※この作品はR-18です。

寝る前に読むには長すぎる艦これ噺   作:なぁのいも

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 三年くらい前に書いた『初めて書いたエロ』です。

 私の恥ずかしい所、一杯見てください☆


『R-18』淋しい羽重ねて

人類と深海棲艦の戦争。

 

長きに渡るその戦いもついに終焉が訪れた。

 

深海棲艦の驚異的な能力に劣勢をしいられていた人類は、艦娘と言う自分達の代わりに戦争を行う兵器を用い形成を逆転。

 

そのままの勢いで深海棲艦に攻めいるが深海棲艦も進化を繰り返し、何度も辛酸を舐める事となる。

 

だが、人類も艦娘も同様に進化を続け、遂に深海棲艦に対して優位に立つことが出来たのだ。

 

人類は最後の総攻撃をかけ、深海棲艦の本拠地を壊滅させ、勝利を得ることが出来た。

 

後に残るのはまともな指揮を得れなくなり烏合の衆と化した深海棲艦のみだった。

 

人類と艦娘はまともに動くことすら出来なくなった深海棲艦を追撃し、完全に滅ぼす事に成功した。

 

これは戦争。犠牲は当たり前の様にある。

 

前線で戦った艦娘は何十、何百隻と轟沈した。

 

多大な犠牲を払いながら人類は平和を獲得したのだ。

 

だが、犠牲となったのは、代償を払ったのは艦娘側だけではない。

 

人間側も代償を払うことになった。

 

それは、死という形であったり、二度とまともな生活を送れなくなると言うものであったりと様々だ。

 

犠牲無くして正義は貫けない。

 

戦争が行われた時点で犠牲が出ることは確定しているのだから。

 

それは誰に対しても同じ───

 

 

 

 

 

 

平和となった鎮守府。

 

今は海上の哨戒しかやることの無くなった鎮守府がある。

 

その鎮守府の部屋の一室、台所に一人の艦娘が朝日に照らされた台所で鍋をかき回していた。

 

幼い背丈に、朝の弱い太陽光を吸収して輝く銀色の髪を一つに纏めた少女。

 

少女は取り皿に、お玉で掬った味噌汁を移し、可愛らしく口をつけて味見をする。

 

「うん。今日もいい味だ」

 

少女は口元を綻ばせると、お椀に自分が作った味噌汁をよそい、作っておいた目玉焼きとベーコンを乗せたお皿と共にお盆に乗っける。

 

続いて炊飯器で炊いた温かいご飯を茶碗によそい、同じようにお盆に乗せた。

 

彼女の作ったご飯は温かい湯気とベーコンの香りが漂い、見る者に食欲をそそる会心の出来。

 

少女――響は小さい手で大きなお盆を掴んで運ぶ。味噌汁をこぼさないように慎重に。

 

響は台所からお盆を居間まで、居間の隣にある寝室の扉をコツンとノックする。

 

この部屋の向こうにいるのは彼女にとって大切な人。その人に手料理を食べて貰うのだ。

 

今日の朝食も上手くできた。これなら、彼の笑顔を拝めそうだ。

 

そう。少しずつでいい。少しずつ彼には──

 

「ふぁーい…」

 

響が思案にふけっていると、扉の向こうから気怠げな声が返ってきた。

 

欠伸交じりの返事からしてつい先程まで寝ていたようだ。

 

響は呆れたような、だけど、何処か嬉しそうに口元を緩ませながら、ドアを開けた。

 

「司令官、朝ご飯を作ったよ」

 

「響ちゃん?いつもありがとう。本当に悪いね」

 

「いいさ。私が望んでやってるからね」

 

彼女の司令官からの許可を得て、響は寝室に立ち入る。

 

そこにはベッドの上で座っている二十代前半の男性、響の司令官がいた。

 

彼は響の姿を認めると嬉しそうに微笑んだ。母親に起こされた子供の様な無邪気さで。

 

響はその微笑みに僅かばかり胸の痛みを感じた。

 

だが、その痛みを無視して響も柔らかく微笑む。

 

「ほら、ご飯が冷めちゃうよ。早く食べよう」

 

「うん。ありがとう」

 

彼は響に手を引かれ共に居間に向かう。

 

居間のテーブルにあるのは響が心を込めて作った朝食。

 

彼は響の料理の腕前がわかっているので、響が作る料理がいつも楽しみだ。

 

二人は向かい合うように座り両手を合わせる。

 

「「頂きます」」

 

響の左手薬指にある銀色の指輪が太陽の光を受けて無機質な輝きを放った。

 

 

 

 

 

本日も響の作る朝食を彼から絶賛され、響はそのことに満足しながら本日の執務に取り掛かる。

 

鎮守府、いや、世界は平和になりつつあるため彼女たちの役割はかなり削減されている。

 

遠征に頻繁に出ることも無くなれば、制海権を取り戻すこともない。

 

輸送船団の護衛、鎮守府近海の哨戒、鎮守府内での演習が現在の主な役割。

 

とは言え、演習も過剰なペースでやることもなく、かなり日も開いてしまっている事もある位だ。

 

響は執務室で簡単な書類の作成を行ったり、承認をしたり、皆に任務の指示を出している。

 

この仕事の全てを含めても午後を一杯に使うほどあるわけでは無い。これなら、午後にでも時間を作れるだろう。

 

座り続けてばっかりの書類仕事のせいで身体のだるさを感じていると、執務室の扉が叩かれる。

 

「どうぞ」

 

許可の言葉を受けて入ってきたのは彼女の妹である雷と電。

 

「お疲れさま響」

「お茶を持ってきたのです」

 

彼女達は頑張る響に差し入れを持ってきてくれたのだ。

 

「今日もお仕事は少なそうね」

「遠征も今日はもう大丈夫だよ。ありがとう二人とも」

「大丈夫なのです。お姉ちゃんが一番頑張っているのは皆がわかっているのです」

 

二人は響に労いの言葉をかけると、雷は響の肩を揉みほぐし、電は隣の席に座って書類の確認に移った。

 

「んっ。悪いよ二人とも」

「いいのよ。遠慮しないでいいのよ」

「そうなのです。お姉ちゃんも今は休んでください」

「ありがとう二人とも」

 

響は二人の言葉に甘えることにし、力を抜いてリラックスをした。

 

雷の揉みほぐす力は丁度よく、疲れが取れて眠気を誘う。

 

電もドジな一面はここでの長い生活で改善されたので、ミスをすることはないだろうから、安心して任せられる。

 

「で、司令官の様子はどうなのよ?」

「んっ。異常なしかな。良くも悪くも」

「そうなのですか…」

「今日は仕事も速く終わりそうだし、司令官に付き添ってあげなさいよ」

「そうする予定だよ」

「じゃあ、早くお仕事を終わらせちゃいます」

「ふふっ。ミスは出来るだけ控えてね」

「が、頑張ります」

 

雷も執務に参加し、響達の処理の速さは格段にあがった。

 

これなら、予定より更に早く終わることが出来そうだ。

 

雷と電が今日の遠征先であったこと話しながら執務を続けていると、ふとしたタイミングで響がこぼした。

 

「司令官も私たちにもっと甘えてくれればよかったのかな…?」

 

二人はその言葉に思わず固まってしまうが、僅かばかり考え込むと重々しそうに口を開く。

 

「わからないわ」

「司令官さんは、私たちに甘えさせるのが上手だったのです」

 

その事は響も熟知していた。

 

彼は自分達を甘やかすのが上手かった。

 

それこそ、自分達の様な駆逐艦から戦艦まで。

 

生真面目すぎるくらいの那智も甘やかしてた位なのだ。

 

その位に彼は優しく懐の深い人だ。そう言う人だったのだ。

 

「人との繋がりを大事にしてたお方なのです。だから、皆に優しかったですね」

「でも、今はちょっと甘やかされ過ぎたって思うときもあるわね。うん。司令官の事を考えなかったかもしれないわ」

「私が…私がもっと彼の事を見ていれば。彼のことで機敏に反応できたら良かったのかな」

 

