今年も何か書いて行きますので、宜しくお願いします。
お正月になったら皆は何をするだろうか?
おせちやお雑煮を食べる?初日の出を拝む?それとも、正月を迎える準備で疲れた体を寝て癒す?はたまた、親戚に挨拶をしにまわる?
候補が色々とあると思うが、ある鎮守府を任されている提督が最初に行ったのは、
(今年も皆が無事に過ごせますように)
初詣であった。
現在は深海棲艦の侵攻は大分弱まり、こうやって初詣に行ける位には平穏である。とは言っても、毎年初詣には行けるし、相変わらず神社に参拝に来る人も多い位にはいつも年末は平和なのである。
それこそ、深海棲艦が空気を読んでくれていると思う位には、深海棲艦の影も形も無い。
年始の任務も与えられているが、その任務の期限も二週間近くと長く無理にやる必要が無いもの。のんびりとこなせばいいのである。
そんなこんなで提督は一人でお参りに来ている。
誰かが一緒に来ていてもおかしく無いのでは?と思うかも知れないが、提督は年末年始や休暇は一人でじっくりと過ごしたいタイプの人間である。使い所が無い給料と任務達成による特別ボーナスを使って鎮守府の外にあるそれなりにいい部屋を借りているので、そこでごろごろダラダラと一人で過ごすのが彼の休みの過ごし方。
自分が海軍と言うお堅い組織の上役と言う事も、艦娘と言う名の部下達に気を配る事も忘れ、ただの一人の人間としてグータラと気ままに時間を無駄遣い出来る。どんなに給料を渡されようとも中々出来ない贅沢な時間の使い方をしたい。それ故、一人っきりで過ごす休暇なのだ。
そんな堕落しきった休みを送りたい癖に何で初詣に行ったのかと聞かれればもはや習慣としか言い様が無いが、年始と言う節目に祈願しに行くと言う重大な事は自然とやりたくなってくるものである。
去年の自分を見守ってくれた神に感謝し、今年の事を神に願うと、一礼して拝殿を後にする。
戦争している身で無事に過ごせますようにとは何とも夢見な願いではあるが、そう願ってしまうのが人間と言う物だろう。
『沢山飲んでも榛名は大丈夫です!』と、何処かで聞いたような台詞を言う元気な巫女さんから甘酒を受け取り、神社を後にする。
後は家に帰って三が日を悠々自適に過ごすだけ。テレビを見るのも良し、寝るのも良し、通販で頼んだ豪華なお節と奮発して買った高級食材を堪能するのも良し。
借りている部屋の所在地は誰にも教えていない。誰にも邪魔される事のないオアシス。秘密の楽園。
「取りあえず寝るかー」
大掃除の疲れが残っている為、まだ完全に眠気を払い切れていない。邪魔する者もいない今無理にでも体を起こしておくのバカバカしい。
眠気が圧縮された白いもやを吐き出しながら、元旦は寝ると言う贅沢な選択をとると決めた所で部屋の前までついてしまった。
穴に鍵をブスリと差し込んで回す、次いで鍵を抜き取ってドアノブを引く。が、ドア先輩は『この俺に勝てるかな?』と言わんばかりに締め切ったままである。
「……はっ?」
まさか、閉め忘れたのか?
