「喜べ、お前ら。この間の検便に続いて、今年度からぎょう虫検査も行うことになったど」
そう言って、担任の永戸先生はホームルームで僕たちに露骨な笑顔を見せた。
『…………』
言うまでもなく、検便の時と同じように、クラスの中に微妙な沈黙が広がる。
――ぎょう虫検査って、いつの時代の学校行事だよ……
昭和臭の漂ってくる響きに、思わず苦笑いを浮かべてしまう。確かに、寝起き朝一番の肛門周りにシートをくっ付けて、虫がいないかチェックするという、そんな検査が昔の学校で行われていたという話は聞いたことがある。
だけど、衛生面の改善などを理由に、そのぎょう虫検査とやらは十数年ぐらい前、全国的に廃止されたはずである。
――随分と、生徒たちの健康管理に気配りをして下さるものだね、町のお偉いさん方は……
しかし、僕の憂いを気遣ってくれるかのように、先生はこう切り出してくれた。
「まぁそうは言うても、こっちもまだ実験段階じゃ。検便に同じく、これも女子限定じゃけえ男子はなしじゃけえの」
「……!」
僕は反射的に、目を見開いて頬を緩めてしまう。どうやら、今回も男子は完全免除ということらしい。
「……何かね林葉君。あんたも検査を受けてみたかったんかね?」
「いえいえ、ただでさえ医師が少ないこの町の現状を鑑みれば、僕まで受けるだなんて滅相もございません」
僕の言葉でクラス中が笑いに包まれる。彼らには、今の一言が何か面白かったのだろうか。
「つまり、そういうことじゃ。春野、配っちゃれ」
「はい」
検査シートの入った紙袋が、先生から女子クラス委員の七葉ちゃんに渡される。そして、彼女から女子たち一人一人へと配られる。
――よく分かんないけど、これもある意味、レディファーストの一環だったりするのかな……
そんな光景を横目で見やりながら、僕は漠然と『男に生まれて良かった』なんてことを考えていた。まさか、あんなことをするなどとは、夢にも思うこともなく――
「えへっ☆ ウンチの時もそうだったけど、今回も女子だけが検査させてもらってごめんなさいね」
放課後の帰り道。僕と一緒に帰路についていた七葉ちゃんは、そんなことを言いながら軽いノリで僕に謝ってきた。
「気にしなくていいよ。この町は医師不足が深刻なんだから、男子まで手が回らないのは仕方がないもの」
僕もまた、軽いノリで肩をすくめながらそんな七葉ちゃんに応じてみせる。
言うまでもなく、僕はこんなことで目くじらを立てるつもりなど毛頭ない。
「でも……」
だけど今現在、非常に不愉快かつ腹立たしかったのは、現在進行形で僕たちの帰り道にハイエナのように群がってくる同級生――元クラスメートの男子たちだった。
「林葉、お前絶対ヤバいで。いくらモテん言うてもそんな転校生と一緒に歩くとか、相手を考えろっちゃ」
「何お前ら? 両想いなん、付き合っちょるん?」
「おい健二、キモイのっちゃ。目障りじゃけえ早う歩けっちゃ」
立て続けに自転車のベルを鳴らしながら、彼らが僕たちの後ろをユルユルと徐行して心無い言葉を飛ばしてくる。
「健二さん……私、やっぱり怖いです…………」
先ほどまで平生を装っていた七葉ちゃんが、すっかり臆病風に吹かれてしまう。だけど、この状況下では無理もないと言うものであろう。
「……大丈夫だよ七葉ちゃん。この学校、こういう輩は多いけど、その反面セキュリティの方はしっかり整っているから」
僕は小声で七葉ちゃんにそう告げると、執拗な粘着を繰り返す彼らを一瞥した。
「あのさ……あまり言いたくはないけど、痛い目を見る前にやめた方が良いと思うよ」
「うるさいっちゃ」「知るかっちゃ」「調子こくなっちゃ」
僕の言葉に、次々と汚い罵り文句が返ってくる。どうやら彼らは、口の汚さがそのまま顔に現れる部類の人間だと考えて相違ないらしい。
「だってほら、お天道様は見てるって言うでしょ? そうすると、君たちのような連中の頭上には自ずと……ね?」
『???』
僕が天を指差したのにつられ、彼らが一斉に上空を見上げる。しかし、時すでに遅しというヤツだった。
グオォォォォン!!!
