放課後に立ち寄った本屋『夏屋書店』で、入店早々聞き覚えのある怒鳴り声が耳に飛び込んできた。
「おい、先に見つけたのは俺の方だぞ! その汚ねえ手をどけやがれっ!」
「うっせえ! 最後の一冊はあたしのモンだ!」
内容は大体察しがついたものの、とりあえず僕は声が響いている方向――成人向け書籍のコーナーに足を進めてみる。
「…………」
すると、予想通りの二人が察し通りの内容で、口汚く罵り合いを繰り広げていた。
「全く、お前は本当に欲の塊みてーな奴だよな! 高校生にもなって、まだ自制心ってものがねえのかよ!」
「ケッ! テメエこそ、いい年こいて漫画の1冊や2冊でムキになりやがって。ケツはデカいクセして、器と脳みそは小せえ女だぜ!」
「…………」
周囲の視線などお構いなしと言った具合に、罵倒を重ね合う二人――オタク仲間の桃美ちゃんと巻上さんを交互に見やりながら、一つため息を吐いてから彼女たちの仲裁に入る。
「二人とも、そのぐらいにしときなよ」
僕に気付いた二人がケンカを中断して、ともにこちらを向く。
「おお、健二か」「……けっ」
僕へ向けた第一声はどうあれ、どちらも少しは冷静さを取り戻してくれたみたいだった。
「何となく見当はついてるけど……とりあえず、どうしてケンカしていたのか理由を聞かせてくれ」
すると、僕の問いかけに先に答えてくれたのは、桃美ちゃんの方だった。
「どうもこうもねーよ! 俺が楽しみにしてたエロ漫画の新刊を、涼夏の奴がコソ泥みてえに横取りしやがったんだ!」
桃美ちゃんが大声を張り上げながら、派手なジェスチャーとともにまくし立てる。だが、巻上さんの言い分は、それとは完全に真逆の物だった。
「おい健二。このデカ尻女の言葉なんか真に受けんじゃねーぞ。コイツはあたしが先に最後の一冊を見つけちまったもんだから、適当に言いがかりをつけて横取りしようとしているだけなんだからな」
「……うーん。僕としては、お互いが自分に都合の良い風に言っているとしか思えないんだけどねぇ」
さり気なく二人が取り合っているエロ漫画とやらに一瞥をよこしてみる。するとそれは、濃厚なスカトロ漫画のアンソロジー本のようで『金色のソナチネ』というタイトルだった。
――作家陣にあまり好きな人がいないなぁ……ぶっちゃけ、無理して買うほどの代物でもないと思うんだけど……
正直なところ、僕としては欲しくなるレベルの漫画ではなかったものの、それはひとまず置いといて。
「おいコソ泥! 食い物だけじゃ飽き足らず、エロ本まで独り占めしようってのかよ! お前はほんと、ツラだけじゃなくて中身まで意地汚ねえ奴だよな!!」
「るっせーんだよ! テメエはマジで脳みそが足りねえんだから、エロ本なんか読んでねーで『う〇こドリル』で頭の体操でもしてやがれ!」
一旦は落ち着いていたものの、再び熱を帯びてきた二人が、またしても口汚い罵り合いを再開させる。こうなってくると、もはや僕一人の手に負える問題ではない。
――やれやれ、客はおろか店員まで見て見ぬふりとは、情けない限りだね……
二人がムキになってる間にこっそりと店の外に出ると、僕はこの不毛な争いを終わらせるべく携帯で『仲裁役に相応しい』助っ人を招集した。
「もしもし、僕だけど」
「あっ、健二先輩ですね? 私、今ちょうどぶっといウンチが出かかっているところです!」
「その話は後でいくらでも聞いてあげるから、ウンチを済ませたらすぐに夏屋書店に来てもらえないかな? こっちは今、桃美ちゃんと巻上さんがケンカしてて、炎上中なんだ」
「……分かりました! お尻を拭いたらすぐにそちらに向かいます!」
