「先生、明日の即売会には行かれそうですか?」
放課後。僕はホームルームの後で、担任の香子先生にさり気なくたずねてみた。
「う~ん。今回はたまっちょる仕事とかあるけえ、行かれそうにないね」
「そうですか、それは残念です」
ある程度見当がついていたとはいえ、どうやら今回も不参加ということらしい。
「まぁ、時間が空いたらこの前みたいに顔ぐらいは覗かすかもしれんって思うちょって」
「分かりました、それ期待してますから」
「とりあえず、先生のことは気にせんでええけえ、健二君は楽しんじょいでや」
「ありがとうございます」
先生に一礼して教室を後にする。本当は誘って一緒に行きたかったのだが、来てくれるのかもしれないのならそれはそれで構わない、そう割り切って帰路につこうとしたその時だった。
「おい健二」
「わっ」
背後から首に腕を回されからまれる。どうやら腕の主は、先日の社会見学で事故に遭うも軽傷で済み、早々と学校に復帰してきたクラスメートの男子である。
「お前最近香子とえらいええ雰囲気じゃん、もしかして好きなん?」
「日頃から見ているクセにこうして聞かなければ分からないのかよ」
僕の返答が気に障ったのか絡んでいる腕に力が入ってくる。
「お前さー、香子って先生しよるけどあれホンマは宇宙人なんで。お前、普通の女子よりもあんな宇宙人がええん?」
それを言ったら地球だって宇宙の惑星の一つなのだから、僕たち地球人だって立派な宇宙人の一部じゃないか。と言いたいところだが、それを口にすると何かされそうな気がしたので敢えて他の言葉を探す。
「自分のクラスの担任にそんなこと言うもんじゃないだろ……それに普通の女子って何だよ」
「クラスの女子に決まっちょるじゃろうが」
「あの子たちには興味ないよ。向こうも同じだろうけど」
クラスの女子なんて、大半以上が普段から僕を蔑(さげす)んでいる奴ばかりである。そんな連中をどうして好きにならなければいけないのか。
「お前、本当は誰か好きな女子がおって隠しちょるんじゃろう? 香子とか適当なこと言わんでええけえ正直に言えいや、のお」
腕の力が締め上げるかのように更に強まってくる。しかし、廊下を通る不特定多数の奴らは気づいていながら見て見ぬふりを決め込むばかり。
「離してくれ、香子先生が好きでいいじゃないか」
「じゃけえ同級生で好きなの言えっちゅっとろうがいや」
あわや殴られそうな展開に持って行かれそうになるその時だった。
グジャッ!
「ギャヒイ!!」
何かが潰れたような音がして、クラスメートが悲鳴を上げる。
「おっと、健二君が口を滑らせる前に俺が足を滑らせたようだ、失敬失敬」
振り返ると、副担任の笠松先生がイタズラな笑顔を浮かべて立っていた。
「いやな。本当はケツ蹴りをしたかったんだけど、位置取りを見誤ったみたいで金蹴りになっちまったみたいでな」
「先生……」
嘘だ。間違いなくこの人は、意図的に金的攻撃を仕掛けたに違いない。だけど、それはいじめられていた僕を守るための善意であり、責める要素などどこにもない。
「ありがとうございます、助かりました」
「気にしないでくれ。元々俺はこういうのを見過ごせない性分なだけだ。何だったらもう一撃……」
「待って下さい、それならば」
ダメ押しを目論む先生を手で制止して目線を下に向ける。足元では、さっきまで高圧的な雰囲気を漂わせていたクラスメートが、両手で股間をおさえながら転げ回っていた。
「ていっ!」
グジャ!
