※この作品はR-18です。

二次創作SS集   作:夜半の月

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えちえちは無いです。


クロヴィス総督(前社長)の遺し物

 

 

 

 クロヴィス総督(前社長)の遺し物

 

 

 

 

「副総督閣下ぁ~ッ、しっかり抑えてて下さいよぉ~ッ!」

 

 彼は、六尺脚立の下に見える桃色の髪を大きな白い髪留めで結った、大きな長いポニーテールを揺らす少女――女性に対して叫んだ。

 

 弱16歳の少女なのだが副総督という職に就き、神聖ブリタニア帝国第三皇女殿下という身分も鑑み、彼は彼女の事を公私問わず大人の女性と見ているのだ。

 

 その少女、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女は『はいッ!』と、いつにも増して気合いの入った声音で、六尺脚立の広がる脚をぐっと力強く支えた。

 

 たかが16歳の小娘が作業用脚立を立てる事に力を入れたところで知れている。知れているが、一人で作業をするよりかは遙かに安全だった。

 

「おーし、じゃあ埃落としてくから避けてろよー」

 

「はーい」

 

 彼が注意すると可愛らしい声が返ってくる。といっても、実際の処もう埃なんて無い。昨日落としているため塵しかない。それもせいぜいが彼の持つ雑巾で吸い取れる程度の。

 

 だが、皇女殿下の頭に万一塵でも落とした日には……誰も気付かないだけだ。だが、彼は自身の妻のたるユーフェミア・リ・ブリタニア皇女の頭に塵一つ落としたくないのだ。

 

 コーネリア総督は妹としてユーフェミア皇女を溺愛している。が、彼はそのコーネリア総督以上に女としてのユーフェミア皇女を溺愛していた。単純な勝負の話ならユーフェミア皇女は彼に勝ちの軍配を上げるだろう程に。

 

 家族愛と男女愛。どちらが上か計りづらいところだが、ユーフェミア皇女は彼を取る。それだけの話でしか無い。

 

 と、まあ、そんな愛だの何だのと語る間柄にある彼と彼女だが、彼は仕事時にはそれを一切出さない仕事人でもあった。

 

 自分は屑で滓で変質者、暴力には暴力を、を地でやってきたこと数知れず。碌な死に方をしないと思っていた。今でも思っている。齢も六十を数えるだろう。心筋梗塞でくたばってもおかしくない。酒もたばこもやらないが、たまにーに酒は飲むが、それでも糞な環境で暮らしているのだ。いつお迎えが来てもおかしかない。

 

 そんな彼の前に今更ながら運命の女を天ってやつは寄こしやがった。

 

 ユーフェミア・リ・ブリタニア、生涯を掛けて護りたい。一緒に居たい。そう思える女を。

 

 

“ユーフェミア皇女と子供を作るまで、ユーフェミア皇女に俺の子を産ませるまで死んでも死に切れんッ!!”

 

 

 それは欲望なのか? ただの願望なのか? 物凄い生命力と活力を彼の身体に生み出したのだ。ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女、彼女との子が欲しい。齢16のお姫様に六十を数える何処の物とも知れない変質者のイレヴンが子を産まさせようだなんて、なんとまあ恥知らずにして不敬者なのだろうか?

 

 だが、それでも止められない止まらない。ユーフェミア皇女と子供が作りたいという欲――いや、願望が。

 

 それは端から仕事にだけは真面目人間だった彼の真面目さを、皮肉な事に更に引き上げるに至ったのだ。

 

 変質者である彼が、疎開が形成された中、初めて犯した女がユーフェミア皇女だったのは、二人にとって運命の出逢いだったとしか言えなかった。

 

 ユーフェミア皇女は犯され続けた。彼はその少女がブリタニア帝国の皇女殿下だと知りつつも犯し続けた。この女に子を、俺の子を産ませたいという願望の下に、来る日も来る日も犯し続けた。

 