響はこの鎮守府を任された司令官ともっとも古い仲だ。

 

右も左もわからないながらも互いに助け合ってこの鎮守府の機能を拡大していった。

 

彼は響を一番大事にしていた。それこそ、この鎮守府でケッコンを申し込まれたのは響以外に存在しないくらいに。

 

響も彼が大好きだった。ケッコンの申し込まれたときは感極まって涙を流して喜んでしまったくらいに。

 

彼女は彼を愛していた。何にも代えられないくらいにくらいに彼のことを。

 

彼も彼女のことを愛してくれた。

 

身体で、その心で。

 

だから、響は強く責任を感じていた。

 

自分のせいで彼は───

 

彼女の心が雨を運ぶ雷雲が空を覆うように黒く暗く染まりかけたが、妹たちは否定する。

 

 

「響だけのせいじゃないわ。司令官にも、私達にも責任があると思う」

「でも、私がもっと彼と寄り添っていれば──」

「そう思うなら、司令官さんを沢山甘やかしてあげればいいのです。それで、電達も沢山司令官さんに恩返しをするのです」

 

恩返し。

 

確かにそうだ。自分達は沢山お世話になった。

 

だから、彼に沢山お世話を焼いてあげなければ。

 

それが、今の自分達に出来ることだ。

 

「ありがとう。二人とも」

「ほら、元気だしなさいよ!!」

「そんなんじゃ、司令官さんに心配させちゃうのです。ほら、元気だして」

「うん。二人とも本当にありがとう」

 

二人に励まされ、響はまた書類と向き合う。

 

少しばかり身体も軽くなってきた。これなら残りも早く終わりそうだ。

 

三人は慣れた手順で書類を捌ききり、昼食前に全てを終わらせる事が出来た。

 

 

 

 

本日の書類仕事を終え、三人は食堂へと向かった。

 

「おなか空いたー」

「ぺこぺこなのです」

「午後の予定は無いから二人とも沢山食べてゆっくりとしなよ」

「「はーい」」

 

響が食堂の扉を開け、三人で食堂へと入ってゆく。

 

お昼時と言うこともあり、食堂は艦娘で溢れ、間宮と伊良湖、それに鳳翔が厨房でてんてこ舞いだ。

 

思わず頬が緩んでしまうような平和な光景に見えるが、食堂にいる艦娘の数は全盛期の頃より三割程減った。減ってしまった。

 

響は二人に悟られないように過去の光景を今に反映させる。

 

金剛姉妹が仲良く会話をしながら食べる風景。

 

龍田に弄られながらも何処か楽しそうに食事をする天龍の姿。

 

駆逐艦娘達の行儀が悪く口を酸っぱくして注意する足柄の姿。

 

魚の骨を曙にとって貰う朧の姿。

 

他にも様々な光景が甦る。

 

何よりも鮮明に映るのは、司令官に注意されながらも、熱々の味噌汁を冷まさず飲んで舌を火傷した暁と、苦笑を浮かべる司令官と自分達。

 

楽しかった思い出達。掛け替えのない記憶の欠片達。

 

それらは全て過去の事───

 

一ヶ月もしない過去の事───

 

響は瞼を一度閉じて、思い出のフィルターを外す。

 

金剛姉妹は比叡と霧島の姿が無くなり、天龍の傍に龍田は居らず、足柄に良く注意された駆逐艦娘の姿は少なくなり、曙も姉妹達と食べているが何処か物足りない表情だ。

 

何より今の自分達には、一番の姉、お子さまとよく言われたりもしたが、一番の自慢であり、自分達を生かすために散ってしまった暁の姿がない。

 

それに、あの司令官も──

 

「響…」

「お姉ちゃん…」

 

背後から自分と同じく姉に守られた側の妹が背後から心配そうに声をかける。

 

妹たちの声で、響は我に返った。

 

響は制帽を目深に被り、二人に顔色を伺わせないようにする。

 

「んっ。何でもない。行こうか」

 

二人は響が何を思っていたのか何となく察していた。

 

だからこそ、二人は何も言うことはしなかった。

 

この光景は誰のせいでも無い。響のせいでも、ましてや彼女たちの司令官のせいでもない。

 

強いて言うなら運がなかった。仕方のない事だった。

 

その言葉しか思い浮かばない。

 

自分達がしていたのは戦争。命が簡単に散っていく場所。必ず帰れる保証なんて無い。

 

この言葉は、戦場に赴いている彼女達だけが当てはまる言葉じゃないと思い知った。

 

三人は何も語ることなく間宮達がいる配膳受付までやってきた。

 

「いらっしゃい響ちゃん。提督ならまだ来てないわよ」

 

彼女たちの司令官はまだ来ていないらしい。

 

彼は自分一人の為に料理を作ることは少ないのでよっぽどの事が無い限り食堂で昼食をとる。

 

来てないなら、これから来るはずだ。彼も座れるテーブルに座ろう。

 

響は間宮に本日の昼食を注文し、六人席に座る。

 

雷と電も注文を受けとり、響が座っているテーブルの向かいに座る。

 

三人は食べることはしない。

 

「私は気にしないでいいよ。二人は先に──」

「私達も待つわよ」

「お姉ちゃんだけ、仲間外れにはしないのです」

 

 

響は彼を待つつもりでいた。だから、二人に先に食べるように促そうとしたが、二人は響の勧めを断った。

 

全く、良くできた妹達だ。

 

響の口元が僅かに緩む。

 

「ありがとう。じゃあ、一緒に待とうか」

 

二人は響の提案に笑顔で頷いた。

 

待っていた人物はその三分後に食堂にきた。

 

響にはその時間が何故だかとても長い物に感じたが、妹達のおかげで彼が来ないのでは?と言う不安が強くならずにすんだ。

 

司令官は響達の姿を確認すると速歩きで配膳受付まで向かい昼食を受け取った。

 

司令官は気まずそうな笑いを浮かべる。

 

「ごめん。一緒に座っても大丈夫かな?」

 

三人は笑みを浮かべて彼の事を受け入れる。

 

「ほら、隣に座ってよ」

「そうそう。ちゃんと響の隣にね」

「なのです」

 

今の響と司令官は特別な関係とは言えない。響は今でも彼のことを慕っているが、彼の方は彼女たちにはわからない。

 

許しを貰った司令官は響の隣に座る。

 

響は誰にも気づかれないように椅子を彼の近くに寄せた。

 

隣にいる彼は気づかないが、向かいにいる妹達は気づいている。

 

だが、彼女たちは冷やかすことは言わない。これが、今の響の甘え方だから。

 

司令官も座ったことを確認すると四人は両手を合わせる。

 

「「「「「頂きます」」」」」

 

響には、大切な姉である暁と、あの時の彼の声が聞こえたような気がした。

 

 

 

昼食を終え、本日の仕事も終わらせた響は、私服に着替え、今日の残り時間を彼と過ごすために使った。

 

とは言え、元々彼と過ごす為に使うことは決めていたのだが。

 

彼と響は散歩がてら街に行くことにした。

 

街でウィンドウショッピングにつきあって貰ったり、本屋でお勧めの物を互いに勧めあったり、人気の映画を一緒に見たり。

 

それは響が彼と初めて二人きりで行ったお出かけの日をなぞった行動だった。

 

このプランは彼が昔自分をエスコートしてくれたときの物。

 

響は淡い期待を込めて、このプランを再現した。

 

司令官は楽しんでくれた。

 

だが、彼女が望んだ成果は出ない。

 

響は最後に、沈みゆく夕日と茜色に染まる街が美しく望めるスポットに彼を連れ行く。

 

彼が好きだといい、響自身も気に入っていた場所だ。

 

「凄いね。響ちゃん、いい場所を知ってるね」

「…大切な人が教えてくれたんだ。私も気に入ってるよ」

 

目の前にいるのは大切な人。

 

──だけど、自分が全く知らない人。

 

響ちゃんと呼ばれる度に響の中で、振り払えない寂しさが募ってゆく。

 

