「ねえ、健二君。明日のフリマ来るんじゃろ?」
そんな言葉で僕の緩やかな昼休みに水を差してきたのは、少し離れたクラスの同級生・麻梨乃だった。
「ねー行こうやぁ、うちも出店するんじゃけえ」
僕の返事を待たずして、麻梨乃が腕を揺すってくる。
「君が店を出すからって僕が行く理由にはならないだろう。この前コミケ行ったばかりで金銭的に余裕ないんだ、また今度に……」
「来るんじゃろ、の?」
急に背後から襟首をつかまれる。振り返ると、そこには麻梨乃のクラスメートの男子・直之がいた。
「お前、明日のフリマ行かんかったらまたいじめるで、それでもええんかっちゃ」
「服が伸びるから、とりあえず離してくれ」
「じゃけ行くんか行かんのんかハッキリせえや」
直之が襟首をますます乱暴に引っ張ってくる。こうなってくると、もはや僕に拒否権などあるはずがない。
「わ、分かった、行くよ。だから離して」
「ほらよ」
ようやく乱暴な手から解放される。
「約束じゃけえの、来んかったらボコった後でフルチンにして校庭引き摺り回すけえ覚えちょけよ」
「じゃあ土曜日に市民広場で会おうね~」
「あ、ああ、楽しみにしてるよ……」
強引に約束を取り付けると、麻梨乃と直之は満面の笑顔で僕の前から去って行った。
僕はただ、無人の渡り廊下で立ち尽くしているのが精一杯だった。
「キャンプ場で花摘みに行くと言って、その場を後にしたお姉ちゃんの後を追いかけた弟はその先で……」
午後の授業で担任の香子先生がしていた話は非常に興味深かったものの、あんなことの後だとろくに頭には入って来なかった。本来なら、あんな脅迫じみたことをされたのだから先生に相談するのが筋なのだろうけど、そんな気にはなれなかった。
――香子先生は優し過ぎるから……
力にはなってくれるだろうけど、先生の対応では根本的な解決までに至るとは思えない。まして、うっかり奴らを怒らせて彼女に危害が及んでしまったら、間違いなく僕は一生後悔することになるだろう。
「ほいで、確認の意味で近くにあった棒でツンツンしよったらこれが折れたんよね。じゃけど逆に弟はますます興奮して……」
とりあえず、この問題は先生には黙っておくとしよう。つまりは僕が、フリマに行けば良いだけの話なのだから。もし何かあったとしても、それはその時に考えれば良いだけの話なのだから……
あっという間に迎えてしまった土曜日の朝は、僕の精神状態を示すかのようにどんよりと曇り空が広がっていた。だけど、雨が降っているわけではないので、当然ながら中止も延期もあり得ない。
「どうぞ~買って行ってくださーい」
「掘り出し物ありますよー」
会場である市民広場を、心ここにあらずといった心境でうろつきながら出店を見て回る。なるほど古着や少し前にはやったアニメの玩具といった、不要ながらもまだ使えそうなアイテムを持ち寄って、各人が売りさばいている。
「あっ、健二君がおる」
そんな中、適当に歩き回っているうちに厄介な奴らの出店の前を通りかかってしまったのである。
「来てくれたんじゃね、やっぱり来ると思っちょったわ」
麻梨乃が白々しくにこやかに手を振りながら、僕の来店(来たくて来たんじゃないけど)に歓喜する。
「ま、まぁね、数か月に一度あるかないかのイベントだからね」
本当は来たくもなかったのに、あの流れじゃ行かないわけにもいかないだろう。
「よー来たのぉ。ついでに買ってけぇや、ええもんあるけえ」
麻梨乃の隣にいた直之が高圧的な態度で僕に迫ってくる。
「うん、でも、これって」
ゴザの上に並べられた品物は、全て麻梨乃が描いた同人誌とお手製のラミカばかりだった。それも、同人誌に限っては18禁の成人向けである。
「読んでってぇいね、頼むけえ」