「そうそう、当局にも連絡して、後からでも来るように頼んでおいてくれ」
「了解です!」
威勢の良い返事とともに通話が切られ、助っ人――スカトロ仲間・奈美子ちゃんの了解を取り付けることに成功する。
「さてと……」
僕は速やかに店内に戻ると、二人があまり熱くなり過ぎないよう緩和剤となって間に立ち、努めて彼女たちの気持ちを和らげ続けたのであった――――
「……大体お前はよぉ、屁が臭ぇだけじゃ飽き足らず、口も臭ぇんだよ! 正直に言うけどな、牛舎の方がまだマシな臭いがするっての!」
「ざけんなよデカ尻女! あたしの屁はただの臭いガスだけど、てめぇの屁なんて毒ガスそのもじゃねーかよっ!」
「ちょっとちょっと。漫画の購入権を巡って争っているのに、オナラの話は筋違いだろ……」
なおも声を荒げて罵り合う二人が一線を超えぬよう、横槍を入れながら間を取り持ち続けて十数分後、ようやく僕たちの元に奈美子ちゃんが到着した。
「もう! 何やってるんですか、二人とも!」
「げっ」「おお、奈美子じゃねーか」
奈美子ちゃんに向けられた第一声はどうあれ、どちらも再び一時的ながら熱が冷める。
だが、奈美子ちゃんはその隙を突いて、争いの元凶となっていたスカトロ漫画――『金色のソナチネ』を、掠め取ったのである。
「お、おい!」「何のつもりだよ!」
桃美ちゃんと巻上さんが口々に語気を荒げるも、奈美子ちゃんは何食わぬ顔で漫画の表紙を凝視する。
「……健二先輩。つまり桃美さんと涼姫は、この漫画をどっちが買うかで激論を繰り広げていたってわけですね?」
「そういうこと。察しが良いね、奈美子ちゃん」
洞察力の鋭い奈美子ちゃんに、ちょっとだけ感心する。かく言う僕も、あっさり見抜いたクチではあるけれど。
「この本が目に付いた時点でそんな気はしてたんですけど、やっぱりそういうことだったんですね」
「おうおう、何でも良いからソイツを俺によこしてくれよ、ちゃんと金払って買ってやるんだからさ」
「奈美子。こんなデカ尻女に渡す必要はねーぞ。先に手を付けた時点で、ソイツの所有権はあたしにあるんだからな」
うんうんと一人で納得している奈美子ちゃんに向かって、桃美ちゃんと巻上さんが口々に漫画の引き渡しを要求する。
しかし、奈美子ちゃんはにこやかな笑顔を浮かべながら、どちらの要求も突きはねてしまったのである。
「悪いけど、今はどちらにも渡すつもりはありませんよ? だって、それをやったら絶対にどちらか一人が傷付いてしまうわけじゃないですか」
「うっ……」「そ、そりゃまーな……」
奈美子ちゃんのまごうことなき正論に、桃美ちゃんと巻上さんがバツが悪そうに絶句する。確かにそれは、全くもってその通りである。
「良いこと言うね、奈美子ちゃん。でもそうすると、その漫画は誰が買うことになるんだい?」
「そんなもの、桃美か涼夏のどちらかに決まっているだろう。無論、公平な勝負をした上での話だがな」
「あっ……」
僕が奈美子ちゃんに素朴な疑問をぶつけたところで、お待ちかねの当局――奈美子ちゃんと巻上さんの高校で、排球部のコーチをしている江上さんが姿を見せる。
「げげっ……」
彼女が相手だと、教え子の巻上さんは当然ながら、いかに気丈な桃美ちゃんと言えども大きくは出られない。やはり、腕っぷしが強い弱い以前に、どこか逆らえない雰囲気というものがあるのだろう。
その江上さんが半ば呆れたような目をしながら、桃美ちゃんと巻上さんを交互に見やる。
「なるほどな……」
どうやら彼女も、一目見ただけでことの経緯を察してしまったみたいだった。
「全く。たかがエロ漫画の1冊や2冊で人目もはばからず大声で罵倒合戦とは、恥知らずもいいところだ」
