-幻想郷・博霊神社-
幻想郷の結界が不安定になり、空はまるで水面に浮かぶ石油燃料の様な不気味な色がうねっているようだ。
幻想郷の結界を守る博霊神社の巫女、博霊霊夢はこの異変を解決すべく、途中合流した魔法の使える人間、霧雨魔理沙と共に幻想郷中を飛び回り、異変の元凶を探した。
しかし、ろくな収穫も無く、現在休憩も兼ねて博霊神社に戻っていた。
「全く、何が起こっているのよ!紫とも連絡がつかないし。まさか紫がこの異変を招いたんじゃ・・・」
「けど、何の為にこんな事するんだ?少なくとも、幻想郷を消すって事は無いよな?」
「まあ、幻想郷を消すなんて事は有り得ないだろうけど・・・」
「仮にそうだとしても、その時は私達が全力で止めようぜ!」
「あ~はいはい、相変わらずの元気ね・・・」
適当にあしらい、さてどうするかと考えだしたその時、突然神社から10メートル程離れた鳥居が強く光り、そこから轟々と大きな音を響かせる大きな角張った何かが現れた。
「なんだあれ!?」
「魔理沙飛んで!!」
身の危険を察し、とっさに上に飛ぶ2人。
しかし、急に現れたそれは甲高い音を立てながら速度を落とし、神社の3メートル程手前で止まった。
「何よあれ・・・」
「なんか怪しい匂いプンプンだぜ」
先端側の一カ所が口を開ける様に開いた。すると中から、1人の人間の男が顔を出した。
「驚かせてごめんね。突然表れてなんだけど、ここは幻想郷で合ってるかな?」
「その前に、あなたが何者なのか名乗ってもらおうかしら?」
「俺は御剣龍牙。スキマ妖怪の八雲紫の依頼で行動してるんだ」
「紫が?」
疑問だ。彼女が気分で動く事があるのは知っているつもりだが、こんな大きなモノをどうするつもりなのか?
「大丈夫よ霊夢。彼は敵では無いわ」
「紫!あんた一体ドコ行ってたのよ!」
大きな角張った何かの上面の、御剣龍牙と名乗った男とは反対側の一カ所が開き、紫が姿を現した。
「ちょっと彼の力を借りにね」
相変わらずの口調に溜め息が出る。
少なくとも、紫が連れてきた事に嘘偽りはなさそうだ。・・・まあ、信用に足るかは別だが。
「それで?」
「ん?」
「何でその男を連れてきたの?もしかして今回の異変に関係あるとか?」
「返事次第では容赦しないぜ」
「全く物騒な言葉遣いね。彼の能力で結界の回復を試みるつもりよ。今回ばかりは私1人では手に負えないのよ」
「ふーん。ところで今回の異変の原因は何かは判る?」
「いいえ、でも放っておいて良いものでは無いわ。だから彼に来てもらったの」
「あー紫、あと巫女さん。そろそろお話し中断して貰ってイイ?」
不意に龍牙が会話に割って入った。
「どうしたの?」
「いや、あのさ・・・あれ。なんか拙くない?」
「え?」
龍牙の指差す先の遠い空に、何かが居た。
蛇の様にうねりながら近寄る黒いシルエットに2つの赤い光点の存在。
「まさか、龍?」
「遠くからでも感じる。あいつ、相当危険だぜ」
「まさか・・・あの龍は!」
「紫、何か思い当たるものでも?」
「邪影の黒龍!!」
「じゃえいのこくりゅう?」
「ええ、あれは人の邪心をその身に纏い、糧とする龍よ。私も幻想郷が出来て間もない頃に他の創造者達と倒した事はあるわ。でもあの黒龍は、大体20メートル程の龍としては小柄だけど、その力は私や霊夢でもどうにも出来ない程よ」
「ギャオオオォォォン!!」
「うぉあ!!」
「きゃあ!!」
紫の説明の最中に一気に近付いた黒龍が咆哮を轟かせながら頭上を通過する。
そして、その姿を具体的に理解できた。
よくある翼の無い蛇の様な胴体と足が前後に2つづつ。しかし、それはまるで鎧を纏っているかの様に見えた。
・・・〝まるで創られたかの様に〟・・・。
「また来るぜ!」
龍は反転してこちらに向かってくる。
