつも超速球ストレートな言い回しを選ぶかなぁ」
「いーじゃねーかよ、俺とお前の仲だろ。それにお前を本屋で見たら、エロ本目当てとしか思えねーんだよ」
「今日は普通の漫画だよ。今ハマってるパズルゲームのアンソロジー本を買いに来たんだ」
腕を巻き付けてくる桃美ちゃんをソフトに振りほどきながら、一般向けの漫画コーナーへと向かう。
「けっ、いい子ちゃんなチョイスをしやがって。たまにはもっと激しいの読めよな」
「エロでも非エロでも、暴力や凌辱の過剰な漫画は苦手でね。最後に悪党どもがキッチリやられるのなら話は別だけど」
「……だよな。お前らしい解答で安心したよ」
ギュム!
桃美ちゃんが僕の前に回り込んで、ペニスを強めに握ってくる。
「ちょっと痛いよ、桃美ちゃん力が強すぎ」
「悪い悪い、ついソフトで良い触り心地なもんでな。なんつーかこう、お前の性格がそのまま現れてる、つーかよぉ」
心なしか、桃美ちゃんの顔が赤くなっているかのように見えてくる。
「ちょっと話してから帰ろうぜ、店の外で待ってるからよ」
「そうだね」
僕は速やかに買い物を済ませると、店脇のベンチに座っていた桃美ちゃんの隣に寄り添って、他愛ない雑談とともに下校時間を満喫した。家に着いた頃にはゆうに日が沈んでいたけれど、それでも僕は心から満足だった。
今、僕の学校生活は間違いなく絶頂期を迎えていた。僕のことを気遣ってくれる担任の香子先生を筆頭に、本当の意味で頼れる人たちがいつも近くにいてくれた。だけど、それでも悪魔のような狡猾さを駆使して、僕や僕の仲間に危害を加えてくる悪意に満ちた輩がいることもまた事実だった。
――たとえば、異性に飢え過ぎて精神の腐り果てたこんな連中のように……
それは、ある肌寒い下校時間での帰り道だった。
「よぉ林葉、久しぶりじゃん」
薄気味悪い顔をニヤニヤとさせながら、悪い意味で懐かしい顔が僕の前に立っていた。
「俺っちゃ、大林。覚えとるじゃろ? ほら、オバちゃんいね」
「分かってるよ」
含み笑いが忌々しい、中学時代の同級生に投げやりな返事をよこしてやる。
「いや~、こうして久しぶりに会うと何か気分がええね」
「……」
そっちはいいのかもしれないけど、こっちは果てしなく不愉快だ。
「思えば3年の時に俺がM中から転校してクラスメートになった時から、俺たちは運命共同体みたいな関係じゃったんよの」
「悪いけど、それは初耳だ」
「そこで俺、ちょっと林葉に頼みたいことがあるんじゃけど」
僕の言葉に一切耳を貸さず、大林が手もみをしながらより顔を歪めてニンマリと笑う。
「お前の学校の女子で、ええの紹介してや。今ちょうど、俺も俺の仲間も彼女がおらんのんよね」
「どうして僕の学校の女子を君らに紹介しなくちゃならないんだ。自分の学校の女子を探せばいいだろ」
「ほら、俺んとこって工業高校じゃん。女が少ないけえみんな飢えちょるんよ」
「それにしたって、僕が紹介しなくても君らが直接口説きに来れば済む話じゃないか」
実に下らない申し出に難色を示し続けてやる。僕が口説くのならまだしも、どうして僕がそんな仲介役のようなことをしなければならないんだ。
「あーそうなん、お前親友の頼みを無視するんじゃー」
大林がぶっきらぼうにそんなことを言いながら、僕の手首をつかんでくる。
「何の真似だよ」
「俺、一回林葉とどっちが強いか試してみたかったんよね。ほら、俺と林葉って直接ケンカしたこととか一度もなかったじゃん」
あからさまな言い回しに、明らかなまでの敵意が伝わってくる。腕ずくで言うことを聞かせてやろうというのか、それとも本気でケンカをするつもりなのか。
「下らない奴だな、それだから彼女が出来ないんじゃないのか」
「命までは取らんけど、まぁ歯の2、3本ぐらいは覚悟しちょってや、ね」
「それをやって、治療費を慰謝料ともども君が払えるのかよ」
つかまれた手を振りほどくもすぐにまたつかまれる。
「……つくづく面倒な奴だな」
「何それ、また逃げるん? お前らしい言い方じゃね」
ヘラヘラとしながらも、敵意がより鋭さを増して伝わってくる。
僕が目の前の厄介な同級生を相手に、大声で助けを呼ぶべきかと考えていたその時だった。
「大林君、そこで何しよるん?」
女の子の声が背後から聞こえて、それに伴い大林が自分から手を離す。振り返ると、可愛い顔を少ししかめて、良い意味でありがたい顔が僕の後ろに立っていた。
「あのさぁ、健二君はあたしのクラスメートなんじゃけえ、あんまり変なことをせんといてほしいんじゃけどね」
「あ、俺はただ林葉とじゃれ合っちょっただけで、別にやましいこととかはしとらんよ」
「そうなん。じゃったらあたしも、ちょっとだけ大林君とじゃれちゃげるわ」
グジャッ!!
