第七項:不法侵入と反撃準備
-東京都・奥多摩・龍牙の家・朝方-
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様です」
蓮子、メリー、文の3名は、たった今龍牙の作った朝食を食べ終えた所だった。
今朝のメニューは、御飯・わかめと豆腐の赤味噌汁・鮭の切り身の塩焼き・きゅうりの浅漬けである。
「けどホント、龍牙の料理は美味しいわね!」
「ええ、何時食べても飽きない味わいだわ!」
「私はまだ数回しか頂いてませんが、それでもこの味は好きだとはっきり言い切れますね!」
「ええ、本当に美味しかったわ!ごちそうさまでした」
「いやぁ、そこまで言われ---ん?・・・おたくどちら様?!」
龍牙が口を開くひとつ前の声の主は、明らかに先程まで居なかった者だった。
頭には見慣れない白い帽子、形だけで言えば、金魚鉢をひっくり返した様に丸くドーム状で、頭に触れてる口周りには赤い紐が平縫いの様に一周していて、前側で蝶結びにされている。見た感じ就寝時に被りそうなものを被っていた。
髪は金髪で、もみあげから胸程まで伸びた髪は、先端辺りで赤いリボンで束ねられており、後ろ髪は、帽子の中に仕舞っているのだろう、うなじが見えるように全て上に上げられている
。
目は紫色で、顔立ちは10代後半から20代始め位の整った感じだ。
衣服は、指先から上腕位の長い手袋に、白い襟の紫色のドレスのような上下一体の服を着ている。
「あら、ごめんなさい。私は
「あ、はい、こちらこそよろしく---じゃなくて!?なんでここに居るのかって話!!あと何故名前を!?」
「それは勿論、一昨日の夜からお邪魔しているからよ」
「勝手にお邪魔するなよ!?」
激化する龍牙のツッコミの嵐に蚊帳の外となった蓮子、メリー、文はそっちだけで会話を始めていた。
「久しぶりに見たわね。ツッコミ砲台」
「相変わらずのツッコミぶりね」
「蓮子さん、今の〝つっこみほうだい〟とは?」
「龍牙のあだ名の一つで、一度ツッコミ始めると、まるで砲撃の様にツッコミし放題だから、そこで付いたあだ名が〝ツッコミ
「へぇ」
「こらそこ!今そんな話しなくてもいいでしょ!!」
(((いや、そっちこそツッコまないでよ!?)))
飛び火を喰らった。
この様に周りまで巻き込んでしまうと言う意味合いでも、砲撃なのだ。
◇
しばらくの間、紫の発言に龍牙がツッコむといった状態が続き、やっと今落ち着いた。
そして、先程までの愉快そうな顔が一変、真剣な顔になった。
「それでは、本題に移りましょう。私がここに来たのは他でもない、あなたの力を借りたいの」
「・・・それは、俺の〝能力〟を借りたいって事かな?」
「ええ、そうよ」
「目的は?」
「その前に、あなたのおばあさん、御剣カエデから幻想郷の事は聴いているかしら?」
「ああ。文からも訊いたけど、確か今、結界が不安定らしいね?」
「そう、それを知っているなら話が早いわ。本来なら60年に一度のペースで結界は揺らいでしまうのだけれど、今回のは全く異なった揺らぎ方なの。加えて、私だけではどうやっても結界を戻しきれなかったの。そこで、あなたの持つ〝夢幻を現に変える能力〟で少しだけ力添えして欲しいの」
「・・・判った、協力するよ。どのみち、文を幻想郷に帰してあげなきゃいけないしね」
「ちょっ、待ってよ龍牙!勝手に話が進んでいるけどどう言う事なのよ!?ちゃんと説明して!!」
事態を知る由も無い蓮子が声を荒げ、説明を求めてきた。
「流石に全部を話すと時間が足りないから、要点だけ教えるよ。まず、この世には幻想郷と呼ばれる結界で隔てられた〝空間〟が存在する。そこには神や妖怪、そして人間が住んでいる。だけど今、その結界に何らかの異常が発生している。現に、文がここに居る時点でその説明がつく。そしてその結界がきえたら、幻想郷は表の世界、俺達の今この瞬間に現実と捉えている世界に現れて、妖怪の一部が人間を襲う大惨事を招きかねない。だから彼女、紫は俺に協力を依頼しに来た。・・・とまあ、こんな所かな。」
