※この作品はR-18です。

すかもんっ!   作:Žž‰€—時園礼

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第32話 およしになってね留里さん!? 危ないバレンタインデー

 平成〇年2月13日。当然のことながら、世間は必要以上に浮足立っていた。言うまでもなく、その原因は翌日に控えたあの一大イベントである。

 ――バレンタインデー、か……

 校内の喧騒を横目に、休み時間の教室で物思いにふける。考えてみれば、この日ほど僕にとって忌まわしくも心苦しい日など存在しなかった。

 

 

「おい、チョコなんかもらうなよ。返すのが大変なんじゃし、義理でもらっても嬉しゅうもないけえの」

 決まってこの時期に下らない持論を押し付けて、無理やり同意を得させようとしてきた父親。

「林葉さんのことだから、どうせ一つももらえんじゃろ?俺がもらった分を1個500円でくれてやってもええよ?」

 決まってこの時期に家を訪ねてきて、そんなことを言ってきた親戚(一度も買わなかったけどね!)。

『哀あいのマー●ルチョコレート・お前はこれで上等だ(笑)』

 ゴミを入れた小さな筒に、そんなことを書いた紙をくるんで机の引き出しに入れていた中学時代の同級生たち。

 ……そして、毎年恒例で義理チョコの一つさえもらえない、惨敗続きの僕。

 

 

「……」

 思い起こすだけで、涙というより反吐が出るレベルの我がバレンタインデーメモリーズ。しかし今年は、今年からは何かが違うと僕の心が訴えていた。

 クラスの担任にして、いつも僕のことを気にかけてくれている香子先生。クラスメートにして、突き放してるようでいて、僕のことを心配してくれる円香さん。そして、この一年で知り合った数多くの女性たち。彼女たちがいれば、きっと素敵なバレンタインデーを過ごせるに違いない。この時の僕は、そんな漠然とした淡い期待を胸に、授業など上の空で『早く明日になってほしい』という気持ちで放課後を待ち続けていた。   

 まさか、あんなことになるとは爪の先ほども考えることなく……

 

 

