※この作品はR-18です。

魔獣と聖女   作:呉のしいたけ

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短いけどゆるして。


救国の聖女VS復讐の魔女 前哨戦――2

 

 

◆これを読んでいる方々にとっては、どうでもいい話をしましょう。

◆実のところ。

◆ワタシは七姉妹で身体が一番弱かったのです。

◆ほとんど一日中、ベッドの上で安静にしておかないといけなかったぐらいに。

◆誰かを愛することも、愛されることも赦されない身体でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の躰は燃えているように熱くて、全身全霊に力が漲る。

 旗を持った腕の一振りで大気がヒステリックに泣き叫ぶ。

 魔力で構成し、撃ち放った紫炎の槍が地面に突き刺さると火柱が立ち上る。

 目に少し力を入れて睨むだけでも世界が燃える。

 なんて。

 なんて。

 ――――なんで、こんなに!

 

「あはは、あはっ、あはは!」

 

 楽しい、楽しい、楽しい!

 暴力を振るうのがこんなにも楽しいことだったなんて!

 神様! 

 あなた様に祈りを捧げてきたレティシアはまったく知りませんでした!

 聖女様!

 貴女を信じて依り代になった末路がこれです!

 

「全部アンタのせいなんだからァ!!」

 

 防いで、避けて、逃げてばかりのジャンヌ・ダルクに追い縋り、上から旗で抑えつける。圧力に耐えかねた地面に亀裂が大きく走った。

 

「私を止めるんじゃなかったの? 救うんじゃなかったの? なのにアンタはさっきから一度も向かってこないじゃない」

 

 尊敬していた聖女は、苦しい顔をするばかりで黙ったまま。

 

「聖杯戦争の時の勇ましさはどこにいったのよッ!!」

 

 神代の槍兵にも、化け物みたいになってしまった狂戦士にも、護国の鬼将にも、楽園の巨人にも、可哀想な殺人鬼にも――純潔の狩人にも――魔獣にも!

 どんな相手にも怯まなかった貴女が!

 

「なんで私一人に怯えてるッ!!」

 

 苛々して、腹立たしくて、お腹を思いっきり蹴り上げて、浮き上がったところを旗で打ち払う。蹴った石ころみたいに地面を何度か跳ねてから聖女は止まった。

……驚いたことに、そのまま蹲って立ち上がろうとしない。

 

「弱い弱い弱い弱い弱い弱い――ぜんっぜん話にならない!!」

「……ッ」

「なんのために魔女になったのか分からないぐらい弱すぎる! はんっ、これならアタランテさんを選べばよかったわ。あの人なら力の振るい甲斐があったでしょうに」

 

 そう言い捨ててシメールさんに念話を送る。

 

『シメールさん、こっちはもう終わりそうよ。そっちはどう?』

 

 少し間を置いて返事はきた。

 

『バーサーカー状態のアタランテさんと絶賛ステゴロ中です』

『ステ……ゴロ……? なによそれ』

『あらごめんなさい。ついお父様用語を。ステゴロとは武器使用なしの殴り合いです。うふふ、こうすると相手の気持ちが直接伝わってきて気持ちいいですよ? 身体中グチャグチャになりますが』

 

 声質からして間違いない。

 あの魔女、アタランテさんを相手に遊んでいる。それも多分、再生できることを良いことにサンドバッグ状態になって楽しんでいる。

 

『……遊んでないでさっさと捕まえて』

『はあい。レティシアさんも油断なされないように』

『油断もなにも聖女様はやる気がゼロで話になりません』

 

 

『いえいえ。そうでもないみたいですが』

 

 

 まだ蹲っているであろう聖女に視線を移した――私は言葉を失った。

 

「は? いない……?」

 

 そう漏らした直後、物凄い衝撃が額に降りかかってきた。何をされたのか理解する時間はなく、今度は顎を下から思いっきり突き上げられてたたらを踏む。

 頭痛、眩暈、吐き気、それらが一気に襲い掛かってきた。

 気分が悪い。ふらつくのが止まらない。

 誰? 誰からの攻撃? そんなのは決まっていて、分かりきっていた。

 聖女が――私がシメールさんと話している間に体勢を立て直し、仕掛けてきたのだ。

 

