(壱) 水に流せぬ大問題
「きりーつ(起立)」
誰もいない教室の中で号令をかけて、自分一人で立ち上がる。正確に言うと、教室にいるのは僕を含めて二人だったりするのだが。
「先生おはようございます」
その教室にいるもう一人である担任教師の香子先生に、いつもと変わらぬ力強い挨拶をする。
「うん、他の子が全然おらんのは寂しいけど、健二君が元気に挨拶してくれるのは嬉しい限りやわ」
まぁ、僕的には他の奴らがいなくて香子先生と二人きりなのが、嬉しい限りなのだけど。
「それじゃあまずは保健委員に代わって、朝の健康チェックを始めます」
そう言って、先生はいつものように教壇の上においてあるチェックファイルを広げた。
「ええっと、健二君。どっか具合が悪かったりせんかいね?」
「僕は今のところ問題ありません、いたってピンピンしています」
「そうかね」
あっちの方はテントを張って、ビンビンだったりするけれど。
「ほいじゃあ他の人はみんなおらんけえ今日はこれで……」
「先生、人のチェックはいいけど自分はどうなんですか」
「えっ」
僕は思ったままを口に出してみた。
「つまり、僕の健康も大事かもしれないけど、先生の健康状態はどうなのかってこと」
「ああ、それやったら心配してもらわんでもええけえ……」
「いやいや、それはダメでしょう。そんなこと言ってる人に限って、体内の異変に気付かずに後で酷い事態になっちゃうんですよ」
どうやら先生は、健康管理に関しては案外適当に考えているらしい。
「うん、じゃけど今日の朝はゆるめの太いウンチが出たけえ、先生も問題ないと思うよ」
「ゆるめの……」
その光景が思わず脳裏に浮かんできて、勃っていたペニスがますます硬直する。だけど。
「本当にそんなのが出たんですか?先生のことだから朝から大下痢して、お尻をヒクヒクさせてたとしか思えないんですけど」
「本当に今日はええウンチをしたんやけど、信じてくれんのんじゃろうか」
流石に先生が僕に嘘を吐くとは思えないけど、それでもどこか疑わしい。
「いや、信じます信じます。クラス委員である僕が香子先生を信じてあげなくてどうするんですか」
クラス委員という肩書きを使えばこういう時に弁が立つ。押し付けられたポジションとはいえ、当分はこの役職を駆使させてもらうとしよう。
「ほいじゃあ今日は二人とも健康状態に問題ないっちゅうことでええね」
「はい」
その後、簡単なやり取りを経て朝のホームルームは終了した。だが、先生の中にはわだかまりが残っていたらしく、僕は思わぬ形でそれを目の当たりにするのである。
「Do not eat、まぁ警告文みたいなもんじゃね」
「つまり『食べたらいけない』ってことですよね」
「うん。じゃけど彼女は、禁断の実を思い切って口にするんよね。その時に言った言葉が……」
「あなたとだったら……いいよ、ゲロスカマーラ先輩」
「そうじゃね」
5時間目。いつもと変わらぬ昼食後の英語の時間だった。
「そこで二人は体を重ねあって、禁断の実を食べ合うというわけです。じゃけど口に残ったそれは知らない人にはチョコレートのように見えて……」
本来なら眠たくて仕方がない時間帯だが、香子先生のお尻を眺めていたいので目を閉じることさえ惜しんで瞠目する。相変わらずお尻のラインがくっきり出ているところから察するに、今日もTバックを穿いているのが丸分かりである。
「……」
それにしても、他の奴らが一人もいない教室で先生と二人きりの授業だなんて、何とも贅沢な時間なのだろう。正直、3学期の修了式までこの状態が続いていても、一向に構わないぐらいだ。
「健二君、ちょっとええじゃろうか?」
「えっ」