彼は確認には定評のある人物である。戸締りの確認は二回やってから外出する几帳面な人物である。
なので、閉まって無かったという事実は中々にショッキングである。新年早々、しかも戸締りを忘れるとは中々に幸先が悪い。
先ほどまで寝ると意気込んでいた彼であったが、気分は一気にダダ下がりだ。
とは言え、玄関先で落ちこんでもいられない。ここで落ち込んでいたら冬の寒さにやられて嬉しくない寝正月となってしまう。
もう一度鍵を開いてドアノブを引く。ドア先輩は『俺の役目はここで終わりだ……』とばかりに蝶番を軋ませながら開いていく。
ドアをくぐると提督が気になったのは、五足の靴。この部屋の住人は提督しかいない。それと、提督の靴はこの部屋に三つしかない上に下駄箱に仕舞ってある。玄関に靴が放置されていることなどあり得ない。その靴と言うのも学生が履いてそうな茶色いローファー。学生時代など何年か前に通過した提督には懐かしいとすら思えるような物である。
誰かが部屋にいると言う事を確信した提督は恐る恐る―――と言った様子は全く無く、ドスどすと言う大きな足音を立てながらリビングへと繋がるドアを一気に開け放った。
「やっぱり今年はエレキコミックがM-1で一番になるって!」
「白露のお笑い芸人のセンスは、僕にはよくわからないよ……」
「キャー!アキラ100%がー!」
「そんな風に言いながらも村雨はなんでTwitterでアキラ100%のGIFを調べてるのかしら?」
「お雑煮が出来ましたよ!」
炬燵でテレビを視聴しながら何やら芸人の話をしているのがいつもの制服姿の白露、時雨、村雨、夕立。台所から五人分のお茶碗をお盆に載せて持って出てきたのが制服の上にエプロンをつけた春雨。
その五人が一斉に開け放たれた扉の先にいる提督へと目を向けた。
「あっ」
「おかえり提督」
「炬燵、温めておきましたよ」
「早くはいるっぽい」
「ご、ごめんなさい司令官!姉さんたちがどうしてもと――」
この部屋に元から居るのが当たり前と言わんばかりの反応をする四人と、お盆を持ったまま頭を下げる春雨。
どうしてここに居るのか。そもそもなんで入っているのか。それ以前にどうしてここがわかったのか。色々と聞きたい事は沢山あるが、それら全てが一気に口から出ようとして詰まり。最終的に出た言葉が、
「その雑煮、俺の分もあるよな?」
と言う、全てを受け入れたかのような言葉だった。
五人と共に雑煮を平らげた提督は、早速尋問へと移る事にした。因みに彼女達の分の食器は持参した様だ。偉い。
「で、なんでお前らはここに居るんだ。というか、どうやって入った。それ以前にどうしてここがわかったんだ」
雑煮を食べる前に出なかった言葉がすらすらとで出くる。餅を喉に詰まらせたかのように詰まる事は無い。食事をした事によって思考能力が復活し冷静になれたと言うった所だろう。
「んー。それは」
「この前の休暇の時に出掛けてる提督をみかけてね。なんとなーく後をつけたら、この部屋に入っていくのをみたわけさ」
「ストーカーすんなよ。普通に声をかけろよ。普通に部屋に上がらせることぐらいしたわ」
「司令官はお休みの時は警戒心が強いですから……」
「縄張りを荒らされた肉食獣じゃないからそんなに警戒せんわ」
「ここに行きたいって一番言ったのは夕立だったんだけどね」
「突然行ってびっくりさせたかったっぽい!」
「鍵は器用な村雨姉さんに作って貰いました」
「ふっふーん♪どう?いい感じでしょ?」
「鍵作るとか器用どころじゃないだろ!流石なぞの村雨嬢だな!と言うかどうやって道具を集めた」
「それは、明石さんの所よ」
「……今度から物の貸し出しには理由を明記させるか」
慣れないツッコミに疲れた提督は膝の上に乗っている春雨をぽんぽんと撫でる。春雨はピクっと体を硬直させた後に、だらしなく口を開けて表情を溶かしてしまう。その瞬間、暖房が効いている筈の室温が五度くらい下がったような気がしたが、提督は春雨の頭を撫でる事に意識を集中して無視した。
現在提督の膝の上は時間貸し中である。本人の意志は勿論無視な上に無償で貸し出しされているが気にしてはいけない。既に二周目の順番も決まっているようだが、提督の脚は悲鳴をあげすぎて枯れてしまったらしく感覚はほぼ無くなっている。それを言わないのは男の意地なので放っておいてあげて欲しい。
「で、来るのはお前達だけでいいのか?」
「んー、後五人来るよー」
「もうそろそろ買い出し組も来るんじゃないかしら?」
買い出し組?
