えちえちは一切ありません。
大した内容でもありません。
ユフィのお誕生日おめでとうなお話しなのですが、おぢさまの浮気話みたいな仕様になってしまいました……。
おぢさまはコーネリアと二人きりである行為をしていた。妻ユーフェミアとだけと約束している行為を。それは彼のコンプレックスが故か。
それを見てしまったユーフェミアは?
わたくしとおぢさま ユフィお誕生日SS 浮気?と誕生日プレゼント
浮気?と誕生日プレゼント
これはある年の、ある特区での、ある部屋での事。大きな部屋には少し小さめの円卓があり、椅子が幾つか設置されている。その椅子の一つに人が一人座り、その背後に人が一人立っていた。
立っているのはつるりんと綺麗に禿げた頭をした不細工な、歳の頃六十がらみのイレヴンの男。否やここではイレヴンではなく日本人である彼は、椅子に座っている人物の右肩前へとカールさせられた、セミロングの紫色をした美しい髪を不敬にもわしゃわしゃと撫でていた。
座っている人物、紫色の双眸を持ち、紫色の紅を厚ぼったい唇に引き、白く豪奢なマントを身に着けた赤銅色の衣服にパンツルックの美しい女性の髪を。
彼が触れてもいい髪とは、それはこの世でただ一人。桃色の艶やかな髪だけなのであり、この場面を見られてしまうと「裏切りだ」と罵られて、特区責任者ことその桃色の髪の女性から射殺されかねないのだが、知ったこっちゃないとばかりに指を絡めて、さわさわ、わしゃわしゃ。
「私は自分が女である事にそれ程重きを置いていない。剣を取り、一騎士となった時より半分女を捨てている」
髪を好き放題触られている彼女は語る。だが、と。
「全てを捨てたわけでもない。故に、そうして丁寧に扱われるのは気分がいい。他の者には見せられんがな」
独り言のように喋る彼女は、自分の髪を撫でている日本人の男に問う。
「だが、良いのかこの様な事をしていて?」
災厄を招きかねんし自分も困った事になると彼女は忠告をする。
「私としてはこうも丁寧に髪を撫でられると心地よく眠くなってきそうなのだが。嫌な気もしない事でもあるしな。貴様、女の扱いに慣れているようだが、あの子に見られたら大変だぞ」
問うた彼女は自身の髪を触られる事に不快感は感じていない。髪などいつでも誰でも触れればよかろう。心を許している相手にならば別に構わない。
自身の騎士、腹心の将軍、大切な妹、そしてこの男。他にも心許している人間は幾名も居るが、その皆に対して髪など触れられても良いと考えている。
だが、この男はかなり不味い。髪の扱いがとても丁寧なのはあの子の髪を触り続けているからか? 乃至この男の過去に何かありそうだとも思ったが敢えて聞くまい。
この男が後ろ暗い過去を持っているのだろう事は直感と、この男の態度や言動からわかっている。だが、今が良いのであれば何も聞かない。彼女が気にすべき事の一つだが、この男は出逢った時より首尾一貫。従順にブリタニアの法を守り、仕事には真面目に徹底して打ち込んでいる。
態度は少々太々しいながらも、皇族貴族、果ては一般兵や一般人にまで遜った態度を崩さず、特にあの子や自分に対しては表向き完璧な上下関係を弁えた態度を取ってきた。
無論、二人きり。崩していいと命じた時には本性とも呼べる太々しさ全開の態度を見せて来るが、それはそれで誰しもが自身に敬服し、大仰に首を垂れる者達の中にあってただ一人、対等に接してくるという状況は清々しくも愉快であった。
そんな男は言う。
「いえいえ、近くに触っても怒らない美しい髪の持ち主が居りますとねえ、ついついうっかりと手が動いてしまうので御座いますよ」
「ふっ、私が他の皇族の様に身分差についての態度に口うるさい人間であったのなら、貴様今頃処刑だぞ? 私はナンバーズは区別すべきと考えているが、此処はナンバーズという存在のない地。だが、同時にブリタニアの直轄地である事も確かだ。そこに置いて皇族相手に今の様な行いをしてみろ。首を跳ねられるぞ」
「わかっておりますですよはい。ですが、貴女様はそうはなさいませんでしょう? コーネリア総督閣下ぁ~」
コーネリア・リ・ブリタニア。それが今この瞬間にも髪を触られている女の名である。