そんな中、先生は突然僕に声をかけてきた。
「えっと、居眠りなんてしてないし授業も話半分程度には聞いてました」
「いや、そうじゃなくて今から先生についてきてもらえんじゃろうか?」
「授業を中断してまでどこに行こうと言うんですか」
「うん、後で説明するけえはよう行こうや」
「……分かりました」
本当はよく分からなかったけど、先生が随分と切羽詰まったような顔をしていたので僕は言われるがままに同行した。
先を歩く先生はどこか痛むのか、露骨なまでに前屈みな体勢になっていた。
「あはは、どうしてこんなところに連れ込んじゃうかなぁ」
「そりゃあ健二君が先生の言うことを信じてくれんけえ」
旧校舎4階――特別授業がある時以外はおよそ誰も寄り付かないような、校内でも屈指の辺境地帯。そんな人目につかない区域の女子トイレに僕たちはいた。
「うん、ちゃんと紙はあるね」
ペーパーの有無を確認して先生が個室に入り、僕もその後に続く。流石に一度『紙がない』展開を経験している手前、そこら辺はぬかりないみたいだ。
「先生、まさか」
「朝あれだけええウンチをしたって言うたのに、健二君は半信半疑じゃったろうがね。じゃけえ今から健二君には、先生のウンチをしっかり見てもらいます」
やっぱり朝の健康チェックの件を気にかけていたのか。
「直接しよることろを見りゃあ、先生がええウンチをしよるって分かるじゃろう」
そう言って、先生は下着を下ろしてスカートをまくり上げると、ゆっくりと和式便器の上に屈んだ。
「先生……」
彼女もどこか熱くなっていたみたいだったが、僕も同様に(股間が)熱くなっていた。
「それにしても、学校とかの公共のトイレっちゅうのは、どうして大概下の隙間が大きいんやろうか」
「それは多分、汚い床に顔をこすり付けてでも、香子先生みたいな女性がしているところを見たい人たちのために……」
「は?」
いや待て、それは表面的な解答としてはあまりにも違いすぎる。
「間違えました。多分、前に使った人とかの臭いを隙間から逃がして、個室の中を悪臭で充満させないためにこういう造りになっているんだと思います」
「うん、そういう考えが出来るんやったら立派じゃね。健二君的には違うんやろうけど」
モコッ。
そこで先生の肛門が開いて、中から緩めの便が姿を見せた。
ムリムリムリムリムリムリメリリッ、ムリュッ!!
「んっ!」
ポチャッ!
便が落下して水しぶきを上げる。
「どうやろうか?お腹の調子が大分ええけえ、最近はこんなウンチばっかりしよるんよね」
「まぁ色も形も問題ないと思いますよ。これなら僕も認めざるを得ないですね」
僕は、無意識のうちに両手で先生のお尻を揉みしだいていた。
「け、健二君?」
「この調子で、腸内に溜まってる残りも全部出しちゃいましょう」
「……うん」
ブリブリッ、ブピッ! プシャァァ~……ブッ、ブリリッ!!
それから、先生は尿と放屁を折り混ぜながら大量の便を排泄した。お尻を汗で濡らしながらも老廃物を出し続けるその光景は、どう見ても今晩のオカズネタ確定である。
「……」
でも。
「はぁ…………」
長いため息を吐きながら先生がお尻を拭いている。拭いてあげるのもいいけれど、こうして拭いているところを眺めているのもまた官能的で気持ちがいい。
「……」
だけど。
「うん、見られるのはちょっとエッチで恥ずかしかったけど、ええウンチしよるのを健二君に信じてもらえて満足やわ」
お尻を拭き終えた先生が、言葉通りの満面の笑みを浮かべて立ち上がる。
「ほいじゃあ授業に戻ろうかね」
そう言って先生がレバーをひねった時、僕の危惧していた不安は現実と化した。
ザザ~ッ!!
