※この作品はR-18です。

二次創作SS集   作:夜半の月

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ニードレスから、主人公クルス君×捨てキャラのミウさんというあり得ないカップリングの物語です。
本作のミウさんの言葉遣いは当然原作で彼女の言葉遣いが判明してないためオリジナル。
正確に言えば昔私がリクエストして友人が書いてくださったクルス君×ミウさんの物語で出ていたミウさんの言葉遣いを踏襲させていただいております。

5ちゃんねる掲示板(旧2ちゃんねる)、およびピクシブ様にも投稿しております。



BSの片隅で 前編

 

 

 

 

 BSの片隅で 前編

 

 

 

 

 僕は今、神父様たちよりも一足早くシメオン製薬BLACKSPOT支社の落成イベント会場であるシメオンビルの前に来ていた。

 本当は一人で来るのはとても怖くて… 出来れば神父様たちと一緒に来たかった。

 

 だけど、ディスクさんが言った「わずかに残った反逆者達をこのイベントで叩き潰すつもりだ」というのを聞いて居ても立ってもいられず飛び出してきたんだ。

 

 このまま反逆者の……レジスタンスの人達を放っておいたら必ずアークライトに攻撃を仕掛けてしまうから……。

 

 僕が所属していたBS解放軍の大人数による奇襲攻撃でさえアークライトどころか、シメオンの幹部達にさえ傷一つ付けることが出来ずに全滅させられたのに、それよりずっと小さいだろうと思われるレジスタンスの一グループじゃ、一瞬で皆殺しにされてしまう。

 

 僕はレジスタンスの人達が解放軍の仲間達みたいに殺されるのを黙って見ていることなんて出来ない。僕も彼らと同じ立場に居たから… 彼らには僕達と同じような結末を辿ってほしくないんだ。

 

 でも、この会場に詰め寄せている大勢の人の中から、レジスタンスの人達を見つけるのは困難を極める。

 

 そもそもレジスタンスの人が誰かわからないし、仮に知っている人たちであったとしてもこれだけの群衆に紛れていては……。

 

 けど、彼らは必ず行動を起こすだろうということだけは分かる。そして行動を起こすならアークライトを攻撃するのに適した場所から仕掛けるであろうことも。

 僕にとって唯一の頼りとなるのは、襲撃を掛けたことのある自らの経験。どの位置に居る人間がその可能性を秘めているのか当たりを付けられることだ。

 

「人が大勢居る場所からじゃあ攻撃しにくい……となると」

 

 この会場で人が居ない場所。さらに周りが見渡せて、攻撃を掛けやすい場所は……周辺を見ながらある一点が目に留まる。

 

 そこは崖と言うほどじゃないけど、周りからは高くなっていて辺りを見渡せるような高台だ。攻撃を仕掛けるには最も相応しい位置関係であり、恐らくはこの場に於いての唯一ともいえる場所。

 

(あそこだ!)

 

 そう当たりを付けた僕がそこに向かって移動している時、やはりというべきか、その高台の上に複数の人が歩み出てきた。

 

 10人にも満たない少人数の彼らの表情には明らかに自信と取れる感情が見え隠れしている。そう、根拠無き勝利を確信している者の表情。

 

 かつて僕らが通った道と同じ、破滅への道を歩む者の表情だ。

 

(ダメだ! 早くっ、早く止めないと……! あの人達が…っ!)

 

 みんな殺されてしまう!!

 

「へッ!! シティへ帰んな! おぼっちゃんよ!!」

 

 一足遅かった僕は間に合わないかも知れないけど、それでも僅かな望みに掛け、人ごみを強引に掻き分けて走り出す。

 

 止めなければ! 死地に赴く彼らを体当たりしてでも止めなければ! その一心で。

 

 もう、目の前でレジスタンスの人達が死ぬのを見たくない。もう、あんなのは沢山だ。

 

 そんな僕の思いとは裏腹に、レジスタンスのリーダーと思われる人は、尚もアークライトを挑発する。

 

「待ってたぜ、これだけハデなイベントならテメェが出て来ると思ってなぁ!!」

 

 違う! 貴方たちは分かってない!

 アークライトがどれだけ強くて恐ろしい奴かってことが…ッ!

 

 気が付けば僕は全力で掛けだしていた。

 

 アークライトに見つかってしまうとか、そんなことを考える余裕すらもなく。ただあの人達を止めないとの一念で……。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ユリシーズスタンプ! 俺のフラグメントは体重を変化させて相手を押し潰すことが出来る!!」

 

「ショックアブソーバージャンプのウツマ!!」

 

「ボルテスリングバズーカのミウ!!」

 

「スマートボムスコープのイヌイ!!」

 

「ダブルバインドのサルト!!」

 

「ドレンチャースノウガンのヒジリ!!」

 

「ラタ!!」

 

「ストーンクラブシザーズのフレイ!!」

 

 僕が高台に向かって走っている間にも、次々と名乗りを上げるレジスタンスの人達。

 彼らの能力がどういう物かは分からない。もしかしたら想像も出来ないほど強い能力なのかも知れない。

 

 けれども一つだけ分かることがあった。

 

 次元その物が違う、もうニードレスと呼んでもいいのか妖しく人間ですらない何かとでも表すべき強大なる力を持ったアークライトは、数で当たればどうにかなるような奴じゃないということだ。

 

 それでどうにかなるような奴なら、僕は今でも、姉さんやザカート隊長達と、楽しい毎日を送れていた筈なんだ…!

 

「俺達のBSを貴様ら外の連中の食い物にはさせねえ!! いくぞ!!」

 

『オウッ!!』

 

 全力で走って高台に着いたときにはもう、彼らはアークライトを倒そうと飛び立つところだった。

 

 とにかく彼らを止めなきゃ!

 

 だけど、思い虚しく、僕の眼前で、後一歩という処で、彼らは一斉に飛び出していった。

 

「死ねアークライトォォォォ!!」

 

「ダメだァァァァ―――ッッ!!」

 

 間に合わないと思いつつも、咄嗟に彼らの内の一人へ身体ごと飛び付く。

 もう、彼らが飛び立ってしまった以上、全員を止める事なんて出来ないだろう。

 

 それでも……、例え一人でも……一人だけでも止めるんだ!

 

 その思いが身体を突き動かしたのが功を奏したのか。

 飛び立った内の一人に、僕は辛うじて、しがみつく事ができた。

 

「なっ!? ちょっと…! キャァァ……っ」

 

 しがみついた相手の物だろう驚愕の声に、やっとのことで一人だけ。無謀な突撃を止める事ができたのだと分かった。

 

 それは僕の力の限界。無力な僕がもぎ取ることのできた、小さくも大きな結果なのだろう。

 

 止められない0ではなく、止められた1。救えなかったではなく、救うことの出来た1。なにもできない矮小なこの身で掴めた確かな命。

 

 ベストは疎かベターすら引き出せない僕は届いたその手を離さないように抱き着く。この命が喪われることのないようにとの願いを込めて。

 

 しがみついた人と二人、真っ逆さまに崖下へと落ちゆく僕の心に去来したのは、唯々小さく儚い満足感だった……。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「いっ、痛ててて……」

 

 地面に叩き付けられはした物の幸いにも怪我は無く。

 直ぐに立ち上がった僕は一緒に落ちたその人に声を掛けた。

 

「あ、だ、大丈夫ですか!?」

 

 共に崖下へと落ちたその人は、イブさん以上に露出度の高い服を着ていた。

 

 陽光を受けて金色に輝いているのは毛先が太股裏に届くほどの長いポニーテール。

 

 女の人だった。歳は姉さんよりも少し上だろう。

 

 明らかに“大人”の雰囲気を持つ二十代前半から半ばくらいの女の人が表情険しく此方を睨んでいた。

 

「お前…っ! いきなり何をっ!」

 

 女の人は僕に止められたことを、つまりアークライトへの襲撃を邪魔されたことに対して怒っているみたいだ。

 無理もない。必勝を期して飛び立ったところをいきなり僕みたいな無粋な乱入者に邪魔されたのだから。

 

「ま、待ってください! 後で説明しますから!!」

 

 しかし今はそれどころじゃない。止められなかった他の人達の行方が気になる僕は女の人を押し止めつつ、アークライトの方へと目を移した。

 気勢を削がれる形と成った彼女も僕を怒るよりそっちが気になるみたいで、此方の視線の後を追うようにシメオンビルの方を見る。

 

 そこには、僕が恐れていた……。そして予想していた通りの光景が、広がっていた。

 

「あ…ッ ああッ……」

 

 シメオンビルの前で宙に浮かぶアークライトの身体から、まるで蜘蛛みたいに幾本もの太く禍々しい触手が伸びて、レジスタンスの人達を一人残らず串刺しにしている悪夢のような光景。

 

「ま…間に……合わなかった……」

 

 脚が震え、身体を支えられずに膝から崩れ落ちる。

 

「なんで……っ、どうして僕はッ…!」

 

 どうなるのかなんて分かっていた事じゃないか。

 

 それなのに何故僕はもっと速く走らなかった?

 

 身体が壊れるくらいに、シメオンに見つかるくらいの勢いで、大地を蹴って掛けなかった?

 

 出来るわけがないと分かっていても、何故成そうとしなかった?

 

「な……なに……あれ…?」

 

 慚愧の念に堪えられず項垂れる僕に、共にソレを見ていた女の人は声を震わせながら、呟くように言った。

 

「なん、なんだ……あれは……?」

 

 その声には恐怖の色が滲み出ている。まるで質問しているかにも聞こえたけど、僕には“あの光景”に対する答えを返すことは出来ない。

 彼女も僕も、その地獄のような光景に言葉を失っていた。殺されてるとか、そんなレベルじゃない。

 

「た、食べてる…… 人を……食べてる…っ」

 

 アークライトの腹が大きく裂け、口のようになって。身体中から飛び出させた鋭い触手で串刺しにしたレジスタンスの人達を自らのほうへと引き寄せ……食べているのだ。

 

 人間が人間を食べているのだ。

 

 奴は神が人間を食べるのは当然だと言っている。食物連鎖の頂点に立つ人間を更に超越した神である自分こそが、この様に人を食す資格を有した絶対的存在であるのだと。

 

 しかし……、しかし、僕にはアレが悪魔にしか見えなかった。人を喰らうおぞましい悪魔にしか……。

 

 まるでこの世に再現された地獄その物の様相を見せられる中。幸いだったのは、僕と女の人の存在が奴等に気付かれてなかったみたいで、こちらを見向きもしていないこと。

 

 神を僭称しだしたアークライトから見れば、僕やこの女の人なんて道端の石ころみたいに気にならない存在なのだろう。

 

 普通、そこに石があるからって注目したりしない。皮肉にも、そのお陰で僕らは助かったけど、とてもそれを喜べるような心境ではなかった……。

 

 その後すぐ神父様が乱入してきてアークライトと闘ったり色々あったけど、僕はレジスタンスの人達を助けられなかった後悔の念に押し潰されそうで、その場を動けずにいた……。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ごめん……、ごめん……なさいっ、……僕が…僕がっ、もう少し早く止めることができていれば…ッ、こんなことには…ッッ」

 

 暫くして漸く自分を取り戻せた僕は、ただ一人止めることが出来た女の人に、みんなを助けられなかったことを謝った。

 もう10分、いや5分でも早く会場に辿り着いていれば……全員を助けられたかも知れないのに……。

 

「――じゃない……キミのせいじゃない……、キミのせいじゃないよ……」

 

 しかし女の人は僕を責めない。

 

「私も、私達も……アークライトを舐めていたんだ……。奴は所詮シティの人間だから、BSという過酷な世界で生きてきた自分達なら必ずや勝てるという、根拠のない自信だけで……。キミに非などない……、非なんてあるもんか……。蛮勇に駆られて突撃しようとする無謀な私達をとめようとしてくれたキミを、どうして責められる……。それに……キミは私を助けてくれた。私の命の恩人であるキミに謝られたら……私は……、私はどうしたらいいんだ……」

 

「……っ、」

 

 責めないどころか、助けてくれたと僕に対し礼を言う。

 

 実際はこの人の言う通りなのだろう。たら、ればの話しとか、可能性なんて分からないことだし、何の力も無い非力な僕が、この人だけでも助けられたこと自体が最善の結果だったのかもしれないから。

 

「……。キミ、名前は? 私はミウだ……。ボルテスリングバズーカの、ミウだ……」

 

「僕は……、僕はクルス……。クルス・シルトです……」

 

 ここで初めて女の人の名前を聞いた。ボルテスリングバズーカというフラグメントを持つ女性、ミウさん。

 

 さっき名乗りを上げていたみたいだけど、止める事に必死だった僕の耳には聞こえていなかった彼女の名前。

 

「ミウ…さん……」

 

 僕はその名を噛み締めるように呟く。生きていてくれた……そのことだけで嬉しいから。

 

 涙が流れる……。この頬を伝い流れ落ちていく……。

 

 その名を持つ女性が、ミウさんが、命を失うことなく僕の目の前に居る。僕と、話をしている……。

 

 歓喜で満たされていく僕は、自然と泣いていたのだ。

 人は悲しみに涙を流す。しかし、嬉しいときにもまた涙を流す。

 

 僕は、ミウさんが生きていてくれたことが、本当に嬉しかったのだ。

 

 その涙を流す僕を、ミウさんが抱き締めてくる。

 そっと、優しく。小柄な僕を包み込むように……。

 

「えっ…? あ……、ミウ…さん…?」

 

 抱き締めてくるミウさんの身体から、いい匂いがする。

 

 普通の男の人ならそれを楽しむことが出来たかも知れないけど、生憎と僕は女の人にこうやって抱き締められるのは慣れていないから無理だ。

 

 それにたった今……人が人に食べられる瞬間を見たばかり……、浮ついた気分になどなれる筈もない……。

 

