大変お待たせしました……!
今回の話、非常に書きにくかったのでこんなに遅くなってしまいました!
エロは次の次くらいですかね……。
いつ投稿するかは不定期ですが。
取りあえずでもいいから続きが読みたいという方はこちらにくるのデス。
『でもにっしょんCh R-18なSS総合スレッド 四巻』
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アルテミス、■■■■――彼女達がそれぞれ信仰する神の赦しは得た。
狩人アタランテと聖女ジャンヌ・ダルクの宝具に手は加えた。
七つの大罪にも劣らない魔女因子を創り上げた。
彼等彼女等のホームグラウンドも再現してあげた。
用意できるものは全て用意した。
あとは信者が受け入れるかどうか。
◆
レティシアは、花瓶とランプが置かれた白いテーブルの椅子に座っていた。
目を覚ました彼女はまず、自分が身体を有していることに驚いて見回す。
ノースリーブのシャツ、紫色のネクタイ、ショートパンツにハイソックスと、私服を着せられた身体であった。シャツの上から胸を押さえてみれば心臓も確かにあり、うるさいぐらいの心音が聞こえてくる。
肉体の所有権がジャンヌ・ダルクから自分に移されたのかと思ったが――それにしては聖女の存在が感じられなかった。
その事実を理解し、レティシアの呼吸は荒くなり、汗が滲みだす
何があった?
何をされた?
シメールが指を鳴らし、世界が暗闇に覆われたところまでは覚えている。
だが、その後の記憶がない。
気が付いたらここにいて、一人にさせられた。
身体の中にいないだけで、近くにいるかもしれないという一縷の望みを託して辺りを見回す。時刻は夜なのか暗くて見えにくい。また薄くはあるが霧が出てきていた。
テーブルの上にあったランプを手に取ってかざしてみても、今いる場所が草原もしくは公園という事しか見取れない。青々とした芝生と微かに見える木々の本数や位置から、後者の方が可能性としては高いかも知れなかった。
ジャンヌはいない……アタランテも、いる様子ではなかった。
逃れようもない恐怖から奥歯が震えて、かちかちと不規則に噛み合わせられる。
二人の名前を叫んで呼びたくなる。けれど、二人以外の存在に聞かれたらと思うと出せなかった。
目の前に広がる暗闇に、霧中に得体の知れない何かが……潜んでいるかも知れない。
レティシアは身震いし続け、彼女の怖がりようをひとしきり愉しんだ魔女が――シメールが背後から現れる。
音もなく近付けばレティシアの細い肩にそっと両手を置く。飛び上がりそうになる信徒を押さえ、耳元でささやく。
「振り向いてはいけません」
「な……な、なん、で」
「素の貴女がワタシを直視すると気が触れます。清く正しい信徒のレティシアさんは邪なる類を崇拝したくはありませんよね」
シメールがテーブルの上を指し示す。そこには温かな湯気をくゆらすティーカップが置かれていた。
「ワタシの体液で作ったお茶です。お気に召すと嬉しいのですが……温かいうちにどうぞ」
固まる信徒が面白いのかクスクスと笑声を立てる。
「飲まないよりかは飲んだ方が身の為ですよ」
どちらにしても異変が起こると言っているようなものだった。
それでも従うしかない己の非力さを呪いながら、レティシアはティーカップを手に取り、口に寄せる。液体は赤味が強いものの常識の範疇に収まり、花の芳香が匂える。
不味くはなさそうだった。こんな状況ではなくて、頭を吹き飛ばされても死なないような魔女の体液から生成されたモノという前知識がなかったら、素直に飲んでいただろう。
意を決し一口含む。ほんの少しだけを意識し、すぐさま離す。
ほのかな苦味と、それに合わせられた甘さを舌で感じ、
「っ――――っ、っ、ぁ?」
全身に広がっていく多幸感ともいうべき衝動にレティシアは混乱した。
その当たり前の混乱にもシメールの体液は作用し、内側から溶け込んで落ち着かせる。
少量で、たった一口で、これ。
もっと飲みたい――飲んでみたい――そんな欲求が身体の内からでてくる。
抗えずレティシアは再び口を付け、今度はさきほどよりも多く飲む。
味は変わらず美味しい。量が増したことで衝動はさらに増した。
不安、恐怖、緊張……負の感情は溶けてなくなり、身体がぽかぽかと温かくなる。
身体の汚れが洗い落とされるような気持ちだった。
「もう大丈夫です」
テーブルを挟んだ対面の椅子にシメールが座る。
その女神すら怖気つくような美貌にレティシアは息を呑む。
暗転する前に一度見たものの、ジャンヌ・ダルクという緩衝材がなくなった今、より直接的に美しさが伝わってきた。
あまりにも――綺麗すぎる。自分が信仰する神様に創られたと言われても信じられる。