上空数メートルの高さから落ちてきた大型の鉄製タライが、一斉に彼らの顔面を直撃する。
「あが……がげ……」
大型タライをものの見事に顔面で受け止めた彼らは、汚い顔をより歪めながら自転車から転げ落ち、そのまま歩道の脇にのびてしまっていた。
「全く、懲りないハイエナどもね……いえ、やってることを考えたら、ハイエナよりも始末が悪いと言うべきかしら」
「きゃっ」
七葉ちゃんの背後から、タライを仕掛けた張本人――トイレの花子さんが姿を見せる。
実を言うと、最近は七葉ちゃんを守る意味も含めて、学校の行き帰りには常に花子さんを同行させているのである。
「花子さん、いつもありがとう。やっぱり君は最高の守護霊だ」
「……勘違いしないでちょうだい。あたしは最高の下半身を持っている人たちに欲情している、ただのエッチな地縛霊よ」
ギュム。
花子さんが右手で僕のペニスを握りつつ、左手で七葉ちゃんのお尻を撫で回す。
「あはは☆ 花子さんにお尻をまさぐられると、何だかゾクゾクしちゃいますぅ」
「な、七葉ちゃん……」
花子さんの艶めかしい手付きに、七葉ちゃんはとても満足そうだった。……かく言う僕も、かなり気持ちが良かったのだけど。
「ほら、お客様よ。邪魔者はあたしが駆逐してあげたんだから、しっかりお相手してあげなさい……」
だけど、愛撫の途中で花子さんは姿と気配を消してどこかに行ってしまう。
「待ってや、健二君」
そんな彼女と入れ替わるかのように僕たちのところに駆け寄ってきたのは、2年連続で一緒だった元クラスメートの女子――円香さんだった。
「一緒に帰ろうと思って教室に寄ったらおらんかったけえ、あわてて追いかけてきたわ」
「ごめんごめん、まさか円香さんがそんなお誘いをしてくるとは思わなかったから」
「……ごめんじゃないじゃろ。今日みたいな日にあたしが健二君を訪ねて来ることぐらい、考えとってや」
ギュム。
円香さんが抗議の証と言わんばかりに僕のペニスをつかんでくる。先ほどの魑魅魍魎どもに比べたら何百倍も可愛いものだが、これはこれで嬉しいながらも恥ずかしい。
「うふふ。やっぱり円香さんも、健二さんをアテにしてるのですね?」
僕が玉握りをされている光景を嬉しそうに見守りながら、七葉ちゃんが円香さんに質問を投げかける。『やっぱり』と言うことは、七葉ちゃんには何か心当たりでもあるのだろうか。
「七葉さん。悪いけど、今回も一緒にやらせてもらうけえね」
「はい、望むところです☆」
僕の理解が追いついていないところで、円香さんと七葉ちゃんが勝手に盛り上がる。しかし、そのやり取りには妙な既視感が見え隠れしていた。
そういえば、ほんの数か月前にかなり酷似した展開を体験したような覚えが――――
「……あっ」
僕が事情を察した時には、既に円香さんと七葉ちゃんは両腕にしがみ付いていた。
「ひょっとして、二人とも……」
「ようやく分かったんじゃね。でも、気付くのが遅すぎるじゃろ」
「円香さんの言う通りです。ともあれ、今回もしっかりお世話になりますからね」
そして、彼女たちはいつぞやのように声をハモらせながら、当然のようにこう願い出たのである。
『健二君 (さん)。ぎょう虫検査を手伝ってもらうけえ(もらいますので)、明日の朝はお願いね(お願いします)』
翌朝。円香さんと七葉ちゃんは約束通り、検査シートを持って僕の家に上がり込んでいた。
『…………』
「いや、まぁ……先生も、自分でやるよりかは誰かに手伝ってもらった方が、ちゃんと出来ると思うたけえね」
だけど、シートを手に最初に上がり込んでいたのは彼女たちではなく、僕の元担任――香子先生だった。
「……先生、恥ずかしゅうないんですか? 大の教師が生徒にぎょう虫検査のお手伝いとか、アホ過ぎるじゃろう」
円香さんが先生に鋭い視線を向け、それ以上に鋭い言葉で彼女を非難する。
「あらあら。教師の立場を利用して、健二君にお尻の面倒を見てもらうなんて、香子先生はソープ嬢よりも淫靡で不埒な人だったのですね」
七葉ちゃんも顔は笑っていたものの、言葉の鋭さでは円香さんと似たり寄ったりだった。
「まぁ、円香さんと七葉さんの気持ちは分かるんやけど、先生も提出せんといけん立場じゃけえね」
先生が苦し紛れの弁解を入れる。しかし、その程度の弁解では理由になるはずがない。
「だったらわざわざ健二君を頼らんでも、一人で勝手に採って出せばええじゃないですか」
