その後の扱いもかなり酷い物で、彼女をさらなる絶望へと落とす。
少女の欲望に対する敗北と悪化の一途をたどる連鎖が語られる。
~2月6日~
○○○
胡桃は未だに、部屋に監禁されたままだった。
脚の拘束は解かれていたが、逃げ出さないように両手が縛られ、壁に寄りかかっていた。
部屋には悪臭が立ちこめていた。
胡桃は二日前に監禁されて以来、その拘束を一度も解かれていない。つまり、排泄すらもその場でするしかなかった。
悪臭の原因はそれだけではない。二日前に激しく陵辱された時に躰中にこびりついた精液はそのまま放置され、完全にカピカピに乾いてしまっていた。しかも――――
ガチャッ
部屋の扉が開けられた。入ってきたのはサングラスをかけたヒデアキだった。
彼は何てこと無いように胡桃の前に立つと、自分の男根を取り出した。それは、行為の前の膨らんだそれではなく、平常時の大きさだった。それを指で軽く掴み――――
ジョロロロロロロロ…………
「あ゙あ゙ぁ…………」
ヒデアキは放尿を始めた。まるで、いつもそこで済ませるように。
「…………はっ……」
尿は胡桃の顔へと注がれた。とうの彼女は、それを大きく口を開けることで迎えた。
「おえっ…………ん、ごくっ、くっ……ごくっ……」
胡桃はそれを飲み始めた。
「ちゃんと飲めよ。唯一の水分なんだからな……」
「うぅ…………ごくっ……」
胡桃の目からは涙がこぼれていた。しかし、それは男の尿と混ざり、口へと入っていった。すでに鼻は麻痺していたが、それでも嫌悪感は増すばかりだった。
――まずい……いつまで、こんなこと……。
胡桃は監禁の最中、食べ物どころか飲み物すらも与えてもらっていなかった。極限状態の中で、胡桃は男達が処理しに来る尿を飲んで渇きをしのぐしかなかった。いや、正確にはしのげていなかった。なぜなら、現在胡桃を襲っている渇きは、普通の喉の渇きではなかった。
「く、薬を…………」
胡桃は薬が切れたことで禁断症状に悩まされていたのだ。喉が渇くという症状に。
「薬?」
首をかしげ、ヒデアキは部屋の隅へと移動した。そこには、胡桃の服や荷物の類いが無造作に投げ捨ててあった。
「あぁ、これのことか。なんだお前、薬決めてんの?」
ヒデアキは荷物からめざとく注射器を見付け、胡桃の目の前で弄んで見せた。
「悪いな。これはやれねえ。危ねえ薬ってんなら金になるからな。そして今朝、口座に230万が振り込まれた。本当にくれるとは一体何なのかねぇ。まぁ、なんか危ない臭いがするのが確かだ。大方、お前もどこかの組の女だったんだろうが、裏切られたかなにかしたってところだろう。つまり、お前が帰る場所はもうねえってことだ。そして、俺達もお前はもう用済みだ」
――帰る場所……そうね、こんなに汚れたんだもの……刃更兄ちゃんが、私を受け入れてくれるはずない……。
「つー訳で」
ヒデアキは懐から黒い塊を取り出した。それは、以前のスタンガンとは全く違う形だった。
「っ……銃……」
「これだって高ぇんだぜ。そうそう手に入んねえ。特にこの国じゃぁな」
銃口が胡桃の額に当てられた。
――そうか……私……ここで死ぬんだ……。刃更兄ちゃんや、お姉に気づかれることなく。
このまま死ねば、間違いなく偽胡桃が今までの胡桃の居場所を乗っ取ることになるだろう。そうなれば、本物の胡桃が死んだことに、誰も気づかない。
それは、普通に死ぬよりも寂しかった。しかし、今の彼女に事態をどうこうできる気力も体力もなかった。
「じゃぁな、死ね」
ヒデアキの指が、引き金に触れた。
――あぁ、さようなら……皆。……ごめんね。
胡桃は目を閉じた。
――――。
――――――――。
しかし、銃声はいつまで経ってもならなかった。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!」
「っ…………!」
胡桃は目を疑った。銃を持っていたヒデアキの右腕が、なぜか半ばから切断され、鮮血が吹き上がっていた。
「く、くそ……なんだぁ……俺の腕がぁ……」
右腕は銃を持ったまま、床に転がっていた。
「ごめんね、胡桃ちゃん、もっと早く見付けていれば良かった」
ヒデアキの横に立っていたのは、日本刀を持った坂峰五十鈴だった。
「い、五十鈴…………なぜ、お前が……」