「あれ?」
流れ出る水とともにペーパーこそ流されたものの、先生の便は便器の中からピクリとも動かなかったのである。
「えい」
もう一度流そうとするも、やはりビクともしない。
「なんで流れてくれんのんやろうか」
その時の先生の表情は、一目で分かるほどに不安で満ち溢れていた。
「先生、いくらなんでも量が多すぎましたねこれは」
「どうすればええんじゃろうか……」
先生のような人が、出したものを放置したまま逃げて何食わぬ顔していられるはずがない。だけど、現状あまりの便の量と太さを前に流したくても流せない……こうなったら。
「ちょっと待っていてください。僕に考えがあります」
「健二君……分かった、信じちょるよ」
先生の期待を背に個室を出ると、僕は一目散に一階へと向かった。
「あら、まだ授業時間でしょうに何の御用かしら?」
いきなり保健室に現れた僕を前に、救護教諭の早紀先生は笑顔でそんなことを言ってきた。
「所用でゴム手袋が必要になったんで、貸して下さい」
「やーねぇ健二君ったら。香子が相手なら、ゴムなんてつけなくても生でいいじゃないの」
「そういう下世話な心配はいいから、ゴム手袋を貸して下さい」
「はいはい」
早紀先生は戸棚の奥から新品の手袋を取り出すと、すぐに渡してくれた。
「これ返さなくていいわ、健二君にあげる」
「いいんですか」
「どうせ香子絡みでトラブルでも起こってるんでしょ。詳しくは聞かないけど、そういうアイテムは常備しておいた方が都合がいいと思うから、遠慮せずに取っておきなさい」
「ありがとうございます」
僕は早紀先生に一礼をすると、保健室を後にして速やかに香子先生の待つトイレへと帰還した。
「お待たせしました……って」
便臭が先ほどよりも更なる威力を込めて室内に立ちこもっている。
「うん、昨日大盛りのカルビ丼食べたけえウンチの臭いがすごいんやわ」
「分かりますけど、せめて外で待ってればいいのに」
「まぁ、それも考えたんやけど責任があるけえね」
こういうところがいかにも香子先生らしくて微笑ましい。だとすれば、そんな彼女のために僕は少しでも力になってあげなくては。
「では、今から水に流せない大きな物を、残さずキッチリと流すための細分化を始めます」
両手にゴム手袋を装着して、ゆっくりと先生の便を手に取る。
「香子先生の場合はお尻が大きいから、出す物も普通の人の二、三人分に相当するんですかね」
「うん、それはええけえ早ようやろうや」
「では」
巨大な便を片っ端から手に取り、小さく千切りながら流せそうなサイズに変えていく。流石に手の平の半分程度の大きさならば、流れないことも詰まることもないだろう。やがて、全ての便を小粒便に変えたところで作業が完了する。
「改変ならぬ改便作業完了です、流して下さい」
「うん」
ザザ~ッ!!
今度こそ先生の便は欠片も残らず、下水槽の中へと姿を消したのであった。
「何か、また健二君に助けられた気分じゃね」
「気にしないで下さい。僕はクラス委員として当然の務めをしたまでです」
他のクラスの担任が相手なら、間違いなくここまですることは有り得ないだろうけど。
「僕の方こそ、先生のお通じを疑ってかかって悪かったと思っています、すみませんでした」
「健二君……」
「どっちもどっちということでお互い水に流しましょう」
トイレの件なだけに。
「フフフ」
そんな僕の意図を理解したのか、先生が笑顔を浮かべる。やはり、彼女はこういう顔をしている方が似合っているし、素敵なんだと改めて感じる。
「ほいじゃあ手を洗って授業に戻ろうかね」
「はい」
僕たちは入る前とは明らかに違う雰囲気の中で、トイレを後にした。先生が先頭で、お尻を眺めながら僕が後に続く、そんな形で。
(弐) 副担任はスカ教師
登校時間。いつもの通学路を通って、学校が目前に迫ったその時だった。
ドカッ!
「うわ!」
不意に背中を肘打ちされて転げそうになる。
「誰だよ……って」
「よう」
僕のヒリヒリする背中などお構いなしといった具合に、偉そうな挨拶をしてきたのは少し離れたクラスの男子だった。アニメや漫画が好きな奴で本来なら馬が合うはずなのだが、なにぶん高圧的な態度と冗談とはいえすぐに手を出してくる側面があって、基本避けていたのだがまさかこんなところで出くわしてしまうとは。
「社会見学の事故で全身打撲して死にそうじゃったけど、ようやく俺も学校に行けるぐらいには回復したいね」
「うん、それは良かったってことだね」
いっそ打撲なんかじゃなくて、首の骨でも折れてりゃあポックリ逝けただろうにな。とは口が裂けても言えず、無難な返事で応対する。
「まぁ、みんな少しずつ復帰してるみたいだから、夏休みまでには全員そろうんじゃないの」
「誰かさんは休んで無傷で済んどるんじゃけえほんまええ身分でよのー」
ほら来た、この口汚い物言い。
「単に運が良かったってことでしょ」
「ケッ、ほいじゃったら今から俺が病院送りにして不幸街道に突き落としちゃろうか」
再び暴力が振るわれるかもしれない、そんな状況下に気持ちがざわついていたその時だった。
ドカアッ!