魔女の装い――獅子の耳、毒蛇の尾、山羊の蹄――おぞましい魔の要素がなければ、もっと良かったに違いない。
「……ちょっとくすぐったいですね」
シメールが照れたようにはにかみ、レティシアは「ご、ごめんなさい」と慌てて謝る。
「お気になさらずに。こちらが慣れていないだけですから。後々解決するとして、美味しかったですか?」
「は、はい。……体液とは思えませんでした」
しどろもどろしながらも頷くレティシア。
誤魔化しのない返答に、気分を良くした様子のシメールは「では」と両手を打った。
秀でた知性、そしてそれを形作る好奇心に満ちた黒瞳を少女らしく開く。
「客人も落ち着かれたようですし、お茶会を開かせてもらいますね」
「お茶会……?」
「そう、お茶会です。お母様が言っていました。『話し合うなら話しやすい場を設ける。これは招いた者としての礼儀だ。緊張していては話せることも話せなくなるからね』と」
シメールは己の胸に手を当てる。
「改めて、自己紹介をしておきましょう」
今は彼方遠くにいる母親をイメージしながら。
名乗りは静かに穏やかに、されど只者ではない雰囲気を纏いながら。
「ワタシの名前はナツキ・シメール。強欲の魔女と強情な人間の、七人娘の末妹。生まれた世界では『色欲の魔女』とも呼ばれています」
色欲の、魔女。
この少女には似合っているようで似つかわしくない響きだった。
「知りたいことがあるならお答えします。一つにアタランテさんとジャンヌさんの安否、二つに今いるこの場所がどこか、三つにどうして身体を持てているのか、など」
優先順位まで当てたシメールは期待するような眼差しを向け、発言を促す。
「一つ目から……お願いします。お二人はご無事なのですか」
地上最速と呼ばれたアタランテと、最善の道筋を感じ取るジャンヌのどちらも現れない。
絶対にシメールの影響下にある。
「ご安心くださいませ。二人とも無事です。危険な場所にもいませんよ」
「ほ、本当ですか。だったら連れてきてもらえ……ないでしょうか……」
「今すぐにとはいきません。こうしてお茶会を設けたのは、レティシアさんとお話がしたかったからですもの」
私、と……?
「ふふふっ、次に移りましょう。この場所がどこであるか」
シメールは周囲を見渡す。遮らないように霧が晴れていく。
「ワタシの心の中、夢の中、内的世界。精神世界の方が理解しやすいでしょうか」
言われてレティシアも周囲を見渡す。
これまでの経験もあり、目覚めた時よりかは落ち着いたからか、どうにか受け止められた。
遠くにある建築物……この雰囲気……どこか見覚えがある気がする。
…………いや……ああ、そうだ、ここは。
「十九世紀、大英帝国、ロンドン」シメールは自らの体液で作った茶を飲む。「そしてここはロンドンに八つ存在する王立公園の一つ、ハイドパークです」
救うことができなかった彼等彼女等がいた場所だ。
「……ジャック・ザ・リッパーを知っているのですね」
「もちろん。聖杯大戦の内容は視させてもらいましたよ」
「どうして。何があったのかを知っているなら……どうしてっ」
歯車が狂いだしたのはジャック・ザ・リッパ―の悪夢からなのにっ。
「だからこそです。始まりの場所がここであり、ここで狂ったのなら、ここからやり直すべきなのです。
――――何度でもね」
悪辣なる魔女の笑み。
恐怖しかないのに、その恐怖が溶かされる。クルクルかき回されてトロかされる。
「お茶」
「っ」
「恨めしそうに睨まないでください。どんな素材で出来ているのかはお伝えさせていただきました。それを知った上で飲んだのはレティシアさんです。飲まないとならない状況にしたのはワタシではありますが」
「……なんで」
「はい?」
「なんで私を……こんな目に遭わせるんですか……!?」
怒りの感情を精一杯湧き出させ、レティシアは問い叫ぶ。
聖女の依代となり、聖杯大戦に参加するに至って彼女は間違いなく覚悟ができていた。それはジャンヌ・ダルクも認めるほどである。
しかし、聖杯大戦はあまりにもイレギュラーな終わり方を迎えてしまった。今のこの状況は断片的にも想像していなかった。
「わ、わたしが、私が一体何をしたの!? なんでこんな事に巻き込まれないといけないの!?」
それこそレティシアが今の今まで秘めてきた、塗り潰してきた本音だった。
帰らないといった少女の、ちゃんと話し合えば分かり合えると言った少女の、烈火の如き憤怒だった。
実に心地よさそうに聞き受けたシメールは――視線を一度あらぬ方向に遣ってから――本当の自分を出してきたレティシアに向き直る。
「誰の所為か、お答えするのは簡単です。レティシアさんの身に降りかかった災難は全てジャンヌ・ダルクが原因だとワタシは断言します」
「ジャンヌ……様の所為?」
「そうです。
ジャンヌさんがアタランテさんに敗れていなければ?