 その中で二人は愛し合っていったのだから、本当におかしな話としか言えず、ある意味でこれを運命と呼ばずして何を運命と呼ぶという、実に妙ちくりんな関係となっていたのだ。

 

 ユーフェミア皇女は既に彼の子を産む事を承諾し、彼との間で非公式な結婚式まで挙げ夫婦となっている。

 

 つまり彼はもう独り者の変質者では無い。一家の大黒柱たる立ち位置にあるのだ。そんな自分がいい加減な仕事など出来るかと、塵一つ遺さない清掃を、ある種の神業をやってのけるようになったのだ。

 

 どんな清掃業者、どんな清掃人でも塵一つくらいは残す。どこまでやっても乾けば残っているのだ。だが彼の仕事にはそれが無い。正に完璧なのだ。どうやってやっているかは本人にさえ分からない。自然と出来てしまう。それだけの話。

 

 故に、昨日やったこの場所には塵も積もっていない。どんなに頑張っても雑巾に塵が付いて終わり。その筈だった。

 

 

“バァンッッ”

 

 

 ユーフェミア皇女が脚立を支え、天板に乗った彼が棚の上を拭き取りおしまい。その程度の作業。そんな中へ、突如大きな音をして開いたのは入り口の扉であった。

 

「失礼するぞッ」

 

 大きな声で入室してきたのは、右肩に掛けて巻き整えた紫色のセミロングヘアーの髪。ユーフェミア皇女と同じく紫色の双眸を持ち、唇には髪と同色の濃い紫の紅を塗った勝ち気な表情をした麗しい女性。

 

 もう失礼してるだろ。口には出さない彼は天板に乗ったままの姿勢で、いきなりな珍客来客に脚立から落っこちそうに成りながらも、器用に上半身をひねり込み、礼をして見せた。

 

「これはッ、コーネリア総督閣下ッ! このような格好でご容赦をッ」

 

 コーネリア総督。コーネリア、その名をコーネリア・リ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国の第二皇女であり、エリア11の紛う事なき最高権力者だった。

 

「かまわん。仕事中だったのだろう」

 

「はッ」

 

 彼もコーネリアの前では心底礼儀正しい。心の声は別にして、おくびにも態度に出さない。当たり前だ。コーネリア総督は言わば元請けの社長なのだ。三次受けの平社員が本来ならば口をきいて良い立場ですら無い相手。

 

 こうして顔を覚えて貰えているだけでもありがたい事なのだ。

 

「かまわん。仕事中なのはかまわんのだ、それで」

 

 そこで一息溜めたコーネリア総督は口を開いた。目尻も鋭く射貫くように。

 

「何故副総督が貴様の使っている脚立を支えているのか……、おもしろい言い訳の一つでも聞かせて貰えるのかな?」

 

 そう、この状況こそあり得ない話なのだった。副社長である副総督が、平以下の彼の作業する脚立を支えている。

 

 妹である副総督を溺愛している総督からしてみれば、当然怒髪天を突く激怒物なのだ。

 

 こりゃ、下手なことを言えば即首が飛ぶな――。

 

「お姉様ッ! いえ総督閣下これは――」

 

 余計な事言うな馬鹿たれッッ。

 

「副総督、お前に口を出す権利を指し許したつもりは無い。私はその男に、そのイレヴンに問うているのだ」

 

「――ッッ」

 

 ユーフェミア皇女は圧に押されて押し黙る。そのまま黙ってろよと彼は彼で思いながら、彼は総督閣下への言い訳ならぬ、弁解のための口を開いた。

 

「総督閣下。意見具申」

 

 姿勢はお笑い物であったが、堂に入った皇族に対する対峙の仕方に、コーネリアの口許が少しほころぶ。

 

 元より彼女は彼を気に入っているという側面も其処にはあろう。

 

「良い、差し許す」

 

 故に意見を口にすることを差し許されたわけだが、姿勢が姿勢、場所が場所。ばつが悪いとでも言うように彼は上申した。

 

「はッ。しかしこの格好では失礼かと存じますので、下へ降りても?」

 

