※この作品はR-18です。

TS憑依堕天使は主人公のNTRを計画するようです   作:カイバル峠

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長らくお待たせして申し訳ありません!
単純に私用で忙しかったのと、中々筆が乗らなかったのとで前回更新から時間が空いてしまいました。

久々で申し訳ありませんが、今回もある意味胸糞展開?かもしれないです。

苦手な方はバックを推奨します。

それではどうぞ。


幻視する影

幻視する影

 

 

 

 

「っ!?これ…教会のシスターじゃない!あなた一体何を考えているの?」

 

「ああ、見ての通りさ。名前はアーシア・アルジェント。元シスターだ。今はこの町にいる堕天使に囚われているんだ。」

「だとしたら尚更問題よ。今の三大勢力がどういう状況か、あなただって分かっているでしょう?仮にその話が本当だとしても、私たちが手を出せば必ず争いになるわ。それに私たちは魔王様の身内よ?敵を刺激するようなことは厳にt「彼女は敵じゃないッ!!!」っ?!」

 

ディオドラは唐突に声を荒げた。

 

「彼女は…!アーシアは本当に優しい子なんだ……ッ!教会のシスターであるにも関わらず、傷ついた僕を癒してくれた!でもその代償に彼女は教会の人間共に追放されてしまった!僕は彼女に謝りたい!だからどうしても、アーシアに会わなければならないんだッ!!」

 

「頼む、リアスさんッ!!君の力を貸してくれ!!アーシアの身にもしものことがあれば、僕は…僕はッ!!」

 

ディオドラは私に頭を下げて思いの丈を打ち明ける。

彼は本気だった。

上級悪魔の、それも次期当主が他家の者に頭を下げるなど、並大抵の覚悟でできることではない。

そのアーシアというシスターのことがよほど心配なのだろう。

 

しかし私もこの町の管理者としての矜持がある。

三つ巴の戦争。

三種族を衰退させた戦争を再開させた原因として歴史に名を残すようなことだけは絶対にごめんだ。

 

「あ、あなたの気持はよく分かったわ。でもそれとこれとは話が別よ!少なくとも私の管轄の中で、戦争再開の火種になるようなことは断じて認められないわ!」

 

冗談じゃない。

私の在任期間中に、問題が起きるようなことがあってはたまったものではない。

グレモリーの次期当主として、経歴に傷をつけるような事態は絶対に避けなければ。

 

「…そうか」

 

ディオドラの纏う雰囲気が一変した。

能面のような無表情で、声のトーンも今までの穏やかな調子から、地を這うような重々しいものへと変わる。

いつも細めている目を見開いているその姿は不気味そのものだった。

 

「どうやら僕は、君を買いかぶっていたらしい。だが、本当に君はそれでいいのかい?」

「……どういうことかしら?」

 

私が問い返すと、ディオドラの口元が三日月形に歪む。

 

「なんだ、そこから説明しないといけないのか。まあいい。近頃この町で堕天使共がコソコソと何か企んでるのは君達も知ってるだろうけど、そもそも連中はい(・)つ(・)こ(・)の(・)町(・)に(・)侵(・)入(・)し(・)た(・)のかな?」

「ッ」

 

私は言葉を失う。

それに気をよくしたのか、ディオドラはさらに畳みかけてきた。

 

「その様子だとやっぱり気付いてなかったみたいだね。いや、知ってはいたがそれ以上深入りしようとしなかったというべきか。答えはずっと前からさ。君がこの町に来た時には既にいたんじゃないのかな?どういうわけだか、今の今までは大人しくしてたみたいだけどね。だけど放置していたのは不味い、大きな失点だ。それが現に今、取り返しのつかない結果を招こうとしているんだから。」

「どういうこと?」

「そうだね、もっと具体的言ったほうがわかりやすいかな……兵藤一誠のことさ。」

「!」

 

私たちは驚きを隠せなかった。何故、ディオドラが彼のことを知っているのか。

 

