こっちにあげてる作品は一人称のものが多目です。
Distance:着任時
「初風です、よろしく。提督さんにとって私は何人目の私かしら?」
今日着任してきた艦娘が初めて言ってきた言葉がそれだった。
何人目?知り合いの鎮守府にも中々いないツチノコと呼ばれる彼女――初風が何人もいるほどうちは資材も人員も満ち足りているわけでは無い。
――君は一人目だ。私が君の指揮官である限り二人目は着任する予定は無い。
彼女の問いの答えとして、私は暗に自分の意向を示す。
一つの鎮守府には基本的に同じ艦娘が来ることは無い。同じ艦娘が来るとしたら、それは『最初に来たその艦娘』が居なくなった時に限られる。つまり、いまいる艦娘を轟沈させなければ二人目が来ることは無い。
初風は私の言った言葉に隠れた物を読み取った様で、目を細めて私の顔をじっくりと見つめる。まるで、私の中を見透かそうとするかのように。
「ふーん。そんな甘い方針で本当にこの先もやっていけるのかしら?」
無表情で言った彼女のその言葉から棘は感じない。この言葉は軍人として私を見下しているわけでも、軽蔑しているわけでも無い事はわかる。
単純に私のことを試しているのだろう。私から見ても甘いと思うこの方針を生半可な意思で続けようとしているかどうか。
ならば、私は強く意志を持って答えなければならない。
――やってみせるさ。それが、私とここにいる皆のあり方だ。
最初こそ、この世迷い事のような方針を馬鹿にするものもいた。だけど、私がこの方針を貫こうとしている事を示して認めさせ、信頼を勝ち取る事も成功した。
皆が私を信じ、私も皆を信じる。互いの信頼と理解こそが、この方針を続けられる理由だ。
だから、この方針を続ける為に彼女からの信頼を得なくてはいけない。今は馬鹿にされてもいつかは理解してくれることを信じて。
「そう。まぁいいわ。私は提督の部下。だからこの方針に従ってあげる」
相変わらず棘のあるような言葉を使ってくるが、彼女の雰囲気は何処となく緊張感が解けた物になった気がする。
クールな顔つきで敬礼をすると、初風は執務室から出て行く。
取りあえず、彼女には私の方針を理解して貰えた。
これからは彼女の信頼を掴まなければいけない。私は自分の意志を改めて固めて、書類仕事を再開した。
Distance:上司と部下
戦闘経験の少ない艦娘にはいきなり実践に送る事は私は余りしない。演習や遠征でコツコツと経験を積ませ、時間をかけて実戦に向かわせるのがセオリーだ。
もうすぐ遠征の艦隊が帰って来ている。数刻もしないうちに遠征に言った駆逐艦娘達がこの執務室にやってくるだろう。
廊下から騒がしい音が聞こえる。彼女達がここに来るだろう。
執務室のドアがバンと大きな音を立てて開かれる。
「ただいま戻りましたー!!」
そう言って遠征組が元気よく執務室に入って来た。
――おかえり。結果はどうだった。
事務的に、されど機械的に聞こえないように声を和らげて遠征の報告を聞く。
「大成功っぽい!!」
「しれー時津風も頑張ったー!!」
執務机にいる私の両脇で主張するのは夕立と時津風。この二人は我が鎮守府の遠征組の中でもベテランで殆どの遠征を大成功に収める。
何かを期待する視線を向ける二人の頭に手を置いて優しく撫でる。
――よしよし、よく頑張った。いつもありがとう。
感謝の意を込めて二人の大好きな頭を撫でて礼をする。
「へへへ…」
「ふふふ…」
二人の容姿や性格は他所でも言われるように犬っぽい。だから、私によく懐いてくれてるし、期待に応えようと精一杯頑張ってくれるのかもしれない。
ご褒美を与えられた二人の表情は幸せそうに蕩けていて、こちらまで幸福感を与えてくれる。
撫で上げるのを止めると、二人は元気一杯に執務室からかけ出て行った。
「全く元気がいいわね…」
そんな二人の様子を心底疲れたような態度で見ていたのが二人と同じ遠征組に配属されてた初風だ。
――君もありがとう。
「別に、当然の事をしたまでよ」
初風は相変わらずクールに私の謝辞を受け止める。私からの礼を聞いた後はこの部屋を出て行こうとするのだが、今は出て行こうとしない。珍しいとは思ったが、彼女は私の事をじっと見つめるだけで何かする様子は無い。
――どうした?
