-幻想郷・迷いの竹林前-
「ぐぁっ!!」
力が急激に増した鬼塚に苦戦を強いられる龍牙。彼自身、戦闘経験は怪物をも相手するほど並ならぬものなのだがブランク故に感覚が一瞬鈍り気味だった。吹き飛ばされた龍牙は手を地面に着いていた。
「へっ!ザマァねえな!!」
「はぁ、はぁ、仕方ないだろ、ブランクあったんだからよ」
「それだけ口がきけるなら、もう少し強めでもいいよなあっ!!」
鬼塚の蹴りが腹部を潰す。さすがの龍牙も既に内蔵までダメージが至っている様で吐血した。
「かっはっっ!!」
身体やメンタルは常人の何倍と強い龍牙。流石に屈している訳では無いが疲れが出始めている。何せ今の鬼塚の一撃一撃は皮膚を硬質化させることで乗用車の激突と同じ程の威力だからだ。
「ぐっ、何度も喰らっちゃ話が進まないっての」
「けっ!ほざいてなあっ!!!」
右拳を大きく振るった鬼塚。拳から硬質化しながら向かってきた腕を、龍牙は一瞬で
---が、この切り口がまずかった。
刃は腕に対して垂直でなく、斜めに切り落としてしまった。そこが瞬時に硬質化され、そのまま図太い槍となって龍牙の腹部を貫いた。
「ぐっ、ぁあああああああ!!!!!!!」
思わぬ激痛に龍牙は悲鳴を上げた。
「へ、へへ、思わぬ誤算だったなぁ?」
そのままの状態で龍牙は足が地面から数十センチも持ち上げられてしまう。当然食い込みが酷くなる。
「ぎぃっ!!」
「へへへ、今まで調子に乗った罰だぜぇ?死んで後悔しろや!!」
「ガッッ!!!!!」
さらに食い込む。龍牙も、流石に手に負えず焦りだすが、思わぬ事態が発生する。
「龍牙さぁん!!!」
なんと文がすごい速度で飛んできたのだ。
「あ、文・・・ぐぁああ!!」
「龍牙さん!!お願い、彼を放して!!」
鬼塚に対する異常な恐怖から足が震えているのが分かる。しかし文はあろう事か、龍牙を救いたい一心で行動していた。それも自己犠牲を覚悟してだ。
「あ、ああ、あなたのっ、あなたの狙いは、わた、私でしょう?何でもする、何をしても良いから、彼を放して下さい!!」
もはや必死の覚悟であった。しかし、御剣龍牙に対する思いは偽りなく、むしろ本望とさえ感じた。自らを犠牲に彼女は想い人を救おうとしか考えてない。
「ほう?カラスのお嬢ちゃんか。そこまで言うなら当然見返りがあるんだろうなぁ?」
「それは・・・」
「お前の身柄と引き換えだ。でなけりゃ---コイツが死ぬぜぇ?」
「あや・・・だめ、だ・・・ケホッ!」
「・・・分かりました。従います」
苦しそうに血を吐き出す龍牙を見て、文は交渉に応じる事にした。いつまでも彼に甘えてはいられない。そうかんじたからだ。
「よぉし、両手を上げてゆっくりこっちに来い!」
指示通りゆっくりと足を進めていく。鬼塚のすぐ近くまで来るや、突如空いていた左手で首根っこを掴まれた。
「ガッ!!」
突然の事に驚き、文は掴んできた手を取り払おうとする。が、腕力握力共に尋常ではなく、暴れるだけ無駄だった。そして龍牙を遠心力で放り投げた。
「ぐはっ!!」
思いの外遠くに投げ飛ばされた龍牙。本来は死んでてもおかしくないのだが、元々の心身の強度と持ち合わせの能力で絶命だけは回避している。しかし、身体を治さない事には動けず、首を掴まれ宙に浮いている文を見る事しか出来なかった。
「あ・・・や・・・」
「かっ、はっ!!」
「へへ、おい、俺の腕持って来い」
「へい!」
宮田に切り落とされて硬質化したままの腕を持って来させ、切り口に合わせる。すると蒸気が吹き出てくっ付いた。硬質化を解くとしっかり指も動くし、出血どころか傷すら見当たらなくなっていた。
「うらっ!」
「ッッ!!!!」
治った腕で文の腹部を勢い良く殴る。この衝撃で文は意識を手放してしまった。それを確認すると、肩に担いで龍牙に背中を向けた。
「じゃあな坊主、案外楽しかったぜ。次はコイツに楽しませてもらうからよ」
そう言って立ち去っていった。
「あ、や・・・・・・くっ・・・」
立ち去る鬼塚の背を最後に、彼もまた意識を失った。