その言葉に首を傾げる提督だったが、インターフォンのチャイムが鳴った事でその解が出て来た。
「提督!あけましておめでとうございます!」
「ご招待、感謝いたします」
「皆行くって……言うから……来た……」
「あけおめさン、提督!」
「寒いから早く入れてくれよー!」
インターフォンを埋め尽くす着物姿の五人の美少女たち。その正体は言わずもがな、五月雨、海風、山風、江風、涼風の五人。
提督はなんとなくどうしてこの五人も来たのかわかった。特に、提督がここに来ることを許していなければ、絶対に来ることをしない真面目な五月雨と海風と、海風の言葉でここに来た理由が判明した。
大方、上の四人が提督の秘密の住処に一緒に行こうと言ったのだろう。江風と涼風はすぐに乗りそうなのだが、五月雨と海風はそうはいかない。だから、こう言ったのだろう、『提督から招待されたから一緒に行こう』と。
下の五人には姉特権で買い物をしてから来てほしいとお願いし、上の五人はその内に提督を説得しようと言う算段だったのだろう。
提督が居なかったら勝手に作った鍵を使って部屋に入った辺り、説得する気があったのかは本当に気になるところだが。
「あー…よく来たな」
ここまで来て、何よりすでに上の五人を入れている時点で、下の五人を入れないわけには行かないので、大人しく部屋に入れる。
「ここが提督のお家なんですね!」
「広くてお部屋も多そうですね」
「悪くない……」
「思いっきり騒げそうじゃン!」
「こりゃ、いいねぇ!!」
五人は両手にパンパンになったビニール袋を手に、提督の横を通り過ぎていく。
「……はぁ」
提督は突然の強引な十人の来訪者たちに呆れながら靴の整理を始める。
静かにゆっくり過ごすと言う正月は台無しだが、悪くないと思っている提督もいる。
提督自身、その理由はよくわかっていないが白露型の皆に甚く気に入られているのだ。
特別扱いした記憶は無い。普通に接してただけの筈。なのに気に入られてしまった。それを悪く無いと思って放置した結果だろうか、俗に言うフラグとやらが全員に立ってしまったのだ。長いものには巻かれろ精神だった結果これである。どうしてこうなったかと提督自身が言いたいが、こうなった結果を本人たちが教えてくれないのでわかりようもない。
今のところは別に誰かを選ぶつもりが無い。と言うか、特別扱いはあの全員が許さないだろう。あの十人の結束は強いのだ。自分の事を改白露型と称する海風も、白露の事を嫌って言ってる訳じゃ無い。好きだからこそ超えたいと言う、色々と入り混じった向上心の表れなのだから。
足取りは重いが気分は軽いと言う奇妙な感覚を得ながらリビングへと戻る。
「提督!今年一番の新年会始めるよ!」
「白露、新年会は一番も何も一度きりじゃないかな?」
「いいのよ。こう言うのは雰囲気なんだから」
「提督さんと新年会が出来て、夕立は嬉しいよ!」
「はい!春雨も嬉しいです!」
「御飯を作るのは五月雨にまかせてくださいね!」
「海風も腕によりをかけて作らせて頂きますね」
「うん……偶にはこういうのも……いいね……!」
「提督、御飯が終わったら人生ゲームをやろうぜ!」
「じゃあ、あたいともなんかしてなー!」
白露型の皆が、炬燵に入った状態で提督の事を呼んでいる。
――偶には騒がしい新年も悪くない、か
呆れたようなため息を吐きながらも、自然と持ち上がる口角と下がっていく目尻を隠すことなく、提督も炬燵へと足を入れた。
その後、十人は泊まり込む満々で部屋に来ていたので三が日も共にいた。何度か席順や寝る位置についての争奪戦が起きたのは想像に難くない。
一か月後には、やっぱり一人で過ごせる場所を確保したいと思った提督は、部屋を解約して別の部屋を借りたのだが、また時雨に見つかる事となる。恐るべし幸運艦。
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