 放課後、足早に帰宅した僕は、アパートの隣の部屋――留里子さん宅の玄関前に、桃色気味のナース服を着た女性がいるのを見かけたので、おそるおそる声をかけてみた。

「あの……医療関係の方ですか?」

「はい。私は留里さんの友人で、長年病院勤めをしている有希代という者です。以後おしり……もとい、お見知りおきを」

 ナースの女性――有希代さんが、にこやかに自己紹介をしながら恭しく頭を下げたので、反射的に僕も自己紹介をしながら頭を下げる。

「どうも、僕は林葉健二といいます。色々と理由があって、独り暮らしをしている現役の高校生です」

「偉いですね、高校生なのにもう独り立ちしてるなんて。大変だとは思いますけど、頑張って下さいね☆」

 実際のところ、独り立ちをした要因なんて実に下らない理由だったりするのだが、有希代さんの心からのエールが嬉しかったのでその辺りの話は伏せて、本題へと入る。

「ところで、留里さんどうしちゃったんですか? いくら友人とはいえ、有希代さんがナース姿で来られてるのには何か理由があるんでしょ?」

「はい。今朝彼女から電話があって高熱が出たということだったんで、ずっと看病してたんです」

 有希代さんから事情を聞いて、少しだけ驚愕する。あの聡明な留里さんが、みすみすウィルスにやられてしまうとは。

「あ、でも心配しないで下さい。もう大分落ち着いていて、下痢と軽い微熱以外の症状は治まっていますから」

 浮かない顔をしていた僕を気遣ってか、有希代さんが現状を伝えて安心させてくれる。この辺り、精神面でも人をケア出来る気配りは流石ナースである。

「そうですか、それなら安心です。本日は僕の大切な隣人を面倒見て下さって、ありがとうございました」

 実情は知らないが、話を聞く限り嘘ではなさそうなので、一応頭を下げておく。

「いいんですよ、私はこれが仕事なんですから。健二さんも風邪には十分気をつけて、明日を最高の日にして下さいね」

 有希代さんは僕のお辞儀に投げキッスを返すと、スマートな足取りでその場を後にした。僕は、その後ろ姿を見えなくなるまでずっと眺めていた。

 ――下痢と軽い微熱、か……

 とりあえず留里さんが気になったので、僕は鍵が開いたままになっている彼女の家に上がる。

「おじゃまします。留里さん、上がりますよ~~」

 気持ちほど声を大きくして呼んでみると、奥の部屋から顔の赤い留里さんがよろよろと姿を見せた。

「あら健二君、心配して来てくれたのね……」

 声に元気がなく、どこか辛そうな留里さんを見ていると、有希代さんが言うほど回復しているとは思えなかった。

「でも、私は平気よ。有希代の献身的な看病で、40度あった熱が37度半まで下がったんだもの。後は薬を飲んで安静にすれば……げほっげほっ」

「ちょっと、大丈夫なんですか本当に……」

 留里さんは、僕を気遣ってそんなことを言っているのだろう。赤ら顔で咳き込む彼女を前にして、平気なようには到底見えなかった。

「げほっ、ごほっごほっ」

「……」

 なおも咳き込む留里さんを見て、僕は決意する。

「留里さん。今から、有希代さんに代わって僕が留里さんの看病をします。とてもじゃないけど、こんな状態の留里さんを隣人として放っておくわけにはいきません」

「健二君……」

 僕の申し出に、留里さんが驚いたように目を丸くする。だけど、これは冗談でも酔狂でもなく、本心からの僕の意思だった。

 聡明なのに大胆なほどエッチで、勝手に人の家に上がり込むほど礼儀知らずだけど頼もしくて、いつも近くで僕を見守ってくれている、そんな姉のような留里さんをこのままにしておけなかったのである。

「……じゃあ、今日は健二君に甘えちゃおうかしら」

「それで良いんです。こんな日ぐらいは、遠慮なく僕を頼って下さい」

 貧相な胸板を叩いて、留里さんに頼もしさをアピールする。すると、留里さんはにこやかな笑顔とともに、最初のお願いをしてきたのである。 

「じゃあ、早速トイレのお手伝いをしてもらえないかしら? 私、さっきからずっとお腹痛くてウンチがしたかったの」

「あー……」

 ……こんな時でも、留里さんはやっぱり留里さんだった。

 

 

 天井も床も壁もガラス張りで、いたるところに僕たちの姿が映し出されている、世にも珍しい段差式の和式便所。そんなトイレの中で留里さんは、お尻を丸出しにして鼻歌まじりで便器に屈んでいた。

「その……こんなこと、有希代さんにもさせてたんですか?」

「まさか。確かに連れ込んで見せてはあげたけど、お尻ぐらいは自分で拭いたわよ」

 留里さんは、僕の素朴な疑問に振り向くことなくそう答えると、一つ息を吐いて盛大に脱糞した。

 ブリブリブビビビッ! ビリビリビチィッ!! ビリビチャッ、ビチッ、ビチビチチッ!!

 思った通り風邪の影響もあり、留里さんは大きな音を立ててゆるゆるの下痢便をぶちまけていた。言うまでもなく、臭い。

「ふふっ、こうして健二君相手に無防備でお尻をさらしてると、何だかゾクゾクしてきちゃう……」

 プシャァァァァァァ……

 留里さんが艶めかしい声を上げながら、気持ち良さそうに放尿する。もちろん、後ろ向きで顔は見えないのだが。

「全く……病人なんだから、そういう感情は封印してなきゃダメじゃないですか」

 淫靡な留里さんに触発されて、思わず彼女のお尻を愛撫しながら揉みしだく。

「いや~ん健二君のエッチ、私またオカズに使われちゃう」

「そんなのお互い様ですよ……」

 グチュッ!

 扇情的に激しい反応をする留里さんを相手に必死で平常心を保ちつつ、備え付けのペーパーで彼女のお尻を拭く。言うまでもなく、下痢の影響で一拭き目はベットリ便の感触が生々しい。

「どう、健二君? オチンチン勃ってる? もうビンビンになっちゃってる?」

「病人がそんなことを真顔で言わないで下さい……確かに、ウンチしてるところを見て反射的に勃っちゃいましたけど」

 お尻を拭いている最中に恥ずかしいところを聞かれ、終わりの方を小声にしながら答えておく。内容がいかにも留里さんらしくて、微笑ましかったりはするけれど。

「良かった。病気の私でも気になる男の子を勃起させることが出来るなんて、感動的だわ」

「そりゃあ留里さんのこんな姿を見れば、健全な男子なら勃って当たり前というものです」

 そんな会話を繰り広げながら、僕は結構な量ペーパーを注ぎ込んで、留里さんのお尻を拭き続けた。

 しかし、留里さんが僕の何を気にしているのかは、よく分からなかった……何なんだろうね、一体。

 

 