「このッ……!」

 

 揺れる視界の中、微かに見えたジャンヌ・ダルクの顔面に旗の石突をかます。

 当たらない。防がれも、避けられもしなかった。

 私が外してしまったのだ。

 

「きゃう!」

 

 戻すよりも先に右肩を旗で叩かれる。

 骨が砕けたかのような痛みに思わず左手で押さえると、空いた左の脇下に旗が滑り込んで叩かれる。

 

「かふっ!?」

 

 衝撃が肺と心臓を通り抜けて息が一瞬止まる。

 

「っ!? っ、っ!?」

 

 みぞおちを石突で突かれる。今度こそ息ができなくなった。

 

「ぃ……ぅ!」

 

 両方の脛を同時に旗で払われるように打たれる。

 全身を炎で焼かれる痛みとはまた異なる、脚が罅割れるような痛み。

 顔から地面に倒れこんで呻くことしかできなかった。

 

『さすがルールガン無視で驚かれた村娘。人体急所突きまくりで容赦ありませんね』

 

 魔女はなにが楽しいのかコロコロと笑う。

 

『ほら、レティシアさん。動かないと次が来ますよ』

 

 急いで顔を上げる。

 聖女は無言で旗を振り下ろそうとしていた。籠められた力は本物だった。

 さっきまでの無抵抗さはいったい何だったのか。

 ギロチンみたいに容赦なく落ちてくる一撃を間一髪のところで避け、後ろに距離をとる。

 

 けれど、すぐに追いつかれる。

 シメールさんが言った人体急所の部分を叩かれる、打たれる、突かれる。

 何度も、何度も、聖女が私を痛めつける。

 旗を突き立て、それを支柱として胸を蹴りつけられて吹き飛ぶ。

 痛くてたまらなくて噛み締めた歯が軋る。

 

「調子に!」

 

 聖女の頭上に、紫炎の槍を何本も作成し、

 

「乗るな!!」

 

 手を振るって射出する。

 それを聖女は見上げることすらしない。

 頭の上で、旗を片手で回すことで全ての槍を弾き飛ばす。弾かれた一本一本に魔力をそれなりに込めていた。

 威力も速度も足りていた筈なのに――それを、そんなにも簡単な風にっ!

 

「――――」

 

 見当違いの場所に着弾した槍が破裂して火柱を立てる。

 その炎が聖女の姿を現し、熱風が彼女の髪を揺らす。

 彼女の閉ざされていた口が開く。

 

「力と技を得ても」

「・・・・・・!」

「貴女は戦い方を知らない」

「・・・・・・ふざけないでよ・・・・・・!」

 

 私を巻き込んだのに守り切ってくれなかったくせに!!

 その上から目線はなんなのですか!?

 聖女の物言いに視界が真っ赤になるようだった。

 

「もう勝ったつもりなのですか!? だとしたら残念ね! まだまだ動けるわよ!」

 

 旗を握り締めて突進する。

 聖女が旗の穂先を向けてくる。

 

 

 ――穂先に光り輝く、純白の魔力が充填される。

 

 

「・・・・・・は?」

 

 ちょっと。

 待って。

 聖杯大戦のとき、そんな攻撃一度だってしてないでしょう――!!

 

 予想外の行動に、私は防御の体勢を取れなかった。

 聖女の旗から放たれた――天からの炎のような――光の熱線に自分から突っ込むような形で呑み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 レティシアが気を失ったのを視認した。

 しかし、予想外ではないかのようにシメールは視線を戻す。

 彼女の両腕の内にはアタランテがいた。無論、気絶している。レティシアにさっさと捕まえてと言われたからさっさと捕まえたのだ。

 もう少し想いを受け止めたかったが仕方ない。

 四肢を切断して、再生できないように毒を唇から流し込んで、そこから先はダルマ状態のアタランテから意識を奪うだけだった。

 そのあとに四肢は繋げ直し、解毒もした。

 今は念のために記憶を魔法で改竄させてもらっている。

 この姿を覚えられていても別に困らないが――まだ機が熟していない。

 物事を始めるには最高のタイミングというものがあるのだ。

 