「くっ!やらないと危ないね!!」
龍牙はとっさに座席横に備え付けられていたG36ST/GL(GL:グレネードランチャー)を引っ張り出し、ストライカーの外に出る。
そして、ストライカーから少し離れた位置で龍に銃口を向ける。
「何やってるの!?危ないわよ!!」
霊夢が警告するも構えたまま全く動かない。
ふと、反転した黒龍が滞空している事に気付く。そして、ゆっくりと龍牙に近付いていった。獲物に近寄る狩人とは違う、まるで何かを確かめる様な、または敵意が無いと言わんとする様な、ゆっくりと静かに。
龍牙も何かを悟ったのか、銃を下ろし、黒龍にゆっくり近付く。
「・・・・・・」
「グルルルル」
「龍牙・・・」
手を伸ばせばすぐに触れられる程に近くなる。騒ぎが気になり、紫の出ているハッチの反対側のハッチを開けて外の様子を見ようとした蓮子。しかし、目の前で思わぬ事態が起こっていた為、想い人の名を小さく口にするのが精一杯だった。
龍牙は自身の左手を黒龍に向けて伸ばす。黒龍もまた、龍牙の手に吸い込まれる様に近寄る。
そして、龍牙の手が黒龍の鼻先に触れた直後---
「ッ!!」
「ギャオオオォォォン!!」
龍牙の手の平が光り始めた。否、光が集まりだした。同時に黒龍も咆哮を轟かせる。
手の平を見ると、光が横長の長方形を象りだした。
「・・・そう言うこと、か」
龍牙は優しく微笑んだ。それはまるで全てを知り、理解し、受け入れたかの様に。
龍牙は手をゆっくり閉じて、光の長方形を握り締めた。
「ギャオオオォォォン!!」
左手の光の長方形は一層強く光を放つ。同時に、黒龍の鼻先から光が表れ、尻尾に向かってその身を伝っていく。すると光の過ぎた直後から色が黒から赤に変わっていた。目の色も赤から黄色に変わっていた。
「君は、主として相応しい存在を探してさまよっていたんだね」
「ギャオオオォォォン!!」
「うん、判ってる。これからはよろしくね。〝ドラグレッダー〟」
赤く染まった龍は、主となった存在に忠誠を誓うかの様に顔を再び龍牙に近付ける。龍牙もまた、ドラグレッダーと名付けた赤い龍を撫でる為に手を伸ばす。
左手にある龍を模した金色のエンブレムのある黒いカードケースを握りながら。
◇
「・・・んで、結局出番無しだったぜ」
「別に解決したなら良いじゃない」
龍牙がドラグレッダーの主となった直後、幻想郷の結界は安定し、いつもの平和な状態に戻った。
魔理沙としては、活躍の場が無かったのが不服らしい。霊夢は特に気にはしていなかった。
現在、霊夢と魔理沙、紫と龍牙達一行は神社の居間にてお茶をいただいていた。
文に関しては、一度〝妖怪の山〟と呼ばれる自分の住処に戻り、天狗達の
「ねえ蓮子。これは確か〝アンドン〟とか言う昔の灯りよね?」
「そうね。私も本物を見るのは初めてね」
「あれ?今の京都って行灯無いの?」
「今のは電気だから、油で灯すものは初めてって事よ」
「あ、そう言う事ね」
龍牙達は神社内の(彼らからする)昔のものに目があちこちに。
「龍牙君、ちょっと良いかしら?」
「何?どうかしたの紫?」
「さっきのあの龍の事なんだけど・・・」
「ああ、ドラグレッダーの事。大丈夫、害は無いよ。それにあの子はただ単に自分の居場所を探してさまよってただけだから」
「居場所を?」
「そう、居場所」
「そう・・・なら良いんだけど」
この時、龍牙は紫が龍に対して複雑な気持ちでいると察していた。あながち間違いでもなく、紫は
「さて、私はそろそろ失礼するわ。私の式が帰りを待ってるだろうから」
急に立ち上がりスキマを開き、その中に入っていき、スキマが閉じられた。
「・・・ん?!どうやって帰ればいいの!!?」
帰る術が分からない龍牙達を置き去りにして。