誰しもが知るエリア11の絶対的統治者として君臨しつつ、この男が切っ掛けとなって周囲の話に耳を傾け初め、自身が変わる事で政策も変えていき、今ではイレヴンもが彼女には反抗する気を削がれ、日々を生きていくようになってきた。エリア11を実質的に平定した神聖ブリタニア帝国第二皇女その人であった。
そんな彼女に太々しい態度を取るこの男、彼は、彼女が大切にしている妹の伴侶なのだ。
正式に結婚したわけではない。認められているのは特区の中でのみ。特区の中では正式な夫婦関係となっている。
が、一歩特区の外に出れば彼はただのイレヴンとなり、母やリ家の支援貴族にも認められていない、平民以下の存在でしかなくなってしまう。
しかし、もう既にリ家どころかブリタニア中に知れ渡っている。妹、エリア11副総督にして特区の責任者でもある神聖ブリタニア帝国第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアとこの男が幾度もの肉体関係を持つに至っている間柄であるという事実は。
当たり前だ。肉体関係どころの話ではない。ユーフェミアのお腹にはもう既に……。
そして、その事もまた帝国の隅々にまで。
このとんでもない事態について、リ家もかつて日本人の協力を以てしてリ家にとっての大帝とも呼べる、クレア・リ・ブリタニア皇帝の誕生を成し遂げている為、表立っての文句は言えなかった。
ブリタニアの歴史書、ブリタニア年代記にはクレア帝の歴史については日本人の協力するところが大きく、彼等の力無くしてはブリタニア帝国は内戦の末に崩壊していた可能性もあり得たと記されているのだ。
その日本人がユーフェミア皇女と肉体関係を持ち愛し合っている。エリア11に成立を見た特区内で勝手に婚姻を結び、夫婦となってしまい、お腹に……。これがまだ年若く、良き生まれで、ユーフェミア皇女と同年代。見目も麗しいのならばある程度納得が出来ようものなのだが。
見目悪く年齢差も大きく生まれは不明という、由緒正しき神聖ブリタニア帝国リ家の生まれにして美しく可憐なユーフェミア皇女とはどうあっても不釣り合いな人間なのだ。
御歳16のユーフェミア皇女に対し、男は推定六十ほどの中高齢。半世紀近い歳の差がある。コーネリア皇女からの報告を聞き、ユーフェミア皇女からのビデオレターを受け取った母は憤死しそうに激怒し、支援貴族もそれは無いだろうと呆れていた。その一方で既に孫がお腹にという、娘ユーフェミアの現状を知ってしまった母は、人間特有の祖父祖母になる事に不思議と喜んでしまうあの妙な感覚を覚えて情緒不安定になって居る
全体としては例えどうあれけして見合わない、釣り合わない者同士。多方面から不満の声が漏れ聞こえていた。
だが、確かに嘗てリ家を支えた、リ家にとっては紛う事なき大恩ある日本人という民族の一人であるのだ。区別すべきナンバーズが特区の中では日本人となるのならばリ家だけは無視できない話しとなろう。
コーネリアはこの事実を以て母を、皇族を、世論をねじ伏せた。
弱肉強食を国是とするブリタニアはこれを認めない、だが手を出すこともまた無い、これを約させたのだ。
そも皇帝シャルル・ジ・ブリタニア自身はこの問題について何も語らず、ただ「好きにするがいい」とだけ述べ置いた。
力こそ絶対。力こそ正義。そのイレヴンは己が力でユーフェミアという女を得た。ならばその者は強者という事。ただそれだけの事であると。
心の底からどうでもいいというその態度に、陛下にとっては些末時なのだと、クレア帝擁立の事実とこの二つが合わさり公には何も言われなくなった。
コーネリアはただ妹の幸せの為に動いたまで。それ以上でも以下でもない。故に彼がユーフェミアを傷つけようものなら斬って捨てるつもりである。
そんな事はこの男も百も承知。彼曰く、ユーフェミアは「運命の女」であるらしい。
『へっへっへ、ユーフェミア皇女殿下の事を傷つけるだなんて事は神に誓ってありませんで御座いますよぉ~は~い。神様なんてのが居るのならねェ』
そうやっていつも皮肉交じりに話していた。
「私は貴様の……お前の毛髪コンプレックスを知っている一人だからな。それに雑には扱わぬ事も与り知っている。気も許している。だから好きにさせているだけだ」
「それは恐悦至極に存じます、は~い」