「ぐへっ!」
さっきの肘打ちよりも格段に強烈な回し蹴りが背中に炸裂して、歩道から吹っ飛び車道へと無様に転げ落ちたのである。
「えっ?」
僕ではなく、絡んできた暴力男子の方が。
「大丈夫だったか」
振り返ると、見知らぬ男性がそこに立っていた。
「先ほどから見ていたのだが、どうも君がいじめられていると察知したのでね、僭越ながら助太刀をさせてもらった」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
180に近いと思われる背丈。少しキツめながらも整った顔立ち。そして、スーツこそ着ていないものの、カッターにズボン・革靴といういかにも正装といった感じの身なり。彼はどこぞの商社マンだったりするのだろうか。
「えっと、あなたは?」
「なに、すぐに分かるさ」
「じゃあアレは」
「ああ、しばらくあそこで寝かせておけ。車が来れば否が応でも飛び起きるだろう。ではまた後で」
そこまで言うと、男性は手を上げて足早に校内へと消えて行った。その時の僕は、彼がそんな役職でそんな嗜好を持ち合わせているとはつゆ知らず、ただその背中を呆然と見つめていたのである。
「皆さんに大事なお話があります」
朝のホームルーム。社会見学での事故から3週間が過ぎ、3分の1程度には出席状況が回復していたクラスの中で香子先生が神妙な面持ちで口を開く。
「お産の近づいていた副担任の美恵子先生が、このたび正式に産休を取る形で休職となりました」
「……」
正直職務上は大事な話なのかもしれないが、僕にとってはどうでもいい話である。僕がいじめられている実態を把握しておきながら放置していただけでも許しがたいのに、全てが明るみに出たとしても責任をかぶるのは担任の香子先生であって、自分は無関係といったスタンスが丸分かりだったので正直清々しいぐらいである。少なくとも、香子先生がいてくれるのならば、美恵子先生がどうなろうと知ったことではない。
「それで、うちのクラスに代理の副担任の先生が来ることになりました。どうぞ」
そこで扉がガラリと開いて代理の副担任とやらが姿を見せる。
――あっ!
それは、間違いなく先ほど僕を助けてくれたあの男性だった。
「ええっと、この方は……」
「いえ、お構いなく。自己紹介は俺がやります」
男性は香子先生の言葉を遮ると、黒板に大きく自分の名前を書き記した。何故だか茶色のチョークでくっきり「笠松範人」と。
「俺の名前はカ・サ・マ・ツ・ハ・ン・ト。しばらくこの組で香子先生のフォローをする副担任だ、よろしくな」
範人。つまり「模範となる人であれ」という意味でも込められているのだろうか。
「それから」
今度は名前の上にMetalic-huntという言葉を書き記す。
「これは俺が普段からペンネームとして使っている名称だ。メタリック・ハント。略してメタハン」
メタハン。どういう由来かは知らないが、妙に親近感の湧いてくる響きである。
「どう呼ぶかは君たちの感性に任せる。まぁとにかく楽しくやろうということだ」
こうして、僕たちのクラスに新しい副担任の先生がやって来た。他のクラスメートたちはともかく、僕としてはなかなかに嬉しいサプライズだった。
「これで全員分です」
「うん、ありがとう。ご苦労じゃったね」
昼休み。いつも通りのぼっち飯を経て、校内アンケートの用紙を運び終えた僕は職員室を出て美術室に向かう。次は新しい副担任である笠松先生――メタハンさんによる初の授業である。
――それにしても……
美術の時間前は決まってクラス委員である僕が、デッサン用の彫刻と椅子をセッティングする流れになっている。正直なところ女子のクラス委員は手伝ってくれないし、椅子の配置に不満があると文句を言われるので割に合った話ではないのだけど。
「あれ」
だが、今日は少し勝手が違ったみたいだった。
「……」
驚くほどに磨きぬかれた室内と中央に置かれたヘラクレスの彫刻。そして、その周囲に均等ではないものの、うまく割り振られた椅子。
「す、すごい」
当然ながら、クラスの連中がこんな気の利いたことをするなんて有り得ない。だとすれば、まさか。
