「なぁ…なんか要望と違うんだけど…」
書き上がった一話目を、匠に見せた。
「うん?イリナで良いんだよな?パイズリだのフェラだのは経験が無いので、後だ。って、イリナにした行為自体も経験が無いけど」
「なんか…正義の味方では…」
正義の味方で、女性達にアレコレ奉仕される、そんなストーリーを要望されたけど、全くもって、シチュエーションが浮かばなかった。なので、主人公の正義の元に奉仕される展開にしようと思う。
「で、一話完結で無いの?」
「はぁ?毎回、シチュエーションが浮かばないって。この設定で、お前のむちゃ振りに対応していくからな」
「甘い展開でないの?」
なんか要望と違うらしい。まぁ、ここは僕の設定で押し切る。
「すまん。女性と甘い関係になったことが無いので、わからん。まぁ、そのうち、そうなるようには努力する」
「わかった…で、ペンネームは?」
ペンネーム?考えて居なかった。咄嗟に考えて答える。
「三田バード♪」
「サンダーバードか?」
違うって。紙に書いてわからせる。
「でも、読みはサンダーバードなんだろ?」
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昼休み、久しぶりにのんびりできる。匠に原稿を渡したので、当分平和だろうな。今朝、夏美から弁当を受け取った。いつも、昼と晩はコンビニ弁当なので、少し嬉しい。弁当箱を取り出す。小さい…薄い…少食過ぎるだろう、これでは…蓋を開ける。キャラ弁のようだ。モデラーらしい作品が並ぶが、こんなのに手間をかけるなら、味付けにも掛けて欲しい…味がしない。まぁ、素材本来の味と言われてしまえば、そうなんだけど…
弁当箱にメモをいれておく。
『ありがとう。料理でなくて、モデラーをしていろ』
と…
午後の授業…腹が空きすぎで、耳は休日である。僕と姉妹達は別の中学に通っている。一緒には嫌だったらしい。まぁ、三つ子扱いだからな。姉妹達は一駅先にある私立に通っている。朱美も姉妹達と同じ中学である。僕は電車通学無しの公立中学だ。で、匠を含め、全員同じ小学校であった。なので、朱美と匠は知り合いである。
授業が終わり、帰宅部の活動をこなす。今日は、編集部の担当の鈴木さんに呼び出されていた。二駅先にある、編集部が入居しているビルへと向かう。
編集部の受付に行き、鈴木さんを呼び出した。
「栗井先生、お待ちしていました♪」
ショートカットでスポーティーな感じの女性が、抱きついて来た。
「で、次回作についてだよね?」
「はぁ?美女が抱きついたのに?それについての感想は?」
メンドーなことを訊く。胸が気持ちいいに決まっているだろうに。鈴木さんは巨乳でも貧乳でも無いフツーな胸だけど、形は良さそうだと思う。
「用件を済ませましょう。腹が減って…」
「また、コンビニ弁当か?」
「はずれ。妹の弁当…量が通常量の1/4以下くらい…」
「あぁ、女の子は少食だからねぇ~♪ナポリタンでいいかな?」
「トーストも…あと、珈琲もね」
編集部にたかる僕。同じビル内にある喫茶店に、注文をしてくれる鈴木さん。そして、応接室の一つに通された。そこには、初めて逢う女の子が既に座っていた。見た目は、羽川翼の眼鏡無しバージョン似だ。
「彼女は、栗井先生の挿絵担当のオータンさんだよ」
と、紹介された。えっ?同い年くらいなのか?彼女も僕を見て、驚いている。
「二人共、素性は公開していないけど、同い年だぞ♪」
え…そうなんだ。歳上の女性だと思っていたんだけど…
「同い年なんですか…それなのに、あの作品は凄い…」
僕の作品を誉めてくれたオータン。で、僕が遅めの昼飯を食べる間、雑談タイムとなった。
「栗井先生のペンネームの由来って何ですか?」
オータンに訊かれた。
「う~ん…未公開情報だけど、オータンならいいかな。僕の本名は鳥井って言うんだけど、鳥井から連想したのが、サントリーなんだよ。で、サントリーから連想したのがトリスで、鳥栖にしたんだ。で、鳥井の”と”から十を連想して、一歩引いて九にして、”と”と”く”を置き換えて栗井にしたんだ♪」
何かに反応して目を見開くようにして驚いているオータン。何に反応したんだ?
