責任取って私は宝具5にしますよ、ええ。
戦闘シーン書くの難しいいいいいいい!
エロシーン次の次って書きましたが、この様子だと次も戦闘でその次でエロです!
作者「でもにっしょんだとアタランテはシェイクスピアの口車に乗せられたと書いたな」
作者「あれは私の間違いだ」
作者「あと展開が大きく違っているが、これはアタランテをあっさり捕まえさせてしまったのが気に食わなかったからだ」
作者「今更だけど、アタランテとジャンヌとレティシアを酷い目に遭わせて本当にすまないと思っている」
作者「エロい意味でもバトルの意味でも、これからもっと酷いことになるが、本当にすまないと思っている」
アタランテ「……」
ジャンヌ「……」
レティシア「……」
シメール「馬鹿なヒトに書かれるって辛いですね」
4/4
魔獣アタランテ、宝具5にできましたー!
アタランテとジャンヌ・ダルクの二人は暗闇に閉じ込められていた。
気絶していた彼女達はアタランテが先に目覚め、すぐ側で倒れていたジャンヌを護るように抱き寄せた。
身体の温かさと柔らかさ、乱れのない呼吸に安堵し、直後に気付く。
自分の身体に匿っていたジャック・ザ・リッパ―の残滓、〝子供たち〟が全員いなくなっていることに。恐らくは気絶している間に、シメールによって一人残さず連れ出されたのだ。
驚愕、怒り、焦燥。足元が崩れ落ちるような恐怖。
「……駄目だ。あの子達がいないと私はジャンヌを……」
何もかもが瓦解してしまう。
曲がりなりにもあった、ジャンヌを我が物にする理由がなくなってしまう。
〝子供たち〟がいないにも関わらずジャンヌを求めれば、今までの自分の言動が全て虚飾になってしまう。
それは赦されない。それだけは絶対に赦されない。あまりにも身勝手すぎる。
女神アルテミスへの誓いを破ったことよりも尚罪深い。
「必ず見つけて……連れ戻す」
己が破綻していることをアタランテは自覚していない。
ジャンヌを抱きしめ、力強さに聖女は目を覚ました。
暗中でも不思議と狩人だけは確かに見える。
「……アタランテ」
呼びかけに、周囲を警戒していたアタランテは視線を戻す。
「ジャンヌ……ダルク。起きたか」
「……別にもうジャンヌで構いません」
「…………わかった」
起きたばかりの所為か、はっきりとしない意識のまま見つめ、
「アタランテ」
「なんだ」
「貴女から〝子供たち〟の存在が感じられません。どうしたのですか」
「……どこにいるのかはわからん。わからんが、吾々がこの暗闇にいるのも、私から〝子供たち〟を連れ出したのも、あの魔女以外には考えられん。……そういう汝はどうだ。レティシアはいるのか?」
言われて確認し、絶句する。
レティシアがどこにもいない。彼女の存在をまったく感じられない。
取り乱さなかったのはジャンヌ・ダルクが英霊であることに他ならなかった。
しかし――ここからは違う。
いません、と彼女が口にした瞬間、二人の前で光が生じた。
そこにあった暗闇は長方形に切り取られ、レティシアが一人椅子に座っている光景が映し出される。現界するに至って得た現代知識で例えるならば、映画のようであった。
何故、彼女が自分から離れて身体を持っているのか――それらの疑問を考えている猶予はなかった。
「レティシア……!」
アタランテから離れたジャンヌは映像に飛び込もうとし――凄まじい衝撃音を発して弾き飛ばされる。落下地点に走ったアタランテに受け止められる。だが、またすぐ猪のように突撃しようとする。そんな彼女をアタランテは抱きすくめ、どうにか留める。
「汝の気持ちは分かるが今は冷静になれ!」
「落ち着いてどうなるというのです! ただ見ていろというのですか!?」
「ええ、ただ見ていてください」
その透き通った声は映像の手前から。
『色欲の魔女』シメールはそこに立っていた。
「今この時、貴女方が取れる最良の選択は見ることです。戦闘も交渉も無意味です」
即座。
ジャンヌを己の後ろに追いやったアタランテが弓を構え、矢を番える。鏃に魔力が収縮していく。恐れる必要がないのか、シメールは防御をしようともしない。
「強引ですね。嫌いではありませんが、残念ながら出すつもりはありませんよ」
「ここが貴様の心象風景……固有結界であれば、殺せば戻れる筈だ」
「固有結界とは似て非なる大魔術。これって便利な言葉ですよね」
シメールが背中をみせる。草を食む動物のように無防備な立ち姿だった。
弓を引き絞ったアタランテの隣にジャンヌが並ぶ。
「……レティシアをどうするつもりです」
「本音を吐き出すお手伝いをします。知っていますか? 目を逸らしていませんか? 彼女は、お二人に対して思うところが積もり積もっています。
利用するだけ利用して離そうとするアタランテさんを、巻き込こんだのに護り切ってくれなかったジャンヌさんを、レティシアさんはどう思っているでしょうか」