「ヒギィ~!」
僕は、彼がおさえている両手の上から股間を思いきり踏みつけてやった。
「これ、香子先生を侮辱したペナルティってヤツね」
「クソッ、健二お前覚えちょりやがれよ」
「ああ覚えておくよ。君が香子先生にすら魅力を感じられない残念な男だってことをね」
「なるほど、そりゃあ男として人生の半分をドブに捨てているようなものだ」
先生の同意が何とも心地良い。
「それでは先生、良き休日を」
「ああ、お互いにな」
僕は、先生とガッチリ握手を交わすと一礼をして速やかに下校した。たとえクラスの大半以上から敵視や蔑視をされていても、担任と副担任の先生が味方でいてくれる。そう思うと少々何をされても何を言われても苦にならない、そんな風に考えられる自分がいた。
「さてと」
もぐり込んだ布団の中で僕は明日催される即売会――コミックマーケットにて、何をするべきかを思案していた。
「……」
人生で2度目の即売会。前回の初参加の時は、途中からおかしな方向に事が進みながらも、結果的には良い終わり方を迎えることが出来た。果たして、明日はどんな展開が僕を待ち受けているのか。
――また、香子先生が来てくれたらいいのにな。それと、ふみひでは間違いなく参加するだろうから、真っ先に寄っておかないと……
結局、大して考えがまとまらないうちに睡魔に蝕まれ、僕は眠りに落ちてしまった。
まさか、当日にあんなことやこんなことが起ころうなどとは夢にも思うこともなく。
やって来た2度目の即売会の会場は、今回も市民会館4階の小さなホールだった。
「ちょっと早く来すぎたかな」
どうやらまたしても逸はやる気持ちに急かされたのか、早く着きすぎてしまったみたいだった。
時計を見ると、開場時間にはまだ20分近く残されている。そして、周囲を見渡せば誰一人居やしない。
――つまり、幕が上がるまではシンキングタイムに費やせってことか……
僕は小さくため息を吐くと、前回に同じく一人であれこれ考えるのにうってつけの場所へと向かった。
パタン。
便器の蓋を閉め、除菌クリーナーで軽く拭いてその上に腰掛ける。ここのトイレは男女共用とということもあって回避する人が多く、僕のような人間が考え事をするにはもってこいの「特等席」だった。
ただ、あくまでそれは4階限定の話であって、他階のトイレはちゃんと男女別々に分かれているのだけど。
「……」
足りない脳みそをフル回転させながら思考の糸を張り巡らせる。
――まず、Juicy Fishに立ち寄るのは確定だな。おそらく彼は参加しているだろうから。
サークル巡りに関しては彼を基点に考えておくのが無難と言えるだろう。
――出来れば、今回は他の同人作家の作品もゆっくり吟味しておきたいところだな……
前回は予備知識のなさもあり、Juicy Fish以外のサークルをあまり注視しなかったが、実際彼以外にも面白そうな作品を描いているサークルはチラホラと見受けられた。金銭的にあまり余裕がないので、あれやこれやと買い漁ることが出来ないのが残念なところだが。
――後はコスプレ撮影だな。あの煩わしいエセカメラマン連中をどうにか押しのけて、一人ぐらいは写したいんだけど……
ふと、前回参加していた女子高生と小学生の姉妹コスプレイヤーの顔が浮かんでくる。
――そういえば、あの子たちを最初に見たのはここのトイレだったよな。あれは本当にいい眺めだったよなぁ……
個室の下の隙間から彼女たちの排泄を覗き見た甘美な記憶に思いを馳せる。気がつけば、腰にぶら下げた僕の魂は天を仰ぐかのようにそそり勃っていた。
――あらま、すっかり元気になっちゃったな。こりゃ1度出しといた方が……
僕がズボンを下げて、膨れ上がったペニスを揉みしだこうとしたその時だった。
バタン!
勢い良く入り口のドアが開いて誰かが入ってくる。
「あ~漏れちゃう漏れちゃう!」
間違いなくそれは、前回ここで覗いた小学生の女の子の声だった。他に声が聞こえてこないということは、今回は一人で来ているのか。
「う~っ!」
うめき声のようなものを上げながら手前の個室(和式)に入る。
――こ、これはっ!
