冬の厳しい寒さを乗り越え、少しずつ暖かさを取り戻した三月の春。僕達の先輩が卒業し、僕達も終業式を終え、それぞれの学年としての勤めを果たし終えた頃合い。
「これが最後の活動ですか……」
「そうなっちゃうわね」
学校の空き部屋の一つ。そこに僕と夕張先輩が居た。
僕達は空になったテーブルゲームやそれぞれが持ち寄ったTVゲーム機が入ってた収納スペースを懐かしむ様に見つめていた。
僕と夕張先輩が所属していたのはゲーム同好会。五年前に活動を開始した同好会だと入会(?)したときに先輩から聞かせて貰った。何でも、当時の生徒会とかなりの言い争いがあったらしいけど、先輩たちの努力で何とか同好会として認可して貰ったらしい。
この若い同好会の活動は今日で終る。終ってしまう。
その理由は簡単、同好会として認めて貰える為の人数を揃えられなかったから。今年度の同好会に入った新入生は僕しか居なかった。僕は運動が苦手で、昔からゲームが好きだった。この同好会を見つけたとき、この学校生活でオアシスとなりそうなものを発見して甚く喜んだ。僕と同じようにゲームを好きだと言う同級生は数多くいた。だから、その人達も入ると思ってた。
でも、結果は僕だけ。当てにしてた人達は美術部に入ったり文学部に入ったり、運動部に入ったり。或いは、入会しても部活動経験と認められないから進学に影響するとか、この同好会の独特の雰囲気についていけなくなって辞めたりとか。
一人になった分、先輩たちからよく可愛がって貰ったけど、前年度と今年度の新たな部員がそれぞれ一人だったのが致命的で早い段階で終わりの運命が定まってしまっていた。
先輩たちは緩やかな滅びを受け入れ(自分達は卒業するからと言う思いもあったのかもしれないけど)、せめて最後の活動者達として楽しい思い出を残そうと。
会費を目一杯使って新たなゲームを買ったり、夏には今までやったことが無かったと言う合宿までやってみたりして。華々しく散る為、最後である事を僕と夕張先輩が引きずらない様に楽しい思い出を沢山作ってくれた。
最後に今まで会費で購入したゲームの分配の時は僕と夕張先輩が多めに分けてくれたりもしてくれた。『自分達が楽しいと思った事をこれからもどんどん広めていってくれ』との言葉と共に。
「ねぇ、――ちゃん覚えてる?」
「ん?なんのことですか?」
先輩たちは自分達の終わりを受け入れた。だけど、受け入れられない者も居る。
「――先輩があの賭けゲームで」
「あー!イカサマした事ですか!あれ、凄い種でしたよね」
その受け入れられない者こそ――
「合宿も楽しかったですよね」
「そうねぇ~。花火とか景品持ち寄りのビンゴ大会とか」
「夕張先輩の持ってきた景品、酷かったですよねぇ……。バナナって何ですか……」
「も、もう!ビンゴの事、忘れてたんだから仕方ないでしょ!」
遺された者達だ。
僕と夕張先輩は過去の思い出を語り浸る。
ゲームで遊ぼうにも人数が少なすぎるし、そもそも部屋は空っぽ遊ぶ物ももはやない。
そう、これしか出来ない。僕達が出来るのは過去に思いを馳せる事だけ。
語る、語る、語り尽す。少しでも長く、僕達が居た場所を守ろうと。
語る中で不思議と頭の中が真っ白になる。胸が苦しくなる。口の中が乾ききって、鼻孔に強い違和感を覚える。最後に――目頭が熱くなる。
「ねぇ……――ちゃん」
「はい……」
先に限界を迎えたのは夕張先輩の方だ。日が傾き、茜色に染まる教室。夕張先輩の座る机には、光を貪欲に飲み込んでオレンジ色の宝石に擬態しようとする何かが次から次へと産まれ落ちていた。
それは僕も同じ。目尻から頬に、鼻の下にかけて痒みが発生している。
「悔しいね……」
「……はいっ」
僕達の中で渦巻いていたのは悔しさだった。