言うが早いか彼女の蹴りが大林の股間を蹴り上げる。
「ぎゃぴーー!!」
さっきまでの威勢はどこへやら、大林は醜い悲鳴を上げながら激しくも見苦しく両手を股間に添えながら、アスファルトの地面を転げ回っていた。
「行こうや健二君。今日はあたしが家まで同行してあげるわ」
「あ、ありがとう……」
成り行きとはいえ、その場のノリに押し切られる形で、僕は家までの道を彼女とともに歩くことになった。そう、クラスメートにして女子クラス委員の棚田円香さんとともに――
「あいつさ、中学の頃からあんな調子じゃったんよね。大人しそうに見せかけといて、自分より弱そうな相手を見ると急に強気に出てくる、あたしの一番嫌いなタイプ」
「そうだったんだ……あれでも転校当初は、普通の大人しい奴だったんだけどなぁ」
のどかな帰り道を大林の話題で取りつなぐ。どうやら、奴のあの性格は数年前から形成されていた面倒な代物で間違いないみたいである。
「それは単に猫かぶっとっただけじゃろ。あたしだって中1の時にあいつとクラスメートじゃったけえそれぐらいは知っちょるいね」
円香さんがM中出身なのは知っていたが、まさか大林とクラスメートだったことがあろうとは驚きである。だとすると、こんな可愛い子が身近にいたにも関わらず、奴はアプローチをかけなかったのだろうか……全くもって、もったいない。
「ところでさっき大林が言ってたけど、あいつの仲間たちも彼女がいないんだってさ。円香さん、軽く相手してあげたら?」
「冗談じゃないわいね。なんであたしがそんな得体の知れん連中と遊ばんにゃあいけんのん」
軽はずみな提案をするも即座に却下される。
「確かにあたしは男との経験が豊富な方かもしれんけど、みんな優しくて面白い人たちばかりじゃったよ。少なくとも大林君みたいな男やら、彼とつるみそうな感じの奴なんて一人もおらんかったけえ」
「そ、そうなの」
ヤリマン説を一部で聞かれる彼女ではあるが、やはり噂は本当だったのか。
「それと、健二君みたいなふわふわしちょって頼りないような男もね!」
「えっ?」
ギュム。
不意打ち一番、僕は円香さんの右手にペニスを握られてしまった。
「甘いわよ健二君。そんなんじゃ、ヤバい奴らに簡単に付け込まれていつか酷い目に遭うんだからね」
「あ、ああ……」
「それじゃ、ここまで来たらもう安心じゃね。じゃあ明日また学校でね☆」
「うん、また明日」
円香さんは素敵な笑顔でウィンクをすると、僕に背中を向けてそのまま帰って行った。話に夢中になっているうちに、気がつけば僕はアパートの前までたどり着いていたのだ。
「……」
決して仲が良いとは言えないけれど、他の女子たちとは一線を画すほどに可愛くて、僕のことを気にかけてくれている円香さん。そんな彼女の存在もまた、僕の中で少しずつ大きくなろうとしていたのである。
翌日の放課後。何事もなく下校して、家でくつろいでいた僕の携帯に電話が入ってきた。
「もしもし、健二君? 私よ、早紀よ」
声の主は保健室の養護教諭こと西原早紀先生だった。
「早紀先生、どうされたんですか?」
「どうもこうもないわよ。あなた、工業高校の生徒たちが探していたみたいよ」
突然言われたその言葉に、戦慄と不快感が同時に込み上げてきて悪い意味で体が熱くなる。このタイミングで工業の連中ということは、間違いなく大林とその仲間たちだと考えられる。
「何でも下校中の子たちに片っ端から声をかけて、林葉を知らんかとか林葉を呼べとか言っていたらしくてね、みんなから報告を受けたから私と生徒指導の先生で追い返しておいたわ」
先生方が来た途端にあっさり引き下がってしまう辺り、連中の程度のようなものがうかがえる。だが、そんな奴らだからこそ気の弱そうな相手や大人しそうな相手を見かけると、狂犬のように喰い付いてくるのだろう。
「多分、その人たちは僕の昔の同級生とその仲間で間違いないと思います。何の用があったのかは知りませんけど、先生たちにはお手数かけました、すみません」
「構わないわよ。それよりも気を付けておきなさい、彼ら少しヤバそうな雰囲気だっから」
「覚えておきます。それと、ご報告感謝します」
僕は電話を切ると、部屋に寝そべって眠たくもないのに無理やり寝ようとした。胸中に蠢(うごめ)くざわつきを紛らわしたい一心で、眠たくもないのに無理やり寝ようとした。
「……」
しかし、どこぞの昼寝チャンピオンでもない僕が急に眠れるはずなどなく、やはり寝ることなど出来なかった。それどころか、妙な不安感ばかりがどんどん膨れ上がって来て、眼が冴える一方だった。全く、どうして僕が意味の分からない連中に目を付けられて、待ち伏せまでされないといけないんだ。そもそもウチの学校まで来たのなら、そこで目についた女子を自分たちでナンパすれば済む話じゃないか。
悪いことばかりを色々と考えながら顔をしかめていると、再び携帯が鳴った。
「あっ」
それは、登録していない番号からの電話だった。
「……!」
