※この作品はR-18です。

一目で惚れたわけじゃない   作:添牙いろは

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第1話

 どうしてこんなことになってしまったのか……瀧にも、三葉にも、わからない。

 ただただ、無我夢中だった。

 ふたりは窓から並走する車両を眺めていただけ。

 そこで、出逢ってしまったのである。

 運命の相手に。

 

 ――いまさら。

 

 広大で複雑な東京という街の中で、巡り会えたこと自体が奇跡である。

 こんな偶然などありえない――その想いが、若者たちの勢いに拍車をかける。

 職場には、急遽体調を崩したと偽り、休暇を申請したどころか――

「その……もし良かったら……うち、二駅先なんで……」

 出逢ったばかりの女性を、自分の家に呼び込もうとしている。

 これには瀧も、自分の正気を疑わざるを得ない。

 だが――

 彼をこのような暴挙に掻き立てたのには、理由がある。

 その 女性(ひと)の左薬指に輝くものは――絶望。

 それが、瀧の心を濁らせた。

 どうせ叶わぬ思いならば――玉砕覚悟でぶつからせて欲しい。

 相手は人妻なのである。

 自分に失う希望はない。

 そんな自暴自棄な願いは――

「は、はい……」

 二つ返事で叶えられてしまった。

 これに瀧は、逆に戸惑う。

 聞き間違いかと自分を疑うほどに。

 どんな口調で断られるか――それによって、次の手は考えていた。

 が、それらがすべて不要となったのである。

 自分で誘っておきながら――瀧は言葉を続けることができない。

 だが、三葉もまた、戸惑っていた。

 彼と目と目を合わせた時からずっと。

 もはや、何もかもがわからなくなっている。

 心の中が、浮気で占められていることさえも。

 ただ、この男のコと一緒にいたい。

 でも……どうして……?

 一目惚れ――などと思いたくはない。

 ただ、興味を惹かれたから、お話をしてみたいだけだ。

 そこに、深い意味など……ない。

 背徳的な願望を、薄っぺらな上辺で取り繕う。

 話さなきゃ……そのために同行しているのだから……

 しかし……

 彼の腕を取りたい。

 そして、胸に抱いて欲しい――

 邪な思いばかりが頭をよぎり、言葉に出すことなどできそうになかった。

 結果として、二人は黙って歩く。

 それでも――

 声にならない思いだけは伝わっていた。

 

 電車に揺られ、最寄り駅で降りるまで、二人が口にしたのは名前だけ。

 だが、それだけで充分な気がしていた。

 この人の名前を知っている――そのことが、心から不安を消していく。

 一番知りたかったこと――それは名前だったのかもしれない。

 ここまで瀧は、半信半疑だった。

 何故拒絶されなかったのかがわからない。

 無防備なのか、

 何も考えていないのか。

 しかし――

 今なら彼女を信じることができる。

 三葉という女性は、自分を信じてついてきてくれたのだろう、と。

 ならば、男としてその信頼に応えなくてはならない。

 だが……

 男としてその信頼に応えきれる自信もなかった。

 すべては三葉さん次第――そんな無責任なことを考える。

 彼女が不用意に隙を見せなければ――その思惑は、いとも簡単に崩された。

 都会の一人暮らしの部屋は狭い。

 普段使いの座卓とベッドを置けば、床の大半は埋まってしまう。

 座布団すら持ち合わせていないので……瀧は、来賓をどこに座らせたら良いのか判らない。

 一先ずジャケットを脱いでハンガーに干すと、ベッドの上に腰掛けた。

「えーと、その……適当に座って下さい」

 座卓の四辺、好きな場所に、という意味で。

 だが、三葉の好きな場所は、そのどこでもなかった。

 彼女が求めるのは、瀧の隣。

 それも、電車のように、ピタリと傍に寄り添った。

 だが、ここは移動中の長椅子ではない。

 二人きりの部屋でこの並び。

 もう、目を合わすことも、口を開くこともできない。

 どうしてこんな大胆なことを――

 それは、三葉自身にもわからない。

 ただ、ここに来るまでの電車の中で、胸の内を高鳴らせていた。

 彼の隣の席に座っていたというだけで。

 触れ合いそうな膝と膝を意識するだけで。

 あの幸福をもう一度だけ感じたかった。

 そんな甘えが――瀧の心を掻き乱す。

 手の届くところに、彼女がいる。

 抱きしめられるところに。

 押し倒せてしまうところに。

 だが、そんなことをしては、彼女を傷つけてしまう。

 しかし、ならば、どうしてこんな近くに……?

 やはり二人は何も言えない。

 何も言えずに、座り続ける。

 時折、モゾモゾと手を動かし、足を動かし、

 そこで、指と指が触れ合った。

 しかし、どちらが退くことはない。

 そのまま、小指と小指を重ねている。

 彼は、どんな顔をしているのだろう?