 でも一方で、ミウさんの身体の温もりや、匂いに心奪われている。

 この非情で残酷なる殺戮の舞台にあっても、人の温もりは変わらない。

 ただそれを、たった一人とはいえその温もりを守り通せたことが嬉しくて。

 

「クルス君、私を助けてくれて……ありがとう……」

 

 冷静さと恥ずかしさが入り交じっている状態の僕は、彼女の身体より漂う来る甘い芳香に鼻を擽られながら、もう一度お礼の言葉を聞いた。

 

「私のために泣いてくれて……ありがとう……」

 

「うっ、ぐすっ……いいえ………。僕のほうこそ、ミウさんが生きていてくれて嬉しいです……。ありがとう、ございます……」

 

 きっと……きっと、良かったんだと思う。

 

 全員を助けることは出来なかったけど。でも、僕は、自らの手でこの人を……、ミウさんを助けることが出来たんだ……。

 

 それだけでもきっと……良かったんだ……。

 

 

 

 それから僕…、いや僕らは。会場に到着していたディスクさんたちと合流した。

 この戦いを終わらせるため。シメオンの恐怖支配からBSを解放するために。

 

「フラグメントを持たないクルス君があのアークライトやシメオンと戦おうとしているのに、ニードレスである私が黙ってるわけにはいかないよ」

 

 その目的を成し遂げるためにも僕はシメオンビルに潜入することになったけど、そのことをミウさんに伝えたら。

 

『自分にも何か手伝えないか?』

 

『クルス君の力になりたいんだ』

 

 と、そう言って、彼女もまた僕達と共に戦わせてほしいと、申し出てくれたのだ。

 

「ミウさん……」

 

「仲間達の無念も晴らしたいし……私を助けてくれたキミのことを、今度は私が助けたいんだ」

 

 僕を抱き締めながら訴えてくるミウさんに。

 

「今は一人でも多くの戦力が必要だから大歓迎よ」

 

 同意してくれる仲間達。

 

「オウ!やられちまった仲間の分まで奴等をぶっ飛ばしてやろうぜ! シメジなんぞ糞くらえだ!」

 

「うむ、儂は戦えんが、宜しく頼む」

 

「ありがとう……」

 

 そしてディスクさんより告げられた役割分担。

 それは僕とミウさんでパートナーを組むというもの。

 

「ミウっていったわね。貴女の能力は全般的にシメオン幹部と戦うには少し心許ないわ。はっきり言わせて貰うなら力不足なの。だから貴女にはクルス君とパートナーを組んで、クルス君を守りながら後衛について補助に当たって欲しいのだけど、いいかしら?」

 

「了解した。本当に悔しい話だが、アークライトの……アレを見た後では、な……。私の能力なんて、まともに通用する次元ではないと嫌でも分かるよ……」

 

 不甲斐ないとばかりに目を伏せる彼女は、一呼吸置き、気持ちを切り替えるようにして僕を見据えながら告げた。

 

「悲観しても仕方が無いな。無い物は無いんだから……。適材適所、非力な私達にもできる事はあるさ。宜しく頼むよクルス君」

 

「はいッ!」

 

 こうして僕はディスクさん、照山さん、ギドさん、そしてミウさんと共に。先に中へ入った神父様を追って、シメオンビルへと潜入。その後は戦いに継ぐ戦いだった。

 

 セツナ達少女部隊。シメオン四天王の左天。実は生きていた……その正体はシメオン四天王だった――アルカ姉さん。

 

 時には死にかけたりしたけど、次々と襲い来る強敵達との戦いを経て漸くアークライトの下まで辿り着き、全てを掛けて、文字通り命をかけての激闘を繰り広げた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 そして遂にアークライトが倒れたことでシメオンはBSから完全撤退、元の日常が戻ってきた。

 

 敵味方に分かれていた姉さんとは、戦いの最後に和解できたけど、全てが終わるといつの間にか姿を消していた。

 

 でも、いつかまた会えるような気がする。

 

 その時には、昔のように、仲良しだったあの頃の姉弟関係に戻れたら……いいな……。

 

 僕は神父様達の教会を出て、BSの片隅で一人暮らしを始めていた。

 慣れない一人暮らしに不安はあるけど、もう街を徘徊していたテスタメントも、シメオンのニードレスも居ないから、以前ほどの危険は無くなったと思う。とりあえずは一人でもやっていける筈だ。

 

 そんな新しい一人暮らしの生活を始めてより暫くしたある日。

 

 この日、僕は特にやることも無く、おまけに外は雨だったので家で過ごしていた。

 

 退屈な時間を床に敷いただけの布団の上に寝転がって、ぼんやり天上を見上げながら過ごす雨の日。

 降り止まない雨の音からは、絶え間なく屋根に打ち付け水柱を立てる大きな雨粒の様子を窺い知れ、僕の不安を掻き立てる。

 

 得体の知れない何かが雨の中を歩いてきて小屋の扉を叩きそうな。

 雨は、その音だけで、日常とは異なる空気を運んでくるようだ。

 

 ――コンコン

 

 そのとき、前触れもなく突然響いたのは扉を叩くノックオン。

 

「ひゃあっ!」

 

 噂をすれば何とやらではないが、本当に家の入り口の戸が叩かれたのだ。

 

(だ、誰だろう…?)

 

 今日は誰かが訪ねてくる予定はなく、BSの片隅にあるこんなあばら家に知り合い以外の客もめったに来ない。

 

(まさか本当に雨の日の怪物でも来たんじゃ)

 

 多少の恐怖感はあれども流石にこのまま居留守を使うわけにもいかないと、そう思いながら僕はおっかなびっくり入り口の戸を開けた。

 

 するとそこには、両肩から股間へとV字状に身体を覆う帯状の、胸と股間を隠して白いベルトで止めただけの、きわめて露出度が高い衣服を身に纏う、金色のポニーテールの女の人が立っていた。

 

「ミウさん!」

 

 ボルテスリングバズーカというフラグメントを持ったニードレスの女性で、僕の大切な仲間。

 そしてシメオンビル突入時から、以後ギルドのお仕事をして日々の糧を得ている現在まで、変わらず背中を預け合うパートナー……ミウさんだった。

 

「こんにちは、クルス君」

 

「こんにちは……って、ミウさんびしょびしょじゃないですか!?」

 

 外で振っている雨は結構強くて、ずぶ濡れになったミウさんの髪の先からはポタポタと雫が落ちている。

 

「一応傘は差してきたんだけど酷い雨でね。いや、まいったよ」

 

 確かにミウさんの手に傘はある。でもボロボロだから役立っていたとは思えない。

 服装も服装だけにこんなずぶ濡れのままでは身体が冷えて風邪を引いてしまう。

 

「とにかく入ってください!」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 家に上がって貰って直ぐ彼女にタオルを渡した僕は、暖を取るために使用している丸いペール缶へ薪を放り込み火を着けた。

 

「さ、こっちで火に当たってください」

 

「気を遣わせたようで悪いね」

 

 彼女は僕に勧められるまま火に当たりながら濡れた髪を解く。

 

「いや、本当にまいったよ。止み間なく振り続けるものだから服の中まで透ってしまって寒いのなんのって」

 

「ミウさん薄着ですもんね」

 

 背中に重く垂れ下がった髪をタオルで拭いては、そのまま火の熱で濡れた服と共に乾かしていく彼女。

 

 解いてしまえば優に膝の裏側にまで届くほど長いその髪は、拭くのだけでも大変そうだ。

 

「あ、あの、僕も手伝います」

 

 そんなずぶ濡れのミウさんを見てたらボーッと見ているわけにも行かず、思わず手を出し髪に触れた。勝手に触って良かったのかな?

 でも流石に身体の方を拭きますなんて言えないからね。

 

「ん、それじゃ頼むよ。こう長いと結構大変なんだ」

 

 心配は杞憂か。僕の申し出を快く受け入れてくれた彼女は手渡していたタオルを僕に差し出してくれる。

 

「僕の姉さんもそうでしたけど、髪長いと中々乾きませんからね」

 

 早速僕はミウさんの背中側に立ち、雨に濡れた長い髪をタオルで挟み揉むようにしながら、丁寧に拭いていく。

 

「濡れると重くなりますし」

 

 髪は濡れそぼり、水分を含んで重くなっていた。持ち上げてみるとよく分かるが結構な重さだ。

 

 長ければ長いほど、濡れたときに吸い込む水分量も増すので、濡れた髪に宛がうタオルに吸い込まれる水気はその分だけ多くなる。

 きちんと拭けているという意味でもあったが。

 

「実際どんな感じなんですか? 濡れたときの、今の感じは」

 

「う~ん、そうだなぁ……、肩こりならぬ、首こりになりそうな感じかな?」

 

「あ、上手いこと言いますね」

 

 首こり、あるかもしれない。

 

「まあこれだけ長いと濡れたときの首への負担も相応の物になるの、分からなくもありませんが」

 

「だろう? だからいっそ首元で切ろうかなんて思うんだけど、キミはどう思う?」

 

「う、う~ん。それは幾らなんでも勿体ないと思いますよ僕は……。だって、こんなに長くて綺麗なのに切っちゃうだなんて……」

 

 どうしてもと言うのなら、それはそれでミウさんの自由だ。

 

 イメージチェンジで切る人もいるし、単純に短くしたいからと切る人もいる。気持ちの切り替えでとかもそう。

 

 でも、やっぱり勿体ないと僕は思ってしまう。

 

「うん? キミは長いほうが好みだったりするのかな?」

 

「あっ……い、いえっ、とくにそういうわけじゃないんですけど。でも、やっぱり勿体ないなあって」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「ええっと、……ほら、ミウさんの髪って膝まで届いてるじゃないですか」

 

「まあね」

 

「これだけ伸びるには何年も掛かったろうなって思うと、なんだか切っちゃうのが寂しく感じまして」

 

「それで?」

 

「ん……それだけです、けど……」

 

 気に障ることでも言ってしまったのだろうか?

 ミウさんは心持ち肩を落としたように見えた。

 

「ふーん、綺麗で勿体ないか……。私としては、そこは嘘でもキミの好みだからと言ってほしかったものだがな?」

 

 あ、そういう意味だったのか。

 

「す……、すみません、配慮とか気配りとか出来なくって……」

 

 気配り上手な男になれるのは、まだまだ遠い先の話かな?

 

 でも、こんなずぶ濡れになってまで僕の家に来るなんて……。何か大切な用事でも有るのだろうか。

 そう思い何か用事が有るんですか? と聞いてみたら――「特に用が有るわけじゃないよ」と返される。

 用が有るわけじゃないけど、今日の僕と同じようにぼんやりしてたら何となく僕と話しがしたくなって雨の中を歩いてきたとのことだった。

 

「光栄です。僕なんかと話をするためだけに来て下さるなんて」

 

「そんな言い方をする物じゃないよ。私はキミと過ごすときほど楽しい時間もないと考えているから。しかしキミは子供らしくないな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「そのままの意味さ。身体は子供でも、精神的な年齢は身体年齢よりもずっと上に感じるというね。14歳にしては人間が出来すぎてる。少年というより“男”だ」

 

「此処、BSですからね……、良くも悪くも子供のままじゃ居られないんですよ」

 

「成熟させられる環境……だな」

 

 会話が弾む。話していると楽しい。僕も一人で寂しかったから、こうしてミウさんが来てくれたのはとても嬉しかった。

 それもこんな雨の中を僕と話したいからと会いに来てくれるなんて……、嬉しいを通り越して気恥ずかしくなってくる。

 退屈となるはずだったこの日が、最良の日に変貌を遂げたような感じだ。

 

「これくらいでしょうか?」

 

 一通り髪を拭いたところで訊ねた。

 

「うん。まあそうだね。後は火の熱で乾かすとするよ。――さてと、それじゃあクルス君にはこれを頼もうかな」

 

 火の熱で髪を乾かしながら何やら差し出してきたのは。

 

「ゴム……?」

 

「ああ、見ての通りのゴムだ」

 

 差し出されたそれは、彼女の髪を纏めていた赤色のゴム。

 

 飾りも何も付いていない、ただ赤い色をしたシンプルな髪ゴムだった。

 

「ついでだから括ってもらえないかと思ってね」

 

 ……髪をってこと?

 

 うんまあ、それしかないのだろうけど。

 

 でもこれは、ちょっと、恥ずかしいっていうか、悪いというか。

 

「ぼ、僕っ、女の人の髪を括るのなんてしたことありませんから、無理ですよっ」

 

 今までそんな機会はなかった。髪を触らせてもらえるような親しい女性もいないし。だがミウさんは引き下がらない。

 

「キミのお姉さんのはどうだった? お姉さんも長かっただろう?」

 

「それはそうですけど、姉さんの場合は基本的に下ろしたままだったので、触ることはあっても括ったりは」

 

「そうか……。ん~、そうだな……。……まあ、大丈夫だよ。私が教えてあげるから」

 

「教えると言われましても」

 

 困る。自信ないし変な束ね方になっちゃったら悪い。

 

 ところがミウさんはどう捉えたのか。

 

「ああそうだったな。キミは長い髪が嫌いなのだったね」

 

 僕が長い髪が嫌いだから触りたくないんだとか、半目で語りだす。

 

「そういうことなら私の髪なんて見るのも触るのも嫌なのだろうね。ずぶ濡れだとお化けにも見えるし、さぞ気味が悪かったろう?」

 

 しかも長い髪がどうというのを飛び越え、ミウさんの髪が嫌いなんだとか話をエスカレートさせて。

 

 非常に不機嫌ですと言わんばかりの彼女の態度に僕の焦りも頂点に達した。

 

「なっ! なんでそうなるんですかっ!?」

 

「ふん、キミが言っていたことじゃないかクルス君。長いほうが好きかとの私の質問に特にそうじゃないと。遠回しに言われるくらいならはっきり嫌いだと告げられるほうが余程――」

 

 言った、言ったよ確かに! だけど嫌いだなんて言ってませんよ僕!