嫌な予感しかしていなかったものの、意を決して電話を取る。
「もしもし」
すると、電話口の相手は僕の想像を上回る程の汚らしい声で、こんなことを言ってきたのである。
「棚田円香はいただいたで、グヘヘ」
どこをどう考えても、間違いなくそれは大林の声だった。
「大林……何の冗談だ、一体?」
「バーカ、冗談なわけがあるかっちゃ」
すると今度は電話口から違う声が聞こえてくる。
「お前、今日俺らーが来た時おらんかったじゃろうが。じゃけえ良さげな女を通学路で待ち伏せして、拉致ったのいや」
偉そうな物言いが込み上げてくる不快感を増幅させる。察するに、と言うより察するまでもなく、この男は大林の仲間ということか。
「あーあ、林葉のせいじゃ。林葉がおらんかったけえ棚田がさらわれたんじゃ」
「ふざけるなよ。約束も連絡もなしに来ておいておらんかったとか、どんだけ自分勝手なんだよ」
「おい、じゃったら俺らーと取引しようで」
大林の不愉快な煽りの後でまた違う声が聞こえてくる。さっきの男とも違う声だから、この男も仲間の一人ということか。
「お前、オバから聞いとるじゃろ?俺らー女が欲しいんよ、それもとびっきりの上玉が」
「ああ」
自分たちのしている行為も顧みずに、よくもそんなことが言えるものである。
「じゃけえ今からええ女を3人連れて来てや、俺らーがおるところまで。そしたら人質を解放しちゃってもええで」
「は?」
「別にええ女じゃったら4人でも5人でも構わんけえ」
「……」
横柄な口調が癪に障るものの、状況を鑑みて黙って聞いておく。
「今夕方の5時ちょい前じゃろ? 俺らー8時までマルヒサの地下駐車場で待っちょいちゃるけえの」
「は、8時までにマルヒサ跡地の駐車場だな」
連中が待ち合わせに指定したのは、数か月前に閉店したスーパーが集客用に作っていた薄暗いパーキングエリアだった。
「そうそう、もし来んかったり遅れたりした時とか、不細工連れてきた場合は人質二人は犯した後で殺しちゃるけえ覚えちょきんさい」
「二人だと?」
通話が大林へと切り替わる。
「それがね、棚田を車に押し込んじょる時に通りすがりの小学生がゴチャゴチャ言うて突っ掛かってきたけえ、ついでに拉致ったんよね」
「それはまた随分なことをしでかしたものだね、よりにもよって小学生相手に」
「あはは、何かえらい余裕じゃね。でもそんな落ち着いちょってええん? このガキ林葉の知り合いみたいよ」
大林の下品な笑い声が遠くなってまたも通話が切り替わる。そこで出てきたのは、あまりにもよく知った女の子の声だった。
「健二お兄さん、あたしだよ、未衣だよ!!」
「……未衣ちゃん!」
それは、紛れもなく僕の大切なコミケ仲間である又下未衣ちゃんの声だった。
「ごめんねお兄さん。未衣が余計なことしたからますますややこしくさせちゃって……」
電話口の向こうの未衣ちゃんが、悲痛な涙声でそんなことを言ってくる。
「違う、未衣ちゃんは悪くない。立派なことをした。それだけは覚えておいてくれ」
「お兄さん……」
悲しそうな未衣ちゃんの顔が容易に浮かび上がってきて、こっちまで泣きそうになってくる。だからこそ、こんな子を平然と拉致ってそれを自慢するかのように話している奴とその仲間どもが許せない。
「安心してくれ、君たちは必ず助けてみせるから」
「うん、未衣信じてるよ。お兄さんが絶対に未衣たちをここから連れ出して……むぐっ!」
「はいしゅ~りょ~。もうしゃべらせんでええけえ、口縛っちょこうで」
最初に出てきた仲間の声がして、未衣ちゃんとの会話が途切れてしまう。
「あーあ、また林葉のせいで女の子が酷い目に遭うわ」
「……」
「ほいじゃあ楽しみに待っちょるけえ。どんなオチになるんか、今からもうワクワクするでよ~」
その憎々しげな言葉を最後に通話が切られて、人生で最悪の通話が終了した。
「くっ!」
右の拳で壁を叩き、歯噛みしながら怒りの感情をギリギリのところで制御する。なにゆえ僕が、僕の大切な人たちが、このような災難に巻き込まれなければならないのか。あまりの理不尽さに、思わず声を上げて盛大に泣きたくなってくる。
――だけど……
今の僕には、どんな苦難も乗り越えられるほどに力強く、頼もしい仲間たちがいる。異常とも呼べる性癖でさえも、笑顔で受け入れ理解を示してくれる同志たちがいる。いつだって、僕の幸せを自分のことのように喜んでくれる、愛すべき人たちがいる。
「そうだよね、ブリリーヌ……」
ふと、目の前の壁に貼ったエロゲーのヒロイン――ブリリーヌのポスターに手を伸ばし、金色のTバックを穿いた大きなお尻に添える。もちろん質感など皆無で、紙越しの壁の感触しか伝わってこなかったものの、それでも心が優しく洗い清められるかのようだった。
「……」
気がつけば、身の回りだけでなく2次元の夢の世界の住人でさえも、僕の味方でいてくれる。そう考えてしまえば、下らない連中のためにウジウジ悩み続けているだけだなんて、実に非科学的でつまらない話ではないか。
――……よし!