「いや、でもこういうのはちょっと」
「お前エロいの好きじゃろうがいや、ええけえ読めいや」
直之に同人誌の一つを無理やり手渡されて仕方なくページをめくる。見たところ、それは某格闘ゲームのエロパロ本だった。格闘に敗れたアイヌの娘が、ジャンヌダルクのような女剣士の部下であるいかつい男たちに弄ばれる、そんな感じの内容だった。
「ねっ、ええじゃろええじゃろ!? 輪姦興奮するじゃろっ!」
「……」
そもそも絵柄からして好みじゃない上に、モノクロのラフ画状態で売り物かどうかも怪しい本である。
それに加えて輪姦なんて、僕の最も嫌うジャンルの一つである。せめて女の子がその過程で快楽に目覚めてくれれば救いもあるが、このアイヌの子はずっと涙目で悲鳴を上げてばかり。
「悪いけどこういう本は僕には向かな……」
「はい、お買い上げ700円ね」
「えっ」
僕の言葉など聞こえなかったかのように、お買い上げコールが告げられる。というか、十数ページのモノクロ本で700円って何だ。
「いや、僕は買うつもりなんて」
「お前もう読んだんじゃけえ買うしかないじゃろうが」
有無を言わさず直之に首根っこをつかまれる。
「お前、買わんかったらまたいじめるで、おい」
「うっ……」
またしてもお得意の脅迫である。
「ねぇねぇ、買うんじゃろ、買うじゃろ?」
「分かった、分かったから」
「はい、毎度あり~」
こうして、僕は押し売りも同然の形で麻梨乃の同人誌を買わされる羽目になった。
「また後で来いよ、まだええもんよけ用意しちょるんじゃけえ」
しかも去り際に、再来店の約束まで強引に取り付けられて。
「はぁ……」
すっかり軽くなってしまった財布を思いため息を吐く。好きな物を買ってこうなったのならまだしも、欲しくもない物を買わされてこの有り様では到底納得出来そうにない。
――もう少し、精神面で強くならないといけないのかな……
再びため息を吐きながら歩いていると、目の前で面白い光景に出くわした。
「はっはっ、相変わらず良い漫画を描いているじゃないか尾晒君は」
「そ、そりゃどうも」
どうやらここにも、自作の同人誌を出店に出している人がいるみたいだった。そして、それを清々しい笑顔で見定める二人の男性。
「見てよ兄さんこのアヘ顔、これで勃たなきゃ男がすたるだろ」
「分かるぞ羊、この顔この腹この肛門。まさにこれは現代エロスの鑑というヤツだ」
「そりゃあこんな漫画ばかり描いてれば一般誌から敬遠されて当然だよ、うん」
「ほっといてくれっ!!」
褒めているのか揶揄しているのかよく分からないような言い回しに、売り子の男性が声を荒げている。
「はっはっ、まぁ折角だしここにある同人誌を一式買わせてくれたまえ」
「新刊2冊と既刊5冊、しめて3700円だ」
「はい」
売り子の男性に五千円札が渡される。
「五千円札かよ。えっと、お釣りはっと」
「釣りは結構だ、取っておきたまえ。さぁ行くよ、羊」
「はい」
二人の男性はお釣りを受け取ることもなく同人誌をカバンに入れると、振り返ることなくその場を後にした。
「……そんなところで傍観してないでこっちに来なよ」
「あ、はい」
売り子の男性に声をかけられ、反射的に売り場の手前まで足を進める。
「えっと、あなたも同人誌を描かれているのですか?」
「見ての通りさ。ま、ちょっとエッチなのばかりだけどね」
「ちょっと?」
視界に映る同人誌の表紙たちを見た限りでは、半端なくエッチな香りがプンプン漂ってくる。だけど、どれもこれも官能的で性欲をくすぶられそうなものばかりで、購買意欲をそそられる。
「俺の名前は尾晒。サークル『おざらし』の管理人だ、覚えておいてくれ」