まさか、またこんなシチュエーションが待ち受けていようとは。
僕は条件反射の如く、ズボンを戻すことさえも忘れて床に顔を擦りつけながら下の隙間を覗き見た。
「じぃ~~……」
なるほど、隙間の先には僕を見据えるかのようにつぶらな瞳が二つもあるじゃないか。
そう、小ぶりなお尻の代わりにつぶらな瞳が二つ。
「って、嘘っ!?」
僕は大慌てでズボンを戻しながら鍵を開け、トイレから逃走しようとした。
しかし、手前の個室のドアが開いてすぐに腕をつかまれる。
「わわっ!」
気がつけば、僕はそのまま和式の個室の中へと引きずり込まれてしまったのである。
「じぃ~っ」
「ええっと、その、あの」
鍵のかけられた個室の中で、いまだに見据えてくる女の子を前に何も言葉が出てこない。相手はよく見なくても可愛い子なのだが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「だ、だからその、漏れそうな演技にまんまと騙された僕が覗きを仕掛けてくるのを見越した上で、覗き返したってわけだよね」
「そうだよ。さっきお兄さんがここのトイレに入って行くのを見たから、怪しいと思って一芝居打ってみたの」
思い起こせばこの子は前回も、僕の入っている個室のドアノブをを怪しいと言いながらガチャガチャと揺すっていた。つまり、あの時点で薄々と感づいていたってわけか。
「この前洋式トイレに隠れてたのもお兄さんだったんでしょ?」
「そ、それは」
「あたしがオシッコしてるところも、あたしに浣腸されてお姉ちゃんがウンチしてるところもバッチリ見てたんでしょ」
「……いや、僕は」
言葉に詰まりながらますます状況は悪化する。しかし、こんな時でも先ほど勃たせたペニスは相変わらず元気な形を維持していたのである。
ギュム。
「うっ」
そんな僕のペニスを女の子が小さな右手でぎゅっとつかんでくる。
「こんなにおっきくさせちゃって、いやらしいんだから」
「えっと、君は……」
「あたしの名前は未衣。よろしくね、お兄さん」
「う、うん、よろしく」
そういえば、この子はそんな名前だった覚えがある。だけど、今はそれよりも。
「ごめん。実を言うと、この前君たちのトイレを覗いていたのは僕だったんだ。本当にごめん」
これ以上ごまかしきれないと思った僕は、自分の行為を素直に認めて未衣ちゃんに頭を下げた。
「よしよし、ちゃんと白状したね。だったら……」
「あっ」
何を思ったか未衣ちゃんは、さっき戻したばかりの僕のズボンに手をかけるとベルトを外して、そのままパンツごと引きずり下ろしてしまったのである。
「エヘッ☆ 生で見るオチンチンって、結構すごいかも」
むき出しになったカチカチのペニスを前に、未衣ちゃんが恍惚とした笑みを浮かべる。
「ど、どういうつもりなのかな」
「あたしたちのお尻を見たお返しだよ。お兄さんにもたっぷり恥ずかしい思いをさせてあげるの」
そう言って両膝をつくと、未衣ちゃんは徐に僕のペニスをくわえたのである。
「どう、お兄さん? あたしのお口、気持ち良かったりするんでしょ?」
ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ。
艶めかしい音を立てながら、未衣ちゃんが上目づかいにそんなことをたずねてくる。
「いや、これは流石にマズいよ。だって君まだ小学生だろ」
「ふーん。でも、そんな小学生のトイレを覗きながらおっきおっきさせてる方がよっぽどマズいと思うんだけどなー」
「そ、それは」
あまりにも正論過ぎて返す言葉が見当たらない。
「それにお兄さん、こっちがビンビンに反応しちゃってるんだから弁解しても意味ないよ」
「……そうだよね。もう止めないから、君の気の済むように舐めてくれ」
「やった♪ ちょっとエッチなお兄さん相手にフェラフェラフェラ~っと」
未衣ちゃんは観念した僕を容赦なくフェラチオで責め立てた。
「こう見えてもあたし、本とかでこういうの知ってるんだよね。オチンチンは上手に舐めれば舐めるほど気持ちよくなれるんだよね」
「そうだよ」
正直、僕が読んでいる成人向け漫画は排泄行為がメインで、そういった場面はオマケ程度のものだったりするのだけど。
じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぽっ!
「ううっ」
根元までしっかり吸い付かれた上に玉までも舌の上で転がされる。小学生でありながらこんな技術を会得しているなんて、末恐ろしいならぬ末面白い子である。
「そうだ、自己紹介がまだだったよね。僕の名前は健二。覚えといてね、未衣ちゃん……」
イキそうになりながらガクガクと足を震わせ、どうにか自己紹介を済ませる。
「うん、覚えとくよ。ちょっとエッチでどこか不思議ちゃんっぽいけど、とても優しい目をしている健二お兄さんだね」
「そしてこれがあいさつ代わりの……うっ!」
びゅるっ、びゅっ、びしゃあっ!!