 それなのに『傷付く』『女として自信を無くした』なんて言われたら――。

 

「す、好きですっ! ミウさんの綺麗な長い髪が僕は好きですよっ!」

 

 そう言うしかないじゃないか……。

 

「本当に?」

 

 此方を伺い見る様なミウさんの視線。

 

「本当にですっ! 大好きですっ! ミウさんには長いほうが似合ってますし僕も好きですから切らないで下さいっ!」

 

「ふぅん……、なんだかその場凌ぎのやけくそにも聞こえるんだけど?」

 

「本当に好きなんですってばミウさんの髪っ!」

 

 本当に嫌いじゃない。その……綺麗だから普通に好きなんだけど。好みの髪型とか、そんなの意識したことがなかったから、特にないってだけのことで。

 

 疑るような、探りを入れてくるようなその視線に、悪い事をしたわけでもないのに責められているように感じた。

 

「でも、好きなら尚のこと触らない理由がないと思うんだがな。私は触ってもいいと言ってるし“キミの手で”括って貰いたいからね」

 

「うう……」

 

「それに信頼する人に髪を触られると女は嬉しくなるものさ。私の場合その相手はパートナーを組んでいるキミなんだよ」

 

 結局、彼女の背中に広がる美しい金色の髪を手の平に掻き集めて束ね持った僕。もちろんポニーテールに括る為。

 

 こう相手に強く出られると断れないのが僕という人間なんだ。我ながら流されやすいというか……。絶対に失敗すると思うんだけどなぁ。

 

 ただ、いざ念入りに触らせて貰うとなると、これが凄く手触り良くて。

 

「うわぁ……艶々だ……」

 

 濡れていたときよりもずっと軽くなったミウさんの髪。さらさらで艶があり、とても触り心地がいい。

 

 左の手の平で包むようにして束ね持つ髪の毛に、右手の指を通しながら、そのまま毛束に差し入れた指を毛先に向かって滑らせてみた。

 

「指に絡まってもほつれない……、簡単に滑り抜けていきますよ……」

 

 本当に艶々で枝毛もなくて、指は引っ掛かる事なく毛先からするりと抜けていく。

 

「ミウさんの髪、とても綺麗ですね」

 

「気に入った?」

 

「勿論ですよ」

 

 肌に触れて擦れる髪の毛の手触り。触り心地の良いその長い髪を手に束ね持ったまま、僕は右手で何度も撫で下ろす。

 

 絹糸の如き柔らかさを持つ輝く金糸の清流が、流れに侵入した異物である指を包み込みながら、纏わり擦れて。

 

 漂う甘い芳香に魅了されながら、髪を束ねるという当初の目的も忘れた僕は、手に触れる見事なまでに上質な繊維の感触に、ただ心を奪われていた。

 

「本当に、綺麗です……。ずっと、触っていたい……な」

 

「ふふ……、そう言われると私も嬉しいよ……。ありがとう……」

 

 少し後ろを振り返り、僕を見たミウさんは、微笑みながら機嫌良さそうにしている。

 

「キミの指が髪の中に通される感触……。とても、気持ちいい……。幸せを感じるよ」

 

「幸せ、ですか?」

 

「ああ、幸せだよ……。女はね、心許せる誰かに髪を触られると、それだけで、幸せな気持ちになれるんだ……」

 

 女性は信頼できる人に髪を触られると幸福感を覚えるというのは僕も聞いた事がある。

 

 ミウさんが僕に対してそうなんだとするなら……、それは……。

 

「僕……ミウさんに信頼されているんですね」

 

 思ったままを口にすると、一瞬驚いたというか。呆け気味の表情を浮かべたミウさんが、さっきよりも柔らかな微笑みを見せてくれた。

 

「なにを今更……。キミを信頼しなければ、私は誰に心を許せばいい? これでも私は、キミにだけは、いつも本音で接してきたつもりなんだよ?」

 

 僕を信頼している。その言葉が心に響く。

 

「な、なんか、照れ臭いですよ……、そんな……、改まられると」

 

 この黄金色の髪の毛を僕がこの手に持てるのは、髪を触らせてくれるほどの深い信頼を勝ち得ていた証でもあるのだろう。

 

 いつ終わるともなく梳いていたその信頼の証を、彼女の後頭へと持ち上げていく。

 

 ゆるりと手に掛かる重み。これだけの長さだ。乾いていてもそれなりに重さを感じるのは当たり前だが。

 

 この重みが信頼の重み、深さをも表しているように思え、嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 

「括りますね」

 

「お願いするよ」

 

「それじゃ、行きます」

 

 僕はミウさんに教えて貰いながら、髪を彼女の後頭部高くの位置に絞る。

 

「ええと、このくらいですか?」

 

 ポニーテールへ纏めるときに必要となる位置。かなり高めだ。

 

「そこでいい。でもあまりきつく絞られると頭皮が引っ張られて痛いから、もう少し緩めで」

 

「あ、すみません……」

 

 思った通り難しいな。

 

「じゃあ……、これくらいでどうでしょう?」

 

 今より少し緩めてみる。尻尾を作る位置は同じに引き詰め具合だけを弱めて。

 

「うん、いい感じだ。それじゃつぎに絞り上げた毛束の根元にゴムを巻き付けて」

 

「はい」

 

 絞り上げた髪の束の根元にゴムを巻き付け輪を作り、作った輪に束を通し結んでいく。

 するとゴムに拘束された毛束が後頭にきゅっと纏まり、良く見知るポニーテールの形が形成され始めた。

 

「毛束の根元に通したゴムはきつく縛ってもかまわないぞ。そこを強く縛っても頭皮が引っ張られることはないし、痛くはないから。それに、強めに縛り上げて結ばないと今度は束がよれて崩れてしまう」

 

「こう、かな……?」

 

 指示通り強く絞り上げたつもりで、僕なりにポニーテールを完成させていった。

 だけど、できあがったポニーテールの根本を触るミウさんの反応はいまいちだ。

 

「んん……、少し、緩いかな?」

 

 僕の目から見ても若干どころか、結構な具合で根本が力無く垂れ下がっているように見える。

 

「これは緩い……ですよね」

 

 なまじ高い位置で縛っているから酷く不格好に見え、明らかに失敗だと分かる、不完全なポニーテールとなってしまった。

 

「位置はこれでいいとしても、ゴムの絞り加減が上手く行ってないから、この様によれてしまうわけだ。要するに失敗だな」

 

「すみません……上手く絞れたと思ったんですけど、なんか途中で緩くなってしまったみたいで」

 

「初めてならまあこんなものさ。慣れるまで挑戦してみるといい」

 

「はい、頑張ります」

 

 とは意気込んでみた物の。髪ゴムの扱いに慣れてなく、碌に女性の髪を触らせて貰ったこともない素人の僕では、そうそう上手くいくわけがなくて、その後も微妙に緩い縛り方になってしまう。

 

 めげずに何回も解いては括り解いては括りを繰り返して漸く上手くいき始めたんだけど、結局最後はミウさんが自分の手で結んでしまった。

 

『お手本だよ』

 

 なんて言ってるけど、やっぱり僕が下手くそだったからだろう。

 彼女は髪を結べずに落ち込む僕を『また教えてあげるから』と励ましてくれた。けど、何か釈然としない。

 

「ミウさんがやるとこんなに綺麗に、しっかりと束ねられるのに」

 

 強く締まる根本のゴムに触れ、次いで首の下辺りに手を入れて、やんわりとミウさんの髪の毛束を掴む。

 

 首から背中の辺りへと、その金色の尻尾を何度も撫で下ろしながら、自分の手で結えなかったことに対して忸怩たる思いを抱いていた僕に、ミウさんは励ましの言葉を掛けてくれた。

 

「コツは覚えたんだから後は実践あるのみだよ」

 

 別に気に病むことはない。今が駄目なら次がある。次で駄目ならそのまた次もと彼女は言う。

 

「次こそは綺麗に結い上げられるでしょうか?」

 

「さあ、それは何とも……。結局の所は、キミの指先次第となるしね。だけど、それも積み重ねがないと、上手く結べるも結べないもないだろう? 解いては結んで、また解いては結んで……、何事も繰り返しが大切なんだよ」

 

「積み重ねかあ……。そうですよね、髪結いなんてしたことのない僕が今の今、昨日の今日でそう簡単に結べるようにはなりませんよね。うん……とにかく上手く結えるように頑張ってみます」

 

「頑張れ男の子。ひたむきに努力する男の子は嫌いじゃない。仮に上手く行かなかったとしてもそれはそれでいいのさ。繰り返しになるが、心許せるキミに髪を触られると心地がいいんでね」

 

 信頼するキミに髪を触らせたい。彼女の頭を見つめる僕に投げ掛けらたのは、そんな心に響く嬉しい言葉だった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ミウさんの髪束を左の手の平に緩く握り包んだまま僕は撫で続ける。

 

 櫛で梳かすように……優しく、静かに、丁寧に。手触りの良い真っ直ぐな髪を愛撫する。

 

 頭から太股まで長く垂れる金糸の束が、手の動きに合わせて波を打ち、揺れる。

 

 そうやって僕は、暫しの間、その金色の尻尾を手放すことなく、触り続けていた。

 

 ふと、会話が途切れる。訪れたのは指と髪の毛が擦れ合う以外の音の消失による、静けさ。

 

 沈黙の支配する部屋には、苦痛や気まずさなど微塵たりとも感じさせない、穏やかな空気だけが漂っている。

 

 安心感。安らぎ。

 

 肌に感じるのはそんな柔らかい風。空気に関係する能力を持つ彼女から放たれているものだろうか?

 

 ぼんやりと考えながら未だ僕の指の隙間を擦れ抜けさせている、黄金色のポニーテールを見つめた。

 

 髪……彼女の身体の一部に触れているからこそ伝わり来るものがある。彼女もまた、この穏やかな空気を感じ取っているのだ。

 

 それは彼女だけではなく僕もこの空気を作り出している一人であるということ。

 

 この空気は他でもない僕ら二人で作りあげた物なのだ。

 

 言葉はなくてもわかる。安らぎに満ちた空気。その優しい空気を媒介にしての無言の会話は、思う以上に楽しかった。

 

 そんな沈黙の会話すら途切れたとき。外を見てみると、そこには一面の黒があった。

 広がっているはずの空を覆い隠す、暗く分厚いカーテンが、相も変わらず引かれたままになっているのだ。

 切れ間のない雲を二人で一緒に見上げながら、僕は静かに呟く。

 

「雨、止みませんね」

 

 まだ雨足は強く、雲に遮られて低くなった空より落ちてくる水の粒は、止まりそうにもなかった。

 

「此処へ来るまでの間に随分と多くを吐き出していたというのに、いつまで降るんだろうね」

 

 ミウさんの疑問に返事をしない空は、尚も水だけを落とし続ける。

 

「ずーっと遠くの方まで、見える範囲は全て雲に蓋をされているみたいです」

 

 この様子ではミウさんが帰るまでに止むなんてことはなさそうだ。

 それでも彼女は僕が引き留めなければあの使い物にならない傘を持って帰ろうとするに違いない。

 僕に迷惑を掛けられないとでも考えて。

 

「ミウさん、もしよかったら僕の家に泊まっていきませんか?」

 

 その可能性を先んじて封じる。

 

「ボロくて狭いですけど、雨を凌ぐくらいはできますので」

 

 こんな雨の中を帰してさっきみたいにずぶ濡れにさせる訳にはいかないと。僕は、家に泊まっていくよう彼女に進めてみた。

 

「いいのかい?」

 

「もちろんですよ。僕とミウさんは仲間……、それもパートナーじゃないですか。遠慮なんてしないでくださいよ」

 

「クルス君……」

 

 僕を信頼してくれるミウさんを、僕も信頼している。

 

 ううん、僕はそれ以上の感情を彼女に……。

 

 パートナーだからなんてのは、ただの言い訳だ。

 僕はまだ、ミウさんと一緒に居たい――そう、思っていた。

 

「ありがとう。それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 こうしてミウさんは僕の小屋で泊まっていくことになった。

 

 自然、高揚する気分に、僕は布団を敷き直して彼女へ進める。無論僕は床で寝る。布団が一枚しかないからだ。

 僕一人で住んでいるのだから仕方ないにしても、泊まって頂くお客様に失礼があってはいけない。そもそも女性を床で寝させるなんて、男がすることじゃないし。

 だから当然布団はミウさんが使い、僕が床で寝るで僕の中では決定していたのだけれども。

 

 だけど――。

 

「誰かと一緒に眠るなんて子供のとき以来だよ。こうして身体を寄せ合って眠るというのもポカポカ暖かくて気持ちが良い物だね」

 

「え、ええ……とても……」

 

 ミウさんからの提案で、僕と彼女は一緒に寝ることになってしまった。

 

 狭い小屋、それほど大きくもない布団を大人の女性と二人で使うとなればしっかりと身体を寄せ合う必要がある。

 

 密着するミウさんの身体はとても温かい。それはいいんだ。

 

 問題は、向き合って眠る僕の身体に大きな膨らみが二つ、当たっていること。

 

(こ、こんなことになるなんて、)

 

 僕としてはミウさんに布団を使って貰い、自分は無しで行くつもりだったが。

 

『私が泊めて貰う方なのにそれでは悪いから、キミさえ良ければ一緒に寝ないか?』

 

 なんて返されたんだ。

 

 遠慮しても彼女は受け入れない。そのため、僕も彼女の好意を受け入れ、一緒に寝るという選択肢しか選べなくなってしまった。

 

「しかし眠いな……。こう、温かいと眠気が……。ふぁぁ……。クルス君……もう、寝ようか……?」

 

