彼女の魔の手が本物の胡桃へ伸び、彼女を追い詰める。
少女の混沌とした記憶と嘘まみれの約束が語られる。
~1月28日~
○○○
そこがどこなのか胡桃には分からなかった。見た目は廃工場のように見えた。窓はことごとく割れていて、明かりは付いていない上に外はもう暗くなっている。この時期の夜は訪れるのが早いとはいえ、かなり夜が更けているようだった。さすがにまだ日は越していないはずだが。
――目は慣れたけど……結局何も見当たらない……。
胡桃は身動きがとれなかった。
というのも、胡桃は工場にはそぐわない物にくくりつけられていたからだ。
鉄くずやガラス片が散乱している広大な空間の中央に、三メートルほどの十字架が建てられている。胡桃は、その十字架に磔にされていた。
「誰か居ないの?」
もう何度目か分からない問いかけを、胡桃は工場内へと放った。しかし、自分の声が反響するばかりで、人の気配は存在しない。感覚では一時間はこのままの状態だった。
「お姉……無事だと良いけど……」
他人の心配をしている余裕などないが、それでも姉の柚希のことを考えずにはいられない。
こうなる前の記憶を想起する。インターホンが鳴らされ玄関を開けると、そこには自分そっくりの少女と魔族の少年が立っていた。そして、混乱の内に気絶してしまった。
――一体……なんなの……?
現在胡桃は、勇者の力を解放して戦闘服に換装している。しかし、いつもなら左腕に具現化する霊操術の籠手が現れない。
――敵に取られた……って考えて間違いないか……。
それならば事態は深刻だ。しかし、柚希が自分の失踪に何もしないはずがない。きっと自分を探しにくるはずだ。大人しくそれを待っているつもりはないが、それでも今の状態の胡桃に出来ることはほとんど無かった。
「あ、いたいた」
暗闇の中から声が聞こえた。
視界の端でぽうっと明かりが付いた。そこに目線をやると、ランタンを持った少女が立っていた。見たことのある顔と見たことのある服――間違いない。その少女は、中学の制服を着た胡桃自身だった。
「こんな汚いところに磔なんて酷いわね。まぁ、ここを選んだのは私なんだけど」
偽胡桃はいたずらっぽく口角を少し上げた。今まで胡桃が浮かべたことのない余裕の笑みだった。
「あんた、私に化けて一体何のつもり?」
「化けて……? ふふふ」
偽胡桃は含みのある笑い声を上げた。
「悪いけど、私は生まれてからこの姿。あなたと同じでね」
「…………何を言っているの?」
胡桃は目の前の少女が、何者かが自分そっくりに化けているのだと考えていた。
「私は正真正銘、野中胡桃。ただ、あんたの処理した下の毛から作られた十五番目のクローンってだけ。全く、髪の毛とかだったら良かったのに、まさか下の毛なんて、クリント様も悪趣味よね」
「クローン? クリント様?」
「まぁ、こうやって実体を保つのに色々条件があって、生命としては不完全なんだけどね。だからこの技術は、クリント様のお姉様の目的には使えないんだって」
胡桃の疑問に、偽胡桃は答える気が無いようだった。
「……あんたが何者だろうと、今はいいわ。それよりもあんた、お姉に何かしてないでしょうね? まさか、澪をさらったのもあんたじゃないでしょうね?」
「私は何もしてないわ。正直、クリント様が何をしているか知らないけどね。まぁ、もう勝手に始めちゃおっかな」
偽胡桃は磔にされた胡桃に歩み寄った。
「っ……近寄らないで!」
「アドミラス様、いい加減出てきたらどうです?」
偽胡桃が発した名前は、胡桃の聞き覚えのあるものだった。