ジャンヌさんがアタランテさんに憎まれるような事をしていなかったら?
〝もしかしたら〟の話ではありますが、こんな展開にはならなかったでしょう」
「……あ……」
「そもそもです。ちゃんと一人で現界していたならレティシアさんは無関係のままでいられた筈です。今でもフランスで友人たちと日常を過ごしていたでしょう」
「……で、でも」
「貴女にとってその日常は単純であり、息苦しいものだったのかも知れません」
「そう、です。ジャンヌ様の依代になれたから私は……綺麗なヒトを見られたんです」
「ジークさんですね。ワタシから見ても彼は綺羅星のように見えました」
「はい……はい。本当に真っ白で、眩しくて。ジャンヌ様もジークさんがきっと好きで……好きで……すき、で……?」
唐突にある光景が思い出される。
ジャンヌ様は好きなヒトがいるのに獣に犯されて喜んでいた。
発情した雌犬みたいに四つん這いになって厭らしく鳴いていた。
私に見られていたのに、見られていたのに。見られていたのに……。
我慢できなくて喜んでいた。
「やめて……」
見られてたのに見られてたのに見られてたのに見られてたのに見られてたのに。
私がすぐ側にいたのに。
「やめて……!」
私を見ていなかったジークさんに見られていたのに!
あの■■はアタランテさんにだんだん寄ってきているじゃない!!
「もうやめてっ!! 私の中を掻き回さないで!!」
「けれどその怒りこそが貴女の本当です」
「違います……! 私は誰も恨んでなんか……!」
睨んで否定しようとして、シメールの憐憫の表情にレティシアはこう言った。
「……貴女は私をどうしたいんですか……?」
「迷える子羊は放っておけない質なのです」
真剣に言ってコホンと咳払い。
「今のは事ここに至っても、祈りを捧げ続けてきたレティシアさんを救おうとしない神様への皮肉ではありませんからね」
言い返したくても言葉が見つからなかった。
「ワタシは貴女を導きたい。その為にも、大聖杯にバックアップされていた情報を元に、新しくはあれど全く同じ身体を用意させていただきました」
三つ目の答え。
つまりシメールはジャンヌ・ダルクからレティシアの意識を分離し、純潔処女なる器に定着させたのだ。それも魂の領域で違和感を覚えないほど同一の肉体にである。
極めて困難だが不可能という訳でもない。
魂を抽出・挿入する術は母親が基盤を創っていた。
「話を進めます。ジャンヌさんは、レティシアさんが自分と共にいることを望みません。帰らないという意思が強固であれば、〝子供たち〟を孕むことを条件に出してでも地上に帰そうとするでしょう。その条件が出てくればアタランテさんも貴女を帰すことに切り替える筈です」
「私の、意思は」
「考慮されません。新しい肉体に定着して記憶を整え、地上に戻り、家族の元に帰る。ジャンヌさんの視点ではこれが最善です」
「そんなのって……」
我知らずの内にレティシアは自分の身体を抱く。
「じゃあ、なんでジャンヌ様は最初に言ってくれなかったの……?」
「『自分を帰すことに条件に〝子供たち〟を孕む』という意味で受け取っても?」
「そ、それは……」
「お答えします。アタランテさんはどんな手段を使ってでもジャンヌさんを堕とすと言いました。その為にはレティシアさんの存在は好都合です。貴女がいればジャンヌさんは絶対に自害しませんし、〝子供たち〟は大勢いますから母体として利用してもよかった。〝聖女に適合したとあれば、聖女ほどではないにしろ優れているはず〟――獣としては間違っていない判断です。最も、アタランテさんもそこまでは人間性を失っていなかったようですけれど。帰還を持ち掛けたことから一応伺えます」
「……ジャンヌ様は」
「さて、どう言ったものでしょう。単純に気付かなかったからか、独りになりたくなかったからか、我が身の可愛さからか。英霊最高峰の対魔力と呪いへの耐性で拒絶すること自体はできるようですし。怨霊の子は普通孕みたくありませんものね」
身体を抱く両手に力が入る。
「でも、私の身体です……! ジャンヌ様のじゃない! 私の身体なんですよ……!?」
「かの劇作家はこう言っておりました。ジャンヌ・ダルクは田舎娘であり、ただの小娘だと」
「……なんですか……それ」