顔を歪めるアタランテ。
青褪めたジャンヌは硬直する。
「罪悪感はおありのようですね。ご清聴をお願いします」
「待て……〝子供たち〟はどこに連れていった」
「あの子達ならホームグラウンドに放してあげました。今現在、ワタシの精神世界は十九世紀のロンドンの形を取っています」
「……ロンドンに……放しただと……待てっ!」
微笑みを投げかけたシメールは当然の如く待たない。するりと映像に入り込み、レティシアとの茶会を始める。
唖然とする二人を置いて茶会は進み、進むにつれ。
『なんで私を……こんな目に遭わせるんですか……!?』
『わ、わたしが、私が一体何をしたの!? なんでこんな事に巻き込まれないといけないの!?』
レティシアの本音を目にし耳にするほど罪悪感の杭が突き刺さる。
二人を一度見たシメールは、
『誰の所為か、お答えするのは簡単です。レティシアさんの身に降りかかった災難は全てジャンヌ・ダルクが原因だとワタシは断言します』
『ジャンヌ……様の所為?』
「ぜんぶ……私のせい……」
倒れかけたジャンヌをアタランテは抱き止める。
だが、かける言葉は見つからない。当然である。彼女がジャンヌとレティシアを捕らえた張本人なのだ。慰めの言葉を言える筈がない。
『我々が想っているほどジャンヌ・ダルクは聖女ではないということです。ワタシが推測するに無意識のうちの初恋。ジークさんへの恋心を守りたかったのではないのでしょうか』
『私は今まで……なにを信じてきたの……?』
「自分本位に……ジーク君のこと……そんなつもりじゃ……」
見せまいと目を覆うとしても拒まれる。そうされれば強く抱きしめるしかなかった。繋ぎ止めておくにはこうするしかなかった。
『この『色欲の魔女』と同じように魔女になりませんか?』
憔悴しきったレティシアへの提案は最悪の中の最悪。
真摯的ともいえる魔女の誘惑に信徒はつられていく。
『ついさっき決めたんです。私は聖女様に大切なものをたくさん奪われたから、今度は私が聖女様の大切なものを奪うって。……だから、私がジャンヌ・ダルクになれるんだったら、とても嬉しいです。最高で最悪の復讐にできると思いますから』
最早ここまでだった。
「やめてください……お願いだから……私が悪かったから……」
聖女はいよいよ涙を流し始めた。狩人は諦観の心持ちで彼女をより抱き寄せた。
『貴女と契約し、魔女になります』
『その言葉、確かに聞き届けました』
魔女と信徒の契約が交わされる。
二人が手を重ね合い、契約が進むにつれて黒い小箱が開く。
黒炎を燻らせる『何か』は泥のように溢れ出し、地面から這い上がってレティシアに纏わりつく。巨大な蛇に捕食されるかのような光景だった。
「我が神よ、我が主よ……。どうか、どうか……あああぁ」
『何か』が信徒に巻き付き終わるとシメールは離れる。小箱を持っていた手は焼け爛れていたが、気にする風もなく――空になった箱を収めると愛おしげに撫でる。
『うたかたの夢でも良き宿主を見つけられました。なんとありがたい啓示でしょうか。天におわします神に感謝しなくては、ねぇ?』
肩越しにジャンヌを舐めるように窺い笑う。
『何か』はレティシアの両手を後ろ手に拘束し、黒と赤が混じった十字架の形をとっていく。その中央にレティシアが祭り上げられる。
火刑――火あぶりにするつもりだと狩人と聖女はほぼ同時に悟る。
「アタランテ……! 私の剣はどこですか!」
掴みかかり訴える。
「持っているのなら渡してください! 閉鎖空間でも焼き斬れる筈です!」
「莫迦をいえ! 汝の聖剣に対界宝具の効果はないだろう! 何より使えば汝が消えてしまうではないか……!」
迂闊だと言わざるを得ない発言だった。
所有していると確信したジャンヌは半狂乱の様相でアタランテの喉元を締め付ける。
単純な筋力はジャンヌ・ダルクが上――通常ならの話だが。
国荒らしのカリュドーンの皮を被ったことで一度魔獣化したアタランテには、まだ魔獣の因子が残っている。望んで残した結果故に根強く。
もう一つ付け加えるなら、彼女は格闘技において、アキレウスの父親であるペレウスを投げ飛ばすほどの技量の持ち主である。
いくら才能があるとはいえ――ましてや正気を失っている状態では――十七歳まで戦場を知らない村娘だったジャンヌではすぐさま逆転される。
締めつけた次の瞬間にはアタランテは抜け出し、今度は己がジャンヌを拘束する。両腕ごと抱いて暴れられないようにする。
――焔刑の地獄に処されたレティシアが絶叫している映像を見られないようにする。
「……!!」
殺意を抱いた瞳がアタランテを射抜く。
初めてジャンヌに本気の殺意を向けられた。
天空のように蒼い瞳だが燃え盛る焔のようであった。
……間違っていたとは思わない。
…………けれど、深すぎる無念の念が溢れ出す。
こんな筈ではなかった?