明らかに狼狽した様子のヒデアキ。
「あら、かつては求婚までしてきたってのに、その言い草はないんじゃないの?」
「断っておいて、今更何を……ぐぅ……」
「そうね、だってあなた、気持ち悪い顔してるんだもの」
「お前ぇ…………!」
ヒデアキは激高して、左手で五十鈴に掴みかかった。
ドォン――――――
その時、銃声が部屋に響いた。
それと同時にヒデアキは床に倒れ込んだ。頭からおびただしい量の血が流れ出ていて、ピクリとも動かなくなった。
部屋の入り口には、拳銃を持ったスーツの男が立っていた。それは、二日前に胡桃がのした男の1人だった。
「どう……して……?」
「最初から言ったじゃない。私はあなたと話がしたいって。それなのにあなた、早とちりしちゃうんだもの」
「り、理由に、なってない……」
「そうね。まぁ詳しくは後で。今、天雲組を壊滅させちゃうから」
そう言って五十鈴は、日本刀を肩に担いだ。
「あなたたち! やってしまって!」
「おうよ!」
複数人の男の声が重なり、けたたましい銃声が鳴り響いた。
「なん……なのよ……」
胡桃はそのまま、意識を手放した。
***
~2月7日~
胡桃が目を覚ますと、どこかの一室のベッドの上だった。腕には点滴と繋がってはいるが、病院ではなさそうだ。
「お、起きた? 案外早い目覚めね」
ベッドの横には、文庫本を読んでいる五十鈴が椅子に座っていた。
胡桃の躰はきれいに洗われているようで、石けんの匂いがした。服も胡桃のものだが、きれいに洗濯されているようだった。
しかし、胡桃はそれどころではなかった。
「うぅ…………く、薬を……」
禁断症状の喉の渇きが酷かった。その所為でめまいと頭痛すらしていた。
「…………あなたの荷物はここよ」
そう言って五十鈴は小さなリュックを差し出した。胡桃はそれにすがりつき、その中の薬を自分の腕に打った。
「ふう…………んくっ…………」
喉の渇きは一瞬にして潤ったが、その代わりに下腹部に猛烈な熱が生まれた。それでも、耐えられないものではない。
「それ……見たことない薬ね。相当依存性が強そう」
複雑そうな感情が浮かぶ表情で五十鈴は胡桃を見ていた。
「入手がちょっと特殊なの。それよりも……あ、ありがとう……助けてくれて……」
しかし、胡桃は彼女のことを信用したわけではなかった。まず第一に、胡桃を助けるためとはいえ、目の前の少女は大量の人を殺した暴力団の一員なのだ。あんな大事件が起きれば、普通にニュースに取り上げられるレベルだ。
「あぁ、天雲組壊滅は誰にも知られないわ。そうなるように、ええっと……魔法がかけてあるんだって」
「ま、魔法…………?」
「嘘くさいよね、でも、本当なの」
胡桃は言葉を失った。しかしそれは、別に魔法という突拍子もない単語に呆れたわけではない。魔法の存在はもちろん胡桃は知っている。しかしそれは、魔族特有の能力だ。
「魔族でもいるのかしら?」
胡桃の言葉に、五十鈴は驚いた顔をした。
「……へぇ、もしかして胡桃ちゃんも、そっち系の人達の仲間? やけに強いと思った。ねえ、
五十鈴に呼ばれて部屋に入ってきたのは、ヒデアキに銃を撃ったスーツ姿の男だった。しかし、その姿は以前と違っていた。肌が黒く、耳が尖っていた。
「やはり、魔族ね。大方、魔界で追放されて、こっちに流れてきたってとこ?」
「そういうあなたは、どうやら勇者の一族のようですね」
「勇者? 胡桃ちゃん、勇者なの? え、勇者ってなに? 魔王でも倒すの?」
のんきな声を上げる五十鈴だった。反応を見るに、彼女は普通の人間のようだ。いや、本当に普通の人間ならば、日本刀で人の腕を切り落とすなんて芸当、簡単にできるはずはないのだが。彼女もある意味で普通ではないのだろう。
――そういえば、いつのまにか胡桃ちゃん呼ばわりだし。最初は野中さんだったのに。
胡桃は豊情と呼ばれた男を一瞥した。
「まぁ、魔族のあんたがどうしてこっちにいるのかは聞かないわ。聞きたいのは、どうして私を助けたのかってこと」
「それは、姫のご意志だ。俺の考えではない」
「姫……」
ひらひらと笑顔で手を振って、五十鈴がこっちを見ていた。高校一年生であるはずなのに、どうして暴力団で『姫』なんて呼ばれているのだろうか。
「坂峰が……」
