※この作品はR-18です。

すかもんっ!   作:Žž‰€—時園礼

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第47話 オバケ泥棒!? 真夏の夜の奇々怪々

「その夜。トイレから一向に出てくる気配のない麻美子を心配したMは、こっそりと中に入って下の隙間から様子を確認してしまったのだ……」

 蝋燭(ろうそく)のほのかな明かりに照らされながら、おどろおどろしい顔と声音でふみひでが周囲を凍てつかせる。

「は、話もすごいけど、ふみひでさんの表情の方が強烈な感じですね」

 僕は怖気をごまかすかのように、隣に座っている椎名薙氏に声をかけて気を紛らわせる。

「せやな。僕も付き合い長いけど、こんな顔のふみひではんを見るのは初めてやわ」

 どうやら薙氏も概ね同意だったらしく、先ほどからずっと周囲の面子のビビリ具合を目で追いかけ続けていた。

「…………」

 状況を説明すると、現在僕たちは顔馴染みの同人作家『ゆめみふみひで』の誘いを受けて、彼の自宅でトイレにまつわる怪談(と言うか猥談)話を繰り広げていた。

 メンバーは僕とふみひではもちろんのこと、八乙女もんとのすけ氏・尾晒通氏・椎名薙氏の同人作家組。それから、江上萌加・巻上涼夏・葉枷奈美子のN校排球部組。そして……

「下の隙間から女の子のトイレを覗くっちゃあ、M君は健二君みたいな男の子なんやね」

 去年、僕のクラスで担任をしていた岸村香子先生の計9名である。

「そうだ。Mは過去にもトイレに入ったまま人が出てこなくなり、中で死んでいたという怪事件に遭遇していたわけだからな……今回も同様のことが起きているのではないかと本気で思ってしまったのさ…………」

「つ、作り話ってーのは何とでもなるから、いくらでも怖くさせることがで、出来るもんだよな……」

 ふみひでの話が佳境に迫る中で、巻上さんが冷や汗をかきながら気持ちを紛らわせる。

「いや、これ多分実話だぞ」

「は、はは。それは随分とリアリティに乏しい実話だなぁオイ……」

 しかし、尾晒氏の冷静な突っ込みをを前にやはり体を震えあがらせてしまうのであった。

「すると! 隙間の向こう、Mの視界の先では……!」

 そこでふみひでが蝋燭に息を吹きかけて、ほのかな明かりさえも消し去ってしまう。

『きゃあっっ!!』

 それに伴って、真っ暗な部屋の中で女性陣(江上コーチ以外)が悲鳴を上げる。

 だが、そんな演出に反して出てきたオチは――

「和式便器に屈む麻美子が、便秘と戦いながら極太ウンコを必死になってひり出していたんだとさ……以上! 俺の怪談、終了!」

『スカトロ漫画かよっ!!』

 あまりにも脱力感漂う終わり方に、僕たちは声を合わせてふみひでに突っ込みを入れる。だが、彼は電気をつけるとこう言ったのである。      

「ただの怖い話なんて面白くないだろう。このメンバーが集まっているんだから、スカ要素は必要不可欠だ」

『…………』

 妙に説得力のある言葉に僕たちが沈黙する中で、ふみひでが続ける。

「それに、怪談の醍醐味ってヤツはここからだと思わないか?」

「どういうことだ? 怪談話はお前のが最後だったんだから、もう話す奴はいないだろうに」

 ふみひでの意味深な言葉を八乙女氏が聞き返す。すると、彼は端正な顔を無機質に歪めながらこう言い放ったのである――

 

「ほら、よく言うじゃないか。こういう話をした後は、オバケや幽霊が本当に出てくるってな……」

 

 怪談後。僕たちはそれぞれに割り当てられた部屋でマッタリとくつろいでいた。今日はふみひでの好意で、僕たちは泊めてもらえるのである。

「それにしても、ふみひでさんがこんな大きな家に住んどるとは思わんかったわ。同人作家っちゅうんは案外稼げる商売なんやね」

 備え付けの布団を敷きながら、香子先生が僕たちに用意された2階の部屋『丹芸(たんげい)の間』を見渡して嘆息する。

「いや、彼が特別なだけですよ。実際のところ大半の同人作家はカツカツな暮らしをしていて、明日のカップラーメンさえ食べられるかどうか分からないというのが現実です」

 僕はそんな先生に業界の真実をさらりと告げると、敷かれた布団の上に大の字でゴロリと寝そべった。

「それにしても……僕と先生の相部屋に布団を一つしか用意していないなんて、ふみひでさんも粋な計らいをするものですね」

「うん、まぁ……やっぱり、そういう意味なんじゃろうか」

 先生もふみひでの真意を完全に理解しているらしく、顔を紅潮させながら露骨なまでに戸惑い続けていた。

「大丈夫ですよ。布団は一つしかないけど、枕はちゃんと二つ用意されています。タオルケットもLLサイズだから、二人でくるまっても十分入る大きさです」

 部屋の脇で丁寧に畳まれている必需品を確認しながら先生を安心させる。しかし、それ以前に彼女の不安は別のところに用意されていた。

 ギュルルルルル……!