響は小さな手で彼の大きな手を繋ぐと、寂しそうに言葉を紡ぐ。

 

「司令官、何かを思い出せそうかい?」

 

響は彼の顔を見上げて問いかける。

 

淡い期待をそこに込めて。

 

「ごめん。響ちゃん、やっぱり思い出せない」

 

彼は響の顔を見ることが出来ず、俯いて響に返す。

 

彼にもわかっていた。この言葉は彼女を傷つけることを。この言葉を言うのが辛かった。だけど、言わないわけにはいかない。傷ついた不死鳥をこれ以上深く傷つけないために。

 

響は彼に表情を見られないように帽子のツバで顔を隠した。

 

「そう。そうか…」

 

帽子で隠れた響の表情は今にも泣きそうで、だけど涙を必死に堪えて零れ落ちないように耐えている胸が痛くなるような表情だった。

 

 

 

 

 

 

最後の戦い。

 

人類の存亡をかけたあの戦い。

 

この鎮守府は勝利するため大きな代償を払った。

 

この鎮守府に所属する数多くの艦娘が沈んだのだ。

 

この代償は払いたくて払った物ではない。誰も望まなかった代償だ。

 

大好きだった姉妹を失い、皆心に深い傷を負ったが、その中でも更に酷い傷を負った人がいた。

 

それが、彼女たちの司令官。今響の隣にいる人物だ。

 

彼は艦娘と深い絆を結んでいた。それこそ、艦娘の姉妹達の繋がり以上の繋がりを。

 

それが彼を蝕んだ。

 

彼の優しさが彼を深く傷つけてしまったのだ。

 

彼は確かに懐の深い人間で皆から深く慕われていた。

 

だが、彼の心の強度が懐の深さと比例している訳ではない。

 

彼は少しずつ傷ついていたのだ。艦娘が傷つく度に、大好きな者達が痛みに喘ぎ苦しむ度に。

 

彼は皆が少しでも快適に、戦いによる精神の傷を癒すために皆を甘やかしてきた。

 

皆も彼に甘えてしまった。

 

誰も気づけなかった。彼の心は本当は硝子のように繊細で傷つきやすいことに。

 

彼の甘やかすという行動は、皆の為と言う理由と、自分の傷を隠し通す為だと言うことに。

 

事実、彼のその演技は上手く、誰にも気づけなかった。

 

いや、もしかしたら気づいていたのかもしれない。皆、戦いの最中で心の余裕が合ったとは言い切れない。

 

だから、自分の宿り木が無くなることを心の何処かで恐れて見て見ぬ振りをしてしまったのかもしれない。彼に甘えるというのは、それ程までに彼女たちの支えとなっていたから。

 

だが、彼女たちは遂に彼の心と向き合う事になる。

 

それこそ、最後の戦いの終わった後の事だ。

 

 

 

最後戦いの戦闘配備はバラバラで、姉妹が沈んだ姿を見てしまった艦娘も入れば、最後を見届ける事が出来た艦娘もいる。

 

丁度いい例が、金剛達が金剛と榛名、比叡と霧島に別れ、比叡と霧島が友軍の撤退するための時間を命をとして稼ぎ、名誉の最後を迎えた。

 

逆に響達は四人とも同じ配備となり、敵の追撃から逃れるための囮となって自分達の目の前で名誉の最後を迎えた。

 

響は忘れない。

 

暁が自分達に最後に言った言葉を。

 

「私は皆のお姉ちゃんなんだから。妹の為に我慢するのは、お姉ちゃんの特権よ」

 

大破し、身体を引きずりながらも微笑んで見せた姉の姿を。

 

我慢と言ったが彼女の身体はこれからの囮として役割を想像してか、震えが止まっていなかった。

 

一体どれほどの恐怖なのか、想像がつかないだ。だが、彼女はその恐怖を押さえつけて、自分達に笑って見せたのだ。

 

彼女のおかげで響達は生き残ることが出来た。  

 

姉妹の中で一番子供っぽいとも言われていたが、自分達にとって自慢の姉で、最高の姉であり、彼女以外に姉と認められる存在はこの先にも居ないだろう。

 

彼女の仲間達は立派に戦い、名誉の最後を迎えた。

 

勿論、残された側は悲しみ、涙を流すものまで居たが、彼女達は誰にも司令官に苦言を呈すことが無かった。

 

戦場で死者が出ることは確かに当たり前の事実だ。

 

だが、それだけではない。彼女達は、姉妹の事を誇りに思っていたからだ。彼女達の心に埋められない穴は開いてしまったが、それでも、その痛みを長く引きずる事は無かった。

 

だが、司令官は違った。彼はすべての艦娘の現状を把握する立場にいた。

 

この鎮守府の艦娘は最後の戦いで三割も減った。

 

彼はただ一人、艦娘達の最後を全て見届けていた。

 

彼は耐えられなかった。家族のように深く愛していた艦娘達が次々と沈んでゆく姿を。育んできた繋がりが途切れてゆく音を聞き続ける事を。

 

ただ一人でずっとその姿を見届けることしか出来なかった。

 

この戦いは、彼のひび割れた心に大きなひびを入れることになった。

 

だが、彼は逃げることはしなかった。それは、艦娘達が自分を頼りにしているからだ。

 

ここで逃げたらさらなる悲劇が巻き起こされる。だから、彼は逃げなかった。逃げることが出来なかった。

 

彼は崩れてゆく心を何とか繋ぎ止め、残った仲間と共に作戦を終えた。

 

そこで、彼の繋ぎ止めていた心は、繋げる力を失っていた。

 

響は作戦を終えると一番に司令官に会いに行った。

 

久しぶりに見た彼は、執務机に突っ伏して眠っている姿だった。

 

彼に話したいことは沢山あったが、彼もまた共に戦った戦友だ。

 

響は彼に布団をかけ、その横で彼の寝顔を拝みながら起きるのを待つことにした。

 

 

 

 

 

たが、異常事態が起きた。

 

彼がいつまでたっても目を覚まさないのだ。

 

病院に搬送され検査を受けられるも原因は不明。

 

もしかしたら、精神に異常を抱えたかもしれないと宣告された。

 

艦娘達は毎日彼の見舞いに駆けつけた。

 

全員で行っても病院側に迷惑がかかるため、見舞いに行けるメンバーは交代制だったが、彼と深く愛し合った仲である響だけは毎日行くことを許された。

 

彼女達は、司令官が眠りから覚めることを願いながら毎日見舞いに行った。

 

だが、一向に彼に変化が訪れない。

 

彼が寝込んでから十日以上がたったある日、響は昔童話で見た目を覚ます魔法を試してみた。

 

それは、愛する者による口付けだ。

 

彼は響にとって掛け替えのない存在、その魔法はもはや藁にも縋る思いだった。

 

響は淡い期待を込めて、彼の頬に手を添えて唇を重ねた。

 

彼女の祈りと願い、彼に対する溢れんばかりの愛する想いを込めて。

 

そして、奇跡が起きた。

 

彼の瞼がゆっくりとだが持ち上げられたのだ。

 

響は何度も自分の目を疑った。

 

だが、響が困惑している間にも彼の瞳は露わになってゆく。

 

響は零れそうになる涙を何とか抑える。

 

彼が目を覚ましたのだ、彼を不安させるわけにはいかない。

 

彼は上半身を起きあがらせると、響の姿を確認する。

 

それだけでも、抑えていた涙の堤防が決壊しそうになるが、まだ堪える。

 

そして、久しぶりの彼の言葉が響の耳朶を叩いた。

 

「あの…、僕はどうしてここにいるのですか?」

 

彼から届いた台詞は衝撃的な物だった。

 

彼女の記憶の中では、彼の一人称は私だったし、話し方も最初は固かったが、今ではいくらか崩れているが丁寧な言葉遣いと言える物だった。

 

その筈なのに、

 

「司令官…、どうして――」

「司令官?僕の配属先はまだ発表されてない筈ですけど…」

 

