第31話(壱) はた迷惑な勉強会
金曜日の下校時間、僕は寒い帰り道を一人で歩いていた。今日はいつも一緒に帰っている同級生の泰ちゃんもおらず(サボり)、完全なぼっちモードだった。
――全く。彼女と一緒に休むとか、魂胆がミエミエだっての……
白い息を吐きながら、手袋越しでも冷えてくる両手をギュッと握りしめて、冷たい風に体を震わせる。
こんな日はさっさと帰って熱いお風呂とホットココアで暖を取るに限る。そんなことを考えながら、僕が足早に我が家を目指していたその時だった。
「おう、健二じゃん。探しちょったで」
草葉の陰から他校の制服を着た男子生徒が現れて、そんなことを言いながら僕に絡んでくる。
「君は……」
そこにいたのは中学時代の同級生・信吉(しんきち)だった。おそらく本人は気付いてないだろうけど、僕にとっては間違いなく当時厄介な相手だった連中の一人である。
「……何の用だよ。僕は君に探されるような理由なんて何もないぞ」
「明後日の日曜日、図書館で勉強会やろういね」
「えっ?」
突然に妙な誘いを受け、思わず声を上げて困惑する。信吉は一体どういう意図があって、数年ぶりに会った僕と一緒に勉強会をしようなどと考えているのか。
「ねー、暇なんじゃろ? じゃったら俺に付き合ってや」
「う、うん、暇ではあるけど……」
「じゃあ決まり! 明後日の朝に一水図書館でね!」
信吉は一方的にそこまで言うと、返答も聞かずに僕の肩を思いきり叩いてどこぞへと走り去って行った。
「……」
全く、本当に何を考えているのだか。
「……貴様、本当にロクでもない奴らに絡まれやすい体質を持っているのだな」
「あっ……」
一人で途方に暮れていた僕の背後に、気がつくと赤マントがいた。相変わらず不気味な仮面をつけていて、素顔は見えなかったけど。
「それにしても、どこの高校かは知らんが、あんな醜悪な男がよく入学など出来たものだ。裏金でも積んで、教育委員会を買収でもしたのか」
「……彼は、軽度の障害児なんです」
僕は、口調が明らかに怒気を含んでいた赤マントに、信吉の身の上を明かした。彼が、軽度の障害ゆえに多少の悪さをしても咎められなかったこと。彼が、昔から攻撃的な性格を孕んでいて方々で問題事を引き起こしていたこと。そして……彼が『自分は障害を持っているから何をしたって許される』と認識して、増長していたこと。
僕は、どういうわけだか大した面識もない赤マントに、そんな話を打ち明けていたのである。
「なるほど。軽度の障害ゆえに、己の立場を利用して悪事を働く悪知恵を持ち合わせている小悪党……ということか」
「はい。だからこそ、食ってかかる相手を選ぶ程度の頭も持ってます。それこそ、まず抵抗しそうにない大人しそうな人を見るたびに彼は……」
「そこまでだ」
話の途中で赤マントが僕の眼前に手をかざす。やはり彼でも不愉快な話をこれ以上は聞きたくないのだろう、僕はそこで話すのをやめた。
「おおよその事情は理解した。貴様は約束通り、図書館に行って奴に付き合ってやれ」
赤マントが僕の肩に手を添えて、そんなことを言ってくる。つまり、僕に大人しく信吉の相手をしろということか。
「正直、僕はあまり気が乗らないんですけど……」
「いいから行ってやれ、私に考えがあるのだ」
その言葉を聞いて、淀んでいた僕の心に少し光が射してくる。これまで何度も人に騙されてきた手前、単純に他人を信じるのはあまり好きではないけれど、何度となく僕を助けてくれている赤マントが言うのなら、ひょっとして。
「……分かりました。ならば、あなたの言う通り日曜日は彼の勉強会に行くことにします」
少し悩んだけど、僕は赤マントの指示に従って、信吉の誘った勉強会とやらに付き合うことにした。
「当然だ。何せ、貴様はそもそも成績があまり良くないのだからこういう機会に少しでも……」
「どうしてあなたが僕の成績を知っているんですか?」
「……うむ。直感だ、直感。貴様は少しぬるそうな雰囲気をしてるからそんな風に見える、それだけの話だ」
少し腑に落ちない部分もあったけど『彼を信じていればきっと良い方向に進むことが出来る』と、僕の中に漠然とした考えが芽生えていた。
気がつけば、日曜日を心待ちにしている僕がいた。