「我々が想っているほどジャンヌ・ダルクは聖女ではないということです。ワタシが推測するに無意識のうちの初恋。ジークさんへの恋心を守りたかったのではないのでしょうか」
吐き気が、した。
椅子の背もたれが軋み声をあげる。
「私は今まで……なにを信じてきたの……?」
ジャンヌ・ダルクは世界で最も名を知られた聖女だった。フランスを救った彼女の功績は人類史にとっても大きなものだ。
その姿を想い、憧れ、ずっと信じてきた。
自分も彼女のようになりたいと密やかに願ったりもしていた。
自分が彼女と瓜二つの容姿をしていて、依代になれるだけの素養があったと知った時は少なからず嬉しかった。俗な喜びだろうと抱かずにはいられなかった。
逆の立場だったらと思うと……聖女様を責めることはできない。私だって同じ選択肢を選んでいただろうから。
……でも……でも……頑張ってそう思っても……認められない。
「提案させてもらいたいことがあります」
言葉に、項垂れていた顔をあげる。
「この『色欲の魔女』と同じように魔女になりませんか?」
内側に入り込んだ魔女は呼び掛ける。
頷きそうになった信徒は――――直前になってある事を思い出した。
「貴女の目的はジャンヌ様とアタランテさんを結ぶことだった筈では……」
「ワタシ一人でも可能です。ですがレティシアさんが同胞になってくださったら、より望ましい結果になると導き出しました。あの二人が愛し合うなら、レティシアさん。貴女が二人を飼いならしてもいいのです」
「――――」
「ワタシの精神世界で、という条件付きですが。そこはどうか我慢してくださいませ。どんな暮らしをするか見て知っていたいのです」
私が二人に復讐し、二人を管理する。
なんて魅力的な響きだろうか。
本当に叶うのなら、魔女の心の世界で生きるなんて些末な事ではないか。……いやむしろ、ありがたいぐらいだ。
「貴女の復讐心を肯定しましょう」
シメールは聖句を口にするような調子で言う。
「ワタシが導き、ワタシが教え、ワタシが赦し、貴女の罪は誘惑したワタシが担います。恐れることはありません。貴女には復讐する理由があり、権利があり、素養も資格も持っている」
認められたレティシアの復讐の芽は成長していく。
これまでの理不尽さへの怒り――自分の身も心も滅茶苦茶にした二人への憤怒。
比べてもジャンヌ・ダルクへの激情は尋常ならざるものだった。
ああ……そうだ。
私の初恋も、純潔も、意思さえも――大切なものは全部あの女に奪われた。
だから今度は私が奪わないと。
シメールを真っ直ぐに見る。
目をそむけてきた真実を教えてくれた者。
異端なる者と恐れていた魔女が今となってはこれ以上もなく、頼もしく見える。
「魔女には……どうやって?」
「二つの手順を踏みます。まずは契約を交わし」
言葉を切ったシメールがドレスの胸元に手を入れる。手の平は水面のように波立つ胸の内側へと沈み込み――痛みを感じている様子はない――取り出されたのは黒い小箱だった。
「この箱の中身を受け入れてもらいます。中に入っているのは魔女因子。罪深き魔女になるための因子です」
レティシアが冠する罪は七つの大罪の一つ、『憤怒』から派生する『復讐』。
成るのは救国の聖女の反転存在ともいうべき魔女。
『人々が身勝手にも夢想するジャンヌ・ダルク』。
『とある狂人がそうであって欲しいと願うジャンヌ・ダルク』。
其は
「前もって伝えさせていただきます。これを受け入れるにはかなりの苦痛を伴います」
「シメールさんが痛がるぐらいに、ですか?」
頭を吹き飛ばされても平然と再生してみせた魔女は、「お恥ずかしながら泣き喚きました」と苦笑する。申し訳ないと、場違いだと思いつつもレティシアはほころんでしまう。
「ワタシの場合、素養はあっても資格がありませんでしたからね。羽根を千切り取られて……全身を雷と炎に撃たれたり焼かれたり……あとは轢き潰されて……すごーく高いところから叩き落されたような痛みを味わいました」
あぁ痛かったなぁ……呟き、しみじみと振り返るシメール。
「私もそのぐらいの目に遭うのでしょうか」
「ワタシほどではありません。が、相応の痛みを伴うのは間違いありません。見方を変えれば生まれ変わる為の儀式とも言えなくもありませんが……地獄となりましょう」
既に知っているシメールは瞑目する。