「あれ? 先生、ひょっとして」

 突如うめくような音を立てた先生の腹部に僕はすかさず反応する。

「う、うん。人の家に泊まるんは始めてじゃけえ、緊張でお腹が痛うてね……」

「仕方がないですね。そういうことならば――」

 僕は勢い良く起き上がると、腹痛でやや前屈みになっている先生と一緒にトイレに直行した。

 

 

 2階のトイレは女性用で、段差型の和式便器が桃色の光沢を放っているどこか官能的な造りになっていた。

「何か、人の家でこんなことするのは恥ずかしいもんやね……」

「大丈夫ですよ。見ているのは僕だけですから」

「そ、そうじゃね……」

 先生は恥じらいながらも便器の上に屈むと、僕に見守られながら肛門まで差し迫っていた老廃物を一気にひり出した。

 ブリブリブビュルッ!! ビリビリビリリッ!! ブブビッ、ビチャア!!

「…………」

 先生の美尻から下痢便が噴き出されている光景を前にして、僕のペニスが無条件で膨れ上がる。見慣れている姿とは言えど、香子先生の排便姿はやはり僕の中で他の子たちとは一線を画していた。

「やっぱり下痢しちょる……昨日焼肉いっぱい食べたけえ、いつもよりウンチが臭いんよね」

「良いんじゃないですか? これだけ臭いウンチをしていたら、オバケも幽霊もきっと寄り付かないと思いますよ」

 先ほどのふみひでの言葉を思い出しながら、僕は先生に斜め気味なフォローを入れる。

「ま、まぁ花子さんでもない限り、こんな姿が見たいっちゅうような幽霊なんかおらんやろうけえね」

 ジョロジョロジョロジョロ…………

 先生が大きく息を吐きながら放尿を開始する。正直なところ、僕としてはこれだけでも昇天に値するオカズネタである。

「あ。でも、昔読んだ漫画にはありましたよ。学校の女子トイレに出没する男の子の幽霊が、夜中にオシッコしている女の子をナンパしてエッチするって話が」

「健二君、そういう変なホラー話を今ここでするのはやめようや。先生怖くて寝られんくなるけえ」

「おっとっと、すみません」

 僕は謝りながらペーパーを引き抜くと、先生のお尻と局部をいつも以上に丁寧に拭いてあげた。

 ――やっぱり、他の誰よりも先生のお尻を拭いている時こそ僕は…………

 ふと、脳裏に妙な考えが浮かんできて心がふわふわと宙に漂ってしまう。今ならば、もしかして――

「……こんな時に言うのも何ですが、ちょっと僕の話を聞いてくれますか」

「ええけど……どうしたんかね、急にあらたまってから」

「先生。実を言うと僕、先生のことが――」

 ちょうどお尻を拭き終えたところで、僕はいつの日か伝えようとしていた言葉を先生に告げようとする。しかし――

 

「ゲギャアァァァァァァッ!!!」

 

 突然2階の別室から断末魔の叫びのようなものが聞こえてきて、僕たちは会話の中断を余儀なくされてしまう。

「健二君。話はまた後で聞いちゃげるけえ、ちょっと行ってみようや」

 先生が水を流して立ち上がり、悲鳴の方を優先させてしまう。

「……そうですね」

 名残惜しくはあったけど、状況を鑑みた僕は敢えて先生に同意する。

 こうして僕たちはトイレを出ると、2階の別室――江上コーチ・巻上さん・奈美子ちゃんの3人が割り当てられた部屋『骨掘(ほねほり)の間』と向かったのであった――

 

 

「うるさいなぁ君たちは、眠気が吹き飛んじゃったじゃないか……って」

 香子先生と一緒に骨掘の間に入った僕は、開口一番ただならぬ室内の空気に絶句した。あろうことか、奈美子ちゃんたちは全員金属バットを片手にこちらを見据えていたのである。

「よく言うぜ。能面つけてあたしらに夜這いを仕掛けようとしたハレンチ野郎がよ」

「全くだ。ま、我々も君の動向など織り込み済みだったから、このバットでタコ殴りにして追い払ってやったわけだがな」

 巻上さんと江上コーチが身に覚えのないことを口にしながら僕に鋭い目を向ける。

「ちょっと待ってくれ。能面つけて夜這いとか、一体何の話だよ」

「ケッ、あくまでシラを切るんだったらそのチンポに聞いてやろうかコラ」

 ギュム!