彼の表情、話し方から彼に異常が出ていることを響は察した。

 

だがそんなことよりも、彼が、大切で掛け替えがなくて、大好きな彼が自分の事を他人の様に扱う事に響は抑えていた涙を遂に流してしまった。

 

先程まで嬉しさから来た涙が、今では悲しみに染まってしまった。

 

「司令官…司令官… 」

 

思わず彼の手を掴んで彼の敬称を口にする。

 

でも彼は困ったような表情をするばかり。

 

響の涙は止まることを知らない。

 

「──」

 

最愛の人の名を呼ぶが、やはり彼は困った表情を浮かべるだけ。

 

響は彼にこれ以上泣き顔を見られないように俯いた。

 

これ以上の顔は今は誰にも見せたくない。

 

彼女が俯いてしまい、彼は響に泣きやんで貰うために頭を優しく撫でる。

 

その手つきが響の知る彼と全く同じで、響の上擦った泣き声は更に大きくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

響の声で異常を察した看護師が、すぐに担当医を呼びつけ、検査を受けることになった。

 

彼の身体的な容体に異変は無し。

だが、懸念された通り精神面での異常が発生した。

 

彼の記憶が失われていた。

 

だが、失ったと言ってもよくあるような記憶喪失の様にすべての記憶が無くなったわけでは無い。

 

彼が提督として着任した後の記憶が無くなってしまったのだ。

 

それ以前の記憶は存在する。

 

彼の幼少期の記憶、少年期の青春の思い出。

 

その記憶があるのに青年期の自分達との思い出だけが無くなった。

 

その事を主治医から聞かれた時、響は目の前が真っ白に染まった。

 

響には、自分達との思い出が彼の中で否定された事と同じだからだ。

 

響は在りし日の思い出話を聞かせるが、彼の瞳は困惑したように潤むばかり。

自分と恋人だった事を勇気を持って語るが、やはり彼の表情は晴れなかった。

 

響の心は真っ暗な黒に染め上げられそうになるが、医者はまだ希望がある事を伝えた。

 

もしかしたら、彼の失われた記憶の事をなぞれば、記憶が復活するかも知れないという事だった。

 

彼が退院すると、響は行動を開始した。

 

彼との在りし日の思い出をなぞる様に思い入れのある場所を巡った。

 

ただし、今の彼には執務が精神的な負担につながると考えられたので、ある種の元凶の一つと言える執務は艦娘達だけでこなすことにしたが。

 

彼に今の状況を説明する事から始まり、そこから今までどのように過ごしていたのか実践するように言い聞かせた。

 

だが、彼からは響たちが望むような反応が訪れない。

 

彼も彼なりに艦娘と真摯に向き合い最初は丁寧な言葉遣いだったが、今ではいくらか崩した言葉遣いとなった。

 

自分の事を響ちゃんと呼んでくれるようになった。

 

だけど、記憶を失う以前の響の呼称は響だった。

その事が、目の前にいる人が自分の愛している人違う事を突き付けられている様で、響の胸が苦しくなった。

 

それでも、彼の記憶が戻る事は無く、響は健気に彼の記憶が戻る事を祈りながら行動を続けた。

 

そして、その行動は今も続いている。

 

 

 

今日は響の初デートの思い出をなぞってみた。

 

だが、今回も成果が無かったようだ。

 

響は涙を堪えて縋る様に彼を見上げる。

 

彼の表情は自分と同じように今にも泣きそうな表情だった。

 

響は彼の表情を見て察した。

 

ああ、彼も悲しいんだ。

彼も自分の事がわからなくて怖いんだ。

 

響は静かに彼の手を握った。その温もりに縋りつくように

 

彼も響の小さくて握りつぶしてしまわないか心配になる手を優しく握り返した。

 

彼らは泣かなかった。

だが、心の中で振り続ける雨は二人とも止んでくれない。

 

そして、二人の傷ついた心では冷え切った心を温められそうにない。

 

二人が初めて見たとき、強く輝いて見えたその景色は、二人には酷く色あせて見えてしまった。

 

 

 

響はその後も彼の記憶の修復の為の行動を続けた。

 

だが、どの思い出も彼は上手く思い出せないと言う。

 

響はその度に寂しそうな悲しい表情になる。

 

その表情は彼の重荷となってしまう為、出来るだけ見せないようにはしているが彼には彼女が悲しんでいるとわかっていた。

 

その度に二人は傷ついていく。

 

他の艦娘達は無理する事は無いと言った。

響は諦めきれなかった。

それは響の幼さからくるところもあるが、それ以上に大好きな人が自分を忘れたと言う事実に耐えられなかったからだ。

 

響は知らないが、彼も思い出すことを諦めなかった。

響が悲しむ顔を見るのが嫌だと言ったそうだ。

 

だから、二人は前に進んだ。

 

お互いに傷を広げるだけだと理解していながら。

 

 

ある日のことだ。

 

彼から響にとあることを聞いて来た。

 

「ねえ、響ちゃん?」

「なんだい?」

「響ちゃんと恋人だった僕とはどんな生活を送ってたの?」

 

恋人としての生活、それは響が彼にあまり話さなかった事だった。

 

今思うと戦時中だった事も合った為、余り恋人らしい生活は送っていなかった。

 

やっていた事と言えば、一緒の部屋に寝泊まりしたり、偶にお出かけをしたり、ふとしたタイミングで愛の告白をされて顔を真っ赤にしたり、偶に夜の営みに発展したり。

 

そこまで、思い出して響の顔は真っ赤になり、彼に背を向けた。

 

ああ、司令官とは深く愛し合っていたんだなと今更ながら自覚した。

 

その思いと同時に響の胸は苦しくなる。

今の司令官は自分の事を思い出せない。

自分の事を深くわかろうとしてくれるほど余裕があるとは言えない。

 

だから、あの時出来てたことは今も望めないのだ。

 

その事を想った時、響の顔色はいつも通りに戻ってしまった。

 

響が振り返ると、心配そうな視線を向ける少年の姿があった。

 

心配いらないよと彼に言葉をかけると、響は彼と過ごした『恋人としての日々』を語り始める。

 

彼にケッコン指輪を贈られた事がきっかけで彼に告白され付き合い始めた事。

 

彼に告白される以前から本当は好きで、機会を伺っていたが自分から出来なかった事。

 

皆から冷やかされたり、羨望の目を向けられながらも祝福された事。

 

相変わらず業務が忙しかったがお互いに時間をやりくりした事。

 

彼とは近くの町によく出かけた事。

 

自分に愛を囁いてくれたが自分は中々返せなかった事。

 

彼が尚更自分を甘えさせようとしていた事。

 

自分はより一層彼に甘えるようになった事。

 

彼が意外とキス魔で、ふとした拍子に唇を奪われた事。

 

彼と一緒の部屋で生活をしていた事。

 

話せる限る響は話した。

 

情事の事は今の彼が聞いても特にならないと判断したし、やっぱり恥ずかしいのが一番だった。

 

彼は響の話す、恋人だった自分の事を楽しそうに聞いていた。

 

「今でも、『前の僕』は好きかい?」

 

彼は何気ない会話をするように響に聞く。

 

響は顔を真っ赤にして、頷く。

 

「そっか。愛されてたんだね」

 

響は俯いて気づかなかったが、この時の彼は何処か複雑そうな表情を浮かべていた。

 

彼の記憶に変化は無い。だが、彼の心の中の変化は静かに置き始めている。

 

だが、彼は『前と同じ』様に演じるのが上手いと言えたのだろう。

 

彼の変化は今の響には感じ取れなかった。

 

「うん…」

 

俯きながらも響は先程言った事を頭の中で復唱していた。

 

彼は自分の事を優先してくれた。だけど、自分はその事に胡坐をかいていて彼の事を優先していたとは言い切れない。

 

過去の自分に嫌気がさす。

 

自分は彼の事を支えてとは言えないじゃないか。

 

響は暗い表情で顔を上げる。

 