 それから、僕は公言通り留里さんに付き添って、彼女の看病を続けた。おおよそのケア(座薬挿入を含む)は既に有希代さんが済ませていたので、僕は冷却タオルの交換と簡単なマッサージを施すぐらいで、後は話し相手をする程度のものだったが、それでも彼女は満足そうだった。

 やがて、留里さんが風邪薬を飲んで眠りについたところで、僕は電気を消して自分の部屋へと引き上げたのであった。もちろん、留里さんからもらった合鍵で戸締りを済ませて、である。

 

 

 翌日……2月14日。つまり、バレンタインデー。目を覚ますと体が熱く、鉛のような重みが僕にのしかかっていた。

 ――あれ、マズいな。こんなはずじゃなかったんだけど……

 明らかに発熱していた感覚に、体だけでは飽き足らず、気まで重たくなってくる。もしかして、昨日の看病の影響で、留里さんの風邪が僕にうつってしまったか。

「げほっげほっ」

 急に喉の奥が熱くなって咳が出る。まるで、憶測を確信へと変えてしまうかのように。

 ――やっちゃったかな、チクショウ……!

 ふと襲いかかる寒気に、考える気力までそぎ落とされてくる。間違いなく、原因はどうあれ僕は風邪をひいてしまったのである。よりにもよって、こんな日に。

「何だよ、今年からは特別なバレンタインにするんじゃなかったのかよっ……!」

 そんなことを言いながら、昨日まで浮かれてニヤついていた自分に憤る。今さら怒っても、どうにもならないと分かっていながら。

「はぁ…………」

 僕は大きくため息を吐くと、今日の通学を断念して学校に欠席の電話を入れた。そして、朝食のクリームパンを食べると、薬を飲んでふて寝という名の二度寝に入ったのであった――

 

 

 グツグツと何かを煮ているような音が聞こえて目が覚める。それに伴って、香かぐわしい匂いに鼻腔をなぜられる。

「……」

 台所から漂ってくる身に覚えのないその香りに、思わず顔を曇らせる。もしかして、こんな日に空き巣にでも入られてしまったか。

 ギィ……

 おそるおそるリビングのドアを開けると、僕はその先の光景を目の当たりにして驚愕した。

「わわっ! な、何なんですかっ……!」

「おはよう健二君、キッチン借りてるわよ☆」

 台所にいたのは、空き巣ではなく留里さんだった。しかも、ピンクのエプロンに真紅のTバック一枚という姿をして、である。

「ふふっ、本当は裸エプロンがしたかったんだけど、恥ずかしかったからTバックだけは穿いて来ちゃったわ」

「別に構いませんよ。Tバックの丸出しぶりって、ある意味で生のお尻よりもヤラしいから……じゃなくって!」

 留里さんのペースにハマりそうなところでどうにか持ちこたえる。

「どうして留里さんが僕の家に来て、裸エプロンならぬTバックエプロンで料理をしてるんですかっ! 大体留里さん、今日は仕事でしょ!? こんなところで呑気に……ごほっごほっ」

 強くまくし立て過ぎて喉を痛め、咳き込んでしまう。だけど、病人にはその姿があまりにも刺激が強くて、何か言わずにはいられなかったのである。

「はいはい、健二君は風邪を引いてるんだからゆっくり休むこと、いいわね?」

 ギュム。

 にこやかな留里さんに、オタマを持っていない方の手でペニス……と言うより玉を握られる。

「事情は後で話すから、ご飯が出来るまで安静にしておきなさい。お姉さんからの命令よ」

「は、はい……」

 留里さんの勢いに気圧され、部屋に引き上げてもう一度布団に横たわる。気がつくと、時計の針は既に正午を差していた。

 

 

「……じゃあ、今日は僕のために会社を休まれたんですか?」

「そうよ。さっきここに来た時に健二君が具合悪そうにして寝てたから、ケアしてあげたくて休んじゃったの。けど、ちゃんと連絡は入れているから心配しないでね」

 熱々の玉子粥を食べながら、留里さんの話に耳を傾ける。彼女の手料理は絶品で、惣菜の野菜炒めともども最高の味付けに仕上がっていた。

 こんな美味しい料理をこんな美人が、こんな卑猥な姿で僕のために作ってくれるなんて、一年前には到底考えられなかったサプライズである。

「でも……ごめんなさいね。昨日私の看病をさせたせいで、健二君に風邪をうつしちゃって……」

「気にしないで下さい。あれで留里さんが治ったのなら僕は本望です」

 ちょっとキツかったけど、口には出さなかった。今日、この日に元気な留里さんの姿を見れただけでも満足だったから。僕はゆっくりと立ち上がり、向かいの席で頬杖をついてこっちを見つめている留里さんに拍手を送る。