「五十鈴って呼んで良いよ、胡桃ちゃん。ある日、私のところにある情報が入ってきたの。それは、あらゆる男を魅了するような可愛い子が、援交しまくってるってね。そしてそれは、他の女たちの客までとってしまうようなレベルだって。すぐに私は分かった。あぁ、これはこの町のルールを知らない子が入ってきたんだなって。もちろんルールなんて明文化されてないし、そもそも誰が教えてくれるってものでもない。でも、守らないと周囲からは冷たい目を向けられるし、下手すると殺されちゃう。だから、そうなる前に教えてあげないとって思ったの」
そこで五十鈴は言葉を切った。胡桃はまだ言葉が続くと思って待っていたが、いつまで経っても次の言葉が出てこない。
「え、それだけの理由?」
「え、そうよ。だって教えないと危ない目に合っちゃうじゃない。それなのにあなた、早とちりして強行に出ちゃうんだもの。まぁ、言葉足らずな私も悪いんだけど。結局、胡桃ちゃん酷い目に合っちゃったし」
しゅんとする五十鈴。整った顔はそれでもきれいだった。
「そんな理由で、ライバルの組を敵に回したって言うの? 私は別に、あなたに恩を売られる覚えはないんだけど」
「敵って言うか、もともと仲は悪かったし、良い機会かなって言う気持ちはあったよ。でもそれはついで。このままじゃ胡桃ちゃん、敵ばっかり作りそうだったから」
「…………」
「それに、胡桃ちゃん、私の好みだし」
「……………………」
なにやら、ある意味別の意味で恐ろしさを感じた気がした。もしかして、色々理由を言っていたけど、全ては胡桃が自分の好みだという理由だけで助けたに過ぎないのではないだろうか。
「大丈夫、私はどっちもいけるから安心して」
――いや、どっちもって何? 安心って?
「そこで私から提案があるんだけど、今度はちゃんと聞いてくれる?」
「…………分かったわ」
五十鈴が提案した内容はこうだ。
胡桃には二つの選択肢が与えられた。
一つはこのままこの六衛町で援助交際を続ける。その場合、どうしても他の女たちから反感を買い、昨日のような暴力沙汰になる可能性はなくならない。そうならないように、坂峰組が胡桃をボディーガードしてくれるというのだ。しかしその際、売り上げのいくらかを坂峰組に譲渡しなければならない。
――なんだ……所詮は金なのね……。
そう思った胡桃だったが、五十鈴が要求した額はかなり安かった。
「私はただ、ここでずっと暮らすなら、胡桃ちゃんがなるべく生きやすいようにしてあげたいってだけなの。売り上げ金の譲渡は、胡桃ちゃんが一方的な申し訳なさを感じないように設定しているに過ぎないわ」
そしてもう一つの選択肢は単純だ。この町から出て行くことだ。
少なくとも、この町を出れば暴力団の手から最低限逃れることは可能だ。もちろん、この町で獲得した顧客は全て捨てることになる。
「私としてはどちらでもいいわ。もちろん、町に住んでくれるのは嬉しいけど、あまり住みやすい町ではないわ。止めることはしない」
胡桃の判断は速かった。というより、迷うことですらなかった。
「町を出るわ。顧客はこの町だけじゃない。むしろ、六衛町のお客さんは私が相手にしている中のほんの一部だし」
胡桃の顧客は増え続けていた。そんな彼女にとって、一つの町を切り捨てることは痛くもかゆくもなかった。
「そう……残念。さすが売れっ子は違うね」
その言葉に、全く嫌みの色はなかった。心の底からそう思っているようだった。
「そういえば、五十鈴はその、してるの?」
初めこそ胡桃は、五十鈴のことを同じ援助交際をしている女の子だと思っていたが、実際のところはよく分からない。
「ううん、今はしてない。してる子が悪いとも全然思わないし。それに他にも、胡桃ちゃんみたいに援交してる女の子たちを私は守ってたりするんだよ。それにまあ……私、今フィアンセがいるし?」
人差し指を五十鈴は自分の唇に当てた。少し気取ったような仕草でも、かなり様になっていた。
――そう……好きな人とうまくやれてるんだ。
胡桃はそんな彼女に嫉妬した。やはり、彼女とはわかり合えそうにないと思った。
「胡桃ちゃんは、早くその薬、止めた方が良いよ。止めたいなら、協力するし」
「…………」
――あなたには関係ない。これは、私の問題なんだ。
胡桃は五十鈴がまぶしく見えた。これ以上見ていると、いらぬ感情が湧いていまいそうだった。