 身体をひねったまま、意見具申を申し出る。ぷッ、少しコーネリアの口から笑いが漏れてしまった。

 

 まあどちらにせよ、この体勢では色々と不味かろうと、コーネリアは彼の提案を受け入れた。

 

「かまわん。降りてこい」

 

「はッ、では」

 

 一段一段降りながら、実は絞首刑代に足を踏み出しているのでは無いかと背中で汗を流しながら、顔にも態度にも一切出す事無く、彼は脚立を居りきると、その場で片膝を突き頭を垂れた。

 

 ほう――コーネリアの息が漏れる。実に見事な堂の入った臣下の姿勢だ。イレヴンで此処まで皇族や貴族に対する応対の仕方を身に付けている者を、コーネリアは見たことが無かった。コーネリアが彼を気に入っている点には、こういった礼節の部分もある。

 

 その様子を不安げな表情で見つめているユーフェミア皇女に、コーネリアと相対する彼としては安心しろの一つでも言ってやりたいが、この場の空気が許さない。

 

「顔を上げよ」

 

「はッ」

 

「では、事情を聞こうか。なぜ副総督が丁稚のような真似事をしていたのかを」

 

 事と次第によっては即首跳ねるとその目が語っていた。が彼は怖じ気づく気配さえ見せずに返した。

 

「まず、言い訳となってしまいますが、私めはお断り致しました」

 

「なに?」

 

「私めはお断り致しましたと申し上げたので御座いますよぉ総督閣下ァ」

 

 その彼独特の言葉遣いを耳にしたコーネリアはにやりと笑う。

 

「そう言えば貴様には多少の無礼や非礼は許すと申しつけていたな。この場でさえそれを出すか。死の一歩手前に居るかもしれないこの場で」

 

「ええ、まあぁ、性分でしてねぇ。それに後ろが直ぐ死なら、何も怖い物はありませんで御座いますです、はい」

 

 不貞不貞しくも言ってのける彼に、この場に別の誰かを連れてこなくて良かったとコーネリアは内心、安心した。

 

 皇族侮辱罪になりかねなかったからだ。

 

「まあいいだろう、で。断ったとは」

 

「はぁ、実はですねえ、あれ六段脚立なんでございますよ、はい」

 

 一段、二段、三段、四段、五段、六段。コーネリアは数えた。確かに六段脚立だ。

 

 事は単純だった。六段では足りない高さだったのだ、彼がその上部を拭こうとしていた本棚の高さが。

 

「確かに六段では足りんな。では何故七段を持ってこなかった。仕事に完璧な貴様なら政庁内の配置されている物に対応する道具を持ってこれるはずだが?」

 

「完璧などと滅相も無い」

 

「謙遜するな。私は貴様の仕事ぶりをこれでもきちんと見てきている。一分の隙も無い完璧な仕事ぶりだ。そこは誇れ」

 

「はッ」

 

 では何故か?簡単だった。七尺以上のが無かっただけである。

 

「それで六尺か」

 

「ええまあ、無い物ねだりをしても仕方がありませんし。時間も無かった物で」

 

「では副総督が脚立を支えていたのは?」

 

 こちらはどう弁解する? 丁稚のような真似をさせていたことの言い訳は?

 

 面白い物でも見るように彼を見るコーネリアだったが、ストレートを噛まされた。

 

「いえね、届かないなら天板に登るしかないでしょう? 天板作業が危険なのは閣下も御存じの筈。それでね、どうするかと考えておりましたら副総督、ああもうめんどくせー。ユーフェミア皇女殿下がわたくしが支えますから天板へ上がって下さいと」

 

 隠し事も何も無いストレートに面食らったコーネリア。確かに優しいユフィならば言い出しかねない。断っても断ってもだ。

 

「……そうなのかユフィ」

 

「は、はい……おぢ、彼が作業できないとわたくしの業務にも後々支障が出ますので」

 

「それで昼食時間になっても来ずに副総督室に居たと」

 