そして迎えた日曜日、僕は開館時間の5分前に図書館に到着した。何の冗談か信吉は既に来ていて、まだ稼働していない自動ドアの前で腕を組んで仏頂面を浮かべていた。
「何しとったんか、遅いじゃろうが!」
「いや、まだ開館時間でもないのに何を言ってるのさ」
まともに待ち合わせ時間すら決めず、一方的に約束を取り付けておきながらこの言い草である。一体そんなに早く来て、この寒空の下で何がしたいと言うのか。
「ほんま、俺は広大(=広島大学)を狙って勉強しよるんじゃけえね! 遊びじゃないんよ!」
「それで、他に誰か呼んでないの?」
「おらんおらん。お前しか呼んじょらんのんじゃけえ、感謝しんさい」
仏頂面が一転、信吉が気持ちの悪い顔でニタリと笑い出す。おそらく、誘ったところでこんな奴の勉強会に付き合う物好きなんて、いるとは思えないけど。
「クソッ、まだ開けてくれんのんかこのボロ図書館は」
信吉が勝手に業を煮やして稼働前の自動ドアをガンガンと蹴り上げる。その姿は見苦しく、僕以外の開館待ちの利用者たちもその愚行に呆れた視線を向けていた。
「まーええわ、ちょっと飲み物買ってくるけえ待っちょて」
信吉がまた仏頂面に戻り、不愉快そうに少し離れた場所にある自販機へと足を運ぶ。
「うわっ」
すると次の瞬間、信吉は何もない場所で盛大にすっ転び、アスファルトの地面に顔面クラッシュをしたのである。
――あっ……
何もない場所に、うっすらと少女の姿が浮かび上がる。信吉や周囲の人たちには見えていないのだろうけど、僕にはハッキリとそれが見えていた。
そこいたのはトイレの花子さんだった。つまり、花子さんが信吉に足をかけたのである。
――花子さん、ありがとう。スッとしたよ。
――健二、あたしも見守ってるから頑張るのよ……
親指を立ててポーズを決める花子さんに、親指を立て返して笑顔を向ける。無様な姿をさらす信吉を笑っている周囲の喧騒の中で、僕たちはさり気なく互いの気持ちを繋げ合っていた。
開館後、自習室で勉強会を始めて1時間半が経過していた。しかし、信吉は僕の分からない問題に助け舟を出そうとは一切せず、仏頂面を引っ下げて自分の勉強ばかりを進めていた。
「なぁ信ちゃん、ここの化学式ってどうやったら……」
「知らん、そんなもん自分でやれ!」
自習室の静寂を引き裂くかのように、信吉が机を叩いて大声を張り上げる。周囲の迷惑をものともせず、既にこれで3度目のおたけびだった。
――これなら家で一人で自習してる方が何百倍も気が楽だよ……
信吉の態度にウンザリしながら、分からない箇所を飛ばして次の問題に移る。だが、その前にまたしても机を叩く音が僕の自習を妨害する。
「どうしたんだよ今度は?」
「ティッシュ。鼻水が出るけえチリ紙よこせ」
考えるまでもなく、室内の自習客が僕たちに冷ややかな視線を向けてくる。しかし、それでも信吉は僕をにらみ付けながら机を叩き続けていた。
「早う貸せっちゃ! 持っとるじゃろうがお前!」
「ちょっと待ってくれ、まさかポケットティッシュとか持たずに歩いてるのかよ」
「うるさいっちゃ! 今日はハンカチもチリ紙もお前のを借りるんじゃけえ関係なかろうが!」
どうやら、信吉は僕の想像以上に容姿だけでなく、根性も悪いという救いようのない男のようだった。
「いい加減にしないか。そうやって一人でわめき散らして、どれだけ周囲の人に迷惑をかけていると思っているんだ?」
「黙れっちゃ。健二の分際で俺に指図するとか何様のつもりで……」
信吉が尖った鉛筆の先端を僕の右目の前でチラつかせていたその時だった。
ガン!
「ぐへえっ!」
天井から落ちてきた大型タライが頭上に直撃して、信吉が目を剥いて気絶する。見上げると、天井の壁が開いていて、またしてもそこに花子さんがいた。
「なんだなんだ、あそこの天井からタライが落ちてきたぞ、ド〇フか?」
「おい、さっきのうるさい奴がのびちまってるぞ。これで落ち着いて勉強が出来そうじゃねーか」
周囲の喧騒をよそに、今度は僕の方から花子さんに親指を立ててポーズを決めてみる。
――少しぐらいなら見逃してあげたけど、ここら辺が限界だったわ。この下品な男には良いクスリになったんじゃないかしら?