僕は両手で頬を叩いて気合いを入れ直すと、大きく息を吐いて円香さんと未衣ちゃんを助けるべく行動を開始した。もちろん、独りよがりな無茶をして火山の火口に落っこちるような、どこぞの親父みたいなヘマはしないと心に誓いながら。
地下駐車場に着いたのは、7時半を少し過ぎたところだった。
「約束通り女の子たちを連れて来てやったぞ」
薄暗い明りを頼りに連中の居場所をどうにか確認する。
「よし、そのままこっちに来い」
駐車場の奥からそんな声が聞こえてくる。そんな場所に好んでたむろしている辺り、何ともステレオタイプな小悪党どもである。
「彼女たちは無事なんだろうな」
言われた通りに前進しながら大事なことを聞く。
「ここまで来い。話はそれからじゃ」
言葉通り手前まで進んで、まずは忌々しい電話をよこした連中のご尊顔(笑)を拝見する。
「……」
なるほど大林も大概だが仲間二人も似たような悪党面で、根性の悪さがにじみ出ているような顔つきである。
「やるじゃん林葉、まさか本当に来るとは思わんかったでよー」
大林がニヤニヤしながら嫌味ったらしく手を叩く。
「拍手なんぞいらん。とりあえず3人、人数分の女の子は用意しておいた」
僕の後ろにいた女の子たちが横並びになって一斉に頭を下げる。
「俺、丸尻桃美な。隣町のリサイクルショップでバイトしてる、ちょいと気の強い元気系女子ってヤツだ」
「私の名前は小口留里子。現役のOLで、自分で言うのも何だけど理論派タイプってキャラかしらね」
「あたしは御手洗花子。あなたたちも知っている、トイレの花子さんよ。信じる信じないは自由だけど」
三者三様の自己紹介を前に、飢えた野郎どもの顔が醜悪に緩む。
「こりゃあ冗談抜きにして嬉しいわいのー、林葉にしちゃあ上出来の上出来で」
「何なん、このオタク感丸出しのド底辺ホモ野郎がこんな上玉本当に連れて来るとか、どんな裏工作使ったんかっちゃ」
「これ、絶対金積んで来てもらっとるで。まー俺らーの女になるんじゃけえ、こいつの懐事情なんかどうでもええわ」
こちらもこちらで三者三様の腹立たしい褒め言葉や見解が飛び交っている。だが、今はそれよりも。
「彼女たちを出してくれ。約束をしていたはずだ」
「うっさいのー、ここにおるいや」
連中が両横に動くと、その後ろには体を縛られて口にガムテープを貼られた、円香さんと未衣ちゃんが横たわっていた。どちらも意識はあったもののうつろな目をしていて、まるで精気を失くした人形のようだった。
「円香さん、未衣ちゃん!」
「良かったの。どっちも無事なの確認したんじゃけえ、お前安心して帰ってええで」
二人に駆け寄ろうとした僕の前に、大林の仲間二人が立ち塞がる。
「おい、どういうつもりだよ」
「お前もう用済み。後は俺らーで楽しゅうやるけえとっとと帰れ」
「そうっちゃ。お前は家に帰ってズリセンでもこいとれっちゃ」
吐き捨てるようにそんなことを言われ、右肩を強く突き飛ばされる。つまり僕だけを帰らせて、人質は返さないという魂胆か。
「良かったじゃん林葉。お前は無事に帰らしてもらえるんといや」
大林が横から嫌味ったらしい笑顔で覗き込んでくる。
「ご苦労じゃったね。後のことは俺に任せて一人で寂しく帰りんさい。あ、帰り道で絡まれても責任は取らんけえね」
気味の悪い笑顔でバシバシと左肩を叩いてきながら、楽しそうにそんなことをほざき散らす。
「……」
もういいよね、ここまでやられ続けたのだから。
「……君たちのことは、骨の髄までよく分からせてもらったよ」
『はぁ~~?』
脅しの意味なのか、大林たちが顔芸のような形相でにらみつけてくるも、僕はひるむことなく続ける。
「悪いけど、いじめられっ子にも最低限の意地というものがあるってこと……ねっ!」
左手の人差し指を天井へと突き上げる。
『???』
連中が、つられるかのようにそれを見上げたのが作戦開始の合図だった。
「今だっ!!」
僕のかけ声とともに桃美ちゃんと留里さんと花子さんが一斉に動く。
「うらあっ!」
ボゴオッ!
