窓がガタガタと音をたてている。
夜になると、まだ肌寒く感じる地域だが、三蔵は自分が寒いのか暑いのかもよくわからない状況だった。
ただ、いつもならばありえない角度で上向いた自分の顔や、頬を包み込む、さらりとした掌。
どうやって逃れようか…等と考えたのをおそらく八戒は見透かしている。
優しく、それでいてガッチリと身体をホールドし、いつものように柔らかく穏やかな声音でささやく。
「今日は気が散りますか? 三蔵…?」
それだけで、耳元からの刺激が背中を通ってゆく。
己の意識よりも、身体が先に反応をする。
接触には嫌悪感があったはずなのに、八戒の体温をほのかに感じることは心地よかった。
「さぁ、口開けて? 」
熱をもった翡翠の瞳がひかるのを下から睨むと、下唇を指でそっと何度も撫でられる。ソレだけなのに、ジーンとした感覚が唇に生まれた。
くそ…。
「…三蔵…?」
自分は一刻も早く西へ行き、牛魔王の蘇生実験を阻止すること。何よりも奪われた『聖天経文』を取り返すために旅をしている。
こんなこと、していていいわけないのだ。
だが……。
八戒を無視すればいいことなのに、ソレが出来ない。
自問自答しても、いつも迷路に入り込んだようになってしまい、一向に答えがでないのだ。
そもそも、コレについては答えを八戒から求められたことはなく…。
好きだと告げられただけだった。
だが、悟空を好きだったのではなかったのかと問うと、『そんな風に誤解されて僕、傷つきました』等と言って、『慰謝料下さいね?』と、唇を臆面もなく重ねてきたのだった。
……しかも最初から舌まで入れてきやがって!!
とんだ肉食男子だった。
「何でそんな睨むんです? かわい……いえ、何でもないです」
そしてコレだ。ことあるごとに、『かわいい』とぬかしやがる。
いちいち目くじら立てんのもめんどくせぇくらいで、コイツ……おかしくなってんじゃねえかと、疑っているところだ。
いや、俺を好きだと本気で言う時点で、大概だろう。
…自分で言うのもなんだが…、どこに惚れる要素があるのか解らねぇし、そういう事に関しては、一切親しんだことがない。
相手が何を自分に求めているかなど、めんどうとしか思えなかった。
はずだ。
「考え事は後にして…。ね?」
流されてんのが、気にくわねえわけじゃない。
嫌じゃないのが、いただけねえ…。
一向に口を開かない俺にしびれをきらせて、八戒が自分の舌をほんの少しみせて、微笑んだ。
長いキスを、八戒はする。
息が苦しくなったので、爪を腕にくい込ませてやる。
クスリ…。気配で笑ったのがわかった。
ちょっとした嫌がらせのつもりだが、むしろ嬉しそうな顔をして俺をみてやがる。
何が嬉しいんだ…。本当に、コイツおかしいな…。
「そんな顔しちゃって…三蔵~」
「…終わったら。さっさと部屋に帰れ」
しっしっと、払うようにした手をとられた。
「や! です。僕もう少し三蔵を味わいたいです」
お前! 俺は食い物じゃねえ……!
ふざけるのもと、怒鳴ろうとしたらこめかみにチュッとされた。
「泣いちゃいますよ」
「んなタイプか、お前が……」
いけしゃあしゃあと言いやがって、ニッコリしてても目が笑ってねえ。
こうなると、俺はまな板の上の鯉。
になんて…やすやすとのってはやらねえつもりだが。
「俺を裏切らねえんだろう?」
「あれ、これってそういう類いですか? ちょっとしたリフレッシュ……いえ、僕は本気ですよ? ただ、三蔵は『囚われられない』でしょうから、こうやって一時の安らぎを提供? してるつもりなんですけどね」
まったく…。よくもまぁ、つらつらつらと。
「早寝の方がリフレッシュできるだろうが。手ぇ離せ…おい、八戒」
「お寝むになってもいいですよ? 」
この間は寝ちゃいましたものね? と、言いやがる。
確かにそうだが、眠いのに強引に吸い付いてきやがったんだろうが!
段々と身体に見知らぬ感覚が増えていくのも、ついてけねぇんだよ! クソッタレ!!