響の顔に彼は苦笑をうかべながら言う。

 

「ねえ、響ちゃん?」

「どうしたの?」

「もし、僕がさ。えっと…その……いいや、何でも無い」

 

彼は自分から語りだそうとしながらやっぱりやめてしまった。

 

響は思わず、おかしな司令官と言いながら微笑んだ。

 

彼は、彼女がふと零した笑みを思わず凝視してしまう。

 

その笑顔には彼の胸の中を温める何かが合ったのだ。

 

響が表情を戻すと彼は顔を赤くして俯く。

 

そして、また何でも無いと言うが、胸の内を埋めてゆく何かを改めて感じ取った。

 

彼は感じ取っていた。自分に起きている変化を。

 

目の前の少女を見る目が少しずつ変わってきている事に。

 

響は気づかなかった。

彼が少しずつ変わっていっている事に。

 

それは、彼の過去の姿を見続けている。

 

その事が、彼に胸の痛みを感じさせることになっていった。

 

響は彼に調子を問うが、彼は相変わらず困った笑いを浮かべるだけ。

 

その度に響は淋しそうな表情となる。

 

やはり、響には彼の中で起き始めている変化に気づくことは出来なった。

 

だが、響の中でも変化が起き始めている。

 

それは彼の事を過去の司令官とは違うと捉え始めている自分がいるという事だ。

 

そして、その事が更に彼女の胸の痛みと彼の胸の痛みを感じさせてしまった。

 

 

 

 

ある日、響は夢を見てしまう。

 

それは、大好きな司令官との思い出がガラスの様に砕けてゆく夢だ。

 

響は砕けて行くことを何度も拒絶した。

 

しかし、思い出たちは無慈悲に粉々に砕け散ってしまう。

 

殆どの記憶が砕ける中、彼女の司令官が目の前に現れた。

 

夢の中の響は思わず彼に抱き付いた会いたかった。ずっと、会いたかったと泣きつきながら。

 

だが彼からは望んだ温もりが帰って来ない。それどころか彼からは何もしてこない。

 

疑問に思った響が彼の顔を見てみる、彼の顔に大量のひび割れが入っていた。

 

いや、顔だけじゃない。体全体にひび割れが行き渡り、あの時の彼の心の中を示しているようだ。

 

彼は響の頭に手を置くと、ごめん、とだけ言って彼は粉々になって砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

そこまでの所で響は目が覚めた。

 

汗で拭くが張り付いて気持ち悪い。

何だか身体が重い。

 

しかし、それ以上に感じる物が合った。

 

それは体の寒さだ。

 

身体が酷く冷え切っていて、思わず自分の身体を抱きしめるが足りない。

 

まだ寒い。温まれない。このままでは体は凍り付いてしまう。

 

響は気づいてしまった。

この身体を、冷え切ってしまってどうしようも無い体を温める方法を。

自分に安心感を与えてくれるその温もりを。

 

響は二人の妹が寝ている寮部屋からこっそりと抜け出すと、すぐさま廊下を駆け抜けた。

 

行かないと。もう、自分には耐えられない。

 

先程の夢のせいで響の中に恐怖が湧いてしまった。

もしかしたら、司令官が何処かに行ってしまうのではないかと。

 

響は目的の部屋まで、たどり着くと持っていた合鍵で部屋の鍵を開ける。

 

響は寝室まで慌ただしくかけてゆくと、そこには今まさに寝ようと準備をしていた部屋の主が居た。

 

「ひ、響ちゃん?!」

 

部屋の主とは勿論彼だ。

 

ああ、居てくれた。

 

響は安堵を覚えながらも彼に飛びつく。

 

彼は響の勢いに思わず体が倒れてしまう。

 

「ど、どうしたの!?」

 

彼は相変わらず驚きの表情だが、今の彼女には関係ない。

 

身体が冷たくて仕方がない。彼の温もりを、自分が一番温かく感じる

 

響は少し強引に唇を奪う。

 

彼は驚き、彼女に対して何も抵抗が出来ない。

 

響はゆっくりと唇を離す。

 

響の突拍子の無い行動に彼の目は丸くなっている。

 

「響ちゃ――」

 

響ちゃん、いつもの呼称を言われそうになったところで、また響は唇を重ねる。

 

今度は何も喋らせないように舌を侵入させて。

 

「んぅ!?」

 

彼は響の大胆すぎる行動に驚き、肩を掴んで離させようとするが、響は下を絡ませることを止めようとしない。

 

彼の舌は響の舌を押し返すことが出来なかった。

 

何故なら、響は彼の事を知り尽くしていたからだ。

 

彼の舌を舌で舐め、彼の歯列をなぞり、また舌を絡ませる。

 

「むっ、んぅ」

「ん、むんっ、んぅ!!」

 

その度に二人の間から粘着質な音が響き渡り、二人の耳まで犯してゆく。

 

響の方から唇を離すと、二人の間に透明な架け橋がかかるが、橋は重力には逆らえ切れず、中心から崩れ落ちた。

 

響は熱を帯びた瞳で彼を見上げる。

 

「どうしたの?」

 

彼は響の様子から慌てる事はせず、冷静に響に問いただす。

 

響の問いかけに響は彼の胸に飛びつくと、その胸の中で語った。

 

「寒いんだ。司令官」

「寒い?」

「だから、温めて欲しいんだ…。君のすべてで、私を愛してほしい。お願い、このままじゃ寒くて死んじゃいそうだよ…」

 

その言葉は、彼の記憶が失ってから初めて吐いた弱音だと言えるだろう。

 

彼女の身体は確かに寒そうに震えていた。

――震えながら泣いていた。

 

だけど、彼はその思いに答えていいかわからなくなる。

 

だって、彼女が求めているのは――

 

「今の僕じゃないんでしょ?駄目だよ」

 

彼女が今の自分を見ているとは言えないのは自覚している。

 

だから、その思いに答える事は出来ないのだ。

 

それでも、彼女は求めてしまう。彼の温もりを。

 

「お願い。怖いんだ。君が何処かに行ってしまいそうで」

「そんな。僕は何処にも――」

「でも、私は怖いんだ!!お願いだから、お願いだから私から離れないで、私と一緒に居て、私の傍に居て、私を温めて――」

 

彼女の声、絞り出すように出した悲しい声に、彼は断れなくなってしまう。

 

彼女は欲しいと言ってくる。自分の温もりを。

 

それは彼女の安心感を得るための物だろう。

 

そんな事はわかっていた。

 

だけど、彼の中ではある思いが大きくなって来ていた。

 

それは、響の事を愛しく思う気持ちだ。

 

彼の中で響の存在は大きくなっていた。

 

今の自分を支えてくれる存在。自分をお世話をしてくれる存在。自分に教えてくれる存在。自分に甘えさせてくれる存在。

 

彼女には感謝してもしきれない。その想いは何時の間にか愛しさへと変わっていた。

 

その愛しく思う彼女が自分を求めてきてくれる。それが、自分の中に潜む陰であっても。

 

彼は響の想いに応える事にした。

 

彼は響と上下を入れ替える。

 

そして、両手を彼女の首の近くに置き、自分に注目させる。

 

「後悔しないでよ?」

 

彼は響の唇に自らの唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ちゃん」

「お願い、響って呼んで」

「響」

 

その言葉に響の胸の仲が震える。

 

彼女が大好きな人の声で名前を呼ばれる。

それだけでも、自らの体温が上がってゆくのを感じた。

 

彼は響のパジャマのボタンを外してゆく。

 

今の彼はボタンを外す事に手間取っていて、その事が響に愛しさを感じさせた。

 

手間取りながらもボタンを外すと彼女の白い下着に覆われた薄い胸が露わになる。

 

いや、胸だけじゃない。彼女の細いお腹、僅かな月明かりを反射し輝く白い肌、そのすべてが露わになる。

 

彼は思わず息を飲み込む。

 

「綺麗…」

 

可愛らしい彼女の容姿から予想が出来ないくらいに彼女の身体は綺麗な物だった。

 