「しかし、あの子が、ユーフェミアに見られたら私はともかくお前はひどい目に遭うぞ? 私が見るにユーフェミアのお前に対する執着心は天井知らずだ。お前があの子を運命の女と呼ぶように、あの子もお前を運命の男と呼んでいる。そんなお前があの子の姉とは言え他の女の髪を触っているなどと知ったら。ましてや現状は情緒不安定にもなりやすい状況だ。お前を愛しているからこそお前は何をされるかわからんぞ」
「おいおい、こえー事を仰らないでくださいませェ。……あいつ普段から拳銃持ち歩いてやがんだぞ……」
「ふ、ユーフェミアは剣術の腕前は嗜む程度故に己が身を守る護身用の武器となると拳銃しかない。こういっては悪いがあの子はお前のホームの方にも足を運ぶ事があるのだろう? 最近はゲットーの治安も改善されてきたとはいえ、元よりの悪漢はゲットーであれ、疎開であれ居ることは居る。不甲斐無い事に政庁内ですら腐敗していたからな。ユーフェミアが公務服姿でのみ外をうろついているのならば確かにビジネスウーマンに見えぬ事も無いが、ビジネスマンであれ何であれ狙われる事もあろう。故に仕方が無いのだ。……聞いて居るぞ? お前何度もあの子に嫉妬の矛先を向けられて威嚇されているらしいな?」
「そう! そうなので御座いますよぉ、総督閣下からどうにか言ってやって貰えませんですかねェ……前にAVやその手の雑誌を見ていただけで裏切りだとか言って拳銃ぶっ放してこられたので、はい……いや、切実なんだぜェ?」
「ふむ。生憎だが私はあの子の味方故に何もせん。それに夫婦喧嘩に口出しをするとややこしくなるからな。特に今は大切な時。まだまだ先の事とは言えな。せいぜい他の女に目を向けん事だ」
すっぱりと斬り捨てると、男は『ハアァァ~っ』と重いため息を吐きながら、コーネリア皇女の髪の毛をさらりと撫でて、話しを切り替えた。
話しを切り替えたのはコーネリア皇女も一緒で、彼女は彼に今日という日についてどうするのかと問う。
「今日はユーフェミアの誕生日だ」
「はい、勿論存じ上げております」
「お前は何かプレゼントや、その、デートの様な約束はしているのか?」
「仕事終わりに特区を歩いて疎開を歩いて、ゲットーを歩く……って、話をしておりますよ、は~い。……まあ周り切れたらの話ですがねェ」
「デートらしくないな」
「いや何、これがユーフェミア皇女殿下のお作りに成られた小さな箱庭なので御座いますよ、と、それを実感して戴こうかと」
「ほう、成る程。理解できなくもない。あの子の提唱が無ければエリア11はどうなっていたかわからんからな。ルルーシュやナナリーの事もそうだ。あの子を動かしたお前の手柄でもある。あの子はこの先を見据え、将来的にはこのエリアに自治権を持たせてニッポンを再興させるとまで主張している。ブリタニアの中の独立国という形で。完全なる独立は流石に認められないだろう。いや、ニッポンに恩のあるリ家から、或いは私かユーフェミア自身が次期皇帝となれば成せん事も無いが……だが下手をすればエリア11は本国に歯向かわざるを得ない状況にもなろうな。その時は私と我が軍はあの子の側に付く。場合によってはだが。リ家の力と影響力はかなりの物がある。ナイトオブラウンズは日本に来ている者たちは恐らくこちらに引き込める。皇族も何割か引き込めるだろう。形は違うがルルーシュのやっていたように私がブリタニアを倒すならぬ変える事に挑戦する事になるかもしれん。どうやって変えるかは生憎考えても居ないから思い付かんが」
「へっへっへ、そのお考えを是非ともユーフェミア皇女殿下やエリア11の住人達に知らせてやって下さいよ。閣下の支持率はうなぎ登りになるでしょうねェ」
「ふっ、本国からは叩かれるがな。……まあいい。それよりあの子へのプレゼントは用意しているのか?」
用意していないとは言わせんぞと気迫を込めるコーネリア皇女に、彼は一言「は~い」とだけ答えた。
「いや、以前にね。ユーフェミア皇女殿下が政庁内で日本の田舎の風景画を見てらして、どうかなさいましたかとお声掛けを致しましたところ。素敵な絵だと仰ってまして」
「ほう。ではプレゼントは絵画か?」
「そんな立派な物は買えませんので、私めと致しましては横○大観の復刻イラスト集を用意しておきましたです。はい」
「……名は聞いたことがあるが、本物はもう喪われているのではないのか?」
「さあ、どうでしょうかねェ。あったとしてもナンバーズや平民にはとても手が出せない値段でしょう」