「クククク、どうして知っているのか、と言いたげな顔だね。簡単な話だ。アーシアのことを僕に教えてくれた奴がいてね。そいつが堕天使共の計画を話してくれたのさ。」

 

堕天使側の住人と内通していることをあっさりと白状したディオドラ。しかし私はそれ以上に、兵藤一誠がこの件にどう関わってくるのかが気掛かりだった。

 

「そう……でもそれと彼が、どうあなたの言う「取り返しのつかない」ことと関係するのかしら?」

「ああ、それはね。どうやら彼が持っているらしくてね……『神滅具』を。」

「?!」

 

いや、予感がなかったわけではない。

彼を初めて見たとき、微かではあるが、違和感を覚えたものだ。

あまりに反応が微弱だったため、それが何かまではわからなかったが。

 

「彼は失踪したと思っていただろう?でも実は堕天使共が彼を連れ去ってたのさ。これははっきり言って非常に不味い事態だ。堕天使は神器に関する研究が僕ら悪魔より進んでいるからね。連中が『神滅具』を手にすれば勢力間のパワーバランスが崩れてまた一歩、戦争再開に近づく。まして、君の領地で生まれ育った神器所有者を、事もあろうに堕天使に掻っ攫われたとあっては失態どころじゃない。悪魔という種の存続に関わる一大事だ。そうなれば当然君もただでは済まされないぞ?」

「っ」

 

「…ディオドラ様、あまり我が主を責めないではいただけませんか?わが主とて、下手に行動を起こせばそれが戦争再開の火種になりかねないと、やむに已まれず静観という道を選んだのですから。」

 

ディオドラをやや咎めるような視線を向けながら、朱乃がフォローしてくれる。

情けないことだが、今は彼女の気遣いがありがたかった。

ディオドラはまだ何か言いたげな様子だったが、何か意図があったのか、落ち着いた調子で再び切り出した。

 

「そうだね。僕もわざわざこんな話をするために来たわけじゃない。だが状況は一刻を争うということだけは理解して欲しい。そこでさっきの話に戻るわけだが、どうだろうか?僕はアーシアを救出し、君は堕天使を町から駆逐して『神滅具』を奪還する、そのために君と僕とで共同戦線を張る。利害は一致していると思うけど?」

「……」

 

私は迷った。

確かに、堕天使の侵入に気づかず、兵藤一誠の失踪を許してしまったのは私のミスだ。

だが、ディオドラのいう内通者からの情報は果たして正しいと言い切れるのだろうか?

兵藤一誠が神器を持っているのはほぼ間違いないだろうが、本当に『神滅具』なのか。

そこまでのリスクを踏む必要性があるのか、私には図りかねた。

だが、そんな私の心の葛藤を見透かしてか、ディオドラは口を開いた。

 

「これは飽くまでも僕の独り言として聞いてほしいのだけれどね、この町の利権にはグレモリーだけじゃなくてバアル家の連中も絡んでいると聞いたよ。お世辞にも君のお兄様をはじめとした現魔王に好意的とはいえない大王派の連中が、このことを嗅ぎ付けてスキャンダルとして利用したらどうなるだろうね?僕も同じ現魔王輩出家の一員として、それはあまりに忍びないんだ。」

「!」

 

ディオドラは暗に、ここで手を打たなければ、私一人の問題ではなく、魔王である兄をはじめ、グレモリー家やその周囲を巻き込む一大事に発展すると言っているのだ。

私は朱乃を見る。

すると彼女も、同じことを考えているようだった。

私たちは互いに頷き、覚悟を決めた。

 

「…わかったわ、ディオドラ。あなたに協力するわ。ただし、不用意な争いに発展しそうな真似は控えて頂戴。」

 

するとディオドラは、嫌みなほど爽やかな笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、決まりだね。ご協力に感謝するよ、リアスさん。」