「は、はいっ、おやすみなさいっ……」

 

「おやすみ……」

 

 する事もなく、話の種も尽きていたので僕らは早々に眠りに就く。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 静かな小屋で雑音のように雨の音だけが響き続ける中、すぐ隣で聞こえる静かな寝息に耳を傾けていた僕は、一人緊張に包まれながら身体を硬直させていた。

 

(とても、眠れそうにない……)

 

 常時ならやってくるはずの睡眠欲がまるで沸かず、眠気の気配も皆無。

 原因なんて一つしかない。僕の隣で眠るミウさんの存在が、僕から眠気を吹き飛ばし続けていたのだ。

 

(女の人と同じ布団で寝るなんて……それもこんな密着して……)

 

 これで相手が年下の女の子ならまだしも、ミウさんは大人の女性。

 身近で大人で心許せる異性な人と同じ布団で眠るとなると、精神的にも肉体的にも宜しくない状況が発生するわけだ。

 まして現在進行形で彼女の大きな果実が僕の身体に触れている所為で倍増しな感じに。

 

(姉さん以外じゃ初めてだ)

 

 姉さんの場合は血の繋がった姉弟だからいいとしても、ミウさんは違う。正真正銘、僕が初めてに近いくらい身近に接した家族以外の異性だ。

 

 無論、身近に接するだけならミウさん以外にも沢山いた。イヴさん、捧さん、フェムトさん、ディスクさん、セトさん、ソルヴァさんといった、共にシメオンと戦った仲間たち。

 

 けれども、パートナーを組んで本当に命を預け合うほど深い関係になり、本音で話し合えていたのは、たぶんミウさんだけだ。

 

 なんというか心の距離が、抱くものが特別で……要するに、僕個人の感情もあった……。

 

 とても眠れそうにない僕は布団から出ると、安らかな寝息を立てているミウさんの顔を覗き込んでいた。誘蛾灯に誘われる昆虫にでもなったような気分。

 同じ布団に入り、身体を密着させて、柔らかい胸が当たって、ふにゅんと弾力が伝わってきて。匂いとか、温もりとか、かなり不味い。

 

 僕って何故か女の人に興味ないように見られがちだけど、これでも男だから普通に興味はある。

 男女のそういう絡み合いや、女性を思い浮かべながらの自慰行為をしたりもする。

 ましてミウさんが相手だと……僕の心の問題もあるわけで……。

 

 そんなことを考えてる間にも、駆け上っていく気持ちの高ぶり。

 

 次第にいけない気持ちになってきた僕は我慢することを放棄した。

 

「……」

 

 ちょっと後ろめたい気もする。しかし本能はそのための行為を愚直に求めていた。

 

 僕は起こさないように注意しながら、彼女の身体を隠す掛け布団を、そーっと剥ぎ取った。

 

「……」

 

 暗がりに浮かび上がる均整のとれた肢体。

 目を引く豊かな胸。細く括れた腰。すらりと伸びた手足。

 その身体はまるで完成された美の結晶だ。

 

「ミウ…さん……」

 

 露出の多いボンテージ風レオタードのような衣服は冬ならば寒さに凍えそうな薄着。

 

 しかしながら、今は幸いにも冬ではない季節。

 

 火が消えて間もない部屋の中は充分温かく、布団を取ってもそれほど寒くはないから、温度差で目を覚ます心配も無さそうだ。

 

 流石に明かりがないとよく見えないのでランプの火だけを灯し、ミウさんの美しい身体を見ながら、僕はズボンの上から股間を抑えた。

 

「ミウさん…っ、」

 

 眠る女性をこの目に映しながら欲望に、劣情に流される。

 

 最低で気が滅入るけれど、やらずにはいられない大切な所を手でまさぐっての自慰。

 

「ミウさんっ、ミウさんっ、」

 

 起きるかも知れないリスクを考えるのなら黙って黙々とする方がいいのだろう。ただ、彼女の胸や、股間や、顔を視線で犯し。声を想像しながら行う静かな手淫を。

 

 でもそれじゃ到底満足出来そうにない。僕の心が求めている女の人の名を、僕は呼ばずにいられないんだ。

 

 良いも悪いも無い。ただ淡い感情を抱く自身の心が彼女へと向いているが為に。

 

 それは培ってきた時間。彼女との時間。

 

 短くとも深いパートナーとの時間が、僕の心を侵してしまった熱病みたいな想い。

 

 その捌け口を、その願望を。求める心に身を委ねながら僕は自分を慰める。

 

 僕は子供で、彼女は大人。

 

 越えられないその壁が、孤独な自慰へと僕を走らせていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 そんな風に、小さな声でミウさんの名前を呟きながら股間をいじって数分ほど過ぎたとき。

 

「ん…、んん……、 ん……」

 

 自分を慰める為の対象としていた彼女の身体が動いた。

 

「クルス……くん……?」

 

 起き上がる肢体。束ねられた金色の髪が、彼女の肩をしゃらりと流れ落ちる。

 

「あっ……、」

 

 ミウさんが、眠そうに目を擦りながら、股間を押さえたまま固まる僕のことを見ていた。

 

「……」

 

 僕を見つめる目がゆっくりと下方へ下がり、股間を押さえる手へと移っていく。

 その視線は確実に捉えていた。自分自身を慰める僕の手を。

 

「あ、あのっ…、 これ……はっ、その…、僕……っ、」

 

「……」

 

「う…?! あ……、その……、ご、ごめんなさいっ僕!!」

 

 慌てて言い訳をしようとした僕に、彼女は僕を見て、僕が何をしていたのかをすぐに理解したようだった。

 

「いいよ……、言わなくていい……」

 

 無理もない。こんなふうにミウさんを見ながら股間を抑えていたら。

 寝静まった真夜中に女性を見ながら股間をいじる男が何をしているのかなんて、誰もが手に取るように分かるという物。

 

「怒ってるわけじゃないから別に謝らなくてもいいんだよ」

 

 でも、そんな僕を見ても、彼女の声音に侮蔑の色は浮かんでおらず。

 淡々と僕の行為に対しての心情を綴るだけだ。

 

「キミも男なんだからこういったことに興味を持ってこそ普通さ。何も恥ずかしがることなんて無い」

 

 大人の余裕? それもあるだろうけど、何か違う。

 

「悪い事でも何でもない。人間誰だって自慰くらいする。女の私だって同じだよ……、寂しい夜に自らを慰めようとするのはね……」

 

「……」

 

「私で自慰をしたのは……初めて?」

 

「いえ……あのっ、その……、さ、最近は、ミウさんだけを……考えて……」

 

 出逢ってから日は浅けれども、ミウさんとは本当に濃い時間を過ごしてきたんだ。

 たぶん、普通ならば何年も掛けて築くような関係や経験を、僕と彼女は三月にも満たない時間で紡ぎ上げてきた。

 文字通りの命がけの戦いの中で、常に傍に寄り添い互いを守り支え合うというのは、それだけ大きな意味を持つと、身を以って経験してきた。

 

 そのため、僕の心は無意識にでも、こういう行為の対象に彼女を選んでしまうんだ。

 

 いや、意識的にであっても僕の心が彼女を選ぶのは、避けられない。

 

 避けられないことをなによりも僕自身が知っている

 

「そうか……キミは、キミは、私を……、私だけを思って、していたのか……」

 

 ふっと目を閉じるミウさん。数拍の沈黙を経てもう一度『本当に私だけを?』と訊ねられたので肯定する。

 

「はい……、ミウさんを、ミウさんだけを思って……、いつも、僕」

 

 彼女以外を考えての自慰は本当にもう、していないから。

 できない理由が、僕の心の中にあるから。

 だから、僕は、ミウさんだけを対象にする。たった一人、この眼前にいる女性だけを。

 

 すると、彼女は、伏せていた目を開いて此方を見据えながら、笑みを浮かべると共に言い放った。

 

「そうか……、そうならそうと、言って欲しい」

 

「――っ」

 

 叱責でも失望でも、ましてやからかいの言葉でもない真っ直ぐな声音。

 

「私は……、私はクルス君になら……、自分の身体を触らせてもいいと思っている」

 

 凛とした表情で、僕を見つめながら彼女は告げた。

 

「え… ええ――っ!? そ、そんな、そんなことっ、そ……それ、本当……に?」

 

「本当さ。クルス君は私の命の恩人だし、今や背中を預け合う相棒だ……否やなど、ないよ」

 

 僕に自慰行為の対象にされていることを知ったミウさんは、そういう風に見ているならば自慰なんてしないで、ちゃんと言えと伝えてきた。

 

 そうすれば身体を触らせる。僕にならばいいのだと。

 

「自分で慰めるなんていう寂しいことを一人でしなくても、私の身体に触れて満たされればいいじゃないか。何度も言うが、私とキミはあの戦いの中で互いの背中を預け合った仲。現在もギルドの依頼を共にこなすパートナーだ。心より信頼するキミと触れ合うことに、私は抵抗なんてものは無いよ」

 

 彼女は言った。

 

 私達は苦楽を共にし支え合ってきた相棒なのだから全てを分かち合おうと。

 

 相手が相手を思いなにかをしているときは、互いに共有するべきだ。

 

 それがこういった性的欲求であったとしても。

 

 それが相棒を思い描いてのことであるのならば、態々隠し立てすることなく、さらけ出せばいい。

 

「性的な物も含めた体調管理もパートナーとして気を配る必要がある。それはキミに対する私だけでなく、私に対するキミにも同様にね」

 

 流石にそう言われてすぐ行動に移せるような、そんな図太い神経をしてもいなければ、節操なしでもない。

 その前に度胸のない僕は、戸惑い混乱し、まるきりどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

 

 そんな僕の背中を押すかのように。

 

「クルス君、ボーッとしていないで私の側に来なさい」

 

 ミウさんは僕に自分の側へ来るように言った。

 

「は、はい、」

 

 誘われるままミウさんの前に座る。

 

 いつも僕が使ってる布団の上でミウさんと向かい合うことになった訳だけど……これからどうすれば。

 

「ほら、何をジッとしているんだいクルス君。私を触ってもいいと言っただろう?」

 

 しかしミウさんは僕に考える暇も与えてくれないようだ。

 

「え、えっと……どうしたら、その、いいんですか?」

 

「キミの自由にして良いんだよ。胸を触りたければ胸を触り、大切な所に触れたいというのなら……そうすればいい。私はキミに身体を預けたんだから、君の思うように、どこでも好きなように触れてくれれば……。ただ、ここまできて何もしないというのだけは無しだ。それは流石に気分を害するから……」

 

 どうすればいいのか分からない僕に、好きなようにしていいと言うミウさんは、同時に強調した。何もしないというのだけは止めてほしいと。

 

 確かに、確かにここで僕が何もしなければ、僕はミウさんに恥をかかせてしまうだろう。男女の何かに疎い僕にだってそれくらいは分かる。

 自慰行為の対象とされていた女性が自らを触ってもいいと言ってくれたのに、触らない。それは想像できないほどの恥辱を相手に与えてしまう。

 

 女の人に、ミウさんにここまで言わせて、恥をかかせるだなんて……。仲間としても、男としても、最低だ。

 

 なけなしの男の矜持に突き動かされた僕は、勇気を振り絞って彼女の好意を受け入れる。無論、僕の胸で疼くこの感情にも身を任せる形で……。

 

「じゃあ、とりあえず……ベルト、外します…。……あの…、本当に……いいんですか?」

 

「もちろんだ……。キミが私を大切に思うのなら、私に触れておくれ」

 

「ッ! ……はい!」

 

 彼女の駄目押しを受けて漸く動き出せた僕は、怖ず怖ずと手を伸ばす。

 

「……っ、」

 

「さ、キミの手で……」

 

「はいっ、」

 

 まず胸の下と腰とに巻いている白いベルトのボタンを外してみた。

 

 パチン――

 

 音がして外れる胸下のベルト。拘束の緩んだそれを彼女の身体よりスルリと取り去ると、ベルトに押さえられていた服が僅かに緩む。

 

 豊かな胸が今にも溢れ出そうで、思わず唾を飲み込んでしまった。

 

「クルス君、緊張、しているのかい?」

 

「え、ええ……。こんなこと、初めての経験ですし……僕……」

 

「いい子だね」

 

 服を脱がそうとする僕の頭を、ミウさんはいい子いい子と撫でる。

 それは、動揺して泣きそうになっている幼子をあやすお母さんのような。

 

「ほら、落ち着いて……。私は逃げないから……」

 

「……はい」

 

 その手の温もりに心の動揺を押さえ込んだ僕は、続いて腰のベルトの留め具を外す。

 

 パチン――。

 

 胸下のベルト一本を外しただけでは胸部より上が緩むだけだった服が、拘束する二つのベルトが無くなったことで、縛りから解放されたように緩みきり、簡単に脱がせられる状態になった。

 

 それは股間のデリケートな部分を隠す位置も緩むことを意味し、目に見える形で表れた衣服の状態にカッと頬が火照り始める。

 

 逸る気持ちと、女性の服を脱がせようとしている行為に、興奮しだす自分を落ち着かせながら彼女の両肩に手を添え。

 

「脱がせますよ、」

 

 両肩より胸と股間を隠す帯状の服を左右にずらして脱がせていった。

 

「この服、夏は涼しいし動きやすい上、脱がせるときには脱がせやすくていいだろう?」

 

「そう、ですね。脱がせやすいのは、まあ……。とてもお似合いですし」

 

 この服、背中側こそ前面部と比較して露出も少なめだけど、やっぱり脱がせると言うほど肌を隠している訳じゃない。でもやっぱり服だから脱がせるというのが正しいだろうと思う。

 

 帯状の前面部を左右両方に広げるのは同時。布に隠されていた大きくて柔らかそうな両の乳房が解放され、外気の中に躍り出た。

 

「……お、大きい」

 

 口を突いて出た本心からの一言をどう思われただろう?