嘗ての天才画家の名を上げつつ、イラスト集を用意したという彼に。
ユーフェミアの好みを良く見ているなと微笑んだ。
「あと、もう一つは、本日のお食事に健康に良いトマトのサラダをご用意させて戴きましたぁ、まあ、私めが用意したわけでは無いのですがねェ。料理長様の方にお頼みさせて頂いた次第ですは~い」
「ふ、くくくっ、健康的なのはそうだが、あの子の嫌いな物を宛がうのか」
生のトマトはユーフェミア皇女が苦手とする物。嫌いと言っても過言では無い。だが。
「17歳にもなって好き嫌いをしているのはいけませんのでねェ、この機会にと……それとも、ユーフェミア皇女殿下の彼処にナニを宛がう方がよろしいのですかねェ」
「それは毎日している事だろう。昼食時間に。毎日毎日飽きもせずに昼の日中から盛りおって」
「いえ、間もなく出来なくなってしまいますのでェ。ユーフェミア皇女殿下と殿下のお腹の事を考えますとぉ、もう御存じで御座いますからぶっちゃけてしまいますがぁ、私めは性欲が非常に強う御座いましてェ」
露骨な下ネタに、品性が無いと思いながらもこの男らしいのだろうとも思い直したコーネリア皇女は、梳かれ行く髪の、彼の指の触感に、やはり慣れていると思いを馳せた。
年齢差と身分差もさることながら、見目も悪いこの男。だが仕事には手を抜かず、卑屈なほどに謙り、ユーフェミアとの関係を知られたときは腹をくくる潔さを持ち合わせている。
過去、この男が何をしてきたのかは知らない。ユーフェミアも語らない、この男は屑でしたよ、クソ野郎でしたと自分を蔑みつつも、下卑た笑みを浮かべている。
だが、そんな不快さを感じる男なのだが不思議とその不快さすらも飲み込めてしまえる感覚を覚えていた。
それはそう、ユーフェミアをこよなく愛するその本物の気持ちを知っているからだ。
この男は恐らく姦淫関係の何かと暴力でもって社会を歩いてきた人間だと、勘が告げている。
ユーフェミアは語らないがこの男との始まりは或いは……、そんな事も考える。
しかし、この男とユーフェミアの互いを想い合う、愛し合うその気持ちは本物。
これまで見てきたどの男女よりも強く、輝かしく、互いを愛の糸で絡め合っているのだ。
自分の前で平然と昼休憩時に交接を交しても良いかと尋ねてくるくらいに愛が深すぎて。まるで深海の底で求め合うような深すぎる愛情で結ばれているのだなと思い、人目の無い場所でならと許可を出してしまうほど。
ユーフェミアは。
『おぢさまはわたくしの運命の殿方なのです!』
そう主張して憚らないが、案外そうなのかも知れない。もうすぐ伯母になってしまうのだからな、とコーネリア皇女は考えていた。
「まあ、それはそれでいいとして、トマトのサラダが健康的なのは確かだ。リコピンも豊富だしな。よし、良いだろう。お前のプレゼントを私も味わおうではないか」
さわさわ、コーネリア皇女の髪の毛を深く掬い撫でる彼は。
「よろしいので? 政庁の方は」
「やる事はあるが書類仕事だけだからな。特区の行政局で昼食を摂ってから戻ったところで大した時間のロスにはならない程度に午前中に仕上げている」
「ほう、流石は閣下です。私めも更なる精進をせねばならないようで」
「お前は十二分に精進しているがな」
「光栄で御座います、は~い」
不貞不貞しい声が背後から聞こえる。コーネリアはこの男とここまで密接になっているこの状況は本当に不味いのではないかと小首を傾げた。
椅子に座る自分。その背後から髪を撫で回されている自分。遠慮無く撫で回す男。もし今ユーフェミアがこの部屋に入ってきたら本当に不味い事になるだろう。この男が。
せっかくの誕生日に嫉妬に狂わされる妹を見るのは忍びない。本当に気持ちいいがこの男の毛髪コンプレックスはやはりユーフェミアに和らげて貰うべきで。
(それに、わたくしのおぢさまを盗らないで下さい! などと言って泣かれたら寝覚めも悪い)
「おい、そろそろ離れた方が良いのではないか?」
「はあ、何故で御座いましょう? 私めは気合いを入れて閣下の御髪をお触りさせて戴いている最中で」
「見られたら不味い相手が数人居る。ユーフェミアを筆頭に、我が騎士ギルフォード等と、な」
「ギルフォード卿は政庁の方でしょう?」
「まあ、そうだが、お前――」
ユーフェミアに見つかったら殺されるぞ?