「いやね、偽物と本物の会話が一体どういうものなのか興味がありましてね。邪魔はしないようにしていたのですよ」
「そう、でももう別に良いわ。そのうち私が本物になるんだから」
「そうですね」
同じくランタンを持った男性が暗闇から現れた。その男に、胡桃は嫌と言うほど覚えがある。
「アドミラス……どうしてあんたが……あんたは、私とマリアが倒したはずじゃ……」
先の大決闘の時、胡桃はアドミラスと戦った。その時の戦いでは、アドミラスの卑劣なだまし討ちに遭い負けてしまったが、その後の大混乱の中、マリアとともに彼を打ち倒した。そして、確かに殺したはずだった。
「そうですね。でも、私は死んではいなかった。クリント様に助けられたのでね。ちなみに、私はそこのクローンと違ってしっかり本物ですから」
「いちいち注釈を入れるなんて、意地悪ですね、アドミラス様」
偽物とは言え、自分とアドミラスが普通に会話している姿を第三者的視点で見るなんて変な気分だった。しかも、肝心の自分は彼のことを「様」付けだ。違和感しかない。
「長話も飽きました。さっさと始めますか」
アドミラスは右手をかざした。すると、人差し指と中指が、まるで骨がなくなったかのようにぐねぐねとうごめき始めた。
「っ…………?」
そして、その異形の指は伸び始めた。人差し指は偽胡桃の方へ、中指は胡桃の方へと這いずってきた。
「なに……?」
人差し指は、偽胡桃の頭まで伸びていき――――こめかみへと突き刺さった。
「な――――――」
「んん…………♥」
目の前で起こっている奇妙な事に、胡桃は絶句した。こめかみに指が刺さった偽胡桃は、なぜは恍惚の表情を浮かべている。
絶句している間にも、中指の方が胡桃の方へと伸びてきていた。
「いや……いや、いやいや……やめて…………」
「大丈夫ですよ。死にはしない。ただ、記憶の共有をするだけです」
胡桃の抵抗はむなしく、異形の指はまっすぐに彼女のこめかみへと突き刺さった。激しい痛みはこめかみに走る。
「あぁぁ…………あぁ…………」
その瞬間、頭にとある記憶が次々と流れ込んできた。
それは、自分が見ず知らずの男に処女を奪われる記憶だった。しかも、一回ではない。数えるのも嫌になるほど、様々なパターン、シチュエーションで、別の男に処女を奪われる記憶だ。
あるときは、太い四十代の男に自分からまたがり、肉棒を挿入した。
あるときは、金髪の男に強姦まがいに処女を散らされた。
あるときは、細身の男性が持ってきた男性器を模したバイブで膜を破られた。
またあるときは、変態的な性癖を持つ男の手が、男を知らない胡桃の膣にねじ込まれた。
「あ、あ…………」
それは、全てで十五パターンの処女喪失だった。その記憶が、喪失の痛みという体感覚とともに脳内に再生された。
ジョロジョロ………シャァァァアアァァァ
おぞましいその記憶と痛みに、胡桃は失禁してしまっていた。黄色い聖水が、脚を伝って工場の床へと打ちつけられた。
――ダメダメ…………壊れちゃう……助けて、刃更兄ちゃん……。
しかし、流れ込んでくる記憶はそれだけではなかった。
次に流れこんできたのは、自分が沢山の男と援助交際をする記憶だった。
様々はネット掲示板で知り合った男達と、ラブホテルで会っては躰を交わらせてお金をもらった。一日に平均で一人から三人の相手をした。そして、自分自身はそれを楽しんで行っていた。快楽にぼれる日々、手に入った大金で遊びまくる日々。その記憶が約一週間分、そしてそれも、全てで十五パターン再生された。その時躰に刻まれた、快楽とともに。
――これは……偽物の私が体験した……記憶?