――ナイスだよ、花子さん。僕もスッキリした。だけど、この粗大ゴ……いや、信吉の奴をどうすれば……
花子さんと心を通わせながらも、のびている信吉の処理をどうすればいいのかと考えていたところに、見覚えのある男性が姿を見せる。
それは、我が校の美術教師にして、僕のクラスの副担任を務めている笠松範人先生だった。
「いや~~すまんすまん。これ、ドッキリカメラのリハーサルだったんだけど、君たちには伝達が行き届いてなかったみたいだな、悪い悪い」
「笠松先生、どうしてここに……」
「どうもこうも企画だよ、企画。ちょっとした余興のつもりで打ち立てたつもりだったんだが、コイツには刺激が強すぎたみたいだな」
笠松先生が自然体を装いながら、僕に笑顔を向けてくる。凛々しさに満ち溢れているその笑顔は、僕の目にとても頼もしく映っていた。
「どうでもいいけど先生、頭踏んでます」
「ああそうか、失敬」
偶然か必然か、先生が信吉の後頭部を踏みつけていた右足を離して、その足で彼を押しどける。
「とりあえず、コイツの処置は俺に任せておけ。勉強したいと言うのなら、俺がみっちりしごき上げて広大でもハーバードでも入れさせてやる」
「そうですね。僕なんかよりも先生と勉強した方が信吉の身に入ると思うので、よろしくお願いします」
「うむ、教科書以上の模範解答だ」
先生は、信吉の首根っこをつかむと、引きずりながら自習室を後にした。その背中には、惜しみない拍手が送られていた。
――でも、どうして……
感謝をするのは当然として、先生が今日ここに来ていた理由は結局分からずじまいだった。
ズドドドドボ!バキベキッ、グシャッ、グワキィン!!
程なくして、先生が去った方角から豪快な打撃音が響き渡ってきたが、それでも疑問が解けることはなかったのである。
「で、あたしに範人が来ていた理由を聞いてみたいってわけ?」
「そうなんだ。花子さんなら何か事情を知ってると思ってこうして穴場に連れ込んだんだけど……」
あれから、どうにも勉強に身が入らなかった僕は、花子さんと一緒にトイレ(男女共用)で小休止を取っていた。だけど、その花子さんも流石に笠松先生の事情までは把握してそうにはなかった。
「あたしには何とも言えないわね。そりゃあ調べ物があったのかもしれないし、読みたい本があったのかもしれないし、理由なんて分かりっこないじゃない」
「花子さん……」
「でも、あたしがここに来ていたのは健二。あなたを守るため、それだけよ」
ギュム。
花子さんが僕のペニスを一握りして、和式の個室へと入って行き、反射的に僕もその後に続く。
「もう一つ教えてあげるけど、あたしに勉強会の話をしてくれたのは例の赤マントの男だったわ」
「そうなんだ、彼が……」
僕が新しい事実に妙な感覚を覚えているのを尻目に、花子さんがパンツを下ろしながら和式便器に屈む。何の酔狂か、彼女は逆跨ぎをしていて、金隠しの方にお尻を向けていた。
「この前、近所の工場のトイレにこんなカッコで屈んでる新人の子がいたの。面白そうだったから、ちょっと試してみるわ」
プシャァァァァァ…………
花子さんが僕に視線に動じることなく当然のように放尿する。相変わらず彼女の局部はツルツルで、無毛地帯を継続中のようだった。
「ねえ健二。範人のことはもういいから、オマンマンを拭いてくれないかしら?」
「う、うん。分かった」
僕は言われた通りペーパーを抜き取って体を屈め、花子さんの局部に添えてやる。すると、無毛地帯の感触が手を通じて全身に伝わってくるかのようだった。
「やっぱりいいな、ツルツル……花子さんのオマンマンをこんな場所で見られるだけでも、僕にとっては大収穫だよ……」
「フフッ、家でもいつも見せてあげてるのにそんなこと言っちゃって、可愛い子ね……」
花子さんとキスをしながらトイレの中で淫靡な時に酔いしれる。結局、勉強の成果は上げられなかったけど『性教育』という課外授業で大切なものを得た、そんな日曜日の勉強会だった。
第31話(弐) 新時代の和式便所
「健二君。俺は今、玖粗久井(くそくい)荘の女子トイレを改修しようと思っている」
昼休み、屋上でメロンパンをかじっていた僕の前で、そんなことを言いだしたのは副担任の笠松先生だった。
「先生、何ですかいきなり……食事中に便所の話をするなんて、志〇けんのコントじゃあるまいし」