『…………』
至極当然の指摘を受けて二人が黙りこくるが、江上さんはなおも続ける。
「そんなにケンカがしたいなら、私が最高のステージを用意しているからそこでさせてやる。もちろん、お前たちに打って付けの勝負方法でな!」
「あっ」
そこまで言うと、江上さんは不意を突くかのように、奈美子ちゃんから『金色のソナチネ』を取り上げてしまった。
「とりあえず、これは私が買って預かっておく。今からお前たちは全員、望気荘(のぞけそう)に集合だ。いいな?」
『…………』
「返事は?」
『は、はい!』
江上さんの迫力に気圧されて、僕たちは異論を唱える余地も与えられずに同意を余儀なくされる。一体、漫画家たちの共同住宅『望気荘』で、彼女は桃美ちゃんと巻上さんにどんな勝負をさせるつもりなのだろうか……
望気荘の空き部屋で、僕は壁に背を預けながら目の前の光景をじっと見守っていた。
「その……本当に、こんなところでこんな勝負をさせちゃうんですか?」
「当然だ。既にここは空室で、永遠に人を入れる予定のない部屋なのだからな。それに、こういう形で有効活用した方が、ふみひでも喜ぶと言うものであろう」
江上さんは嬉々としながら腕を組み、僕の隣でやはり壁に背を預けながら目の前の光景を見守り続けていた。
「……」
この空室はかつて、僕の最も敬愛する漫画家――『ゆめみふみひで』が使っていた部屋だった。
「なに、奴のことだ。お菓子の国で夢砂糖でも食らい尽くせばそのうち戻ってくるさ。それよりも……」
ギュム。
「君はあちらを気にかけねばならないのではないか?」
「……ですね」
江上さんの手にペニスを握られて、僕の意識が現実に引き戻される。
「…………」
目の前では、ちょうど敷かれた新聞紙の上で、桃美ちゃんと巻上さんが大きなお尻を丸出しにして屈んでいるところだった。
「健二! 俺の方がコイツよりも断然良いウンコをするってところを、今からしっかり見せてやるからな!」
ブボオッ!!
桃美ちゃんが顔を半分ほど振り向かせ、勇ましい言葉とともに大きなオナラをする。
「ケッ! その根拠のねえ自信、あたしのウンコのデカさと臭さで粉々にしてやるぜ!」
バブゥッ!!
巻上さんは振り向きこそしなかったものの、やはり大きなオナラをして桃美ちゃんに応じた。
「えへへへへ……こんな大きな美尻が二つも並んでいるなんて、眼福の極みです」
奈美子ちゃんが盛りのメス猫のように興奮で鼻息を荒げながら、二人のお尻を愛撫する。
「……オナラも良いけど、しっかりウンチも出して下さいね」
そう。何を隠そう、江上さん提案の元で催されている桃美ちゃんと巻上さんの勝負の内容とは、どちらが良い排便をするかで優劣を付ける『ウンコ対決』だったのである。
――流石に抵抗あるかと思っていたけれど、どちらもやる気マンマンじゃねーの!
思った以上に乗り気な二人を見ながら、ジャッジ役の僕は驚きながらも安堵する。この分なら、たとえ結果はどうなろうとも後腐れはなさそうな雰囲気だ。
「……では、始めさせましょうか」
「うむ、そうしてやれ。いつまでも尻を出して屈ませていると、どちらも単なる痴女にしか見えんからな」
「了解です」
形式的な意味合いで江上さんの許可を得ると、僕は二人に近寄って、合図の意味を込めて互いのお尻を撫でた。
「それじゃあ、始めていいよ……二人とも、頑張ってくれ!」
『おう!!』
こうして、威勢の良い掛け声とともに、桃美ちゃんと巻上さんによる『排便一本勝負』が幕を開けたのである。
ブシャァァァァァァァァ~~~~!! ブシャァァァァァァァァーーーー!!