僕は、ふっと半開きになっている準備室の扉に気付いて、中を覗いてみた。
「あっ」
すると中ではメタハンさんが机に座って、何やら絵を描いていた。
「おや、授業にはまだ時間があると思ったんだが」
「いやその、美術の時間はいつも僕が下準備をしているんで、早めに教室入りをしているんです」
「なるほど。君も色々と厄介事を押し付けられて大変なんだな」
その言葉に少し心が癒される。この学校で僕を同情的な目で見てくれるのは基本香子先生だけだったので、こういう人がいると思うと正直心強い。
「だが心配ない。今後は授業前の準備は全て俺が引き受ける。君は安心して授業のほうに専念してくれ」
「あ、ありがとうございます」
仏だ。まさに仏だ。香子先生が女神なら、メタハンさんはまさに洗練されたビジュアルも相まって御仏のような人だ。失礼ながら美恵子先生よ、消え失せてくれてありがとう。
「ところで先生。何を描かれていたのですか」
「気になるのか?」
「はい」
何気なく間を持たせようとしてそんなことを聞くと、一瞬にして彼の表情は鋭くなった。
「人物画だよ、香子先生のね」
「えっ」
その言葉に思わず顔が緩んでしまう。そんな素敵なものを昼休みの美術準備室でひっそりと描いているとは、何てかっこいい人なんだ。
「絵的に不快感を覚える構図かもしれないが、君は受け入れてくれるかな」
「何を言ってるんですか。僕みたいな絵心のない男にとっては、どんな絵だって芸術です。まして、香子先生のイラストならそれだけて絵画展ものですよ」
「そうか。だったら書き上げたばかりのこの絵を君に公開するとしよう」
メタハンさんがスケッチブックをめくって、先ほどまで描いていたイラストを見せてくれる。
「あ~~……これって」
「な、確かに香子先生だろう」
言葉通り、スケッチブックに描かれていた女性は香子先生だった。もちろんメタハンさんの画力もあって、本物に負けず劣らずの美人でこれならば僕的には5つ星レベルである。だが、このイラストの問題はそこではない。
「随分とでっかいのをしてますけどこれ、絶対痔になりますよ痔に」
「まぁ常識でいくとそうなのかもしれないが、その辺りはあまり考えていない」
あろうことか、スケッチブックの中の香子先生は道端に屈んでお尻を出して、排便姿を披露していたのである。それも、肛門が張り裂けそうなほどに大きなサイズのブツを。
「それにしても、君はこういう絵に対して嫌悪感のようなものを感じないのか。人によってはドン引きすると思うのだが」
「心配いらないですよ。むしろ僕の場合はこういうジャンルなら大歓迎です」
メタハンさんの目を見据えながら正直な気持ちを伝える。
「つまり、こんな絵を描かれてしまうほどに、香子先生が魅力的だということなのですから」
「なるほど」
これも一つの愛の形と割り切れば立派な表現方法である。
「君は本当にあの先生のことが好きなんだな。だったら」
バリッ。
「あっ」
メタハンさんは香子先生のページを破り取ると、それを僕へと差し出した。
「このイラストは君に差し上げるとしよう。遠慮せずに取っておきたまえ」
その日の夜、僕はメタハンさんからもらった香子先生のイラストを机上のクリアケースの中に飾った。
大きなそのケースの中は、基本的に時間割を除けばアニメ関連のラミカやポストカードばかりだったので、先生のエッチな姿は少し浮いていた。
――メタハンさん、すごく特徴をつかんでいて上手く描けているけど……
先生の排便姿をリアルで何度も見てきた僕としては、この肛門だけはダウトである。本当の先生のお尻の穴は、もっと蕾(つぼみ)のように可愛らしく、排便時に開く時だって慎ましさを孕んでいるのだから。まぁそれは後日指摘するとして、今は新しい副担任の登場を素直に喜びたい。優しくて、頼もしくて、それでいて(僕と同じ)変態嗜好を持ち合わせているそんなイカした殿方を。
「さて」
電気を消して、ゆっくりと布団の中にもぐりこむ。生まれて初めて明日の学校が楽しみな気持ちで眠りにつける、そんな6月下旬の夜の日のことだった。