「すまんすまん、大事なことだったから君には伝えておこうと思ってな」
僕の隣に座って、先生が愛妻弁当のサンドイッチを食べながら続ける。
「聞くまでもないとは思うが、玖粗久井荘のトイレは知っているだろう?」
「はい。男子トイレは近代的で、女子トイレの方は前時代的でしたね」
先日、先生の案内で漫画家たちが集うアパート『玖粗久井荘』の内部を見せてもらったので、トイレに関してはしっかりチェックを済ませていた。メッキとはいえ純金に彩られた内装と、ミントの香りが漂う空間に、ロイヤルブルーの小便器と洋式便器(温水便座)が三つずつ備わっている、セレブの屋敷と錯覚しそうな男子トイレ。そして、ピンク色の塗装がところどころ剥がれ落ちていて、便臭漂う空間に、ポットンの和式便所が一つだけ置いてある、戦前の学校を彷彿とさせるような女子トイレ。
前にもどこかのトイレで酷似したものを見たような記憶があるが、女子トイレの哀愁感漂う荒廃ぶりがその時以上に悲惨だったことはハッキリと覚えていた。
「今までは管理人のヒロミ婆さんがどさくさに紛れて男子トイレを使っていたから良かったのだが、柿津君が来てからは女子トイレにも本格的に需要が生まれてね」
「確かに柿津さんのお尻は魅力的で、和式トイレのよく似合う女の子だとは思いますけど、あんなトイレを使わせ続けるのはしのびないですからね」
玖粗久井荘の新しい管理人となった柿津詩織さんの清楚な姿を思い出しながら、ふっと彼女の排泄姿を妄想してしまう。
――良い、実に良い!すごく良いよ、柿津さんっ!
和式便所に屈み、大きなお尻から一生懸命ウンチをひり出そうと、汗水たらして気張っている柿津さんの艶姿が脳裏に描かれて、股間が否応なく熱を帯びてくる。
「健二君。妄想するのは勝手だが、出来れば俺の話を聞き終えてからにしてくれないか」
「あ、すみません。頭が異次元空間に飛んでいました」
先生に突っ込まれ、ようやく我に返る。とりあえず今は、妄想ではなく現実に柿津さんのトイレライフを充実させることが最優先事項である。
「それに、この間は奈美子君がトイレの中に落っこちてしまってね。糞尿まみれになって、それはもう大変だったんだよ」
「あの子は一体、何をやってるんですか」
「その翌日には女性のお客さんが二人来て、同時に便意を催したのにトイレが一つしかなくて、結局一緒に跨って排便をして便器周りをベチャベチャに汚してしまってね」
「それはまた、アンソロの作家陣に最高のネタを提供してしまいましたね」
どうやら、女子トイレの件は柿津さん一人の問題ではなく、多くの女の子たちのひり出す快楽に悪影響を与える深刻な問題と考えて相違なさそうだった。
「とりあえず改修費は俺と住人たちで賄うとして、健二君には知恵を提供してほしい。どんなトイレならば、柿津さんや奈美子ちゃんが幸せにひり出せるかを考えてみてくれ」
「はい、分かりました」
先生の真摯な眼差しに使命感を感じた僕は、迷うことなく二つ返事で承諾した。こうして、僕は費用の負担こそ免れたものの、発想の面で玖粗久井荘のトイレ改修に携わることとなったのである。
放課後、家に帰った僕は早速メモ用紙に自分なりの改善案を書き殴ってみた。
――まずは、ポットンを水洗便所に変えることを推薦しなくちゃな……
水洗型和式便所への移行。塗装の全面的リフォーム。消臭剤と消毒液の設置……考えるべき案件は数多くあったけど、一つだけネックになっている部分があった。それは、個室の設置数である。
「すまないがスペースと水圧の関係上、女性の客人が多いとはいえ個室は一つしか作れない。それを頭に入れておいてほしい」
承諾後、後だしジャンケンのように笠松先生はそんなことを言ってきた。まるで、僕を試しているかのように。
――いくら周囲を繕ったところで、肝心のトイレが一つだけだと、また複数の女性が催したら同じことの繰り返しになってしまう。それを阻止するためには……
大事な部分がモヤモヤとしていて良い案が浮かんでこない。ちょっとだけ『女子トイレを撤去して今の男子トイレを共用にして使わせても良いか』なんて考えたけど、それは僕の良心が許そうとはしなかった。
――ダメだダメだ! 柿津さんや奈美子ちゃんにロイヤルブルーの温水便座なんて似合わない……彼女たちには何としても、サーモンピンクの和式便所に跨ってもらわねば!