「はい……も、申し訳ありませんお姉様」

 

 さあどう出るコーネリア総督閣下。こっちゃもうなんも手がねーぜ。残念だが俺の人生終了かぁ? 死ぬ覚悟はいつでも出来てるが、心残りはユーフェミア皇女と子が作れなかったことと、俺なんかの死にユーフェミア皇女を泣かしちまう事かねえぇ。

 

 そこまで考えたところで。コーネリアは立てと言った。

 

「それならば私も手伝ってやろう」

 

「はァッ?!」

 

「お、お姉様?」

 

「ふふふっ、普段からにやけヅラと真面目な顔を一切崩さない貴様のその面を拝めただけでもこの場でのやり取りに意味はあったな」

 

 ニヒルに笑うコーネリア総督。彼は思った――いい女だぜェ。

 

「まそれはそれとして、なに、単純な手数の問題だ。ユフィ一人では天板が不安定だろう。それに私は力がある。二人で支えてやればお前も作業がしやすかろう」

 

 い、いやいやいや。なに言い出しちゃってんのこの総督閣下。普通社長と副社長が揃って平以下の作業の手伝いなんかするかよ。姉妹揃って人が良すぎんぞおめーら!

 

 言うや否や六段脚立を支えるコーネリア。

 

「……」

 

「あの、」

 

 黙りこくる彼にユーフェミア皇女が話しかける、も。

 

「良いケツ(ぼそっ)」

 

 次の瞬間の彼の一言に、小さく呟かれたが確かに聞こえたその一言に、彼女は激昂。

 

「なっ?!」

 

 総督閣下のデカいケツに少々見とれてぼそっと本音が漏れた瞬間。彼のお尻が思い切りにねじりひねられた。

 

「い゛ッッッ!!」

 

 やったのが誰かは分かっている。隣に立ってさっきまで不安そうな表情を浮かべてらっしゃったユーフェミア皇女である。

 

「(いってえェェェェッッ!! ちょっとケツ見ただけだろぉぉぉッッ!?)」

 

「ん? どうした早く上れ。ユフィも反対側を支えてやれ」

 

「はい、お姉様」

 

 すまし顔&知らんぷりで大きく纏められた桃色の長いポニーテールを優雅に揺らせ、脚立の方へと歩を進めるユーフェミア皇女に、あのクソアマと思いながらも何も出来ない自分を嘆く。

 

 基本、彼はユーフェミア皇女に対して弱いのだ。強かったのは初めて彼女を犯してから二週間の間だけだった。結婚してからは完全に立場が入れ替わっている。

 

 もちろんとても仲良しで、彼はユーフェミア皇女を、ユーフェミア皇女は彼を、互いを深く好き合っているのだが。

 

「早くお上り下さいまし」

 

 先ほどまでとは打って変わって冷たい声のユーフェミア皇女。刺々しいというか棘しか感じねえ。そこに良いケツがありゃ男なら見んだろ。

 

 だが一方でユーフェミア皇女は優しくも怖い。慈愛の皇女とか呼ばれてるが、この女からは拳銃をパンパンと発射された記憶が多い。何度銃を向けられてレア物が射殺されたことか。下手すりゃ自分にまで当たってたのに容赦が無いのだ。彼女の裏ビデ嫌いはいったいどれ程の物か。

 

 これは何かして機嫌取らないとこの後が怖いなあと彼は考えながら、両方から支えられた脚立に上った。

 

「ところでこの様なこと守衛の騎士様方にでもお任せになれば、ギルフォード卿やダールトン将軍閣下もいらっしゃる事ですし、何も総督閣下と副総督閣下が揃って為さることでは無いかと思うのですがねェ」

 

「なに気にするな。気が向いたのだよ。良いから上れ。私たちを顎で使えるなどそうは無い事だぞ?」

 

 やはり面白そうに笑っているコーネリア総督。ユーフェミア皇女と出逢う前だったら押し倒してい――。

 

 ガンッ!