 

 そう思いミウさんの顔を一瞥すると、彼女の頬もほんのりとした桜色に染まっていた。

 

「ミウさんの胸、服が服だけに一目で大きいのはわかっていましたけど、生で見たら更に大きく見えます」

 

 布一枚で隠されていたときよりも大きく見える。

 

「自分でも大きい方だとは思っていたけど……やはりキミから見ても同じか」

 

 服の生地に押さえ付けられていた分の圧力から解放されたことで、本来のボリュームが露わになった証拠でもある。

 

 それは見事なまでのメロン。

 

 スイカと言ってもいい。

 

 肉感たっぷりで、思わず顔を埋めてみたくなるほどの豊満さだ。

 

「はい……大きくて、それに綺麗な桜色をして……」

 

 大きく実った二つの膨らみは、その頂きに丸い桜色の乳輪を描き、桜色の円の中央部には、心ばかり膨れた突起物を備えていた。

 

「と、ところで、クルス君」

 

「なんでしょう?」

 

「キミは……キミはその……、大きな胸は、嫌いか……?」

 

 恥ずかしげに訊ねる彼女に、僕は一つの答えしか持ち合わせていなかった。

 

「嫌いなわけ無いじゃないですか」

 

 好きだ。この女性としての魅力溢れる大きな果実を、僕だけの物にしたいという独占欲すら沸いてくるほどに。

 

「そ、そうかっ、それは……、よかった……」

 

 僕の返事を訊いて嬉しそうなミウさんの様子に、僕もまた嬉しくなる。

 ミウさんが喜ぶと僕も嬉しい。僕が喜ぶとミウさんも……そうなら、いいな。

 

「ちょっとだけ腰を浮かせて下さい」

 

「脱がせてしまうんだね?」

 

 中途半端に脱げていた服を脚から抜いてしまうために腰を浮かせて貰う。

 

「ん、ここまで来てどうかと思ったけど、人に服を脱がされるのは案外に恥ずかしい物なんだね。キミの手でなら平常心で居られるだろうとばかり考えていたから」

 

「ぬ、脱がせてる僕だってそれなりに恥ずかしいです……。なんだか、すごくしちゃいけないことをしているみたいで……」

 

 するすると、まるでズボンを下ろすように脱げていくボンテージ風のレオタードっぽい衣服。それを足から抜き去り、手にしたその服を布団の横へ追いやった。

 

 そうなれば、勿論胸に続いて彼女の股間に咲く花園も露わになるわけで。

 

「……う、あ……、き、綺麗、だ……」

 

 髪と同じ金色に輝く茂みと、縦に入った一筋の割れ目。

 

 微かに拓いた筋が蕾のようにも思え、開花直前となった幻の花を連想させた。

 

「なんて……綺麗なんだ……、これが、ミウさんの……」

 

「っ……!」

 

 この花を開かせたい。

 

 この花に僕自身を差し込み、深く埋めて、蜜を注いであげたい。

 

 蜜に含まれる花粉を奥深くに注ぎ、この美しい花(ミウ)を、受粉させたい。

 

 見ているだけで湧き上がってくるこの衝動は、きっと僕の男としての本能なのだろう。

 

 そして僕の心が、それを求めている証拠でもある。

 

「あ、あまり、見ないでくれ……、キミだって、同じ所をまじまじと見られたら、……恥ずかしいだろう?」

 

 身を捩り僕の視線から逃れるように股間を隠そうとするミウさん。

 

「す、すみません。あまりに綺麗なものだから……」

 

「綺麗だと言ってくれるのは素直に嬉しいし、触るのも勿論かまわないよ……。でも、凝視されるのは少し抵抗が、な」

 

 羞恥から抗議の弁を述べるミウさんは、残るアームカバーやらを自分で脱いでいく。

 

 服が服なので下着も着けてないから、アームカバーとサイハイブーツまで脱ぎ捨てたいま、彼女の身を隠す物は何一つ無い状態であった。

 

 完全なる素の裸。生まれたままの姿だ。

 

(……ミウさん……は、裸……なんだ)

 

 胸や股間を凝視していた僕も、彼女からの注意で僅かばかりに取り戻した冷静さが理性に働きかけたのか? 急に恥ずかしくなって目のやり場に困ってしまった。

 

 そんな僕に対し、裸のミウさんは“そこ”さえ見られなければ割と平気なようで、頬を染めたままながら此方へと身を寄せ。

 

「次はキミだね」

 

 それだけ言うと、僕のシャツを強引に脱がせては、残るズボンをずり下げようとしてきた。

 

「ち、ちちち、ちょっと待ってくださいッ なんで僕まで裸にさせられるんですか!?」

 

「なんでって、キミね。私だけ裸にされてしまうのは不公平極まりないだろう? 私が裸にされるのならば、当然キミも私に脱がされることを受け入れるべきだ」

 

「ェェ――っ!」

 

 逃れられないよう引き寄せられた僕は、ズボンのホックとチャックをあっさり拓かされ。

 

「キミは私の恥ずかしいところを凝視。だが私にはキミ自身を見せない。そんなことが――」

 

 掴まれたのはズボンと、その下のトランクス。

 

「うわあっ」

 

 そのまま勢いを付けて。

 

「通用するとでも思っていたのか?」

 

 ずり下げられた……。

 

「うん……年齢並み……かな?」

 

 歳相応の大きさの僕自身への評価。

 嬉しいような恥ずかしいような、残念なような……。

 

「これからは、私が慰めてあげよう」

 

 一撫でされた瞬間。背筋を這い上がっていく快感。

 

 ミウさんの手が、僕の物に触れているその感触が、僕がいま生まれたままの状態にあることを表していた。

 

「うう…、」

 

 流れのまま素っ裸にされたけど、ミウさんの身体を触るという話に、僕まで裸になる必要は無い。なのに当たり前のように脱がされた。

 しかしそれは、ただ自分だけ裸になることが不公平であるというだけの理由でもなかったんだ。

 

「私はね、キミだけが私を触るといった一方的な物ではなく、私もキミに触れるという相互の触れ合いをしたいんだ」

 

 彼女は語る。相互の触れ合いをしたいと。

 

「お互いに…ですか?」

 

「うん……。つまり、クルス君とは、肌と肌で触れ合いたいんだ。キミは嫌か? 私と触れ合うのは……私に触られるのは嫌なのか?」

 

 彼女は少し不安げに言った。嫌なら嫌で仕方がないと。

 なにも嫌がることを強制したりする意図はない。

 だが僕がいいというのならば、彼女は遠慮することなく僕の身体を触るという。

 

 確かにミウさんも僕と同じ様に僕の身体を触りたいと思っていたのだとすれば、僕だけが服を着ているのは不公平だ。

 だけど、僕は彼女が僕と肌で触れ合いたいなんて考えていた事を知らなかったから、だから慌てただけ。

 

 ミウさんも僕の身体を触りたいというのなら話は変わる。

 

 僕に断る理由は無いし、彼女に身体を触られることが嫌だなんて……そんなこと絶対にない。

 

「い、嫌じゃないです、僕も……僕もミウさんと触れ合いたいですっ」

 

 触られてもいいどころか、僕はミウさんに身体を触ってもらいたいと思ってる。

 

「クルス君……」

 

 なんだか……嬉しいな。ミウさんと二人で、お互いの身体に触れ合う行為ができるなんて。

 

「ぼ、僕からで……いいですか?」

 

「いいよ……」

 

 羞恥心を捨て、期待と想いに胸を膨らませながら、僕は彼女の柔らかな双丘へと手を伸ばした。

 

「あ……」

 

 手の平が乗るのは、その大きな胸の膨らみ。

 

 きめ細やかな肌と、柔らかい乳房の温もりを感じる。

 

「ん……クルス君の手、温かい……」

 

「ミウさんの胸も……とても柔らかくて、温かいです」

 

 手の平を胸の上に置いたまま、撫でるように円を描いてみた。

 その、手に余るほど豊かで柔らかな膨らみに、僕なりの慈しみを抱きながら。

 

「はあ…ん……っ、い… いい、よ、そんなふうに、クルス君の好きなように……」

 

「は、はいっ、」

 

 柔らかい膨らみは撫で回すだけでも気持ちいい触り心地がした。

 

 左胸に続いて右胸にも手を置いて、少しだけ力を入れて捏ねるような感じに揉んでいく。

 

 僕の手に余る大きな胸は柔らかくって弾力があって、手の動きに合せて横にはみ出たり、内側に盛り上がったりと、忙しなく形を変えている。

 

 女の人の胸って、こんなにも柔らかい物なんだ。

 

 つきたてのお餅のような。食べてしまいたいくらいに美味しそうで。

 

「はあっ…、あ、あぁ…、き、気持ちいい、いい…、よ…、キミの温かい手が、胸の奥まで、熱を伝えてくるようだ……、」

 

 赤らんだ頬。半開きになった唇。溢れ出る吐息。胸を揉んでいるだけなのに、ミウさんは本当に気持ち良さそうだ。

 僕の手で彼女を感じさせている事がとても嬉しくて気分が高揚してくる。

 

 僕はミウさんにもっと気持ち良くなって貰いたい。

 

 一度胸から手を離すと、今度は左右に実る二つの乳房の左の方、その頂点にある綺麗なピンク色をした乳輪と突起に口を近付けて優しくキスをした。

 

“ちゅっ”

 

「ふあっ、」

 

 乳首に唇をつけたまま大口を開けて乳房にかぶりつき、乳首全体を口に含んでしまうと。

 舌を出して乳首をなぞるように舐めながら転がして、赤ちゃんが母乳を飲むように強く吸ってみた。

 

「ちゅう――」

 

「ああ…っ、ひうぅっ…、おっぱいが……吸われて……。あ、ん……」

 

 乳首を吸っていると、なんだか甘い匂いがさっきよりも強くなってきたような気がする。

 

「ちゅぅ……ちゅう……。おっぱい……ミウさんのおっぱい……、美味しい……。甘くて、柔らかくて……」

 

「そう、か……んっ、ふうっ」

 

 もちろん母乳が出るなんて事はないけれど、乳首は自分を主張するみたいに勃起し、僕に吸われているのを喜んでる。

 

 一方で、僕にお乳を吸われ続けるミウさんは、僕の身体を優しく抱き締めて、喘ぎながらも頭を撫でてくれている。

 

「んっ…、んん……ぁぁっ……。クルス…くん…… まるで……まるで赤ちゃんみたい…だね……っ」

 

 好奇心の赴くままにおっぱいを吸う僕の姿はそう見えるのだろうか?

 僕は赤ちゃんじゃないけど、ミウさんの母乳を飲んでみたいと思った。

 

 きっと美味しいだろうな。乳房――おっぱいとは、それだけで母性の象徴とも言える。

 吸っているだけで、心が落ち着いてくる。

 

「ん……ちゅう……ちゅう……」

 

「かわいいな……、クルス君……。んっ……赤ん坊に、母乳を飲ませるときは……。こんな気持ちに、なるのだろうか……」

 

 必死になっておっぱいを味わう僕の頭で優しげに動く手の温もりに僕は不思議とお母さんを感じた。

 

 もっと、もっと甘えたくなってくる。

 

 赤ちゃんのように甘えて、おっぱいを吸い続けて……。

 

 でも、頭を撫でてくれる手の感触は思う以上に気持ち良すぎて、僕の眠気を誘発させてくるのだ。

 

 もしも、このままおっぱいを吸いながら寝てしまったとしても、ミウさんならばきっと僕を抱いたままでいてくれる事だろう。

 

 頭を撫でながら自分の胸を枕代わりにさせてくれて子守歌を歌ってくれたりするのかも知れない。

 

 身を委ねてしまえばどれほど安らかに眠れることか。

 ひょっとすると生まれてから一番気持ちの良いおやすみを迎えられるかも。

 

 けれどもそれはいけないこと。受け入れてしまえばミウさんとの触れ合いができなくなってしまう。それだけは嫌だ。

 

 この眠りへの誘惑は手放しがたい。このまま赤ん坊になったつもりでおっぱいを吸いながら甘えてみるのもいい。

 

 しかしながら、僕にはミウさんとの時間のほうがもっと大事。一番、そう何よりも一番大切なことだから、眠りに落ちてしまうことを良しとはできないのだ。

 

「ちゅ……ミウさん」

 

 名残惜しくも僕は乳首にキスを一つだけ落としてから口を離す。

 

「どうしたんだ……?」

 

 見上げた視線の先にあるミウさんの頬。

 うっすらと赤みが射していて、呼吸も少し荒い感じになっていた。

 僕の頭を撫でながら、彼女は僕を見つめたまま言葉を紡いだ。

 

「もっと、おっぱいを吸ってもいいんだぞ……、私のおっぱいは今、クルス君だけの物なんだから」

 

 それはお母さんの顔?

 

 それとも、女性としての?