桃美ちゃんは、威勢の良いストレートを全力で大林の顔面へと炸裂させた。
「ぶへらっ……!」
酷い顔で殴り飛ばされる大林に、痛そうだとは思いつつも一切の同情をせずに続いては。
「ごめんあそばせ。今日は護身道具を忘れちゃったから、お得意の寝技を披露させてもらいます☆」
留里さんが、大林の悪友Aを押し倒して足四の字固めで締め上げる。
「ひぎーっ! 骨が折れる、ひぎぃ~~っ!」
「あらあら、さっきまでの偉そうなお口はどこへお隠れになったのかしらねぇ」
せめて、首四の字でもさせてもらえれば慰めにもなるだろうと考えながら。
「赤いリボンと青いリボン、どっちがあなたのお好みかしら?」
大林の悪友Bは、上着を脱いで自分のシャツで自分の首を締めていた。もちろん脱衣から締め上げに至るまで、自分の意思ではなく花子さんの念力である。
「ぐへっ、げへっ、がへっ!」
「安心しなさい。落ちる(=気を失う)直前で、何度も寸止めを繰り返してあげるから……」
三者三様でなかなかにハードなお仕置きをしてくれているみたいで実に清々しい。だけど、僕が今すべきはそれを観賞することではなく。
「待たせたね。もう大丈夫だよ」
僕は、今度こそ円香さんと未衣ちゃんの元へと駆け寄り、ガムテープをはがして二人の縄をほどいてやった。
「お兄さぁぁん!!」
未衣ちゃんは、大声で泣きじゃくりながら僕の胸に飛び込んできた。
「怖かったよぉ、未衣殺されるんじゃないかと思ったよぉ!」
「よしよし、未衣ちゃんはもう何も心配しなくていいんだよ。後は迎えを待ってお家に帰るだけだからね」
「……」
未衣ちゃんの頭を撫でている僕を円香さんが見つめている。
「健二君ってずるいよね。いつも要領が悪うて素で底辺男子を演じられるようなダメンズのくせに、こんな時だけは人一倍カッコ良くなっちゃうんだから」
「何だよ、君はいつもそんな目で僕を見てたのかよ」
あながち嘘ではないので否定はしないけど。
「ありがとう、お礼は言っちょくわ。言葉だけじゃ足りんじゃろうけど」
「おーい健二! 害虫駆除が終わったぞー!!」
しっとりとした空気を遮るかのように桃美ちゃんの声が響く。
「ちょっと待っててね」
激しい戦闘(お仕置き)を繰り広げていた場所に戻ると、大林たちが酷いやられ顔でノックアウトされていた。
「……」
桃美ちゃんに袋叩きにされて、鼻が曲がって歯を数本へし折られていた大林。
激しい寝技攻撃で、四肢の関節が曲がってはいけない方向に曲がってしまった悪友A。
締め上げの寸止めを繰り返されて、ついには恐怖心とともに白目を剥いて気を失った悪友B。
「やるにはやったけどよ、どうすんだこれ?リサイクルゴミにも使えねーだろ」
「そうね。人間便器もいいけどこんな汚い顔の便器はまっぴらごめんだわ」
「心配はいらない。彼らの身柄は然るべきところに引き渡す準備が整っているから。ね、花子さん」
「ええ。彼氏が欲しいと言っていた、あたしの仲間たちがそろそろ来る頃よ」
程なくして、駐車場に背の高い3人の女性がやって来る。全員共通してコート姿で髪が長く、大きなマスクを付けている。
「ねえ花子、あたしたちの彼氏というのはこのおチビな男の子かしら?」
「違うわ、彼はあたしのステディよ。あなたたちのお相手はここで寝そべっているこの人たち」
花子さんが地面に沈んでいる大林たちを指で示す。と言うか、いつから僕は花子さんのステディになったんだ。
「あら、花子のステディよりもいい男たちばかりじゃないの。これは即刻お持ち帰りね」
「そうね、こんな男たちにありつけるなんて、ここに来た甲斐があったわ」
「そうねそうね、拒否ったら八つ裂きにしちゃうけど、それまではあたしたちのステディはこの子たちで決まりよ」
3人の女性は、大林たちを肩に担ぐとケラケラと笑いながら満足そうに帰って行った。ちなみに、マスクの端から大きな口がチラリと見えていたのは、内緒である。
「なんつーかよぉ、アレってつまりさ、その……」
「人間誰しも触れてはいけない部分があるんだから、それは言いっこなしよ。ま、彼女たちは人間ではなく妖怪になるけどね」
桃美ちゃんも留里さんも、ある程度以上の見当はついていたのだから。
「何なんあの人たち……そりゃ大体分かってはいるけどさ、一人でトイレにけなくなっちゃうじゃない」
「未衣ビックリだよ~~。花子さんって、あの人たちとも知り合いだったんだね」
円香さんと未衣ちゃんだって、ある程度以上の見当はついていたのだから。
「さて……」
おおよそ一段落ついたところで、僕は桃美ちゃんたちに向き直って深く頭を下げた。
「桃美ちゃん、留里さん、花子さん。ご協力感謝する。君たちがいなければ、僕にはどうすることも出来ず一人で突っ走って、最悪の結果を招くところだった。本当に礼を言う」
