春休みもあと数日のある日。
「明日出かけない?」
唐突に彼は言いました。
「お出かけ...もしかしてデートのお誘いですか?」
勘違いだったら恥ずかしいので、はやる気持ちを抑えてまず確認。
「えっと...そういうことになる、かな」
彼が顔を赤くします。可愛いです。
「いいですよ。どちらまで行かれますか?」
「んと、隣町なら色々あるからとりあえず電車で少し」
「わかりました」
デートは初めてです。
外面は冷静ですが、心の中では平常心を保てていません。
――デート!デートです!晴さんと恋人デートです!
私はデートの作法を知りませんでした。
さて、次の日。デート当日です。
流れるようにお気に入りの服を取ります。
ピンクのブラウスに薄緑のカーディガン、濃い緑のフレアスカートを着ます。上の印象が優しいので20デニールのストッキングで露出を控え、ピンクのストラップシューズを履きます。
...そうですね。この間もつけた黄色のリボンを腰に巻いておきましょう。後は可愛い小さな腕時計でも付けて...問題ないでしょう。
後は化粧。バッチリ決めますよ...!
顔を洗って化粧水、乳液、クリーム塗って...化粧しているのがわかる程度にファンデーションも塗りましょうか。
軽くアイラインも引いておいた方が...引きます。
そして、重要なのは唇です。口紅使ってもいいんですが...晴さんはあまり好みそうではないので使わず、リップグロスで大人っぽさを強調しましょう。...光り方がいやらしい。
――バッチリです。
気合入ってますよ、とアピールできてますね。
誰が見ても『この女、これからデートだな』とわかる格好です、間違いありません。
――では出発です!
さて、待ち合わせ場所は家を出てすぐの公園なのでのんびりと家を出ます。
現在時刻8時30分。待ち合わせ時間まであと...
「あと1時間...」
流石に1時間もつっ立っていられません。
公園の横にある駄菓子屋に入ることにします。
「こんにちは」
私は店に入ると挨拶をします。
「おや...いらっしゃい」
予想通り、お店にはおばあちゃんが座っていました。
昔からお世話になった駄菓子屋の店主さんです。
「お元気でしたか?」
「ああ...この通りピンピンしてるさ。それより...今日はどうしたんだい?そんなにおめかしなんかして」
おばあちゃんは私の服装を見て、気合が入っていることに気づいたようです。
「今日は晴さんとデートなんですよ」
「へぇ...あの坊主とそんな仲になったのかい」
「ええ...ついこの間」
「そう...よかったねぇ〜」
おばあちゃんも嬉しそうです。
「お祝いしなきゃね...なんか好きなの持っておいで」
「わーい。ありがとうございます、おばあちゃん」
内心、お菓子を食べてデートに
ここは...!晴さんの好きなコーララムネで行きましょう!
「では、ラムネ。もらいますね」
「ああ...紅葉ちゃんにも彼氏ができたのねぇ...」
おばあちゃんは昔を懐かしむように視線を上にあげます。
それから、私達は昔の思い出を語り合いました。
何を話したかって?
それは言えません。
おばあちゃんと私、二人だけの女子会ですから♪
「もう私も15歳になりました、いつまでも子供のままじゃないんですよ」
「そう...何か困ったら、私に言うんだよ...こんな年寄りでも、何かできることがあるかもしれないから...」
「はい、ありがとうございます」
おばあちゃんは昔から変わらず、優しいおばあちゃんでした。
公園に戻ると、時刻は9時10分。残り20分です。
20分程度なら、そう思い遊具を見ていきます。
周りを縄で囲われたブランコ。
――昔は晴さんとよく遊びました。ブランコは2つで1つの遊具でしたので、一緒に遊んでいる気分になれたのです。私は座っていただけでしたが。
一つだけになった鉄棒。
――高い鉄棒を使って自由自在にくるくる回ってた晴さんは素敵でした。私は隣の小さい鉄棒で前回りだけしてましたっけ。懐かしいです。
そして。
広くなった空き地。
――ここには。
無性に寂しくなります。
別に大した思い出ではないでしょう。回転する遊具で怪我をしてしまった少女を男の子が慰めてくれただけです。
でも。それでも。
少女が男の子に惹かれてしまった出来事なのです。
そのきっかけとなった遊具は、少女の怪我を発端に"危険である"という理由で撤去されました。
「紅葉...?」
気がつくと、目の前に晴さんがいました。
「ごめんね、早く来たつもりなんだけど...」
「いいえ、それほど待っていませんから」
「...」
なんだか晴さんは残念そうな顔をしています。
どうしたのでしょう...って、それよりも。
時刻は9時20分。私、10分も考え事に耽ってたんですね...。
「じゃあ、いこっか」
「はい」
彼の袖を指でつまみます。
「え」
「どうしましたか?」
心の中でニヤニヤしていましたが、冷静に、素知らぬ顔で尋ねます。
――晴さん、動揺しすぎです。
「い、いや...」
「では、行きましょうか♪」
まずは私の勝ちです。1点ゲットです。今日は主導権を握ってみせますよ...ふふふ。
それでは、デートに出発です!
