高校スタートダッシュ生(生活編)
懐かしい夢。
幼稚園の頃、無邪気な私。
私がこんな性格になったのは、果たしていつだったか。
母親が亡くなった時か、晴さんと出会った時か、晴さんとずっと一緒に居ると誓った時か、晴さんに恋した時か。
正確には分かりません。
――性格だけに。
「――っ!」
朝。勢い良く毛布を捲り上げます。
「...」
寝起きは頭が働きません。いつもの事です。
「っ〜〜!」
腕を大きくあげて伸びをします。
朝の爽やかな空気を肺に取り込むと、頭は急速に回転し、胃が食べ物を欲し始めます。
「...食べましょう」
まずは気持ちの良い朝を満喫したい気分です。
準備はその後からでいいでしょう。
ボーッと、鏡の中の自分を見つめます。
白のシャツに、赤に紺色のラインでチェックの様になったリボンを付けます。
紺色のブレザーを羽織り、紺色のスカート。
「地味...」
一回転してみます。
スカートがふわりと翻り、太腿まで見えてしまいます。
「...あぁ」
ブレザー。ブレザーです。
私は、貴方を、待っていたのですよ!
中学の頃、女子はセーラー服でした。
背の高い、スタイルもまあまあ女性的、特にお尻は中々の私。そんな私がセーラー服を着るとどうなるか。
答えは簡単。
どう見てもコスプレ。
――お金なら払うよおじさんに何度絡まれたことか。
しかし、今の私を見てコスプレだと思う人はいないでしょう。
「似合っています...恐ろしい程に」
自分で言うのも何ですが、とても私らしいです。地味な色合いが特に。
背は高いですし、シルエットはとても女性的ですが、肌や髪を見ると高校生であることに違和感はありません。
そうです、どう見ても高校生です。
「...よしっ」
紅葉をモチーフにした、小さな校章を胸に付けて、新品のローファーを履きます。
履き慣れていない靴は少し歩き辛く、走ることは出来なさそうです。
「まぁ、晴さんの前で走る事なんて、滅多にありませんけどね」
取り敢えず、晴さんの元へ行きましょうか。
「晴さん」
晴さんを起こしに来ました。声をかけても中々起きません。
グースカと布団で眠っている晴さんはとても阿呆っぽい顔をしていて――
「ああ、阿呆者でした」
「――ん...紅葉?」
おっと、つい言葉に出てしまいました。
私の声で起きたみたいです。
あ、いえ。私の暴言で起きたみたいです。
「晴さん、おはようございます」
「おはよう...制服、似合ってるね。可愛いよ」
「ぇ」
突然、晴さんの口から放たれた言葉は、見事私の全筋肉の活動を停止させた様です。
要するに心臓が止まったと言いたいだけです(勿論止まってません)。
「きゅ、急にどうしたんですかっ」
「ん、ああ、いや...可愛かったから」
ぐぬぬ。
どうして、突然精神攻撃を仕掛けてくるんですか。
私、そんなにチョロくないと思いたい系女子なのに。
「あ、ありがと、ござ、ます」
「え、うん...」
それ以降、お互い黙ってしまいます。
「...」
「...」
なんだか妙な雰囲気です。
何でしょう。男女の良い雰囲気というわけでもないですし、友人同士の心地良い雰囲気でもありません。
なんとか、この雰囲気から脱却しないと。
「...その、晴さんは...」
「う、うん」
「...............今日も素敵、です」
「...ぇ」
それ以降黙ってしまいます。
「...」
「...」
「...着替えるよ」
「そ、そうですね」
なんだか妙な朝となってしまいました。
春、私達は高校生になります。
今日は、高校の入学式。
物語では、平凡な学生、という設定が基本ですね。
ですが、残念ながら私は平凡ではありません。
何故なら――
「紅葉...手、繋ごうか」
「はい、晴さん」
私は、彼氏持ちの勝ち組リア充だからです!!!!
「自己紹介、本当に昨日の奴やるの?」
「出来れば。インパクトは最大級じゃないですか?」
「まあね」
ああ、私の高校生活は薔薇色間違いなしです!