「お誕生日おめでとうございます。バレンタイン・ハッピーバースデーに祝福を送らせて頂きます」

 そう、何を隠そう今日は留里さんの誕生日なのである。もちろん本人は分かっているだろうけど。

「健二君……」

 留里さんが、呆気に取られたように僕の顔を見る。程なくして、その両目が潤む。

「もう、何よいきなり……エッチな上に女泣かせだなんて、健二君、いけないんだぞ……」

 僕の目の前で、留里さんはポロポロと涙をこぼしながら鼻をかみ始める。僕の予期せぬ祝福が、そんなに嬉しかったのだろうか。

「誰だって、誕生日ぐらいは元気な姿でいたいですからね。留里さんの完全回復に、心から乾杯です」

 お茶の入ったグラスを掲げ、くいっと飲み干してパーティー気分に浸る。

 ――こんなバレンタインも、悪くないよね……

 学校に欠席の連絡を入れた時は本当に最悪の気分だったけど、今はすっかり心の中が幸福感で満たされようとしていた。僕は料理を完食すると、十数分程度に留里さんと雑談(=猥談)を交わし、風邪薬を飲んで再び床に就いた。

 薬が効いたのか、留里さんのエッチな姿を思い浮かべてムラムラしつつも、僕は再び眠りに落ちたのであった…………

 

 

 今度の目覚めは、先ほどまでの気だるさが嘘のようなスッキリとした目覚めだった。どうやら、薬と睡眠と留里さんの思いやりが、回復を早めてくれたみたいである。

 しかし、僕の体は依然として重く、起き上がることすら出来ない状態だった。

「あの~~……」

 それもそのはず、留里さんが僕の上にうつぶせになって乗っかっているのである。しかも、僕の顔にTバックのお尻を向けて。

「あら、目が覚めちゃったかしら? せっかくお楽しみを始めようと思ってたんだけどな」

 ギュム。

 留里さんが、寝てる間に勃起していた僕のペニスをもみながら、ズボン越しにフニフニともみしだく。

「何をしようとしてたんですか、全く。気持ちは嬉しいけど、今日ぐらいは安静に過ごさせて下さいよ」

 やんわりと留里さんの誘惑を拒絶する。具合が良くなってきているとはいえ、こんなことを風邪で休んだ日にするのも違うというものだろう。

「何よ、つれない子ねぇ。まぁいいわ。お隣さんなんだし、健二君のオチンチンなんていつだってナメナメ出来ちゃうんだから。それよりも……」

 留里さんが僕の手をつかんで引き起こし、そのまま台所へと連れて行く。

「あっ……」

 すると、甘い香りが漂うテーブルの中心に置かれた皿の上に、不思議な形の大型チョコレートが鎮座されていた。

「じゃーん☆ 健二君が眠っている間に、バレンタインチョコを作っちゃいました~~」

 留里さんが皿を取り、誇らしげにそのチョコを見せつけてくる。

「さっきまで健二君のために丹精込めて作ってたんだぞっ、どうだ、どうだ」

「る、留里さん……」

 人生で初めてもらえた手作りのチョコに胸が熱くなる。だけど、それでも僕は率直な見解を口にしたのである。

「僕、とっても嬉しいです。でも……これ、どう見てもお尻ですよね……」

「そうよ。自画撮りした私のお尻をモチーフにして、作ってみたの。ほぼ同サイズだと思うわよ、ほらほら」

 相変わらずのエプロン姿のままで背中を向け、留里さんがTバックのお尻を惜しげもなく見せびらかしてくる。揺れる桃尻が、正直たまらない。

「さぁ、健二君。私のお尻を遠慮なく食べてちょうだい……」

 留里さんが前に向き直り、艶めかしい声音でチョコレート色――茶色の大きな『お尻型チョコ』を僕の眼前に突き出してくる。

 こうなってくると、もはや断るという選択肢など存在しないし断るつもりもない。

 ――留里さん……自分の誕生日だというのに、僕のために世話を焼いちゃって……

 感激のあまり涙が出そうになるのをこらえつつ、お尻のチョコを手につかむ。今、留里さんの気持ちに応えるために必要なのは泣くことはない、食べることなのだ!

「留里さん……お言葉に甘えて、お尻いただきますっ!」

 パキイッ!