「で、オータンは?」
「あっ…私は…あきが大好きだから…英語読みをブロークンして…」
「秋が好きなのか。僕は春が好きだよ。昼寝に適しているし」
何かに反応して、頬を薄桃色に染め、俯いたオータン。
「で…次回作はどうしたいのかな?」
訳知り顔で、鈴木さんが割って入ってきた。
「トリックが浮かばないんだよ。オータンにも話したけど、ジャンル変えはダメかな?」
「その件が今日の議題よ。オータンから連絡を受けてね。う~ん独自トリックが売りだしねぇ…かといって、大物作家で無いから、次回作まで悠長に待てないし」
そうなるよね。たがが、中学生作家に、そこまで厚い待遇は無いよね。うんうん…
「別ジャンルだと、浮かんだのは、温泉地ごとに現地妻がいる男の騒動記とか」
「はぁ?これは随分と変化させるわねぇ。せめて、刑事物を挟んで欲しいけど」
「これはネックがあるんだよ。僕は恋愛経験が無い、女性関係も無い、色恋沙汰の経験が無い、ガールフレンドがいないなどの問題がある。これで、妄想だけで書けるかな?」
オータンが驚いている。今度は何に反応したんだ?
「そうね…妄想だけって、限界があるでしょ?無理だろうな。恋愛しなさいよ~」
って、鈴木さん。
「相手がいないのに?」
「何で見つけない?」
わざわざ見つける者なのか?
「出逢いが大切でしょ?いくら好みでも、出逢いが最悪だと、結果も最悪になる。だから…異性に興味があまりない」
あの姉妹で痛い想いをした。トラウマになっているかもな。姉妹でもダメだったのに、恋人?無理無理…
「異性に興味が無いって、同性が対象?」
「同性?もっと無い。男友達はいらない。メンドーだよ。群れようとするし。作業部屋で一人で思考を巡らせる時が、一番好きな時間だよ」
「ぼっち好き?」
「そうでも無いよ。オータンとメッセージをヤリトリしているし。あの時間も好きだよ」
オータンの耳が真っ赤だ。何に反応したんだ?女心がまるで分からない。
「そうなると、恋愛日記的な物でも良いわよ♪」
って、鈴木さん。恋愛日記?はて?
「ぼっち好きの男が異性を意識していって、恋をする過程を描くとか」
「まぁ、設定はどんぴしゃであるけど…周囲に異性がいないよ」
「血の繋がらない妹さんは?お弁当を作ってもらったんでしょ?」
「そうだけど…アイツは、かわいい妹枠だよ」
オータンが僕を睨んでいる。何か地雷を踏んだかな?
「じゃ、血の繋がらないお姉さんは?」
「6年くらい逢っていない。だから、逢っても分からないと思う。妹も再会した時に分からなかったし」
「逢いたい?」
「どうだろうな…僕は好きだったけど、嫌われていたから…たぶん、今もそうだろう。だから、逢わない方がいいかな。つらくなるから…」
姉のことを思い出し、目頭が熱くなっていく。幼いながらも、好きだった姉。その姉に毛嫌いされ、一緒に住むことを拒否され、目が合うことさえも…なので、母屋と離れの間には壁がある。目が合わないように。
「じゃ、万が一、お姉さんと再会できたら、日記を書いてね♪」
「えっ?僕の淡くてすっぱい失恋話を?」
「6年も経つと、色々と変わるわよ。そうだね…取材旅行しようか?三人でさぁ♪」
取材旅行?何の取材だ?はしゃいでいる鈴木さん。
「温泉旅行をしよう。電車移動にすれば、トリックとかの参考になるでしょ?」
あぁ…結局、推理物を書けって事ですね…
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帰り、鈴木さんが車で送ってくれた。最初に降ろされたのは僕。うん?オータンに家がバレるんですけど…
「じゃ、日程と予算と場所が決まったら連絡するから。プロットを練っておいてね♪」
って、上機嫌で去って行く鈴木さん。えっ?プロット?やはり推理物なのか…
家に帰り着き、一息入れて、母屋に弁当箱を返しに行く。母屋の勝手口は台所にあるので、そこに返却すれば良いって、夏美が言っていた。なので、勝手口を開けて、台所に入ると…えっ?なんで?
台所にいた、僕と目が合った女の子も固まっている。それは今さっき別れたばかりのオータン…何で、ここに?