「・・・まあ、なんとなくわかったわ。でも何で龍牙なの?他の人ではだめなの?」
「それは---」
龍牙は目を瞑り、ゆっくり開く。するとその目は、能力を解放している時の目だった。
「・・・何なのそれ!?」
「これが、おばあちゃんから受け継いだ能力、これは〝夢幻を現に変える能力〟と呼ばれてる。この
「・・・痛いわね」
「・・・・・・え」
「普通なら、痛い奴で終わってるけど、その目といい目の前の妖怪といい、肯定するには十分ね」
「・・・なんか、ガーン」
取り敢えず、発言に対してショックを受けたのはほっとくとして、蓮子は龍牙の言葉を信じる事にした。
「さて、そうと決まれば、帰りましょうメリー。私達はただのお荷物だし」
「そうね、私も迷惑は掛けたくないわ」
「あなた達、くれぐれもこの件は他言無用よ。幻想郷を護るのは創造者の務め。彼を怒らせたくないし、傷つけたくも無いけど、いざという時には覚悟してもらうことになるわ」
「ええ、判ってます。それじゃあ龍牙、頑張ってね。あと、絶対に無理しないで」
「うん、大丈夫。必ず帰ってくるから」
龍牙と蓮子は互いに抱き締めあった。
たった今交わした約束を必ず守る為の誓いの様に。
---しかし---
ガキュウゥゥン!!
ドガガガガッ!!
「きゃあっ!!」
「ぐっ!!伏せろッ!!」
突然の轟音に全員が一気に床に伏せた。
しかし、特に屋内に何かしらの変化があった訳ではない。が---
(今のは間違い無い!銃撃だ!!)
そう、〝この家が外側から銃撃を受けた〟のだ。
幸いにも、祖母カエデの能力の恩恵を受けているこの家には、銃弾は1発も貫通せず、むしろ家そのものへの直撃する数ミリ前で着弾と同じ現象が発生し、銃弾は潰れ、運動エネルギーを奪われていた。
「みんな無事か!」
「なんとかね」
「平気よ」
「大丈夫です」
「私も問題無いわ」
「よし。しかし今のは一体---!!」
何時の間にか、家の周り一帯を複数の人や車が取り囲んでいた。
人の方は服装がバラバラで、暴走族だかヤンキーだかよく判らないはっちゃけた服装や狩猟用の服装、はたまたどこぞのサバゲーにでも参加するのか、PMCもどきのミリタリーな服装等々。
武装もバラバラだが、明らかに日本のものでないのが目に付いた。
狩猟用のショットガンやライフルに加えて、現代戦風なカスタムが施されたAK-47、サイガ12、BIZON、RPK、しまいにはロシア製リボルバーグレネードランチャー、6G-30やRPG-7の通常型弾頭と対戦車型弾頭の2種類が確認できる。
車両は主に、4WDの後ろ半分を荷台にしたトラックタイプで、その中に数台、払い下げらしき米軍のハンヴィーの屋根無型があり、全ての車両に銃架が取り付けられている。
その銃架には、PKMやMG3、更には一両のハンヴィーだけだがブローニングM2を載せていた。
そして、その物量があまりにも多いのだ。その光景はまさに---
「おいおい、テロどころか、クーデター起こせそうな程じゃないか」
しばらく周囲を確認していると、一カ所だけ急に場所が開けた。その背後から、装甲車が現れた。
ロシアの水陸両用8輪装甲車《BTR-60PB》だ。
一定の距離まで近付いて停車、上にある円錐形装甲に包まれた銃座のハッチが開く。そこから姿を現したのは---
「・・・鬼塚!!」
「ッ!!」
3日前に龍牙が一撃を与えた男、鬼塚茂が現れたのだ。
文は、条件反射で怯えて萎縮してしまう。
その格好は、文字通り〝戦争をしに来た〟かのように、右手にはロシア製ライフル、《OTs-14-1A:グローザ・グレネーダー》を持ち、タンカラーのプレートキャリアーにAK用2連マグポーチを前の腹の位置に4つと左脇腹に6発分のグレネードポーチ、胸の辺りにはハンドガン用2連マグポーチを2つ、上半身しか見えないが重武装である事が伺える。
「オォイッ!!小僧ぉぉぉッ!!観念して出て来ぉぉいッ!!そしてさっさと、天狗の小娘を明け渡しやがれぇぇぇッ!!」
「ッ!!」
鬼塚の怒号が轟く。
鬼塚が現れてから、文はずっと怯えている。