 僕はお尻チョコの割れ目を舌でなぞりながら、右の膨らみのてっぺんを力強く嚙み砕き、人生初の手作りチョコを吟味した。

 ――こ、これはっ!

 すぐに甘くてまろやかなミルクとカカオの食感が味覚を溶かし、脳から全身へと旨みを伝達する。うまい! これは実にうまいっ!

「留里さん! これ、すごく美味しいです! こんな美味しいチョコレート、初めてです!」

「うふふ、健二君にそこまで喜んでもらえたら、作った甲斐があるというものだわ。ほら、休んでないでもっとお尻、食べて食べて」

「はいっ!」

 留里さんの言い方は明らかに誤解を招くものだったが、それでも僕は夢中になってお尻チョコを食べ続けた。そして、時計の針が午後五時をさしたころ、僕は完食を果たしたのであった。

「お腹いっぱいです、ごちそうさまでした」

「ふふっ、健二君ってやっぱり男の子よねぇ。お尻にがっついてる姿、可愛かったわよ」

 この上ない満腹感に、自分でも分かるほどご満悦な顔をしていたであろう僕を、留里さんが微妙な言葉で褒めてくる。そこは『お尻』ではなく『お尻チョコ』と言うべき部分ではなかろうか。別にいいんだけど。

 とりあえず、思ったままの感謝の言葉を贈る。本当はチョコで汚れた口と手を洗ってからするべきなのだろうけど、それはひとまず置いといて。

「今日は色々とありがとうございました。食欲も性欲も満たすことが出来て、感無量です」

 しかし、留里さんは言葉を返すことなく、黙ってその体を僕へとすり寄せてきたのである。

「あの……留里さん?」

「……まだよ。まだ、尽くし足りないわ……だって私、まだ健二君に最高のご馳走を食べさせてないんだもの」

 いつの間にか体を密着されて、至近距離まで詰められる。留里さんの顔は、既に僕の目の前に迫っていた。

「ご、ご馳走って何ですか? 昼飯もチョコも食べたし、これ以上食べさせてもらうものなんて……って、まさか……」

 途中で止めた僕の憶測に、留里さんが満面の笑顔を返してくる。どう見てもこの顔は『正解』を示している顔だ。つまり――

「そうよ。せっかくの誕生日なんだから、健二君にあげちゃうの……」

 僕と留里さんの距離がどんどん縮まり、ついに視界が完全に覆われて――

「チョコより甘いわ・た・し☆」

 

 ――ムチュッ。

 

 ……留里さんと唇で重ねたファーストキスは、少し強めの甘いキスだった。味見でもしていたのか、彼女の口からもお尻チョコの匂いが伝わってくる。

『んっ、んんっ……』

 ギュム。

 キスの傍らで、留里さんの右手に膨れ上がったペニスをがっちり握られる。淫靡な手つきが実に心地良い。

「健二君のエッチ……上のお口で可愛いこと言ってるクセに、下のお口はこんなに勃たせちゃって……」

「留里さんのせいですよ……こんな姿で男の家に上がり込むなんて……」 

 強く抱き合いながら、僕たちは互いのエロスをなじり合う。事ここまで及んでしまえば、もはやお互い様である。だけど、留里さんの――そう、大事な人の記念すべき一日なのだから、このまま流れに乗っかってしまうのも悪くない。

「留里さん。僕を本気にさせたらどうなるか、その体にたっぷり教えちゃいますよ……」

「教えて……私に、私の体に、健二君の本気を教えて……!」

 そのまま布団へと押し倒し、留里さんのエプロンを引きはがす。そして、最後の一枚となる紫色のTバックに手をかけたその時だった。

「け、健二君、そこで何をしよるんじゃろうか……」 

「へっ?」

 後ろから聞き覚えのある声がして、思わず振り返る。そこには、ラッピングされたハート型のチョコレートを手に、顔面蒼白の香子先生がいた。

「せ、先生、これはですね、その……」

「いやーん香子先生のエッチ☆」

 突然の来客――香子先生を前にして、言葉にならない僕とにこやかに地雷を踏むような言葉を飛ばす留里さん。やがて、先生の顔色が驚きの白から瞬く間に怒りの赤と化し、そして――

「健二君! 何をしよるんかねっ!!」

 快晴の夕暮れ時に、人的な落雷が発生した。

 

 