僕は未衣ちゃんの口の中で、ありったけの思いを根こそぎ爆発させた。
「はぁ、はぁ……」
僕が軽い疲労に肩で息をしている傍らで、未衣ちゃんが露骨に苦々しそうな顔をしている。
「うっ、うぷっ」
次の瞬間、未衣ちゃんは便器めがけて僕の精子を吐き出したのである。
「オエ~ッ……オエッ、ゲホ、ゲホッ!!」
「だ、大丈夫?」
気遣って声をかけた僕に不貞腐れた顔が向けられる。
「もう! 健二お兄さんの精子って臭くてマズ過ぎ! 何食べたらあんなものが出来るのよ!」
「いや、あれは普通ああいう臭いだし飲むものじゃないから」
それは恋人同士だからこそロマンティックなジュースになるわけで。
「む~。漫画だと、女の子はあんなに美味しそうにごっくんしてるのにっ」
「いや、それは2次元の世界の話であってリアルですることじゃないし……」
漫画のネタを真に受けて、本当にしようとするところはやっぱり小学生である。
「……」
僕はレバーをひねり、吐き出された精子と他の吐瀉物が入り混じった便器の中を一掃すると、膝をついたままの未衣ちゃんに手を差し出した。
「ほら、立ちなよ」
「健二お兄さん……」
「そろそろ開場の時間だろ?そんなところで腐ってると、せっかくのコミケが楽しむ前に終わっちゃうぞ」
「ありがとう、優しいんだね」
未衣ちゃんは僕の手を取ると、そのままゆっくりと立ち上がった。
「それと、ちょっとドキッとしたけど気持ち良かったよ。また気が向いたらしゃぶってくれると嬉しいな」
「もう、やっぱりエッチなんだから」
ギュム。
搾り取られ、すっかりヘニャッとなったペニスをまたしても小さな手に握られる。
「また会場でね、お兄さん」
「うん」
未衣ちゃんはちょっと照れくさそうに微笑むと、個室を出てそのままトイレを後にした。
――全く、口をゆすいでから行こうとは思わないのかね。
そんなことを考えながら、僕はしばらく恍惚とした表情のままトイレの中で物思いにふけっていた。
こうして、小学生のお口によって僕は人生で初のフェラを体験したのであった。
それから30分後、既に開場していたホールの入り口で入場券代わりのパンフレットを買って(……600円!)僕は前回に同じくJuicy Fishのサークルへと足を運んだ。
「おや、君はこの間のスカトロ系男子じゃないか」
やはり前回に同じく耽美な風貌を携えたままのふみひでがそこにいた。
「ふみひで先生、おひさです」
「おひさはいいけど随分と惚けたような顔をしているな……そう、まるでついさっき精気を抜き取られたばっかりのような」
「ははは、まぁ気にしないで下さい」
流石に事実を言えるはずがないのでうまい具合にはぐらかす。
「とりあえず今回も新刊あるから見て行ってくれ」
「はい」
数冊置いてある同人誌の中から「新刊」と書かれている少し厚めの薄い本を手に取って見定める。
「あれ? この制服とこの女の子たちは……」
「そう、ナノンだよ」
ナノン。それは、業界に金字塔を打ち立てた屈指の美少女ゲームである。美麗な絵柄は言うに及ばず、秀逸のサウンドと感動的なストーリーが瞬く間に好評を博し「純愛系泣きゲー」として不動の地位を確立した珠玉の逸品と呼んで間違い作品である。
「で、その女の子たちが休み時間や昼休みにトイレで排泄姿を披露する、と」
「その通り。まさに排便なだけに幸『ウン』のラッキーアイテムだ!」
ふみひでが、これでもかというレベルのドヤ顔とともに右の人差し指を突き付けてくる。
「なるほど。この内容とこのページ数にしてこの値段……買います!」
僕は500円玉を机上に置き、前回に続いてふみひでの新刊をゲットした。
「うむ、それでこそスカトロ系男子だ。お買い上げ心より感謝する。それより……」