「わたしたちとは違う。あなたは『本物』なんだね」

 

 離れて見ていたジャックがシメールに言う。

 

「『本物』でも『真性』には遠く及びません。『色欲』の魔女たるワタシを『快楽』で喰い殺そうとした愛欲の獣。・・・・・・本気で身の危険を感じました。ゼパる的な意味で」

「わたしたちもあのヒトは苦手だよ。おかあさんにするのは、なんか、やだ」

「あなた達にも選ぶ権利はあります。――これで大丈夫でしょう。ジャック、運んでもらえますか?」

「わかった」

「ふふ、いい子、いい子」

 

 アタランテを抱きかかえたジャックの頭を撫でるシメール。

 そして、魔女と聖女がいる方向を向くと、

 

「助けに行くか、自力で起きるか、手伝ってもらうか。あるいはそれらが混ざるか。

 ――どうなるでしょうね」

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 暗闇の中で声が、聞こえる。

 声だけが聞こえる。

 

『――あんな下手クソな挑発を真に受けてどうするんだか』

 

 私にも、聖女様にも、似ている声。

 けれど酷く歪んでいる声。

 

『――聞こえる? 聞こえているでしょう? なら聞きなさい』

 

 ・・・・・・。

 

『――アンタは聖女様に負けたわ』

 

 ・・・・・・そうです、私・・・・・・!

 

『――このままだと捕まえられるでしょうね』

 

 待って。

 待ってください!

 私はまだ負けていません! 聖女様とは、あのヒトとは違います!

 

『――いいや、アンタは負けたのよ。ここで終わりなのよ。裏切られた痛みも、犯された痛みも、焼かれた痛みも、なにもかもぜーんぶ忘れて『アンタ』は消えるのよ』

 

 そんな・・・・・・!

 いやです! 

 私、こんなところで消えたくない! だって私――私、まだ何もできてない!

 死に物狂いで耐えて、耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて!

 あの痛みに耐えきったのに!

 

「だったら立て。寝てるんじゃないわよ」

 

 すぐ側で声がして立ち上がらされる。

 聖女様にも私にもそっくりな顔立ちをした少女が目の前にいる。

 シメールさんに挿入された知識で理解する。

 この少女が、私に復讐者としての力を与えている英霊なのだと。

 ジャンヌ・ダルク・・・・・・オルタナティブ。

 聖女様には存在しない側面を具現化されて創られたヒト。

 

「・・・・・・フン」

 

 私がそう思うと、少女はちょっと長すぎるように思える白髪を掻き上げた。

 伝わってしまったのかと頭を下げる。

 

「今のアンタに謝られるとただでさえ胸糞悪いのに、もっと酷くなるわ。やめてちょうだい」

「ご、ごめんなさい」

「だぁかぁらぁ・・・・・・・・・・・・なんでこんな信徒ちゃんに力を貸したんだか」

 

 やっぱりこの少女が力を与えてくれているらしい。つまり恩人だ。

 

「それについては、ありがとうございます」

 

 お礼を言うと、こっちが申し訳なくなるぐらい嫌そうな顔をされてしまった。けれど、すぐに悪い笑顔になる。

 

「礼なんていらないわよ。私は聖女様の醜態が見られるっていうから契約に乗ったの。で、話通り見られた」

 

 口が裂けたかのように笑みがつり上げられる。

 

「もうもうもう最っっっっっ――――高の気分になったわ!!! 

 自分を捕まえたケダモノに陵辱される日々! 魔女になろうとしているアンタへの罪悪感! 自分への絶望に、アタランテへの憤怒にまみれたあの顔! 何度も何度も何度も頭の中で想像したけど・・・・・・まさか本当に見られるなんて夢にも思わなかった!」

 

 高笑いする少女は心底愉しげで、ひとしきり笑うと私に人差し指を向けてきた。

 

「けど、まだ足りない。ぜんっぜん足りないのよね。だってまだ見ていないパターンがたくさんあるもの。

 アンタがアタランテを寝取ってる姿を見せつけられる聖女様とか!

 チンポを生やしたアンタに犯される聖女様とか!!