 僕は、リビングで正座をさせられて、香子先生から厳しい叱責を受けていた。

「……風邪で休むのは仕方がないけど、良くなったけえって家であんとなことしよったらいけんじゃろう、分かっちょるんかね!?」

「はい、分かってはいたんですけど……色欲が暴走して、止められませんでした……すみません」

 いつになく憤っている先生を前に、力なく頭を下げる。僕の隣では、私服に着替させられた留里さんがやはり正座をさせられて、何故か先生を凝視していた。

「留里さんも留里さんです。健二君を看病するのはええけど、身なりっちゅうもんがあるじゃろう。それを、あんとなエッチな格好してから……」

「う~ん。でも、ちゃんとTバックぐらいは穿いてたんだしセーフじゃないかしら? 香子先生だって、Tバックの一枚や二枚……」

「留里さんっ!」

「あら、すみません」

 マイペースな言動を繰り返す留里さんだったが、先生の一喝を受けてあえなく黙りこくる。そして、先生の矛先が再び僕に戻る。

「とにかく、健二君は最近エッチが行き過ぎちょるのが目立つけえ、慎もうや。先生も担任として心配じゃけえ」

「分かりました、気をつけます」

 とりあえず、無難な言葉を口にして先生を安心させる。すると、先生の表情も大分温和になってきて、嵐は過ぎたようだった。 

「……まぁ、若気の至りとはいえ、健二君が元気で活発な子になってきたと解釈して、先生はこれ以上言わんことにします」

 どうやら、ここで僕はようやく許されたみたいだった。

「留里さん。あんまりエッチなのは困るけど、これからも私の手の届かんところでは健二君を助けてあげて下さいね」

 既に留里さんも許されていたらしく、先生からプライベートでの僕を託される。

「大丈夫よ、香子先生。隣人として、健二君はしっかり私が守ってあげるから……ねっ」

 留里さんが立ち上がり、不意打ちと言わんばかりに先生のお尻を撫で回す。 

「ちょ、ちょっと留里さん、何を……」

「あらあら、香子先生ったらこんな日でもTバックを穿かれているのですね、触り心地で丸分かりですよ」

 先ほどまでのお怒りモードはどこへやら、留里さんに背後を取られてすっかり先生はうろたえていた。

 ――香子先生……

 そんな先生が、僕に取ってはやはりこの上なく愛しかったのであった。

 

 

「じゃあ、先生はこれで帰ります。健二君。腐るもんじゃないし、チョコは急いで食べんでもええけえね」  

「はい、今日はわざわざありがとうございました。また明日、学校で会いましょう」

 夜七時。先生は、バレンタインチョコを置き土産に、僕の家を後にした。

「良い先生ね……健二君を見習って、私も彼女のトイレを覗いてみようかな」

「恥ずかしいことを思い出させないで下さい。そりゃあ良い眺めだったし、勃たなくなった物が勃ってしまうぐらい刺激的でしたけどね」

 留里さんの大胆発言に適切な言葉を返しておく。今となっては当たり前の光景だけど、当時のことを思い浮かべるとやはり体が熱くなる。あの日――春休みのスーパーで、担任になる前の香子先生のトイレを覗いた日のことは、それほどに僕にとっては強烈な一日だった。

 ――先生……今にして思えばエッチなことをしたけれど、そのおかげで、僕は……

 ふと、隣で僕を見つめている留里さんに気がついて、去年の春の甘美な思い出を記憶の片隅にしまい込む。もちろん、それは艶めかしくも輝かしい思い出の1ページなのだけど、ひとまず横に置いといて、今は本日の主役との『ふれあい』が最優先である。

「……留里さん。せっかくなんだし、夕飯もご一緒しませんか? 僕、留里さんの手料理がまた食べたいです」

 僕は、先生のチョコを冷蔵庫に片づけると、留里さんにそんなことを申し出た。

「そうね。香子先生のお墨付きももらえたんだし、腕をふるってもう一度、健二君にご馳走しちゃおうかな♪」

 ギュム。

 留里さんは気前よく承諾すると、僕のペニスを一握りして再び残りの材料(僕は料理が出来ないので、全部留里さんの自前)で夕飯の準備へと取りかかる。

 僕は部屋に戻ることなく、テーブル席に座ってそんな留里さんをずっと眺めていた。

「ありがとうございます。留里さんのおかげで、今日は人生最高のバレンタインデーになりました」

「こちらこそ、健二君のおかげで今日は楽しい誕生日が過ごせたわ」

 互いへの感謝の気持ちを伝えながら、穏やかな時間をともにする。結果的に一線を超えることは叶わなかったけれど、それでも僕たちの心は満たされていたのであった。

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