「俺がかまうんだよ!!」
手から腕に移動した八戒のしなやかな指の感触が、はっきり官能の動きになった。
官能という言葉すら、こいつから言われてインプットされた。
イラつく感情とは関係なく…。ぞわぞわと、走り回るそれ。
自分の感覚がひきずられるのがわかる。そこからわざと意識をそらせる。
「離せ!!」
邪険にはらおうとしても、予想していたのか束縛が強くなるばかり。
「やです…三蔵…大好きです」
耳元からの刺激に弱いのをよくわかってる八戒は、ことさら低く囁き、耳朶を刺激する。
続けて、甘噛みされ…指が這わされ…。
「っ~っ!!」
辛うじて声が漏れるのは、阻止した。
今までそんなところを意識したことすらねえが、耳への刺激には反応を抑えようとしても駄目なのだ。
いわゆる『弱点』らしい。
思い出すだけで、自分がこいつにいいようにされているような気がしてしまう。
「……クソッタレ」
「お言葉ですが、貴方…今スッゴい色っぽいですよ?」
「わいてんのか!!」
罵倒を、整わない息の下から何とか言い返すのが精一杯ってのが、情けねえ。
「もう。たまらないなぁ…」
じわり…じわり…。八戒の触り方がいよいよ我慢できそうにない。
色々はぐらかそうとしても、人間の感覚は心地いい方へ流されるものなのだろうか……。
「……っ、~っ ん」
「なんていうか、…そう必死に我慢されてしまうと、背徳感満載ですね」
言いつつも、手の動きは止まらずに、腕から背中、腰…。唇は首筋を舐めてゆく。
首なんか舐める必要ねえだろうがっっっ!! 声がっっクソッ。
「三蔵。唇噛んじゃダメです…」
「勝手な…ぁっ!!」
ふたたび唇はふさがれ、段々と濃厚な接触に頭の中が、真っ白になってゆく。
「っ…はぅ…」
何度か己を慰めたのは…。必要に迫られてと、1度は好奇心から。それだけの経験しかない。昂る事もあったが、意識が飛ぶその行為を、どうしてもすすんでしようとは思えなかった。
そう認識して、それ以降はしたことがなかった。
してしまえば、隙が生まれる。隙が生まれれば、その間、身を守る事が出来ない。そうやって理由をつけて、今までやって来たってのに。
なのに…この様は、笑うしかねえ。
「なに他のこと考えてるんです?」
普段の爽やかな笑顔などそこにはなく…ただ、求める男の顔。
「んっっ」
首をふって逃れても、耳朶を甘噛みされ震えがはしり、腕を突っぱねようとしても…もう、足元がおぼつかない。
異様な息苦しさと、熱さは覚えがある。
眠気に変換されずに、腹の下に凝った熱が鬱陶しい。
「く……ぅ…」
ソフトに八戒の手が、法衣の上から触っている。
「三蔵? 我慢しないで? 」
「さわん! っな! ころすぞ!」
「でも…もうこんなになって…じゃあ」
ココはどうですか? そう言って、胸元を愛撫しだした。
「な! や! ああっ !?」
鋭敏な感覚が全身にはしり、知らずうちに息をのむ。
意図せず浮かぶ涙を、八戒の唇が吸う。
息が…苦しい。胸も。心臓がはねている。
八戒が法衣をくつろげ、アンダーごと胸の突起をつまんだ。
強い快楽に身をよじる。
「ふ…ぁっんん!! 止めっ!!」
「もっとみせて……三蔵…」
そのまま容赦なく、八戒が下半身も刺激してくる。腰、太もも、内もも、そして…。立ち上がっているであろう…ソレ。
触るな!! と怒鳴りたいが躊躇なく握りこまれ、瞬く間に追い上げられる。
「くぅ!! っっ」
衝撃に目をつぶって、歯を食いしばり耐えるしかない。
八戒の視線を強く感じるが、睨む余裕もなくただ翻弄される。
バカ!! んなとこ触りやがって!! あ! あ! くそ…っっ!!
抗おうにも、ただ身体を支えるのもやっとで八戒の胸にすがるしかない。
「くっあぁっっっ!」
そして…脳内がはじけるような快楽の渦。
「はぁっ…はぁっ…はぁ…っ」
俺は……出しちまったのか!? 八戒の手で!?
しばらくの間、呆然とした。
チャクラに口づけの感触。
「三蔵…っ!!」
八戒の吐息が熱い。
前髪をくすぐるそれに見上げるが、表情がよく見えない 、
息が整わず苛つく。
くそ!
まさか、シモの方まで触られるとは思わず、しかも気を飛ばしてしまったのだ。
見知った人間に、弱さを見られたような居たたまれない感情。
熱の去った後の爽快感と、いいようにされた事実。
「大丈夫ですか、三蔵…」
思わず手が出た。
バシッと、かなりの音が響く。掌の痛みは、八戒の頬にくっきりとアトを浮かび上がらせてゆく。
驚きはしたようだが、怒りもせず八戒はささっと拭い、法衣を戻し、俺を椅子へと座らせた。
俺への愛情しかない翡翠の瞳が、艶めいたまま苦笑している。
「コーヒーいれてきますね…」
「………チッ」
今さら被害者ヅラはしねえが、叩いた事を謝る気もなかった。
パタン
部屋に微かに、残る…、気。
窓越の外を見る。 あいにくの嵐模様だが、今は都合がいい。
立ち上がって、窓を全開にした。
なぶる風にさえ、肌がぞくりとして…。
唇も、腕も足も…。八戒の余韻がまだ残っている。
記憶からふるい落とそうとしても…ムリだ。
脳裏に浮かぶ、熱っぽい翡翠に、かすれた声…熱い掌。
嫌なら逃げればいい。
もしくは息の根を止めれば、迷わされる事もなくなる。
だが、俺はここにいる。
頭を振って、シャワー室へ歩いた。
ううむ。描写だけになってしまった…。
一応八戒が攻めるというものを目指して…失敗しました。
エロ(見も蓋もない…) 難しいですねえ…。
でも、一応続く予定です。八戒は、全然堪えてません(笑)
三蔵かわいかったなあ…って、コーヒーいれつつも不気味に笑っております。
もしかしたら修正するかもです。
続く…予定です。