-迷いの竹林・永遠亭-
「・・・う・・・ん・・・・・・」
ふと、意識を取り戻す感覚に至った龍牙。自分が仰向けになっていることにすぐに気付き、ゆっくりと瞼を開ける。
「・・・・・・ここ・・・は・・・」
曖昧な意識のなか、視界が捉えたのは木目だった。均等な幅の木材が縦に並べられていた。当然、天井だとすぐに理解する。
「気が付きましたか?」
「?」
ふと、左から女性の声が聞こえた。視線を向けると、そこには学校の制服のようなブレザーにスカートの、紫の腰まで伸ばした綺麗なロングヘアにウサ耳の付いた女の子がいた。
「・・・コスプレ?」
少なくとも龍牙の反応は、知らない側としては至極真っ当な発言だ。例外はあるが普通には有り得ない格好だ。
「私は鈴仙・優曇華院・イナバと言います。長い名前なので呼びやすい様に呼んでいただいて結構ですよ」
「じゃあ、鈴仙と呼ばせてもらうよ。俺は---ッ!!?」
身体を起こそうとして、腹部に激痛が走り、声をあげられずに悶える。
「動いちゃだめですよ!普通ならとっくに死んでいる傷なんですから!」
ここに来てようやく自分の置かれている状況を思い出した。
鬼塚と戦い、敗れ、挙げ句の果てに文が身代わりとなって連れ去られてしまったのだ。
「俺は、俺はどれだけ気を失っていた?」
「えっと、今日で3日目になります」
「くっ!まずいな、早くしないと---ぐぅっ!!」
「だから動いたらだめですってば!!」
「はあ、はあ、分かっ、てる・・・でも・・・」
「落ち着きなさい」
「!?」
ふと、鈴仙とは違う大人びた女性の声が聞こえた。振り返ると、そこには赤と青のツートーンを上下左右、互い違いになるような配色の服を着た白と銀の間の綺麗な髪色の女性がいた。
「はじめまして。私は八意永林、薬師であり、あなたの治療を担当した者よ」
「そうですか・・・お手間、掛けます・・・」
「いいのよ。それより、あなたは早く行動しないといけないと思っているようね?」
「文が・・・鬼塚に拉致されたんだ。黙ってる訳には行かないんだ!」
「だから落ち着きなさい。その事で話があるのよ、はいこれ」
「?」
手渡されたのは一枚の紙。しかし---
「・・・調子つきやがって!」
それは鬼塚からの手紙だった。しかもあからさまなまでに分かりやすい挑発だった。
端的に言えば
〝文はお前が来るまで手を出さないでいる。一週間以内に探し出して、今度こそ命懸けの勝負をしろ〟
と言った内容だ。
「くっ・・・!」
今の彼は、腹部の大穴こそ塞がっているが、尋常ではない痛みが残ったままなのだ。皮膚もまだ血が滲む様な完全な回復には至っていない。
「師匠ー、お客さんが来たよー」
遠くからまた別の女性、少し幼く感じる高めの声が聞こえてきた。
「今行くわー。ごめんなさい、少し待っててちょうだい」
そう言うと永林は病室を後にした。しかしものの1分程で戻ってきた。それも誰かを連れて。
「龍牙さん!」
その誰かは、姫海棠はたてだった。顔色を伺うに随分疲れているようだった。
「はたて、どうしてここに?」
「あなたが大怪我したって聞いて。それに文が攫われたって」
「・・・ああ、俺のミスだ」
「・・・それと、大天狗様からこれを預かってきたの」
そう言って渡されたのは少し長めの、棒状になった布だ。いや、棒状のものを入れる布地の入れ物だった。
(重い。まさかとは思うが・・・)
入れ物の口紐を緩めて、中身を取り出す。中から出てきたのは、赤い鞘と柄の一振りの刀だった。龍牙はその刀を鞘から引き抜く。
「・・・反りが浅めだ。先端部が両刃の造りになってる。確か村田刀の小銃兼政みたいだ」
「その刀は、使う相手を選びます。自分に相応しい持ち主に対しては鞘から引き抜く事が出来ますが、それ以外の者が引き抜く事は出来ません。また、引き抜いた後に別の人が使おうとすると、一切の切れ味を持たないただの鉄になるそうです。そして、今までそれを引き抜けたのはあなたと、あなたの祖母の御剣カエデさんだけです」
「俺と、おばあちゃんだけが・・・」
「その刀の
「菊一文字・・・」
「その刀なら、きっと勝てるはずだです。龍牙さん、文の事をどうか助けてください!」
「分かってる。だが、あと一晩休まないと戦いにはいけない。明日にはすぐにでも見つけだしてやる」
---そして今度こそ、あいつを殺す!