「お姉ちゃん…どうしたの?」
夏美の声がして、夏美が台所に入ってきた。
「おっ…お兄ちゃん…」
夏美の声で、僕のロックは外れた。
「夏美、これを返しに来た。量が少なすぎる。味付けが緩い。素材でモデリングするな。感想は以上だ。ありがとう」
夏美に弁当箱を手渡して、勝手口から出て、離れに戻る。ショックだった…オータンが春美なのか…鈴木さんは知っていて、再会させたのか?今日の出来事の不思議さ、不自然さの原因、理由が分かっていく。
作業部屋に籠もる。電気をつけず、タブレット、スマホの電源を切り、ぼっち状態になる。春美に嫌なヤツと思われただろうな。僕はこの6年で何も変わっていない。もう…どうでもいい…
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ドアを叩く音、夏美の泣いている声…ボンヤリとした意識に、届き始めた。
「お兄ちゃん…開けてよ~。ねぇ、生きているよねぇ~」
こんな僕に、必死に声を掛けている妹。この前、再会したばかりなのに…
「亜樹…ごめんさい…ねぇ、開けて…お願い…」
春美の声が聞こえる。これは夢かな。姉ちゃんが僕に、謝ることなんかしないはず。
「おい、そこの腐れ!開けないと、また壊すぞ!」
はぁ?朱美?何で?朱美の声に反応して、僕はドアを開ける。また壊されたら、たまらないから。ドアを開けると、目を真っ赤にした春美、夏美と、笑顔の朱美がいた。
「おい、腐れ!お前、幸せ者だな♪姉と妹に、こんなにも想われて♪」
冷やかす様に言う朱美は、僕に右ストレートをプレゼントしてくれた。いきなりの贈り物で、目の前が真っ暗になっていく。
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うっすらとした意識…誰かに膝枕をされている。横から、朱美の啜り泣く声がする。
「ごめんよ~。つい、手が出ちゃって~」
って、何度目だ?お前の攻撃でノックダウンしたのって。
「お兄ちゃん…」
僕の手を握り締めている妹。春美は…いないのか…うん?右手を握り締めている夏美、左から覗き込んでいる朱美…じゃ、膝枕をしてくれているのは?目の前に朱美の顔が有り、膝枕をしてくれている人物の顔が見えない。朱美、ジャマ!
「朱美…私の弟に何をしてくれるんだよぉぉぉ~!」
春美の怒声が聞こえた。
「あっ、すまん…つい…」
春美の迫力に負けてか、朱美の態度がいつもより温和である。
「傷物にした責任は取るから♪」
「アンタ!それが狙い?それで、亜樹を全力で殴ったの?アンタには、絶対に渡さないからねっ!」
「なんで?お前、亜樹を嫌いなんだろ?」
「何言っているのよ!大好きだよ~ん♪だから…ハンドルは、亜樹から秋を連想して、オータンにしたのよん♪」
えっ?そういう事なのか…僕のこと、嫌いじゃなかったの?
「はぁ?」
「アンタと一緒よ!好きな感情に照れて殴るでしょ?私は大好きな感情に照れて、言葉による暴力を振るったのよ!」
はぁ?
「えっ?」
「まさか、あんなことになるなんて…もう、自分の心に嘘は吐かないことにしたの。だから、朱美、ちょっかい出すなよ!いいなぁ!」
春美の声がドスの効いた声になっていく。そう、あの声により、僕の幼い心は…あの声で『逆らったら、殺すからな!おい、わかってんのか?そこのガキ!』って…基本、この姉妹はキレると放つ言霊は暴走していくのだ。
「二人にはお兄ちゃんは渡さないから」
って、夏美が僕に載ってきた。おい、僕は怪我人だぞ!夏美の胸は気持ち良いのは、役得だとしても、膝枕中に載られると、首が痛い…
「「夏美!」」
「お兄ちゃんは、私が護る♪」
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週末、僕は病院に入院している。三人の不毛な戦いを止めようと、割って入ったのだが、朱美の右ストレートと春美の左上段回し蹴りとで、頭部をサンドイッチされて、意識が飛んで…夏美が救急車を呼び、検査入院となった。
「ごめん」
「すまん」
春美と朱美が謝っている。夏美は僕の手を握り締めている。検査結果は異常無し。でも、2,3日は様子見での入院になったのだ。
三人がいてくれると楽しいけど、痛いのは嫌だな。楽しい生活を経験してしまうと、もう、ぼっち生活には戻れないかもしれない。いつかは、この中から一人を選び…楽しい時間が終わりを迎えるのだろうか。いや、この中からとは限らないし、誰も選ばないかもしれない。
こうして、僕の波乱に満ちた?女難の相が出まくった?血の繋がりの無い三つ子プラスアルファな?生活は開幕した…