「あぁ…………刃更兄ちゃんとこんなエッチなことしてたんだ」
目の前の偽胡桃は、妙に嬉しそうな表情をしていた。
「でも、今の私からしたら生ぬるいかな。本番の一回もしてないみたいだし」
偽胡桃の方は本物の胡桃が体験した記憶を見ているようだった。
「あ、あぁ…………はっ……ぎ…………」
胡桃は記憶の流入だけで、絶頂していた。体を何度も震わせ、十五パターンの快楽に、溺れた。
いつのまにかこめかみの指は抜かれていた。どういう原理なのか、血が出ている様子はなかった。
「ふふふ、楽しそうだね。その記憶はあらかじめ他のクローンと記憶共有をしておいた私の記憶。どう? 処女喪失は痛いけど、そのあとはずっと気持ちよかったでしょ?」
「はっ…………はっ…………んくっ…………」
胡桃は何も喋られなかった。沢山の記憶の奔流に、頭が混乱していた。
「それにしても、本物の私って、アドミラス様と戦ってたんだね。これで理由が分かった」
「り、理由…………?」
「アドミラス様が、他のクローンをあんなにも楽しそうにヤった理由。ね、アドミラス様」
偽胡桃はアドミラスの方へと視線を向けた。彼は何食わぬ顔でそれを受け止める。
「素体の勇者の少女、ここにいる十五番目以外の他の野中胡桃はどこに行ったと思いますか?」
「っ…………ほか、の…………?」
ようやく思考が回復していきた胡桃は、確かにここには一人の偽胡桃しかいないことに気づいた。そして、共有されたクローンたちの記憶も、途中までしかないことにも気づいた。
「私以外の私は、皆アドミラス様に殺されちゃったんだよ。まぁ、私だけが本物になるっていう約束だから、そうなるのは予想できたことだったけど、さすがに目の前で自分が殺されるのはきつかったな」
偽胡桃は嫌な物を思い出したように眉をひそめた。
「でも、これで私が本物になれる。素体の記憶も得たし、これで私は素体に限りなく近くなった」
「やぁ、もう済んだようだね」
第三の声が暗闇の中から聞こえた。ぼうっと全身が光るそれは、小さな少年だった。
「「クリント様」」
偽胡桃とアドミラスは、その少年に跪いた。
「あ、あんた…………」
「僕のお人形に色々教えてもらったみたいだね、胡桃お姉ちゃん。そんな君にお願いがあるんだ」
「お、お願い…………?」
この状況で何を言っているのか。見たところこの少年が事の黒幕のようだ。
「東城家に、これからは近づかないでもらいたいんだ」
「っ…………?」
「東城刃更や、柚希お姉ちゃん、それと、勇者の里への連絡もしないでほしい」
「そ、そんなこと……私が聞くと思ってんの?」
「柚希お姉ちゃんや澪お姉ちゃんの命がかかっていると言ってもかい?」
「っ…………!」
やはり澪の失踪には彼らが関わっていたのか。
――お姉……澪……。
「大丈夫、柚希姉ちゃんにも、もちろん澪お姉ちゃんにも手を出してないから。でも、それも君次第だよ。もし君が東城家に近づく、もしくは、東城刃更やその仲間にコンタクトを取ろうとしたら、二人はどうなっても知らないよ」
「っ…………」
クリントは懐から何かを取り出した。それは、ビリビリに破れた布だった。胡桃は、その色や模様に見覚えがあった。
「それは…………!」
「そう、野中柚希のパンツだよ。アドミラスが彼女から奪い取ったんだ。大丈夫、彼女には傷一つ付いていないよ。でも、君の態度次第では、僕が持ってくるのが柚希お姉ちゃんの生首かも知れないよ?」
気持ち悪いほど無邪気な笑い顔だった。
この状況に、胡桃は既視感があった。アドミラスと初めて決闘したとき、彼は同じように東城刃更を人質にして彼女を脅してきた。結局それは嘘だったが、しかし、今回もそうだとは限らない。もちろん、クリントの嘘である可能性も否定できない。
「さすがにずっとっては言わないよ。期限付きだ。もし東城刃更が成瀬澪を見付けられたら、胡桃お姉ちゃんは東城家に戻ってきても良い。どっちにしろ、澪お姉ちゃんが見つかれば、胡桃が偽物であることも、全ては僕の仕業であることもばれる。だから君は、君の愛する東城刃更を信じて待っているだけで良いんだ」
「刃更を……」
「僕はもう、これ以上君に手出しをしないと約束しよう。だから君は、安全な外野で刃更の頑張りを応援しているんだ。君がこの話を信じるメリットはないけど、信じないことでデメリットを生じる事を考えれば、僕の言うことを聞くほかないよね?」