校門を抜けると、クラス分けの紙が張り出されています。
ついでに神は居るみたいです。
「晴さんと同じクラス...」
ニコニコが止まりません。頰が言うことを聞かないのです。
「僕も、紅葉と一緒で良かった」
あああああああッ!
晴さんが凄く嬉しいことを言っています!
そんなの、我慢できなくなっちゃうじゃないですか!
「晴さん...」
「紅葉...」
下駄箱。
二人の男女は目を閉じ、口を近づけていき――
「ジーっ」
「ひゃぁん!?」
「おっと」
いこうとしたところで、ジーっ、と言いながらこちらを見つめている女の子に邪魔をされます。
なんでこの人、声に出しているんでしょうか。
「あ、あの...?」
「...」
女の子は、私と晴さんに視線を向けた後、そのまま下駄箱を通り過ぎて行きました。
「...」
「...新入生だったね」
「そうでしたか?」
「うん。制服、新品だったし」
謎の美少女。
何か始まる予感がします。
いえ、美少女かと言われればそこまででも無かったような...というか、晴さんとのイベントを台無しにされたのは少し悔しいです。
公衆の面前で何をしようとしたかは言うまでもありません。
私達は、春休みにレベリングしまくりましたので――
「行こうか」
「はい」
再び、二人で手を取って歩き始めます。
私達の高校生活、第1歩目です。
入学式は退屈です。
校長のありがたいお言葉(想像より短かったです)を頂き...終わりですかね。
入学式が終わると、そのまま先輩方との対面式がありました。
先輩方は凛としていて、本当に...その。こういう言い方は失礼ですが、偏差値高そうな顔してます。
退屈だったので、横にいらっしゃった女の子とお話していましたが、気が合わないのがバレバレでした。
それでも表面上は仲良く話せる辺り、私の女子力(すぐに群れを作ることが出来る能力のことです)も捨てたもんじゃないですね。
話は飛んで、HRへと入ります。
席は晴さんの隣です。
席は晴さんの隣。
晴さんの隣。
「晴さん」
「どうしたの」
「...なんでもありませんっ」
新学期は幸せな事ばかりです。
こんな幸運が続いても良いのでしょうか。
「よし、みんな帰ってきたな」
最後の一人が席に着くと、教壇に座っていた女性はそう言って立ち上がります。
「なんであの先生、教壇に座ってたんでしょう」
「さあ?」
晴さんとコソコソ話。こういう小さい所で幸せポイントが積まれます。
「じゃあ自己紹介するけど...私は担任の年見。よろしくなー」
私達の担任になった年見先生は、中々どうして、個性的です。とても怠そうにしています。
「自己紹介っていっつもなげーんだよな...。アタシを見習って短く頼むな」
えー...。
名前と「よろしく」だけで終わりです。
「あの先生、態度悪くないですか」
本当に教師なんでしょうか。
「そうだね、変な人」
「晴さん的には?」
「まあ、あり...かな」
「...浮気者」
「いや、そういう意味じゃないでしょ」
そうして二人で会話をしていて気づきませんでした。
「...じゃあ、そこのカップルさんから自己紹介でもしてもらおうかなー?」
――最大のチャンスが巡ってきたことに。
少しだけイラッとした声音ですが、顔はいやらしい笑みです。恐らく、からかっているつもりなんでしょう。
新しい学年になると、最初は知り合いと話すのが王道パターンです。勝ちパターンでもあります。
知らない人が多い世界では、男女の壁を超え親しくなることが出来ます。
あの先生は、私達の仲をそういった類だと思っていることでしょう。
晴さんに目を向けます。
「...」
言葉は発していませんが、覚悟は完了している様です。諦めた瞳が、太陽からの眩い光を取り入れて爛々と輝いています。
では、行きましょうか。
「では私から」
「ああいいぞ、カップルさん?」
はたから見てもカップルに見えてるんですかね。もしそうなら嬉しいです。
勿論嫌味です。
「南中から来ました、紅葉と言います。部活には所属していませんでした」
さて、吉と出るか、凶と出るか――
「好きな人は晴さんです。よろしくお願いします」
一瞬、時が止まったかと思いましたが、時計の音が聞こえます。
数人は頭の上に疑問符を浮かべ、困惑しています。
そして時は動き出す――
「同じく南中から来ました、晴です。部活は帰宅部でした」
「好きな人は紅葉です。よろしくお願いします」
自己紹介が無事に終わると、教科書販売の説明を受けて、HRは終了です。
有り余る時間は部活動見学の時間だそうです。私達には関係ありませんね。
「晴さん、どうしますか」
「部活動でも見て回る?」
「何か入りたい部活があるんですか?」
「一応」
え。
それは初耳です。
「放課後の私との時間は...」
「いや、ちゃんと取るから」
むぅ。
不安です。
「そこのお二方!!!」
と、突然呼び止められ、私達は声の聞こえる方に意識を向けます。
「椅子取りゲームをしませんか!?」
...。
はい?