「今日の紅葉、かわいいね...最初、本当に紅葉かわからなかった」
早くも同点となりました。
「なにする?」
「なんでもいいですよ」
「僕もなんでもいいよ」
とっても男らしい晴さん。
しかし、何も考えてなかっただけなのでは...と
「晴さんが連れて行ってくれるならどこへでも行きますから...」
「そ、そうなんだ....じゃあ適当に店でも回ろうかな」
お店を見て回るようです。
二人で服を見てイチャイチャします。
「これ、紅葉に合いそうだね」
「そうですか?私にはもう少し地味な色が似合うと思いますよ」
「確かに派手...かな?」
「...!晴さん!これを見てください!」
「なに....え、なにこれ。『M』って思いっきり書いてるんだけど』
「晴さんにお似合いです!」
「ど、どうも...」
結局なにも買わず次の店へ、また次の店、次の店....。
「晴さん、買わないのに見るって無駄な行為だと思いませんか?」
「え!?女の子ってウィンドウショッピングが好きでしょ?」
「なるほど...」
そういう
「自分で言うのもなんですが...私は一般的な女の子から外れています」
「知ってるけど...」
「傷つきました」
「なんで!?」
ひどい男です。彼女に向かって『お前は普通じゃない』なんて普通言いますか?
「とにかく、別にウィンドウショッピングじゃなくてもいいんですよ」
「じゃあ紅葉は何がしたいの?」
「私はいいんです。晴さんがしたいことを言ってください」
「僕は...紅葉と話しが出来ればそれで...」
「っ...」
なかなか強烈な不意打ちです。
顔が熱くなっていくのがわかります。
「....行きましょう、か」
「...うん」
彼も遅れて照れてきたようです。
俯いた男女がお店を回りますが、商品を見ることはありません。
男は照れた顔を見られまい、と早歩きで先導し、女は袖を掴む手に力をいれて、ただついていくだけ。
亭主関白の夫と
なんだかデートっぽいです。
「...そろそろご飯食べようか」
お互いに少し落ち着いた頃、既に正午過ぎ。
昼食の時間です。
「どこで食べるんですか?」
「こっち、ついてきて」
彼についていきます。
彼にリードされて私は心の中で歓喜の声をあげます。
一体どこに連れて行ってくれるのでしょうか。
「...着いた。ここで食べよう」
店に入ると、お洒落な橙色のランプが私たちを照らします。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2名で」
「2名様ですね。お席にご案内致します」
晴さんが恥ずかしがることなく答えます。
もしかして常連なのでしょうか。
席に着くと
「晴さん、よくこんな店知ってましたね」
「ネットで調べただけだよ」
「それにしては慣れてましたよ」
「えと、何が?」
「入店から席に着くまでに流れです」
「...まあ、入ったことあるしね」
「誰とですか?」
「え」
「こんなお洒落な、少しお高めのお店に一人で来るなんてあり得ません。ということは、誰かと一緒に来たんですよね」
「ち、ちがうよ?」
「嘘つかないでください。一体誰と来たんですか」
「いや、だからちが――」
「答えてください」
もし別の女性と来た場所を私とのデートに選んだ場合、絶対に許しません。具体的にはそうですね...ほっぺたに思いっきりキスマークでもつけましょう。
「いや、本当に違うんだって...」
「じゃあどういうことですか?一人でお洒落でお高めのお店に食事しに来たんですか?」
「...」
彼はバツの悪そうな顔をして言います。
「紅葉とご飯食べるならどこがいいかなって思って...それであらかじめ色々回って...も、もちろん一人で!一人で回ったんだよ...」
...えーと、つまり?