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

ディオドラに促されるまま、彼の「くれぐれも内密に」との要望に従い留守を子猫と佑斗に任せ、私と朱乃はディオドラとともに町の教会へと移動した。

だが着いて早々私は違和感を感じた。

元々悪魔である私たちにとって、教会はあまり気分の良い場所ではないのだが、それを差し引いても不気味と感じるほど静かだった。

教会を含む、辺り一帯から堕天使のは勿論、生き物の気配が一切感じられなかったのだ。

教会の建物そのものも人の手を離れて久しいと感じるほどで、壁の罅や剥がれ、木材の傷み、すっかり錆びついた金属具など、いかに神に背いた堕天使とはいえ、自らが拠点とするのにこんな荒れ放題にしておくなどとは到底考えられなかった。

あまりに不自然なため、考え直すようディオドラの説得を試みるが、よほど件のアーシアというシスターがここにいるという確証があるのか、聞く耳を持たず、仕方なしに私たちはそのまま捜索を続行することとなった。

 

 

だが結果は見事に空振りだった。

 

 

私たちは自らの足で進むほか、使い魔を放ち、また魔力探知も同時に行って教会そのものと付随する設備を隅々まで調べ上げた。

礼拝堂、懺悔室、宿舎、厨房、倉庫などなど、凡そ考えうる場所は全て探したが、鼠一匹見つからないという始末。

そしていよいよ残すただ一つとなった、礼拝堂の地下室の扉を開いたとき、全てが徒労に終わったことを身を以て実感するのだった。

 

 

「そんな…バカな……」

 

 

ディオドラがポツリとつぶやき、力が抜けたようにその場に膝をついた。

地下に広がっていたのは地上の礼拝堂とほぼ変わらない広さの空間。

しかし上の礼拝堂のような長椅子や聖人の像などは一切なく、代わりに湿気と黴臭い空気が漂うがらんとした空間が広がっていた。あるのは中央奥に設置された小さなピラミッド状の祭壇だけで、その上には何か大型の装置のようなものが安置されていたことを示す遺構のみ。かつてはここで何かの儀式が行われていたのだろうが、わざわざ地下で行うような儀式をしている時点で、ここの最後の所有者が天使側でなかったことは確かだろう。

 

「…嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!嘘だァあああああああっッッ!!!!」

 

ディオドラは頭を抱えてその場にうずくまる。

 

「ありえないッ!!どういうことだ?間違えるはずがない、受け取った手紙も地図も、確かにここを示していたハズ…なのに何故?クソッ!またか…またなのか?!彼女までもが僕を欺くだなんて……はっ、まさか…いや、そんな、でも…」

 

何やら一人で思考の海に没頭し始めたディオドラ。

邪魔をするのは悪いが、状況からみて放棄されているとはいえ、私は一刻も早くこの敵地から立ち去りたいのだ。

だから、私は彼に声を掛けることにした。

 

「ディオドラ…その、アーシアさん?がここにいるという情報は正しかったのかしら?」

「っ……」

 

ディオドラは血走った目でこちらを一瞥した。その狂気さえ感じる風貌に思わず委縮するが、私は話を続けることにした。

 

「あなたさっき言ってたわよね?内通者がいるって。でも、本当にその人物は信用できるの?」

 

その時、彼の瞳が僅かに揺れたような気がした。

 

「……内通者?…そうか、そういうことだったのか…ハハ、ハハハハッ」

 

何やら得心めいた様子のディオドラは、カラカラと乾いた笑い声をあげると、力なく幽鬼のようにヨロヨロと立ち上がる。

そして再び瞳に狂気じみた光を浮かべて私たちを見た。

 

「…そうだね、どうやら僕は、何か思い違いをしていたようだ。」

 

そういうが否や、ディオドラは早々に転移魔法陣を足元に描き出す。

 

「申し訳ないが、僕はここで失礼させてもらう。どうしても今、やらねばならないことができてしまったからね。迷惑をかけてすまなかった。この借りはいずれ必ず。」

「ちょっ」

 

私たちが静止の声を掛けようと思った時にはもう、彼は転移魔法陣の向こうへと消えていた。

 

「一体、何なのよ、もう……あれ?」

 