 僕の言い分を聞こうともせず巻上さんが盛りの猫のような顔つきでペニスをつかんでくる。

「巻上さん。健二君はさっきまでずっと私と一緒におったんじゃけえ、関係ないと思うんやけど……」

「何だぁ? 香子を使って口裏合わせたぁ、随分と手の込んだことしやがんだなオイ」

 見かねた先生がフォローを入れてくれるも、それでも巻上さんは僕に疑いの目を向ける。

 そんな中、僕の潔白を証明してくれたのは奈美子ちゃんだった。

「ちょっと待って涼姫。私たち、さっきの人を何発もバットで殴ったのに健二先輩は傷一つ負ってないよ? やっぱり先輩は違うんじゃないのかなぁ」

「あ、確かに……」「なるほど、言われてみれば」

 奈美子ちゃんの一言で、巻上さんも江上コーチもようやく納得する。と言うか、それぐらい気付けよという話である。

「全く……ロクに調べもしないで人を疑いまくるとか、短絡的にも程があるだろ」

「るっせーなー。だったら、あたしらの寝込みを襲おうとした能面野郎は誰だったんだよ」

「そんなの僕が知ってたまるかよ。大方、オバケか幽霊でも出てきたんじゃないの?」

『…………』

 勢い任せに口走った僕の言葉に周囲が硬直する。

「や、やだなぁ先輩。私、女の子のウンチは好きだけど、そんなジョークは嫌いですよ?」

「そうは言ってもね……怪談話の後って、案外家の中に知らない人が一人や二人紛れ込んでいたなんてことが往々にして……」

 そんなことを言いながら、僕が奈美子ちゃんの肩に手を添えて少し驚かしてやろうと目論んでいたその時だった。

 

「ウギャアァァァァァァッ!!!」

 

 今度は1階から汚い悲鳴が轟いてきて、またしても会話を遮られてしまう。どうやら今日は、考えるまでもなく『そういう日』と言うことらしい。

「……江上コーチ。香子先生をお願いします。奈美子ちゃん、巻上さん、行こう!」

「はいっ!」「ケッ、しょーがねーなぁ!」

 僕は先生を江上コーチに託すと、奈美子ちゃんと巻上さんを連れて1階へと降りた――

 

 