「別に…」
私からの質問に視線を逸らして逃れようとする。ああ、もしかして。そう思いあった私は、初風の傍に近寄り彼女の頭を撫であげた。
「っ?!」
初風はビクリと体を緊張させると、私から一気に距離をとって離れる。
「ちょっ!何触ってんのよ!ぶつわよ!たたくわよ!妙高姉さんに言いつけるわよ!」
初風は顔を真っ赤にして私に脅しつける。
――なっ?!頭を撫でて欲しかったのじゃないのか?!
初風は彼女の姉妹も言っていたが素直に色々という事が出来ない。先ほども夕立と時津風の事を何処か羨ましそうに見ていた。だから、こうして欲しいのだと思ったのに――
「きゅ、急に触らないでよ!びっくりするじゃない!!」
――確かに急に触ったのは悪かった。その…頭を撫でられるのが嫌だったのか?
「そ、そうじゃないけど…。やるならやるって言いなさいよ。その…ちょっと覚悟を決めるから…」
覚悟。その言葉が私のツボに入ってしまい、思わず腹を抱えて笑ってしまう。
――はははっ!頭を撫でられるのに覚悟が必要なのか。
「そんな堅い覚悟を決めるわけじゃないわよ!ただ、触るなら相手の許しを得るべきでしょ!!」
初風の言葉で私は何とか笑いを納め、改めてさっきの行為を反省する。
――乙女にとって髪は命か…。迂闊だった。すまない
「別に…いいのよ。だからその…」
彼女は何かを言いだそうとしてやめてしまう。
先程笑ってしまった詫びだ。ここは私から言うべきだろう。
――頭を撫でてもいいかな?
「ええ、いいわよ」
私の問いに彼女は緩やかに口許を吊り上げながら頷いた。
頭を撫でられる初風は目を細めて、私から与えられる感触を享受する。
夕立達が犬なら、初風は猫か。
気持ちよさそうに頭を撫でられる素直じゃない初風を見ながらそう思った。
Distance:友人
秘書艦が演習に出て行ってしまい一人っきりになった執務室。
紙にペンを走らせる寂しい音しか無い執務室。その執務室に来訪者が現れた。
「退屈ー!何かしようよー!!」
やってきたのは初風だ。彼女にしては珍しく表情を出している。
っと、そんな事はどうでもいい。彼女が退屈と言うのも仕方ない。
初風が遠征組なのだが、初風が遠征に行くまでかなり時間が余っている。やる事もやるべき事も無い待ち時間は退屈の一言で全てを語りつくせるだろう。
――構わないが…、何がしたい?
私の書類仕事も大方が片付いたので時間に余裕があるにはある。初風を構ってあげる位何も問題は無いだろう。
私が本当に構ってくれると思っていなかったのか初風は一瞬ポカンと呆けた表情になる。だけど、すぐに言葉の意味がわかったのか表情が明るくなる。
「いいの?!」
余りにも退屈すぎたのか、いつものクールさは感じられず、年相応の少女らしい反応に何だか私が困惑してしまう。
――ああ、構わない。
私の返答に初風は棚にあったオセロ盤を楽しそうに取り出す。
「じゃあ、オセロでもやりましょう」
[newpage]
正直に言おう。私は昔からボードゲームが弱い。そんな私だから戦況を読めないとか士官学校時代はからかわれていたのだがこうして司令官を任されている。
まぁ、何が言いたいのかと言うと。初風と五回勝負して五回とも全部負けた。しかも、惜しいと言える勝ち方が一度も無かった。
「提督さん、本当に弱いのね。手ごたえが無いわ…」
余りの私の弱さに苦笑いを受けべる初風。しかも何気なく毒も吐いて来た。
そんな事を言っておきながら初風はまた盤に四つのオセロを並べる。鬼か。
――そんなにやりごたえが無いというなら、楽しく無いのなら他の子の所にいってみればいいだろう。
負けてばっかりの私は思わず拗ねたように言ってしまう。他にも遠征に出ていない艦娘はここにいるからだ。
対する初風は私の言葉に少し寂しげな表情を浮かべる。
――どうした?