瞼の裏に暗闇はなく、罪のために罰を受ける信徒の姿が視えていた。
「シメールさんは不思議なヒトですね」
「はい?」
不意打ちに魔女は目を開いて丸くする。
自覚がなかったのかと信徒の方も目をぱちぱちする。
「えっと……都合が悪そうなコトまで教えてくださるところが、親切というか」
ぽかんとしていたシメールは小さく笑いだす。
「ふふ、ふふふ……そうですね。これはお母様を反面教師にした結果ですよ。契約した場合のデメリットを話しておかないと、誰に邪魔をされるか知れたものではありません」
母親は相当に腹黒い人物のようだった。
「……私がもう一人のジャンヌ・ダルクになるんですよね」
「はい。さすがに複雑かも知れませんが――」
「いいえ、嬉しいぐらいです」
「なんと?」
「ついさっき決めたんです。私は聖女様に大切なものをたくさん奪われたから、今度は私が聖女様の大切なものを奪うって。……だから、私がジャンヌ・ダルクになれるんだったら、とても嬉しいです。最高で最悪の復讐にできると思いますから」
レティシアは満面の笑みで狂った言葉を口にし、
「貴女と契約し、魔女になります」
『復讐の魔女』に堕ちることを受け入れた。
――――ともすれば。
現代のジャンヌ・ダルクになれたであろう少女は、ここに生まれ変わる。
「その言葉、確かに聞き届けました」
ここまでくれば最早言葉は不要である。
シメールは立ち上がり、レティシアも席を立つ。
指を鳴らして茶道具を消すと信徒に歩み寄る。
「手を」
右手の掌を向け、その上に自らのそれを重ねるように促す。
対面にいるレティシアは迷う素振りもなく、落ち着いた様子で重ねてみせた。
その意を汲み取るように柔らかく握る。
――対象との接続完了。
――体格適合。
――血統適合。
――人格適合。
――魔力適合。
工程は滞りなく進む。
誰にも邪魔されず、誰にも止められず、『彼女たち』は見ていることしかできない。
黒い小箱はひとりでに開く。中には炎を燻らせる『何か』があった。
――『復讐』の魔女因子適合。
――侵食/反転/置換/完了。
――霊格適合。
――英霊ジャンヌ・ダルク【オルタ】の承認受諾。本英霊の情報及び
――クラス別能力付与開始。
――保有スキル付与開始。
――宝具付与開始。
――必要情報・霊格挿入完了。
――クラス別能力・保有スキル・宝具付与完了。
――エクストラクラス・アヴェンジャー、現界開始。
そして――――少女は地獄を知る。
◆
焔刑の地獄
燃えている、燃えている、炎が燃えている。
燃やされているのは私。
聖女ジャンヌ・ダルクじゃない、レティシアというありふれた信徒の私。
頭を、髪を、目を、眉を耳を鼻を口を頬を顎を背を胸を腹を腰を肩を上腕を肘を前腕を手を指を脚を腿を膝を脛を足を指を――身体中余すところなく、骨と内側も、ココロさえも。
痛みに、熱さに、私は自分でも信じられないような声で絶叫していた。
耐えられるものではなかった。神と聖母の名を口にするなんて無理だった。焼かれるのがこんなにも辛く苦しいものだなんて知らなかった。
痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い――――もうそれしか感じられなくて。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い――――もう燃え尽きそうになって。
ふと想った。
――ああ、どうして、あのヒトは。
――こんな目に遭わせられても。
――神様を信じたまま、人間を恨まずにいられたのでしょう。
だけど……ごめんなさい。
私は違うんです、聖女様。
家族と友人の元に帰れても、そこにいる私はここにいる『私』ではなくなっている。
そんな空白の終わりは受け入れられない。
『私』は灰になんてならない。
『私』には復讐したい貴女がいる。
『私』には奪い取ってやりたい貴女がいる。
『私』には見せつけてやりたい貴方がいる。
この地獄をゆりかごに『私』は生まれ変わる。
――――さあ、地獄で叫ぼう。
生誕の喜びを、生誕の憎しみを、生誕の絶望を。
吼え立てよう。
『私』はここにいるのだと。
※ここからオリジナルキャラクター、ナツキ・シメールの紹介です。
