第二十六項:洞窟
-妖怪の山・大天狗の業務建屋の宿泊部屋-
朝。日の光が部屋を明るく照らし始める頃、俺は目を覚ました。
「ん~・・・ふぁ~」
俺が自分で言うのもなんだけど、結構マイペースに忠実だと思う。
「ん・・・あ、もう朝か・・・」
一緒に寝ていた椛が目を覚ました。
「おはよう椛」
「りゅーが、おはよー」
まだ目が覚めきっていない様で、寝ぼけた返事をした。
「ほら、起きないと文に新聞のネタにされるよ?」
「んー、それは嫌だ」
眠たい目を擦りながら起き上がる。
「うんしょっと。さて、布団は俺が片付けるから椛は自分の身支度をして」
「うん・・・ふぁ~」
椛って朝は苦手なタイプなのかな?
-大天狗の業務建屋・食堂-
今更ながら、簡単な範囲でだけど生活環境がしっかりしてるなと思ってる。
天狗達に取って食事は娯楽の様なものだが、人間である俺からすれば、大助かりだ。
おばあちゃんもこんな事を言っていた。
〝1日3食、朝昼晩の食事は欠かさず食べるのが健康の秘訣の一つだ〟と。
因みに今朝の献立は、だし巻き卵にほうれん草のお浸し、赤味噌の豆腐の味噌汁と白いご飯だ。
・・・・・・うん?
「焼き鳥は反対でも、卵は食べるんだ?」
「まあ、無精卵じゃからな。これはこれで食べ物とみておる」
「聞いた話では、外の世界では、孵化間近の卵を割り、体の出来上がったひなを食べるという野蛮なものもいるようだが?」
「ああ、あるね異国に。でも言葉が違うから何を言っても通じないと思う」
「焼き鳥より悪質な食べ方をしますね・・・」
龍牙の疑問が食事の空気を台無しにしてしまった。本人も流石にしくじったと思った。
-食後-
「ところで北条院さん」
「なんじゃ?」
「俺を呼び出した本当の理由、そろそろ話してはもらえませんか?そろそろ痺れが切れそうですよ」
「ふむ、気付いておったのなら仕方ない。付いてきんしゃい、おぬしにみせねばならんものがある」
「・・・・・・」
-妖怪の山・中腹の洞窟内-
北条院炎山の案内により、建物から離れた所にある洞窟に案内された。
「実はここには、元々鬼が住まっておったのだ」
松明を手に、奥に進みながら北条院は語り始める。
「しかし、この洞窟に住まっておった鬼達は普通とは違っておった。そやつらは鬼でありながら、人の為にあり続けたのだ」
「人の為?」
「そうじゃ。その鬼達は、異質と化した妖怪を倒すためにその力を作り出し、陰ながら人間達を救い続けていたのじゃ。---着いたぞ」
辿り着いた洞窟の奥、目の前には壁がある。その壁には六角形の勾玉の様な物が3つ、円の中に綺麗に収まった彫り込みがあった。よく見ると真ん中で綺麗に縦線が一本あり、この壁が開閉する事は何となく分かった。
「ここから先には、わしらは入れん。おぬし1人で進んでくれ」
「この先には何が?・・・いや、やっぱりいいや」
「すまんのぅ」
「いいさ。俺の手で開けて、俺の足で進むさ」
龍牙は躊躇わずに壁に近づき、手を触れた。
すると刻印が青紫に光り出し、ゆっくりと真ん中から左右に割れて、道を開いた。
「さて、行きますか」
扉の先は漆黒、龍牙はその中に足を踏み入れる。
数歩進むと壁が勢い良く閉じた。
-???-
真っ暗になった空間を、龍牙はゆっくりと進む。
「・・・?これは、太鼓か?」
しばらく進むと太鼓を叩く音が聞こえてきた。更に進むと、遠くの一点がうっすらと明るい。
「誰か・・・いる?」
動く影があるとわかり、駆け寄る。
太鼓の音は大きくなり、動く影は太鼓を叩く人影だと分かった。
更に近付くと、その人影は普通ではなかった。
後ろ姿だけではあるが、マジョーラ調(角度によって色が異なって見える色調)のメタリックな青紫の筋肉質な体躯の持ち主だった。
「・・・・・・」
急に太鼓を叩くのをやめ、こちらに振り向く。
その顔は、歌舞伎役者の様な紅いラインの入った、それでいて目や鼻、口等が無い。そして頭にある角が目立った。
「・・・えっと、自己紹介はしとく必要があるかな?」
「おう、そうしてもらえれば助かるな」
返ってきた声は、良い年のいい男の声だった。
「俺は御剣龍牙。あなたは?」
「俺は---響鬼。ご覧の通り、仕事は鬼をやってる」
「・・・仕事で、鬼?」
「そう、仕事。普段はただの人間さ」