そんな表情を浮べられては気になってしまう。だから、その理由を私は問いただした。言っても答えてくれないかもしれないと心のどこかで思ったが初風は私の問いに答えてくれた。
「私さ。こんな性格だから、気軽に話してくれる人って多くないの」
…確かに。彼女のクールな性格は決して万人受けする性格では無い。相性の良い者、悪い者ははっきりとわかれる。
「別に孤立してるわけじゃないの。ただ、こんな性格だから、皆が私に色々と遠慮してるように思えてちゃって。だから、息苦しく感じる時もあって距離を置いちゃうことが多いの…。こうやってわりとしっかりと話せる人、司令と姉妹以外に多くは無いし」
その姉妹達も殆どが遠征と演習で出払っている。だから、心のあり処として今はわたしを選んでくれたのだろう。
彼女の心の吐露を聞いて私は自分自身に呆れる。全く、初風の悩みに気づけないとは。
私はテーブル越しに初風の頭を撫でる。文句は言われるのは覚悟の上だが、初風は何も言わず私に頭を預けてくれた。
――君は難しく考えすぎだ。確かに人付き合いがあるから遠慮と言うものがあるかもしれない。だけど、一番遠慮しているのは君じゃないのか?
初風もその事に何となく気づいていた様で、顔を俯かせて私の視線から逃げる。彼女は自分がいる事で楽しい雰囲気を壊してしまうと思いがちだ。
「でも――」
――でもじゃない。君の性格位皆わかってくれている。だから、君が遠慮する事は無い。皆、信じられる人だろう?
「…うん」
――皆、君の事を信じている。だから、君も皆の事を信じてあげなさい。君も素直になる事が大事だよ。
「…うん。ありがとう提督さん」
私の言葉を聞き入れた彼女はゆっくりと顔をあげると私に微笑んでくれる。初風の笑みは初風が着任してから初めて見た物で、何よりも誰よりも純真無垢で綺麗な笑みだった。
その笑みを向けられた私も自然と微笑みを返す。初風程の美しい笑みは返せないだろうが、彼女の浮かべる最高の笑みに報いるように。
――まずはそうだな…。皆ともっと話してみようか。君だけで不安だったら私も混ざろう。
「うん。やってみるわ」
初風の見せた笑顔。その笑顔があれば、もっと皆との距離は縮まるだろう。
さぁ、どうやって皆に初風の事をもっと知って貰おうか。私は静かに距離を縮める作戦を考えた。
Distance:友達以上
初風が轟沈寸前まで追い詰められた―――
その報を聞いて私は急いで明石に修復の準備を始めさせた。いつでも初風を迎えられるように。
初風は戦艦の砲撃から僚艦を庇い、轟沈しかけたらしい。本当に轟沈する寸前に戦闘海域から離脱する事に成功し、今は大急ぎで帰還している最中だ。
何という事だ―――
私は自分の指揮にミスがあったのかと反省する前に初風が居なくなってしまう恐怖感に全身を支配された。
帰投した妙高に背負われた初風は力なく妙高に身を任せていた、目の焦点も合っていなかった。
――初風っ!!
思わず大声で彼女の名前を呼ぶが、初風からの反応は帰って来ない。妙高は切羽詰まった表情で明石の居る集中処置室に入っていった。
――頼んだぞ明石!!
私は明石の肩を掴んで懇願するように言う。
「はい!絶対に助けます!!」
明石は私の懇願に力強く答えると集中処置室の中に消えていく。
――ああ、神様…。
柄にも無く神に祈りながら、明石による処置が終わるのを待ち続けた。
[newpage]
処置は成功。初風は見事に生還した。処置が終わった初風は眠りについていた。私は初風が眠りから覚めるまで彼女の眠るベットの傍らで待つことにした。
初風の瞼がゆっくりと持ち上がる。彼女が目を覚ました。
「あれ…?私…」
状況がわからず困惑している初風。私は彼女が目を覚ました喜びの余り、思わず抱きしめた。
「痛っ?!ちょ痛いわよバカ司令官!!」
――む、いや、すまない…。
治ったとはいえ痛くないわけでないらしい。怪我人の言葉を無視して傷を再び開かせたら初風に合わせる顔が本当になくなる。私は彼女から離れる。
――君が無事でよかった。
「私、戻ってこれたのね…。よかった…」
彼女はほっと安堵の溜め息をつく。私は安堵の余り、思わず床に座り込んでしまう。完全に緊張が抜けたらしい。
「どうしたの?提督さんらしくないわよ」
私の気の抜けた表情がおかしかったのか、初風はクスクスと笑みを浮かべる。
――私は本気で心配したのだぞ。
「あっと、ごめんなさい。それとありがとう心配してくれて」
彼女は穏やかに笑みを浮かべる。最近の初風の表情は柔らかく、様々な表情を出すようになって来た。
皆と居る時もそうだが、私と居る時も様々な顔を見せてくれる。笑った顔、怒った顔、拗ねた顔。その全てが純真で眩く、何よりも私に幸福感を与えてくれる。
彼女が死にかけても帰って来てくれたことも嬉しいが、彼女の様々な表情がこれからも見れる事が何よりも嬉しい。
もしかしたら私は―――
「提督?」
突然何も語らなくなった私に訝しげな視線を送る。
――いや、何でも。何かして欲しい事はあるか?