いいや、こうなるだけの事をしてきたのだ、私は。
ジャンヌにも。
レティシアにも。
「道理を弁えなかった貴女の所為で――」
「ああ、私の責任だ」
「――――」
「私が終わらせる。故に汝は、自分の身を護っていろ」
レティシアを燃やしていた地獄の業火は次第にまとまり、彼女の心臓を目掛けて十字架毎入り込んでいく。
『アハァ……アハハハハ……アハハハハハハハ――――ッッッ!!』
信徒の悲鳴は魔女の哄笑に移り変わる。
業火と十字架が入り込めば地面に落ちて倒れ込み――ひとしきり嗤ったあと、ゆっくりと立ち上がる。
新たに生まれ出たレティシアは見るも無残に変容していた。
聖女ジャンヌ・ダルクの反転存在というシメールの評は間違っていなかった。
金髪は銀髪になるまで色素が抜け落ち、紫水晶の瞳は金色に変化し、健康的だった肌は病的に白くなっている。
装着した暗色の鎧は刺々しく重々しい。
そして何より……狂気に染まった凶悪な笑みを浮かべている。
『魔女になった気分はいかが?』
側に寄り添ったシメールが蠱惑的に。
歯が見えるほどに唇を歪めたレティシアは髪を掻き上げる。
『
……今度こそさようならね。善良なる信徒の私』
アタランテはジャンヌの手を引いて立ち上がる。
暗黒の空間は嘘だったように晴れていき、二人は舞台に上がらされる。
魔獣と聖女。
色欲の魔女と復讐の魔女。
四人の少女たちは、ついに対峙する。
◆
「二人に見せていたの? 見たり見させたり、貴女って良い趣味してるわね」
「見るのは個人的な嗜好で、こういうのは見させる方が効果的です。しかし、肝心なところをアタランテさんは見させなかったようですね」
「お優しいことで。私にも恵んでくれたら魔女にならずに済んだのに」
魔力に満ちた大気が陽炎のように揺らぐ。周囲の土や草や木が燃え上がる。
特別何かをした訳ではない。
『復讐の魔女』は苛立ちを露わにしただけである。
呪いへの耐性が低い英霊など、その気になれば、目視だけで焼き焦がせるだろう。
「……ああ、いや、それもあるけど、元凶はそうじゃないわね。そこで蹲ってる聖女様がちゃんと自分一人で召喚されてくれていたら助かったのに」
変わり果てたレティシアを茫然として見ていたジャンヌは身震いした。
「レティシア……私は助けようと」
「この期に及んで言い訳? 笑えませんね。助けようとしたって、助けてくれなかったじゃないですか。人類も、ジークさんも、私も貴女は守れなかった。その後はアタランテさんに犯されて雌犬みたいに鳴いていたじゃないですか。貴女の所為で、私はこの有様です」
「ジャンヌを責めるのはよせ」
聖女の前に立つ狩人はそう言い、「この有様と言ったな」と確認させる。
「……ジャンヌ? 私があんなに苦しんでいたのに……ふざけんじゃないわよ」
「レティシア、後悔の念があるならまだ戻れる」
「はあ? 戻ってどうなるのよ。問答無用で帰すつもりでしょうが」
「残りたいなら構わないと言った。なるべく丁重に扱うともな」
「……ねえ……ねえ、シメールさん。このヒト、私たちの話聞いてなかったんじゃないの」
「いいえ? ちゃんと聞かれていましたよ。無理を矢理で通すということでしょう。力を持つ者の特権です」
レティシアの側のシメールは教える。
「ですが、今となっては貴女も力を持つ者です。素直に言うことを聞く必要はありません。好きに生き、好きに犯してよいのです」
「……そうよ。そうよね。今度は私が二人を飼いならす。そう決めたんだから」
「ええ、お二人を生け捕りにしましょう」
『色欲の魔女』は狩人を眇め見る。
「アタランテさんはワタシにお任せください。生まれ変わったばかりのレティシアさんには少々難しい相手ですからね。ジャンヌさんは相性が抜群なのでお任せします」
異存はない。シメールの言うことは正しい。
アタランテと戦っても負ける気はしないが、それは正真正銘の殺し合いでの話だ。捕獲が目的となると違ってくる。加減した状態では苦戦するのが目に見えている。