「?」
謝礼から一転、ふみひでは神妙な面持ちとともに声のトーンを落とす。
「先ほど、この下の階のロビーで変な男を見かけた。何と言うか、不良を気取って恰好をつけているつもりなのだろうが全くサマになっていない、見るからに痛々しい感じの奴だったのだが」
「はあ」
そんなおかしな奴が近くをうろついているなんて、あまり穏やかじゃない話だ。
「気を付けておいた方がいい。君のように、見るからに大人しそうでふわふわした男は簡単にからまれそうだからな」
どうやらふみひでは、たった2回の接触で僕という男の本質を見抜いてしまっているらしい。
最も、ふわふわ感が漂っているのはお互い様のような気がしないでもないが。
「ご忠告ありがとうございます。ではまた」
「ああ、次回も是非来てくれ」
僕は一礼をして気がつけば後ろがつかえていたふみひでのサークルを後にした。
とりあえず、彼の忠告はしっかりと頭の中に入れておくとしよう。
「…………(ニヤリ)」
露骨なまでの含み笑いが僕の方へと向けられる。
「それはつまり、そういうことですか」
くいっ、くいっ。
そこにいた彼は何も言わず、にこやかに机上に置かれた新刊を指し示す。その表紙では、年頃の女の子が路地裏であまり丸くないお尻を出して屈んでいた。
「何と言うか、これは俗に言うところのピーマン尻というヤツですね」
キラーン。
心なしか今、彼の眼鏡が僕の言葉に呼応して光ったかのような気がした。
「まぁ、可愛い女の子ならばお尻がピーマンでも別に構いやしませんけど」
新刊を手に取って彼の同人誌を見定める。どうやらこの漫画は、放課後に男子トイレ(和式)で排便をしていた女子高生が男子生徒に覗かれ、そのまま中に入られて犯されるという濡れ場付きの同人誌だった。
「……別にトイレシーンだけでも十分使えるんだけどなぁ」
「……」
すっ。
そんな僕の言葉に対してやはり彼は言葉を発さず名刺を差し出してきた。
「えーっと、挿入亭圓薬(そうにゅうていえんやく)?」
コクリ。
「つまり、サークル名が挿入亭であなたがその代表の圓薬さんだと」
コクリコクリ。
満面の笑顔でうなずき続けているということは、それで間違いないということなのだろう。確かに、そんなサークル名では本番描写がないと色々と問題があるような気がしないでもない。
「買いましょう。本番はともかく、女の子のトイレシーンに我がエロスが反応したのでこれは僕の手元に必要な書物だと認定します」
僕は400円を手渡して圓薬氏の同人誌をゲットすると、軽く会釈をして速やかにその場を去ったのである。
そんな感じで気がつけば、僕はサークル巡りに時間を費やしていた。コスプレ撮影はまたしても、バリケードのごとくエセカメラマン連中が立ち塞がっていたので女の子たちには声すらかけられず、遠巻きから眺めているのが精一杯だった。
そうやって過ごしていくうちに閉場までの時間がいつの間にか30分を切り、一足先にコスプレゾーンが閉鎖となってしまったのである。
「ふう」
会場の熱気に頭がクラクラしていた僕は、ホールを出てロビーで休んでいた。
――やっぱりダメだったか、今回も。
新刊や小物は色々と手に入れられたものの、コスプレ撮影はまたしても失敗に終わった。
――せめて、一枚ぐらいは誰かを撮りたかったな……
結局のところ、人相が悪く図体と態度ばかりが無駄にデカいエセカメラマン連中を前に、僕は尻込みをするばかりだった。
「……」
こんな時に改めて自分の気の弱さと押しの弱さが嫌になる。だが、今さら考えても仕方がないので、気を紛らわす意味で僕はソファに座ってふみひでの同人誌を開いた。
「ふむふむ」
早速ブルマ姿の女の子の排便シーンからである。
――す、すごい!