「……円香さん。それを言うたら円香さんだって、健二君をアテにせんでもこれぐらい出来るじゃろう、少しは自分の立場も考えてものを言いましょう」
案の定、食い下がってくる円香さんに先生が言い返し、朝っぱらから僕の家に不穏な空気が流れ込む。
「健二さん……何だか、おかしなことになってきちゃいましたね」
「……同感だね。そもそも女子だけで良かったものを、女性教諭にまでぎょう虫検査の実施対象を広げちゃうからこういうことになってしまうんだ」
七葉ちゃんに全面的に同意しながら大きく息を吐く。こうなってくると、事態を鎮静化させるには僕の応用力しかない。
「先生、円香さん。そのぐらいでやめにしといてくれ」
僕は二人の間に割って入って嫌な流れを止める。
「せっかく女性陣の健康を気遣って、町の偉いさん方がぎょう虫検査なんてものを復刻させてくれたんだ。こんなことでケンカなんてしていたら、彼らに申し訳ないじゃないか」
『健二君……』
先生と円香さんがやや落ち着きを取り戻し、バツが悪そうに僕の方を見据える。僕の隣では、七葉ちゃんが笑顔を浮かべたままうんうんと頷いていた。
「とりあえず、ぎょう虫検査は不公平が出ないように僕が一斉に手伝わせてもらう。だからみんな、僕を信じてお尻を委ねてほしい」
僕は彼女たちのお尻を分け隔てなく愛撫してから準備に取りかかる。
「香子先生、円香さん、七葉ちゃん。まずは3人とも、下を全部脱いでくれ」
「うん、分かった」「……チンポが膨れちょるよ、エッチ」「いや~ん、私また健二さんに見られちゃいますぅ」
反応は三者三様ながら、彼女たちは言われた通りスカートとパンティを脱ぎ捨てて、下半身を露にする。これは、朝っぱらから絶景の極みである。
「じゃあ今度は壁に手を付けて、お尻を突き出すようにこっちに向けてくれ」
『……』
彼女たちは迷うことなく僕の指示に従い、横並びになってお尻を向けてくれる。その従順さは、とても嬉しくてありがたいものだった。
「あ、あんまり強うやらんといてね」「……ねえ、後でチンポ空けちょきんさいよ」「健二さん、くれぐれも穴を間違えないで下さいね☆」
「了解」
お尻を向けられながら、次々に飛んでくる彼女たちの言葉にシンプルな一言で応じて、僕自身も着々と支度を進める。
「……」
壁の並びは、真ん中に先生を挟んで、左右にそれぞれ円香さんと七葉ちゃんという構図になっていた。
――なるほど。こんな形で並んじゃったのなら、自ずと……
僕は両膝を付いて目線の高さを彼女たちのお尻の部分まで下げる。
「それじゃあ、一斉に始めるよ」
そして、検査シートを両手に持つと、先生用の残り1枚を口にくわえて一気に全員のお尻に密着させたのである。
カサカサッ、カサカサ! クチュッ、クチュッ、クチュチュ!
『んふっ、あはっ、あんっ……』
僕が両手と口を動かしている最中、あちらこちらから艶めかしい声が漏れてくる。かく言う僕も先生のお尻に顔をくっ付けていたので、本当はかなり興奮気味だった。
――先生のお尻、相変わらずウンチ臭いなぁ……朝から下痢してたんだろうな、きっと……
エッチなことを妄想しながらも、全員のシートにお尻周りの臭いと染み込ませ、とりあえず採取作業を終わらせる。
「はい、終了。本当はもっと眺めていたいけど、みんな早く下を穿いて学校の支度を整えるんだ」
僕はそれぞれのシートを専用のポリ袋に入れながら、彼女たちに手渡す。
「健二君、今回もありがとう。今度しっかりチンポをしゃぶらせてもらうけえ、覚えちょいてね」
ギュム。
「ふふっ。お尻の純潔を健二さんに捧げてしまったみたいで、何だかとってもエロ楽しい気分です☆」
ギュム。
円香さんと七葉ちゃんは袋を受け取ると口々にお礼の言葉を述べながら、感謝の気持ちを込めて僕のペニスを一握りしてくれた。だけど、香子先生は――
「…………」
「先生、どうされたんですか? さっきから、表情が浮かないみたいですけど」
「け、健二君。ちょっとトイレを貸してくれんかね? 先生、さっきから急にお腹が痛うなってきて……」
ギュム。
事この段階で、ようやく先生の手が僕のペニスを包み込む。
「あ―。そう言うことですよね、やっぱり……」
どうやら、離れ離れになっていても、香子先生は香子先生に変わりなさそうだった――――
ブリブリブリブリブリッ!! ブブビチッ、ビリビチチッ!! ブブブッ、ビチャア!!