逆に、精神的に追い詰められているジャンヌは捕まえられる自信がある。
既に筋道は考えている――『復讐の魔女』は憤怒の炎を操るだけではないのだ。
しかし、気がかりな点がある。
底知れぬ『色欲の魔女』とはいえ、あのアタランテを捕まえられるのか。
「捕まえられるの? ジャンヌ・ダルクを倒したヒトよ」
「生け捕りは得意分野です」
するりと蛇のように離れたシメールは自信満々のご様子。
ハッ、と笑い飛ばす。
「なら、任せるわ」
腰に備えた漆黒の禍々しい剣は抜かず、邪竜が描かれた旗を右手に出現させる。
使い方は教えられなくてもわかる。
本能で理解できている。
聖女への憎悪に満ち溢れたレティシアに魔女は「お任せくださいませ」と給仕のようにドレスの裾を持ち上げる。
「――――ジャンヌ。先ほど言ったとおりだ」
魔女達が話している間にアタランテはジャンヌ共々、距離を離していた。抱いて運んだ聖女を木の側に下した狩人は告げる。
「汝は戦わなくともよい。終わるまで、ここで己の身を護っていろ」
されど聖女は従わず、立ち上がった。
狩人の隣に並び立つ。
「……レティシアが魔女になってしまったのは私の責任です。向き合わずにどうして後ろにいられますか」
一目でわかる強がりだ。
全身の震えをジャンヌは必死に抑えている。
「剣が渡せないというなら旗を渡してください」
それでもアタランテに向ける眼差しは固い意志を宿していた。
渡さなければ、素手でもレティシアに立ち向かっていくだろう。
「可能であれば、レティシアを戻す方法と、ここから出る方法を聞き出す」
「出来なかった場合は」
「殺すしかあるまい。どのみち、あの魔女を生かしてはおけん」
アタランテが呼び出した聖旗をジャンヌは受け取る。
難しい表情をしたアタランテは「違和感はないか?」と確認する。
「……貴女によって無くされてから久しぶりに持ちましたが」何度か握って確かめたジャンヌは頭を振る。「以前より手に馴染むような気がします」
「……」
「〝赤〟のキャスター……いいえ、今はもうシェイクスピアと呼びましょう。彼の固有スキルには『エンチャント』がありました。
――状況が状況ですので簡潔かつ正直に答えてください。アタランテ、貴女は自分の武器のみならず、私の旗と剣までシェイクスピアに預けましたね?」
「認めよう。女帝の口車に乗せられてしまった。……シメールも手を加えたようだ。だが、この状況下でも使えなくならないのを見るに」
「純粋に強化だけをしたと? ……わかりません。何が目的でそんなことを」
「色欲の名の通り、享楽主義者だ。理解不可能。それが当然であろ」
「……危険な相手です。どうか、お気をつけて」
「私よりも己の心配をしておけ。今のレティシアは汝にとって天敵そのものだ」
そういってアタランテはシメールの、ジャンヌはレティシアの直線状に動く。
「最後の方。戦場に向かう夫と、それを見送る妻のような会話でしたね。ご馳走様です」
「戦友の間違いでしょう。わざと怒らせるようなことを言わないでくれる? 腹立たしいだけよ。いいから、さっさと始めてちょうだい」
「はい。もし危なくなったら呼んでくださいね」
「――――」
楽しげなシメールは片足を上げ、山羊の蹄が地面に叩きつけられる。
次の瞬間――アタランテはハイドパークとは異なる王立公園の草原に立っていた。
最高の女狩人として鍛錬してきた彼女の五感は、周囲の環境を瞬く間に把握する。
森林があることを、池と川があることを、庭園があることを、噴水があることを、劇場があることを。
ジャンヌはいない。レティシアはいない。
空間移動したのは私と――、
「ロンドンで最も美しいとされる王立公園リージェンツパークにようこそ」
色欲の魔女シメール。
魔女は転移する前と変わらず、狩人の直線状に立っている。
そして手を後ろ手に組んで口を開く。
「悪名高きイングランド王、ヘンリー8世のお気に入りの狩場がここだったそうですよ。王位を継ぐ男子が欲しいという理由で妻をとっかえひっかえし、6人もの王妃を迎えた王様です。そんな王様の子種から