残された私たちは、彼の意図が掴めず、ただただ困惑するだけだったが、祭壇の上に、何か光るものが落ちているのに気が付く。

 

「何かしら?」

 

拾い上げてみると、それは黒曜石のような黒く輝く破片。

一部に緑色の文様が刻まれ、そこに微かに魔力の痕跡が残っていた。

 

「…一体、ここで何が行われていたというの?」

 

その疑問に答えられる者はいない。

ただ、私の胸の内で得体のしれないモヤモヤした感覚が燻り続けるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

 

人間界某所―――

 

 

夜空をくり抜いたような満月が煌々と輝き浮かぶ下、都市は人工の明かりに彩られ、昼間と変わらぬ喧騒を見せていた。

その中の、とあるビルの屋上にて、路上を行きかう人の往来を見下ろす男がいた。

フリード・セルゼン。神父の服を身に纏う彼は、その色素のない髪を風に靡かせ、無表情に、ただ視線を下に向けていた。

 

「よく働くもんだねェ。朝起きて食って、日が沈んだら眠る、そいつが人間の本来のあり方だってのによォ。あくせく働いたって寿命縮むだけだろうに。まったく、資本主義ってのは恐ろしいねェ。欲望が際限なく広がってどいつもこいつも正気じゃねェ……そう思わないかい?」

 

この場にフリード以外に人影は見当たらない。しかし彼の言葉は確かに、誰かに問いかけるものであった。

 

「さてね。だが少なくともそれを、欲望の化身たる悪魔に問いかける時点で僕が正気であることに疑問を抱くよ。」

 

返答は闇の中から返ってきた。

構造物の脇から、フリードの方に歩みを進める人影。

月の明かり闇のベールを取り去り、その姿を露わにする。

 

現れたのは、貴族風の出で立ちをした、外見上の年齢はフリードと大差はない、物静かな雰囲気を纏う金髪の優男。

アスタロト家の次期当主、ディオドラ・アスタロトだった。

 

「よォ、坊ちゃん。こんなところまでどうしたんでェ?」

 

フリードは振り返らずに首だけディオドラの方に傾け、親し気な調子で声をかける。

すると途端に、ディオドラの体から荒々しいオーラが溢れ出す。

 

「どうしたか、だと?随分なご挨拶じゃないか……!人間の分際でよくもこの僕を謀ってくれたな!!」

 

ディオドラは憤怒に歪んだ形相でフリードに詰め寄る。

その顔に先ほどまでの優男といった穏やかな面影はない。

 

「おいおい、来て早々何怒ってんだよ?」

「とぼけるな!お前が言った通りに、あの町の教会に行った!あそこであのレイナーレとかいう堕天使の女がアーシアから神器を抜き取った後で僕が奴を殺してアーシアに駒を与える、そういう計画だっただろう!だが彼女はいなかった!それどころか堕天使共さえいないもぬけの殻だったじゃないか!話が違うだろう!!」

 

普段の柔らかい物腰は全て表面上を取り繕い、他者を欺くための仮面。

どこまでも利己的で欲に忠実、己の欲を満たすためならば手段を選ばない、悪魔の本質といっても差し支えないエゴの塊を剥き出しにする。

ディオドラ・アスタロトが生来持ち合わせていた性質が露わになる。

 

「八つ当たりは止せよ。手紙にそう書いてあったんだろ?そんでいなかったんなら振られたんじゃね?」

「ッ!ふざけるな!!」

 

ディオドラが怒りに任せて魔力弾をフリードに向けて放つ。

しかしフリードは曲芸師も真っ青という動きでひらりと躱す。

 

「おーおー、気に喰わねェとすぐ暴力ですかい!とんでもねェDV男だなァ!やっぱアーシアちゃん見る目あるわ~。」

「黙れ!そんなことがあってたまるか!あるはずがない!聖女もシスターも、ちょっと甘い言葉を囁いてやればすぐに堕ちる淫売どもだ!どんなに頑なにみえる女でもちょっと追い詰めてやればコロッと態度を変える尻軽共さ!そんな彼女らを、僕はあの退屈で狭苦しい教会から解放してやったんだ!僕こそが彼女たちの救世主!僕の下で僕の玩具(モノ)であり続けることが、彼女らの真の幸福なんだよ!それにだ!」