 1階に降りた僕たちが廊下で出くわしたのは、八乙女氏と尾晒氏の二人だった。

「くそっ、逃げ足の速い妖怪め……!」

 八乙女氏が歯噛みをしながら口惜しそうに壁の柱を蹴り上げる。その隣では、尾晒氏が棍棒を片手に苦笑いを浮かべていた。

「妖怪って……何のことですか?」

 八乙女氏に聞くのはちょっと怖かったので、僕はさり気なく尾晒氏に聞いてみる。すると、彼はため息を交えながらこう答えたのである。

「それがね、俺たちの部屋に出てきたんだよ。般若の面を被った怪物みたいな奴が」

「般若の面……」

 大事な部分を復唱しつつも僕は体全体で薄気味悪さを覚えてしまう。先ほど出てきた奴は能面で、今回現れたというのは般若の面。

 もしかして、ふみひでの家というのはお化け屋敷か幽霊屋敷の類だったりするのだろうか。

「一応俺たちも事前に暴漢対策はしていたから、俺が棍棒で頭を殴った後で八乙女さんが背負い投げを食らわせて返り討ちにはしたんだけど、結局取り逃がしちゃってね」

「そうだったんですか……」

「で、君たちの方は何があったんだい? 金属バットなんて持ち歩いちゃって」 

「ああ、それがですね…………」

 僕たちは先ほど骨堀の間で起こった出来事と繰り広げられたやり取りを、八乙女氏と尾晒氏にありのまま伝達した。

「何だ、お前たちの部屋にも出てきたと言うのか? それは穏やかではないな」

「でしょう? 私、このままじゃ安心してウンチも出来ないです……」

 険しい顔の八乙女氏を煽るかのように奈美子ちゃんが怯える素振りを見せる。

「おいおい。いくら怪談話の後だからって、本当にオバケが出てくるなんてシャレにならないぜ……」

 尾晒氏がため息を吐きながら、やれやれと言った具合に首を振る。

「…………」

 そんな中、巻上さんは何か思い当たるところがあったらしく、極めて冷静にこんなことを口にしたのであった。

「なぁ尾晒。ふみひでと椎名の奴はどこにいやがるんだ?」

「ああ、あの二人なら最奥部の作業部屋『谷木斉(たにきさい)の間』にこもっているみたいだぜ。何でも、共同作業があるって話だからな」

 巻上さんに話を振られた尾晒氏が当然のようにそう答える。

「それって、まさか……」

 だが、それこそが一つの仮説を導き出すための重要な手がかりだった。

『………………』

 僕たちは互いの顔を見合わせながら、おそらく全員思い当たっているであろう有力な仮説に怪訝な表情を浮かべる。

「つまり、アレか? 怪談話の後で俺たちをビビらせようと思って、ふみひでと椎名の奴が……」

「確かにあの二人なら手を組んでやりかねないな。いつぞやの夏コミでも共同で同人誌を描いていたぐらいだし」

 八乙女氏と尾晒氏がほぼ確信したように頷き合う。一方で、巻上さんと奈美子ちゃんは既に臨戦態勢を整えていた。

「チッ、あのクサレ同人作家どもめ……こうなりゃあたしが奴らにしっかりお灸を据えてやるぜ!」

「同感です! 乙女の園に変な姿で踏み入った報いをしっかり受けさせてやりましょうね、健二先輩!」

「そうだね。いくらふみひでさんたちとは言え、悪ふざけにも限度ってものがあるからね」

 僕たちは五人で一致団結すると、迷うことなく1階最奥部にある谷木斉の間へと直行した。

 その先で、あんなオチが待っているともつゆ知らず――

 

 

 踏み込んだ谷木斉の間には明かりがついておらず、中はもぬけの殻となっていた。

「くそっ、やっぱりアイツらいやしねーぜ」

「大方どこかの部屋に隠れて次のイタズラを計画中ってとこだろうね」

 八乙女氏と尾晒氏が辺りを懐中電灯で照らしながら、改めて周囲に人気がないことを確認する。

「ふん! 今度こそ本格的に叩きのめすことが出来ると思ってたのに残念だぜ!」

「まあまあ。家中をしらみ潰しに探してれば見つかるだろうから、そんなに熱くならなくたって」

「もう! 私、頭に来たからここでウンチしたい気分です!」

「やめろ奈美子ちゃん、それはアンソロか同人の中だけに留めておくネタだ」

 一方で僕は、目を剥いて悔しがっている巻上さんと奈美子ちゃんを穏便になだめていた。互いのお尻を優しく揉みながら……

「とにかく、ここにいないのなら空いている部屋を片っ端から探して行きましょう。そうすればきっと、どこかで能面にも般若面にも出くわしますよ」

「そうだな……全く、手間のかかる奴らだぜ」

「はは。やられっぱなしも面白くないから見つけたらたっぷりお返しをしてやらないとね」

 僕は八乙女氏と尾晒氏に声をかけて、部屋を出るべくドアを大きく開く。

 すると――その眼前には、どこかで出くわすと思っていた能面と般若面が当然のように立ち塞がっていた。

「ほら、言ってるそばから能面も般若面も出てきたでしょ? これなら探す手間も…………」

 そこで僕はふっと我に返り、目の前の光景を自覚する。そして、次の瞬間――――

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

『ヒギャアァァァァァァッ!!!』

 

 僕は大きく悲鳴を上げる。そして、それにつられるかのように目の前の怪物たちも悲鳴を上げる。

「コイツめっ! また出てきやがったな!!」 

 だが、巻上さんは気丈にも驚くことなくバットを振りかぶって怪物たちに襲い掛かる。

『ギョエ~~~~!!』

 怪物たちはその恐ろしい風貌とは裏腹に、叫び声を上げながら逃走する。

「逃がすかよクソどもが!」

「戯けめ……今度こそ仕留めてやる!」

 そんな怪物たちを巻上さんと八乙女氏が一目散に追いかける。

「……健二君、奈美子ちゃん。俺たちも追うよ!」

『はい!』

 そして、僕たちもまた彼らの後に続いたのであった。

 

 

 僕たちは居間に逃げ込んだ怪物たちを一斉に追いかけ回していた。

「ふみひでと椎名、いい加減に止まれっ! 止まらんと二度と夏コミに参加させないぞっ!」

 八乙女氏の警告も空しく、能面と般若面は必死になって逃げまわる。だが、それをいつまでも見過ごしているほど八乙女氏は甘くない。

「くそっ、あくまで逃げ続けるつもりなら……尾晒! 涼姫!」

『了解!!』

 八乙女氏の合図を受けて、尾晒氏と巻上さんが手持ちの棍棒と金属バットを怪物たちへと投げつける。

 ゴイィィィ~~~~ン!!