大林たちからの電話の後で、僕は方々に協力を要請していた。隣の部屋で深酒をしてすっかり眠りこけていた留里さんを起こし、勤務先のリサイクルショップに電話を入れてまで桃美ちゃんを呼び出し、隣町のD小でトイレ覗きを満喫していた花子さんを思念の力で招集し――そうやって、そうまでして僕は可能な限りみんなの力を借りて、この救出劇を成し遂げたのである。
「礼には及ばねーっての。俺は単に、弱い奴らに集団で牙むきやがるゲスどもが許せねーだけなんだからよ」
「いいのよ健二君。私のエッチなお戯れに付き合ってくれるあなたのためなら、いくらでも力になってあげるわよ」
「あなたのためじゃないわ。どちらかと言うと未衣ちゃんのためなんだから、勘違いしないでちょうだい」
みんな口々にそんなことを言ってはいるが、それでも僕のために動いてくれたことには変わりない。
「これからも僕たちは、同じ嗜好を持つ最強にして最高の同志だ。それだけはいつも覚えておいてくれ」
「けっ、お前の場合は普段が普段なんだから、そんなこと言われても笑いが出ちまうっての」
ギュム。
「素敵な言葉ね。感動し過ぎちゃって私、オチンチン触りたくなっちゃう☆」
ギュム。
「せっかく可愛い子がウンチしてるところをを覗いてる時に呼び出した、ほんのお返しよ」
ギュム。
「みんな……」
「んじゃ俺帰るわ。健二、いくら良いスカ本買ったからって、あんまりオナニーばっかしてんじゃねーぞ」
「私も帰らせてもらうわね。何せまだまだ飲み足りないんだもん、燃料補給しなくっちゃ☆」
「……まだ、スーパーのトイレなら美人が覗けそうな時間帯ね。あたしはこれで失礼するわ」
彼女たちは僕のペニスを握ると、最高にして満面の笑顔とともに別々の道へと去って行った。
「……」
そう、これで良いんだ。いつもは適度に距離を置きながら、いざという時には協力して助け合い、喜びも悲しみも怒りも分かち合う、そんな関係。これこそが、僕と彼女たちのあるべき姿なのだといなくなってから改めて実感する。
「健二君の仲間って面白いよね。みんな変わっちょるのに、嫌な人は一人もおらんのんじゃけえ」
「それが大事なんだよ。僕はどれだけ社交的で冗談の言える人でも、他人を不愉快にさせるような奴とはなるべく関わらない主義だから」
「未衣も大きくなったら、桃美ちゃんたちみたいな女性になれるのかなぁ」
「なれるよ。未衣ちゃんが今の気持ちを忘れずに、大人の階段を登り続ければね」
残った円香さんたちと他愛ない話をしているところで、強い光が視界に入って車が一台やってくる。
「誰よ、こんな場所に」
「迎えだよ。彼女にもあらかじめ、ここに来るよう連絡しておいたんだ」
ドアが開いて、運転席からあまりにもよく知っている女性が降りてくる。
「健二君、事が済んだんじゃったら帰ろうかね」
「はい!」
僕は勢い良く返事をして円香さんたちと一緒に香子先生の車へと乗り込んだ。
もちろん、助手席は僕だった。
「話は聞いたよ。健二君、お手柄じゃったね」
「いえいえ、僕一人ではなくじゃなくみんなの力です」
帰りの車内で先生に労をねぎらわれる。彼女に褒められるのは内心激しく嬉しかったが、それでも僕は謙虚に受け答えた。
「ほんと、先生が戦えるようなタイプじゃないけえ、こんな時に役に立てんでごめんね」
「気にしないで下さい。こうして車を出してくれただけで、僕たちは大助かりなんですから」
こういう時に車を持っている人がいてくれると本当に頼もしい。僕にとっては、先生もまた愛すべき人にして心から頼れる人なのだ。
「ところで、円香さんと未衣ちゃんがさっきからずっと黙っちょるけど、寝ちょるんやろうか?」
「そういえば後ろがやけに静かですね。まさか、肩を寄せ合って二人で……」
振り返ると、そんな可愛らしい予想とは遠くかけ離れたような、汗だくの二人が明らかに何かを我慢しているかのような顔つきで体を震わせていた。
「健二君。あたし、限界……ト、トイレに……」
「み、未衣も。ずっとトイレに行けなかったから、オマンマンもお尻も苦しい……」
いや、何となくそんな気はしてたんだけど、やっぱり生理現象だったのね。
「先生、すぐにトイレに寄りましょう。コンビニでも何でもいいから」
「そうじゃね。先生もちょうど行きたいところじゃったけえ」
そんな感じで車を走らせていると、案外すぐに駐車場付きの公衆便所が見つかった。
「あ、早速ありましたよ。あそこに止めましょう」
「うん」
車を止めたそのトイレは、衛生面では行き届いていたものの男女共用で明かりは薄暗く、小便器と個室が一つずつ隣り合っている、至ってシンプルな構造だった。だからこそ、あんなことが起きた後だと一人で入るには、あまりにも抵抗があるわけで。
ブシャァァァァァァーーーー!!