 それは気になるが、ジロジロと見つめても気味悪がられてしまう。

 が、その気持ちは瀧も同じ。

 どうしても様子を窺いたくなってしまう。

 あちこちに視線を反らしつつも、気持ちは相手の瞳にある。

 そんな心情に先に察したのは――三葉だった。

 瀧君も、こちらを見たがっている。

 だったら――

 三葉は遠慮することをやめた。

 ウロウロしていた視線の先を、瀧の瞳へと見定める。

 それに耐えられず……瀧は上を向いてしまった。

 が、元に戻せばそこには三葉の眼差しがある。

 再び横に逃げ、

 帰ってくれば、やはり三葉が。

 それで、瀧もまた、諦めた。

 やはり、三葉さんのことを見つめていたい。

 見つめてくれるのであれば、見つめ返したい。

 視線と視線が交錯しているだけで……胸はさらに熱くなる。

 この空気は、やはり正常ではない。

 瀧は、それを確かに感じている。

 彼女の左手の薬指。

 そこにはめ込まれた冷たい現実。

 だが、彼女の目はそれを感じさせない。

 いるはずの夫を見ていない。

 ただ、自分だけを。

 世界のすべてを掻き分けるように、瀧は彼女の手を握る。

 今度は偶然ではなく、故意的に。

 だが、三葉もそれを拒まない。

 出逢ったばかりの、男のコからの眼差しも。

 瀧の理性に打ち込まれた亀裂は、徐々に大きくなってくる。

 もう、目蓋は支えきれない。

 何も見ず、瀧は唇を突きつけ、近づける。

 これに三葉は……迷っていた。

 彼は明らかにキスを求めている――ように見える。

 が、いきなり迫ってくるような人とは思えない。

 だから、きっと勘違いだろう。

 でも、もし本当にこのまま奪われてしまったら……?

 彼女の混乱は収束を待たず――時間切れ。

 男の唇を、女の唇で受け止める他なかった。

 だが、これにより――

 瀧の良心は、ついに崩れ落ちる。

「ん、んふ、ふぅん……」

 雪崩込んできた舌を、三葉は滑らかに絡め取った。

 擦れ合う口唇はどこまでも柔らかい。

 いつしか二人の腕は、相手の背中へ。

 きつく抱き合ったまま――三葉はベッドの上へと押し込まれてしまった。

 この抱擁は……あまりに不徳。

 今しがた接吻を許してしまったばかりだが……人妻として、もう受け入れるわけにはいかない。

「その……こういうのはやっぱり――」

 これ以上流されては戻れなくなる。

 だが。

 その危機感の発露を、瀧は認めない。

「今は、俺の名以外口にしないで下さい……お願いします……」

 彼女には、他に愛すべき男がいることは分かっている。

 だとしても……今は自分だけを見ていて欲しい。

 すべてを忘れて、溺れて欲しい。

 そんな悲しそうな瞳に――三葉は何も言えない。

 ただ、その一言を除いて。

「……瀧君」

 これから自分はどうなってしまうのか。

 どのような目に遭わされるのか。

 そんなこと、考えるまでもない。

 女として大切に守らなくてはならない二つの胸。

 それを、夫でもない男に冒されてしまっているのだから。

「瀧君……瀧君……」

 こんなこと、やめよう? 私を困らせないで。

 請うような視線に瀧は気づかない。

 ただ、柔らかな膨らみを――夢中になって抱きしめていた。

「三葉さん、三葉さん……!」

 彼もまた、彼女の名しか呼ばない。

 だが、芽生えてくるのは更なる恋心。

 彼女の立ち振舞いから、社会人一年目の自分より年上だということは判る。

 だけど――

「……三(・)葉(・)」

 どうしても、そう呼びたかった。

 もっと近くに、感じたかった。

 そしてそれは……三葉の心を激しく揺さぶる。

「瀧君……っ」

 ただ、敬称が取れただけ――そのことが、三葉の心を焦がしていった。

 頬を染め上げ、脳を溶かし、その熱をさらに欲する。

「瀧君、瀧君……瀧君!」

 ただ、名前を呼んでいるだけだから。

 呼ばれているだけだから。

 こんなことに罪悪感など覚える必要はない――と三葉は取り繕っている。

 そこから呼び起こされる、いかがわしい劣情に目を背けて。

 彼女が呼べば彼は応える。

 自身の欲を求めながら。

「三葉、三葉……三葉……!」

 何度か呼んで、唇を塞ぐ。

 その間も、彼の手つきは止まらない。

 彼の指は異性のすべてを欲している。

 柔らかく膨らんだところも、

 しなやかに括れたところも。

 彼女の身体は、それを受け入れてはならない。

 頭では理解している。

 それなのに――

「た……瀧君……瀧君……っ!」

 蹂躙していく男の両手が、嬉しくて堪らない。

 もっと優しく、そして力強く愛でて欲しい。

 できれば、直接この肌に――

 それは三葉だけでなく、瀧も望むこと。

 下の裾から滑り込み、熱く撫でられたお腹周りを中心に、三葉の全身に毒が回っていく。

 もっと、もっと、もっと……上へ……!