先ほどの圓薬氏のピーマン尻も悪くはないが、やはり可愛い女の子のお尻は桃尻に限る。こんなお尻が無防備にさらけ出されるのだから、和式便所とは何とも官能的な日本文化なのだろう。
「……」
ゆっくりと読みふけり、便秘気味の女の子がこん棒のようなデカ便をお尻からひり出している場面に差し掛かったその時だった。
「おい健二、何読みよるんかっちゃ」
背後で無粋な声がしたかと思うと、気がつけば僕は同人誌を取り上げられていた。
「何をするんだ……って」
立ち上がって振り向くと、そこにいたのはアロハシャツにサングラスといった風貌をした昨日僕にからんできたクラスメートだった。どうやら先ほどふみひでの言っていた変な男と言うのは、彼で間違いなさそうである。
「お前こんなもん読みよるん?」
「ああ、そうだけど」
クラスメートがページをめくりながら鼻で笑う。
「お前さ、これ頭のおかしいオタクとか変態が見るもんじゃけえ」
「確かにそうかもしれないね。でも、これは立派な僕の性癖だ。君にどうこう言われる筋合いはない」
「はぁ?」
思ったままを口にした僕に、同人誌が投げつけられる。
「お前何かその言い方は。俺にケンカ売っちょるんか」
「さっきの言葉でよくもそんな解釈が出来るものだね。それに君こそ何だよ。オタクが変態がと言ってる奴が自分からこんな場所に来るなんて」
「うっさいっちゃ。たまたまここ通りかかった時にお前の自転車があったけえからんじゃろうと思って来ただけいや」
「それが理由なのか。だったら僕よりも君の方がよっぽど頭がおかし……」
「あぁん!?」
言うべきことを言い終える前に胸ぐらをつかまれる。
「お前、ちょっと香子に可愛がられちょるけえってええ気になんなよ? 俺がその気になりゃあ、お前に地獄を見しちゃることぐらい簡単に出来るんじゃけえの!」
「何それ。こんなところまで来て妬み節とか寂しい男だね」
相手は決して高圧的な態度を崩そうとはしなかったが、僕も可能な限り応戦した。コミックマーケットに来てまで黙っていじめられるなんて、耐えられなかったから。
「お前、調子に乗るなよ!」
勝手にからんできておいて、一人でいきり立っていたクラスメートがついに右の拳を大きく振り上げたその時である。
「コラーッ! 健二お兄さんをいじめるなーっ!!」
大きな声とともに女の子が駆け足でこっちに向かってくる。
「あっ」
間違いなく、その少女は先ほどトイレで色々とお世話になった未衣ちゃんその人だった。
「でいっ!」
ブフォッ!!
反転しながらジャンプして、クラスメートにお尻を向けたところで大きな屁をかます。
「ぐえっ!」
その臭いと煙に鼻と目をやられたのか、クラスメートが僕から手を離して苦虫を噛み潰したような形相でひざをつく。
「へっへ~、どうだっ! 昨日たっぷり焼肉食べたから、今日のオナラはがっつり臭いんだぞっ!!」
「未衣ちゃん……」
直接浴びたわけではないものの、その臭気は十分こっちにも伝わってくる。こんなものをあの至近距離でまともに受けたのだから、これは相当のダメージになっているはずだ。
「危ないところだったね、健二お兄さん」
コスプレ姿(どこぞのゲームの大地の妖精)のまま、未衣ちゃんが無垢な笑顔を向けてくる。
「ゾーンが閉鎖されてからすぐに着替えようと思ったんだけど、ホールを出ていくお兄さんが見えたから気になってついて来たんだ。そしたらこの人にからまれてるみたいだったから……」
小学生でありながら、高校生同士のいざこざを止めに来てくれたその勇気に恐れ入る。全く、典型的な事なかれ主義で、人の災難に見て見ぬふりを決め込む我が校の大半以上の教師や生徒たちとは大違いである。
「ありがとう、助かったよ」
「うん。それと、スタッフにも通報しておいたからすぐに……」
「おい!」
一件落着かと思いきや、クラスメートが顔をしかめながらも立ち上がってくる。
「このクソガキ、随分とナメたマネしてくれたの……分かっちょるじゃろうの!?」
「どっちがクソガキだよどっちが。自分が悪いのをまだ自覚してないのかよ」
「うっさいのー。健二、お前もガキ潰した後でシメちゃるけえ覚悟しちょけよ……?」
直後、減らず口を叩き続けていたクラスメートの顔面めがけて渾身のストレートが炸裂した。
「ぶへらっ!!」
豪快に殴り飛ばされて、クラスメートが頭から壁に激突する。
「そこまでだ!」
そこにいたのは腕章をつけた3人の男性スタッフだった。
「自警団・パイナップルパトロール第1号にして妖術の担い手・乙山!」
「同じくパイナップルパトロール第2号・鋼の剛腕・漢電池!」
「同じくパイナップルパトロール第3号・暁の魔法使い・小夜(こや)!」