 

「それとも…… もう満足したのか……?」

 

「いえ違います……満足なんてしていません。ただミウさんに抱かれて頭を撫でられていると、眠ってしまいそうなので…」

 

「そうか…」

 

 微笑む彼女の手は尚も僕の頭を撫でてくれる。

 

「それは、困りものだ」

 

 しかしそれは子供へ向ける母としての顔ではなく、僕という個人を見てくれている表情だった。

 

「私はもっとキミと触れ合っていたい……、胸でも、髪でも、どこでも…、キミに触られて、そして私もキミを触りたい」

 

「僕もです…、もっと貴女と触れ合いたい」

 

 だからもう、お乳の時間は終わり。

 次に進まなければならないから。

 

「あの、脚を広げてもらっても……いいですか?」

 

「また見るだけというのは止してくれよ?」

 

「わ、わかってますっ……、今度は、ミウさんの大切なところを、触りたいんです……」

 

 僕がお願いすると、ミウさんは仰向けに身体を寝かせる。

 

 膝を立て、開かれていく艶めかしい脚部。

 

「これで、いいか……?」

 

「は、はい……、いい、です……」

 

 開かれた脚。つま先から膝。膝から太腿。線を辿るように視線を上げたその先で、次なる触れ合いの場は口を開いていた。

 

(ミウさんの花……なんて美しいんだろう……)

 

 露わになったミウさんの秘所は、おっぱいを吸われて感じていた影響もあるのか、少し濡れている。

 

 さっきも思ったけど凄く綺麗だ。その綺麗な花園を間近にした僕の性器は益々硬く勃起してきた。

 

 大きく開かれた股の間に顔を入れた僕は、そのまま股間に口を近付けると、髪と同じ淡い金色の陰毛を鼻で掻き分けながら、茂みの中に咲いた花弁に口を付けてみた。

 

“ぴちゃ”

 

「んあ――」

 

 濡れた自分の舌と、濡れた花園の中に開いた唇が触れ合う……甘美な音。

 味蕾に捉えたねっとりした蜜の濃厚なる味が、僕の脳を刺激する。

 

「ひゃぅっ…! だ、ダメ…だっ、クルス…くんっ、そんな、ところ……っ、あ、ああ…っ!」

 

 口を付けたまま舌を差し出し、割れ目に沿って下から上へと撫でるように這わせると、割れ目に隠れていたクリトリスが僕の舌に舐められて勃起した。

 

“ぴちゃ、ぴちゅ、”

 

「ひゃああ……っ くふぅ……っ!」

 

 まるで僕の性器と同じ様に性への刺激を受けてぷっくり膨れたかわいいクリトリス。

 舌先でつんつん突いてあげながら、唇で優しく啄む。

 

「ふあ…ぁ…っ、」

 

 歯で傷つけないよう注意しつつ。舌で転がしながらの愛撫に、彼女は歓喜に満ちた喘ぎを訊かせてくれた。

 

「く、クルスくん……わ、わた…しっ…、」

 

 耳に聞こえる切ない声と比例するように、割れ目の奥からは粘ついた透明の蜜がとろりと滲み出てくる。

 

「ミウさんの…ぴちゅ……、蜜……、飲ませて、頂きますね……」

 

 クリトリスを可愛がっていた僕は、その愛液の溢れてくる割れ目を口で塞いでストローの口を吸うみたいにずずーっと音を立てて吸い上げながら、口の中に入ってきた液を飲み込んだ。

 

 独特の味が、とても美味しい。

 

“ずず~っ”

 

「んああっ! んん~~~ッッ!!」

 

 愛液はどれだけ飲んでも一向に止まることなく、まるで湧き水みたいに止まる事なく溢れ出てくる。

 

 飲み続けていると、ねっとりと喉に絡みついて少し苦しい。

 

 だけど、こんなにも美味しい彼女の蜜を吐き出してしまうのが勿体なくて、咳を堪えて無理矢理にでも喉の奥に流し込んだ。

 

「い、いや…ぁっ…… クルス…くんっ、も、もうダメ…だ……っ、私……イク…っ イクぅぅ…っ」

 

 膣口とクリトリスへの交互の愛撫に、ミウさんは悲鳴混じりの喘ぎを上げながらビクビクっと身体を震わせた。

 

 その瞬間、花園を貪っていた僕にも、緊張していた彼女の身体が弛緩していくのがわかった。

 

(ミウさん、イッたんだ……)

 

 僕はしっかりほぐれて緩くなった蜜壺より、そっと顔を離して起き上がる。

 

 ひくひくと蠢く膣口からは止めどなく愛液が流れ出ていて、硬く勃起した僕の性器を入れたらすんなりと奥まで入ってしまいそうな感じに仕上がっていた。

 

 これを視て、この状態に仕上げて。これで終わり……。

 

 それを思うと、とても哀しかった。

 

(イヤだ…、これで終わるなんて……そんなのヤダよ……)

 

 これで終わりにするなんて、とてもできそうにない。

 

 愛撫して、蜜を味わって……それだけなんて、納得できない。

 

 この先を……、この先をしたくなってきた。

 

「ミウさん……、あの、いいですか…?」

 

 この花弁を掻き分けて、その奥へと、入りたくなってきた。

 差し込んで掻き回して、そして彼女と一緒に気持ち良くなりたい。

 

「ハアっ…、ハアっ…、ん……なんだ……?」

 

 ミウさんと、感じ合いたい。

 

 ミウさんに、僕を、感じて欲しい。

 

「僕……その……」

 

 

“ミウさんと、性交が……セックスがしたいです――”

 

 

 普段の僕ならばとても言えそうにない言葉はしかし、熱に浮かされ昂ぶる僕の想いによって増幅された意思に従い、この口から飛び出してしまった。

 

 僕からの突然なお願いに息も荒いミウさんの目が点になる。目を合わせたまま動かない。

 

 とんでもないことを口に出してしまったと思う。

 

 心の奥で燻る疼きが、彼女との触れ合いという、この夢みたいな状況を受けて、暴走してしまったのだ。

 

「ダメ……ですか?……」

 

 いきなりセックスさせてなんて普通に考えたら無茶な話。

 

 どんなに親しくとも、仲間という、信頼の置けるパートナーというだけで、至れるようなものではないから。

 

「あ、あはは……。や、やっぱり、ダメ……ですよね」

 

 身体は触っていいと言われたけど、その事とセックスじゃ全然訳が違う。

 

 ミウさんとの親しい間柄ゆえに大丈夫だけど、そうでなければ互いの関係に少なからず影響を及ぼしてしまうところだ。

 

「すみません……変なこと言って……」

 

 僕は自分の心に抱く想いと、自らの欲望から出た過ちの言葉を慌てて取り消そうとした。

 

 吐いた言葉は取り消せるはずもないと理解しながら、それでも僕は誠意を持って謝罪する。

 

「ごめんなさいミウさん……」

 

 しかし――

 

「どうして謝るんだ」

 

「え……?」

 

「私はまだ何も言っていないのに、勝手にダメなんて決めつけないでほしいね」

 

 謝罪の言葉、それはミウさんに止められてしまった。

 

「で、でも……、」

 

「クルス君……、正直に言うと私も……、私もキミと……、」

 

“性交を……してみたい……”

 

「ええ――っ!?」

 

 紡がれたのはそんな言葉。

 

「どうせキミのことだから“どうして?”なんて訊いてくるだろうし、先に伝えておこう。……私はね―――“キミに惚れてる”」

 

「―――え?」

 

 僕のお願いを聞き届けてくれた返事。

 それはその位置にて留まる事はなく、更なる高みに位置した別の答えにも繋がっていた。

 

「い、ま………なん…て……? 僕に……惚れ……てる?」

 

「そうだ。私はキミに惚れている」

 

 彼女の返事は、僕の心の問題に直結する答えに。僕が欲しながらも求めることを控えていた答えに。

 

 繋がっていたんだ。

 

「ほ、惚れてって……、ミウさんが僕を、その……」

 

「ん、私はクルス君が好きだ。仲間としてじゃなく、女として………」

 

 愛している――。

 

 僕が、僕が秘めて……僕が求めていた……答え。

 

 僕の抱くものと、一言一句違わない同質の感情。

 

「ほ、本当……ですか? 本当に僕が好きなんですか……? 僕を男と見て、ミウさんは女としてっ……! えっ、ええっ?! だ、男女の仲的な好きっていう、アレですか……!?」

 

 女性からの愛の告白なんて初めてだから、興奮して叫んでしまった。

 相手が、他でもないミウさんだからだ……。

 

「そんなに息を荒くしなくてもいい。君の言う“好き”で間違い、ないのだから」

 

 優しく、諭すような彼女の言葉に、僕の心は静まっていく。

 

 しかしそれは、表面上のことでしかなく、心の裏側にて燻っていた火は、業火となり僕の心を燃え上がらせていた。

 

 ミウさんが明かしてくれた心の内は、僕の深層まで届くほどの強い熱。それはまるで“炎神の息吹”を思わせる振動と熱を心の奥底まで到達させられたような感覚。

 

「す、すみません、……でも、本当なんですか?」

 

「本当だよ。私はいまキミに身体を触らせているが、好きでもない男に触らせたりするものか。私は……私は、そんな軽い女ではないつもりだ。性的な体調管理にも気を配るのはパートナーの役目だとは言ったが、あれはキミがパートナーであるからこそ言ったもの。キミ以外の男になど……」

 

 傍に居たからこそ、わかる……。ミウさんは、軽い人じゃない。冗談でも身体を触らせるなんてこと……。

 

 触れ合える嬉しさに舞い上がっていた僕は、本来ならば感じたであろうその違和感に気付けなかったのだ。

 

 想いがなければ大切な所なんか触らせたりしない身持ちの堅い女性が、僕に身体を触らせてくれたということが何を意味しているのかということを。

 

「キミが、身体を張って私を助けてくれたとき……既に、意識していた。キミを……、クルス・シルトという男を……」

 

「っっ……!」

 

「キミとパートナーを組んで接する中で、BSには居ない優しすぎるほど優しいキミの心に触れている内に、キミを思うと、胸が高鳴ることに、気が付いたんだ……。それがキミに対して抱いた私の恋心だというのもね……」

 

「それって……、それじゃ……最初から――」

 

「そう、だから一目惚れに近いかな。その想いが、キミとパートナーを組んだその後に花開いた……そんな感じだね」

 

 一目会ったときからというのを聞いたことがあるけど、自分がその相手になるとは……夢にも思わなかった。

 

「惚れやすい女だと幻滅したか?」

 

「そ、そんなっ……だって、僕……」

 

 僕だって……、ミウさんを……。

 

 元レジスタンスで、仲間がみんな殺されたっていう僕と同じような境遇のミウさんのことが最初から気になっていた……。

 

 境遇が同じだからこそ、必要以上にミウさんのことを考えて、話しかけていた。

 パートナー故に接する機会も多かったし。何度も助けられて、その僕の事を大切にしてくれる、守ってくれる優しさにも触れて。

 

 どうして自慰をするときにミウさんを思うのか?

 

 どうしてミウさんとの触れ合いにこんなにも心が躍るのか?

 

 心は……、感情という物は、とても正直だ。

 

 それは直結しているから。

 

 心の奥の奥、深層心理と呼ばれる場所に刻まれる、男が女を想う原始的な感情と。

 

 セカンドではないキリストの生きていた時代、それよりもまだずっと昔。

 

 言葉さえなかったような原初の時代より、男が女に抱いてきたであろう大切な想いと、繋がっているから。

 

 僕が今、ミウという女性に抱いている想いに、僕の心の全てが繋がっているから……。

 

 だけど、ミウさんみたいな大人の女性が、僕のような子供なんかを……そうやって、最初から諦めていたんだ。

 

 ミウさんは仲間。大切な仲間であって、それ以上でも以下でもない。

 

 そう自分に言い聞かせて、ミウさんに抱いたコレを心の奥底に仕舞い込んで、普通に接し続けていた。

 

 それなのに、ミウさんは初めから僕を……。

 

「その、なんていうか……すみません……、僕、ミウさんの気持ちに全く気づけて、なくて……」

 

「仕方ないよ、キミはキミであって私じゃないんだ。心の声を聴けるようなフラグメントでもない限りは、私の心の中を見知ることなんか出来はしない」

 

 ミウさんの気持ちを知った僕は、一度深く深呼吸して心を落ち着かせた。そうやって落ち着かせてから間を入れずに口を開く。

 

「あ、あの……ミウさん」

 

「ん?」

 

 僕も自分の秘めたコレを伝えよう。ミウさんが僕のことを好きだと知った今、コレを閉じ込めておく必要は無くなった。

 諦めていた想いを、この心が抱えてしまった行き場のない感情を、僕はミウさんにぶつけたい。 

 

 ミウさんからの告白の後っていうのが少しかっこ悪いけど、元来逃げてばかりで諦め癖のある僕は、切っ掛けがないと変われない。

 戦いから逃げていた僕が、神父様達という切っ掛けを経て逃げなくなったように。

 

 切っ掛けがないからこそコレから逃げていた。この感情を押し込めて蓋をしていた。

 そして気付けばその相手からこうして告白を受ける。

 きっと僕からするべきだったのだろう。それが男としてのあるべき姿だと思うから。

 しかし、現実はこうだ。切っ掛けも何も、もう結論が出てしまった後だ。

 

「後からで、締まらないんですけど……、」

 

 だったら僕は、ただ伸ばされたその手を掴まなければならない。

 

「ぼ、僕もっ」

 

 締まらなくても、かっこ悪くても。

 

「僕もミウさんを意識していましたっ――!」

 

 これが僕の秘めた感情だから。

 

「でもミウさんが僕を男として見ることなんて無いって思って、諦めていました……っ、」

 

 後はただ、流れに沿うだけ。

 

「僕は子供ですから……、だから……、大人のミウさんには受け入れられないと、考えて……」

 

 ミウさんからの再度となる手。

 

「それは……告白と受け取っても……?」

 

 その僕の想いを引き出すべく伸ばされた言葉の手を、僕は掴んだ。

 

 言おう。言うぞ。言うんだ。

 

「は、はい、その、僕も……ミウさんが好きですっ……! こんな僕でよかったら……!」

 

 付き合って下さいって言う――

 

「け、け、けけっ、結婚してくださいっ!!」

 

 感情を、答えを爆発させた僕。

 

 それは勢い余っての盛大な大爆発と成ってしまった。

 

「けっこ――ッ!!」

 

 絶句するミウさん。

 

 予期せぬトラブル。自分で巻き起こしたトラブル。

 

 口にした以上戻せない告白の上の、最も最上段に位置する“告白”。

 

「あ、ああ、あの……、うん……、クルス君は……結婚……したいのか……?」

 

 言葉を上手く紡げない彼女。『結婚』それを誰が言ったのか?