「僕は健二といいます。近くの高校に通っている、現役の高校生です」
尾晒氏につられる形で無難な自己紹介をする。
「ところで、先ほどの妙な方々は一体……」
「ああ、あれはテクソディア兄弟っていうんだよ」
「テクソディア?」
ロクでもなさそうな響きに思わず顔をしかめてしまう。
「何と言うか、奴らも本職は漫画家だったりするんだけどな……」
尾晒氏の話によるとこういうことである。テクソディア兄弟――兄・サキマ真司と弟・サキマ羊(ひつじ)からなる二人組で、元々は尾晒氏と同じアパートに住んでいたのだという。基本的にはどちらも困っている人を放っておけない性分なのだそうだが、決まって彼らのお節介は惨事を引き起こして周囲に大迷惑を及ぼしていたらしい。
「結局のところ、大家さんまで怒らせて追い出されちまったんだが、まさかまだこの界隈でよろしくやっていようとはな」
「漫画家って色んな人がいるんですね」
良い人もいれば悪い人もいて、変わった人もいる。もちろん、それは漫画家という職業に限った話ではないけれど。
「それにしても君、何か表情が浮かないぞ。何かあったのかい?」
「えっ、それは」
「隠さなくてもいい、顔に出ている。正直に俺に打ち明けてみなよ」
「……」
初対面だというのに、何故かその言葉に信用性を感じてしまう。あんなことがあったとはいえ、この人に相談すれば、もしかして。
「分かりました、話させてもらいます」
僕は先ほどのサークルで受けた仕打ちを尾晒氏に打ち明けた。普段から学校で、彼らに高圧的な態度で迫られていることも含めて、包み隠さずに。
「なるほど、君はそいつらに買いたくもない同人誌を買わされた上にまた後で寄るように言われた、と」
「はい。寄らなければ明後日学校でいじめられるのは明白です」
「君が哀れなのは言うまでもないが、そういう行為を平然としているような連中が同業者というのは見過ごせないねぇ」
尾晒氏の表情が少し曇るもすぐに柔和な顔つきに戻る。
「……よし、そういうことなら今から30分後にそいつらのサークルに戻るといい」
「30分後?」
「そう、30分後だ。それまでに俺が色々とてはずを整えておく。君は安心して魔窟へと帰還することだ」
「魔窟……」
その的を射た言い回しに、思わず頬が緩む。
「了解です。あなたの言葉を信じて、30分後に奴らのところへ行くとします」
「うむ、良い答えだ。それまでは時間を潰しておくのだぞ」
「はい!」
僕は尾晒氏の言葉通り、適当に周囲の店を見て回りながら時間を潰し、運命の時を待った。
そして、30分が経過した。
「おう健二、待っちょったで」
麻梨乃のサークルに戻ると、直之がタバコをふかしながらゴザの上であぐらをかいていた。
「これも買っちょけいや、麻梨乃が作った渾身のホモ本で」
煙を吹きつけながら同人誌の一つを差し出してくる。
「ちょっと待ってくれ。これBL(=ボーイズラブ)本じゃないか。もっと他にマシなものが……」
「おい!」
直之が立ち上がって僕の膝に蹴りを入れてくる。
「なんかっちゃ、俺の薦める同人誌が買えんっちゅうんかっちゃ」
「せっかく買ってやるんだから、どれを選んだって僕の自由だろ」
痛む膝をこらえながら、どうにかして言葉を紡ぐ。これ以上、こんな凶暴で汚い奴の思い通りにされてたまるものか。
「お前ホモじゃけえそれでええじゃろうが」
「はぁ?」
押し売りの次はホモ呼ばわり。全くもって、目の前の相手は人間性を疑うレベルの男である。
「お前、買わんにゃあ今俺が持っちょるタバコの火を目に押し付ちゃるけえの」
「さっきから自分が何をしているか分かっているのか」
「うっさいのー。そんなに片目潰して『隻眼の健二』になりたいんじゃったらすぐにでも……」
ゴキッ!