 

口元を三日月形に歪ませ、今まで落としてきた教会の聖女やシスターを蔑めるディオドラ。

 

「思えばお前と出会ってからだ!シスターたちの食いつきが妙に悪くなったのは!お前が手引きした女に限って行方を眩ませてたからな!その時点で気づくべきだったよ!だがこれでハッキリしたな!どんな手を使ったかは知らないが、お前を消せば僕の夢は成就するッ!消えてもらうぞ、フリィイドォオオッッ!」

 

だが当のフリードはワザとらしく、大仰に信じられないといった表情をして見せる。

 

「え?マジで??本気でそんなこと思っちゃってんの??うわぁ、マジドン引きだわァ~マジで痛すぎ。自分がモテないのを人のせいにするとかマジありダセェわ。てかアレ?なんか臭うぞ?んん?これは……そうか!童貞臭か!君の妄想があまりに童貞臭すぎてついに臭いまで出ちゃったかwwwギャハハハ!妄想お疲れちん!wwwあ、そうそう!君が俺っちと出会ってから逃がした娘全員、俺っちにぞっこんなんで、悪しからず!!」

「ッッ!貴様ァッッ!!」

 

ディオドラが怒りに任せ、殺意に塗れた魔力を振りかざしてフリードに仕留めんと迫ったその時だった。

 

「へぶッ?!」

 

突然、何かがディオドラの足を引っ張り、そのあまりの強さに受け身を取る隙さえ無く、そのままコンクリートの床に引き摺り落される。

何が起きたのか分からないディオドラは自分の足を見て絶句する。

何もないはずのビルの屋上の床から、黒い手のようなものが生え、自身の片足をしっかりと握っているのが見えたからだ。

 

「くそッ!放せッ!!」

 

ディオドラが拘束されていないもう片方の足で黒い手を蹴り、魔力を練って振り解こうとしたその瞬間。餌を求めて水面から顔を出す魚の群れの如く、次々と黒い手が生えてはディオドラを拘束し、瞬く間に彼は一切の身動きを封じられる。

 

「なっ?!貴様、一体何をしたっ…?!」

 

雁字搦めにされ、身動き一つできなくなってなお、ディオドラはフリードを睨みつける。

 

「別にィ?俺は何にもしてねェよ?ただ、ちょっと教えてやっただけさ―――テメェのせいで泣き寝入りした女全員の怨念になァ」

「くッ?!」

 

ディオドラは一瞬、自分を睥睨するように見下ろすフリードに底知れぬ恐怖を感じた。

この恐怖はなんだ?

いくら強かろうと、どれほど邪知甘寧に長けていようと、自分が人間に対して存在としての格の違いから恐怖を抱くことなどありえない、これまでそう信じてきたディオドラはただただ困惑する。

そしてその一瞬の、得体のしれぬ恐怖が思考を鈍らせ、動きを止め、心身ともに致命的な隙を生み出す。

 

「テメェとアーシアちゃんじゃ釣り合わねェよ……んじゃ!続きは彼女たち(・・・・)とよろしくやりな!クソ悪魔くん♪」

「!」

 

その瞬間、ディオドラは絡みつく無数の黒い手によってビルの床に、底なし沼に沈むように引きずり込まれていく。

体が完全に飲み込まれるまで、声にならない怨嗟の叫びを上げながら。

 

 

 

 

◆◇    ◇◆

 

 

 

 

――どこだ、ここは?

 

ディオドラは、果てのない暗闇の中で目を覚ます。

 

――なぜ僕はこんなところに…そうか!あの時フリードの奴がおかしな術を使って……!