「あ~気持ちいい~~。未衣、こんなにオシッコで幸せな気分になれたの初めてだよ」
「確かに、溜めに溜め込んでから出す時ってすごく開放感があるからね、分かる分かる」
僕に見守られながら、未衣ちゃんは一段上の和式便所の上に跨って盛大に放尿した。
「このお尻を丸出しにして屈んでる姿を、お兄さんに見られてるドキドキ感もたまらないんだよね~☆」
「おいおい、そうやって実況されるとガマン汁が出ちゃうだろ」
「ふーん。でも、未衣はウンチが出ちゃう」
「えっ」
ムリムリムリッ……ムリュッ! ムリリッ、ブプッ! ムリムリメリッ!
未衣ちゃんの肛門が開いて、健康な便が一気にひり出される。
「や~ん。昨日お肉食べ過ぎちゃったから、ウンチが何だかくっさ~い」
「未衣ちゃんはこれで終わりだからいいけど、僕はこの後もそのまた後も待ってるんだぞ」
クチュッ、クチュッ!
この後の展開を考えて、嬉し恥ずかしな気分になりながら未衣ちゃんのお尻を拭く。言うまでもなく、一拭き目は未衣ちゃんのウンチがベットリである。
「お兄さんのお尻の拭き方って、手慣れてるけどさり気なく未衣のお尻を触ってる辺りがエッチなんだよね」
「いや、それは一種の不可抗力だったり……」
「うそうそ。お兄さんがフキフキに便乗して、お触りするぐらいの知恵を持っていることぐらいは未衣だって気付いてるんだから」
「やれやれ、未衣ちゃんは小学生なのに鋭いね。流石の僕もやられちゃったかな」
ムニュッ。
「も~。言ってるそばから優しい手付きでわしづかみしちゃうんだから~」
「あれれ、フキフキする手に力が入り過ぎちゃったかな」
触られながらもニッコリ笑顔な未衣ちゃんの姿が、この上なく微笑ましかった。そうやって、僕は楽しく談笑しながら、未衣ちゃんのお尻を拭き続けたのである。
ブシャァァァァァァーーーー!!
「ぼ、僕がここにいていいのかな」
「ええに決まっとるじゃろ。あたしがこのトイレで痴漢に出くわしたらどうしてくれるん」
僕の前で、円香さんが一段上の和式便所の上に跨って盛大に放尿していた。
「それに、健二君ってこういうの好きなんじゃろ。だから、その……女の子がオシッコとかウンチしよるところを見て楽しむ、ス、スカトロっちゅうジャンルが」
「うん、確かに好きだよ。僕はスカトロジストだもん」
「何それ、気持ち悪いこと言わんといてや」
ブボッ!
円香さんが、半ば侮蔑の意味を込めてむき出しのお尻から放屁する。
「で、でもさ。助けてくれたわけなんだからさ、ウンチしよるとこ見せちゃげるぐらいは悪くないかな~とか思っちょったりさ……」
便器の縁に密着していたお尻を少しだけ浮かせながら、円香さんが肛門を開く。
「うん……んっ……」
「大丈夫? 便秘なの?」
「ま、まぁね。でも、ちょっと気張れば出てくるじゃろうけえ、心配はせんでええよ」
円香さんが一つ大きく息を吐いて、力強く踏ん張る。
「んっ、んっ、う~ん……」
ムリムリムリムリムリムリメリリッ……ビチャッ!
よほど便秘が続いていたのか、円香さんはかけ声とともに太くて硬い一本糞をひり出した。
ブリブリッ、ビチャ!!