直之が火がついたままのタバコを僕の目元でちらつかせるや否や、木槌による渾身の一撃が頭部へと振り降ろされた。もちろん、僕ではなく直之の頭部にである。
「あがっ」
白目を剥いてその場に崩れ落ちた直之の後ろに立っていたのは、さっき会ったばかりの尾晒氏その人だった。
「やっ、また会ってしまったな」
「尾晒先生……」
「全く、園内は禁煙だというのに堂々と吸いやがって。厚顔無恥もここまで来ると才能だな」
グリグリ、グリグリ。
「先生、それタバコ違います頭です」
「ああそうだった失礼」
直之の後頭部を踏みつけていた尾晒氏が、あわててその脇に落ちていたまだ火の残っていたタバコを踏み直して消火する。言うまでもなく、意図的な行為ではあるのだろうけど。
「危ないところだったね」
「ありがとうございます。でも、こんな光景を彼女が見たら……」
「ちょっと!!」
僕の危惧がすぐに的中して、問題の人物がやって来る。
「ねー健二君、なんで直之が倒れちょるん? あたしがウンコしに行っちょる間に何があったん?」
戻ってきた麻梨乃が、今にも噛みつきそうな勢いで食って掛かってくる。
「どうしてくれるん!? 売り子がおらんにゃああたし動けんじゃろ!!」
「そんなの僕に言われても」
悪いのはどう考えても直之の方だし。
「まだこんなに在庫があるんよ! 売れ残ったら全部健二君のせいじゃけえね!!」
「よし分かった、そういうことなら我々に任せておきたまえ!」
「えっ?」
麻梨乃の背後から颯爽と二人の男性が姿を見せる。そこにいたのは、これまたさっき会ったばかりのサキマ真司氏とサキマ羊氏――テクソディア兄弟である。
「ここにある漫画が捌(は)けなくて困っているというんだな、君は」
「兄さん見てよこの拙い絵。これで売り物にしようというんだから、その神経に恐れ入る限りだよ」
「言うな羊よ、こんな畑の肥やしにもならない燃えるゴミを処理するのが我々の役目ではないか」
大きなため息を吐いて、真司氏がカバンの中からメガホンを取り出す。
「さー皆さん! ここに下手糞ながらも高額でエッチな同人誌を作った女の子がいます! なかなか売れずに気分が悪いという彼女のために、ぜひとも買ってあげましょう!」
「すごいですよ~! アイヌの女の子が延々と輪姦(まわ)され続けて悲鳴上げてますよぉ~!!」
真司氏に続いて、羊氏までもがメガホンで大々的に宣伝する。
「ちょ、ちょっと何言いよるん? あたし、そんなことしてほしいとは一言も……」
麻梨乃が止めようとするも、二人は宣伝の声を緩めない。
「買って下さい見て下さい! 麻梨乃ちゃんが股間を濡らして吠えてます!!」
「売れ残ったら同級生の男子のせいにされちゃいます! 彼のためにもエロ同人をゲットだぜ!!」
宣伝内容が影響したのか、周囲のお客さんや店を出していた人たちが次々と顔をしかめている。
「何、エロ本をフリマで売ってるのあの子?」
「酷い絵だなぁ。そこらのフリーペーパーの方がよっぽど良いデザインをしているぞ」
「売れ残りは人の責任とか、根性の腐った奴がいるもんだなぁ」
一方で、飢えたオタクたちがわらわらと群がってくる。
「エロ同人? 欲しい欲しい、いくら?」
「こっちが700円でこれは800円、あそこにある旧刊は600円の1割引きって書いてあるから、えーっと……」
「面倒臭いよ兄さん、もう手間がかかるから全部10円にしておこうぜ」
「いいことを言うではないか。よし、10円だ! ここにある同人誌もラミカも全部10円販売だ!!」