 

 思いっきり脚立を蹴ったのはユーフェミア皇女だった。

 

「早くお上りくださいませッッ!!」

 

 怒ってる。とても怒っている。彼女は読心術でも持っているのだろうかと彼は思うも、その穏やかさからはとても考えられないような鬼から視線を逸らす。

 

「ユフィ? どうした?」

 

「何でも御座いませんわ。何処かの誰かが大切な人を裏切ろうとしたように感じて一瞬気分が悪くなっただけです」

 

 何処かの誰かって目の前に居る奴のことだろ。また死刑台が見えた。コーネリア総督の死刑台より豪勢で近すぎるのは気のせいでは無かろうか。

 

「よく分からんが。まあ、上れ。しっかりと支えていてやろう」

 

 ユーフェミア皇女が蹴り倒しかねないんですとは言えず、彼は上り始めた。助けて総督閣下……。

 

「はあ、では失礼して」

 

 カンカンと一段ずつ上っていく。上っている最中は分からなかったが、やがて天板に達したとき。

 

「おお、揺れねえ」

 

「二人で支えているからな。それより早く終わらせてしまえ。私とユフィはこの後昼食がある……良ければ貴様も食べるか?」

 

 ずいぶんと気前の良い社長様だこって。三次受けの社長も悪くはねーが、コーネリア皇女ほどじゃなーな。

 

 ただ今はあんたの隣の鬼と昼飯とか勘弁してくれ。

 

 まあいい、とりあえずは、さっさと拭いて……ン?

 

「どうした? まだか?」

 

「ああ、いえね、戸袋って言いましょうか、隠し扉みたいのが……ありゃ、鍵開いてる」

 

「隠し扉? そんなところにか」

 

「鍵開いてますけど、どうしましょうかあ?」

 

 勝手に開けるのも良くない。政庁内の物は全てに置いて、神聖ブリタニア帝国の所有物。

 

 裁量権はコーネリア総督閣下にある。総督閣下が不在の際は、ユーフェミア皇女に裁量権がある。イレヴンの俺は勝手に触れられない。

 

「かまわん。開けて確かめろ」

 

「はい、では失礼して」

 

 なんかお宝でも入ってやがんのか。

 

 入ってたらちょっとくらい分け前をだなあ。

 

 隠れているようなその扉を開くと。

 

 中から何か、壺みたいなのが出てきた。

 

「壺?」

 

「壺だと? 持って降りてこれるか?」

 

「はあ、大丈夫です。しっかり支えていて下さいませ」

 

 彼は隠し扉の中にあった壺らしき物を手に、上ってきたのと同じ要領で、下り始めた。

 

 コーネリア総督の方を見ながら。反対を見ると鬼が居るから。

 

「っと」

 

「ご苦労だったな」

 

「いえいえ、閣下のお支えがあったればこそ」

 

 おべんちゃらを言う彼に彼が見ないようにしていた方から声が飛んできた。

 

「ごほッ、ごほんッ、わたくしもお支えしていたことをお忘れ無きように」

 

 何が支えてただ。おめー絶対蹴り倒そうとか考えてただろーが。とは思っても絶対に口に出さない。身から出たさびである。

 

 

 ◇

 

 

「ふむ、確かに壺だな」

 

 コーネリアが調べる。何の変哲も無い壺であった。ただ相当な値打ち物であることは皇族として調度品を見てきた、コーネリア、ユーフェミアには分かった。

 

 それも何故か旧日本の壺なのだ。どう見ても年代物で、かつての日本円で軽く数千万は行くだろうとコーネリアは見た。

 

「エリア11,旧日本が滅びた今、これは更に値段が上がっているはずだ。この様な値打ち物が何故あの様な場所に」

 

 コーネリアがそこまで言ったところで、彼はある事を思いだした。

 

「そう言えば前総督閣下であらせられるクロヴィス殿下が、この部屋の清掃は貴様以外するなとよく仰せでしたな」

 

「ん? ああ、確か貴様はクロヴィスとも知己だったらしいな」

 