早速、前哨戦と言わんばかりのノリで、二人が一斉に放尿する。その量と勢いは互いに引けを取らず、無駄に黄色がかっているところまで瓜二つであった。
「はは。どちらも陰毛ビッシリだね。これが本当の『マン毛鏡』ってヤツかな」
前に回り込んで互いの局部を見ながら、率直な感想をジョーク混じりに口にする。
『うっせー! んなこと言ってると、後でチンポ握り潰しちまうぞ!』
しかし、返って来たのは笑い声ではなくハモリの効いた恫喝ゼリフだった。
「あらららら……」
彼女たちの仲の悪さとは裏腹に、妙に息の合ったシンクロぶりに思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。だが、当の彼女たちはそんな僕など意に介さずと言った具合に、本番に入ろうとしていた。
「う~~っ……! う~~っ……!」「くっ……んっ……」
のっけからパワーを全開にして踏ん張る桃美ちゃんと、小さなうめき声でじっくりと力む巻上さん。
気張り方に違いはあれど、どちらも僕の心と股間を熱くさせるのに、さほど時間を必要とはしなかった…………
「あっ! 今、健二先輩のオチンチンがでっかくなる瞬間を、バッチリ見ちゃいました☆」
「な、奈美子ちゃ~ん……」
「うむ、今のは私もしっかり確認したぞ。健二君、君のチンポは相変わらず元気だな」
「え、江上さんまで……」
勃起の瞬間を見られた上にハッキリと突っ込まれ、体中が熱くなるほど恥ずかしくなってしまう。
「んっ、んくっ、んふぅっ!」
そんな中、妙なうめき声とともに先に肛門から老廃物を摘出させたのは、巻上さんの方だった。
ムリムリムリムリムリリッ……メリリッ、メリメリメリ!! ムリュリュッ、ムリュムリュムリュッ!! ブッ! ニチニチッ、ニチチッ!!
開かれた肛門から緩めの便が姿を見せて、お尻の下に茶色の山を作る。その臭いは強烈で、窓を開けていても便臭が部屋の中を満たし続けていた。
「やだもう、涼姫ったらウンチの中にホウレン草が混じってる~。お野菜はちゃんと噛んで食べないと、栄養にならないんだぞ」
奈美子ちゃんが巻上さんの便を凝視しながら、その未消化物まで細かく分析する。だが、当の巻上さん自身は、恥じらいなど微塵もなく、今までに見たこともないほどのドヤ顔を浮かべていた。
「かっかっか。何が残っていようとも、ウンコにしちまえばこっちのもんよ。それよりも……」
予想通り、巻上さんが見下すかのような目つきを桃美ちゃんに向ける。
「桃美、お前まだ出てねえのかよ。ケツが切れて痔になる前に、ケツ割っちまったら(=リタイアしたら)どうなんだ?」
「黙ってろよクソ女、俺は後出しで勝利をもぎ取るタイプなんだよ!」
桃美ちゃんが脂汗を流しながら、声を荒げて必死に気張り続ける。確かに某グルメ漫画では、究〇側も至〇側も料理対決となると、決まって後に出していた方が勝っていたイメージがあったけれど、果たして桃美ちゃんは…………
――いやいや……〇極とか〇高とか、そんなものはどうだっていい。とにかく、ひり出すんだ桃美ちゃん!
僕は手を組み合わせ、ふみひでに祈りを捧げる。女の子の通じを願うなら、彼に祈るのが最善策だと考えたのである。
――ふみ様、ゆめみ様、ふみひで様……どうか、どうか今この瞬間……桃美ちゃんに便通を促す更なる御力を与えて下さいませ!
すると…………僕の祈りが通じたのか、開かれていた桃美ちゃんの肛門がよりモッコリと広がって、そこから硬質の便が鈍い音を立てながらひり出されたのである。
「うぎぃぃ~~っ!」
メキメキメキメキメキッ……ブリビシャァッ!! メキメキメリリッ、メリメリッ!! ムリメリッ、ムリムリメリリッ!! ブゥ~~ッ、ブブブッ!!