「やめてっちゃ! 10円で元が取れるわけが……!」
途端にオタクたちの波が一斉に押し寄せてきて、麻梨乃の声と動きを塞いでしまう。
「買った!」
「俺も!」
「俺も俺も!!」
さっきまでの閑古鳥状態はどこへやら、いつの間にか麻梨乃の店は男たちの汗が飛び交う団子状態と化していた。
「すみませーん、俺今日お金持ってきてないんですけど」
「全く、仕方のない奴だなぁ! だったら君はタダで結構だ、持ってけ性少年!!」
真司氏が蚊帳の外にいた無一文男子に同人誌の一つを投げ渡す。だが、それが本当の意味でのカオスの幕開けだった。
「ちょっと待ってくれ! アイツがタダで俺たちが有料なんて不公平じゃないか!」
「そうだそうだ! せめて売り子の女とヤラせるぐらいの特典をつけろっ!!」
どさくさに紛れてとんでもないことを言い出す輩まで現れる。少なくとも、僕は麻梨乃のような女はタイプではないので、そこまではしようと思わないのだけど。
「よーし分かった、だったら今から全部タダ! 同人誌もラミカも無料で持って帰ってくれっ!!」
「ついでに麻梨乃ちゃんとのエッチもタダ! 帰る前に彼女を囲ってしっかり溜まった分を処理して帰りましょ~♪」
「ちょっと、あんたたちっ! ええ加減に……!!」
『だーーーーっ!!!』
「キャー!!」
羊氏の言うが早いか、麻梨乃が脱がされ男たちに代わる代わる犯される。そう、まさに彼女自身が描いた同人誌のアイヌ少女のごとく。違いがあるとすれば、同人誌の少女は何も悪いことをしていないのに理不尽な暴行を受けているのに対して、麻梨乃の場合は因果応報とでも言うべき報いを受けているということぐらいか。
「気は済んだかい健二君?」
遠巻きから眺めている僕の隣に尾晒氏が並ぶ。
「まさかこれって……」
「おっと、俺は奴らに『売れない同人誌を売ってる奴らを手助けしてくれ』と頼んだだけだ。後は全部あいつらが独断でやっていることさ」
つまり、直之退治は尾晒氏の判断だけど、目の前の光景は直接関係ないということか。
「あひゃっ、あひゃっ、あひゃあっ!!」
男たち(しかも全員やや不細工で脂ぎっていて不潔っぽい)に犯されながらも麻梨乃が気持ちよさそうな声を上げている。脱がされているのは下だけで、上着を着せたままにさせているのは彼らのせめてもの良心だったりするのだろうか。
「見ろよ、あのアヘ顔。輪姦はやっぱりこうでなくっちゃな」
「……」
輪姦というジャンルには理解を示せないが、やられている張本人が嬉しそうにしているのならそれはいいことなのかもしれない。
「そうかもしれませんね。彼女のあの表情は演技でも妥協でもなく、本心から犯されて続けている自分に酔いしれているのだと思います」
僕たちの視線に気づくこともなく、麻梨乃が喘あえぎ声を絞り出す。
「アハッ、あたしもう穴がゆるゆるで限界……」
そして、絶頂と同時に豪快に脱糞したのである。
ムリムリッ、ブリリッ。
「エヘヘ。麻梨乃、今ウンコしてるの。さっきしてきたばかりだったのに、もうお腹の中が刺激されちゃった☆」
ブビュ~ッ! ブッ、ブリッ!ブビビビビッ!! プシャァ~~……
「うっ」
いくらあまり好きではない相手とはいえ、女豹のポーズでお尻を突き出して盛大に排泄をする様は股間にビビッときてしまう。
「おい、このアマ急にクソしやがったぞ」
「汚ったねーなぁ。せっかく犯しまくってたのにすっかりシラけちまったぜ」
「俺も俺も。同人誌タダで手に入ったんだしもう帰ろうぜ」