「恐れ多くも顔と名を覚えて頂いておりました」

 

「その理由はこれなのかもしれんな。信頼できる清掃者である貴様にだけこれを隠している部屋の清掃を託していたと」

 

 コーネリアはクロヴィスを思い出しながら微笑む。

 

「クロヴィス兄さまがニッポンの壺を……」

 

 ユーフェミアはクロヴィスもブリタニアの階級社会を是とし、エリア民を見下している物とばかり考えていた。

 

 実際は、事実はどうであったのか。クロヴィス亡きいま分からない。ただ、エリア11の調度品を大切に保管していたという事だけが確かな話であった。

 

「嬉しゅう御座います。クロヴィス殿下には私めもよくして頂いておりました。それとなくご配慮頂いたこと数知れず。そのクロヴィス殿下が我が故郷の調度品を大切に為されていた。その事実だけで私めは感無量で御座います」

 

 彼がそう言い喪に服すように頭を下げる姿。これを見ていたユーフェミアは、コーネリアに見えないよう彼の傍により、彼の手を握った。

 

「言うなればクロヴィスの遺品か……」

 

 コーネリアが呟くと、彼女は壺を前に目をつむった。

 

 コーネリアと同じ様に、クロヴィス兄さま、前社長様──良くして下さったなぁ。

 

 クロヴィス・ラ・ブリタニア──エリア11の民、とみにイレヴンからは色々言われ、また本人も芸術肌であったが故か、エリア民の事に関心が無く、むしろ冷たいとさえ思われていた神聖ブリタニア帝国第三皇子。

 

 しかし、少なくともコーネリアにとっては良き弟であり、ユーフェミアにとっては良き兄であり、また彼に取っては何かと便宜を図ってくれていた良き社長であった。

 

 それぞれ秘めた思い思いの亡きクロヴィスへの鎮魂の仕方であったが、確かに三人は共にクロヴィスの死を悼んでいた。

 

 

 暫し壺を中心に目をつむり黙祷をした三人は。

 

「さて、今日は良き日だ。こうしてクロヴィスの遺品が見つかったのだからな」

 

 コーネリアは口元をほころばせ告げた。

 

「そろそろ昼食の時間だ」

 

 コーネリアの言葉を合図に、彼とユーフェミアが離れ。

 

「では、私めはこれにて」

 

 という彼の御仕事に戻ろうという意思を無視し、その手をコーネリアが掴む。

 

「貴様もだぞ。クロヴィスの遺品を見つけた功績だ。私たちと共に食卓を囲むことを特別に許可する」

 

「ええッ?!あれぇ?!俺も行くのォ?!」

 

「そうだ、来い。いい機会だ。貴様の知っているクロヴィスの話でも聞かせてもらおう」

 

 強引なコーネリアに、クロヴィスの話を聞かせろと彼は連れて行かれ。

 

 

 そうしてぽかーんとなるユーフェミアは、彼とコーネリアが手を繋いでいるのを見て。

 

「う、うふ、うふふふふ。おぢさまァ……後でお覚悟くださいましねェ」

 

 メラメラとその双眸に怒りの炎を燃やしながら。語尾を伸ばすその言葉遣いはまるで彼の様で。

 

 ガシャン。

 

 彼女はニコニコとした微笑みを浮かべたまま、護身用の拳銃を一回スライドさせるのであった。

 

 

 

短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)

  • コードギアス
  • コードギアスR2
  • 此花トゥルーリポート
  • FF4×FF6
  • カオシックルーン
  • 学園黙示録
  • ルパン三世 ワルサーP38
  • 幕末風来伝 斬郎汰
  • ニードレス
  • ヨルムンガンド
  • 少女少年
  • 北の告発
  • サラダデイズ
  • クレセントノイズ
  • ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
  • ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
  • 遊戯王GX(十代×カミューラ)
  • 魔装機神(マサキ×モニカ)
  • 椎名君のリーズニングファイル
  • RAVE(ハル×絶望のジェロ)
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