僕と一緒に入ったトイレの中で、先生はあわてて便器の上に屈むと、大きな桃尻から一斉にビチビチの下痢便をぶちまけた。
「……」
程なくして、先生の便臭がトイレ一帯を悪臭をもって包み込む。
「ごめんね、健二君。先生、今日は久しぶりに健二君の家に行こう思うたら、緊張でずっとお腹が痛うて……」
「気にしないで下さい。むしろ、久々に先生の生尻とウンチ姿が見られて、僕は満足ですから」
むき出しのお尻を優しく撫でながら、僕は本心を伝えて気落ちしている先生を慰める。
「先生。ウンチが臭いのは仕方ないですけど、トイレの中で健二君に何かしたらただじゃ済ましませんからね」
「そうですよ。異臭はともかく、異変を察知したらすぐに私たちがお邪魔しますからね」
トイレの外では、円香さんと七葉ちゃんが見張りの意味でしっかりと待機していた(しかも、ドアの鍵をかけていない状態で……)。
「はぁ……」
ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ…………
先生がドア越しの監視にため息を吐きながら放尿を開始する。その尿は大量だったものの勢いは妙に弱く、お疲れ気味の先生の精神状態を表しているかのようだった。
「せっかく健二君がチンポをビンビンに勃たせちょるのに、今日はお預けじゃね……」
僕にお尻を拭かれながら、先生がどんよりとした声でそんなことを言ってくる。
「先生。これから学校に行こうって時間帯なんですから、そんな暗い顔をしないで下さい。それに――」
だから、僕は円香さんにも七葉ちゃんにも聞こえないぐらい声のボリュームを下げると、そっと先生にこう告げたのであった。
「今度また……先生のお家にお邪魔させてもらいますんで、その時にしっかり僕のをくわえ込んで下さい」
「やっぱりこういう時って香子先生が頼りになるいね。あたし、担任としては認めんけど、お抱え運転手としての香子先生は認めちゃげるわ」
「いや、そんな言い方はないと思うんだけど……」
「こういうのって良いですよね。何だか久〇川エレクトロニクスのお嬢様になった気分です」
「いや、エレクトロニクスのお嬢様は久〇川じゃなくて来〇川だから」
両脇をしっかり円香さんと七葉ちゃんに固められ、ほぼ身動きが取れない中で朝の通学路を進行する。
あれから僕たちは、すっかり気を良くした香子先生の計らいで、彼女の車に送ってもらう形で通学する手はずとなったのである。
――本当は、助手席でも良かったんだけどな…………
無人の助手席に目をやりながら、少し寂しい気持ちが込み上げてくる。やはり僕は、無意識のうちに先生の隣を求めていたりするのだろうか。
「健二君。ぎょう虫検査の手伝いをしてもろうた上に、トイレまで貸してもろうて、今日は本当に感謝しとるよ」
ふと、先生が先ほどまでとは打って変わって晴れ晴れとした声でそんなことを言ってくる。
「気にしないで下さい。僕は先生の教え子として、当然のことをしたまでの話です」
『…………』
僕は思ったままを口にしたつもりだったのだが、両脇の円香さんと七葉ちゃんが同時に怪訝な目を向けてくる。
「あれ? 二人とも、どうしたの?」
「別に。ただ、健二君ってチンポ勃たせながらキザなセリフを吐くんだなーと思ってさ……」
「……何でもありません。健二さんがいつまで元気なおチンポ様を持続出来るのか、気になっただけです」
僕の勃起に言及しながら彼女たちが同時にソッポを向く。全く、どうしたと言うんだろうね二人とも。
――ま、やるべきことはやったんだし、別に良いんだけどね……
きっと便秘か生理の関係で、どちらも精神的に苛立っていたりするのだろう。だとすれば、ここはそっとしておくのが筋である。
「先生。たとえクラスが違っても、僕にとっての最高の恩師は永遠に先生だけですからね」
「うん、ありがとう。健二君のその言葉、しっかり心に刻んじょくわ」
僕は永久不変の気持ちを先生に伝えると、そこからは言葉を発することもなく、ただ学校へと至る道を車に揺られ続けたのであった――――
結局、香子先生も円香さんも七葉ちゃんも検査の結果以上は発見されず、お尻周りは至って健常であることが証明された。だけど、今回のぎょう虫検査をきっかけに、彼女たちの中で何かが動き始めようとしていた……