だが、麻梨乃を犯していた男たちにはそのケがなかったのかすっかり冷めてじまったらしく、排便中の彼女を尻目に散り散りに帰ってしまったのである。
「はっはっは。同人誌もラミカも一つ残らず捌(さば)くことが出来たじゃないか、良かった良かった」
「麻梨乃ちゃんも処女を卒業してスカドル(=スカトロアイドル)に目覚めつつあるみたいだし何よりだ」
サキマ兄弟が、自分の便を舐めながら狂気じみた笑みを浮かべている麻梨乃を見ながら納得の顔をする。
「では我々はこの辺りで帰るとしよう……おっと、その前に」
真司氏が麻梨乃のカバンから小銭入れを取り出す。
「尾晒君から話は聞いている。みんなにタダで買わせたのに君だけが有料では不公平だからね。払い戻しだ、もらっておきたまえ」
先ほど払わされた700円が真司氏の手で戻って来る。
「すみません、感謝します」
「はっは、いいことをして感謝されるというのは気持ちがいいものだな羊よ」
「そうだな兄さん、またいいことを堂々として皆さんを喜ばせような」
ビチャッ!
小銭入れを麻梨乃の尿で出来上がった水たまりの上に投げ捨てると、サキマ兄弟は満面の笑顔とともにその場を後にした。
「……尾晒先生、フリマはまだ終わりじゃないですよね?」
「ああ、あと1時間ぐらいは残っている」
「じゃあ、先生の同人誌を読みたいんでサークル『おざらし』に戻りましょう」
「そうだな」
僕は麻梨乃を一瞥すると、尾晒氏と一緒に彼のサークルへと戻った。後には自分の糞便を食している麻梨乃と倒れたままの直之が残っていたが、もう気にかけないことにした。
結局、僕は尾晒氏の同人誌を3冊ほど買ってフリマを後にした。絵柄も好みだったが、何より購入の決め手となったのは、丸くて大きなお尻からひり出される美女たちの排泄シーンの数々である。
金額的には少し高くついたが、こんな素敵な漫画を手に入れることが出来たのだから、僕の心は十分に満たされた、そんな土曜日の午後だった。
「ねー健二君見てや、この子クソでかいウンコしよるじゃろ」
「あ、ああ。確かにすごいのを出してるね」
「やっぱり和式便所でウンコしよる女の子は一枚絵だけでもオカズに使えるいね」
麻梨乃が丁寧な色塗り画をドヤ顔で見せつけてくる。あの日以来、頭を殴られたショックで若年性認知症を発症した直之は、僕のことをきれいさっぱり忘れてからんでこなくなった。
一方で、スカトロジーの官能美に目覚めた麻梨乃は、すっかり上達したエロ絵を描くようになって、何度となく僕にからむようになった。
「うち、次は女の子のトイレ盗撮漫画描くけえ楽しみにしちょってね」
「うん」
ラフ画の時点で今までとの違いが見て分かるその絵柄に確信する。どうやら、あのフリマでの一件は彼女を成長させる起爆剤ならぬ肥やしになったらしい。
「……」
落ち着いて見ていると、絵を描いている横顔が妙に可愛らしい。案外少しぽっちゃりしているところを除けば、出ているべきところも出ていて魅力的に思えてくる。
「……どうしたん、さっきからずっとうちの顔ばっかり見よるけど」
「いや、別に、何でもない」
「そ。でも、次の同人誌は健二君のチンチンをダイヤモンドよりもカチカチにするようなもん描いちゃげるけえ、期待しちょってね」
「その言葉、信じさせてもらうよ」
一度だけ麻梨乃の肩に手を添えて、いつの間にか二人きりになっていた放課後の図書室を後にする。
僕は、聞こえてきそうな胸の鼓動に気づかないフリをしたまま、降りしきる雨の中を下校したのであった。