 

直前までの記憶を取り戻した彼は、意識がはっきりとするにつれ、自らの置かれた状況に気づく。

正座のような姿勢で、両手を横方向に水平に上げ、十字架に掛けられるような体勢で拘束されていた。

すぐさま、彼は拘束を解こうと身を捩ったり、魔力を練って振り解こうとするが、十字架はびくともしない。

 

「クソッ!フリード!いるんだろう?!どこだ?!出てこい!」

 

苛立ちを募らせた叫びが木霊する。しかし反応はない。

悪魔の天敵ともいえる十字架のような体勢で拘束されているせいで余計にストレスがたまる。

 

≪無駄ですよ≫

 

「!」

 

突如として、何者かの声が脳裏に響く。

それと同時にディオドラの周囲の闇がボコボコと盛り上がり、段々と人の形をなしていく。

やがて人型になった闇は、それぞれ異なる顔を持つ女性の姿へと変貌する。

 

「なっ…そんな、バカな……」

 

ディオドラは唖然とする。

現れた女性たちの顔を全て、彼は知っていた。

それもそのはず、それは全て、彼が今までに堕としてきた教会の女性のものだったのだから。

 

「何故だ…何故…君たちがここにいるんだ……?」

 

ディオドラの問いに、一番近くにいた女性が答える。

 

「可笑しなことを仰いますのね。私たちがこうして集まっているわけなど決まっているではありませんか。ディオドラ様にお礼をするためですわ。」

「礼だと?」

「はい。」

「それは――」

 

それはどういうことかと、ディオドラが訝しみ、問おうとした瞬間。女性たちの体が一斉に黒い炎のような闇に包まれる。

そして

 

「決まっているではありませんか。」

「なっ……」

 

再び姿を現した彼女たち。

皆、闇を押し固めたような漆黒のボンデージに身を包み、鞭を手にして立っていた。

 

「私たちの人生を滅茶苦茶にしてくれたお礼、ですよ?」

 

最初の彼女がニッコリと、鞭を撫でながら満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

――何故なんだ

 

――何故、君たちはそんな顔をして笑っていられるんだ?

 

ディオドラは、遠のいてはまた引き戻される意識の中でそう問いかけずにはいられなかった。

漆黒が身を削るたび、炎で焼かれるような耐え難い痛みが肌を焦がし、肉を裂き心身を蝕む。

鞭だけではない。彼女たちがブーツとグローブで包まれた黒い手足で殴る、蹴る、踏むなどするたびに同様の傷みが襲ってくる。彼女たちの身に纏う黒のボンデージもまた、鞭と同じく触れると激痛を齎す素材でできているらしかった。

着ていた服は既にズタズタに引き裂かれて襤褸布程度にも残っていない。

剥き出しになった肌に鞭やボンデージの一撃が襲い掛かり、いくつもの傷痕が刻まれる。しかし傷ついた傍から跡形もなく回復し、そして次の一撃で再び削られる。

その繰り返しだった。

 

何度叫んでも、助命を乞うても、シスターたちは嗤いながら鞭を振るう。

幾度となく繰り返される痛みの応酬で既に叫びを上げる声は枯れ、心は砕ける寸前だった。

だが不意に、鞭の嵐がやむ。

気のせいかと思って顔を上げると、そこには一条の光が差していた。

それはやがて人の形となり、その輪郭が明らかになる。

 

「アー…シア……?」

 

そしてそれは、ディオドラが待ち望んだその人だった。

金髪のあどけなさを残すシスター。

アーシア・アルジェントはまさしく聖母のような微笑みを浮かべると、傷ついたディオドラの下に歩みより、自らの神器『聖母の微笑み』で傷を癒していく。

 

「アーシア…そうか、来てくれたんだね。ずっと、ずっと君に会いたかったんだ……」

 

ディオドラは、まだ痛みが残るなか、感激のあまり涙さえ流していた。

そんな彼に、アーシアは何も言わず、ただ静かに微笑み返す。

 

「僕は君に謝りたかった。僕が不甲斐ないせいで、君を辛い目に合わせてしまった。だから僕は誓ったんだ。必ず君を迎えに行くと、君を救い出すとね……」

 