下らない妥協案を振り払い、再び頭をひねる。しかし、いくら考えても一〇さんのトンチのようなひらめき音は僕の頭に聞こえてこなかった。
そんな時、部屋の隅でアニメ雑誌を読みふけっていた隣人の留里さんが、僕に声をかけてきた。
「健二君。何を考えてるのか知らないけど、一休みしてアニメでも見ない?」
「気持ちは嬉しいんですけど、今はそんな気分じゃないんですよね」
申し訳ないとは思いつつも、留里さんの好意を拒絶する。確かにアニメは好きだけど、考えごとをしている時だと頭に入らないので、こういう時には見ないのが僕のスタイルだった。
「そうなんだ。健二君のことだから『アイ〇ル伝説え〇子』辺りでも見て、気分転換でもするかと思ったんだけど」
「あんな波乱だらけのアニメを見て気分転換になりますか。好きな作品ではあるけれど、逆に気が重くなりますよ」
普通こういう局面では癒し系の作品を薦めそうなものだけど、そういうアニメをチョイスする辺りに留里さんの常人離れしたセンスが垣間見えた。
「でも、こうしてキャラの集合絵とか見てると、背丈や身長差をあれこれ考えたくなっちゃうわね。やっぱり全員集合は横並びに限るわ」
「そりゃそうですよ、誰がアニメキャラの集合絵を縦並びで描くんですか。いくら縦に伸ばしたって、二次元の世界では……」
そこまで言いかけて、ふっと何かが頭の中に閃く。
――縦に伸ばす……縦に……そうか、その手があったか!
閃きは、瞬く間に強い光と化して脳内を覆っていた黒い霧をかき消してしまっていた。そう、僕はここでようやく妙案にたどり着いたのである。
「やったよ留里さん! ついに僕の中にも運命の稲妻が落ちてきた!」
「何よ健二君ったら。いつも私のお尻を見ながらオチンチンに運命の稲妻を走らせてるくせに」
「何でもいいんです! とにかく、風が吹いたんです、風が!」
留里さんが呆れるほどに大声を出しながら、思いついた妙案をサラサラと書き殴る。これならば、これならばきっと良きトイレを造り上げる原動力になれる。そんなことを確信しながら、僕は勢いで思いつく限りの改善案をまとめ上げ、清書したのであった。
翌日、僕は笠松先生に清書したノートを提出した。先生は、少し苦笑いを浮かべていたものの、僕のひらめきを全面的に受け入れた上で、トイレ改修に着手してくれた。
そして、二週間の改修期間を経て、玖粗久井荘の新しい女子トイレが完成したのであった……
二週間後、僕はスカトロ仲間の葉枷奈美子ちゃんと一緒に玖粗久井荘を訪問した。もちろん、新しい女子トイレをこの目で見届けるためである。
「しばらく仮設トイレを使わせて、窮屈な思いをさせましたね。でも、もう大丈夫です」
「は、はい。ですが……」
「どうされました? 全体的に明るくて、衛生面ではこの上ないと思うのですが」
明々と光る照明。サーモンピンクが色鮮やかな塗装。洗面所に設置された消毒液。タンク上に置かれた消臭剤。トイレの中で、思い通りの形に仕上がった内装に納得をしていた僕とは裏腹に、柿津さんはどこか恥ずかしそうな顔でモジモジと腰を震わせていた。
「その……どうしてトイレにドアも仕切りも付いてないのでしょうか……」
「ああ、それが便器を縦長式にしちゃいましたからね。専用のドアや仕切りを作るには、費用が足りなかったんですよ」
縦に伸びたピンク色の和式便器を前に力説する。柿津さんがやや固まり気味な一方で、奈美子ちゃんはニコニコしながら便器を眺めていた。
「すごいですねー。これなら覗く覗かない以前に丸見えだから、心置きなくウンチが出来そうですよ」
「その通りだね、奈美子ちゃん。一応、数人で排泄が出来るように足場も確保してあるから、二人なら楽勝だよ」
「……分かりました、頑張ってみます」
僕たちのやり取りに納得したのか観念したのか、柿津さんが楚々とした足取りで便器に跨り、大きなお尻をむき出しにして屈む。
プシャァァァァァ……プッ、ブプッ!