言おうとしたところで部屋の扉が開いた。
あ……。
誰が呟いた言葉だろうか?
麗しの美女コーネリア?
丸禿げの醜男中年おぢさん?
それとも、膝まで流れる桃色の長い髪を、大きな白い髪留めで腰まで届く長い太めのポニーテールに結わえた。白いタイトスカートの公務服に、腰から臀部を覆う幾つもの羽状に別れたスカートになっている薄紅色の衣服を着用した、コーネリア皇女と同じくして紫色の瞳を持つ華やかさと可憐さを併せ持つ少女の物か?
「……」
真っ先に動いたのは誰だろう。
三人同時だろうかどうだろうか。
さて、答えは。
少女の苦手な赤い野菜がふんだんに盛られた、給士の運んできた昼食の皿であった。
「コーネリア殿下がお越しであるとの由、ユーフェミア殿下よりコーネリア殿下のお部屋へとお食事を配膳するようにと伺いこちらへ……。本日の昼食は○○のソテー、トマトと○○のサラダ」
「へ? トマト? 生のトマト?」
懐に入れていた少女の手は何を掴んでいたのだろうか。
少女は生のトマトと聞いて顔色を悪くさせていた。そんなメニューは聞いていないと。
「オイ」
小さな声で言い、頭で男の身体を小突くコーネリア皇女。
ぱっと手を離す男は同時に身体ごと離れるも、少女は桃色の柔和で美しい眉を険しく寄せて、男を睨み付ける。
「これ……。おぢさまの差し金ですわね。わたくし、生のトマトが苦手ですのに……。本日が、何の日か御存じでしょう? どうしてこんな事」
「ああ、いやいやユーフェミア皇女殿下ぁ、御年17歳となるこのめでたき日。17にもなってトマトが嫌いとか、由緒正しきリ家の皇女殿下が仰ってはなりませんでしょう、は~い」
余裕たっぷりだが汗が滲んでいる男。それもそう、少女――エリア11副総督にして特区の行政長官。神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアこと男の妻はまだ懐に手を入れたままなのだから。
男の態度如何によっては脅しとは言え拳銃を向けられる。本気で発砲しないだろうとわかっていても肝が冷えるわけで。
「ユーフェミア、いやユフィ。いつまでも生のトマトが苦手だの嫌いだのと言っていては恥ずかしいぞ? トマトサラダは健康にも良い、こいつはそれを考慮して料理長に頼み込んだのだろう」
仕方が無いと。コーネリア皇女は妹の夫から髪への愛撫を受け入れていたという申し訳のなさもあり、彼に助け船を出したのだ。
「……」
半目で男を見るユーフェミア皇女。
彼はここで何をしていた? 仕事の一環でこの部屋に居たのだろう。彼は清掃員。以前は政庁の、今は政庁と特区の行政庁に二重の籍を置く。
基本的には特区に回されている、妻たる自分と職場を同じくさせるようにという総督、姉の配慮だ。
その姉が本日は訪れていた。現状確認だろう。姉とは次の休日に数日遅れの誕生祝いをして下さるとの事で、特区内でパーティをして戴く事となっている。
彼とは本日、この日。デートをして、あちこちと見て回り、最後はホーム、あの廃墟の地下室で日を跨ぎ愛し合う事になるのだろう。もう間もなく彼との交接を受け入れる訳にも行かなくなるのだ。
(だって、もうわたくしのお腹には……)
期待に胸を膨らませていた。特区内の戸籍においては自分と彼は正式な夫婦。母や支援貴族には認められていなくても、姉は認めてくれた。姉の親衛隊の方々やエリア11全体では認められている。待望の御子も……。
そんな嬉しいが重なる中で彼と迎える自身のお誕生日にわくわくしていた。それがどうだろう。この部屋に足を踏み入れたとき、彼は姉の御髪を撫でていた。
彼がそれをしていいのは自分だけの筈なのに。むくむくと鎌首をもたげる嫉妬心。自分は嫉妬深いのだと彼と愛し合うようになってから知った。
それを彼はわかっている筈なのに。おまけに生のトマトを……。健康的。姉の言うとおりだろう。納得できないが納得するより他ない。
でも……。彼が姉の御髪を愛撫していた事については承服致しかねる。
「そ、そうそう、ユーフェミア皇女の健康を考えての事で御座いまして、嫌がらせだとかそんな事ではありませんです、は~いっ」
「……わかりました。それはもう良いです。総督閣下、お姉様の仰るとおりですものね」
ほっ、なんて息までついている彼。ユーフェミア皇女は追撃の手を緩めない。
「では、お姉様の御髪を愛撫していたのは? あれはどういう事ですの? おぢさま、お姉様」
「まあ、落ち着けユフィ」
「落ち着いております」
「落ち着いている者が懐に忍ばせた銃に手を掛ける筈がないだろう。……ふう、まず最初に一つ。髪を触らせていた事、これはもう隠しようもないから言うが間違ってはいない。私はこの男の好きにさせていた」
「お姉様っ!!」