叫び声とともに、桃美ちゃんの大きなお尻から大蛇がトグロを巻いたようなデカウンチが現れて、それに便乗するかのように残りの宿便たちも次々と姿を見せる。
「も、桃美ちゃん……」
気が付くと、桃美ちゃんのお尻の下にも茶色い山が築かれていて、巻上さんのに負けず劣らずの臭気を放っていた……
「へへ。どうだ涼夏、お前のゆるグソと違って、俺が出したのは立派な健康便だぜ」
「……な、何だよ。デカくて固いウンコが健康便とは限らねえだろ」
桃美ちゃんにドヤ顔を返されて、巻上さんがやや狼狽しながらも言い返す。
「……」
僕としては、非常に甲乙付けがたいところである。
「よし、これにて排便タイムは終了だ。健二君、先ほどからずっとチンポを上向かせているみたいだが、判定を頼むぞ」
江上さんが、迷っている僕を急かすかのようにジャッジを求めてくる。
「…………」
だけど、僕の答えは初めから決まっていた。
「これはどちらも立派なウンチだと思うから、今回は引き分けってことで良いんじゃないのかな」
『…………』
僕の回答に、場の女性たちが一斉に沈黙する。もしかして、どっちつかずな考えが一同を興ざめさせてしまったのだろうか。
……と、思いきや。
「うむ、私も同感だ。便質は違えど、どちらも負けず劣らずの良いウンチをひり出したと思うぞ……私ほどではないけどな」
「私も健二先輩と同意見です! 桃美さんのウンチも涼姫のウンチも立派過ぎて、優劣なんてつけられっこありません!」
「江上さん、奈美子ちゃん……」
同じ見解を持っていた彼女たちに、僕は心から安堵する。その傍らで、張り合っていた桃美ちゃんと巻上さんの間にも、どこか暖かな空気が流れているかのようだった。
「お前、口は悪いけどウンコだけはいいもん出すんだな。……すげえ臭いけど」
「バカ野郎、ウンコが臭いのはお互い様だっての。でも……テメエもなかなか良いウンコ姿してたぜ」
備え付けのティッシュでお尻を拭きながら、便臭をなじりながらも互いの健闘を称え合う。まるで、これまで何度も衝突を繰り広げていたのが、遠い昔のことであるかのように。
――良かったな、とりあえず……でも。
だとすると、今回のバトルの元凶ともなった漫画の行方はどうなるのだろう。
「時に江上さん。こうなってくると、例のアンソロ本はどっちに……」
野暮な気もしたが、僕が江上さんに疑問の声を上げていた、その時だった。
――ガチャリ!
「あっ……」
部屋のドアが開き、見覚えのある男性が姿を見せる。
「俺が暮らしていた部屋で、随分とお盛んな遊びが繰り広げられているみたいだな」
「ほほう」「お久です」「おい、マジかっての」「よぉ」
僕に始まり、女性陣たちが口々に異なる反応を示す。そこにいたのは、紛れもなくこの部屋の主だった漫画家にして僕の目標とする存在――ゆめみふみひで、その人であった。
「お前がここに戻ってくるとは珍しいこともあるものだな。もしかして、まだスカトロ漫画に未練が残っているのか?」
「馬鹿を言うな。俺はしばし同人からも商業誌からも足を洗い、新境地での活動に専念すると言ったはずだ」
ニヤリとした笑顔で皮肉を飛ばす江上さんを軽くあしらいながら、ふみひでが手提げ袋から漫画の本を取り出す。
「あれ? ふみひでさん、それって……」
「ああ。怖いもの見たさに買いはしたのだが、どうやら俺にはこの本の価値を見出せなかったみたいでな」
ふみひでが手にしていたのは、間違いなくつい先ほどまで桃美ちゃんと巻上さんの間で最後の1冊を巡って、争いの元凶となっていたスカトロ漫画――『金色のソナチネ』だった。
「ふむ……つまりお前は、その不要な漫画を私によこすためにここに来たということか?」