 既に、服の上から激しく揉みしだかれている。

 ならば、それが一枚内側に入ってきたところで……

「瀧君……あ……瀧君……❤」

 形を整えるためのカップでは、男の指は防ぎきれない。

 小さく飛び出してしまったところは、手の平をしかと感じている。

 それを狙いすまして摘み取られては、声を出さずにはいられない。

 但し、彼との約束は守ったままで。

「たっ、た……瀧君……瀧君……っ」

 三葉はこの時ほど、胸当ての存在に感謝し、そして呪ったことはない。

 もしこれがなかったら、

 直に触れられていたら、

 どうなっていたかわからない。

 しかし、彼女はそれを望んでいる。

 どうにかなりたい。

 直に触れて欲しい。

 こんな、邪魔なものさえなかったら……!

 握られはみ出た豊かな脂肪は、彼からの愛を享受している。

 なのに、本当に欲しいところは……今もその内側で……!

 ちょっとだけなら、

 少しだけなら触れていいから、

 このままじゃ、私、私……っ!

 だが一方の瀧とて、このままでは収まりがつかない。

 その縁から指を差し入れ、中身の詰まった蕾を、側面から……弾く。

「は、ぁ……瀧君……!」

 触れてもらえたのだからもう充分だ。

 満足すべきだ。

 そう思いたいのに、思えない。

 奥に食い込めば食い込むほど貪欲に。

 もっと強く、

 もっと激しく、

 彼の指で弄んで欲しい。

 自分の、女として大切なところを。

 そんなことばかり考えていたから――

「たっ、き……くん……」

 彼から受ける羞恥の所業を、ついうっとりと受け入れてしまった。

 ずっと、くすぐったくて仕方がなかった。

 そこをこうして下着ごと、すべて鎖骨の方へと押し上げられてしまったのだから……

 来る……来てしまう……

 いまさら三葉は少したじろぐ。

 だが、不安はすぐに押し流された。

 だって、もう触られているのだから。

 なら、それがもう少し激しくなったところで――

 しかし、瀧の挙動は、彼女の想像を上回った。

「瀧っ……君……!?」

 まさか、いきなり吸い付いてくるなんて!

 遠慮のない舌つきは、三葉から余裕を奪っていく。

「や、は……あ、あぁん……❤」

 右に口付ければ左が摘まれ、

 左に口付ければ右がこね回される。

 交互に唾液を擦り付けられては、欲は胸だけでは抑え込めない。

「瀧君、瀧君……瀧君……」

 そこばかり 性感(カン)じさせられて、より 性感(カン)じるところがお預けだなんて……

 触れたいけれど、自分で触れるのは恥ずかしい。

 でも……

 服の上から撫でられたところで、それじゃ全然物足りない。

 胸と同じように、その指で――!

 既にベルトは外されていた。

 緩んだ腰回りから、下着は少し覗かれている。

 だから、それがもう少し広くなったところで何も変わらない。

 見られていることには変わりない。

 たとえ外着が腿まで下げられ、そしてつま先から抜き取られても……!

 気づいた時には、すべてが見られていた。

 女の貞操を守る最後の砦が。

 そこに異性の指が――夫ではない異性が迫ってきている。

 でも……まだ、服の上からだから。

 脱がされたわけではないから……!

 言い訳にもならない言い訳を思い描き、そして、それによってもたらされる快感をも――

「はぁっ、あ、あん……」

 自分の冷たさが、熱い割れ目へと押し付けられる。

 こんなに濡れてしまっているなんて……

 しかし、それは収まる気配を見せない。

 瀧の舌で、胸の先を転がされている限り。

 筋に沿って、上へ、下へ。

 膜の外側で男の指が揺らめいている。

 違う、違う、違う……!

 そんなところで遊んでないで、

 蜜を掻き集めて、一番敏感なところへ運んでいって……!

 股布がびっしょりと濡れそぼったところで、それはクイと横へと除けられる。

 そこから現れるのは女の果実。

 割れ目から果汁を溢れさせ、熟しきった果肉がこぼれている。

 瀧はそこから――埋め込まれたものを取り出すべくその指で――

「はぁぅんっ!?」

 待ちに待っていたところを、ついに愛してもらうことができた。

 滴りに満ちた壷を底まで存分に掻き回し蜜を掻き集めると、突き出した種子へと擦り込んでいく。

「あ、はぁ、はぁん……やっぁ……」

 それは何度も、繰り返されて、熱く、熱く、凝縮されていく。

 このままお願い……最果てまで導いて……!

 そうしてくれると信じていたのに――!

「た、瀧君……?」

 女の実を味わっていた指が、急に遠ざかっていく。

 たわわな二つの胸からも。

 どうしてこんなところで……?

 それは……互いの性を露わにするために……!