傷は全快し、ディオドラの瞳に生気が戻る。

そこで初めて、アーシアは口を開いた。

 

「ディオドラさんは不思議なことを仰るのですね。ディオドラさんが仰る“救う”という言葉の意味はよく分かりませんが、私たちは既(・)に(・)救(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)よ(・)?」

 

ディオドラは一瞬、彼女が何を言っているのか理解できず、思考停止する。そしてそこで初めて、微かな違和感を覚える。

何故、彼女はここに現れたのか、そして何故、傷は既に言えているのになおも神器を使い続けているのかと。

 

「……どういうことだい?一体、何を言って……」

 

彼が問いかけようとしたその瞬間、自身の体に異変が起こるのを感じた。

突如、拘束されていた片腕の、二の腕部分が泡立つようにボコボコと異常に膨れ上がり、やがて黒く変色すると同時に爆(・)ぜ(・)た(・)。そして内部からドス黒い液体が飛び出し、彼とアーシアに降りかかる。

 

「う、うわああああああああああッッッ?!!!!」

 

ディオドラは全身を駆け巡る激痛とパニックとで狂乱する。

見れば、片腕だけではない、もう一方の腕、両足。全身の至る所で同じような膨張が始まっていた。

そして彼は見てしまった。

自信の惨状を見てなお、アーシアが穏やかな笑みを浮かべて治療を続けているのを。

 

「ま、待ってくれアーシアッ!!もういい、十分だ!」

 

浅慮ではあるが、腐っても冥界最高の頭脳を誇る現魔王ベルゼブブの血筋。

彼とは遥かに劣るとはいえそれなりに頭の回るディオドラは、すぐさま自分の身に起きた現象を理解する。

これは過回復だ。

限界を超えた速度で細胞が分裂し、その結果維持に必要な養分や酸素の供給が間に合わずに壊死し、また一部はアポトーシス(自壊)を引き起こす。

しかし理解したところでディオドラにはどうすることもできなかった。

そして最後の時が迫るのを示すかのように胸、肩、首、そして頭部の膨張が始まる。

 

「駄目ですよ。ディオドラさんは悪い病に侵されているのですから、治療しないと。わかりますか?今もあなたの体を病魔が巣食っているのが。主(・)か(・)ら(・)修(・)道(・)女(・)を(・)寝(・)取(・)り(・)た(・)く(・)な(・)る(・)悪(・)~(・)い(・)病(・)気(・)が。」

 

アーシアが微笑みながら返した一言は彼にとっては死刑宣告に等しかった。

なおも笑顔で死を運ぶ光を放ち続ける彼女に、ディオドラは死神の姿を幻視した。

 

「た、助け……」

 

肉に押しつぶされながらも必死に絞り出した叫び。

しかしそれも空しく自己崩壊した細胞の波に飲み込まれ、消えていった。

 

 

 

 

◇◆    ◆◇

 

 

 

 

数日後、ディオドラ・アスタロトは変死体となって発見された。

発見場所は最後に目撃されたという人間界の駒王町から遠く離れた冥界のアスタロト家領内の山中だった。

外傷は殆どなく、争った形跡も見られないことから詳しい死因は不明。

しかし脳の側頭葉と扁桃核に著しい損傷がみられること、そして死の直前に放出されたとみられる異常な量の精液から、間接的な死因としてクリューバー・ビューシー症候群なども挙げられたが、定かではない。

またディオドラの死に前後して、彼の眷属悪魔全員が毒を呷って自決していたことが判明したが、関連性は今なおも不明である。

しかし彼らの死の直後から、生前ディオドラが旧魔王派をはじめ、反体制派と内通していたことを示す証拠が続々と発見され、それがアスタロト家の名誉を失墜させることとなる。

 

 

 

 

「まったく、いい迷惑ね。」

 

それがリアス・グレモリーの第一声だった。

彼女は冷めた目で、今しがた読んでいたディオドラの死を報じる冥界の新聞をデスクの上に放り出す。ちょうどその時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