彼女は目を瞑って、下も脱がす様に勧める。

 

響に勧められるまま、ズボンも脱がすと今度は肉付きの薄いが綺麗な足と、彼女の秘所を護る白い下着も露わになる。

 

そのこまで脱がされると、恥ずかしさが来たらしく、響の顔は赤く染まる。

 

「司令官…」

「響…」

 

熱にうかれた恋人同士の様に唇を重ねると、響から司令官の口内に舌を侵入させる。

 

「んっ…」

「んむっ…」

 

二人はした同士を交じり合わせると、その隙に彼は響の背中に手を入れてホックを外し、唇を離すタイミングと同時に下着も外した。

 

今度は、響の薄い二つの胸の膨らみとその中心にある色素の薄い胸のつぼみまでも眼前に現れる。

 

「司令官…」

 

彼は、響の胸に目を奪われ思わず凝視してしまう。

 

響の胸の頂点はその視線を受けて少しずつ興奮の視線を受けてたってしまう。

 

響の身体は見た目に反して彼の色に染まりあげられている。だから、彼の興奮を秘めた視線を受けて彼女も興奮してしまうのだ。

 

その光景が余りにも綺麗な芸術作品の様で、彼は目を離せない。

 

「司令官、触って欲しいかな」

 

響の言葉を受けて、彼は飛んでいた意識を取り戻し、響の首筋を舐めた。

 

「んぅ…」

 

響の首筋からは甘いようなどこかミルクの様な不思議な味を感じる。

 

本当は味なんて全然ないかもしれない。でも、彼にはその味を感じ取れたのだ。

 

彼は空いた手を彼女の薄い胸に伸ばし、優しく触れる。

 

そんな風に触れただけでも彼女の身体は大きく震えて反応している。

 

彼は勇気を持って彼女の胸を揉みこむように手を動かす。

 

「あっ…」

 

彼女の胸は確かに薄い。だけど、そこからは確かな柔らかさを感じた。

 

柔らかい。薄くても胸は胸だ。

 

今の彼にとって、昔の記憶を辿っても胸を触った記憶は無かったが、何故だかそんな事を感じた。

 

「気持ちいい?」

 

女性経験が記憶にない彼は、不安げに響に問う。

 

響は気持ちよさで顔を赤くしながらも確かに頷く。

 

彼は嬉しそうに微笑んだ。

 

彼は恐る恐るといった感じで、響の淡い色素の頂点に指を触れる。

 

その頂点は固くなっていて、彼女が興奮してるという事を確かに感じ取らせた。

 

彼はクリクリと両方の頂点に触れる。

 

「あっ…、はぁ…」

 

響から少しずつ甘い声が零れる。

 

少しばかり調子に乗って、両方の頂点をつまみ上げる。

 

「ああっ!!」

 

響からは一際大きな甘い声が漏れた。

 

彼は自分の手で響が感じている事に確かな嬉しさを覚えた。

 

愛しい。この子が愛しい。

 

彼は顔を胸に近づけると、首筋を舐めあげた時と同じように舐めあげる。

 

「んっ、んう!!」

 

響の震えが大きくなり、初めての情事を行う彼でも興奮している事が手に取る様にわかった。

 

ここで彼の中で更に彼女の甘い声を聞いてみたいという願望が大きくなる。

 

彼は唇で彼女の頂点を挟み込む。

 

彼女の身体が一際大きく震える。

 

「あっ!!司令官…」

 

響の両腕が彼の頭を包み込む。

まるで自分の胸に抱き留めるかのように。

 

彼は響の頂点に吸い付き、乳飲み子の様に吸い上げた。

 

「んっ!!はっ!!ああ!!」

 

響の背が仰け反るほどの大きな快感が押し寄せる。

 

彼はその反応が嬉しくて彼女の頂点を舌で舐め上げ、吸ったりしながらどんどん彼女に快感を与えてゆく。

 

勿論、反対の胸も忘れていない。

追い打ちをかけるように彼は響の頂点を摘みあげた。

 

「ああっ!!ああああ!!!!」

 

響はひときわ大きな声を上げると、彼を抱き留める腕の力が無くなった。

 

彼は胸から顔を上げると彼女の顔を観察する。

 

彼女の瞳は熱を帯びて潤み、口からは涎が垂れていて何とも淫乱な姿だった。

 

「可愛い」

 

思わず言葉を漏らすと彼は再び唇を重ねる。

 

舌を絡めるような事はせず、唇を重ねるだけの優しいキスだ。

 

響は蕩けた表情で彼の大きな手を掴むと、下着に覆われた秘所に手を持ってゆく。

 

彼女の下着は濡れていたが温かかった。

 

「触るよ?」

 

響が頷いた事を確認すると、彼は下着を彼女の細い足から抜き取る。

 

彼女の下着と秘書からは粘着質な橋が架かり、彼の興奮をより一層大きなものにさせた。

 

彼はゆっくりと彼女の秘所の中に指を入れる。

 

温かい。

 

彼の中にはその感想しか生まれなかった。

 

彼女の仲を傷つけないように優しく中の肉壁に触れてみる。

 

「あああっ!!」

 

彼女の反応は胸に触れていた時よりも大きく激しい物だった。

 

彼女の中の反応を楽しんでいると、彼女の秘所でも固い部分に触れる。

 

「あっ!!そこはっ!!」

 

そこは所謂秘芯と呼ばれる場所だ。

 

そこに触れると彼女の反応が良くなるとわかった彼は、彼女の秘芯に触れながら、秘所を弄り回す。

 

「ああっ!!しれい、かん!!あああああ!!!!」

「大丈夫だよ響」

 

響は彼の声に導かかれ再び絶頂に達した。

 

 

 

響が落ち着くと、彼に懇願をした。

 

「司令官、来て」

 

その言葉が何の事を示しているか彼にもわかった。

 

「いいの?」

「お願い…」

 

彼女の熱にうかれた懇願の言葉に彼は頷く。

 

彼は響と同じように自分の着ていた物を全て脱ぐと、自らのモノを響の秘所に当てる。

 

響の秘所は小さいので自身のモノが入るか不安になる。

 

だから、少しずつ響の中に挿入していく。

 

「ああ…」

 

入るたびに響の声が大きくなる。

 

その度に彼の中で愛しさが増してゆく。

 

「あっ!!」

 

半分ほどは入り切ると響の声が更に艶やかな物となる。

 

「あああああ!!!!」

 

そして、響に自身のモノが全て入りきると、響は背を逸らして敏感に反応した。

 

「良いよ、司令官…」

「うん…行くよ?」

 

響が落ち着いた事を認め、彼は大きく腰を動かす。

 

「あああっ!!司令官!!」

「んっ!!響!!」

 

彼女の中は彼の事を歓迎するかの様に絡みつき、彼にも快感を与えた。

 

それでも、彼は動く事を止めない。

 

お互いの絶頂にたどり着くために。

 

「響っ!!響っ!!響っ!!」

「司令官!あっ、ああ!!」

 

響の中が余りにも気持ちよすぎて、彼の限界が近づきつつある。

 

対する響きも限界寸前だ。

 

互いに離れないように強く抱きしめ合う。

 

いかなる時も離れないように。

 

互いの与える快感を互いの深い温もりを感じながら身で味わう。

 

「ひびき…行くよ?」

「うん…。来て…」

 

その言葉が彼の我慢を崩壊させる合図だった。

 

彼は自身のモノから熱い液体を響の中に注ぎ込む。

 

響は秘所の中から感じる熱い彼の証に満足げな表情を浮かべる。

 

彼は、一旦力尽きてしまい、荒い息を吐きながら彼女の幼い肢体にのしかかった。

 

「ありがとう…――」

 

響は司令官では無く、彼の名前を告げて満面の笑みで眠りの世界へと落ちて行った。

 

「ありがとう。でも起きたら、君に伝えさせてくれるかな?」

 

彼女を起こさないようにゆっくりと自分のモノを抜くと、彼は彼女の横に寝っころがって眠りの世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