 瀧の両手は今、彼自身の衣服に掛けられている。

 ベルトを緩め、スラックスを緩め、

 そして、下ろされる。

 下着も一緒に。

 だが、三葉はそれを直視することはできない。

 物音と雰囲気だけで――彼が何をしているのか分かってしまったから。

 そしてそれは、決して望んではならないということも。

「三……葉……」

 彼女の両手は、下着をしっかりと掴んでいる。

 ここだけはいけない、という意思を示すため。

 ここまでも……本来ならば許されない。

 だが、ここから先は、本当に。

 何故なら三葉は――親から、そして祖母から、子の誕生を望まれる立場にある。

 健康的な出産を考えれば、そろそろ適齢期。週末は親孝行の日と定め、夫と共に励んできた。

 が、それはあくまで作業。

 妻は、その行為を楽しいと思ったことは一度もない。

 夫は夫なりに楽しんでいるようだけれども……得られる感覚は、一人遊びとは程遠い。

 そんなことを彼女は繰り返してきた。

 未だ兆候は見えないけれど……もしここで逢ったばかりの男性と交わってしまってはすべてが台無しである。折角身籠ったところで、誰の子か判らないなんて……女として最悪だ。

 ゆえに――これ以上はいけない。

 たとえ、どんなに本能が望んでいたとしても……!

 ここまで快楽に流されてきた三葉に、初めて苦渋の色が浮かび上がる。

 そんな様子を見せつけられては……瀧とて、このまま求め続けることもできない。

 だとしても。

 恋する 女性(ひと)が、悲しんでいるのである。

 このまま解き放つことなどできない……!

 彼は再び穿き直すことはせず、そのまま三葉を抱き締めた。

 すると、濡れた股布にその先端が食い込まれ――三葉の女をさらに悲しませる。

 欠けた恋心を満たすために、瀧にできることはこのくらいしかない。

 彼は改めて彼女の唇を奪い取る。

 しかし、舌と舌を交えたところで、塞ぎ込んだ下腹部は疼くばかり。

 更に、胸の先まで愛でられては……

 お願い瀧君……もう一度……さっきのようにいじって……!

 触るだけ……触るだけなら構わないから……!

 しかし、今は状況が変わっている。

 たっぷりと蜜を含んだ生地に当てられるのは、指ではなく――

「んふぅっ!?」

 もっと太い。

 もっと硬い。

 なのに、柔らかいものに包まれている……

 彼女はその感触を知っていた。

 それが、男のコであることを。

 瀧の欲望が詰め込まれた身体が、先程のようになぞられている。

 これに、三葉の中に、同じ感情が芽生えてきた。

 どうして……また下着の上から?

 さっきは直に触ってくれたじゃない。

 そう、そうやって……

 生地の狭いところを、横にズラして……

「はっ、あ、あ、あ……❤」

 解き放たれた三葉の唇から、熱っぽい吐息が断続的に漏れる。

 男のコの男のコで、女のコの女のコをクリクリといじり回すなんて……!

 やっぱり、指よりも断然優しい。

 なのに、激しい。

 柔らかさと硬さの入り交じるソコは三葉の理性を削り取っていく。

 瀧君……もうそこは充分だよ。

 さっき指先で愛してもらったから。

 いま欲しいのはもっと奥。

 深く指で掻き回してくれたように、今度は、その立派な男のコで――!

 二人の思いが通じ合えば、まごついている時間はない。

 クニュリ、と先端が交わり、すぐに、奥へ、その奥へ――

「あ、は、や、あ……❤」

 女が――自分の女が、男のコに侵食されている……!

 彼が進めば進むほど、

 彼女に幸福が満ち溢れてくる。

 そして、それがすべて収まった時――

「あはぁっ!?」

 それは、まさに初めての感覚。

  膣奥(おく)の 子宮頸(おく)が撞き上げられたような。

 こんな自分の声は、三葉自身聞いたことがない。

 何故なら……初めて受ける快楽だったから……!

「あっ、くぁっ、ふぁっ!!」

 グリグリと捩じ込まれる度に、どんどんむず痒くなってくる。

 だけど、求めてしまう。

 押し込まれると、気持ちがいい。

 なのに、すぐにもっとむず痒くなる。

 そこを押し込まれると、更に気持ちがいい。

 だけど、もっともっと膨らんで……

 それはどこまでも、果てがない。

「はっ、ん、ん……ん~~~!」

 間抜けた吐息が恥ずかしくて、三葉は必死に口を噤む。

 本当は両手で塞ぎたいところだけど……下着から手を離すことはできない。

 両腕にも力が入り、股を覆う柔らかな生地は千切れそうなほど伸び切っている。

 それでも、彼女は堪えていた。

 しかし――

「……三葉!」

 彼が、呼んでいる。

 自分の名前を、呼んでいる……!