「知らんな」
アタランテは魔力で作成した矢を弓に番え、引き絞り、放つ。
それらの一連の動作は神速で行われる。一射しかしていないように見えるが、その実、十本の矢が射られていた。一本一本が必殺かつ必中の速度で襲いかかり、
「勝手に話させていただきますので構いませんよ」
『色欲の魔女』シメールの両眼が紫水に光る。
目前の空間が渦巻き、氷柱と同形状の紫色の結晶が十個出現し、迎撃する。
真っ向からぶつかり合った狩人の漆黒の矢は、魔女の紫矢のように結晶化し、バラバラに砕け散る。
(魔眼持ちか――――)
シメールの迎撃方法を見て取ったアタランテは後方に飛び去り、闇夜の森に己を溶け込ませた。狩人として生きた彼女の気配遮断及び隠蔽能力は、暗殺に特化した英雄とまではいかないにしろ、超一流の戦士の英霊が把握できなくなる領域にある。
「……」
それでも〝視られている〟という感触が拭いきれない。
タウロポロスに新たな矢を番えながらアタランテは考える。
百メートルも離れていない近距離で、私が射った十の矢を補足しながら迎撃し、夜の森に隠れた私の位置をある程度視認できる。
そんな技量を持ったキャスターの英霊が果たして何人いるものか。ギリシャ屈指の女魔術師のメディアとキルケ―でも出来るかどうか怪しい領域だ。
「アルカディアの王イーアソスとクリュメネーとの間に生まれた貴女は、時代が時代であれば狩人ではなく、エリザベスのように女王になれたでしょうに。男子が欲しかったという理由で山に捨てられず、餓死と獣に喰われる恐怖を知らず、月女神に純潔の誓いを立てることもなかったでしょうに。恋も愛も赦さない……嘆かわしいコトです」
無視し、アタランテはタウロポロスの弦を引き絞る。
引けば引くほどに威力・速度が高まるのは弓の常識だが、タウロポロスはその効率が他とは段違いであった。
聖杯大戦の序盤ではジークフリートの『邪竜の血鎧』を穿ったが、強化された今では――貫通させられる自信がアタランテにはある。
「
弦から指を離す。
凄まじい勢いで噴出する魔力は、戦闘機のジェットエンジンじみた轟音を鳴り響かせ、まさしく彗星のように光り輝き、対軍宝具級のエネルギーを以て突貫する。
アーチャーの英霊の中でも最上位に入る弓射であった。
それを目視してみせるシメールは分厚い紫水晶の盾を五枚作成し、等間隔に空間転移させる。
一枚目、ガラス細工の如く割られる。
二枚目三枚目、玉砕。
威力・速度ともに減衰は見て取れず。このままだと四散する未来が視える。
両目――さらに唇、両手、両足を駆使した七重の魔法を追加する。
別種の魔法を同時に発動させたのではなく同一魔法の重ね掛けであった。
大小無数の紫結晶を騎士の馬上槍に凝縮、凝固、強固――回転を加えて突撃させる。
アタランテの矢は馬上槍を貫通した。だが、貫通しきる前に覆われてしまい、結晶化したのちに槍ごと砕け散る。
紫片の煌めきが舞い上がり、降り落ちてくる中をシメールは歩く。
妖精のような軽やかさで、踊るようにステップを踏みながら。
「名声を上げて。やっと父親が迎えに来てくれたかと思えば」
〝誰でもいい。婿を取って子を育め〟
「特別何かを望んではいなかった。親が子を愛するのは自然的で、貴女はそれを知っていた。無償の愛を捧げる父と母がいることを知っていた。だから期待して、父親との再会を喜んだ。会いにきてくれた。迎えにきてくれた。これからは家族として、父と娘として、アルカディアで暮らせる。そう期待してしまったのでしょう」
砕け散った紫水晶の欠片が地面に触れると、その周囲が瞬く間に侵食されていく。
魔女は例外なのか、触れても、踏んでも、侵食されない。
森の中を高速で移動しつつ十、二十、三十と射られるアタランテの矢は、結晶化した地面から生み出される壁に遮られる。
シメールは透明な防壁の内側から狩人のシルエットを補足しつつ言い続ける。