 “子供たち”に回される聖女様とかすごく見たいのよ!!!」

 

 聖女様が絶対にしないような醜悪な笑顔をしながら同意を求めてくる。

 

「アンタだってそうなんでしょう?」

 

 ・・・・・・私が信仰していた宗教ではないけれど、小耳に挟んだことがある。

 地上の人々を見張る者だったグリゴリの天使たちが魅了されて堕天使になったように。

 眼は、見るということは――色の欲罪を生じさせてしまうのだ。

 

「見たいです」

「ウイ。私好みの顔よ、それ」

 

 言われて頬に触れる。

 ・・・・・・どうしようもなく歪んでいた。

 

「アイツを出し惜しむ必要なんてないわ。

 ――さっさと捕まえてお楽しみの時間に入ろうじゃない」

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 レティシアの怒号は悲鳴のように聞こえて返す言葉もなかった。

 

 

 ――貴女の怒りは正しい。

 ――全ては私の罪。貴女を守り切れなかった私が悪いのです。

 

 

 それでも――いや、だからこそ――ジャンヌは負ける訳にはいかなかった。捕まってしまえば事態はより深刻になる。取り返しがつかなくなってしまう。 

 償うためにもまずは、レティシアを魔女の呪いから解放しなければならない。

 その魔女の手で高められた旗で気絶させられた事実は、今は考慮しない。

 地面に横倒れになっているレティシアの元まで歩み寄っていく。

 

 しかし、その歩は道半ばで止められる。

 近づくことを拒むように紅蓮の炎が立ち昇ったからである。

 城壁に等しい質量を持つそれを前にジャンヌの脚は止まってしまった。

 そして炎の先に垣間見る。

 復讐の魔女が、レティシアがゆっくり立ち上がる姿を。

 面を上げた彼女は、思わず息を呑むほどに壮絶な笑みを浮かべていた。

 嫌な予感がする。

 魔獣となったアタランテに見定められ、“子供たち"を孕ませると告げられたときに匹敵するような――途轍もない悪寒がジャンヌ・ダルクの動きを鈍らせる。

 

 旗を基点とし、炎が陣を構築する。召喚の魔法陣だった。

 一方的な詠唱が始まる。

 

「――告げる」

 

 止めろ――今すぐに! やめさせろ!

 ジャンヌの頭の中で警報が鳴り響く。

 

「汝の身は我が旗に、汝の命運は我が下に」

 

 それなのに彼女は動けなかった。

 

「汝は邪悪なる者。天上を失墜し、黄金の夢を奪い去る者」

 

 止めることも逃げることもできなかった。

 

「なれば――汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者」

 

 紅蓮の炎が尚のこと強く燃え上がる。

 復讐の魔女の憎悪という名の魔力がそれを強制的に呼び寄せる。

 

「我はその鎖を手繰る者なり」

 

 ――一つの宗教においてそれは人間の敵であり、この世の絶対悪であった。

 それを操れる力をレティシアは与えられていた。

 聖なるものこそを愚弄する竜の魔女として。

 

「――血と呪いの現象より来たれ、邪竜(ファヴニール)!!」

 

 邪竜降誕。

 炎の陣より這い出るは黒き巨軀。

 

「R――――lerrrrrrrr!!!」

 

 角を持つ彼の者は黒き翼を広げ、眼下の聖女に咆哮する。

 

「・・・・・・うそ」一目でわかった。わかってしまった。「こんなことって・・・・・・」

 

 このとき、あらゆる色の表情が聖女より消し飛んだ。

 漂白された聖女の手より旗が落ちる。

 英雄としての己を忘却した少女の膝が折れる。

 

「貴女が大人しく捕まってくれれば召喚せずに済んだんですよ」

「あ、あぁ・・・・・・!」

「でも、聖女様も逢いたかったですよねぇ?」

 

 

 ジークさんに。

 

 

「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 頭を抱え込んで少女は叫ぶ。

 発狂する。

 ただ死んでしまうよりも尚、過酷な結末を迎えた少年を目の当たりにして。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からは泥沼のエロ章ー!
邪ンヌが言ったことは取りあえず今書きたいエロ話です。



召喚の呪文が恥ずかしすぎる?
ファヴニールが囁いたのよ・・・・・・
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