誰のせいでも無い、部員が集まらなかったのは間が悪かっただけ。
でも、それでも悔しさは残る。僕達には、卒業していった先輩たちの様に、この楽しかった思い出を語り継ぐ相手が居ないのだから。
やがて、夕張先輩は顔を手で覆い隠す。
こらえきれなかったのは僕も同じ、腕で目元を隠す。
空き教室に喘ぎと鼻をすする音だけが響く。その中に最終下校のチャイムが鳴り響く。
「悔しいね……私達……」
「こんなに楽しかった事を……何も残せないなんて……」
遺された者達は、真っ暗になった教室の中で、先輩たちに遅れてゲーム同好会の滅びを受け入れたのだった。
滅びを受け入れた春を乗り越え、年々暑さを増していく夏を超え、秋のそれなりに快適な気候になった頃。
ゲーム同好会が無くなった故に僕と夕張先輩の繋がりも無くなった――という事は無く、また集まっていた。
と言うか仲間が増えた。
「お~……やるねぇ」
「このゲーム散々やり込んだんだから!」
その増えた仲間こそ、もっち―こと望月。僕の中学校の後輩。図書委員仲間でありゲーム好きだったから、僕が高校に入ってからも交流があった子。
ゲーム同好会は復活した。いや、復活はしてない。今はただのゲーム好きの集まりだ。
学校が近いからと言う理由で、この学校に入学し、僕がゲーム同好会であった事をよくもっち―に話してたという事もあって、ゲーム同好会に興味を持ってくれてたのだが、ゲーム同好会は前話した通り無くなった。
その事を入学してから僕から聞いてもっちーはがっかりとしていたのだが、
『よっし、じゃあ、復活させっか』
『えっ?』
と言う感じにもっちーの要望で復活した。
ただ、まぁ現状は会員も少なく同好会として認可される既定の人数に届いてないので、ゲーム好きの僕ともっちーと誘ってみたらまた参加してくれた夕張先輩とで集まる事にした訳で。……何故か僕の家に。
そんな感じなのが、今のゲーム同好会と言った所か。
かなり軽い感じに復活したのだが、僕も夕張先輩ももっちーには凄く感謝してる。
同好会が無くなって強く悲観してた僕達に、また集まりの場を作ってくれた事、ゲームが好きな人と集まって思い出を残すチャンスをくれた事を。
そんな事を真剣にゲームをする二人の横顔を盗み見しながら思ってる隙に
「もらい!」
「あっちょ!?」
僕の操作してるキャラクターが倒されてしまった。
二人がヒートアップしてたから、僕は激戦区から離れて様子を伺ってたのに。
「漁夫の利なんてきったないマネはやめようぜせんぱ~い?」
ニヤリと口許を大きく歪ませるもっちー。
考えてる事を読まれ、僕は口を結ぶ。
「――くんは他のゲームをやる時もそうだもんねー」
もっちーに続いて、夕張先輩もニタリと口角を持ち上げる。過去に受けた仕打ちを忘れんぞと言うかのように。
「男らしく正々堂々とやろうぜぱいせ~ん?」
「そうよぉ?男らしく拳で語りなさい」
「う、うぐ……」
二人が醸し出す、勝者のオーラと弱みを握ってんだぞと言う威圧感を受け止めきれず、僕の身体は仰け反る。
「まぁーそんな男らしくないパイセンには罰ゲームな?」
「ちょっ?!聞いてないんだけど!」
「今決めたのよね?」
「観念しなって敗者のパイセン」
この二人恐ろしく息が合ってるのだ。対戦ゲームだと真っ先にお互いを潰し合おうとするのに。
「罰ゲームかかってたならもっとまじめにやったのに……」
「そんな事より」
「その受け流し方は酷いよもっち―」
「罰ゲームとしてクッキー焼いてよパイセン」
「クッキー!?ホント!クッキー焼いてくれるの?!」
「いや、焼くって言って無いですけど夕張先輩!!」
夕張先輩の期待の籠った視線ともっちーの妖しく光る眼鏡。もっちーはよくかわかってる。僕が夕張先輩のお願いを断れない事に。その……過去に可愛がってもらったとかそんな感じの理由でその――