「ですが、結局――貴女は最初から最後まで愛されなかった」
〝父よ。どうして、そんなことを言うのですか〟
〝私は貴方の子供で、娘で、ずっと待っていたのに〟
「子供として見られていなかった。婚姻の材料としてしか考えられていなかった」
同情しながらも嗤う。
「不幸なヒト。魔女に堕ちたワタシでも、お父様にもお母様にも愛されているというのに」
獣の牙の如く研ぎ澄まされた殺意がシメールに突き刺さる。
次の瞬間、魔女は狩人を完全に見失う。あまりにも速かったからだ。注意の引き付け方は無論、何より走法が完璧すぎる。四つ足であるケモノと二足であるヒトの走り方をこんなにも巧く混ぜ合わせられる人間がいたとは。地上最速の名は誇張ではないらしい。
――容姿に比べて、眼の能力/機能は大幅に劣化している。
――戦場もあちら側に有利といえば有利。
とはいえ見失ったのは『剣聖』以来だ。
そしてアタランテはあと二段――――いいや、あと三段は速くなれる。
久しぶりに戦いで気分が高揚してくるというもの。
「愛されたかったですか?」
歩みを止めて、辺りを見回しながら問いかける。
影すら捉えられない。
「〝愛される〟ことを望んでいただけではないのですか?」
返事はない。
「アタランテさん――貴女は愛そうとしていたのですか?」
代わりに音速越えの矢が撃ち放たれる。
矢はシメールに直撃する直前、紫水晶の障壁に惜しくも阻まれるも榴弾のように爆発し、結晶化した地面を粉々に吹き飛ばす。
魔力の爆風から飛び出したシメールを四方から複数の矢が追う。複数の射手がいるとしか思えないほど同一のタイミングであった。
魔力操作によって蛇行しながら迫りくる数十の矢群――そのどれもが恐ろしい速度を有する。
シメールは山羊の蹄を打ちつけ、地面に立つ。
両目で前方を、両手で左右を、蛇の尾で後方を迎撃――
(間に合いませんか)
魔女の柔らかな身体に矢が群がる。
まず両足を貫かれて固定され、そして全身を串刺しにされていく。
目と口だけはどうにか防いだが、身体中の至るところを貫かれた。目と口の護りに使った両手と蛇の尾は酷い有様だった。肘から先がなくなっており、尻尾は根本から千切れている。
後ろから着地音――振り向いたら籠手の鋭い爪に両目を切り裂かれる。首の骨が折れそうな勢いだった。
痛がったりはしないが、視界を奪われたシメールは溜息を吐いた。
(せっかくノってきたところなのに……判断を誤りました)
アタランテはシメールの前に立つ。
「妙な動きをするな」
シメールは意図を汲み取って再生を止める。
「レティシアを元に戻す方法と、貴様の世界から出る方法を答えろ」
狩人は魔女の首を掴み、締め上げながら命じる。
「ジャンヌさんの時より酷くありません?」
ふざけた調子で言えば頬を殴られる。
「答えろ」
「嫌だと言ったら?」
腹を膝で蹴り上げられる。人類最速と呼ばれた脚なだけあって強烈だった。ゴチュリと内臓が滅茶苦茶に潰れ、口端から鮮血がこぼれ落ちる。
「こふん……怒らせてしまったようですね。戻す方法と、出る方法でしたか。
――レティシアさん本人が戻りたいと仰ったら、戻して差し上げます。巻き込まれた被害者ですし、魔女化の罪はワタシが担うと宣告しましたしね。
――ここから手っ取り早く出たいのなら、ジャンヌさんに聖剣をお返しして、真名開放をさせれば解決しますよ。まあ使えばジャンヌさんが消えてしまいますけど。ワタシもそこまで親切ではありません」
「ふざけるな……」
「大真面目ですが? 目的と手段が逆転してしまっている貴女に言われたくありません。ジャンヌさんが欲しいから〝子供たち〟を連れ戻そうと考えていらっしゃるでしょう?」
図星を突かれたアタランテはもう一度膝蹴りを叩き込む。彼女は、父親と聖女を出汁にした挑発で冷静さを失いかけていた。
「ふふふふふ……ねえ、アタランテさん。ジャンヌさんを孕ませたとして、彼女が〝子供たち〟を愛すると本気で思っているのですか? 口下手なのに頑固なジャンヌさんを説得できると思っているのですか?」