次の日の朝、響は体を揺すられて起きた。

 

「響、響…」

 

耳朶に響くのは大好きな人の声。

 

響はゆっくりと瞳を開ける。

 

そこに居たのは、大好きな人。

 

――私との記憶を失ってしまった人。

 

のはずだった。

 

「私だ響」

 

私、その一人称ですぐさま微睡んでいた意識が覚醒した。

 

「司令官?」

「そうだよ。私だよ」

 

その口調から、響は自分達の司令官が戻ってきたことがわかった。

 

「司令官!!」

 

響は布団の中で、彼の胸に抱き付いた。

 

昨日の情事をしたままの格好なので彼の体温が直に感じる。

 

その温かさが彼女には心地よかった。

 

「久しぶりだな、響」

 

司令官は慈しむように彼女の髪を撫でる。

 

その心地よさに、響は目を瞑って堪能する。

 

「戻ったんだね」

 

響は歓喜の声を上げるが彼から言葉が帰って来ない。

 

疑問に思って彼の事を見上げると、彼は悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「悪いが、すぐにお別れだ」

「ど、どうして!?」

「今の私は、昔の私の精神の残りカス。長くは持たない」

 

そう。

今の司令官の人格は、元人格の残りを集めて何とか再構築しただけに過ぎない物だ。

一度粉々に砕けたガラスは元に戻らないように、一度壊れた彼の人格は戻る事は無かった。

 

「だから、響だけには最後の言葉を言いたくてな」

「そんな…」

「まぁ、聞けって。悪い話では無いからさ」

 

司令官は抱き付く響を離すと彼女と目を合わせた。

 

響はその瞳に吸い込まれるように視線を離すことが出来ない。

 

「響、私はずっとお前の事が好きだ。それは、今も昔も変わらない」

「うん。私も変わらないよ。私もずっと大好きだよ」

「そうか。なら良かった。だからこそ、響には言いたい。この私の事を忘れてくれ」

「っ!?どうして!?」

「この人格は余りにも我慢をしすぎて壊れた。お前達に負担をかけたくないばかりに」

「私達にも責任があるよ。司令官だけのせいじゃない」

「そうかもな。だけど、この人格じゃ駄目なんだ。お前達を完全に頼れないようなこんな人格じゃ」

「そんな事無いよ!!司令官は私達を頼って――」

「いや、頼って無かった。頼ってたら、もっとお前にも弱みを見せてたはずだ」

「…そうだけど」

「だから、今のお前が知る人格が、多分最高の私だと思う。だから、好きになるなら今の私を好きになってくれよ」

「だけど…」

「確かに難しいよな。だけど、悪いけどこの私は完全に消える。だから、私の事は諦めてくれ。私からの最後の我儘だ。身持ちが固かったお前が許したんだ。アイツもいい男だろ?」

「司令官…」

 

最後の我儘以前に司令官からは我が儘を聞いたことが無かった。

 

それこそ、艦娘達の我儘を優先してくれた結果だろう。

 

その彼が、消えゆく彼が最後の我儘を言ってきたのだ。

 

だから、彼女は静かに頷いた。

 

溢れ出る涙を押さえて。好きだった人を忘れる事を決めた。

 

「うん。ありがとう。我が儘言ってごめんな」

「いいさ。司令官の我儘も聞いてあげないと」

「ああ、ありがとう。それと本当に最後の一言だ」

 

司令官は頬を掻きながら照れくさそうに笑う。

 

響は涙で霞む視界で笑う彼の事を捉える。

 

「響、私はずっとお前の事が好きだ。お前だけを愛している。例え、自分を失っても。何度でもお前を好きになる」

「司令官…。ありがとう。ずっと司令官の事が好きだよ」

「うん…。ありがとう」

 

司令官は安心したような笑みを浮かべると、再び瞼を閉じた。

 

響は悟った。『彼』がもう行ってしまうと。

 

だから、これ以上、我儘をいう事はしない。

 

この別れは宿命。響がどんなに駄々を捏ねても、行かないでと言おうとも、『彼』とのお別れは定められている。

 

「ありがとう……。君が私に捧げてくれた愛の数々、私……忘れないよ……」

 

別れる事が決まっているのなら、今までの事の礼を伝えて――

 

「さようなら……」

 

惜しむように、しかし、『彼』の言った『何度でも響を愛する言葉』を心から信じる様に、くしゃくしゃで、不細工で、でもそれ以上に『彼の真摯な愛の告白』を愛おしむような笑顔で、司令官の事を見送ることにした。

 

「ありがとう……」

 

彼女の笑顔で安心した様に『彼』は瞳を閉じる。

 

彼女の涙は彼から寝息が聞こえても止まらないが、そこにはもう悲しみ等は無く、愛しさが彼女の顔に溢れ出ていた。

 

 

 

響が泣きつかれながらも、彼の寝顔を見守っていると彼が起き始めた。

 

「響ちゃん?」

 

やっぱり、彼は自分の事を響とは呼ばず響ちゃんと呼ぶ。

 

だけど、胸の苦しさは感じない。

 

響は泣きながら考えていた。目の前の彼の事を。

 

確かに司令官の言う通り、自分は身持ちが固かったと思う。

 

それでも、今の彼に身体を許したのは、今の彼の事も少しずつ好きになっていたらだと思う。

 

司令官は、自分を失っても自分の事が大好きだと言ってくれた。

 

自分も司令官と同じだったのだろう。自分も司令官の中身が変わっても、彼の事が好きだったのだ。

 

「あの、言いたい事があるけどいいかな?」

「んっ?何だい?」

 

不思議と今の響には彼が何を言いたいかわかった。

 

「あの…順番がおかしいかもしれないけど、僕と付き合ってくれませんか?響ちゃんが過去の僕しか見てないのはわかるけど、それでも今の僕を見て欲しいんだ。でもね、今の僕も響ちゃんの事が大好きなんだ。だから―――」

 

ああ、確かに彼も変わらなかった。

 

この人はもう一度、自分の事を好きになってくれた。

 

性格とかは確かに変わったところもある。

 

だけど、彼の本質は変わらないのかもしれない。

 

だから、今から彼とも向き合っていこう。

 

過去の司令官の事を完全に忘れ去る事は難しいが、それでも今の彼の事を大切にしよう。

 

返事を返す前に、響は彼と唇を重ねた。

 

「うん。いいよ。丁度失恋したばかりだしね」

「失恋?」

「そう。新しい恋人を募集中だよ。それと私と恋人になりたいなら条件を守ってね」

「条件?どんな?」

「一つ目は、我儘を我慢しない事」

「うん」

「二つ目は、相談したい事が合ったらすぐに私に相談する事」

「うん」

「最後に、私の事を甘えさせてくれる事、かな」

「うん。頑張るよ響ちゃん」

「でも、まずは響ちゃんから響と言えるように頑張ろう。ちゃんをつけられると子供扱いされてる見たいだから」

「そうだね。これからは恋人だからね」

「うん。君の事をもっと理解したいしね」

 

二人は自然と笑顔を浮かべる。

 

これからは新たな旅立ち。

 

今の彼からは昔の彼からは想像のつかない姿を見せてくれそうだ。

 

響の薬指の指輪は新たな旅立ちを祝うかの様に銀色の光を放っていた。

 

 

 

 

 

それから、響と彼は以前と同じように二人で執務をこなすようになった。

 

処理の速さと正確さは、前の彼と比べると負けてしまうが、その分響に聞いたり、頼ったりする事で解決した。

 

元の彼では無いが、彼が復活したことにより鎮守府の艦娘達も少しずつ活気を取り戻しつつあった。

 

皆実感したのだ。たとえ記憶がなかろうと彼が居てこその鎮守府なのだ。

 

重大な歯車がまた動き出した事が彼女達にとって一番大きかったのだろう。

 

そう、皆は彼の事が大好きなのだから。

 

それと、今の彼を見て、皆はこう思った。

 

もしかしたら、今の彼の方が皆と深く関われるかもしれない。

 