 私も呼びたい。

 彼の名前を……だけど……

「瀧く――ああぁんっ❤」

 名前がどうしても言葉にならない。

 彼に撞かれると、喉が歪んでしまう。

 なのに、瀧は呼び続ける。

 愛しい声が聞きたくて。

「三葉っ、三葉……三葉!」

 彼女もそれに必死で応える。

 応えようとしている。

 しかし、もう……

「たっ、あんっ❤ やぁんっ、はっ、あぁ……❤ あはぁん……っ❤❤❤」

 とんでもない声を出している。

 とんでもなく、恥ずかしい声を出している。

 彼の名前を……呼びたいのに……!

「三葉……三葉……!」

「ふぁんっ❤ あぁん、や❤ あ❤ ぁ、ぁ、あぁぁぁ……!」

 彼女の 子宮頸(おく)は、徹底的に揉み貫かれている。

 膨らみきった疼きがはち切れるのは時間の問題だ。

 三葉はこれに似た感覚を知っている。

 自分の指で胸を摘み、

 割れ目を撫で、

 ぼんやりと思い描いていた――

 夫ではない男のコ。

 見たこともない、

 逢ったこともない……

 未知の少年。

 彼を想う時だけ至ることのできる境地がある。

 その幸福を――今は遥かに凌駕していた。

 何故ならきっと、この 男性(ひと)こそ――!

 

「たっ、あっ、あ、あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ❤❤❤」

 ビクンっ、ビクビクっ、ビクビクっ……!!!

 

 足の付根には紐状になった股布が痛いほどに食い込んでいる。

 それすらも気にならないほど――三葉の全身は幸福に支配されていた。

 しかし、それも長くは続かない。

 瀧もまた、臨界に達しようとしていたから。

 

「三葉、三葉ぁ……くっ」

 ドクンっ! ビュクンっ!!

「…………❤」

 

  子宮(おく)に注がれる温かい流れを、三葉は安らかに感じ入る。

 これまで、この迸りに悦びを覚えたことなどない。

 しかし、一通り満たされて落ち着いた頭でその正体を辿っていくと――

 三葉の中に絶望が過ぎってくる。

 私は……とんでもないことをしてしまった……

 あの人に……

 ご両親にも……

 大切な人たちを、裏切ってしまった……!

 なのに……どうしてこんなに嬉しいの……?

 こんな酷いことした男のコを、どうしてすぐにも抱きしめたいの……!?

 緩んだ頬を見られないよう、三葉は両手で顔を隠す。

 それで……瀧もまた、己の罪深き所業を今さら悔いた。

「ご……ごめん……」

 謝られたことで、やはり自分は酷いことをされたのだ、と三葉は自覚する。

 そのまま目を合わせないようにして――

「シャワー、浴びさせて」

 淡々とした口調に、瀧はすぐさま彼女の上から飛び降りる。

 そしてそのまま三葉は――身なりを直すこともなく、彼の見つめるベッドの上から逃げ出していた。

 

 小さな浴室で一人になったことで、三葉はようやく冷静さを取り戻す。

 流されてはならない。

 最後の一線だけは死守しなければ――

 それは分かっていたはずなのに……

 いつの間にかあっさり流されてしまっていた。

 人の妻として、あまりに軽率だったといえる。

 だが……覆水が盆に返ることはない。

 それに、あんなに乱れておいて瀧君を責めるのも無理があるだろう。

 すべては自身の弱さから出たこととして猛省するしかない。

 身体を流したら、毅然として彼を突き放そう。

 すぐにここを出て、急いで産婦人科へ。

 緊急避妊薬を処方してもらい――それで終わりだ。

 今日の自分は、どう考えてもおかしい。

 だけど、今日だけ。

 明日から先も、昨日までの自分自身。

 今日だけが、例外。

 今日を過ぎれば、明日からはまた昨日までの自分に戻れるはずだ。

 そう、深く、深く、三葉は常識的な未来を刻み込む。

 だから――気づかなかった。

 この静寂を破るべく、不審な影が近づいていたことに。

 カチャリ、と開け放たれたことで、三葉は驚き顔を上げた。

 そこで見たものに、彼女は――

「…………!」

 思わず口元に手を当てる。

 が、視線はそこに引き寄せられずにはいられない。

 彼女とて夫に娶られた身である。

 異性の裸など見慣れたものだ。

 しかし……

 何故だか、胸がざわついてくる。

 まるで、心が思春期に戻ってしまったように。

 その身体が、どうしても気になってしまう。

 自分にはないもの――それが、そそり 勃起(た)っているところが。

 少しだけ目を上げると、硬く骨ばった胸板が広がっている。

 抱きしめられたら、心地よさそう――と思うと、すぐに目の先は再び下へ。

 こうして向き合うのは初めてのはずだ。

 なのに、ちっとも初めてな気がしない。

 それは昔、自分がもっと幼かった頃に恋い焦がれていた。

 この胸に抱かれ、もたらして欲しいと願う幸福感。

 反り返った丸い先から彼の性欲が溢れ出し、

 それが自分の 子宮(おなか)を満たしていく。

 二人が交わって産み出されるものを思うと、今にも腰が折れてしまいそうだ。

 それで、気づく。

 やっぱり、この人と逢ったのは初めてではない。

 きっとどこかで、遠い昔に――

 歓喜に目を潤ませる三葉を見て――瀧は自分勝手に安堵する。

 ベッドの上で彼女が嫌がっていたようには、どうしても見えなかった。

 もし自分を受け入れてくれていたのなら、ここでも拒まれることはない。

 それを確かめるために、彼はやって来た。

 答えは、一目瞭然。

 悲鳴を上げることもなく、男の身体をマジマジと見つめている。

 モジモジと腿を擦り合わせている。

 男の 性器(カラダ)を、異性として意識している――!