話を戻そう。ちょっと前にもう一つの趣味であるお菓子作りの腕を二人に披露する目的でクッキーを焼いてあげたことがあるのだ。そのクッキーを二人は大絶賛。家族の為に残しておいたストックまで食べつくした。
それからと言う物、二人は何かにつけて僕にクッキーを焼かせたがる。ゲームしながら片手で食べれるし、手もそんなに汚れないから、お供としても最適だから。
二人が試合そっちのけで視線を僕に一点集中で向けてくる。その視線を僕は耐え切る事が出来なかった。
「わかりましたよ!今から焼きますよ!」
最近、生地を予め作ってストックしてある。これも全て、あの二人のせいだ。
大きく息をついて立ち上がると、僕は部屋から出て行く。
扉が閉まる寸前に二人がハイタッチする軽快な音を耳にしながら。
人数こそ少ないが、自分の好きな事で喜びや楽しみを共有できる。
「はぁ……面倒くさいなぁ……」
言葉ではそう言いつつも、その機会を再び与えてくれたもっちーと一緒に作ってくれる夕張先輩に心の中で感謝する。
小さく疲れたように小さく息を吐きつつもキッチンへと向かう僕の表情はとっても晴れやかなものだっただろう。
オマケ
夕張先輩の居ない活動日
今日の活動人員は僕ともっちーのみ。
夕張先輩は家業を手伝わないといけないと言う理由で、本日は来れないから。
夕張先輩の実家は小さな工場らしい。ゲームも好きだが、機械いじりも好きだって、とびきりの笑顔で言ってったっけ。
そんな訳でもっちーと二人っきりなのだが、そのもっちーは
「ははははっ!!」
僕のPCを勝手に使って、某笑顔動画を開いて某夢のMADを見ていた。
「もっち―!あんまり僕のPCでそれを見ないで!!」
「別にいーじゃん。減るもんじゃないし」
「このPC、家族で共有してるんだって!」
別に僕もその系統のMAD動画は嫌いでは無いのだが、我が家にPCは一つしかなく、僕がよく使うからと言う理由で僕の部屋に置いてあるだけで、家族みんなで使う様なのだ。
だから、その、PCで余り公衆衛生に宜しくないモノは見ないようにしてる。スマホでも動画サイトみれるしね。
「誰も履歴なんか覗かないだろ?」
イヤホンを外して僕に振り向くもっち―。小首を傾げる動作が小動物めいてて可愛い。じゃなくて!
「父さんが興味本位で開いたんだって!!」
そう、もっちーがそういう系統の動画を僕のPCで見てた事に気づかず、履歴を消さなかったのだ。
その結果、僕の父さんがPCを使用してる時に僕達家族が何を見てるのか気になり、履歴に残ってたそういう系統の動画を開いてしまったのだ。
あの時の父さんの目が忘れられない……。凄く悲しそうに申し訳なさそうに僕の肩に手を置いて『すまなかった』と蚊の鳴くような声で言ってきた……。
因みに、この系統の動画を見てる事は夕張先輩には流石に言って無い。これ以上、悲しみを広げたくない!
と言うか、僕がこの系統の動画を知ったのもっちーが僕に動画のURLを送って来たせいだから!!
「ブッフ!!!くふふふ……!!!ははははは!!!!!」
もっちーは思わず吹き出し、お腹を抱えて笑う。
そりゃ笑うだろうね!僕も他人から聞いたら絶対笑うだろうねっ!!
「笑い事じゃ無いってば~!」
何だかんだ言いつつも、結局僕はもっちーと一緒に某笑顔動画巡りをして一日を過ごしたのであった。
あっ、履歴は消しました。悲劇を繰り返してはならない(戒め)
「……別にいいだろ」
一人っきりの帰り道で望月はひとりごちる。
「夕張先輩が居ない時くらい、夕張先輩が知らない事をパイセンと共有してもさ」
拗ねたように頬を膨らませ、ほんのりと赤く色付いた顔で先輩の顔を思い浮かべながら。