前までの彼は頼ってると言いながらも、頼られた側が何を頼られたかわからないような状態だった。

 

だけど、今は皆の事を積極的に頼るし、頼られている実感がある。

 

だから、お互いに支え合っている実感が持てるようになったのだ。

 

皆、深く傷ついていたが、やっと二人の傷も癒えてきて、皆の空いてしまった心の穴も新たなスタートを切ったことで少しずつ埋まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に皆と再び繋がりあう中、この鎮守府の閉鎖が決定した。

 

深海棲艦との戦争は終結し、艦娘も鎮守府も多くは必要ないと決まったのだ。

 

口惜しい気持ちはあったが、これからは平和な時代。物騒な物は数多くあってはいけない。

 

彼と響は皆に平和な時代に生きるように説得し、不平不満も言われたが、皆はこの鎮守府の閉鎖に同意した。

 

確かに皆にとって思い出は沢山ある。今の彼にとって短い間だったとは言え、皆と同じくらい思い入れがある。

 

だけど、留まってはいけないと判断した。

 

これからは、皆には色々な可能性がある。可能性の灯火を消さないようにするために、この判断が必要だったのだ。

 

そして、鎮守府がその役目を終えることとなった日、彼は昔も今も支えてくれたことにお礼を言い、皆からもお礼を言われ、この提督生活を終えた。

 

皆とはバラバラになってしまった。

 

響は彼と共に居ようとしたが、彼に諭され二人の妹ともに学校に通うことになった。

 

彼は響とまた会える日まで、新たな職場で働きながらその時を待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

それから、何年もの時が過ぎ去った。

 

響は彼と結婚した。響が大学を卒業する前に、彼が響にプロポーズしたのだ。

 

最も彼から離れて一ヶ月もしないうちに響が彼に会いに行ってしまったのだが。

 

響は見違える位に女性らしく育った。

 

顔からは可愛いと許容される幼さは失せ変わりに綺麗さが出てきた。

 

薄かった胸は大きく膨らみ、腰にはくびれが出来た。足も細長くモデルのような足になった。

 

彼は、可愛かった響が綺麗になってなんだか複雑だけど、それでも響は誰よりも最高の女性だ、と語る。

 

彼はやっぱり、変化には機敏な人だ。

 

響も意識しなかった変化も彼には易々とわかってしまうのだから。

 

響も彼の変化に機敏になった。

 

浮気などしようものならすぐさま感知できる位に。

 

とは言え、彼も響もお互いに一途なので、これから先も浮気などすることは無いだろう。これからもずっと。

 

そんな風に熱々な結婚生活を送る二人は、彼が今まで貯めてきた資金を元手に喫茶店を営業する事にした。

 

売り上げは上々。

 

元艦娘達が彼らのお店にやってきたり、地元の人間が通ってきてくれたり、美人な奥様とダンディな旦那様が経営すると言うことで有名になった。

 

経営が安定すると二人の特徴を受け継いだ女の子と男の子の子供を授かった。

 

今は子育てをしながら、二人と最近雇い始めた元艦娘の子供のアルバイトと共に店を切り盛りしている状態だ。

 

 

 

一日の営業が終わり、彼は明日の為の仕込みを初め、響は子供達を寝かしつけていた。

 

子供を寝かしつける事が出来た響は、厨房で仕込みを続ける彼の元に向かい、背後からおぶって貰うように抱きついた。

 

彼は一旦仕込みを止めて、響の頭を撫でる。

 

「んっ?どうした?私に何かようかな?」

 

「んっ。まだ、仕事モード?」

 

「あはは。ごめんごめん」

 

彼はダンディな旦那様と言われたせいか、一種のキャラづくりの為に、仕事中は昔の彼の様な口調で話すことになった。

 

最初の頃は、懐かしい彼を感じて響の胸が苦しくなるときもあったが、今は大丈夫。

 

響にはわかっているから。

 

どんなに変わっても彼は、響が大好きな彼なんだと言うことを。

 

彼の本質は変わらないという事を。

 

 

「甘えん坊」

 

「君だって甘えん坊だよ」

 

「うん。そうだよ。だから、大好きな君に甘えたくなる」

 

「んっ。ズルい私だって大好き。だから、甘えたい」

 

 

響は半ば強引に彼の顔を自分に向かせて唇を重ねる。

 

彼は困ったような、だけど嬉しそうな笑みを浮かべながら彼女と唇を重ねる。

 

彼も向き直りお互いに抱き合う形になりながら唇を重ねていると、響の方から大胆にも舌を割り込ませてきた。

 

彼は二人が厨房から離れるように体を動かしながら、舌を絡ませてゆく。

 

お互いの幸福を分け合うように深く激しく舌が交わる。

 

互いに唇を離すと二人の間に透明な架け橋がかかる。

 

二人は照れくさそうに微笑みながら言葉を紡いだ。

 

 

「「甘えん坊」」

 

 

二人が言ったことはどこまでと同じで二人は思わず笑い出してしまった。

 

響は今の彼について思う。

 

確かに昔の彼からも愛して貰っていた実感はあった。

 

だが、今の彼からは更に愛されている実感を得ることが出来た。

 

それは、彼が自分との約束を守っているからと言うこともあるが、彼から頼られることが幸福であることに響が気づいたことに他なら無かった。

 

響は火照った体を誤魔化すように彼に抱きつく。

 

そして、誘うように彼の耳許で囁く。

 

「ねえ?三人目はどうかな?」

 

「ふふっ、二人じゃ満足できない?」

 

「子供は多くて構わないよ。居ればいるほど君と子供達の事が愛しくて仕方が無くなる」

 

「うん。僕もそう思う。お金も軍に居たときの貯金が余っているしね」

 

「うん。私のもあるよ」

 

「だけど、今日は我慢。君も僕も疲れてるしね」

 

響は不満そうな顔をしながらもここは引き下がることにした。

 

彼は子供にするように響の頭を撫でると、彼女の不満顔がいくらか柔らかくなった。

 

「だから、また今度。ね?」

 

「んっ。わかったよ」

 

響が納得したことに安堵しながら彼は再び明日の仕込みを再開した。

 

「私も手伝うよ」

 

夫婦仲良く、寄り添いながら。

 

 

 

二人の羽根は傷ついていた。

 

それぞれの悲しさ寂しさ虚しさを背負って。

 

だが、二人の中に燃えさかる情熱の炎がある限りその傷を癒すことが出来る。

 

二人は不死鳥なのだ。否、二人で不死鳥なのだ。

 

お互いの愛を原動力とする炎で、また甦ることが出来る。

 

何倍も愛しさを増して。

 

寂しい二人の不死鳥の羽根は合わさり、今度は愛情の翼となってはばたくだろう。

 

二人の中の炎が消えぬ限り。

 

 

 

 

 

 

だが、不死鳥も鳴き声をあげるときがある。

 

二人は仕込みを終えると共に風呂に入って、歯を磨いた。

 

そこまではよかっただが、不死鳥の片割れが寝室でもう片方を押し倒した。

 

「あっれ~?どういうこと?今日はやめよって…」

 

「ごめん。やっぱり我慢できない」

 

「はぁ…甘えん坊」

 

「君も甘えていいよ」

 

「ふふっ、じゃあ、甘えさせて貰おうかな」

 

二人は唇を重ねて固く抱きしめ合う。

 

二人の夜の甘え合いはここに始まった。

 

その後、不死鳥の鳴き声は大きくなり過ぎて子供が起きて廊下を歩いて来たのを期に、二人の甘い鳴き声を垂れ流した甘え合いは名残惜しくも終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

二人の幸福は続いてゆくだろう。これからも、ずっとずっと。

 

消えない炎の様に。それこそ不死鳥の様に。

 

これは終わりではない。

 

更なる愛の物語のほんの一幕だ。

 

「愛してる」

 

「私も愛してる」

 

二人はどちらともなく唇を重ねる。

 

二人の甘えん坊な不死鳥達の一日がまた始まっていった。   

 

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