歯軋りの音を立てたアタランテはシメールの首を掴んでいる手を振り上げ、クレーターができる勢いで地面に叩きつける。
「貴女ができるのは精々、こうやって暴力で従わせようとすることだけ」
「力を使う気はない!」
「セミラミス様にそう仰ったようですねぇ。そして色を使うと。それでジャンヌさんの心を堕とすと」
クスクスと含み笑い。
「堕ちる未来はありますでしょう」
その
けれど、そこにいるジャンヌ・ダルクは――
「貴女との交わりを求めるだけの雌しか出来上がらないでしょうが」
「……!」
「ついでに言えば、貴女も同じような姿になっているでしょう」
生まれた子供たちを育てることよりも、お互いを貪り合うことを優先するケモノが二人。
「そんな親の元に生まれた子供たちが幸せになれるとでも? 哀れな迷い子の〝子供たち〟を生み出してしまった親と同じではありませんか?」
「っ――――だまれ!」
アタランテは拳を振りかぶり、シメールの顔面に打ちつけようとする。
その手が音も無く切り落とされる。
それは鮮やかに、切断面は見事なまでに崩れていない。
人体を解体するのに長けた存在による不意打ちの斬撃であった。
「な……か、ぐぅ――――!?」
一拍置いて噴き出る血飛沫をアタランテは浴び、シメールも浴びる。
『色欲の魔女』の両手は幻想種ですら及びつかないような速度で再生していき、
「だから、ワタシが未来を変えてさしあげるのです」
自分の首を掴んでいる手をやんわりと離す。
シメールは微笑む。
狩人の後ろにいる殺人鬼、襤褸を纏った銀髪の少女に向けて。
「ごめんね」
分厚く切れ味の良いナイフを両手に構えた殺人鬼は呟くように言う。
「でも――わたしたちの
舌足らずで、子供っぽく、それでいて蜜のように甘い声。
この声をアタランテは覚えている。
「そん、な――あなたが――な、ぜ?」
――忘れもしないその声、その姿。
――私が魔獣に堕ちた理由、ジャンヌへの想いの根源。
――だが何故、あなたはジャンヌの洗礼詠唱で魂を帰還させられたのに。
――どうしてここにいる。
驚愕する狩人の頬に触れた魔女は顔を寄せる。
その両目は既に治り、深紅の輝きを灯していた。
――魅了の魔眼……!?
これ以上ないほどのタイミングでの奇襲に強襲。
歴代史上、最も異端かつ最も正統なる『色欲の魔女』は肉体のコントロール権を奪い取る。
石化したように縛り付けられたアタランテは、精神までは侵されまいと決死の表情で
「ジャック、そこまでです」
余裕の佇まいを崩さないシメールは呼びかけ、ジャックは構えを解く。
「意識も奪うつもりでしたが……防げるとは驚きです。きっとジャンヌさんへの強い想いがあるからなのでしょうね。大好きですよ、そういう恋と愛の感情がお強い方は」
アタランテの頬をなぜる。歯軋りされるも、それも愛らしく見えた。
蛇の尾を伸ばし、切られたアタランテの手を噛んで持ってこさせると受け取る。血液に唾液、自らの体液を乗せた舌で切断面を舐める。それから流血する手首に合わせると癒着し、元通りとなる。
無論、アタランテは感謝などしない。
魔女の体液が混ざり込んでくることを想うと嫌悪感しか湧いてこない。
「貴様……ジャックをどうやって……!」
「いる場所を見つけて連れてきました」
その言葉にアタランテは顔を顰める。
輪廻の軸から外れ、如何なる聖杯戦争においても召喚されることのなくなった〝切り裂きジャック〟の一面、〝子供たち〟を連れてきたとシメールは事もなげに言ったのだ。
「ご覧の通り、ワタシの眼は少々特別でして。天におわします神様だって見られるのですから、迷子の子供たちを見つけるなんて片目の反目だけでも十分すぎます」
「見つけられたとしてもだッ。異世界の存在を連れてくるだと? 貴様は例外としても、ジャックはセミラミスの召喚の条件には当て嵌まらないはずだ……!」
シメールは小首を傾げ――少し考え――ひとり納得する。