 ならば、もう恐れることはない。

 想いのままに、伝えたいことを。

「三葉……俺は……ッ!」

 しかし、切り込まれた方は恐れ慄く。

 彼の表情を見れば、続く言葉は明らかだ。

 もしそれを聞かされてしまったら……きっと、もう戻れない。

 昨日までの自分ではいられない。

 自分の心を塗り替えられてしまう。

「ダメよ、それ以上は――」

「俺は、三葉のことが――」

 彼女の拒絶は弱々しい。

 何故なら、すべては遅すぎた。

 目と目で、そして、肌と肌で、想いは通じ合っている。

 あえて言葉にするまでもなく。

 だから……三葉の心は、とっくに塗り替えられてしまっていた。

 ならば、それを聞くしかない。

 その言葉を、求めて止まないのだから……!

 

「……すきだ」

 

 身体で結びつき、

 心で結びつき、

 もう三葉には彼を離すことなどできない。

 両腕を伸ばして瀧の髪をまるごと抱え込む。

 その唇の柔らかさを存分に味わうために。

 どうして、そんなことを言うの……?

 今更。

 今更――!

 もし、もっと前に――

 少女の頃に告げてくれれば、

 何の後ろめたさもなく、彼を受け入れることができたのに……!

 だが、泣きたいのは瀧も同じこと。

 もっと早く出逢えていれば、彼女と幸せな家庭を築けたはずなのだから。

 既に遅いと知りながら、彼は願う。

 ほんのひとときでも、夢を見させて欲しいと。

 間近で見つめ合いながら、二人は涙ぐむ。

 その悲しみを癒やすため、瀧は唇を離して呟いた。

「今日だけでいいんだ。今日だけは――」

 これまでのことは忘れて、自分だけを見ていて欲しい。

 自分だけの、三葉でいて欲しい――

 そんな切ない祈りが、彼女の心に染み渡る。

 今日の私は、違う私。

 昨日までとも、明日からとも違う。

 それは、心の中で堅く誓ったばかり。

 今日を過ぎれば、すべてはなかったことにできるはず……!

「……うん」

 小さく呟き、再び舌は互いの口の中へ。

 ただ、それは少しだけ穏やかになった。

 焦るような強引さはない。

 今日の三葉は瀧のものであり、

 今日の瀧は三葉のものだから。

 今日だけは瀧を愛することを許され、

 今日だけは三葉を愛することを許される。

 今日だけ。

 今日だけ――

 長い人生のうちの一日を捧げることで、二人はそれを免罪符とした。

 長い人生のことも忘れて、今という時を慈しみたい。

 三葉の心から迷いが消えたことで、自然と身体が求め始める。

 愛する異性と肌を重ね、

 胸を重ね、

 唇を重ねる。

 ならば、もっと重ねたいところがあるはずだ。

 くねる腰つきに――瀧は少しだけ迷わされる。

 今日だけは俺の三葉――それは分かっているのだけれど、

 ここまで、自分ばかり求めてきた。

 ならば、ここからは彼女が求めるものを――

 息継ぎの間、三葉はじっと瀧を見つめる。

 焦らさないで……言葉に出さずに訴えかけて。

 だが、瀧は言葉を求めていた。

 察して求めて、 違(たが)うことのないように。

「三葉、どうして欲しい?」

 これに、彼女の顔はみるみる朱に染まっていく。

 まさかそのようなことを問われるとは思っていなかったから。

 瀧君の好きなようにしてくれればいいのに。

 今日だけは瀧君の女なのだから。

 しかし、何より――

「そ、そんなの……言えない……」

 こうして裸で抱き合っているだけでも恥ずかしいのに、それを口にすることなどできるわけがない。

 だが――

「三葉なら、言えるよ。今日だけの、三葉なら」

 今日だけは――特別――

 その決め事が彼女の心を太くする。

 きっと、もう逢うこともないのだろう。

 だったら、どんな恥を掻いても構わない。

 何より、些細な食い違いから、本当に欲しいものが得られなかったら――

 それこそ、明日からの自分に禍根が残ってしまう。

 今日という日を、味わい尽くしたい。

 そう決意して……密かに抱いてきた想いをそっと口に出してみた。

「ク……クンニとか……好き?」

「え?」

 てっきり挿入を求められると思っていた瀧は、素っ頓狂な声を漏らす。

 だが、もう後には引けない。何が欲しいか訊いてきたのは彼の方だ。今更イヤとは言わせない!