「そういうことだ。せいぜい尻拭き紙にでも使って、ソイツを有効活用してから供養してやってくれ」
ふみひでの手から江上さんに『金色のソナチネ』が渡される。これで、彼女の手元には『金色のソナチネ』が2冊そろったことになる。
「では、これで失礼する。江上コーチ、奈美子君、桃美君、涼姫……達者でな」
「ああ、お前こそ達者でな」「ふみひで先生、またお会いしましょうね」「たまにはコミケに顔ぐらい出せよ」「アキバで迷子になんじゃねーぞ」
「それと、健二君。最近『浦島あおば』と言う作家が活動しているが、あれは漢電池君が改名をしただけであって、間違っても新人作家ではないからな」
「それ、悪いけど当初から知ってました……」
「ならば安心だ。同じピスケスのスカトロジストとして、後は頼んだぞ!」
一通りの挨拶を済ませると、ふみひでは耽美な笑顔を携えたまま、かつて自分が生息していた空間を後にした。
「……全く、ふみひでの奴め。久しぶりに顔を見せたかと思えば、味なマネをしおって」
江上さんは大きく息を吐くと、2冊になった『金色のソナチネ』を、既にお尻を拭き終えていた桃美ちゃんと巻上さんに手渡した。
「お前たち……内容はどうあれ、ふみひでに感謝しながらじっくりと読むことだ。いいな?」
「分かってるよ、言われるまでもねーさ」
「はん、不本意ながらあたしも桃美に同感だ」
桃美ちゃんと巻上さんは、渡された『金色のソナチネ』を胸に抱きよせると、どちらもそのまま目を閉じて、深い感慨に耽っていた。
――良かったね、二人とも……
僕はその様子を、しばらく穏やかな目で見守り続けていた。
ギュム!
「えへ。健二先輩のオチンチンがさっきからずっと勃ちっぱなしで、嬉しいです」
「同感だな。健二君のチンポが元気だと、不思議ながら私たちまで幸せな気分になってくる」
奈美子ちゃんと江上さんに、自慢のムスコを可愛がられながら――――
「はぁ~~……」
一連の騒動終了後。家に帰った僕は、妙に汗ばんでいた体を洗い流すべく、風呂に入っていた。
ボゴッ、ボゴゴッ! ゴボゴボゴボッ!!
「よしっ、これで健二先輩のおうちの中にも私の臭いを残しておきました!」
……どういうわけか、勝手について来て『お風呂ご相伴させて下さい』とせがんできた、奈美子ちゃんと一緒に。
――まぁ、今日は奈美子ちゃんにも色々とお世話になったわけだし、風呂ぐらい構わないんだけどね!
シャワーを浴びながら、浴槽の中でオナラを連発している奈美子ちゃんに笑顔を向ける。考えてみれば、彼女との相部屋ならぬ相風呂は、これで2度目となるのだ。
「……どうしたんですか先輩? さっきから私の方を見て、ニヤニヤしてますけど」
「いや、別に。何でもないよ」
「う~ん、怪しいですね~~……だったら、さっきからビンビンに膨れ上がっているその肉棒に聞いてみます」
「えっ?」
ザバーーーッ!!
奈美子ちゃんは勢い良く浴槽から出てくると、すぐさま僕の前に回り込んで跪き、眼前のペニスを両手で包み込んだ。
「はは、こいつは1本取られちゃったね。だったら、しっかりくわえ込んで僕の気持ちを確かめてみてくれ」
「はい☆」
奈美子ちゃんは満面の笑顔で返事をすると、嬉々としながら僕のペニスを喉の奥まで突っ込んでからなめ回す。
その感触は、そこらの風俗店でさえ真似出来そうにない程の、熱意と誠意に満ち溢れているかのような心地良さだった。
――良かった……誰一人傷付くことなく全てが解決して……本当に、良かった…………
それから、僕と奈美子ちゃんはのぼせ上がるまで、風呂の中で幸せな時間を満喫した。
脱衣カゴの中で、乱雑に放られながらもしっかりと重なり合っていた、お互いの衣類のように――