クリントの言うとおりだった。今の胡桃に戦うすべはなく、必然的に目の前の敵を倒すことも出来ない。刃更たちに助けを求めることをすれば、柚希や澪は殺されるかも知れない。だけど、離れたところで刃更が澪を見付けるまで待っていれば全ては解決する。
――刃更兄ちゃんなら、絶対に澪を見付けられる。なら、私はそれを信じれば良い……信じるしかない……。
胡桃には、どんな敵でも刃更なら負けないという信頼があった。だからこそ、この怪しい選択肢も選ぶことが出来た。
「分かったわ……悪いけど、刃更ならすぐにでも澪を見付けられる。あまり私だけを離しておく必要があるとは思えないけどね」
正直柚希や澪のことが心配でたまらない胡桃だったが、それでもクリントたちに心の隙を見せまいと強がって見せた。
「そうかもね。ふふふ」
言ってしまえば、この選択肢を選ぶことは間違っていた。
もっと言えば、胡桃の運命は、インターホンを一人で出たときから決まってしまったのかも知れない。なぜなら、この段階まで来た胡桃に、すでにそれ以外の選択肢を選ぶことなんて出来なかったのだから。
――大丈夫、刃更ならきっと……。
そう考える彼女の思考も、とうに的外れだった。
●●●
クリントとアドミラスが姿を消し、本物の胡桃が十字架から解放されたところを偽胡桃は見届けていた。
「あなた……これから何をするつもり?」
「…………」
素体の胡桃に十五番目の胡桃はそう尋ねた。しかし、完全に無視された。
――何よ、これからは私が本物なのに……そうだ。
偽胡桃は思いついてしまった。そして、彼女にそれをすることに躊躇はなかった。
「これ、返すよ」
偽胡桃は懐から携帯電話を取りだし、目の前の胡桃へと差し出した。
「最低限無いと生きていけないでしょう? もちろん、刃更兄ちゃんとかに連絡取ったらどうなるか分かってるわよね?」
「分かってるわよ……」
こちらをにらみ付けながら、胡桃は携帯を受け取ろうとした。偽胡桃はその腕を取り、自分の方へと引き寄せた。
「⁉」
偽胡桃は胡桃にキスをした。
「んんん⁉」
「んちゅぅ、ふっ…………れろっ」
唾液を十分に口に含み、本物の口の中に流しこんでやった。自分の舌を相手の舌に絡ませてやり、濃厚なキスをしてやった。
「ん…………ちゅっ、んん~~~」
突然のキスの圧倒されているようで、目の前の少女は完全にかたまってしまっていた。
――こんなんで隙だらけになるなんて単純。
偽胡桃は懐から特殊な形の小型注射器を取り出し、胡桃の露出した二の腕に突き刺した。
「っ…………ん、ふっ――――――――」
腕の痛みに気づいたのか、胡桃は咄嗟にこちらを突き放した。
「な、何を……」
「ん? 気持ちよくなる薬を打ってあげたの。ちょっと依存性の強い、ね」
「な…………」
妙に顔に朱が落ちている。即効性のある媚薬だとしてもそこまで早くは効いては来ない。つまりは、キスで感じてしまったのだろう。自分の素体ながらも、まだ処女であるのにもキスだけで感じるなんていやらしいと思った。
「このっ――――」
胡桃がこちらに一歩詰めてきて、平手打ちをしてきた。しかし、偽胡桃は自分の性格をよく知っているため、その行動を読むことは造作も無かった。
こちらは一歩下がり、簡単にその攻撃を躱す。
――激しく動けばそれだけ薬の周りは早くなるのに。
案の定、胡桃は躰に異変を感じたようだ。
「はっ……な、あつい…………」
胡桃は下腹部を押さえ蹲った。子宮が疼いて仕方が無いのだろう。
「な、何よこれ……」
胡桃はへたり込んだまま、かたまっている。衝動と理性の間で葛藤しているのだろう。
――まだお利口さんのつもりなのかな。それなら、教えてあげる。
偽胡桃は少女のスカートの中に手を入れた。
「な、何をしてるのよ⁉」
「オナニーのやり方を知らないわけじゃないでしょう? 刃更兄ちゃんにしてもらうようになってから、ほぼ毎日、しかも一日に何回もしているんだから」
「そ、それは……」
動揺しているようだが、同じ自分なのだからそのことを偽胡桃が知らないわけがない。
「ほら、あんたが躊躇しているから手伝ってあげるって言ってるの」