「アソコ、舐めて欲しいの……っ!」

 はっきりとその意思を示すと、真っ赤になって俯いてしまった。

 女の恥部に口を付けろと懇願する三葉を、瀧に断る理由はない。

「いいよ、じゃあ……足を開いて」

「……うん❤」

 しゃがみこんだ男の人の前で、大胆に股間を曝け出している。

 自分では見えないところを、すべて見られながら。

 その上、これからそこを舐めさせるなんて。

 こんな恥ずかしいことはなかなかない。

 だが……これまで男と舌を絡ませながら、三葉はずっと思い描いてきた。

 この舌で、もっと敏感なところを愛してもらったら、どんなに 性感(カン)じてしまうだろうかと。

 それを、ついに求めることができた。

 瀧からのひと押しによって。

 良くても悪くても、今日限りのことだ。きっと、大切な思い出になるだろう。

 羞恥心を落ち着かせるため、目を閉じて深く呼吸を整えていたものの――

「ふぁんっ!?」

 ゾクゾクした。

 ザワザワした。

 これまで味わったことのない感触に、神経の塊が攻められている。

 だが、そこだけに留まらず、上へ、下へ。

 薄い花弁をついばまれ、

 滲み出る蜜は舐め取られる。

 こんな……こんな快楽があったなんて……!

 瀧の頭にしがみつき、三葉は意識を繋ぎ止めるのに必死になっていた。

 そんな彼女を、男子はさらに辱める。

「三葉……気持ちいい?」

 女のコに向かって何てこと訊くの――!?

 と、咎めそうになってしまったものの……

 この行為を頼んだのは自分自身である。

 上手くできているかの不安もあるのだろう。

 だから、ちゃんと伝えてあげないと。

 彼の奉仕を労うためにも。

「う、うん……とっても……気持ちいいよ……❤」

 言葉に出せば、伝わる悦びは何倍にもなる。

 しゃぶりつくような瀧の舌使いに、三葉はもう耐えきれない。

  性感(カン)じられるのは、あくまで外だけ。

  膣奥(おく)の疼きは、むしろ愛おしいほどに苦しくなってくる。

 だが――

「瀧君っ、 膣内(なか)…… 膣内(なか)に……!」

 言葉にしても、伝わらないこともある。

 三葉の願いを聞き届けるつもりで、瀧は唇で蕾を吸いながら、指を付け根までグイグイと言われた場所へとねじ込んだ。

 これはこれで、 性感(カン)じるものはある。

 だが、三葉が欲しいのはもっと太いもの。

 そして、しっかりと硬いもの。

 心許ない指の動きでは、想いは燻ってゆくばかり。

 もう……ガマンできない……っ!

「 違(ちが)……っ、ちんちんで……っ!!」

 ここまで恥ずかしいことを言わされ続けてきている。

 それだって平気だと、三葉は思っていた。

 しかし、いざ口にしてみると……

「う、あ……そ、その……」

 その表現はあまりに露骨で、彼女自身が照れてしまった。

 しかし、瀧からこうもはにかまれては……悪い気はしない。

 そして、男のコもようやく勘違いを詫てくれた。

「待たせて悪かったな。じゃあ……後ろ向いてくれるか?」

「う……うん……」

 迫りくる壁に囲まれて繋がるのであれば、そうするしかないのだろう。

 しかし、彼に向けてお尻を突き出すなんて……

 汚い穴も見られてしまう。

 だから、この体位は避けてきた。

 でも……今日だけなのだから。

 二度とすることもない後背位を、折角だから楽しませてもらおう。

 ドキドキと期待に胸を打ち鳴らしながら待ち侘びる三葉だったが――

「え、あ、あ、あぁぁぁ……!?」

 な……何これ……?

 ただ 挿入(い)れているだけなのに、 膣内(うち)側がズルズルと抉られていく。

 まるで、初めて繋がりあったみたい。

 ううん、これは初めてなんだ。

 自分の 膣内(ココ)を触れられるのは……!

 だったら、もっと試してみたい。

 今までできなかった、楽しそうなことを。

「瀧君、おっぱいをきゅーってしてみて!」

 向き合ったままのしかかるとなると、男は腕で自分の重さを支えなくてはならない。

 だが、両足で立ったままなら、二本の腕は完全に自由にできる。

 ならば、その手を存分に味わってみたい。

 後ろから彼に揉みしだかれ、それはすぐに――

「くっ、うぅん、はぁんっ!」

 そ、それはやり過ぎ! 摘むどころか、クリクリされたら……

 気持ち良すぎて、変な声が出ちゃう!