「助けてくれてありがとう。もう、私には関わらなくて良いから」
「…………」
胡桃はベッドから立ち上がった。
「出口は右手よ」
「ありがとう、さようなら」
「うん、またね」
胡桃はその言葉に何も返さなかった。
――もう会うことはないわ。
***
それからも胡桃は、毎日のように援助交際を続けた。毎日のように顧客を増やし続け、顧客を奪ったと言うことで何人かの女たちと言い争いになったが、前のような暴力沙汰にはならなかった。
頃合いを見ては偽胡桃が薬を売りに来て、それを大量に買った。渇きを潤すために薬を打ち、疼きを抑えるためにセックスに明け暮れた。
「生きてたのね、嬉しいわ」
「心にも思ってないようなこと言わないで。殺そうとしたくせに。それよりも早く薬を売って」
そんな短いやりとりのみが、二人の間で交わされた。
――まだ、刃更は澪を見付けられていないのね……。まぁ、もうどんな顔して会えば良いか分からないけど。
そんな日々が、一ヶ月続いた。
~3月6日~
胡桃は公衆トイレの個室、その便座に座っていた。
脚を広げ、股をのぞき込むような姿勢を取る。先ほど購入したものを箱から取り出し、陰部の前に持って行った。
それは、白く細長い棒だった。少し膨らみを持つ、まるで体温計のような形状だった。
シャワァァァァァ…………
胡桃はその棒をめがけて尿を放った。勢いが良すぎて、少し手にかかったが気にしない。
しばらくして、その棒にある丸い窪みに線が浮かび上がった。
「…………………………………………陽性、かぁ…………」
危険日に天雲組に犯された時か、それともそれより前か、その後に躰を売った相手か。全く父親が誰か分からなかった。候補としては20人以上いた。
――思ったより、くるな……。
胡桃は今更ながら、頭を抱えた。本当に自分は、妊娠してしまったのだ。思い人の刃更のものではなく、援交の日々の末に誰か分からない男の子供を。
――もやもやする……。
胡桃はその感情を紛らわせるために、腕に薬を売った。腕にはすでに、至るところに注射痕の内出血で青痣が点々と浮かび上がっていた。
薬を売った途端、下腹部に甘い疼きが生まれる。
――まだ足りない。
胡桃はもう一本注射を打った。最近では一度の注射では物足りなくなっていた。
「あぁ……セックスしたい」
思わずそうこぼれた。
右手は自然と自分の淫裂へと伸び、膣へと指を差し入れかき回した。
クチュッ……クチュグチュッ……プチョォ……
「あっ……はあぁ♥ んあっ……んくっ♥ はぁぁっ……」
胡桃は自慰行為に耽った。トイレに誰か入ってくる気配があったが、胡桃の声を聞いてすぐに出て行った。
「聞かれちゃったな……まぁいいや」
人さし指と親指でクリトリスをこねながら、薬指と小指で膣をかき回す。いやらしい水音が個室どころかトイレ中に響き渡る。どんどん手は激しさを増していき、そしてすぐに限界を迎えた。
「んいぃぃぃ~~~~~~~~~♥♥♥♥♥」
プシャッ、プショッ……
ビクビクビクッ……
「あ……あぁ……んぎっ……はぁ♥ ふぅ……はっ……♥」
淫列から愛液がトロトロと溢れ出し、絶頂を示す聖水を吹き出した。
――気持ちいい……でも、全然足りない……。
その時、ポケットの携帯電話が鳴った。胡桃はそれを愛液でぐしょぐしょの手で取りかけ、慌てて反対の手で取って電話に出た。
「……あぁ、ユウガさん。うん、いいよ。今からね。今日はサービスしちゃうから、楽しみにしててね」
電話を切った直後、再び電話が鳴った。何か言い忘れたことあったかなと思いながら出ると、別の相手だった。
「もしもし、あぁオオゼキさん。何? 今から? それは無理かな……そうだな、三時間後ならどう? いつものプレイね。分かった。じゃあね」
電話を切りながら、胡桃は今日一日のスケジュールを頭に浮かべる。
――午後からはもう3人予約で……確か夜も2人入ってたよね。
「あぁ、忙しい忙しい」
個室から出て、胡桃は妊娠検査薬をゴミ箱に放り投げた。
胡桃はすでに、薬とセックスに溺れきっていて、抜け出すすべを持たないのだった。
胡桃編前後編でした。
時間の足並みがヒロインたちでようやく揃ってきましたね。澪だけは随分進んでいますが。
次はきっと柚希編です。そろそろ堕ちるころかな? もしかするとまた前後編になります。