「話は最後まで聞け。まあ、気持ちが良かったのもあるしこいつの毛髪コンプレックスの緩和を手伝ってやっただけだ。気心の知れた相手だからであって他意は無い。ユフィの心配しているような浮気でもない」
「……」
「まあ、な。この男のおかげでお前が恋愛面においてはかなり嫉妬深いという事も知っていたので、迂闊ではあった。その点は謝るよ。済まなかった。ただまあ、この男がお前を裏切る事は無い、天地がひっくり返っても無さそうだ」
「……知ってます、わたくしの夫ですもの……」
ユーフェミア皇女は丸め込まれた気分だった。彼は何も言わない。下手な言い訳をして気を悪くさせないようにしようとでも考えているのだろうか?
彼女は思いながらつかつかと彼へと歩み寄っていくと、手前の椅子を引き、腰掛けた。
憮然としているユーフェミア皇女は。
「おぢさまわたくしの後ろへ来なさいっ!!」
彼に命令した。来いと。いつまで姉の背後に控えているつもりか。そこはギルフォード卿の場所であってあなたの場所ではないでしょう。
「お、おおう」
「行ってやれ。また臍を曲げられるぞ」
「は、はあ、では失礼をして」
彼がユーフェミア皇女の後ろへと歩み寄り立つと。彼女はイライラそわそわしながら何もされない事に気分を害し始める。
どうして何もしないのか? あなたがすべき事、あるでしょう、と。
「お~ぢ~さ~ま~っ!! 一々口にしなければわからないのですか!! 本日はわたくしのお誕生日なのですよ?! おぢさまもわたくしの気持ちを察して下さいっ!!」
「はっ?」
彼はぐっと、彼の身体に頭を押し付けたユーフェミア皇女に対して、一度コーネリア皇女を見遣りながら、ユーフェミア皇女の頭を指差す。厳密には髪を。
すると、コーネリア皇女はうむと頷く。要するに御髪を触りなさいというユーフェミア皇女の命令なのだ。
「では失礼して……ってか、ユーフェミア皇女、この様な事はいつでも出来るのではぁ?」
交接は出来なくなっても。
「おぢさまぁ~?」
「わ、わかった、わかったわかった、わかりまして御座いますっ」
椅子の背もたれの向こう側にある彼女の太めのポニーテールに手を差し入れて、髪束全体を優しく持ち上げながら背もたれの外に出しつつ、垂れ落ち流れる長い尻尾の根元からそっと撫で始めた。
つやつやさらさらの長い桃色のポニーテールを上手く指に絡め取りつつ撫で降ろし、毛先にまでしっかりと指を通しながら彼女の頭皮に気持ち良く伝わるように愛撫していく。
しゅっ、しゅっ――静かになった室内にユーフェミア皇女の髪を撫で梳く音が聞こえる。静かだから余計に。
「どうですかぁ? ユーフェミア皇女ぉ?」
いつもの調子に戻った彼は、間延びした下卑た口調でいながら、顔は真面目に妻へと問うた。
「ああ、気持ちいい……です。そうです、おぢさまはそうしてわたくしの髪だけを触っていればよろしいのです。お姉様の御髪を代償行為に為されなくとも、わたくしがいるのですから」
「いや、あの、な、こう丸禿げの分際で生意気なと思われるかも知れませんがねェ。コーネリア総督閣下の御髪にはまた別の触り心地の良さがぁ」
「おぢさまっ!! いい加減になさいませんとわたくし本気で怒りますよっ!!」
「ご、ごめんごめんっ、わかったからそう怒らないで下さいませェ」
ユーフェミア皇女の髪は触り慣れている彼は、良い具合でポニーテールを引き、髪束に指を絡め撫で、桃色の毛髪が自身の手の平と擦れている感覚を楽しむ。
ああ、これだと彼は思う。この感触、この手触り、指の股をしゅるしゅるとこすり抜けていく桃色の毛髪の触感。
「ふん。どうだ? ユフィの髪の触り心地は」
「そうで御座いますねェ。何と申しましょうか、こう、手指に良く馴染みますねェ」
「当然だろうな。女が髪を触らせる相手は気を許した男や大切な男だけだ、或いは同性のみ。だが、触る側の男もまた同様に全てを曝せる女であるからこそ、その女の髪という身体の一部が手に馴染むのだろう」
「おぢさま~っ、気持ちいいですわ」
ユーフェミア皇女は紫色の美しい瞳を閉じながらうっとりとしている。
「こうして見ているとやはりお前はユフィの物であるという事が何となくだがわかる。ユフィの髪がお前の手に馴染むのも必然という事か」
「そうですわお姉様。おぢさまはわたくしの夫なのですから勝手に御自身の御髪を触らせたりさせないで下さい。おぢさまもです。わたくし以外の女性の髪を触る事は許しませんからね」
「別に良いでしょうがぁ~髪の毛くらい~っ、何なら男の髪とかでも触りたいくらいにコンプレックスが強いんだからよぉ。いつもご覧になっておりますでしょう、ええ、この終わっちまった私めの頭を~っ」
少しの修羅場と共に訪れた穏やかな時間。あるべき場所にそれぞれが収まり、昼食の配膳が進み始める。