程なくして、それに便乗するかのように緩めの便がビチビチと姿を見せる。そのあまりにも官能的な光景に、未衣ちゃんの時に同じく僕のペニスはカチカチになっていた。
「ま、円香さん、すごいよ! 果てしなくエッチだよ!」
「勘違いせんとってよね。あたしは健二君に助けてくれたお礼として、トイレを見せてあげよるだけなんじゃけえ。間違っても、健二君とエッチするような獣姦レベルの奇行はせんのんじゃけえ、よう覚えちょきんさいよね」
……って、僕とエッチするのは獣姦レベルの奇行だったりするのかよ。ま、トイレさえ覗かせてくれればそれで一向に構いやしないのだけど。
「ついでにお尻を拭いてっちゃ。健二君なら喜んでやってくれるんじゃろ?」
「う、う、うん」
僕は、微妙な空気の中で初となる円香さんへのフキフキを開始した。時折、自然体を装いながらお尻を愛撫したのだが、その都度ギロリとにらまれていたのは言うまでもない。
「さっきの小学生もウンチしよったんじゃろ。トイレの中がぶち(=ものすごく)臭いんじゃけど」
「それは言わないでくれ。僕はこの後も、ここで待機しなくちゃいけないんだから」
便質の問題なのか、円香さんのお尻は未衣ちゃんほど汚れてはおらず、思ったほどペーパーを使わずに拭き終えることが出来た。ちなみに、ツルツルの未衣ちゃんに対して、彼女の局部は年相応に毛が生えそろっていた。
ブリッ、ブビッ、ブビビビビッ! ブリリッ、ビリビチャッ!!
「さっきからお腹が痛うてやれんかったんよね。ここでウンチしちょいて正解じゃったわ」
僕の前で香子先生は、一段上の和式便所の上に跨ってのっけからすごい下痢便を噴き散らした。
「さっき未衣ちゃんも円香さんもウンチしよったんじゃろ? こもっちょる便臭が先生のウンチと混じり合ってすごい臭うね」
「はい。最初からいた僕なんか、どんどん臭くなる過程を体通り越して骨身で感じています」
「うん。じゃけどみんなのお尻を見ることが出来たんじゃけえ、健二君は良かったって思わんと」
プシャァァァァァ……
先生が一息を吐きながら放尿する。
「そうですね。まさか、僕以外のみんなが催しているなんて思ってもいませんでした」
言うなれば、これもまた嬉しい意味でのハプニング――ラッキースケベというヤツか。
「健二君、先生まだ出そうじゃわ」
ブリリリリ! ブッ、ブビビ! ビリビリビチチッ、ビチャア!!
再び先生の大きくて綺麗な桃尻から、下痢便がひり出される。気がつけば便器の縁にまでウンチがこびり付いていて、先生は見事なまでのはみ糞をしでかしいた。
「……こんなエッチで汚い先生やけど、健二君は嫌いにならんといてくれるんやろうか」
「何も心配はいりませんよ。香子先生は僕の人生で最高にして最良の教師です」
クチュッ!
既に準備していたペーパーで先生のお尻を拭く。その下痢っぷりもあって、先生のお尻は未衣ちゃん以上にベットリ便の感触が生々しかった。
「断言します。僕にとっては香子先生以上の教師などいないし、永遠に現れることなどございません」
ムニュッ、ムニュッ。
先生のお尻を愛撫しながら揉みしだく。
「覚えておいて下さい。先生のお尻に触れるこの手の感触こそが、僕の偽らざる気持ちです。これこそが言葉の足りない僕からの愛情表現です」
「な、何かまるで手慣れた痴漢さんみたいなええ手付きやね」
「そうですね。もしかしたら僕は、林葉健二は香子先生限定のプロ痴漢だったりするのかもしれません」
「うん。そういう痴漢じゃったら、先生も嬉しいけえ歓迎したいね」
少しネジの飛んだような会話をしながら、僕は納得するまで先生のザラザラな局部とお尻を拭き続けた。個室の中は3人の便臭が混じり合い、尋常でなく酷い臭いが充満しているはずだったが、もはや少しも気にならなくなっていた。
「送って頂いてありがとうございました」
「うん。ほいじゃあまた明日学校でね」
アパートの手前で降ろしてもらった僕は、深く頭を下げて先生の車を見送った。ちなみに、円香さんも未衣ちゃんも家に着いて既に降りていたので、後は先生も自宅に帰るだけだった。
「……」
この2日間で色々と大変な思いをした。絡まれて、無茶を強要されて、大事な人をさらわれて。一方で、頼れる仲間たちとともに戦って、守るべきものを守ることが出来た、そんな素晴らしい2日間でもあった。おそらく僕の性格では、これからも数多の苦難や災難が容赦なく降りかかってくることは想像に難くないだろう。下手をすれば、今回以上に厄介な連中が今回以上に面倒事を引き起こし、それに巻き込まれることだって十分に考えられる。
――だけど!
僕にはちょっと変わってて、かなりエッチだけど力強くて頼もしい仲間たちがいてくれる。いつも僕のことを見守ってくれている、美人で優しい香子先生がいてくれる。
――……ならば!
どんな苦難や災難が待ち受けていたとしても、僕自身がしっかりしていれば、きっと彼女たちと一緒に乗り越えて行ける。そして、その先で喜びを分かち合って、更なる絆を深めることが出来る。そうやって前向きに考えれば考えるほど、見えない未来も輝いて映し出されるというものである。
「……」
僕は、満天の夜空に手を合わせて小さく拝むと、大きく深呼吸をして我が家への階段を登った。
明日からもまた刺激的な日常が繰り広げられる、そんな期待に胸を躍らせながら。