『Re:ゼロから始める異世界生活』の主人公ナツキ・スバルと、エキドナとの間に生まれた子供という設定です。リゼロを知っていて「スバルとエキドナがくっつく訳ないだろいい加減にしろ!」という方は『強欲の魔女と強情な人間』を読んでもらえたら助かります(低姿勢)。
【真名】ナツキ・シメール
【性別】女性
【身長・体重】理想通りに
【スリーサイズ】お望みどおりに
【年齢】14歳
【属性】混沌・善
【パラメーター】
筋力:E~A 耐久:E~A 俊敏:E~A 魔力:A 幸運:E 宝具:EX
【スキル】
色欲の魔女:EX
強欲、色欲、傲慢、嫉妬、怠惰、暴食、憤怒――七つの大罪を冠する魔女の一人。
歴代の『色欲の魔女』と比較した場合、話が通じる分だけ常識的といえる。
変化、変容、変身、自己改造、自己変革――人間から人外も含めて、異性同性無性を問わず、どんな変態的な要求にも応じられる。自称、恋のキューピット。
身体能力の強化、異世界の環境への適応はこのスキルが補っている。
ランクは規格外を示すEXとなっているが、これは揺れ幅が異常にあるため。
「わ、悪い子だけど……い、良い子なんだよ、シメールちゃんは……」
「エキドナちゃんみたいに、頭が良くて、い、色々視えちゃうから……魔女に、なっただけ、で」
「『私には嫌なことをしない』」
――生まれた世界で、約四百年前に存在した『色欲の魔女』の評価。
なおシメールとはキマイラのフランス語呼びであり、キマイラは『淫欲』や『悪魔』を定義付けられている。
獅子の部分は「恋愛における相手への強い衝動」、山羊の部分は「速やかな恋の成就」、蛇の部分は「失望や悔恨」を示すという。
それら三つの要素を総合して『理解できない夢』となる。
魔法:A
故郷にて会得した魔法の数々。
現在いる世界(Fate)とは違う法則の元に確立されている。
魔力(マナ)の扱い、威力、速度の点では師に劣るが、覚えている数は母親に匹敵する。
「この子を産めたこと。知識欲の権化と恐れられた身としては感謝してもいいぐらいだね」
「誰にかだって? さてね、会ったことも見たこともない」
「そもそも存在していたことすら知らなかったよ」
七姉妹中――母親エキドナの血を最も色濃く受け継いでいる。
星の獣:-
シメールが使役する獣。
神獣にも幻獣にもあらず、星そのものである星獣。
その姿は無敵にして頂点に立つ百獣の王を想起させる。
現在使用不可能。
【宝具(宝具と呼べるものを複数所持)】
『■■■■■■』
ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:1 最大補足:1人
エトワール・シェルシェール。
異なる世界――異なる星――異なる物語。
本来ならば関わることのない異世界を移り渡れる権能保持者。
『■■■■■■■■』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足:?
現在使用不可能。
『■■■■■■■』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足:?
現在使用不可能。
『■■■■』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足:?
現在使用不可能。
『■■■■■■■■』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足:?
現在使用不可能。
■ナツキ・シメール
ナツキ・スバルとエキドナとの間に産まれた七人姉妹の末妹。
『強欲の魔女エキドナ』並び『色欲の魔女カーミラ』と契約。
七人姉妹の中でも際立つ容姿を持ち、人ならざる存在さえも惹き寄せる娘。
その美しさによる魅了はジャンヌ・ダルクのような聖人、レティシアのような信徒にこそ発揮されやすい。
特別どこかに定住したりはせず、欲望の赴くまま訪れては色恋沙汰を引き起こす。
◆
『色欲の魔女』に堕ちた理由は両親にあるとか。
「ところでワタシの名前を見て『シーメール』が浮かんだ方は挙手を」
「……女ですから。男性にもなれますけどちゃんと女ですから!」
シーメールじゃないかと作者が気付いたのはつい最近だという。
付いてこられる人だけ付いてこい状態。
正直レティシアがここまで重要なキャラクターになるとは思っていませんでした。