「? ……あぁ――そういえば、まだお伝えしていなかったのですね。確かにワタシはセミラミス様に召喚されましたが、それ以前に。この世界には自力で来ていましたよ。丁度、聖杯大戦が終結した日でしたか」
……まさか。
…………いや、まさか、そんな。
この魔女は単独で――世界を渡航する能力を持っているというのか。
そう、察知したアタランテを前にしてシメールはある物を胸元から取り出す。
「エトワール・シェルシェール――星の探究者。魔性に堕ちたワタシが手に入れた権能。こちらの世界では宝具に値する代物でしょうか。これのお陰でワタシは異なる世界にも星にも物語にも行き来できます。ちょっとした応用で、自分の心の中に招き入れることもできちゃいます」
「――――」
「ご理解いただけましたか? ち・な・み・に、これを奪っても出られませんよ。ワタシじゃないと使えないように、ちゃあんと安全装置を施しておりますので」
可能性の一つを摘み取り、「奪おうにも動けないでしょうけどね?」と小馬鹿にする。
抵抗はできても逆転はできないのが現状態だと見抜いているからだ。
「気絶させたあと、ワタシはレティシアさんのところに行きます。どうなるかは想像がつきますよね?」
嫌でもわかる。
魔女化したばかりのレティシア一人なら勝ちの目はある。だが、シメールが加勢に現れれば一気に趨勢は傾く。ジャンヌの規格外の対魔力を以てすれば、シメールの魔眼と魔術は高確率で無効化できるだろうが――この性悪の魔女に物理攻撃手段の備えがないとは思えない。
確実にジャンヌは捕らわれる。
そうはさせない――覚悟を決めたアタランテは動く。
シメールが眼球を通して魔力を脳内に送り込んで肉体を支配しているのなら。
体内に取り込んだカリュドンの因子を脳内に掻き集め。
自らの意思で、自分自身を狂化させる。
――それは後先を考えない行動だったが効果は確かにあった。
透視はしていなかったシメールは気づけなかった。
ただ、耳にした。
柔らかい肉が潰れるような音がアタランテの頭から聞こえた。
時を置かず、アタランテが何をしたのかを理解したシメールの顔が強張る。
「アナタ、自分の脳を潰して――――!?」
驚愕は隙となって突かれる。
槍の突きの如く放たれたアタランテの爪先がシメールの胸部に突き刺さる。
血反吐を吐いて後ずさりした魔女は胸を押さえる。
「いっ、はあ、くっ、っうぅ……!」
すぐさま再生するが、これまでと違って痛みを顕わにしていた。
何故かは今のアタランテには理解できない。当たり前だ、頭の中をグチャグチャにしたのだ。即死するのが当然で、思考も行動も不可能できないのが必然。
それなのにアタランテを動かしたモノ、動かせるモノ。
一つしかない。
「うれしいごさん……!」
シメールは顔を上げて笑わずにはいられなかった。
胸に感じる痛みが愛おしくてたまらない。大切なプレゼントのように包み込む。
アタランテを見る。
「――あ――ぁ――――ァ」
痙攣しながら天を仰ぎ、両手を垂れ下げている。
獅子の耳からも、人間の耳からも、両目からも血が流れ出ている。
危うすぎる様子に我を失っていたジャックが近づく。健気にもEランクの外科手術で治療するつもりなのだ。どう考えても無理である。
治せないし、治療行為に入ることもできない。
ジャックの気配にアタランテが死人のような不自然な動作で振り返る。
ジャックの歩みが止まる。
会話はない。無言で見つめ合っているようだ。
どういう意思疎通をしたのか、しばらくするとジャックの方から下がっていく。
アタランテがこちらに向き直る。
眦を決した彼女が吼える。
「■■■■……!!」
「――あとでお二人に伝えさせていただきますね」
申し訳ないけれど。
貴女がここで負ける結果は変えられない。
ところでアタランテ(ふたなり)×ジャンヌのイラストが1枚も投稿されないのですがそれは……百パーセント出ると言った手前、かなり辛いんですがそれは。
どなたか心優しい方描いてくださいよぉ!