それぞれが名乗りを上げながらポーズを決める。なるほど、よく見てみれば全員オタクっぽいがどこか屈強そうな雰囲気だ。
「事はおおよそ理解した。君が被害を受けていたスカトロジストであれが加害者ってわけだな」
「はい」
第1号こと乙山氏が頭からクラッシュして壁にヒビを入れながらもすっかりのびていたクラスメートを指差しながらたずねてくる……と言うか、スカトロジストって何だ。
「聞いたところによると、奴はふみひでの同人誌を投げつけたという話ではないか。それが本当なら人間便器の刑に値するぞ、どうなんだ」
先ほどストレートを見舞った張本人である漢電池氏が、指をポキポキと鳴らしながら事実確認を急ぐ。
「見ての通りです。勝手に僕が読んでいたのを取り上げておきながら、文句をつけてくる彼に反論したら頭に投げつけられました」
床に叩きつけられたままの同人誌が動かぬ証拠である。
「ふみひでの漫画が理解出来ないなんて、芸術センスがないね~。ま、そんな奴だからこそ君のような男をいじめるような愚行を平気で犯すんだろうけどさ」
両手を広げながら小夜氏が軽い口調で場を和ませる。
「少なくとも人間便器の刑は確定だ。この悪どい男にはしばらく便器として社会奉仕をさせる必要がある」
「当然だな」
「いいんじゃない?」
「あたしも賛成!」
即決で刑を決めてしまった乙山氏に周りが次々と同調する。
「で、肝心の当事者である君はどうなんだね?」
唯一意見を示さなかった僕に、乙山氏をはじめとする周囲の目が向けられる。だが、僕の答えは既に決まっていた。
「確かに彼を人間便器として採用するのは賛成です。でも、どうせ使うのだとしたら……」
コミケの帰り道、僕はすっかり意気投合した未衣ちゃんと一緒に、近くの公衆便所の個室の中にいた。
そう、前回のコミケで香子先生に連れ込まれ、先生の排便姿を拝めた上に成り行きでお尻まで拭くことの出来たあのトイレである。
「はぁ~あ、健二お兄さんって大人しそうな顔をしてる割には大胆な発想をする人だよね~」
「そうかな? 僕はただ、彼のような男に未衣ちゃんみたいな子のお尻や局部を見てほしくないって気持ちだったんだけど」
先ほどの一件にて、僕はパイナップルパトロールの面々にこう願い出た。
「彼を人間便器にするのなら男子便所として使ってくれ」と。
そうすると、彼らは大笑いをしながらも快く受諾して、クラスメートを連行してくれたのである。
「でも、そう言う未衣ちゃんだって大胆じゃないか。こんなところで僕に一部始終を見せてくれるなんて」
「だって健二お兄さん、コスプレゾーンにいた時も撮影したいのに出来なくって、すごく寂しそうな顔してたじゃない。少しぐらいはいいもの見せてあげよっかなーって思ったからさ」
未衣ちゃんが一段上がって短いスカートをめくり上げ、パンツ(いちご模様)を下ろして屈む。
「えへっ、また健二お兄さんのオチンチンおっきくなっちゃうね」
未衣ちゃんの小ぶりなお尻が和式便器の上にあらわとなる。
「いい眺めだよ」
後ろから見る女の子の和式スタイルはまさに絶景である。
「んっ」
プシャァァァ~~……
未衣ちゃんが僕の視線をものともせず放尿を開始する。
「えへへ、ずっと我慢してたからオシッコたっぷり出ちゃう」
プスッ。
程なくして放尿の終わりを待たず肛門が開かれる。
「しっかり見ててよね。未衣、今からウンチもするんだから」
ムリムリムリッ、ムリュッ! ブリブリ、ブピッ!!
「はぁ~っ♪」
放尿と排便を同時にしながら、未衣ちゃんが嬉しそうな声を上げる。彼女の便はゆるめながらもどちらかというと健康な形のように思えたが、焼肉を食べたと言っていただけにやはり臭いは強かった。
ムリリッ、ムリュッ!
「今日のウンチは何だかくっさ~い」
「はは、これだけ臭いが充満してたら後に使う人が大変だよね」
「何でもいいけど、後でお尻とあそこをフキフキするのは健二お兄さんの役目なんだからね!」
「はいはい」
ムリムリッ、メリリッ……
相当ため込んでいたのか未衣ちゃんの排便はまだまだ続き、便器の中にこんもりと大きな山が積み重ねられていた。そんな光景を見ながら、先ほど発散したばかりの僕のペニスもまた充血とともに天を仰いでいたのであった。
そうやって、僕の2度目のコミケは前回以上の波乱を交えながらも、結果的には良い形で終わらせることが出来た。だけど、出来るなら次回は香子先生と一緒に参加して、この空間を楽しみたい。
「もう、健二お兄さんさっきからあたしのお尻を撫で回してるだけじゃないの、ちゃんと拭いてよね」
「あ、ごめんごめん。フキフキしなくちゃね」
未衣ちゃんのお尻を優しく拭きながら、僕は心に強くそう願ったのであった。