『ギャヒッ!』

 それは鈍い音を立てながら彼らの後頭部へとクリーンヒットした。そして、そこで一気にスピードを上げた八乙女氏が彼らに追いついたのである――

「うらあっ! どりゃあっ!!」

 八乙女氏が渾身の背負い投げとバックドロップを能面と般若面にそれぞれ見舞いながら、テーブルの上に思いきり叩きつける。

「うわっ……」

 テーブルは壊れこそしなかったもののヒビが入ってしまい、いかに強い力で叩きつけたかが容易に理解出来た。

「どうだ参ったかこの野郎!」

「あが、が、が……」「グギギギ……」

 テーブルの上で完全に伸びている能面と般若面を見下ろしながら、八乙女氏が腹の底から声を張り上げる。

「ふみひでと椎名! とっとと起きてあたしらに土下座しろっ!!」

 巻上さんも勢い任せに見下ろしながら怒声を張り上げる。

「…………」

 しかし、僕は目の前でのびている二人を前に妙な違和感を覚えていた。

 ――あれ? よく見てみたら、この二人……

 違和感の正体に気付いた僕は、周囲を落ち着かせるかのように手をかざして言葉を紡ぐ。

「ちょっと待って下さい。この二人、ふみひでさんでも薙さんでもないみたいです」

「あん、何言ってんだ健二? これはどう見たってアイツらが面を付けてるだけじゃねーかよ」

 僕の言葉を全く信じようとしない巻上さんに、僕は決定的な証拠を見せる。

「ほら。よく見てみたらこの人たち、お面なんて被っていないでしょ? つまりこれは能面と般若面に近いだけの、この人たちの地顔なんだよ」

「なるほど、言われてみれば……」

 巻上さんが怪物たちを凝視しながらようやく納得する。

「確かに、面ではなくどうやら地顔みたいだな」「それにしたって強烈な面構えだな」「やだ、どっちにしても怖い顔です……」

 八乙女氏たちも合点が行ったのか、次々と僕の言葉に理解を示してくれる。

 そんな中、居間の電気がついて渦中の人物だったはずのふみひでと薙氏が姿を見せたのである。

「もう寝ているかと思ったら……君たち、こんな時間に何を騒いでるんだ?」

「せやせや。ふみひではんは泊まってええとは言うたけど、暴れてええとは言わんかったはずやで」

『…………』

 こんな形での両氏の登場に、僕たちは思わず顔を見合わせる。

「お前たちこそ……一体どこにいたんだ?」

「ああ、俺たちは部屋の電球が切れたから新しいの買いに出掛けていたんだが……どうかしたのか?」

 八乙女氏の問いかけにあっさりと答えるふみひで。

「せや。ついでにアイ〇スのトイレ盗撮同人誌があったから買うてきたんやで」

 そんなふみひでに便乗するかのようにドヤ顔でエロ同人誌を見せびらかす薙氏。

「全く。上で人を散々待たせておいて、何を騒ぎ回っているのだお前たちは」

 そして、しびれを切らしたのか2階から降りてきた江上コーチと香子先生。

 ……つまり、本日集まったメンバーが全員そろった中で、身に覚えのない二人がテーブルの上でのびているというわけである。

「そ、それにしても……ふみひで先生でも薙先生でもなくて私たちの誰でもないとしたら、この二人は一体誰なんですか……」

『…………』

 奈美子ちゃんの素朴な疑問に誰も答えることが出来ず、気まずい沈黙が辺りを包み込む。

 そして、次の瞬間僕たちは一斉に大絶叫したのである。

 

『オバケが出たあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』

 

 身の毛もよだつ来客を生け捕りにしようと大騒ぎする僕たちだったが、怪物たちは隙を見て窓から逃走する。

「もう嫌だこんな家!」「た、助けて偉い人っ!」

 だけど、あんなおぞましい顔を放っておくほど僕たちだって甘くない。

『待て待てぇ~~!!』

 僕と八乙女氏と尾晒氏と巻上さんと奈美子ちゃんの五人は、不気味な来客を何としてでも捕まえるべく夜の町を駆け抜けたのであった――――

 

 

 その後、世にも奇妙な追いかけっこは彼らが警察に出頭する形で収束した。聞けば彼らはオバケでも幽霊でもなく単なるプロの泥棒で、町内で多くの黒い実績を積み重ねていたという話である。

 ともあれ町の平和に一役買えたという意味では非常に価値のある、そんな今回のお泊り会だった。

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