生のトマトの群れにユーフェミア皇女は少し表情を曇らせるも、具合良く髪を引かれては撫でられていく感覚に気持ち良くて、下がる気分も上がり始める。
そうしてテキパキと配膳が為され、準備が整ったとき。
「ユーフェミア皇女ぉ、ちょーっと髪の毛の愛撫を止めてもよろしゅう御座いますかぁ?」
ちょっとだけと聞かれたユーフェミア皇女は、ちょっとに対して大いに不満だった。
彼は今の今までお姉様の御髪を撫でていたというのに、自分はまだ満足の行く程には撫でて貰っていない。
だが、どうしてもと彼が言う以上どうしてもな理由があるのだろう。
「う~ん、……少しだけですよ? ただでさえ生のトマトがいっぱいですのに……」
「では、すぐに戻って参りますのでお待ちの程をぉ~」
言い残して配膳係と共に彼は部屋を出て行く。
「どうなさったのでしょうか?」
「さてな」
戻ってきた彼の手からユーフェミア皇女が渡されたのは。日本画家の巨匠、横○大観のイラスト集だった。
そこには、いまは自国の手で崩されてサクラダイトが採掘されているだけの鉱山と化す前の、本当の富士の絵が載せられていた。
その絵に感動したユーフェミア皇女は、彼女は円卓の椅子から立ち上がると。
「おぢさまっ、愛しておりますっっ!」
感極まって彼に抱き着き。
「うおっと、ユーフェミア皇――んうう゛っ?!」
熱く深い口付けを贈るのであった。
短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)
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コードギアス
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コードギアスR2
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此花トゥルーリポート
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FF4×FF6
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カオシックルーン
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学園黙示録
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ルパン三世 ワルサーP38
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幕末風来伝 斬郎汰
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ニードレス
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ヨルムンガンド
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少女少年
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北の告発
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サラダデイズ
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クレセントノイズ
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ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
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ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
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遊戯王GX(十代×カミューラ)
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魔装機神(マサキ×モニカ)
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椎名君のリーズニングファイル
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RAVE(ハル×絶望のジェロ)