一般人に比べれば鬼塚は上の方だろうが、それを差し引いても、俺にとっては大した輩では無い。
しかし、奴の存在感は、無闇に周囲に存在するものの恐怖心を刺激させている。
文は、弱っていた時に鬼塚と接触してしまった為に、奴に対する恐怖心が尋常ではないのだ。
文程ではないが、蓮子とメリーも少なからず不安そうにしている。
不意に、紫が口を開いた。
「・・・《対象の恐怖心を自らの力に変える程度の能力》、とでも言うべきかしらね」
「どういう事だ?」
「そのままの意味よ。あの大男は、人の恐怖心をエネルギーとして周りから吸収して、それを自分の力に変えている。しかもあの大男は、恐怖心を煽るには十分過ぎる程にその存在感を醸し出しているわ」
「・・・・・・」
龍牙は、紫の話しを聴きながら悩んでいた。
この状況を打開するだけなら龍牙には余裕なのだが、問題はその方法だ。
(・・・・・・不殺は、無理だな・・・)
蓮子やメリーが居るこの状況で、殺しをする訳にはいかない。
BSAAの仕事で、〝元人間だった異形〟や〝人間のまま異形に成った者〟やそれらの黒幕やらを殺したりしている為、それ自体は出来る。
だが、それを2人の目の前でやるわけにはいかない。
その結果、辿り着いた答えは---
「・・・さてみんな、逃げよっか」
逃避だ。これが一番無難に事をやり過ごせる。
「逃げるって、一体どこへ?」
「どこでも良い、ひとまずここから離れないと。取り敢えずみんな来て」
龍牙は全員を引き連れて地下に向かうことにした。
◇
-地下・大型格納庫-
地下射撃場の武器庫の先にある扉の先に、大型兵器の格納庫が存在した。
そこには、狩猟に向かった時のカスタムエクストレイルやBSAA向けに強装甲高機動にカスタマイズが施されたハンヴィーやストライカー装甲車があった。
「あれ、これ私の車よね?」
格納庫の端っこに、昨日車庫に入れさせたベージュカラーのスズキ・アルトがちょこんと存在した。
「車庫にしまったはずなのに、どうして?」
「ああ、さっきエレベーターで降ろしたんだ。万が一の為にね。みんなこっちに来て、あれに乗るよ」
そう言いながら、ストライカーを指差し足を運ぶ龍牙。文、蓮子、メリー、紫もあとに続く。
ストライカーまで近付くと、龍牙は車体後方の操作盤で、後部ハッチを開放する。
「乗り心地は保証出来ないけど、安全性は保証するよ」
そう言って、4名を乗るように誘導する。
ここで蓮子が、思い出したかの様に口を開く。
「龍牙、これってBSAAが使ってるやつよね?」
「そ、よく知ってるね」
「前のニュースでたまたま見たのを覚えていただけよ」
「そうなんだ・・・よし、閉めるよ」
全員が乗って、外の操作盤でハッチを閉じた。
次に龍牙は運転席に向かう。上に登りハッチを開けて搭乗、ハッチを閉めてエンジンをかける。
「わ!わわ!」
文は2度目の乗車が装甲車で、最初のエクストレイルとは違う重く力強いエンジンの振動に驚く。
その間にも、龍牙は着々と発進準備を整える。
その課程で、備え付けのタブレットタイプの操作盤から、ストライカーの設計図フォルダを開いた。
しかし、ベースは同じだが、ひとつひとつ武装バリエーションが異なっている。
「・・・・・・こいつかな?」
そう言ってチョイスしたのは、機動砲システム搭載型だ。
設計図をタップすると、画面に『TRANSFORM』と表記されたウィンドウが表れる。
同時に、ストライカー上部が砲塔を象りながら光り、消えた後には、機動砲がしっかりと存在した。
本来なら、人員を乗せるスペースは機動砲の予備弾の格納庫、銃で言う弾倉になるのだが、そうはなっていない。
これも龍牙の能力によるもので、弾の無限化までさせてあるが、実体弾による排莢動作は省かれていない。
まだまだ力の制御が完全では無いのだ。
「準備よし、みんな行くよ!」
ストライカーを前進させ、車庫に繋がるエレベーターに車体を乗せる。
入り口のシャッターが閉まり、エレベーターが上昇を始める。
(さて、反撃開始と行かせて貰うよ!)