くちゅっ、クチュクチュ……
スパッツの上からでも分かる。胡桃の陰部はすでにぐしょぐしょになっていた。持ち上がっているクリトリスを指で探り、それを激しくこね上げてやる。緩急を付けながら指を淫裂へとなで下ろし、その間に布地ごと沈み込ませる。
「ひゃあぁっ、あ、んあっ……」
布に押し返され、深くまでは指が入っていかない。だが、それでいい。別に指で素体の処女を奪ってやっても良いが、それでは約束と違ってしまうらしい。
クリントは柚希との約束で、彼女が自分から彼らの躰を求めるまでは胡桃の処女を奪わないということになっている。一応偽胡桃もクリント陣営であるため、ここで胡桃の処女を散らす訳にはいかない。
――まぁ、『こちらが処女を奪わない』って約束はしたけど、『胡桃自身が自分の処女をどうするか』までは関与しないんだよね。クリント様的には、そっちが本命だったりするし。
そう考えている間も、偽胡桃は胡桃を責める手を止めない。自分の躰であるため、自分が一番感じる場所はよく知っていた。
「こ、のぉ…………」
さすがにやられっぱなしではないらしい。本物の胡桃は脚を強く締め、偽胡桃に掴みかかってきた。しかし、快感で躰が痺れているためか、非常に動きは遅い。掴みかかってきた腕をかがむことで躱し、偽胡桃は少女の脇に飛び込んだ。
胡桃の勇者の服は脇が大きく開いている構造をしている。
――考えてみれば、性感帯を丸出しの私の服って結構いやらしいのね。
偽胡桃はその脇に顔をぐっと近づけ、舌を這わせた。
「ひゃああぁうぅぅん♥」
性感帯を突然舐められ、胡桃は飛び上がった。
プシャッ……
胡桃は絶頂したようだった。スパッツ越しであるのにもかかわらず、陰部を責めていた偽胡桃の手に温かい液体が吹き付けられた。胡桃は潮を噴いたのだ。
「は、あぁ…………ん、はぅ……♥」
ビクビクと肩をふるわせ、胡桃は快楽の天井の余韻に酔いしれているようだった。
「これくらいの快感じゃ満足できないでしょ? 結構強力な媚薬だからね。まぁ、今の私じゃ耐性が付いちゃってこの濃度じゃ大して効果がなくなっちゃったけど、あんたには十分でしょ」
「はっ…………あ、あんた……よくも…………ひぅ♥」
胡桃は立ち上がれないようだった。
「その疼きを解消するには、もっと強烈な快感が必要なの。もっと鮮烈な、もっと生々しい快感がね。それには相手が必要なの。その意味が、記憶を共有したあんたになら分かるよね」
偽胡桃は躰の疼きで顔を歪ませた少女の頬に触れた。
「その、意味…………」
「セックスよ。気持ちいいのはあんたも分かってるでしょう。正確にはあんたの場合、セックスは気持ちいいという記憶を持ってるに過ぎないんだけど。まぁ、セックスする相手を探すのは簡単。掲示板に書いて、返信があった男の人と会って、一発ヤッちゃう。それだけ」
「っ……だ、誰が、そ、そんなこと……私は、刃更兄ちゃんと以外、そんなことはしない!」
――そう、私も最初はそう思ってた。でもね、セックスってそう言うものじゃないの。
偽胡桃は立ち上がり、踵を返した。
「じゃ、勝手にすれば良いわ。私は行くね。中学の制服はここに置いておくから」
紙袋に入った制服を胡桃のそばに放り出す。
「ちなみにこの工場は、刃更兄ちゃんの家のある街からかなり離れた場所だから、今から急いで離れる必要は無いからね。約束通り、刃更兄ちゃんに近づかないでよね」
――もうあんたの場所は、私の物なんだから。
そう言い残し、偽胡桃は廃工場を後にした。背中に素体となった胡桃の強い視線を感じながら。
――クリント様の言う「首輪」も付いてたし、問題は無いか。
クリントはクローディアの開発した「首輪」を柚希と本物の胡桃に付けていた。話によれば、クリントの仲間が澪と万理亜にも付けているらしい。ゼストだけには付けていないらしいが、その理由を偽胡桃は聞かされていない。そもそも、クリントの最終的な目的も偽胡桃は知らない。
――ま、私が本物になれればどうでもいい。
「ふふふ……ふふっ……ははっ」
十五番目のクローンの胡桃は、笑いが止まらなかった。
「これで、刃更の隣にいられる」
こうして、胡桃は入れ替わった。
予想以上に長くなったため、中編が挟まりました。
どうぞ良ければ後編へお進みください。