「え...椅子取りゲームですか?」
「はい!時間も余っていますし、何かやろうと思って!」
「は、はぁ...別に良いですけど」
「じゃあ早速!あ、私は
そう言って、彼女はテキパキと椅子を並べ始めます。
――背の低さと、胸の大きさのアンバランスさ凄いですね。
健康的な肉体を備えていて、とても女性的な魅力を感じます。
しかし、それを全て覆い隠す子供の様な無邪気さと元気さ。
私はこれを、隠れ女性、と名付けることにします(巨乳は隠れてないです)。
「...海」
「どうしたの?」
「私、パン食い競争がしたい」
「何で!?」
海さんに話しかけているのは、知的そうな女の子。
そういえば、わたしと比較するとみんな背が小さいことを忘れていました。
「...私、
「あ、よろしくお願いします」
「雪さん、よろしく」
「...ジーっ」
あ。
雪さん、朝邪魔してきた方じゃないですか。
「...晴くん、違和感」
「え、何が...?」
「...紅葉ちゃんが雪さん、わかる」
「うん」
「晴くんが雪さん、変」
「そ、そうかな...?」
ま、まあ。確かに、違和感を感じなくも無いような気がします。
「雪、もしくは雪ちゃんでいい」
「え、えーっと...」
チラッと、晴さんが視線をこちらに向けてきます。
彼氏としての自覚がかなり出来てきているようで嬉しい限りです。
「...まあちゃん付けが一番自然ですかね」
「そうですね。私も同感です」
「いや、結構恥ずかしいんだけど」
何を言っているんでしょうか。
「まさかとは思いますが、呼び捨てで呼びたいなんて...思っていません...よね?」
「う、うん思ってナイデス」
...少し棒読み気味だったのは許してあげましょうか。
「じゃあ、雪ちゃん...で。よろしく」
「よろしく、晴くん」
「そういえば、お二人とも私達の名前は覚えてくださってるんですね」
私達は今自己紹介していませんが、ふつうに呼んでくれます。
まあ、予想はつきますが――
「まあ、あれだけインパクトのある自己紹介でしたから...」
「流石に、忘れられない。ドン引き」
ドン引きだったんだ...。泣きそうです。
「で、でも!お二人のラブラブっぷりは伝わりましたよ!応援したくなりました!」
「砂糖...吐きそう、だった」
「あ、ありがとう...あはは」
私達の仲はしっかりとクラスの方々に伝わりました。
そして、次の日には全クラスに広まっていました。
大方、うちのクラスの方々が、他クラスの知り合いに話し回っているのでしょう。
部活動等から他学年に伝わるのも時間の問題なのでは――
「晴さん」
「...なに?」
「...堂々と、イチャイチャ出来ますね?♡」
「.........そうだね」
高校生活は始まったばかりです。そんな疲れた顔しないでください。
「あはは...はは...」
「晴くん、ファイト、オー」
「ありがと、雪さん...」
今までと雰囲気が違うこと、書き直したため書き方も違うこと。
この2点がありますので、合わない方はすいません...