私の言葉に初風は何処か言いずらそうに言葉を絞り出す。
「じゃあ、そ、その、もう一回…」
――もう一回?
「や、優しく抱きしめてくれないかしら?」
――お安い御用だ
今度は初風の身体の事を考えて優しく抱きしめる。
「うん…。あったかい」
初風の身体も確かに温かい。彼女は確かにここにいる。
ああ、彼女がいてくれることがこんなにも嬉しいなんて―――
彼女が完全に治ったらずっと隠してきたアレを彼女に贈ってみよう。
信頼が大事なこの鎮守府に置いて私が最も信頼しているという証を彼女に。
私の想いの結晶を―――
ケッコンカッコカリの指輪を初風に―――
彼女の温かい体を抱きしめながら、小さな決意を胸に秘めた。
Distance:恋人
初風が私の想いと指輪を受け淹れてくれてから数か月。私達は恋人として鎮守府内では公認の関係となっていた。
恋人となってから秘書艦は初風で固定となった。彼女が自分から言い出した事と皆の後押しを受けてだ。私としては困る事では無かったので喜んで了承した。
そんなわけで相変わらず絶賛仕事中の訳なのだが、私のパートナーである初風は――
「じー」
こうやって、私を見ているだけで仕事をしていない。
「じー」
彼女は自分の左手薬指にはめられた指はを愛おしそうに眺めながら私の事を見ている。
「じー」
とは言え、彼女はさぼっているわけでは無い。こうやって眺めている時は、自分の仕事が終って構って貰いたい時が大体だ。
初風のおかげで今日は仕事が早く終わりそうだ。少しぐらい、恋人に付き合っても罰が当たらないだろう。
――休憩するか?
私の言葉に彼女の表情が一気に花開く。
「わかった。お茶の準備をするわね」
そう言うと彼女は上機嫌で給湯室に入っていった。
「はい、どうぞ」
隣に座る初風は満面の笑みを浮かべて私にクッキーを差し出す。
私は香ばしいバターの香りがするクッキーを口に含む。
――うむ。おいしいな
「ふふっ。良かった」
彼女は満足そうに私に微笑みかける。
私と恋人になってから、彼女は私に対してはかなり素直になってくれたと思う。今まで以上に様々な表情を浮かべてくれるようになり、新しい表情を見つける度に私も嬉しくなる。
彼女の淹れてくれた紅茶に口をつける。
――こっちも旨いな。
「当り前よ。お料理、頑張って教わってるんだから」
初風は最初の頃は全く料理が出来なかったらしい。らしいというのは、私と恋人になる前に夜食を運んで来た事があったのだが、その夜食は美味しく全然料理が出来無いと言う象と結びつかなかったからからだ。
姉妹達が言うにはある時突然料理の仕方を教えて欲しいと言われたらしい。何でも、私が美味しそうにご飯を頬張っていた姿を見て、もっと身近で見てみたいと言い出したらしい。
私が彼女への好意に気付く前より、初風は私へ好意を向けていたのかもしれない。我ながらかなり鈍感であったと思う。とは言え、恋人であるからには彼女の変化には機敏に気づくようにしようと日々務めている。
「ほら、今度は私に…」
彼女は私の袖を掴んで遠慮がちにお願いする。
意地らしいお願いの仕方に思わず笑みを零しながら、私は彼女の口許にクッキーを持っていく。彼女は小さく口を開けて、可愛らしくクッキーを口に含もうとした所で――
「ただいまー!!」
「しれー!!」
遠征組が帰って来た――
「な、何すんのよー!!」
イチャコラしている場面を見られた恥ずかしさからか、初風は私の事を突き飛ばす。
――おっと?!