 

 いや、そもそも、誰とは誰なのか?

 

 こんなにも冷静に考えても居ながら、それでいて頭の思考がぐちゃぐちゃになっている、遅きの告白で大失敗した誰とは……。

 

「その、私……、と……?」

 

 誰とは―――――って、僕が言ったんじゃないかぁぁ~~~~~ッッ!!!

 

「いッ……、いいッ、いやあのッ……! これはちがッ……!」

 

 僕はなに言ってるんだ~~~ッ!? 付き合ってくださいって言うつもりだったのにバカじゃないのか~~~ッッ!!

 

「そ、そうじゃなくて僕は、ああッッ~~~!!!」

 

 落ち着いて告白しようと深呼吸したのに、全然落ち着いてなかった僕は頭を抱えて駄々っ子のように首を振る。

 

 女の人に告白されるのなんて初めてだったし、それが密かに好意を寄せていたミウさんだったからか、いきなり無茶苦茶な告白をしてしまった。

 

 出した言葉はもう取り消せない。僕の目の前では裸の大人の女性が面食らって固まっている。そんな僕も全裸で性器を丸出しにして。

 

 そんな状況で結婚してくれとか……なに、この状況は。というか、これ……僕が生み出した状況……。

 

「ず、随分とその、なんだ……、なんていうか……す、ストレート……だね、キミは……、いきなり、私を……その、妻にしたいとか……予想外、すぎて……」

 

「ち、違います間違えたんです!! つきあってくださいって言うつもりだったんです!! 訂正します無しです今のは忘れてくだ――」

 

 このとんでもない告白をしてしまった僕は慌てて間違えを訂正して、本来言おうとしていた告白の言葉を大声で口にした。

 

 秘めていた想い。僕の心を。すなわち、僕クルス・シルトは、ミウさんを愛しているという偽りなき素直な気持ちを。

 

「い、いいよ、」

 

 するとミウさんも僕の告白を受け入れてくれたようで、肯定の返事をしてくれた。

 

 彼女が僕を好きで僕も彼女を好きならば、その答えは必ず一つに絞られるのは当然である。

 

 だがそれは――

 

「その、結婚……しようか……」

 

 訂正後の言葉に対してではなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「……、えっ、ええええええ――――っ!?」

 

 それは、最初の間違えた告白に対しての返事だった――というか結婚っっ!?

 

「ミ……ミミミっ……、ミウさん本気ですかっ!? 本気で僕と結婚してくれるんですかっっ!?」

 

「あ、ああ、もちろん本気だよ……っ」

 

 顔を林檎のように真っ赤にして、俯き加減のまま目線を下げつつ語るミウさん。

 

「キミも私を好きだというなら、恋人になるよりも結婚して夫婦となる方が、私としてもその……嬉しい……かな」

 

 結婚しようと言われて言葉に詰まってしまったが、考えてもみれば恋人の延長線に夫婦関係が有る。

 とするなら、多少早すぎるとは思えど、この場で結婚という結論を出したとしても何の問題もないということだ。

 なによりもミウさんが嬉しいと言ってくれているし、僕だってミウさんと……結婚したい。

 

「あ、あああ、あのそのっ――!」

 

 ただ、こんな事になるなんて思ってもみなかったから、気が動転して上手く喋れない。

 

 とにかく落ち着こう。もうこれ以上踏み込んだ発言が出るなんてことはないし、有る筈もないけど、落ち着いて返事をしよう。

 

 先に言ったのは僕なのだから。

 

「ああああっ、あのっ、ですね……っ、こ、こんな弱くて、頼りない僕ですけどっ、ミウさんを愛する気持ちは誰にも負けませんっ! だ、だからっ……よ、よよっ、よろしくお願いします――っ!」

 

 結局僕は落ち着けなくて、酷く動揺したままだった。

 

「わ、私の方こそ…… よろしく……」

 

 それでも、ミウさんに想いを伝え、踏み込んだ告白へ応えてくれた彼女と結婚の挨拶的な言葉を交わすことが出来た。

 

「はぁぁぁ~……、」

 

 想いを伝えることが出来て緊張が解けたのか?

 

 身体から力が抜けて、自然ため息が漏れた。

 

「ど、どうしたんだ? 急にそんなため息をついて……」

 

「い、いえ、安心したら、なんか力が抜けちゃいまして、」

 

 そんなふうに一人落ち着きかけていた僕に。

 

「……まだ力を抜くのは早いぞ。しっかりしてくれ」

 

 ミウさんは先程と同じくゆっくりと布団に寝ると、その艶めかしい足を左右に広げて大きく股を開いた。

 

「へ──?」

 

「な、なにを呆けているんだキミは? キミが言ったんだろう……、私とその……性交がしたい、と……」

 

 だからこうして僕を受け入れるべく仰向けになり脚を広げてくれたのだ。

 

 僕の願いを受けて……。ううん、夫婦と成ったのだ。僕のお願いなんて関係無く、夫婦として愛し合うそのために。

 

「こんなこと、何度も女に言わさせるものじゃないんだぞ……」

 

「ご、ごめんなさい、」

 

『性交させてほしい』っていう、僕の一言からの告白。更には結婚まで話しが飛躍した上に、初めての性交は新婚初夜。

 

 考えたら変な話しだ。こんな、素っ裸で向かい合って好きだとか結婚だとか言うなんて……。思い返すと恥ずかしくて逃げ出したくなる。

 

「クルス君……」

 

「え!? あっ、すみませんっ!」

 

 余計なことを考えている場合ではない。

 これから行う大事な新婚初夜の前に、雑念は禁物だ。

 

 ミウさんと愛し合える――。

 

 ただ性交を行うという欲ではなく、愛を確かめ合うための素晴らしい行為。

 それはなんて素敵なことなのだろう。

 

「思いもよらない形になったが、これで……、いいの、かもね……」

 

「僕も、そう、思います……」

 

 僕は開いた脚の間に身体を入れてミウさんの膝を抱えると、自分の膝の上へその抱え上げたミウさんの膝を乗せ、何度目かになる深い深呼吸と共に、愛おしい女性と身体を一つにするための体勢へ。

 

「私はキミを愛し、キミは私を愛する。もっと早くに、こうするべきだった……」

 

「ごめんなさい……僕に、勇気がなかったから……」

 

「なにを言うんだ……、キミは私を嫁にしたいと言ったじゃないか……、充分すぎる、勇気だよ……」

 

 そして、自分の脚がミウさんの脚の下へと入るようにして腰を近付けていき、多少の時間が過ぎてもまだ愛液でたっぷり潤っている割れた花弁に、硬く大きく勃起したままの性器の先を触れさせた。

 

 くちゅ…

 

「濡れてますね……洪水、みたいに…、」

 

「んっ…、クルス君の……これが、私の中へ……入るんだな……」

 

「ええ、そうみたいです」

 

「夫婦としての、初めて……、これが私達の…っ、初夜…、だね……」

 

「初めての、夫婦生活……、ぼ、僕、頑張ります……」

 

 膣口に触れている先端部分からねっとりした愛液が伝って、僕の性器を濡らしていく。

 

 夫婦生活、初夜。初めてとなる愛の作業。その後押しをしてくれているかのように、僕とミウさんの秘部は準備を整えた。

 

「い、いきますよミウさん」

 

「ああ……ゆっくり、きて……ほしい」

 

「はい……わかりました」

 

 つい先ほどまで口をつけていた割れ目に、今度は性器でキスをした僕は、そのまま腰を前に出して亀頭を潜り込ませていく。

 

 つぷ、

 

「あぁっ…、」

 

 美しい蜜に溢れる花弁が左右へと広がり、僕の性器を飲み込む。

 

「ふあっ、中が裂ける、みたいだっ」

 

 ミウさんの脚が緊張に張り詰めるように震えた。

 

 入れるだけの僕に対し、閉じた肉を割り裂かれる彼女のほうが、より大きな快楽の波に襲われているのだろう。

 

 ぬるっとカリ首までが中に入り、一瞬にして温かくぬめった感触に包まれた。

 

「ぬるぬる、してます…、入り、やすくて……こんな、」

 

 まだ先っぽを入れただけなのに背筋には悪寒にも似た物がゾクりと走り、言い知れない快感が僕を襲う。

 それは更に奥へと挿れたくなる誘い水のような物で、僕の腰は意識するまでもなく自然と前に進んでいた。

 

 ずぶ… ずぶずぶずぶぅぅ……。

 

「あっ! あああァ~~っ、クルス君がっ、私を裂いて…っ、入って…くる……っ」

 

 愛液に満たされた膣の中。閉じた肉を押し割っていく僕の性器は、張り付いてきた襞に絡め取られながらも着実に奥へと進んでいく。

 

 カリ首から竿、そして根元辺りまで、予想した通りすんなり入っていった。

 

「あっ、ふぁぁ――っ、気持ちいいッ……お、男をっ、くっ、クルス君を受け入れるというのは……っ、こんなっ……こんなにもっっ……」

 

 一方でミウさんは僕の挿入を受けて膣の中を擦られ、摩擦されるのが余程気持ちいいのか、大きな喘ぎを漏らしている。

 

 以前、BS解放軍のメンバーの人に『初めての時は女ってのは痛がるんだぜ』と聞いていたから、てっきりミウさんは経験者なんだと思ったんだけど。

 埋めていく性器に裂き擦られながらもその声からは痛みという感覚を感じさせない、一つになる事の悦びだけを感じ取れた。

 

「あっあああ~~っ、クルス、くんっ……こすれて……早く、奥へ……、焦らさないで、奥まで……っ、」

 

 順調に入っていく僕自身。引っ掛かりを感じながらも、ミウさんの懇願を受けた僕は構わず奥に進める。

 

「んああ――!」

 

 すると、性器を飲み込む花弁の隙間から、挿入による圧迫に押し出される形で出てきた愛液に赤い物が混じっているのが見えた。

 

 それは、考えるまでもない処女の証。僕が初めてで、ミウさんも初めてであるという、とても嬉しい一つの事実。

 

「あ、ミウさんは……性交するの、初めて……、だったのですか?」

 

「も、もちろん、初めて……だよ……、はァ…ァっ、クルス…、くんは……、違うのか……?」

 

「い、いえ……、僕も……初めてです……、もちろん……。子供ですから、相手もいませんし……、好きな女性は、ミウさんが、初恋……ですし……」

 

「ああ……そうか…、初めて同士……、それは、嬉しい……。私も、初恋なんだ……始めて好きになったのが、10ほども年下の……子供で、あったことに……少し、悩みもしたが、こうして一つになって……よく、わかった……キミを好きになって……よかった、よ…」

 

「僕ら、なにもかも同じ……なんですね」

 

 初恋同士で初めて同士。

 

 悩みさえも年齢差を気にするという同じもの。

 

 まるで出逢うべくして出逢い結ばれたようにも感じる。

 

「んはァ…ッ!」

 

 止まらない腰が進み、ぬ゛っと、深めに物が入った瞬間、ミウさんは大きく喘いだ。

 

「あの……痛くないですか?」

 

「ああ……、痛みは有る筈……っ、だけど…っ、気持ち良すぎて…っ 感じない…ね……、身体の相性が、いいのかも……っ、」

 

 初めてでも痛くないことはあるんだ……。でも、その方がいい。

 

 ミウさんに痛い思いをさせておいて、僕一人だけが気持ち良くなるのは嫌だから。

 

 どうせ愛で繋がるのなら、二人で一緒に気持ち良くなりたい。

 

 そんなことを考えながら、僕は最後の一押しをした。

 

 じゅぷん

 

「んん~~っ!」

 

 竿の部分が全部中に入って性器が根元まで埋没すると、僕の股間がミウさんの股間にぴったりとくっついた。

 

 性器の先は膣の奥深くにある何かに当たっていて、その何かが鈴口に吸い付く感じになっている。

 

 これって、子宮の入り口? 性交自体が初めての経験だから、これが何か分からないけど、たぶん、間違いなさそうだ。

 

「ミウさん、全部、入ったみたいです、僕の性器がミウさんの奥まで……」

 

「ん……、はぁはぁ、……そう、みたいだね……、私の一番奥に、クルス君のが……当たっているよ……」

 

 一番奥ということは、吸い付いているのはやっぱり子宮口なんだ。

 それじゃ、僕とミウさんは今、本当に身体の奥底まで一つになってる訳か。

 

(それにしても、なんて気持ちが良いんだろう)

 

 僕の性器をミウさんの肉が優しく包み込んでくれていて、温かくてざらりとした襞の感触に、何もしていないのに、感じさせられ達しそうになってしまう。

 

「動きますね」

 

「ん、いい…よ、」

 

 ずずっ……。

 

「はっ、あぁ…っ!」

 

 あまりの気持ち良さにジッとしていても達してしまうのがわかった僕は、迷わず腰を動かして抽挿を始めた。

 

 夫婦としての愛の共同作業で、僕一人だけが達してしまう。そんな寂しい結果が初夜の思い出になるなんて絶対にイヤだから。

 

 共に最後を迎えたい。僕が達し、ミウさんも達する。その理想的な瞬間を迎えたい。

 

 動きを止めるのは、終わってからでいい。

 

 僕は奥まで入っている性器をゆっくり引いていき。

 

 ぬるぅぅ。

 

「ああぁ~~っ、」

 

 カリ首の手前まで抜けたところで、もう一度奥までゆっくり差し込む。

 

 じゅぶぅぅ。

 

「はっああァァ~~っ、」

 

 それを同じペースで続けるだけの単調な動きながら、僕も彼女も悦びを感じずにはいられない。

 