「失礼します。お茶をお持ちしました。」

 

入ってきたのは、彼女の『女王』を務める姫島朱乃だった。

彼女は紅茶を注いだティーカップをリアスのデスクまで運んだその時、机の上に放り出された新聞に気が付く。

 

「部長、その記事は」

「ええ。ディオドラの死についてよ。」

「痛ましいですわね。ベルゼブブ様の心中お察ししますわ。」

「本当よ。教会のシスターとみるや誰彼構わず手を出してたみたいだし、大方変な病気でも貰ったんでしょう。」

 

リアスは冷淡な調子で吐き捨てる。

事件の後、最後に接触が確認されたのがリアス達であったため、参考人として冥界の調査団に幾度か付き合わされる羽目になったのだ。

 

「本当にいい迷惑だわ。あの連中の態度ときたら、完全に私を容疑者扱いしてたわ。今思い出しても本当に腹が立つわね。お兄様に頼んで全員クビにして貰おうかしら?…まあでも、お陰でアイツ(・・・)との縁談が一時保留になったのだけれどもね。」

 

一切の感情の抜けた目で天井の一点を見つめる主の姿に、朱乃は内心同情しながらも苦笑する。

 

「そういえば」

 

気分を切り替えるために、先ほど届いた報告を伝えることにした。

 

「先日例の教会地下で採取した破片の解析結果が届きました。ベルゼブブ様によると、僅かに残された術式の痕跡からみて何か大型の次元転送装置のようなものの一部ではないか、とのことです。」

 

朱乃がそう言いつつ、預かってきた報告書をリアスに手渡すと、無表情で宙を泳いでいた彼女の目にハイライトが戻る。

 

「次元転送装置?出所は神の子を見張る者(グリゴリ)かしら?」

「いえ、堕天使の技術ではないそうです。それどころか、まったく未知の術式だとか。ただベルゼブブ様によれば、転送先は次元の狭間に設定されていたそうです。」

「……」

 

リアスはその言葉に暫し黙り込む。

そして数秒の沈黙の後、不意に口を開く。

 

「……そういえば例の彼、兵藤一誠が最後に目撃されたのはどこだったかしら?」

「え?はい、ええと、確か教会だったかと……まさか」

 

朱乃は彼女が言わんとしていることに気づく。

兵藤一誠の失踪、金髪のシスター、姿を消した堕天使。

そしてそれらを繋ぐ教会というキーワード。

それらが指し示すものは――

 

「朱乃、引き続き例の欠片の解析をベルゼブブ様にお願いしてみて頂戴。それからあの教会をもっと詳しく調べる必要があるわ。教会の所有者と敷地の地権者を調べて、買い取れそうならグレモリー家の名義で購入する手続きを進めてくれるかしら?勿論人間界の法律に則って所定の手続きを踏む方法でね。」

 

唖然とする朱乃であったが、それも一瞬。次の瞬間には凛とした表情で、副官としての職務へとスイッチを切り替える。

 

「はい、部長。すぐに取り掛かりますわ。」

 

一礼すると朱乃は部屋を退出する。

 

「……できるものなら、何も出てこないで欲しいところね。」

 

一人になったところでリアスは呟く。

自分たちの与り知らぬところで、けれどもすぐ近くで、何か得体のしれない巨大な力が蠢いていることに薄々勘づいていた。

そしてこれから先、それが大きなうねりとなって自分たちの前に現れるであろうということも。

 

だが彼女たちは知らなかった。その勘が外れていてほしいという彼女たちの願いも空しく、それは既に、直ぐ傍まで迫りつつあることを。

 

 

 

 

 




というわけで、ディオドラ君が退場するお話でした。
今回はディオドラとフリードの暗躍、そしてリアスサイドの動きに焦点を当てた回でした。どうしても話を進めるうえで必要な展開だったもので^^;
主人公不在で話が進んでしまいましたが、また次回からレイナーレとイッセーの絡みに戻る予定です。

これからもよろしくお願いします。
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