「うんっ、んっ……」
そして、緩めの放尿をしながら放屁すると、肛門を開いて踏ん張り始めたのである。
「エヘヘ。柿津さんがウンチしてるんだったら私も……っと☆」
すると、奈美子ちゃんも便乗するかのように、柿津さんの後ろで嬉しそうに屈み込んだのである。
「健二先輩。柿津さんに比べると、私のお尻なんてミドル級かもしれませんけど、良いウンチをするから見てて下さいね」
ブッ……ムリッ、ムリムリメリッ……ブリビチャッ!
奈美子ちゃんが、便秘で糞詰まりに困惑している柿津さんに先駆けて排便する。
「ほらほら、早くウンチしないとこうやってずっとお尻モミモミしちゃいますよ~~」
「やだ、エッチです……」
背後から奈美子ちゃんにお尻を触られて、柿津さんが艶めかしい声を上げる。だが、その表情に嫌気はなく、彼女は触られることに心から喜びを感じているかのようだった。
「それそれ、オシッコしちゃうぞ~」
ブシャァァァァァ―――!!
よほど溜め込んでいたのか、奈美子ちゃんが勢いよく放尿する。その放物線は気まぐれで、ところどころが便器に入らず柿津さんのお尻を濡らし続けていた。
「奈美子ちゃん、あんまり盛ると柿津さんが可哀想だからその辺で……」
「いいんです、健二さん。このぐらい元気な人がいてくれた方が、私……」
奈美子ちゃんが暴走気味だったので口を挟むも、柿津さんに止められる。どうやら彼女も、心なしか僕たちと同じ嗜好に近付きつつあるかのようだった。
「はぁ、はぁ、んっ……」
ジュプッ!
気張り続ける柿津さんの肛門に指が入れられる。挿入したのは、他ならぬ奈美子ちゃんだった。
「頑張って下さい……そして、私にも見せて下さいね、柿津さんのウンチ……!」
柿津さんのお尻の中で、奈美子ちゃんがグリグリと指を掻き回す。その光景は、月並みな性行為より何倍も官能的で、僕のペニスはずっと勃ちっぱなしだった。
「やだ、奈美子ちゃん、そんなことされたら私、私……!」
「じゃあ、抜いちゃいますね」
奈美子ちゃんが恍惚とした表情で指を抜く。すると、その指テクで便通が促されたのか、柿津さんのお尻から文字通りのデカウンチが姿を見せたのである。
ムリムリムリムリムリムリメリリッ……ムリメリメリッ、ビチャリッ!!
「すっごーい。私、こんな立派なウンチ、初めて見ちゃいました。柿津さんの大きなお尻に感謝です☆」
奈美子ちゃんが再び柿津さんのお尻を艶めかしく愛撫しながら揉みしだく。だが、当の柿津さんはそれに反応を示すことなく、ずっと惚ほうけていた。
「どうだったかな、柿津さん。新型トイレの使い心地は」
「はい……とてもエッチで、すごく良いトイレだと思います……これなら、私も安心してここの管理人を続けられそうです……」
柿津さんは、とろけるような表情をして感想を漏らすと、その顔のままペーパーをちぎってお尻を拭き始めた。
――良かった、僕の発想もたまには役に立つことがあるんだな……
柿津さんの幸せそうにお尻を拭いている姿を眺めつつ、自分の案が良い結果に繋がったことに安堵する。もちろん、僕の案を全面的に採用してくれた笠松先生や、修繕費を出資してくれた住人の皆様および、発想のヒントをくれた留里さんに感謝の気持ちを込めて、である。
「健二先輩、オチンチン勃たせてないで私のお尻を拭いて下さい」
「言われるまでもなくそのつもりだよ」
奈美子ちゃんに呼ばれ、予備のトイレットペーパーを使って彼女のお尻を拭いてやる。
「やだ先輩。今ドサクサに紛れて私のお尻に指入れたでしょ」
「知らないね、君が柿津さんにしたことを僕もしたまでさ」
「フフッ。仲が良いですね、二人とも……」
ドアも仕切りもないトイレの中で、和やかな空気とともに盛り上がる。新しいトイレでの一時は、ささやかな喜びを光に変えて、僕たちの心に優しいそよ風を送り届けていた。