私と食事することを考えていて?
常日頃から食事処を探し求めて一人で外食?
「どうして私を連れて行かないんですか...」
ボソッと呟きます。
私との食事を失敗しないようにお店を回っていた、と。
そして今日のデートで良かったお店に入って食事をする、と。
そんなこと私は気にしないのに。晴さんと一緒に色々なお店で食事する方が、私にとっては嬉しいのに。
許せません。
許せない、のに。
「...紅葉?」
「...私、怒ってます」
「...ほ、ほんとうに?」
「はい」
「で、でも...顔が」
「怒ってます」
「ご、ごめん」
「許しません」
――顔が緩んでしまいます。
「「いただきます」」
二人でお食事のお時間です。
「スパゲッティ...スパゲティ...どっちが一般的なんだろう」
「どうでもよくないですかそれ...私はスパゲッティと言いますけどね」
「あと、パスタとスパゲッティって何が違うんだろう」
「パスタは小麦粉で作られたもの全般を指します」
「?」
「つまり、パスタの中にスパゲッティやらマカロニやらがあるんですよ」
「なるほど」
本当にどうでも良い会話です。
彼は私に色々な質問をしてきます。昔から。
頼られるのが嬉しくて勉強した結果、私はとても教養のある知的な女性へとなったのです。ふふん。
「ミニブラックホールでタイムスリップ出来るって本当なのかな」
「もしかしてアニメの話ですか」
「うん」
まあすぐにアニメの話だと気づく私も少し危ないですが、デート中にアニメの話をするなんてどうなんでしょう...しかもそれアダルトゲーム原作ですよね。
「最悪ですね」
「ごめん」
「覚えといてくださいね」
今度そのコスプレでもしますか。
何はともあれ、昼食はつつがなく終了。
「次はどうしますか?」
「そうだね、映画見よう」
意外です。映画なんて見るんですね。
「何か上映されてるんですか?」
「...ミステリーとサスペンスって何か違うのかな」
「違います」
「...推理映画があってるらしいよ。紅葉、そういうの好きだよね」
「ええ、とても」
私は頭を使うのが好きなのです。
ボードゲームなら将棋や囲碁。
本ならミステリー。
学問なら...なんでしょう。社会学?
反対に晴さんは適当にやって出来るのが好きみたいです。
知恵の輪をガシャガシャっとやって解いちゃったりですね。
飲み物だけ買って映画館に入ります。
大きなモニターでは宣伝が垂れ流されていました。
なんだかド派手な爆発が起きまくりです。
「大きな画面だと、迫力が凄いですね。耳が痛いです」
「アクションとか苦手そうだね」
「みたことはありませんが恐らく」
そろそろ始まるので静かに画面を見つめます。
事前情報は全くありませんので楽しみです。
どうしましょう。
シンプルかつ短くまとめますと、暇、です。
はっきり言って推理要素が薄いのです。これ以上見てもただの確認。面白くありません。
ふと、横を見ると彼はぼーっと画面を見ていました。
退屈なのでちょっかいをかけます。
彼の指に私の指を絡めて...恋人繋ぎです。
「!」
彼は驚いて私に振り向きました。私は彼をじっと見つめます。
「...」
彼は画面に視線を戻すと、繋いだ手をぎゅっと握ってくれました。
嬉しくなって私も握り返します。
――顔赤いのバレバレですよ。
映画が終わるともういい時間でした。
「そろそろ帰りますか」
「いや、何か買おうか」
「?...何を買うんですか?」
「何でも。紅葉に何か買ってあげる」
「はぁ...ありがとうございます」
よくわかりませんが、最後にお買い物です。
いくつか見て回って、最後に来たのは百均でした。
「うーん...」
「いいのはありましたか?」
「百均は一番玩具があっていいね」
子供みたいです。
「あ...」
「どうかしました――あ...」
異様な存在感を放ってそれはありました。
「...」
「ねぇ」
「はい」
「買う?」
「...」
「買おっか」
「はい」
買いました。
これにて、二人の幸せなデートは終了。
ですが...夜はまだ、これからのようです。