 想いを一つにして愛し合う事が、こんなにも気持ちが良いものだとは思わなかった。

 

「あっ…、はうんっ……んっああ……ゆっくり……、こんな、ゆっくりなのに……キミの熱い愛を、感じられる……」

 

「貴女は、身体の中でも…、僕を、撫でてくれるんですね……、擦れ合っているのに、まるで撫でられているように……感じるんです……ああ、ミウさん……僕は、貴女が……大好きです……」

 

 緩急付けての抽挿とか、腰をひねってみたりとか、どう考えても僕にはまだ出来そうにない。

 

 これが初めてのセックスだから仕方がないけど、今そんなことをしたら直ぐにイッてしまいそうで……。

 

 なにより、こういうのに疎い僕の予備知識が足りなくて、思い付くことはひたむきに腰を振ることだけだった。

 

「はっ…、あ…っ、あァ…、んんっ クルスくん、いいよ……凄く……気持ちいい……っ」

 

「僕も、僕も気持ちいいですっ、ミウさんの中、凄く、温かい、」

 

 僕は性器に擦れる膣肉の温もりと柔らかさを味わいながら、ゆっくりとした抽挿を続ける。

 

 性器を出したり挿れたりするたびに、膣の中に溜まっている愛液が結合部の隙間から押し出されてくるけど、中を満たしている愛液の量は減ることはなくて動きづらくはならない。

 

 そのお陰で僕は順調に性器を膣内で滑らせることが出来ている。

 

「あっ、ああんっ…、クルス……くん…っ、もっと、もっと擦って……、私をイかせて……っ、」

 

「は、はい、」

 

 僕はミウさんの腰を掴んで少し浮かせると、カリ首までしていた出し入れを竿の中程までの間に変えて、膣の奥深い場所での抽挿に切り替える。

 

 動きは優しくゆっくりしたペースのままだけど、彼女の大きくて豊かな胸が、僕の腰の突き込みに合わせて、大きく揺れて、喘ぎも少し大きくなった。

 

 溢れ出す愛液は僕らの股間や脚を濡らして、シーツにまでシミを作る。

 

「くッ、ふうッ、段々、締まって来ました……ッ」

 

「ああッ んんっ ああァ~~ッ、クルスく、ああッ……クルス君……ッッ」

 

 柔肉が性器を締め付ける感触も次第に強い物になってきたから、肉が擦れて感じる快感も身体に震えが来るほどの物になる。

 

 射精を促しているような感じがした。僕の愛を、ミウさんが欲している。受け取りたいという心の声が、僕に伝わってくる。

 

「ああっ、いいっ…、いいよクルスくんっ、キミの、キミの愛を感じる……、気持ちいいだけじゃないっ、キミの愛が…っ、ああ、あああ~~っ、い…、いとお…しい…っっ」

 

「ミウさんっ、ミウさんっ…、僕のッ……ミウさんっ…、僕だけを愛して下さいっ…、僕だけを……っ、この人生だけじゃないっ、生まれ変わっても……ずっと、ずっと……永遠に……僕だけをっ!」

 

「言うなっ……私がキミを…っ、キミ以外を……っ、愛せるわけ……ないだろっ……、ただし、キミも……だぞ、キミも……、私だけを……愛するんだっ……ああっ、キミも永遠にっ……私だけを……っ」

 

 擦れ合う肉の摩擦が強くなったことで、ミウさんの嬌声も絶頂の雰囲気が漂う物になっている。

 

 大きく口を開いて喘ぐ彼女の肌には、玉のようになった汗が無数に浮いて、頬も耳も紅く上気していた。

 

 渦巻く快楽の嵐に包まれながら、僕らは誓う。

 

 クルスはミウを。ミウはクルスを。それ以外を愛することがあってはならない。互い以外の誰かを愛したりしない。

 

 クルスはミウの物。ミウはクルスの物。生まれ変わろうと、世界が滅びようと、永劫に。

 

 僕ら二人は、永遠に愛し合わなければいけない。未来永劫に愛し合い続けるのだと。

 

 その誓いの最中も、動きは止まらない。

 静止を忘れた機械のように、互いを貪り続けた。

 男と女、原初の本能に従いながら。

 

 ミウさんは突き込む振動に枕へと押し付けた頭を動かして顎をしゃくりながら、熱い吐息を吐き出し、喘ぐ。

 

 仰向け寝ている彼女の背が浮き、一定の間隔でしなる。

 

 結合部の下に見えるポニーテールの毛先。太股の裏にまでかかるその長い尻尾の毛先が溢れ出し飛び散る体液に濡れていた。

 

 先走りの汁さえ混じり始めた僕らの体液に。

 

「あッ あんッ はあッ はあんッ く、クルスくんッ 私…ッ、もう…ッ、」

 

 絶頂が近い。それに呼応する形で膣の締まりもより一層強くなり、容赦なく僕の性器を締め上げる。

 

 身体の震えが止まらない……、僕の方も、もう限界だ……。

 

「う、く、僕も、もう……限界…です、ミウさん……っ、ミウさんの中にっ、出しても……っ いいですか……っ」

 

「いい、よ……ッ、出して…ッ、私の中に……ッ、クルスくんのを……ッ、クルスくんの熱い精を全て……ッ、」

 

 中に出しても良いという言葉に、出そうになるのを堪えていた僕は、彼女の腰をグッと強めに掴みながら最後に思いきり腰を打ち付けて、子宮口を押し上げる。

 

 ずぶぅぅぅッッ

 

「ああああァァァ――ッッッ」

 

 深く突き刺さった性器は、亀頭部分が胎への入り口を押し広げたところで、大きく震えるような痙攣を引き起こした。

 

「ううッ、くうッッ」

 

 ドクンッッ

 

「ああァ~~~!」

 

 その痙攣と同時に下半身の力が一気に抜けて、変わり性器の内部を駆け抜けていく熱く滾った何かが勢いよく吐き出された。

 

 ずっと我慢していた尿を出したときの何十倍も凄い開放感を感じた僕は、悦びに身体を打ち振るわせながら、込み上げてくる物を出し続ける。

 

 ドクン ドクン ドクン

 

「あッ あぁぁぁ…ッ 出てる……ッ クルスくんの…ッ、熱い精子が……ッ」

 

 僕は注ぐ、流し込む。子宮口を貫き通した肉の射出口から吐き出される、白く濁った命の源を。

 

 これが本当の射精……、自慰で達した時なんかとは比べものにならないほどの快感……、凄く気持ちいい……。

 

 心も身体も満たされる感じがする。好きな人の中に……ミウさんの中に出している今このときが、きっと僕にとって一番幸せな瞬間なのだろう。

 

 びゅく びゅく びゅるる

 

「まだ…っ、あはァ……出てる……っ、私の中……、もう、クルスくんの精子で……っ、いっぱい…っ…っ……だ……っ」

 

「もうすぐ、出し終わります……っ、」

 

 身体の水分が全部出てしまいそうなほど大量の精液を注ぎ込んだ僕は、絞り出すようにして最後の一滴を子宮内に垂らすと、花弁の中へと収まったまま、ミウさんの身体の上に倒れ込む。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、ミウさん……僕のミウさん……」

 

「クルス君……クルス……、私の……クルス……」

 

 僕は少し顔を上げると、荒い呼吸を繰り返して息を整えているミウさんの背中に手を回す。

 

「はぁ……っ はぁ…っ ミウさん…、」

 

「ハァっ……ハァ…っ クル…ス………ん……んうッ――。 んっ……んんっ……、」

 

 そのまま何か言いかけたミウさんの唇を、自らの唇で塞ぐ。

 

「んっ… んちゅ… んむぅ…っ、」

 

 唇を舌でこじ開けて口内を舐め回す僕に、返事を返してくれるみたいに舌を絡めてくれるミウさん。

 

 僕らは舌を絡め合いながら、お互いの唾液を飲ませ合う。

 

「んっ、はむっ、んんっ」

 

 数分間の間、そうしてミウさんとの熱い口付けを交わした僕は、ゆっくりと唇を離した。

 

 キスの名残とも言うべき唾液の糸が、僕と彼女の口の間を繋いでいる。

 

「いきなりキスなんかして、すみません……、まだ……キスしてなかったから、その……、」

 

「別にいいよ……、嫁とキスをするのに……、一々訊ねる夫もないから……ね」

 

「そ、そうでした……。僕はミウさんと……け、結婚したんですよね、」

 

「うん、私はキミの嫁で……、キミは私のお婿さんだね……。永遠に……生まれ変わってもずっと……」

 

「はい、永遠にです……ミウさんは永遠に僕の奥さんで、僕は永遠にミウさんのお婿さんです……」

 

 互いに確認する。念のためとかそういう事ではなく、自分自身でもどうしようもないほどに大きくなってしまった愛情を、分かち合いたいから。

 

「改めてよろしくお願いします……頼りない婿ですけど、僕は僕の持てる全力で貴女を愛していきますので」

 

「クルス君は頼りなくなんかないよ、私にとって素敵な男だ。……私の愛おしい旦那様だ」

 

 素敵な男なんて言われたのは初めてのこと。

 

 恥ずかしくなった僕は、誤魔化すように手を伸ばすと、ミウさんの身体の直ぐ脇に投げ出されたようになっている長いポニーテールに触れた。

 

「髪の毛の先のほう、体液が付いてしまいましたね」

 

 手繰り寄せた髪の束には愛し合う前のさらさらな感触はなく、代わって汗と体液に濡れた湿っぽい感触があった。

 

「水を浴びて流せばいい……、丁度外は大雨だろう?」

 

「風邪、引いちゃいますよ?」

 

「そうしたらまた、キミが愛して温めてくれればいいじゃないか」

 

「でもそれだと、また繰り返しになります……」

 

「ふふふ、それもそうか……」

 

 でもまだ少しこのままでいたい。動きたくないんだ。

 

 彼女の身体の上で寝そべり、彼女の中に入ったまま、汗と体液に塗れたこの金色の尻尾を愛撫する。

 

 手触りの悪くなった尻尾は、僕らが愛し合ったことの証。

 

 繋げたままの身体も、周りに充満する匂いも、共に僕らの想いが成就した証なんだ。

 

「クルス君……」

 

 そんな僕の頭に手を置いて、僕がミウさんの髪を撫でるのと同じように、頭を優しくひと撫でしてくれたミウさんは、彼女の左肩を枕にしていた僕の顔を持ち上げ、少し首を傾けるとそっと僕の唇を塞いだ。

 

「ん、ふうっ、んん……」

 

 二回目のキスはミウさんから。そんなに長い物じゃなかったけど、感じられた甘酸っぱい味には一度目とは違う良さがあった。

 

 よく言われるレモンの味というのは、こんな感じなんだね。

 

「ミウさん……んっ……、」

 

 そして最後にもう一度。今度はどちらからという物じゃなくて、お互いに顔を近づけて唇を触れ合わせるという、引き寄せ合うような口付けを交わす。

 

 最後にしたこの口付けは、先にした深いものとは違って本当に触れ合わせるだけのキスだったけど、僕にはまるで結婚式で行う誓いの口付けのように思えた……。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「えっと、荷物ってこれだけですか?」

 

「それだけだよ」

 

 翌日、あれだけ振っていた雨は止み、打って変わって見渡す限りの青空が広がっていた。

 

 昨日、色々あってミウさんと結婚し、未来永劫の愛を誓い合った僕は、彼女が住んでいる小屋に荷物を取りに来ていた。

 

 夫婦として、今日から僕と一緒に住むミウさんは此所を引き払うことになるから、引っ越しの手伝いに来たんだけど、荷物は僅かに買い物袋二つに、段ボール箱で一箱分しか無い。

 

「これなら一回で運べそうですね」

 

「うん、だから空いた時間は買い出しにでも行こうと考えてる」

 

「買い出しですか? いいですね行きましょう」

 

 その買い物自体も程なく終わって、絶好のお出かけ日和だからと普段行くことがない地区にも脚を伸ばしたり。

 

 楽しい一日を過ごした後、僕とミウさんは家に帰ると昨日以上に時間を掛けて、深くじっくりと愛し合った。

 

「私は、子供は二人くらいほしいかな?」

 

「え、ええっと……、頑張りますっ!!」

 

 子供かぁ…、いずれ僕とミウさんの間にも子供が生まれるんだよね。

 そういえば子供が出来たら、ミウさんもおっぱいが出るようになるのか。

 

(昨日はおっぱいだけ吸わせて貰ったけど…)

 

 僕もミウさんの母乳……飲んでみたいな。

 どんな味がするのか気になるから。

 自分の子供と一緒に飲むのってなんかおかしいけど。

 

 いずれにしても、元気な子供が生まれてほしい。

 僕とミウさんと、僕達の子供。平和に楽しく暮らしていきたい。

 僕が願うのはそれだけだ。

 

 こうして僕とミウさんの夫婦生活は始まった。

 平穏な日常が戻ったBSの片隅で、幸せに満たされながら……。

 

 

短編集内の各お話と投稿予定(未定)の続きやお話で読んでみたい作品はありますか?(ご期待に副える事が出来るかどうか分かりませんが、一ご意見としてお伺いしたいと思います)

  • コードギアス
  • コードギアスR2
  • 此花トゥルーリポート
  • FF4×FF6
  • カオシックルーン
  • 学園黙示録
  • ルパン三世 ワルサーP38
  • 幕末風来伝 斬郎汰
  • ニードレス
  • ヨルムンガンド
  • 少女少年
  • 北の告発
  • サラダデイズ
  • クレセントノイズ
  • ひとひら(甲斐×理咲の近親相姦物)
  • ESアザーワイズ(戒×瑠璃)
  • 遊戯王GX(十代×カミューラ)
  • 魔装機神(マサキ×モニカ)
  • 椎名君のリーズニングファイル
  • RAVE(ハル×絶望のジェロ)
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