落としかけたクッキーを掴み直し、私の口に放り込む。旨い。
「良い所じゃましちゃったぽい?」
「だねー。後でこよっかー」
鎮守府が誇る二大わんこは空気を読んで退散していった。
「ご、ごめん司令?!そ、その…こういう場面を見られるの恥ずかしくて」
初風は咄嗟にやってしまった事に気づいたのか慌てて私の身体を支えて立ち上がるのを手伝ってくれた。
――いや、問題ない。流石にあの場面はな。
…とは言え、皆がいる食堂でああいう事やってる場面は度々あるのだがその事は棚に上げて置く。
「その…。ホントごめん」
しおらしい彼女は見たくない。だから、私は彼女の可憐な唇に口づけを落として慰める。我ながらかなりきざったらしい行為だ。
「…司令」
――私は怒って無い。それに、あの君の姿は誰にも見せたくない。あの姿を見れるのは恋人である私の特権だ。
「司令…。ありがと」
彼女は私への礼を口づけと共に送ってくる。優しい彼女の香りと残ったクッキーの甘さ。この二つが私と彼女の口づけをより深く、より長いものにする。
――初風。大好きだ。
「うん。私も司令の事が大好き」
猫の様な気まぐれで素直な恋人の背に腕を回すと、私達は再び唇を重ね合わせた。
Distance:??
戦争が終結し数年が経過した。私と初風は軍人を辞め、正式な結婚をし、本当の夫婦になった。
最初こそ、見た目の年齢の違いから傍からは恋人にも見られなかったが、止まった時間が動き出すように初風は成長し、綺麗な大人の女性へとなった。
今は私は新たな職場に就職し、初風は専業主婦として家を任せている。
そして、今は新しい家族を迎える為の準備を整えている。
「ねぇ、後三か月ね」
――ああ、そうだな。
私と初風の血を引いた娘が三か月後に誕生するのだ。
初風は膨らんだお腹に手を当て、幸せそうに微笑む。
私も彼女のお腹に手を当てて新しい生命の鼓動を感じ取る。
「あっ、今の中動いたかも」
――ああ。私も感じ取れたよ。
二人で自分達の子供の生命の息吹を感じ取りながら微笑みあう。
何も語る事はせず、二人でお腹を撫で合っていると、唐突に初風が切り出した。
「私がさ。どうして最初の頃、嫌な態度をとってたかわかる?」
――私が不甲斐なかったからか?
「ううん。違う。強い人になって欲しかったの。貴方の意志を貫き通せるような強い人に」
確かに私の方針は理想論そのものの夢物語の様な物だった。色んな艦娘に鼻で笑われることなど何度も会った。でも、それでも私は私の方針を貫き通した。皆の信頼を勝ち取って。
「私はさ。貴方の方針は素晴らしいって思った。だから、強くなってほしかった。生半可な覚悟じゃ、あの方針は続ける事なんて出来ないから」
――君たちのおかげであの方針で戦い続ける事が出来た。君を失う事なんてしたくなかったから、絶対に曲げる事なんてしなかった。
「うん。私さ。一回轟沈しかけたとき、凄く後悔した。もっと素直になっておけばって」
――だから、君はあの時から色んな表情を見せてくれるようになったのか。
「それだけじゃない。貴方が本当に強くなったから、私も片意地張るの止めにしたのよ」
――そうか…。私は強くなれたんだな。君が望んでいたくらい強く。
「うん。素敵な私の旦那よ」
彼女は誇らしそうな笑みを浮かべる。それは、本当に私の事を誇りに思ってくれている証だろう。
私は彼女の想いにこれからも報いる為に彼女の手をとる。
――これからは、君と娘を全力で守れる男になってみせるよ。
「それだけじゃ駄目よ。貴方も自分の事、守りなさいよね。私も貴方と娘を守るから」
――そうだな。皆で幸せじゃないとな
「その通りよ」
初風はこれからの未来設計図を思い浮べてか何処までも楽しそうで幸せそうな表情を浮かべる。そんな幸せな彼女を見て私も自然と嬉しくなる。
今も様々な表情を見せる甘えたがりな私の妻とこれから生まれる娘に私は誓おう。これからも、皆で幸せあり続ける事を―――