 だが、瀧の攻め手は止まらない。そのまま腰をズンズンと打ち上げ始めてしまった。

 未知の性感帯を嬲られては、三葉の腰はガクガクと崩れてしまう。

 だが……やめてくれとは言えない。

 むしろ、その逆。

「いいっ、そこいいっ! もっと、もっと激しく撞いてぇっ❤」

 どうりで夫とのセックスが物足りなかったはずだ。

 自分の性感帯がこんなところに隠されていたなんて。

 もしかすると、瀧君だからこそ 性感(カン)じるのかもしれないけれど……

 それでも、今が幸せなことには違いない。

 さらに、瀧から魅惑の誘いを持ちかけられる。

「このまま……クリトリスも触ってみる?」

 そんなことをされては、正気を保てる自信はない。

 でも、欲しい。

 そんなの……気持ちいいに決まってるから!

「うんっ、お願いっ!」

 元気よく応えると、右手の方が胸から離れた。そして、腰を抱くように下腹部を撫でると、生殖器を守る毛の林を踏み分け、その奥の秘所の中へと……

「あっ、あ、あぁっ、あぁぁんっ❤」

 その上、腰まで振られては、柔らかな煮豆は潰されてしまいそうだ。

 快楽に快楽が連なり、三葉の 膣内(なか)はいよいよ絞られていく。

 これは瀧にもしっかりと 性感(カン)じていた。

 尽く限界へと絞り出すように。

「三葉、俺、 射精(イキ)そう……!」

 だが、こんなに強く抱きしめていては、腰を引き抜くことは難しい。

 それは三葉にも分かっている。だから……

 もう、さっき 膣内(なか)で 射精(だ)してしまっているし。

 何より、今日の私は……瀧君の私……!

「いいよっ! そのまま 射精(イッ)て! 私も…… 絶頂(イク)ぅぅぅ❤❤❤」

 

 ドクンッ、ドクンッ、ドクン……!

 ビクンッ、ビクンッ、ビクン……!

 

  子宮(おなか)の中に確かな温かさだけでなく、張ってくるものも感じている。

 ズルリと瀧が抜き出されて支えを失ったことで……三葉はシャワーノズルにしがみついて倒れないようにするのが精一杯。

 それ以上は堪えることもできず……

「あ、あ、あ……あぁ……瀧君ごめん……っ」

 

 ビチャビチャビチャビチャ……

 

 瀧にも掛かっていることだろう。しかし、彼はそこから逃げたりしない。

「平気だよ。だって、三葉のものだから」

「もう……莫迦……❤」

 瀧はなんでも受け止めてくれる。

 どんな汚いところでも。

 どんな恥ずかしいことでも。

 だから、何でも求めたい。

 気持ち良くなるために、思いつくことを。

 今日一日だけ。

 今日一日だけは……私は、私ではないのだから。

 

       ***

 

 三葉が我に返るのは、一人になった時だけ。

 しかし、瀧は目の前にいる。

 それでも、彼女は一人になっていた。

 これから一人にならねばならない、という覚悟によって――彼女の心は孤独に蝕まれていく。

「瀧君……私……」

 残業を言い訳にするにも、これ以上遅くはできない。

 そろそろここを発ち、帰宅しておく必要がある。

 恋した男のコのいない家庭へ。

 そして、もう逢うこともないのだろう。

 明日からのことを考えただけで――三葉の心は冷たく沈んでいく。

 見送ろうとしている、唯一の暖かさの前で。

 本当は、少しでも長く一緒にいたい。

 とはいえ、このような遅い時間に、夫でも職場の者でもない男性と二人きりで寄り添って歩いているところを誰かに見られるわけにもいかない。

 だから、ここでお別れ。

 ここで――

 お別れ――!

「私……帰りたくない……!」

 さめざめと涙を零す三葉の肩を抱き、瀧は己の軽率さを恥じていた。

 突き通してしまった自分の我儘が、こんなにも彼女を苦しめている。

 苦しむのは自分だけだと思っていたのに。

 こんなに愛されては――彼女の日常を壊してしまう。

 ゆえに、送り出すしかない。

「三葉には、帰らなきゃならない家があるんだろ?」

 そんなことは彼女にも解っている。

 しかし――

  子宮(おなか)から溢れるほど 受精(う)け続けた幸せのことを思うと、それを忘れることなどできない。

「だけど……もし、その、 妊娠(でき)てたら……」

  膣内(なか)に 射精(だ)してしまった以上、その可能性は多分にある。

 三葉の愛に甘えていたが――瀧とて無覚悟ではない。

 今日一日のことで結びついてしまったのなら、それは、そういう運命だったのだろう。

「その時は絶対に責任は取る。だから……今は、さよなら」

「うん、さよなら……その時まで」

 当然ながら確証はない。

 だが、二人には何となく通じるものがあった。

 こんな形で、別れることなどあり得ない。

 きっと、再び出逢う日が来るのだろう。

 遅くとも、再び春が巡ってくるまでには。

 一人で四季を過ごしていく中で、瀧は覚悟を決めなくてはならない。

 日常を壊されてしまった愛する 女性(ひと)への償いを。

 

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